暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、天を操る

キルシェさんのアトリエに出向いた後。外をちらりと見ると。街の重役達が嫌そうな顔で此方を見ていた。

 

エルトナと同じだ。

 

言うことを聞かない生意気な小娘。

 

暴力的な力を使って、権力を奪った。

 

気にくわない。

 

街にどれだけキルシェさんが貢献しているか分かっていても、その憎しみは消えることが無い。

 

器が小さいが、それが平均的な人間なのだと、わたしにはわかり始めている。だから、もう何とも思わない。

 

あるいは、そもそもずっと年下のキルシェさんに、丁寧に接しているわたしも滑稽に見えるかも知れない。

 

だけれど、キルシェさんは幼くしてあの難関試験を突破し。齢10にして俊英公認錬金術師として現役活躍している神童だ。

 

若い自警団員などは同情的なのも。

 

それが、自分達にとって希望の星に見えるから、なのかも知れない。

 

アトリエに入ると、お手伝いさんが変わっていた。

 

前のいつも不機嫌そうなおばさんのお手伝いさんではなくなり。

 

獣人族の若い女の子である。顔は兎だ。

 

てきぱきと作業をしている。残念ながら、家事などはあまり熟練しているとは言えないようだが。

 

「あれ、前のお手伝いさん辞めたんですか?」

 

「新しいお手伝いをフルスハイム東で、違法奴隷として売られそうになっていたのを自警団員が助けて、引き取った。 そうしたら、前のお手伝いは気に入らないとかいって辞めてった」

 

「そうですか」

 

勿論新しいお手伝い本人には聞こえないように言っているが。

 

あの様子だと、モチベーションも高そうだし。

 

新しいお手伝いさんは嬉しそうだ。

 

違法奴隷として売られそうになっていた、というと。

 

やはり匪賊がらみだろうか。

 

それとも、貧しくて、公認錬金術師がいない集落で、悪徳商人に親が売り飛ばしたのだろうか。

 

卑劣外道な行為だが。

 

貧しすぎる集落では、どこでもやっていると聞いている。

 

この世界では。

 

倫理観念が違う場所がいくらでもあるのだ。

 

なお、このお手伝いさん、以前の名前は「グズ」だったらしい。

 

実の親が、最初からそういう人間だったのだとそれだけで察してしまい、わたしは以降何も言えなかった。

 

そしてそういう人間が、むしろ平均的なことも。

 

わたしの心に傷をつけていた。

 

今はフローラと言う名前をキルシェさんがつけて。

 

それを受け入れているという。

 

お姉ちゃんが見かねたか、家事を手伝い、指導も始める。

 

その間に、レヴィさんがお茶を淹れてくれた。おかしについては、以前作ったものを、コンテナから出してくれる。

 

なおわたしが高品質の小麦粉を作れるようになったから。

 

非常に焼き菓子は美味しく仕上がっている。

 

「これはおいしい。 太る」

 

「その分疾風のごとく動けば良い。 食べた分は動くか頭を使うと良いだろう」

 

「この甘さだと消費しきれない可能性が高い」

 

「ハハハ、そうか」

 

何故か誇らしげなレヴィさんに苦笑い。

 

それで、咳払いすると。

 

戦略事業について聞く。

 

「それで、何をしようとしているんですか」

 

「現在、フロッケの周囲は暖かくしている。 これを山全体に拡げたい」

 

「!」

 

「人工太陽計画と呼んでる」

 

人工太陽。

 

確かに、この山の気象は異常だ。

 

複数のドラゴンが平然と住み着いているのも原因なのかも知れないが。ともかく、周囲ではこんな寒冷には見舞われていないのに。

 

ただこの山だけが、常に雪と冷気に覆われている。

 

これを打開できるなら。

 

確かにした方が良い。

 

「現時点では、この村の周辺に錬金術で増幅した熱源とシールドを張って、雪を防いでいるけれど。 山全体を覆うのは、それこそ最高の錬金術師でも無い限り現実的ではない」

 

「そうですね」

 

頷くと、キルシェさんが仕組みを見せてくれるが。

 

極めて複雑で、理屈は何とか分かる、と言う程度だった。

 

なるほど、これが神童の本気か。

 

そしてこの子がいなくなれば、フロッケが立ちゆかなくなることもよく分かる。

 

あまりこういうことは言いたくないのだが。

 

この村の老人達は愚かすぎる。

 

パイモンさんやオレリーさんのように賢者と呼んで良い老人もいるのだが。

 

それとは真逆だ。

 

エルトナの人達もこうなってしまった事から鑑みるに。

 

ますますソフィー先生の見せた絶望の未来が、現実なのだと確信するばかりである。

 

「私は自分の才能の限界も見えてる。 だから意見が貰えるなら欲しい」

 

「そうですね……」

 

まず原因を取り除くべきだろう。

 

そのためには、この吹雪いている山を調査する必要がある。

 

その提案に、キルシェさんは腕組みした。

 

「少し難しいかも知れない」

 

「何か問題があるんですか?」

 

「どうやら原因があるらしい場所。 その近くに、ドラゴネアがいる」

 

「!」

 

そういう事か。

 

しかも複数が固まっているのだ。

 

その上、周辺は猛獣だらけ。

 

更に加えて、この天候である。

 

まともに戦える訳がない。

 

ドラゴネアは下級のドラゴンだが。

 

その戦闘力は、わたしが身を以て知っている。あんなもの、複数同時に相手に出来るわけが無い。

 

ソフィー先生でもいればともかく。

 

この場は、わたしとキルシェさんだけ。

 

イルちゃんとパイモンさんを呼んでも厳しいだろう。

 

「でも、考えは悪くないと思う。 あそこにいるドラゴンは好戦的ではないし、ひょっとしたら、調査できるかも知れない」

 

「好戦的では無い……」

 

「ドラゴンは基本的に人間を殺すことしか考えない。 だけれどたまに、変わったのが出てくる事がある」

 

そうなのか。

 

フルスハイムを全滅させる気満々だったあの湖底の邪竜を思うと。

 

にわかには信じがたいが。

 

しかしキルシェさんほどの錬金術師だ。

 

口から出任せを言う事もないだろう。

 

「ただ、それでも不用意に近付くと攻撃されると思う」

 

「まずは其処から、ですね」

 

「……それと、山全体を暖かくする方法も考えた方が良いと思う。 調査は命がけになるし、それで成果が出るとも限らない」

 

「分かりました。 少し考えて見ます」

 

後は、幾つか話し合いをした後、引き上げる。

 

フローラさんは、お姉ちゃんにぺこりと一礼していた。

 

まあ、キルシェさんに恩があるのに、家事で役に立てていないことや。

 

何よりキルシェさんがそれに何も言わないだろう事が。

 

本人にとってとても歯がゆいのだろう。

 

似たような状況にいるツヴァイちゃんを間近で見ているから分かるのだけれども。そういう反応をする人間もたまにいる。

 

平均とは違うかも知れないが。

 

むしろ違う方が、わたしは好きだった。

 

アトリエに戻ると、軽く話し合う。

 

アングリフさんは、頭を掻くとぼやいた。

 

「それでどうするんだ? 流石にドラゴンが何匹もいる場所になんか、危なくていけねえぞ」

 

「近付きすぎないようにして、まずは様子を見に行く事を考えるべきですね。 それと……」

 

貰ってきた設計図を見るが。

 

これを単純に拡大するには、それこそ山全体を覆う巨大な装置が必要だ。

 

キルシェさんでも無理だし。

 

わたしが持っている物資でも、流石にこれは作りきれない。

 

「これを改良する方法についても、少し考えたいと思います」

 

「これは少しばかり高度すぎますね」

 

カルドさんが眼鏡を直す。

 

魔術に関しては相当に詳しいこの人だけれども。

 

それでも解読が困難なようだ。

 

わたしも魔術は使えるから分かる。

 

これは、正直な話、才能が頭打ちだと自己申告している人の書いたものだとはとても思えない。

 

もの凄い完成度だ。

 

「これを更に増幅するつもりですか?」

 

「……」

 

「フロッケは現時点で不自由していません。 あまり危険な賭に出るのは」

 

「カルドさん」

 

わたしは、たしなめていた。

 

不自由していない、なんてあるはずが無い。

 

安全なのはフロッケと周辺だけ。

 

確かにキルシェさんがしっかり整えたから、フロッケの内部と、周辺は安全だ。だが、外に出るには飛行キットを使うか、或いは山の機嫌が良いときに一気に駆け抜けるくらいしか手がない。

 

それは不自由していないと言えるのだろうか。

 

フロッケはキルシェさんがいなければ詰んでしまう。

 

それは良い状況とは言えないはずだ。

 

「少し考えるので、お茶とお菓子をお願い出来ますか、レヴィさん」

 

「分かった。 眠気が空の彼方に飛んでいくような甘いのを用意しよう」

 

「ほどほどにお願いします」

 

お姉ちゃんがあまりいい顔をしなかったので、フォローしておく。

 

さて、此処からだ。

 

実際問題、人工太陽計画などと言っても、どうすれば良いか見当もつかない。

 

こんな完成度が高い道具をどうするか。

 

改良点なんて思いつかない。

 

出力を下手に上げたら、フロッケが蒸し焼きになりかねないし。

 

規模を拡大したら、どれだけ資源があってもたりやしない。

 

更に言えば、原因を究明しようにも。

 

ドラゴンが守っているのでは、どうしようもない。

 

下級でも、公認錬金術師が複数で勝てるか分からない規格外の化け物である。それが数匹。

 

勿論手を出せば、全部が一斉に掛かってくるだろう。

 

とてもではないが、現実的な方法では無い。

 

腕組みして考え込んでいるわたしの前に、お茶とお菓子が出てくる。

 

しばし思考を止めて、お菓子を食べる。

 

ツヴァイちゃんにはミルククッキーが出されていて。

 

喜んで頬張っていた。

 

気分転換のため、お菓子を食べた後は、無心に錬金術をする。

 

金の絹糸の加工法について。

 

フルスハイムの見聞院に、来る途中で寄って調べて見たのだが。

 

なんと絹糸をコーティングする事によって、その鋭すぎる糸を緩和し。加工できるようにする技術があると言う。

 

しかも開発者はソフィー先生だ。

 

流石としか言いようが無い。

 

早速、レシピをみながらやってみる。

 

糸繰りに関しては、専門の人間がいる。調べて貰ったら、フロッケにもいるので、大丈夫だ。

 

絹糸を丁寧にほぐし。

 

その後、レシピ通りにコーティング。

 

幸い素材は揃っていたので、複数の調合を経て中間生成液を造り。そして糸の破壊力をコーティングして押さえ込む。

 

その後、糸繰り職人の元に持ち込んで、糸に加工して貰う。

 

八割増しの料金を払うと言ったら、流石に仰天されたし。

 

こんなものは見た事がないと、金の絹糸を見てもいたが。

 

初老の糸繰り職人は、きちんと糸にしてくれた。

 

その後、模様そのものに強化の魔法陣を仕込んだ布にするのだが。これに関しては、お姉ちゃんが機織りを教えてくれるという。

 

かなり手間暇が掛かるので、時間が掛かってしまうが。

 

素材が大変に貴重なことを考えると、まあ仕方が無い。

 

ちまちまと進めていく。

 

もし布にまで仕上げられたら、伝説の布であるヴェルベティスの完成だ。布でありながら膨大な魔力を纏い、生半可な鎧など及びもつかない防御力を作り出す。それこそ究極の布であり、場合によっては国宝にさえなる。

 

まずどんな魔術を仕込むか考えながら。

 

わたしは、幾つか複数の作業を。

 

並行して、少しずつ考え始めていた。

 

 

 

(続)




結局の所、異常気象に見舞われ続けているフロッケの集落。

神童キルシェの手を持ってしても、その根本的な解決は出来ていません。

この集落も後ろ暗い事情があり、そうでなければこんな劣悪な環境で人が集落なんて作っていません。

また困難な仕事が。

始まります。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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