暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、雪という要塞

フロッケと、その周囲の畑、それに防御施設。緑化された地域。

 

その範囲だけは暖かい。

 

だがその外に出てしまうと。

 

もはや一寸先も見えない大雪だ。四半刻ともたずに凍死するだろう。

 

外は大雪だがフロッケには雨が降っている。

 

普段は雪を散らしているらしいのだが、これくらいの大雪になるともはや散らすことも出来ず、結果雨になるらしい。

 

それも生暖かい雨で。

 

あまり気持ちよいものではなかった。

 

わたしは傘を差して歩きながら、お姉ちゃんと一緒に街の外側。畑の外にある森にまで出る。

 

この森は貴重で重要な防護線だ。

 

絶対に傷つけてはならない。

 

獣もいるが。草を静かに食んでいるだけで、仕掛けてくる様子は無かった。

 

グラシャラボラスさんが、此方に気付いて歩いて来る。流石に不安になったのだろう。

 

わたしとは一緒に戦略事業を手がけた仲だが。

 

それでも部外者。

 

そして此処はフロッケの生命線なのだから。

 

形だけでも、監視はしなければならないのである。

 

「どうしたフィリスどの。 うちの錬金術師殿に頼まれたのか」

 

「はい。 この吹雪の原因を絞り込むために動いています」

 

「原因、か」

 

魔族であるグラシャラボラスさんは、人間の中でもホムの次に長命だ。ヒト族や獣人族が限界で100年。これに対し魔族は200年。ホムは250年ほど生きる。

 

だから魔族はずっとその土地に住んでいたり。

 

人間より長いスパンで物を見ていたりする。

 

軽く説明する。

 

恐らく、魔族故なのだろう。

 

100年単位の詠唱と聞いても、驚くことは無かった。

 

「俺たち魔族には錬金術は使えない。 ヒト族だけの特権だ。 だが、ヒト族の中でも選ばれたごく一握りにしか錬金術は使えず、更にその中でも高みに行けるのはごくごく一部だけ。 それでは、リッチのような連中が出るのも頷ける。 魔術に関しては、余程才能が無い限り魔族は誰でも使えるし、ヒト族も獣人族も使えるからな」

 

「不可解と言えば不可解なんですよねそれも」

 

「うん?」

 

わたしは準備してきた道具を用いる。

 

魔術を感知するためのものだ。

 

内容としてはそれほど難しくない。

 

ゼッテルに魔法陣を書き。

 

それを板の上に貼り付けて連結。

 

八方向に伸ばし、増幅する、というものである。

 

ただしゼッテルの材料に使った繊維の材料が、この間禁忌の森で採取してきた、強い魔力の籠もった黄金色の葉。

 

更に中和剤に使ったのが、ドラゴンの血である。

 

また板材としても、枯れ木になっていた禁忌の森の中の木を貰ってきている。

 

これも強い魔力を秘めていて。

 

極限まで魔法陣の威力を増幅するのには、丁度良かった。

 

鋭い音と共に。

 

八方向に伸びている板材と、それに貼り付けられた黄金色のゼッテルから、光が上下に伸びる。

 

そして立体映像として。

 

どのような魔術が使われているか。

 

魔力の流れがどうなっているか。

 

投影される。

 

そう結果が出るようにカルドさんと相談しながら組んだ魔法陣だ。

 

動作に問題は無い。

 

メモを取っていくわたしに。グラシャラボラスさんは呆れた。

 

「これ、何倍くらいに精度を上げているんだ?」

 

「それぞれの魔法陣で相互増幅していて、元々の魔法陣の効果を256倍にまで上げています」

 

「256倍……」

 

「大きさをもう少し上げれば、1024倍までは行けたんですが、今はとりあえず此処までです」

 

簡単に作れた、訳では無い。

 

この装置を作るのに三日掛かったし。

 

今後おかしな状態になっている場所を調べるのに、都合が良い。

 

黄金色の葉については、在庫はまだまだある。見境無くむしり取ってきたような事は無く、植物繊維が非常に複雑に絡んでいて肉厚だったので、少しをほぐすだけで相当量のゼッテルが作れた。それだけの話である。

 

現時点では、やはりキルシェさんの装置が作り出している、温暖環境に関する「異常データ」が観測されているが。

 

やはり微弱ながら。

 

何かしら妙な魔術の痕跡が残っている。

 

もう少しデータが欲しい。

 

吹雪が止むのを待つ。

 

二刻ほどすると、機嫌をころころ変える山の天気は、猛吹雪から少し雪が降っている、くらいになったので。

 

暖かい格好をして雪の中に赴く。

 

勿論フルメンバーで周囲を固めて貰う。

 

同じように調査を開始。

 

出てくるデータについて、メモを全て取っておき。

 

そして、同じように、何カ所かで調査をしていった。

 

ある程度フロッケを離れた頃だろうか。

 

ドラゴンが見える範囲に来た。

 

相変わらず雪の中、ドラゴンたちは丸まっていたが、一体だけ首を伸ばして、此方を見ている。

 

気になる。

 

ドラゴネアの実力は嫌と言うほど知っている。威嚇してきたりするような事は無く、ただ虚ろな目で見ているだけだが。

 

ブレスをぶち込んでくるかも知れない。

 

皆には備えて貰いながら、調査を続行。

 

データを兎に角集める。

 

額が汗ばんできた。こんなに寒いのに、である。

 

何しろ、この装置、わたしの魔力をガンガン吸い上げる。

 

この雪だから、獣もあまり戦おうという気にはならないのか、それとも此方の装備を見て仕掛ける気も失せているのか。

 

いずれにしても、積極的に近づいてくる事は無かった。

 

キルシェさんは言った。

 

統計をするには、様々な条件下でのデータが必須になると。

 

必要なデータは出来れば十万。

 

これは、データは細分化されるから。

 

例えば、人間で考えて見る。

 

性別。種族。これだけで八パターンが存在する。

 

更に此処に年齢。社会的地位。性格。送ってきた人生。こういったものを加味すると、軽く千パターンを超えるだろう。

 

そうすると、集めて来たデータが千程度の場合。

 

まったく何の役にも立たないカスデータが集まるだけである。

 

今、雪の中彼方此方を観測して、百三十ほどのデータを集めたが。

 

どんなに最低でも万はデータが欲しいと言う事なので。休憩後、外の様子を確認しながら再度データ取りを始める。

 

その度に、ツヴァイちゃんがメモを取り。

 

気象条件、温度、場所、などを詳しく記録してくれていた。

 

この異常気象がリッチの仕業かどうかは別として。

 

可能な限りこの測定装置で丁寧に調べる事によって、活路が見いだせるのだとしたら。数日がかりで万のデータを集めるのは、吝かでは無い。

 

データが四百を超えたところで、一旦フロッケに戻る。

 

吹雪いてきたからだ。

 

少しアトリエに戻って、甘いものを食べる。

 

アングリフさんは、豪快に肉料理を食べながら聞いてくる。

 

「どうだ、手応えはありそうか」

 

「まだまだです。 ちょっと休憩したら、今度はフロッケの内部を徹底的に廻りながら調査します」

 

「まーだやるのかよ」

 

「まだ一割も必要データは揃っていないです」

 

アングリフさんが頭を掻く。

 

禿げない体質らしく、頭髪は豊富だが。アングリフさんも流石に年だ。かなり白いものが目立ちはじめている。

 

ドロッセルさんの話によると。

 

以前少しだけ顔を合わせたドロッセルさんのお父さんであるフリッツさんは、体質からか髪も白くならないらしく。

 

羨ましいとアングリフさんはぼやいているそうだ。

 

「錬金術でぱーっとやれないのか?」

 

「ふふ、分かっているくせに」

 

「ああ、そうだったな。 お前のやってる錬金術は、いつも地道で、堅実に結果を出していくものだったな。 その過程が派手なだけで」

 

「わたしも全自動でデータ収集してくれれば、どれだけ楽かとも思うんですが、こればっかりは」

 

少し休憩して、頭に栄養も行き渡った。

 

危険を承知の上で、少し吹雪いている外に出向く。縄を木に結びつけて、数カ所でデータを取る。

 

慎重に動くが。

 

吹雪の中では、本当にあっという間に体力が奪われていくのが分かった。

 

これは遭難した場合、専門知識がないとまず助からないだろう。

 

獣が仕掛けてこない訳だ。

 

こんな所で戦ったら、それこそ自分の方も命が危ないのだろうから。

 

戻った後、フロッケでのデータ採取に戻り、今日の時点で800弱のデータ取得完了。一晩暖かくして休んだ後、翌日もデータの取得を再開する。

 

幸い、翌日は珍しく晴れていて。

 

その代わり風がかなり強く、それも強烈に寒かった。

 

データを急いで取得して回る。

 

山の彼方此方を見て回るが。

 

どうやら完全に凍り付いた池なども存在しているようだ。

 

本来は水源になっているのだろうか。

 

或いは、氷の下にある池では、魚が泳いで平然と過ごしているのかも知れない。

 

もしそうなら、それはそれで凄い話である。

 

かなりの範囲を歩き回りながら、調査を続けていく。

 

今日は吹雪く事も無かったので、データの集まりが早い。似たようなデータをとりそうになった時は、ツヴァイちゃんが警告してくれる。

 

頷いて、データの取得位置を変え。

 

黙々とデータ集めを続けた。

 

そうして、十五日ほどデータを色々な条件下で集め。

 

最終的に一万二千が集まったところで。

 

一度キルシェさんの所に持ち込み、ツヴァイちゃんとカルドさんもあわせてデータの整理に取りかかる。

 

黙々とデータを整理しながら。

 

誰が言い出すまでもなく。

 

あるデータに気付く。

 

上空。

 

例外なく。

 

どの場所でも、ある一点から上の空に、魔術による干渉らしきものの形跡が見受けられるのだ。

 

その干渉力は決して強くは無い。

 

フロッケを覆う温暖化フィールドほどの力はない。

 

その代わり、山全域に拡がっていて。

 

データを見る限り、あらゆる天候、あらゆる時間、あらゆる場所で、確実に存在していた。

 

その後、魔術の正体を調べに掛かるが。

 

複数のデータを照らし合わせて見る限り。

 

どうも安定していない。

 

魔術である、と言う事は確かなようなのだが。

 

その場その場で、少しずつ微妙にデータが違うのである。

 

これは骨が折れる。

 

確信は出来たが。

 

しかし、丁寧に調べていく。統計というのは極めて地味な作業で。その結果大きな成果が出る。

 

本来は十万はデータが欲しい所なのだが。

 

それを、山の規模から言って、一万二千まで抑えて作業をしている所なのである。

 

これでどうにか、納得できる結果を出したい。

 

ツヴァイちゃんが挙手。

 

幾つかあるデータについて、口にした。

 

「これらが共通しているのです」

 

「本当だ。 フィリス、どう思う?」

 

「……状況を考えるに、どれも全く違う条件下で取られたデータですね。 何か共通点があるんでしょうか」

 

「これらも」

 

ツヴァイちゃんが、他の場所からも、共通するデータを見つけ出してくる。

 

最終的に十二の共通データに分類されることが分かってきたが。

 

つまり、十二種類。

 

謎の魔術干渉がある、と言う事か。

 

ふむ、とわたしは頷いた。

 

やはりこれだけの広範囲に影響を及ぼす魔術干渉、邪神の仕業でないとすると、カルドさんが言っていたように。

 

リッチが百年単位の魔術詠唱を行っている、からかも知れない。

 

リッチについての文献は読んだ。

 

彼らは人間を止めた後は、殆ど食事も取らず。

 

魔力を吸収する事で生きていくそうだ。

 

その結果、森になる潜在力を持った土地を台無しにしてしまうケースもあるらしい。

 

魔力だけで生活出来るのなら。

 

食事を取る必要もないはずで。

 

当然吹雪の中でも平気だろう。

 

とはいっても、これだけではまだ証拠として弱い気がする。

 

キルシェさんが、地図を出してくると。

 

ある範囲を指さした。

 

かなりフロッケから離れている。

 

調査には危険を伴う地域だ。

 

「この辺りで出来れば1000、データを取ってきて欲しい。 その間、解析は此方でやる」

 

「分かりました。 お願いします」

 

その場所は。

 

フロッケと、リッチ達がたまり場にしている場所の中間。

 

更に山頂付近。

 

その二箇所だ。

 

話を聞く限り、その二箇所でそれぞれ1000ずつデータを取った方が良いだろう。しかもフロッケから遠いので、かなり急いだ方が良い。

 

アトリエに戻ると、作業を開始。

 

最悪の場合は、アトリエを展開し。

 

その中に逃げ込む。

 

後、ロープを借りて、それをフロッケを守っている緑地に結わえ付けた。

 

これらは最後の手段。

 

使わない事を祈るようにするしかない。

 

雪が降り始めている中、またデータを取りに行く。アングリフさんに警告された。

 

「分かってると思うが、吹雪き始めたらすぐに撤退するぞ」

 

「はい。 その時のために」

 

わたしは、空飛ぶ荷車を視線で指す。

 

最悪の場合は、これで一気にフロッケに飛ぶ。もしもそれが上手く行かないようなら、方位磁針を確認しながら、一旦山から出る。

 

その方針を確認すると。

 

ドロッセルさんが、ため息をついた。

 

「護衛だから守るけどさ、本当に地味だねこの作業……」

 

「ごめんなさい」

 

「いや、謝る事はないよ。 でも、錬金術も万能じゃ無いんだね」

 

それは、仕方が無い。

 

もし万能だったら、それこそ既にソフィー先生は、この世界を改革できている筈だ。

 

調査を始めながら、ふと気付く。

 

ひょっとして、だけれども。

 

神々も万能ではないのではあるまいか。

 

邪神も実際問題、最強を謳われたファルギオルでさえ、最終的には倒されている。

 

神々の主がどんな存在だかは知らないが、それだって万能だったら、世界がこんな酷い事になっていて。未来がどん詰まりだという事の説明がつかない。

 

現地に到着。

 

早速調査を始める。

 

今の時点では、空の機嫌はあまり良くないが、吹雪くところまでは行っていない。

 

ただ昨晩派手に吹雪いていたからか。

 

とにかく雪が非常に深く積もっていて、歩くのも一苦労だった。

 

小型の獣が、餌を探して歩き回っているが。

 

此方にも気付いて、距離を取っている。

 

わたしは調査を続けていくが。

 

お姉ちゃんに袖を引かれた。

 

鉱物の声を聞くと、確かに其処に行っては駄目だ。溝がある。

 

「クレバス……」

 

「おっと、良く気付いたな」

 

「何となくです」

 

アングリフさんに返す。

 

お姉ちゃんが警告してくれなかったら、足を滑らすところだった。或いは、わたしの危機を、第六感的なもので感じ取ったのかも知れない。

 

再び、調査に戻るが。

 

しばしすると、吹雪く前兆が見られたので。

 

すぐに空飛ぶ荷車で飛んで戻る。

 

溜息。

 

まだ500ほどしかデータは取れていない。

 

これは時間が掛かるぞ。

 

そうわたしは、覚悟を決めていた。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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