暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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あこがれの「お外」の現実を叩き付けられるフィリス。

ですが、明らかになる現実の厳しさはここからが本番です。
容赦なく命の危険もあるエルトナの外の現状が、フィリスに牙を剥きます。


茶色い世界への第一歩
序、広い世界


ショックから立ち直ったわたしフィリスは、周囲を見回して、ゆっくりと、現実を受け入れる事から始めた。

 

この辺りは山岳地帯。

 

エルトナの扉は、丁度山に挟まれるようにして存在していて。

 

狭い行き止まりの所にある。

 

そして外から見ると分かるのだけれど。

 

近づかないと分からないように、敢えて工夫してある。幾つも大きな岩が、意図的に置かれていた。

 

側にあるのは、物見小屋だろうか。

 

中から出てきたのは、見た事がないおじさんだ。

 

すごくたくましくて、強そうな人である。身に纏っている鎧がぴかぴかではなくて、使い込んでいるのが一目で分かるのも、歴戦の雰囲気を醸し出す要因となっていた。

 

お姉ちゃんが話をしている。

 

怖くて、出来れば近づきたくなかった。

 

「リアーネ殿。 出かけられるのだな」

 

「はい。 エルトナの守りはお願いします」

 

「承知している。 ドラゴンなどが襲ってきた場合は、即座に対応出来る人員を呼べるようにも手配はしてある。 近隣に危険な邪神はいない。 今の時点では、我々だけでも大丈夫な筈だ。 街を外に発展させるための人材も人員も近々来る。 大丈夫、再建については実績がある確かな人物だ」

 

「お願いします」

 

もう一度、お姉ちゃんが頭を下げる。

 

何となく分かった。

 

この真面目そうな屈強なおじさんと。

 

あまり話をしたくないのだ。

 

だけれども、頭を下げなければならないし。何よりも、そうしなければ全てが始まらない。

 

だから頭を下げている。

 

お外には良いことばかりじゃない。

 

最初から、わたしは。

 

それを思い知らされていた。

 

おじさんはわたしを一瞥だけしたが、それだけだ。

 

あまり興味が無いというよりも。

 

関わる気が無いように見えた。

 

「リア姉、あの人は?」

 

「ソフィーさんが派遣してくれた人よ。 私何かよりずっと強い戦士だわ」

 

「リア姉よりも!?」

 

「くぐっている修羅場や、戦って来た相手の次元が違うのよ。 あの小屋にしても、ちょっとやそっとの魔術くらいじゃびくともしないように作られているの。 だから、エルトナを心配しなくても構わないわ」

 

口を引き結ぶ。

 

そう語るお姉ちゃんの言葉は。

 

どこか他人行儀に聞こえてしまった。

 

まるで知らない街のことを、聞きづてに語っているような。

 

それよりも、わたしを見る目が。

 

以前よりも何かおかしいような気がしてならない。

 

何というか。

 

さらに過保護になったと言うか。

 

強迫観念に駆られているというか。

 

そんな感じだ。

 

「それで、どうするの、フィリスちゃん」

 

「うん、出来れば一番近い街に行ってみたい」

 

「勿論徒歩で行くのね。 わかりにくいけれど、街道があるでしょう? これを伝っていけば、その内着くわ。 幾つか街があるけれど、当分はその貰ったアトリエで寝泊まりする事になるから、見かけた戦闘力のない獣は基本的に仕留めておきましょう。 戦闘力のある獣は要相談ね」

 

頷く。

 

そうだ。

 

なし崩しに実戦になるのだ。

 

分かってはいたが、やっぱり怖い。

 

でも、やらなければならない。

 

歯を食いしばると。

 

わたしはお姉ちゃんと一緒に歩き始める。お姉ちゃんは周囲に鋭い視線を向けながら、わたしの少し後ろを歩いていた。多分最初に狙われるのがわたしだから、視界から外さないようにするため。

 

背後に関しては、ある程度の気配を探知して、即応できる自信があるのだろう。或いは最悪の場合、自分が盾になってわたしを守るつもりなのかも知れない。

 

黙々と歩く。

 

たまに露出している鉱石が、はげ山の山肌にあるけれど。

 

それ以外はまるで緑が見られない。

 

そんな中。

 

のそり、のそりと歩いている姿が見えた。

 

大きい。

 

あのぷにぷに程ではないけれど。

 

それでも、わたしと同じか、それ以上くらいはある。

 

なんだろうあれ。

 

思わず竦む。

 

相手は、此方を見ると、態勢を低くして。頭についている角を振りかざし、鋭い高い声を上げた。

 

「リア姉、なにあれ! 怖いよ!」

 

「フィリスちゃん、話は後。 戦うわよ!」

 

「う、うん!」

 

フラムはたくさん作った。

 

作った分は、コンテナの中に残してあった。材料はわたしがソフィー先生と集めた分以外はひとかけらもなかったけれど。

 

いつもフラムを持ち歩くように、癖を付けろと言われて。

 

そう実践もしている。

 

更に訓練とは言え、わたしは実戦も経験した。

 

だから、思ったよりスムーズに動けた。

 

突貫してくる巨体。

 

思ったよりもずっと速い。少なくとも、ぷにぷに何かよりも、遙かに速い。本当にあれは、雑魚も雑魚だったのだと思い知らされる。

 

お姉ちゃんが、凄まじい速度で矢を番え、放ち続け。

 

それがどれもこれも相手に吸い込まれているのに、突貫が止まらない。

 

わたしはフラムを投擲、起爆した。

 

タイミングは完璧。凄まじい悲鳴を上げたナニカの獣が、竿立ちになる。その喉に、お姉ちゃん渾身の矢が突き立つ。

 

それでも横倒しになって、凄まじい暴れ方をしていた獣だが。

 

両目にお姉ちゃんの矢が突き刺さり。

 

更にもう一つフラムを爆裂させると。

 

ようやく静かになった。

 

呼吸を整える。

 

膝が笑っていた。

 

お姉ちゃんが一緒に来ていなかったら。わたしは確実に此処でアウトだった。

 

無言でお姉ちゃんが招く。

 

「獣の捌き方を教えるわ」

 

「リア姉、この獣、何……?」

 

「これが兎よ」

 

「……っ!?」

 

絶句する。

 

美味しいお肉の兎。

 

それがまさか、こんな巨体を持ち、額に角を生やしている動物だったなんて。

 

お外の事を書いている本には、時には主人公の飼っている可愛い動物だったり。愛くるしい動作を見せていたりして。

 

兎肉が好物の私は、心を痛めたりもしていた。

 

だけれど、現実はどうだ。

 

「もっと小さいのもいるけれど、これは大きさとしては普通より少し大きい程度ね。 小さな兎ほど動きは速くないけれど、その代わりタフなの」

 

「こ、こんなのを食べていたの……?」

 

「そうよ」

 

お姉ちゃんは、わたしの方を見ないようにして、バックパックに入れていた木を組み合わせ始める。

 

枯れ木などがある場合は、それに吊るらしいのだけれど。

 

そうで無い場合は、こうやって吊るための足場を作るらしい。

 

そして兎の死体から矢を引き抜くと。

 

吊して、まずは皮を剥ぐ。

 

震えているわたしにナイフを持たせ。

 

どうすればいいのか、手取り足取り教えてくれた。

 

「まずは毛皮を剥ぐの。 此処からこうやって、ナイフを入れて降ろすと、すっと切れるの。 フィリスちゃんもやってみて」

 

「リア姉、怖い……」

 

「いい、私はいつまでフィリスちゃんを守れるか分からないわ」

 

「!」

 

蒼白になるわたしに。

 

お姉ちゃんは、手を動かすように促す。

 

お姉ちゃんは既に。

 

覚悟を決めている。

 

この荒野に出たときから、ずっとそうなのだろう。わたしを命に替えても守る。そのためには、手段も選ばない。そして、手段を選ばないとしても、死ぬときは死ぬ。それをもう、達観しているのだ。

 

だから、わたしは。

 

せめて、その覚悟に。

 

答えなければならない。

 

言われたまま、するっとナイフを降ろす。フラムに二度も耐えた毛皮なのに、切るのは案外簡単だった。

 

そして、その後は。

 

毛皮を剥がす。

 

頭から、ずるりと剥くようにして、毛皮を剥いでいく。何カ所かナイフを入れて、毛皮を剥ぎやすいようにした。その時気付いたのだが、凄くこの兎、重い。お姉ちゃんはこれを、平気でつるし上げていた。

 

凄い腕力だ。

 

外で戦っていたのは、伊達では無いと言う事だ。

 

そして血抜きをする。

 

首の言われた場所にナイフを当て、切り裂くと。

 

勢いよく血が噴きだし、流れ始めた。

 

それを小さな容器で受け止める。

 

思ったほど血は無いという事だが。

 

それでも、かなりの長時間、血が流れ続けていた。

 

「こ、これからどうするの」

 

「続けて内臓を出すわ。 肉食獣の場合、内臓の中に糞便に混じって、人間の持ち物がある事があるから、気を付けて」

 

「ひ……」

 

「お外はそういう所なのよ、フィリスちゃん。 だからお外で生き延びられるように、出来るだけ早く何もかも覚えて」

 

怖い。

 

お姉ちゃんは、いつもの優しい笑顔では無くて。

 

ハンターとしての顔になっている。

 

そして今も。

 

わたしに手取り足取り教えながらも、周囲を常に警戒していた。

 

その理由も教えてくれる。

 

「肉を食べる動物には何種類かいるのだけれど、待ち伏せして相手を捕まえるもの、積極的に動き回って相手を捕まえるもの、誰かの食べ残しを食べるもの、などね。 この幾つかを兼任しているものもあるわ」

 

「それは、どういう……」

 

「この獲物を狙ってくる動物がいる可能性があるという事よ。 だから血抜きはできるだけ急ぐ必要があるの」

 

そうか。

 

お外、怖い。

 

でも、自分で選んだお外だ。

 

いつまでも泣き言を言ってはいられない。

 

ナイフで兎のお腹を裂くと。

 

内臓がぼろりと零れ出た。

 

内臓について、一つずつ教えて貰う。食べられるものとそうで無いものがあるのだという。

 

その後は火を熾して。

 

肉を燻製にする。

 

内臓も一部は燻製にした。

 

燻製にしている間に、毛皮のなめしかたを教わる。

 

「こんなに傷だらけだと良い値段はつかないけれど、ただこの獣、恐らくはネームドになる途中だったのね。 毛皮に魔力を感じるわ」

 

「本当だ……」

 

「フィリスちゃん、錬金術の材料にしたら?」

 

「うん……そうするね」

 

お姉ちゃんが捕まえてくる兎。

 

それは、こんな大変な過程を経て、手に入れているものだったのだ。

 

知らなかった。

 

命を奪うと言う事。

 

そしてそれを食べるまでの過程。

 

今までわたしが、どれだけ守られて、大事に育てられていたのかよく分かった。決して綺麗な世界では無い。

 

少なくとも、お外の事を書いた、すてきな事ばかり描かれている本の内容は。

 

もう嘘だと、わたしは諦めていた。

 

燻製が仕上がった。

 

わたしはアトリエを拡げると。

 

中に戦利品を運び込む。

 

骨まで無駄にしない。

 

全部しっかり回収して、コンテナに並べる。

 

コンテナの中は不思議な術が掛かっている様子で、それを錬金術で更に増幅しているらしい。

 

彼方此方にラベルが貼られていて。

 

あからさまに、ものすごく広かった。

 

箱の中に入れていく。

 

骨なども、錬金術では使い路があるという事で。専門の棚が儲けられていた。かなり大きい箱もある。

 

ドラゴンの骨は細かく砕いて入れましょうとか、説明書きがされているのに、今更気付く。

 

お姉ちゃんも仕分けを手伝ってくれたが。

 

その説明を見て、嘆息した。

 

「ソフィーさんが如何に桁外れの存在なのか、一目で分かるわね」

 

「ドラゴンも素材の提供先に過ぎない、ってことなんだね」

 

「そういう事なんでしょうね。 フィリスちゃん、このアトリエの守りは大丈夫なの?」

 

「あ、そうだ。 リア姉にも説明しておくね」

 

入り口近くに、幾つかの仕掛けがある。

 

内側から外を確認できる仕組みだ。

 

どうなっているか、外を見ることが出来。誰かが外にいれば、内側からは丸見え。なお死角もない。

 

また、ある程度の防御魔術が掛かっていて。

 

滅多な事では破る事は出来ない。

 

普通の防御魔術だったら、それこそ強力な魔術師でもどうにでもできるだろうけれども。

 

残念ながらコレは錬金術で増幅したもので。

 

弱めなら、ドラゴンのブレスにも耐え抜くそうだ。

 

「それならば、最悪このアトリエに逃げ込むという選択肢もありね」

 

「火矢なんて受け付けないってソフィー先生は言っていたよ」

 

「そう、でしょうね」

 

「わたしも、はやくこんなアトリエを作れるようにならないと」

 

焦っては駄目だと、お姉ちゃんに諭される。

 

そもそも練習の時でさえ。

 

散々失敗して、感覚を掴む所から始めたのだ。

 

確かにそうだ。

 

さっきの戦いで、動転していたかも知れない。頬を叩くと、気分を入れ替える。

 

「リア姉、ちょっと周囲の鉱石を集めたいんだけれど、いい? フラムとか補充しておきたいから」

 

「分かったわ。 この少し先に洞窟があるから、其方も探ってみましょうか」

 

「洞窟?」

 

「そうよ。 昔もエルトナは鉱山の中に籠もっていたわけではないらしくて、お外に住居を構えていた時代もあったらしいの。 この辺りはどの山も掘り返せば鉱石が出てくるから、自衛さえ出来ればお金に換えられたのよ。 そんな理由で、横穴を掘った場所が、今は洞窟になっているの」

 

感心して話を聞く。

 

そういえば、お外の事ばかり考えていたけれど。

 

エルトナのことはあんまり知らない。

 

とにかく、鉱石集めを周囲で行う。

 

たまに、枯れ果てた草が生えているけれど。

 

水もなく。

 

元気もなかった。

 

「雨が降った後は、多少は植物も元気になるのだけれどね……」

 

「ソフィーさんは、素材の声が聞こえるって言っていたよ。 この植物の声も聞こえるのかな……」

 

「あれだけ異常な実力だと、聞こえても不思議ではないわね」

 

「うん……」

 

一瞥だけする。

 

少なくとも、この植物を摘むことは許されない。

 

わたしは、そう思った。

 

外には出たばかり。

 

いきなり怖い目にも遭った。

 

だからこそに。しっかり備えはし直さなければならない。

 

お薬を造り足し。フラムも作る。後、尖った鉱石などをまき散らすクラフトという爆弾も作る。

 

フラムは火力で焼き尽くす爆弾なのに対し。

 

クラフトはまき散らした鉱石などで、敵を切り刻む爆弾だ。

 

まだまだ簡単なのしか作れないけれど。

 

ソフィー先生は言っていた。

 

いつも工夫を考えろと。

 

「ねえリア姉。 さっきの戦いで、わたしのフラム、役に立っていた?」

 

「ええ、勿論よ。 本当だったら、あの大きさの兎を倒すときには、物陰から不意打ちを仕掛けて、急所を狙って何発も矢をうち込んで、弱るのをじっくり待ってから止めを刺さなければならないわ」

 

「そっか、良かった。 もっと楽に出来ないかな」

 

「そうね……火力が高くなれば出来るのかも知れないわね」

 

頷く。

 

でも、火力を下手に上げると、フレンドリーファイヤの可能性が出てくる。こういう用語は、旅に出る前にお姉ちゃんに教わった。

 

その日は疲れ切ったので、そのまま休む事にする。

 

野宿をしなくて済む上に。

 

水周りもこのアトリエにはついている。流石に毎日とはいかないが、お風呂に入ることも出来る。排泄についても、設備があった。ただトイレから落としたものがどこに行くかは分からないので、もし何かを落としたら、諦めるしかないだろう。

 

疲れが溜まっているからか。

 

そのまま寝てしまう。

 

後は、明日考えよう。まだ旅は始まったばかりなのだから。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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