暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
上級ドラゴンを倒したフィリスも、更に難しい仕事に果敢に挑戦していく事になりますが。
高度な事業に参加すれば参加するほど、人間の闇を目にすることになるのです。
序、基礎に立ち返れ
フロッケで話を聞いた後、わたしは見聞院本部に出向く。幸いそれほど遠い場所でもないし、何より情報が必要だからだ。
キルシェさんとは別方向からのアプローチを考えて見たい、というのもある。
或いは、何か参考に出来る資料があるかも知れない。
また見聞院には、禁忌の森で見た植物についても情報を納入する。
禁忌の森に関する件については、既に情報が見聞院本部まで行っていて。既に此処でも知られていた。
多少のお小遣いを貰えたので。
それだけで良しとする。
後は、公認錬金術師の免許を見せれば、更に難しい本についても読むことが出来る。
見聞院本部の地下深く。
強力な魔術の防護が掛かっている部屋はひんやりしていて。
幽霊でもでそうだった。
霊については何度も見たことがあるが。
此処は雰囲気がある。
実際その手の話がいくらでもあるのだと、嬉しそうに案内してくれた司書さんが話してくれた。
苦笑いするばかりである。
お姉ちゃんはわたしを怖がらせようとしたからか、笑顔のまま静かにキレていたが。
ともあれ、図書館の外で解散して、此処にはわたしとお姉ちゃん、カルドさんの三人だけで来ている。
ツヴァイちゃんはアトリエで在庫確認。
ドロッセルさんはせっせと人形劇の脚本作り。
アングリフさんは、この辺りの状況について、酒場に聞きに行き。レヴィさんは買い出しだ。
カルドさんは珍しい本を見つけたらしく、大喜びで読み出したが。
わたしはそれとは関わらず、熱についての錬金術と。
それとヴェルベティスに関して調査していった。
ヴェルベティスは今後の探索などで役に立ってくる。そういう意味で絶対に必要なので、まあこれは当然として。
問題は熱だ。
爆破は得意だが。
今回必要なのは、瞬間的に敵を焼き尽くすようなものではない。
じんわりと熱を伝えて。
広域を温めるようなものだ。
巨大な暖炉のようなもの、とでもいうべきか。
いや、少し違うか。
暖炉だと、やはり熱量がありすぎる。
キルシェさんは空間そのものを温める工夫をしていたようだし、それにまず追いつかなければならない。
人に教えるには三倍知らなければならないという言葉もある。
キルシェさんはそれが出来る。
わたしはまだ出来ない。
だったら勉強して。
まずは追いつく所からだ。
しばし黙々と読書にふける。参考資料になりそうなものをお姉ちゃんが片っ端から持ってきてくれたので、しばし読書に集中。
雰囲気などいつの間にかどうでも良くなっていた。
時間になったら迎えに来るとお姉ちゃんに言われたので。
頷いて返す。
集中を切らしたくない。
本をひたすらに読んで情報を詰め込む。
やはりというか何というか。
相当に、色々な応用が出来そうな情報が入る。
危険な知識も多い。
こんな深い階層にしまわれている本である。
凄腕の魔術師や錬金術師が書いたのは容易に分かる。そして、普通の人が読んだり、生半可な腕前の人間が実施したら、大惨事になる事もあるからだろう。
閲覧制限も当然と言えた。
いつの間にかかなり時間が経っていて。
お姉ちゃんに呼ばれたので。
残りの本をメモして、見聞院を出る。
カルドさんは既にいなかった。
充分な情報を得たから、だろう。いなくなった事に気付かなかった。
アトリエに戻ると食事にする。
アングリフさんはカルドさんとすっかり出来上がっていて、楽しそうに笑っていた。まあ酔っぱらい達は好きにさせておくとする。
しかしカルドさんが酒を豪快に入れているのは珍しい。
「どうしたんだろう、リア姉」
「見聞院から連絡が来て、論文に高評価がついたそうよ。 標の民として一人前として認められたらしいわ」
「ああ、なるほど」
「まだフィリスちゃんはお酒駄目よ」
苦笑い。
勿論場所によってはわたしくらいの年でも飲んでいるかも知れないが。
此処でそうするつもりはない。
アングリフさんはああ見えて絡み酒をする事もないし。
もう疲れたので寝ることにする。
その次の日、起きだすと。
二日酔いでカルドさんはフラフラになっている反面。
アングリフさんは平然としていた。
この辺りは、やはり経験の差なのだろう。
流石に戻すまでは飲まなかったようだが。
それでも、生真面目なカルドさんだ。あまり飲酒の経験は無かったのだろう。
起きだしてからは、また図書館に。
徹底的に。
貪欲に資料を調べ上げる。
二週間ほど掛けて勉強を実施し。必要と思われる資料については全てメモを取った。
その後は、今度はライゼンベルグまで出向く。
途中でグラオ・タールに寄ったが。
畑もかなり広がり。
安全圏も拡がって、人々の顔もかなり明るくなっていた。
前は何処か厭世的だったノルベルトさんも多少顔が明るくなっていて。公認錬金術師試験に受かったことを伝えると、喜んでくれた。また、以前のような無精髭も生やしておらず、多少衣服も清潔になっていた。
お姉ちゃんは相変わらず無言だったが。
この二人は、ゆっくり距離を確認しないといけないだろう。
軽く話した後、問題事が無いか確認。
見ると緑化した街道はしっかり機能しているし。
わたしが埋めた峡谷もそのまま道としてつながっている。
馬車も往来しているし。
きちんと見張りも仕事をしている。
大丈夫、と言われたので、頷いてその場を後にする。グラオ・タールは一時期兵糧攻め同然の状態に遭っていた都市だ。
回復後、エルトナのように一気に不満が噴出したり、隠されていた闇が現れたりという事は起きず。
どうにか上手くやって行けているらしくて安心した。
だが、決して放置は出来ないだろう。
なおイルちゃんは留守にしていて、宿場町では会う事が出来なかった。
イルちゃんも辣腕だ。
彼方此方から声が掛かっているのかも知れない。宿場町の方は、何しろやっと形になったばかりなので。今イルちゃんの機嫌を損ねるわけにもいかないのだろう。重役が好き勝手するような事も無く。
更に言うと、多分ソフィー先生の息が掛かった様子の重厚そうな武人が周囲を油断無く睥睨していて。
悪党が好き勝手をする余地は無さそうだった。
ならば、わたしが出る幕は無い。
ライゼンベルグに到着後は。
此処の見聞院に顔を出し。
書籍に目を通す。
流石に見聞院本部ほどの在庫はないが。だが、流石に錬金術師の総本山だけあって、此処にしかない資料もかなり確認出来た。
資料を数日掛けて集め。
メモを取った後、即座にフロッケに戻る。
途中の山越えでまた吹雪にあいかけたが、この辺りはもうそういうものだと思って我慢するしかない。
それと、分かった事がある。
吹雪の時は、流石に獣も仕掛けてこない。
視界不良の状況で、ドラゴンにアウトレンジ攻撃でもされたら覚悟するしかないと思っていたのだが。
ドラゴンもこの雪の中で動く気にはなれない様子で。
丸まっているのが、遠くのシルエットで確認できた。勿論自殺行為だから近付くつもりはない。
フロッケに戻ったところで。
まずキルシェさんのアトリエに行く。
そして、集めて来た資料を一旦見せて、話し合いを始める。この話し合いには、魔術の知識があるカルドさんも立ち会って貰った。
パイモンさんがいてくれれば更に助かっただろうが。
流石に戦力が必要な状況でも無いのに、苦しい生活をしている故郷を放置してまで此方に来いとは言えない。
エルトナの方はソフィー先生が派遣してくれた人員がいるので、ある程度は大丈夫というだけ。
ソフィー先生も、わたしが外で戦っている時、エルトナでトラブルが起きたら、笑顔を保ってはいないだろう。
何しろ、ソフィー先生にとって。
わたしは大事な駒だからだ。
それを把握しているから、わたしもそれを利用する。
それだけである。
したたかにならなければ、世界を変える事なんて出来はしない。
そしてあらゆる知識が、世界を変えるためには必要だ。
集めて来た資料を、凄いスピードで見ていくキルシェさん。
本当にこの人は、才能が頭打ちなのか。
しかし、これだけ出来る人が自分でそう言っているのだから、そうなのだろう。
わたしは舌を巻きながら、幾つか提案していく。
「まず山の周囲全域に、フロッケを温めている装置を展開する方法ですが、あまり現実的ではないですね」
「同意。 やはりどう頑張っても資源が足りない」
頷く。
フロッケも、実際これだけの暖かい安定した環境を作るために、かなりのレア素材を使用しているらしい。
その内容を聞いてわたしは愕然とした。
何しろ、噂のドンケルハイトを用いているらしいのだ。
公認錬金術師でも、特に才覚が認められている一部の人間にだけ、アルファ商会は限定して売っているらしく。
花一株で、文字通り城が建つそうである。
そんなお金、勿論キルシェさんがぽんと出せるわけもない。フロッケの何処にも存在し得ない。
当然ながら、アルファ商会に前借りした借金で購入した物資を使っているそうで。
その代わり、アルファ商会に高品質の薬や爆弾などを納品もしているそうだ。そしてまだ借金を全額払いきれていないそうである。
ただ、その状況を考えると。
キルシェさんがへそを曲げた場合、本当にあらゆる意味でフロッケは終わる。
此処の長老達は、エルトナの大人達と同レベルだなと、わたしは呆れ果てた。
「装置による温暖化効果を延長する方法についても限界がありますね。 面積をある程度拡げられますが、その代わり全体的に効果が弱くなります」
「幾つかの資料を見る限り、ある程度緩和は出来る。 でも畑作が出来る面積が二倍になっても、根本的な解決にはならない」
頷く。
キルシェさんは、一つの資料を取りあげる。
何百年か前。
雷神ファルギオルが出現したときのこと。
最強とも噂される上位邪神ファルギオルは、凄まじい猛威を振るい、あらゆる全てを灰燼に帰しながらアダレットの王都に迫った。武門の国も此処までかと思われたが。多数の錬金術師と精鋭の騎士達の犠牲の果てにファルギオルは倒されたとされている。
その時の記録。
ファルギオルは現れると同時に、周囲の環境を激変させた、というのである。
更に言えば、倒されるまでその環境は元に戻らなかったそうだ。
具体的に言うと。
凄まじい局地的雷雨が続き。普段だったら年に何回か雨が降れば良いくらいの土地で。二ヶ月にわたって、雨が降り続けたという。
雷神は環境を作り替えたのだ。
自分が生きるために都合が良いように。
「状況が似ている」
「周辺に邪神がいると?」
「いや、多分違う。 もしいるとすると……」
キルシェさんが指さしたのは。
麓の巨大な氷柱のような何か。
そう、リッチが多数集まっている場所だ。
思い出す。フロッケに行く前に軽く接触した。相手は近付こうとしないのなら、此方にも攻撃しないと言っていた。
リッチは所詮魔術師の成れの果て。
魔術師の上位互換の錬金術師には及ばない。
長い修行を経て、それこそ文字通り人間を止めてまで、錬金術師には及ばないという事もあって。
リッチになるのは、相当に限られた者だけ、らしい。
だが、もしも彼らが、何かしらのおかしなことをしていて。
それが影響しているとしたら。
腕組みしたキルシェさんが、小首をかしげる。
「リッチがいくら背伸びしても所詮はリッチ。 こんな環境の激変を引き起こせるとは思えない」
「同感です。 でも、何かあると言うなら、調べて見ますか?」
「……危険。 流石に地の利は相手にある」
まて。
ひょっとしたら、それが理由ではないのだろうか。
リッチは多数身を寄せ合っているが。元々彼らはネームドを凌ぐ力を持っている訳でもない。
ましてやドラゴンには到底及ばない。
だったら、何故彼らは集まっている。
彼らにとっての城が、この雪山なのではあるまいか。
「キルシェさん、提案があります」
「フィリス、聞かせて」
「此方でリッチと交渉を持ってみます」
「危険」
即答するキルシェさん。
だが、どうにも臭うのだ。
上級のドラゴンならともかく、下級のドラゴンが数匹集まった程度で、此処までの強烈な環境激変を引き起こせるか。
しかし邪神の姿は確認されていない。
そうなると、リッチ達が何かしらの行動を起こして、この雪山という閉鎖環境を作り出し。
自分達のための要塞を作っているのではあるまいか。
この寒い中、どうしてリッチばかりが集まっているのかがそもそも謎だ。それを解き明かせば、確かに何かが掴めるかも知れない。
「可能な限り相手を刺激しないようにします。 状況次第では、戦闘もやむを得ません」
「……確かに今の戦力なら、どうにかなるかも知れないけれど、リッチも地の利を最大限に生かして抵抗してくる。 そもそもリッチがこの状況を作り出しているという確証がない」
「もう少し、案を練ってみますか」
「そうした方が良い」
ふむ。
随分と慎重な意見だ。
その時、ずっと黙っていたカルドさんが、発言する。
「ひょっとしてですが、100年単位での詠唱を伴う儀式魔術による結果、という可能性は」
「100年単位の詠唱っ!?」
思わず聞き返すわたしに。
カルドさんは頷くと、眼鏡を軽く直した。
「僕の見た資料によると、リッチになる邪法は場合によっては10年以上も魔法陣の中での生活を強いられるそうです。 それによって人間を超越したリッチ達です。 100年がかりの詠唱を行い、儀式魔術を行っていてもおかしくありません」
「……確かに可能性は否定出来ない」
腕組みして、キルシェさんは頷いた。なるほど、そういうものなのか。
魔術師は錬金術師には勝てない。
邪法によって魔術師の領域を超えたリッチでもそれは同じ事だ。
だが、もしもカルドさんの判断が正しかったとして。
その儀式魔法を潰したら、それこそリッチ達は、地の利を生かして必死の反撃に出てくるのではあるまいか。
そうなった場合、フロッケも無事では済まないだろう。
下手をすると、刺激されたドラゴンがこの機に乗じて、フロッケに攻めこんでくるかも知れない。
今の実力なら、ドラゴネア一体なら何とかなる。だが、二体以上が同時に来たら、どうにもならない。
「分かった、その線でまずは調査してみる。 もし儀式魔術の線が濃くなったら、方法をまた検討する」
「そうしましょう」
話がやっと建設的な方向へ進んで、わたしも一安心である。
だが、もしもリッチが主犯だったとして。
相手がそれをやめるとも思えない。
血を見る事になるのか。
彼らはもう人間を止めているとはいえ、匪賊では無い。人間を喰らったりはしないだろう。
元々あった森を傷つけたりもしていない筈だ。
もしも元は豊かな森がこの山にあって。それを蹂躙したというなら、リッチ達にはそれこそ即座の断罪以外の路は無い。
いずれにしても、まずは確認することだ。
わたしは幾つか案を出し、キルシェさんは任せると言った。
どうもキルシェさんは錬金術そのものは非常に得意だが、魔術がらみの解析についてはそれほどでもないらしい。
理屈は分かるそうだが、どうにも繊細な魔術の制御が苦手だそうだ。
そういえば、拡張肉体での支援攻撃をしていたが。
あれも自分が苦手だから、ああいう手段を用いたのだとすれば、色々と腑に落ちる。
任されたわたしは。
皆が集まっている中、これからするべき事を説明。アングリフさんが嘆息した。
「面倒な事になる予感しかしねえな」
わたしもそれは同意だけれど。
まずは、確かめる。そこからいかなければならなかった。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい