暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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支援を受けながらとはいえ、ついに上級ドラゴンを、しかも湖底にいた存在を仕留めたフィリス。

しかしそんなフィリスに、すぐに次の課題が。
力あるものは、その力に応じて働かなければならない。
既にフィリスは、この世界における、重要な戦力となっているのです。
人間が押し込まれているこの世界において……


魔の森の空
序、事前調査


あたし、ソフィー=ノイエンミュラーは、プラフタと一緒に、以前双神エルエムを倒した浮遊島の近くにある森を調査していた。

 

この森はエルエムの影響からか、強い魔力を地面が得ており、その結果誕生した場所だ。

 

世界でも貴重な自然に存在する森なのだが。

 

異常が発生したと聞いて、様子を見に来たのである。

 

結果がこれだ。

 

あたしの目の前を、弱めのネームドくらいの実力はある巨大なキメラビーストが歩いて行く。

 

森の中だし。

 

何よりあたしとプラフタの実力を肌で感じているからか、仕掛けてはこない。

 

だがこれは、森を一歩でも出れば。

 

容赦なく人間に牙を剥くわけである。

 

また、彼方此方には、当たり前のようにネームドの姿も見られた。

 

なるほど。

 

大体分かった。

 

エルエムを半殺しにし、力の大半を不思議な絵画に封じ込めた。今上の浮遊島にいるのはフィリスちゃんのエサにしようと思って完全に消さずにおいた残りカスだ。

 

だが。

 

世界から、エルエムの力が失われた分。

 

力がどこからか。

 

補充されたのである。

 

これは恐らく、単純にあの創世神が。

 

無くなった分を、世界に対して補強した、と言う事なのだろう。

 

世界そのものの創造者だ。

 

なくなったものを「作り出す」くらいはそれこそ児戯。

 

無から有を作り出すくらいは。

 

何でも無い事なのだろう。

 

腹が立つほどの実力差を感じるが。

 

だが、自棄にはならない。

 

特に今回は今までに無いほど上手く仕上がっている。

 

あたしが目をつけた四人。

 

全員がしっかり仕上がらなかった時は。いずれも世界は最終的な破滅を迎えてしまった。その度に、繰り返してきた。

 

あたしはもう、自分自身でも、何年生きているかあまり考えていない。

 

この肉体は兎も角。

 

精神はどれだけの時を過ごしてきたか、いちいち覚えていない。

 

はっきりしているのは、この世界は簡単には変革できないと言う事。

 

ゴールの条件が厳しすぎるのだ。

 

四種族が協調しつつ。

 

宇宙へ進出し。

 

他の宇宙にいる種族と協調できる文明を構築する。

 

これがあまりにも厳しい。

 

どの種族にも明確すぎる欠点が存在していて。

 

どうしても資源を使い切って文明が崩壊してしまう。

 

人間そのものを変革しなければならないのはそれが故。

 

精神論は論外。

 

システムも無理。

 

そうなると、生物レベルで変えるしか無い。

 

希望などない。

 

何しろ、創造神が9兆回。

 

あたしも実際に数限りなく繰り返し。

 

このままでは何をやっても駄目だと判断している程である。

 

そのままの人間が如何に愚かな種族であるかなど、あまりにも多くの賢者が指摘し続けて来た。

 

だが人間は己が如何に素晴らしいかに酔う生物だ。

 

無責任な人間賛歌を垂れ流し。

 

結果己を滅ぼしていく。

 

嘆息すると、周囲をもう少し調査し。そして、頷いた。

 

「プラフタ、此処もフィリスちゃんのエサにしておこう」

 

「貴方は、正気ですか」

 

「今までで一番良く仕上がっているからね。 キルシェの事業の成功率は3割切っているけれど、それを成功させるためにも、経験を積ませるのが一番じゃないのかな」

 

「……ソフィー。 あなたは人をどれだけ玩弄すれば気が済むのです」

 

すっと、目を細める。

 

何度もプラフタとはこの件で議論したが。

 

違う。

 

あたしは我欲で動いたことは一度もないし。

 

何より楽しくて人をもてあそんだことなど一度もない。

 

身につけた知識と力で敵をねじ伏せるのは当然楽しい。当たり前の事だ。努力は必ずしも報われる訳では無いが。努力をしなければ報われることは無い。あたしは報われる分の努力をしてきたわけで、それを確認できるからだ。

 

ゆっくり、丁寧に言い聞かせる。

 

あたしより500歳も年上の賢者に。

 

プラフタはあたしを静かに悲しい目で見る。

 

その目が、人である事を放棄した存在への、哀しみである事は分かりきっていたが。

 

だからといって他に方法があるかと聞かれて。

 

プラフタも答えられないのだ。

 

プラフタも今後どうなるかは「知っている」。

 

そしてプラフタが考えたありとあらゆる方策が、結局は上手く行っていないのである。

 

今回は、可能な限り最高の条件が整い。フィリスちゃんの能力が今までの繰り返しの中で最大にまで上昇し。

 

既に「鉱物以外」の声まで聞こえはじめている。

 

それはあの湖底のドラゴンとの戦いを覗き見て確認した。

 

イルメリアちゃんも潰れていない。

 

あたしが幾つか策を講じたからだが。

 

元々高い潜在能力を、フルに引き出すことに成功し始めている。

 

もう少しして、タイミングを見たら。

 

パルミラと接触し。再び「固定」をしてもらうつもりだ。

 

この後に控えている双子はまた不確定要素が強く。上手く仕上がる可能性が決して高くない。

 

あたしに反発するプラフタも。

 

結局対案を出せない以上。文句を言う資格はないのだ。

 

森から引き上げると、深淵の者本部である「魔界」に出向く。

 

今日は珍しく毒薔薇が来ていた。つまるところ、アダレットで何かあった、と言う事だろう。

 

すぐに会議が招集される。

 

最近少しばかり面倒な出来事が起きて、其方に謀殺されていたルアードも来ている。イフリータもルアードの護衛をしていたため最近は見かける事がなかったが。それでも、大半の幹部は揃った。

 

不確定要素が多すぎる。

 

繰り返す度にバタフライ効果で歴史は大きく変わる。

 

フィリスちゃんが旅立たない過去さえあった。

 

途中で獣のエジキになった過去もあった。

 

そういった場合の予防策を悉く講じて。

 

ようやく此処まで状況を改善させ。

 

フィリスちゃんの潜在能力を極限まで引き出せるようにしたが。

 

それでもまだ足りない。

 

さて、今回は何だ。

 

アダレットは王を実質的に幽閉した王女が、今は辣腕を振るって再建している筈なのだが。

 

何か問題が起きたのだろうか。

 

アトミナが咳払い。

 

何人かが、背筋を伸ばした。

 

五百年にわたる主君だ。

 

態度が自然と言葉と共に変わるのは、もう習性のようなものだろう。

 

「集まって貰ってすまないわね。 毒薔薇から報告があるそうよ」

 

「というわけだ、報告を頼む」

 

「はい。 アダレットで騎士団長が引退を決めました。 二年以内に引退するそうです」

 

「ふむ……」

 

魔族の中でもレア種族である巨人族。

 

アダレットの騎士団長は、その巨人だ。

 

戦闘力も非常に高く、長年「武の国」であるアダレットを支え続けて来た。愚王や無能な王にアダレットが振り回されることはあっても。アダレットの武が最低水準を保ち続けられたのは、この騎士団長のおかげと言っても良い。

 

後任はジュリオさんで内定しているが。

 

問題はジュリオさんがヒト族だと言う事だ。

 

魔族の半分程度しか寿命がないヒト族。巨人族は魔族の中でも長命なので、更に短いという事になる。それもヒト族や獣人族は衰えるのがとても早いのである。

 

中には、今フィリスちゃんの側についているアングリフのように老いてなお現役という戦士もいる。以前あたしと一緒に旅をしたフリッツさんもそういった老いても現役として活躍出来る貴重な人材の一人だ。

 

だがそれでも限界はある。

 

「ジュリオ氏は有能ですが、しばらくは深淵の者の補佐が必要でしょう。 また副騎士団長として、彼女が必要となります。 ソフィーさん、お願いしたいのですが」

 

「シャノンちゃんか……」

 

腕組みする。

 

ティアナちゃんとバディを組ませているシャノンちゃんは、相方と力量も拮抗している。性格は正反対だが。

 

それでも、深淵の者に入った面倒な経緯や。

 

その鬱屈は理解している。

 

シャノンちゃんはこの世界に対するやるせない怒りも抱いているし。何より戦士として極めて有能。

 

役には立つだろう。

 

ただそうなると、アリスへの負担が大きくなる。

 

イルメリアちゃんはまだまだ伸びる。

 

だが、イルメリアちゃんは今まで何度も繰り返してみてきているが。

 

負担にとても弱いのだ。

 

下手をすると、潰れてしまうかも知れない。

 

代わりの人員を手配するとしても。

 

そろそろフィリスちゃんの側にいる人員だけでは、ティアナちゃんの手が足りなくなってくる頃である。

 

かといって、「人工の」人間では限界がある。

 

アリスの性能を見ても分かるように、あれはあくまで人間の真似事をしているに過ぎず。どうしてもある程度以上までは性能を上げられない。

 

シャノンちゃんのような天然物とは比較にならないのだ。

 

悔しいが、こればかりはまだあたしの力不足、とも言える。

 

スペックを上げるだけなら出来るのだが。

 

あくまでイルメリアちゃんが心を許す存在で。

 

枷として。

 

監視役として。

 

側につく存在となると。

 

アリスの時のような、面倒くさい仕込みも必要になってくる。

 

シャノンちゃんはそういう意味で、極めて貴重な人材なのだが。アダレット全域の事を考えると。

 

しばらくは厳しいだろう。

 

嘆息。

 

仕方が無い、何とかするか。

 

「分かりました。 此方で手配します」

 

「申し訳ありません。 何しろアダレットは人材不足で」

 

「……」

 

それも妙な話だ。

 

二大国と呼ばれる一方であるのに。

 

人材不足、か。

 

昔と違って基幹都市とも呼べる規模の都市も五つを数え。

 

特に首都はライゼンベルグと並ぶ十万の人口を抱える世界でも二つしかない大都市の一つだ。

 

騎士団が獣やネームドとの戦闘で激しく消耗しているとしても。

 

今更に人材不足というのも、ある意味滑稽な話ではある。

 

「準備などは滞りなく行えますか?」

 

「それもかなり厳しいでしょう。 ジュリオさんが有能なのは事実ですが、そもそも若手の騎士にこれと言った人材がおらず、いたとしても育つ前に戦闘で命を落とすことも多く……」

 

「此方で獣狩りをするのは」

 

「手が足りません。 ライゼンベルグ近辺と同等かそれ以上の魔境が、彼方此方に存在している状況です。 貴方が出て片っ端から片付けたとしても、その隙を突く邪神が現れるでしょう」

 

そうだ。

 

それが悩みどころだ。

 

今あたしは、六柱の邪神の監視を実施しているが。

 

此奴らはいずれも非常に戦闘力が高く。

 

あたしが見張っていなければ、何をしでかすか分からない。

 

勿論状況を見て少しずつ力を削いで行っているのだが。

 

「毎回」の歴史でも。

 

完全に此奴らを大人しくさせるまでには、いつも後二十年は掛かっている。

 

フィリスちゃんが一番育った回でも、十九年掛かった。

 

邪神は殺しても簡単には終わらない。

 

例えば、エルエムのように。

 

邪神の力は別次元に封印したとしても。

 

結局この世界に補充されるのだ。

 

色々試してみたが、この世界のルールは極めて強固。

 

人間が進化しない限り。

 

絶対に数を増やさないか。

 

もしもそれでも何とかしてしまった場合は、資源が足りなくなってしまう。

 

何より、天敵を失った場合。

 

人間は際限なく増長する。

 

何度も見てきた事だ。

 

そして、この世界に人間が呼ばれたのも。

 

特に、ヒト族も獣人族も。

 

それが理由なのだから。

 

ヒュペリオンが挙手。

 

この間、公認錬金術師試験で試験官を務めて貰ったこの俊英は、少し前からアンチエイジングを行い始めている。

 

肉体年齢を常に全盛期に保ちたい、というのが理由らしい。

 

「フィリスとイルメリアの成長については、充分以上の成果を出していると聞いていますし、そろそろラスティンに注力している分を、アダレットに向けてはいかがと」

 

「前回はそうやって、少し目を離した隙に、イルメリアちゃんが命を落としたんだよね……」

 

「失礼しました。 しかしながら、前回とは条件も違うのでは」

 

「……」

 

腕組みする。

 

あたしはあくまで我欲では無く、この世界のために動いている。

 

だが、だからといって、意見を聞かない訳にもいかない。

 

シャノンちゃんがイルメリアちゃんの側から離れるとなると。

 

少しばかり戦力補填の必要がある。

 

しかしながら、そも才能の差があって。

 

フィリスちゃんとイルメリアちゃんでは、同じように育てていては、あたしの両腕にはなり得ない。

 

というか、稀少なギフテッドであるフィリスちゃんでさえ。

 

少し油断すれば命を落とすほど、この世界は過酷なのだ。

 

「ライゼンベルグの状況は」

 

「現在人材の網を構築中だけれども、腐敗がひどいわねえ」

 

パメラがいつも通りのゆっくりしたしゃべり方をする。

 

あたしの住んでいたキルヘン=ベルにいた頃から、まったく変わっていない彼女は。既にライゼンベルグの改革に乗り出しているが。

 

やはり利権を独占したい老錬金術師が強く根を張っており。

 

駆除が大変だそうである。

 

かといって、全ていきなり取り除いてしまったら、ライゼンベルグが回らなくなってしまう。

 

必ずしも、強欲と無能は一致しない。

 

強欲だが有能な老錬金術師も存在していて。

 

そういった者に関しては、代替の人員が存在しないのだ。

 

如何に世界の歴史を裏から動かしてきた深淵の者と言っても。

 

人材が無限にいる訳ではないのである。

 

イフリータが咳払い。

 

ティオグレンも難しい顔をしていた。

 

「困りものですな。 そも聞いた話によると、ソフィー殿によると騎士団長の引退は「通常であれば」五年は後の話だった筈ですが」

 

「バタフライ効果と言ってね。 毎回こればっかりはどうしようもないの。 一番酷いときは、騎士団長が戦死したこともあったっけ」

 

「なるほど、それに比べれば確かにマシではありますが……」

 

「仕方が無い」

 

メクレットが立ち上がる。

 

アトミナもそれに倣った。

 

昔はアトミナが主導権を握っていたのだが。

 

最近はメクレットも自主的に動くようになっている。

 

二人で「ルアード」だが。

 

それでも、何か内部では変化が生じているのかも知れない。

 

「パメラには若い人員を何名かつけよう。 まだ見習いばかりだが、ライゼンベルグの改革はそれでどうにかして欲しい」

 

「了解したわー」

 

「ソフィー。 シャノンの穴埋めを何とか頼みたい」

 

「分かりました。 此方でも対応を考えましょう」

 

会議は其処で解散となる。

 

皆がいなくなると。

 

プラフタが咳払いした。

 

「それでどうするのです、ソフィー」

 

「今回は「捨てられない」」

 

「それは分かっています。 貴方が非人道的な事をしながらも、この世界のために動いている事は私も理解していますし、評価もしています。 しかしながらソフィー。 貴方はこのままでは、闇の神そのものとなってしまいます」

 

「それならもうとっくになっているかもね」

 

肩をすくめた後。

 

皆がいなくなったその場を見回す。

 

とはいっても、時々重要な戦況にかり出される対邪神生体兵器魔王だけは、その場に鎮座しているが。

 

「仕方がない。 アリスちゃんの兄弟姉妹を増産するかな。 今からだとかなり急がないといけないけれど」

 

「シャノンの実力から考えて、十人いても及ばないでしょう」

 

「それならば二十人造れば良い」

 

「……命をもてあそぶつもりなんですね」

 

命をもてあそぶ、か。

 

そも、人間が。

 

命をもてあそぶ種族で無ければ。

 

こんなどん詰まりの世界で、修羅に生きなくても良かっただろうに。

 

あたしは、責めるプラフタの視線には、笑みで答えたが。

 

それは恐らく、闇そのものの姿だった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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