暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、凍結の権化は

結局山のご機嫌を伺いながら、データを集め。五日間掛けて、二千のデータを集めた。もうこうなったら仕方が無いので、交代で休みながら天気の機嫌を伺い。夜中だろうが早朝だろうが、状況を見て吹雪いていないようだったら飛んでいって、データを集めていった。

 

焦る必要はないが。

 

ずっとエルトナを放置しておくわけにもいかない。

 

一旦このデータを取り終えたら、一度エルトナに戻って睨みを利かせ。

 

そしてまた戻ってくるつもりでいた。

 

キルシェさんにはその話はしてある。

 

途上でデータの解析は別に出来るし。

 

焦ることもない。

 

取り終えたデータを、キルシェさんに渡すと。

 

エルトナに飛んで帰る。

 

そして、都市計画の進展を確認。

 

旧エルトナがあった山をまたある程度崩して鉱物資源に変えると、コンテナに収納する。色々と恨めしそうに重役達がその様子を見ているし、陰口も聞こえてくる。

 

散々良くしてやったのに。

 

恩を忘れやがって。

 

悪意の籠もった汚い言葉。

 

だがわたしに良くしてくれたのは重役達だけでは無い。

 

あの人達は、どうも昔から心の奥底で特権意識を持っていたのだろう。だから今傲慢さが噴出している。

 

真の力を持った人間が現れたことで。

 

その特権意識が吹き飛ばされ。

 

それに対して理不尽で幼稚な怒りをぶつけている。

 

そう思うと、わたしは色々と悲しくなる。

 

もしそれが「人間らしい」考え方で。大人になるというのがこういうことだというのであれば。

 

わたしはそれこそ、人間であることに、価値など見いだせないからだ。

 

ティアナちゃんが作業を終えて、汗を拭っているわたしの所に来る。

 

湖底の邪竜との戦いで、凄まじい数の獣を単独で殺し、正体を見せつけてくれたティアナちゃんは。

 

外では相変わらずによによとしている。

 

少し頭の足りない女の子、と言う見た目だが。

 

それはあくまで、装っているに過ぎない。

 

この子はどんな獣でも正体を知れば怖れ逃げ惑う、怪物だ。

 

「フィリスちゃん、フロッケの状況はどう?」

 

「今かなり進んでいて、これから方針を決めるところだよ。 何か問題でも起きたの?」

 

「ああ、重役の何人かが、アルファ商会と極秘で取引しようとして、突っぱねられてた」

 

「……っ」

 

唇を思わず引き結ぶ。

 

誰かは即座に見当がついた。

 

ティアナちゃんは笑いながら言う。目は笑っていないが。

 

「もう面倒だし、斬る? フィリスちゃんの事私大好きだし、サービスでただでやってあげるよ。 勿論証拠も残さない。 ああ、首から上だけはちょうだいね」

 

「やめて」

 

「おや、どうして? むかついてたんじゃないの」

 

「それでも、あの人達は人を食べたりはしていないの」

 

あの人達が、匪賊と結びつくようだったら。

 

わたしが直接出向いて頭をかち割っている。

 

だけれども、あの人達は。

 

元々は、素朴な人だったのだ。

 

今では恥ずかしい大人だ。情けない大人だ。隠されていた闇が外へ噴き出している。だが、それでも「まだ」人間なのだ。匪賊とは違う。匪賊は、世界に害を為す人間の形をした獣だ。

 

重役達は人間として最底辺だが。

 

それでも獣ではないのだ。

 

「ふふ、その答えを聞いて安心したよ」

 

「どうして?」

 

「フィリスちゃんの目が、こういう話を聞く度にどんどん濁っているのを確認できるからね。 私と同じ所に来つつある。 ソフィーさんと同じ所に行きつつある。 仲間がまた増える。 大歓迎だよ。 いつでも「こっち」においで」

 

背筋が瞬間的に凍るかと思った。

 

呼吸を整える。

 

それを楽しそうに見ながら、ティアナちゃんは言う。

 

別に最初から重役を斬る気はなかった。勿論わたしが頼むようなら斬っていたが、その場合はわたしに失望していたとも。

 

遊ばれたことに憤りは感じるが。

 

わたしも実際、暗い欲望に身をゆだねかけていたのは事実だ。ティアナちゃんを恨む事も、怒ることも出来ない。憤りは、自分自身に対して感じていた。

 

だが、踏みとどまることも出来た。

 

深淵を覗けば深淵に覗き返される。

 

ソフィー先生にそうされてから。わたしはどんどん闇へと心身を沈ませている。それに比例するようにして力も得ている。

 

だが、もっと貪欲に闇を覗いたら。

 

きっとわたしは、最終的には化け物になってしまう。例えば。今目の前で口元だけ笑っているティアナちゃんのように。

 

それだけは避けたい。

 

「……監視を引き続きお願い」

 

「かまわないけれど、フロッケの方は大丈夫? あんまりモタモタやってると、ソフィーさん怒るよ?」

 

「最大限の速度でやっているよ。 出来れば誰も不幸にならない方向で」

 

「ハ。 誰も不幸にならない方法なんて存在しないよ」

 

或いはそうだろう。だけれども、まずはそれを目標にしてやってみたい。勿論、現実と理想が対立した場合には、現実を取らなければならない。だけれども、わたしは対立するまでは理想を追いたいのだ。

 

それを察したか。

 

薄笑いのまま、ティアナちゃんは更に言う。

 

「そんな風なこと言ってると舐められるよ? 今以上に。 そして人間は種族例外なく、舐めた相手には何をしても良いって本気で考えるからね。 舐めて掛かった相手は半殺しにして、二度と逆らえないように恐怖を叩き込むくらいでいないと、フィリスちゃんの立場だとやっていけないよ」

 

「大丈夫」

 

「うん?」

 

「舐めた真似なんてさせない」

 

ティアナちゃんが、死霊でも逃げ出すような笑みを浮かべた。

 

多分。わたしの目に。

 

自分と同類の闇を色濃く見たからだろう。

 

話を切り上げると、フロッケに戻る。

 

向こうでもデータを解析しているだろうし、わたしもこれから更にデータを集めておきたいのだ。

 

山の麓辺りでもデータを取っておきたい。

 

吹雪の影響が出ていない辺りのデータを取って比べてみれば。

 

或いは、何か比較が出来るかもしれないからだ。

 

 

 

充分なデータが集まったとは思う。

 

やはり、結論は一つだった。

 

山を何かの魔術が覆っている。

 

案の定、麓でも数千ほどのデータを取って見たのだが。山の方で取ったデータとは、露骨に結果が違っていた。

 

それを鑑みるに。

 

この山を何かの魔術が覆っているのは、間違いないとみて良いだろう。

 

問題はそれが、リッチ達によるものなのか。

 

その場合はどう解決するべきなのか。

 

その二点である。

 

此処からはアプローチを変える。

 

まず、リッチ達がいる場所から、距離を離してみて、魔術による影響がどれくらい出ているかをしっかり確認する。

 

内容次第ではこれで一発で分かるだろう。

 

数日にわたって、空の機嫌を伺いながら、データを集め。

 

そしてフロッケに戻って検討する。

 

わたしとキルシェさんとツヴァイちゃん。それにカルドさんが額をつきあわせて話をしていると、何だかお父さんと娘三人みたいだが。

 

わたしみたいなちんちくりんや子供で無いと、カルドさんはまともに喋る事も出来ないくらいの重度の女性恐怖症なので。

 

見かけと中身はまったく一致しない。

 

しばらくデータを検証。

 

カルドさんが早々に結論を出した。

 

「恐らくだが、魔術の発生地点と、魔術が展開している地点では、効果に差異は出ていないねこれは」

 

「同感なのです」

 

カルドさんの言葉に、ツヴァイちゃんが頷く。

 

データに変動が見られない、という。

 

何処かしら弱くなったりしてたら、それで魔術発生の中心点を調べられるのだけれども。どうにもその様子が全く無い。

 

と言う事は、である。

 

「やはり直接話をしにいくしかない、ですか」

 

「僕は反対だな。 相手からして見れば、そうだと認めたら、皆殺しにされかねないと警戒する筈だよ」

 

「その場合は戦うしかない。 この山に住まう皆が迷惑している」

 

「……キルシェさん、リッチ達にとっては、身を守る最後の盾で。 彼らも人を殺していないのならこの山に住まう人では」

 

ふむと、キルシェさんが腕組みする。

 

その発想は無かった、と言う顔だ。

 

わたしは頷くと。

 

カルドさんに向き直る。

 

「アングリフさんと一緒に交渉に行きます。 この様子だと、魔術が行われている事と、相当な高レベルのリッチがいるのは確実で、利害が一致すれば相手も話を聞いてくれる筈です」

 

「利害が一致か。 感情で動く相手だったらどうする?」

 

「その場合は……戦います」

 

「そうか」

 

仕方が無い。

 

もしも相手が錬金術師なら皆殺し、という考えの持ち主であるのなら。

 

それは此方としても身を守るしかない。

 

だが、そうではないのなら。

 

話し合いの余地はある筈だ。

 

吹雪を完全に消さなくても良い方法もあるかも知れない。

 

彼らは彼らで身を守ることが出来。

 

そして此方も彼らに干渉しない。

 

そういう生き方もある筈で。

 

それならば、彼らも納得してくれるはずだ。

 

キルシェさんのアトリエを出る。

 

空模様は悪くない。

 

交渉に出るなら、今のうちだろう。

 

街で情報収集をしていたお姉ちゃん達も、丁度戻ってきていたので、結論について話す。

 

アングリフさんは、呆れた。

 

「リッチと交渉だあ? で、俺に頼むってか」

 

「わたしも行きます」

 

「ああ、それは言い出しっぺだし当然だがな。 ただ、どうなっても知らないからな」

 

「問答無用で襲いかかってくるようならば、その時は倒すだけです」

 

わたしは静かに冷たく言い切る。

 

お姉ちゃんが眉をひそめたが。

 

それもありだろうと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。

 

いずれにしても、この雪の山の天気は変わりやすいし危険だ。今は運が良いことに晴れているし、動くならさっさとやるべきである。

 

統計の結果、何かしらの魔術が山を覆っていること。

 

それは発生源を特定出来ないこと。

 

この二つが分かっている。

 

ならば、発生させうるのは、寿命を無視して動けるリッチ以外には存在し得ない可能性が高い。

 

邪神がいるならほぼそちらが犯人なのだが。

 

此処に邪神はいないのだから。

 

すぐに山を降る。

 

巨大な氷塊のようなモニュメントの廻りで、ローブを被った背の低い影が多数蠢いているのが見える。

 

周囲には多数の霊もいて。

 

真っ昼間だというのに、堂々と姿を見せ、漂っていた。

 

リッチ達は、わたし達が空飛ぶ荷車で近付いてくるのを見て、すぐに気づき、警戒し始める。

 

その中でも長らしい黄色いローブを着たリッチは、すぐに臨戦態勢に入っていた。

 

この辺り、歴戦を経ているだけの事はあるだろう。

 

だが、リッチは所詮「人間を超越した」程度の存在に過ぎない。

 

魔術師の完全上位互換である錬金術師には及ばない。

 

それは、もはや見ていて明らかだった。

 

荷車を降ろすと、皆を展開。

 

皆にはその場で待機して貰う。

 

勿論いざとなったら、即時戦闘開始だが。そうなったらリッチ達も無事では済まない事は分かっている筈。

 

交渉するために。

 

戦力的な条件を整える、という点ではこれで大丈夫な筈。

 

次に、話をするために、わたしとアングリフさんだけで前に出る。

 

武器はまだ構えないようにと、皆には言ってある。

 

わたしも、つるはしを背負っているが。

 

これは護身用。

 

アングリフさんも、大剣を背負っている状況で。まだ戦う態勢には入っていない。

 

リッチ達の長らしい、強い力を持つ黄色いローブを着た者が前に出てくる。

 

近くで見ると、リッチの肌は青ざめていて。もはや生きていない体である事は確実だった。

 

近寄ってくる霊は、身につけている道具類で極限まで増幅している魔力でそのまま追い払う。

 

悪意のある霊は、近寄ってきた場合。悪影響を及ぼすことも珍しくはないのだから。

 

「話し合いに来た。 前に一応軽く話したが、多分覚えていないだろうからまた名乗っておく。 俺はアングリフ。 傭兵をしている。 こっちは公認錬金術師のフィリスだ」

 

「この集落の長であるタイタスだ。 錬金術師と傭兵が何用だ」

 

「では単刀直入に言う。 この山の異常気象、あんたらが原因だな」

 

アングリフさんは、敢えて単刀直入に言う。

 

タイタスは、何か証拠でもとしらばっくれたが。

 

わたしはその場で立体映像の膨大なデータを展開。

 

麓のものも含めると、現時点で二万を超えるデータは、数字の暴力となって、周囲の空中を埋め尽くした。

 

「データ解析の結果です。 山に魔術が展開されているのは確実。 邪神もおらず、ドラゴンもこんな魔術を展開している様子が無い。 だとすると、可能性があるのは超長時間での詠唱を現実的に行う事が出来る貴方たちだけです」

 

「こ、これは……統計か」

 

「そうです。 納得できないと言うから根拠を見せました。 これで納得していただけましたか?」

 

これ以上もないほど明確な根拠を突きつけられ。

 

タイタスは黙り込んだ後。

 

殺気立っている他のリッチ達に、視線で自制するように促し。

 

そして咳払いした。

 

「……だとした場合どうする」

 

「交渉をしたいと思っています」

 

「交渉?」

 

「はい。 此方としても、雪山の中で暮らすのは非常に大変です。 行き来をするときも、何度も遭難しかけましたし、この雪山の環境下で体を壊した人も多いでしょう」

 

タイタスは黙り込んでいる。

 

だが、しばしして。

 

口を開く。

 

「錬金術師が来るまでは、人が暮らせる程度の冷気だった筈だが」

 

「やっぱり貴方たちだったんですね」

 

「分かっているのならもはや隠しても無駄だ」

 

「それならば、交渉しましょう。 此方としても、無駄に血を流したくはありません」

 

わたしも、カードの一つとして、相手の排除は常にちらつかせる。

 

当たり前の話だ。

 

こういう交渉では、武力がものを言う。

 

もしもエルトナで、わたしが力をちらつかせなかったら。長老達はいう事を絶対に聞かなかっただろうし。

 

何よりわたしを侮って、力だけ搾取して傀儡化しようとしたかも知れない。

 

リッチも人間と思考回路が変わらないことは話していて分かった。

 

それだったら、損になる事はしないように。

 

彼らには思考誘導をかけて行けば良い。

 

勿論相手は海千山千。

 

だから補助のために、アングリフさんに来て貰っている。

 

「此方としては。 少なくとも麓までの安全路を確保したいと思っています。 しかしながら、貴方たちは自分の身を守るためにこの吹雪を起こしている。 違いますか」

 

「……その通りだ。 何しろ我等は外道と蔑ずまれる異端の身。 どうしても錬金術師には勝てない事を理解しているから身を人間の外に置いたというのに、それでも錬金術師には及ばないことを悟らされた哀れな者だ。 それならば時間という武器を利用して、身を守るほかあるまい」

 

「ならば、此方も多大な犠牲を払って、集落の安全確保を実施している事も理解できる筈です。 せめて、吹雪を減らしてくれませんか」

 

「それは出来ない。 要塞の守りを捨てるようなものだからだ」

 

アングリフさんが面倒くさいと顔に書いた。

 

リッチ達は全員姿を見せているが。

 

人数は二十名を超えないだろう。

 

現状の戦力だったら、全員まとめて蹴散らすことも容易なはずだ。

 

咳払いすると。

 

アングリフさんは補助してくれる。

 

「此方は其方の状況を知っている。 譲歩を引き出せないかという話をしているのであって、其方の都合だけを一方的に聞くわけにも行かないんだよ。 わかるか?」

 

「それは分かっている。 だが我等は其方に比べて戦力で劣っている。 現状は要塞化しているこの山に立てこもる事で生をつないでいるが、譲歩してしまえば後は滅びの運命だけが待っている」

 

「何をそんなに怯えていやがる」

 

「これだけ時間を掛けて力を蓄えたのに、錬金術師には及ばない。 怖れるのは当たり前だろう」

 

タイタスは窮状を訴えてくる。

 

なるほど。

 

現状の打開策としては、むしろ情に訴えるのは悪手ではない。

 

確かに手としては悪くは無いが。

 

わたしとしても、それで引き下がるわけにはいかない。

 

実際フロッケは孤立していて。

 

毎回人員の移動にも、キルシェさんが作った大型の飛行キットを取り付けた移動家屋を用いているのだ。

 

これはかなり不便なことであるし。

 

何より山にとっても良い事とは思えない。

 

「では局所的に吹雪を止める事は出来ませんか? 此方としては緑化を行い、街道を麓まで延ばせれば、それでかまわないのですが」

 

「そんな事が……いや錬金術師なら可能なのか。 だが残念ながらそれは出来ない」

 

「理由を聞かせてください」

 

「我々はこの守りを作り出すために、全力で魔術を展開している。 逆に言うと、魔術を其処まで都合良くコントロール出来ない」

 

ああなるほど。

 

そういう事か。

 

何となく分かってきた。

 

カルドさんが言っていた。百年単位の詠唱による魔術で。この環境を作り出したのだと。恐らくそれは当たっている。

 

そんな長期間詠唱で環境を作り替えたのなら。

 

ちょっと弄った程度で、その環境変化を緻密に調整することは出来ないはずだ。

 

「何だか自分達で牢に閉じこもったみたいだな」

 

「そう揶揄してくれてもかまわんが、我々は弱い立場なのだ。 死ぬ以上の苦労をしてやっと錬金術師に迫れると思ったら、この為体。 皆で身を寄せ合うための場所を作るために、こんな所に集まり、必死に守りを固めて住んでいる。 それが牢だと言えば牢なのだろうが。 城壁だと言い換えることも出来るだろう」

 

「一体何が楽しみで生きているんだよお前達」

 

「欲の類は人間を止めたときに捨てた。 我等はもはや食事も必要ないし、発散する欲望も存在しない。 ただ生きたいと願うだけだ。 生きているかは微妙な所であるがな」

 

自嘲するタイタス。

 

そうか。ならば、こう行くか。

 

既に交渉の内容は、皆で話しあって決めている。

 

交渉は一方的に行うものではない。

 

此方には、戦力で勝るというカードがある。そのカードをちらつかせならが、相手に譲歩を迫っていく。

 

それが定石だ。

 

お姉ちゃんにも、そうするようにとアドバイスを受けている。

 

わたしも血を見たくない以上。

 

そのアドバイスに従うだけだ。

 

「ならばこうしましょう。 吹雪を局所的に無効化する道具を造り、麓までの安全経路を作り、更に緑化した街道を作ります」

 

「そんな事まで可能なのか」

 

「可能です」

 

人工太陽計画といっても、何ももう一個本当に太陽を作り出すわけではない。

 

今フロッケを覆っている熱フィールドを小型化したものを、数珠つなぎにして、麓へ伸ばすという手もある。

 

本来なら貴重な素材が必要になってくるのだが。

 

それについては、心当たりがある。

 

キルシェさんと話をしたが。

 

効果を弱めるならば。

 

ドンケルハイトを使わなくても大丈夫だ。

 

多少寒い、くらいで良いのであれば。

 

熱フィールドを狭い範囲に展開する道具を、黄金色の葉程度のレアな素材で作る事が出来る。

 

黄金色の葉であればストックがある程度あるし。

 

足りなければ禁忌の森に取りに行く。

 

勿論とても危険だが。この程度の危機は、力尽くで突破出来るくらいでなければ。多分今後もやってはいけないだろう。

 

「作業には緻密なスケジュールと獣からの防御が必要になります。 此方としては、作業中に吹雪かせるのを止めて貰えれば結構です」

 

「し、しかし。 その場合、我等の聖地に人間が攻めてくる可能性が」

 

「黙っていろっ!」

 

リッチの一人が怯えた声を上げるが、タイタスが一喝して黙らせる。

 

わたしは黙ってやりとりを見守る。

 

タイタスはしばし真剣に考え込んでいた様子だが。

 

やがて頷いた。

 

「分かった。 吹雪の強弱についてはある程度コントロール出来る。 今までも、遭難者が出ないようにある程度は配慮もしていた」

 

「……此方としても、貴方方の事情を周囲に漏らさないと約束します」

 

「それならば理想的だ。 ただし、もしも約束を破るようなら、此方にも考えが」

 

「そんな考えは捨てろ」

 

アングリフさんが据わった声で言う。

 

タイタスが黙る。

 

わたしは介入しない。

 

アングリフさんとしても、この山が如何に現状危険かは、よく分かっているのだろう。そして、実際彼らが配慮していたとしても。フロッケがどれだけ閉鎖的になり、困っていたかも分かっているのだ。

 

だから彼らの、自分の都合だけを前面に出した物言いには、色々腹を立てている。

 

そうだと見て良い。

 

「とにかく、工事は此方でする。 獣の排除もだ。 だからそっちは合図をしたときにだけ、吹雪かせなければいい」

 

「……分かった。 ただし。 この我等が聖地からは離れるように街道を作ってくれ」

 

「それについては約束してやる。 だが、勘違いするな。 此方としても、死活問題だと言う事はな」

 

アングリフさんが顎をしゃくり。

 

わたしは一礼するとタイタスの前から離れる。

 

最後の高圧的な態度。

 

理由は何だろう。

 

聞いてみると、アングリフさんは、鼻を鳴らした。

 

「舐められるってのはああいうことを言うんだよ。 こっちの方が立場が上で、その気になればいつでも潰せるって事を忘れさせるな」

 

「交渉って、難しいんですね」

 

「ああ。 完全に対等な交渉なんて出来はしない。 相手が自分達の仕業だって認めた時点で、言い訳を聞かずに全部斬っても良かったんだがな」

 

「……」

 

黙り込むわたしを見て。

 

アングリフさんは嘆息した。

 

まだまだこれは時間が掛かりそうだ、と思ったのだろう。

 

皆と合流した後、空飛ぶ荷車を使って、フロッケに戻る。リッチ達はそれを待ってから、わざわざ吹雪をまた起こした。

 

多分、精一杯の示威行動、と言うわけだろう。

 

だが、リッチ達が自分の仕業だと認めた時点で。

 

此方には手がいくらでもある。

 

雪崩を起こしてリッチ達を巻き込んでも良いし。

 

更には空飛ぶ荷車から爆撃しても良い。

 

ハルモニウム製の装甲で守られている空飛ぶ荷車は、ドラゴンの鱗で防備を固めているのと同じだ。

 

リッチの魔力程度では、とても貫通することは出来ない。

 

相手も魔術の専門家。

 

荷車から感じる異常な魔力は察知していたはずで。

 

戦ったら勝ち目が無い事は理解していた。

 

それならば、此処からは。

 

単純に道具を造れば良い。

 

なお合図については、別れ際に軽く決めて来ている。照明弾を上げたら、翌日は晴れさせるように、という合図である。

 

ただし、リッチと言えば長い時を生きている(生きているとは言えないが)存在。

 

蓄えた魔力と、財宝を狙う傭兵もいる。

 

彼らも丸一日晴れさせる訳にはいかないという事で。

 

午前中だけ、という事で話はついた。

 

フロッケに戻ると。

 

すぐにキルシェさんのアトリエに直行。成果について話すと、キルシェさんは嬉しそうに口元を抑えた。

 

殆ど感情を見せないキルシェさんが珍しい。

 

物わかりが悪い長老達に腹を立てていた時も、言葉で相手を非難することはあっても、動作にまでは示さなかったのに。

 

「助かる。 後は経路に沿って数珠つなぎに小型熱フィールド発生装置を並べていくだけで安全な下山ルートを作れる」

 

「それと、ルートは分岐させて、ライゼンベルグへのルートも作りたいんですが、それもかまわないですか?」

 

「素材足りる?」

 

「何とか」

 

ツヴァイちゃんが頷くと。

 

現状存在している黄金色の葉について、在庫を提示。

 

確かにこれなら足りると、キルシェさんは頷いてくれた。

 

その代わり、黄金色の葉は在庫をほぼ使い切ってしまう。

 

また禁忌の森に行って取りに行くか。

 

或いは他の秘境を探しに行くか。

 

どちらかを考えなければならないだろう。

 

とにかく、これで外堀は埋まった。

 

これからは、計画に沿って、作業をしていけばいい。

 

雪は熱発生フィールドで溶かせるとして。問題は雪崩対策だ。これについても、考えがある。

 

雪崩の破壊力は凄まじく。

 

下手な城壁程度だと、直撃すると粉砕されてしまう可能性もある。

 

それを避ける為には。

 

相応の準備と、対策が必要になる。

 

だが、此方は錬金術師だ。

 

その程度の困難なら。

 

力尽くで突破することも、難しくは無い。そして力尽くで突破出来るなら、そうするべきなのである。

 

わたしは、錬金術師として。

 

力は使うべき時には使う。

 

そう既に信念を固めている。

 

それに関して、今後も揺らぐことは、考えられなかった。

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