暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、熱のドーム

アトリエに戻ると。

 

皆でこれからのスケジュールをまとめた。

 

キルシェさんがレシピに起こした、劣化熱発生フィールドについては、わたしでも作れる程度のものだ。

 

わたしの腕が上がっているのもあるけれど。

 

キルシェさんが極限までかみ砕いて、分かり易くしてくれた、というのもある。

 

別格のソフィー先生と、それにオレリーさんを除くと、近辺では多分キルシェさんが最高の素質を持つ錬金術師だろう。

 

このレシピを見るだけでそれが分かる。

 

ただ、そうなると。

 

キルシェさんの故郷にいたという。キルシェさんより遙かに優れている錬金術師というのが誰なのか気になる。

 

物怖じしないキルシェさんが其処まで言う程の人だ。

 

ラスティンでもトップクラスの錬金術師だろう。

 

ソフィー先生というのは考えにくいし。

 

多分別の人ではあるのだろうが。はっきりしているのは、まだ先は長い、という事である。

 

一通りスケジュールについて話し合いをした後。

 

不意にツヴァイちゃんがいう。

 

「お姉ちゃん。 黄金色の葉を私が増やすのです」

 

「えっ」

 

「大丈夫、無理をしない範囲でやるのです。 フロッケには美味しいミルクが特産品としてあるし、安く売ってくれる事も分かっているのです。 それならば、どうにかなるのです」

 

「でも、危険だよ……」

 

ツヴァイちゃんは引かない。

 

もっと役に立ちたい。

 

そう言うのである。

 

お姉ちゃんが、わたしの肩に手を置いた。

 

「やらせてあげなさい。 一度やってみて、無理なようなら止めれば良いわ」

 

「でも、リア姉」

 

「いいの。 でも、体を壊すようなら禁止よ、ツヴァイちゃん」

 

「分かったのです」

 

そうか。

 

ならば、安心では無いが、仕方が無いか。

 

もっと役に立ちたい。

 

そうツヴァイちゃんは切実に言う。ツヴァイちゃんがどんな過酷な運命にあってきて、それが今でも心に深い傷となって刻まれているか理解しているわたしとしては。止めることは出来なかった。

 

でも、これで上手く行ったら。

 

竜の鱗も増やしたいと言い出すかも知れない。

 

或いは完成品のハルモニウムも。

 

その時が心配でならない。

 

いずれにしても、やる事は順番にやっていく。

 

それだけである。

 

まず、レシピを確認。

 

黄金色の葉をすり潰し、中和剤を使って変質させ。これを使ったゼッテルを作る。ゼッテルに魔法陣を組み込む。

 

そしてこの魔法陣を更に連結させ。

 

六芒星にし、互いに増幅させあう。

 

魔術の内容は、適温確保と。

 

雪の排除。

 

雪の排除に関しては、それほど強力でなくてもいい。

 

吹雪の時には、雨になって降ってくる位でかまわない。

 

この六芒星魔法陣を更に増幅するべく。

 

中心殻を作る。素材は深核だ。

 

深核は溶かしたり色々と応用が利く便利な品なので。今回は、溶かして形を整えて小型の球体を作り上げ。

 

魔法陣を深核そのものに刻み込む。

 

この魔法陣は収束を行うもので。

 

更に防備も兼ねる。

 

当然深核も中和剤で変質させるのだが。

 

この時使うのは、竜の血を薄めた中和剤だ。

 

竜の血は幸い湖底のドラゴンを殺したときに大量に採取できたので、それほど困る事もない。

 

実際薄めた中和剤なら、既にたくさん作ってある。

 

皆につけて貰うための装備品を作るためにも。

 

強力な中和剤は幾らでも必要だからだ。

 

中心殻を作り、更にプラティーンで六芒星を二つ作る。

 

そしてこの六芒星でさっき作ったゼッテルと、中心殻を挟み込み。溶接。

 

そしてプラティーンそのものに、熱したペンで魔法陣を書き込む。魔術の作用範囲について、である。

 

これらの作業は全て分割して行う。

 

例えば適温確保。

 

これは暴走すると、辺りが灼熱地獄になる。

 

使う素材が素材だけに、何度も使用して、実際にどうなるか確認しなければならない。

 

深核と接続すると実験は出来るので。

 

それを何度も繰り返し。

 

適温になるように徹底的に調整する。

 

その結果、適温を作り出す事が出来るまでに失敗を何度も繰り返した。主に中心殻のパワーが強力すぎるために熱量が上がりすぎるのが失敗の原因だった。

 

更にプラティーンによる「蓋」についても実験を丁寧に行い。

 

適当な魔術を書いた普通のゼッテルを組み込んで、作用範囲について何度も実験を行った。

 

その後は防犯システムである。

 

プラティーンそのものが貴重品なので、防犯については必須。

 

ただこれに関しては、さほど気にしなくても良いかも知れない。ただ、念のためにやる必要はある。

 

生物が触った後、十秒以内に特定のワードを唱えないと、アラームがキルシェさんの所に届くようにしてある。

 

更に硬化剤に埋め込む形で、この装置は地面にセットする。

 

プラティーンの硬度は身を以て知っている。馬車が踏んだり、人間が踏んだ程度ではどうにもならない。

 

最悪硬化剤を壊して取り出せば良いが。

 

硬化剤そのものが、ちょっとやそっとでは壊せないので、錬金術師以外には無理だ。

 

問題はプラティーンに刻んだ範囲作用魔法陣だが。

 

これは蓋として使用するプラティーンの「内側」に刻み込む。

 

これによって、多少傷ついたくらいでは装置は誤動作しない。

 

更に安全装置として。

 

もしも熱が上がりすぎた場合は、装置そのものに効果が収束するように調整を行う。

 

こうすることによって、内部の黄金色の葉で作ったゼッテルが熱によりおかしくなって、魔法陣が機能しなくなる。

 

ちょっともったいないが。

 

何しろ環境を改変するほどの道具だ。

 

これくらいの予防措置は必要である。

 

また、わたしは何でもかんでも一発で作れるほど腕は良くないし、頭だってそこまで良くない。

 

だからパーツごとに実験を組み合わせ。

 

組み合わせては実験を行い。

 

それを何度も繰り返して。

 

そしてやっと完成品が出来たのが、五日後だった。

 

キルシェさんに見せに行く。

 

向こうでも、完成品を仕上げていた。黄金色の葉については、わたしがある程度を提供した。

 

早速、自警団員に声を掛け、一緒に街を守っているフィールドから外に出て。

 

地面に置いて効果を確認。

 

街を守っているものほどではないが。

 

雪が降っている中、地面に置かれたそれは、見る間に周囲の雪を溶かしていく。

 

おおと、声が上がった。

 

「簡易版とはいえ流石に絶大な効果だな」

 

「錬金術師殿がた。 これを幾つ作るので?」

 

皮肉混じりにグラシャラボラスさんが言う。

 

キルシェさんが今回のプロジェクトを仕切っているので、彼女から応えた。

 

「20個。 今2個出来たから、後18個。 数珠つなぎに麓へ路を延ばしていく」

 

「なるほど。 吹雪が怖くなくなるのは有り難いが、問題は獣か……」

 

「それについては、わたしがインフラ整備の陣頭指揮を執ります」

 

「……頼むぜフィリスどの」

 

ライゼンベルグへの途上。

 

グラオ・タール周辺で、わたしはキルシェさんとインフラ整備の戦略事業を行った。

 

その時岩山を崩し、谷を埋め、緑化作業を進めていくわたしの姿は、グラシャラボラスさんも見ている。

 

更に、である。

 

心強い助っ人も来てくれる事が分かった。

 

「昨日聞いた話だが、ライゼンベルグ方面で緑化作業を終えたあの植物好きの変わったあんちゃん。 オスカーだっけか。 あの人も来てくれるって話だ」

 

「それは本当ですか?」

 

「ああ。 飛行キットを使って麓に降りて、それで聞いたんだが、二十日後ほどにフルスハイム東に来るって話らしい。 アルファ商会の商人から聞いた話だし、多分嘘ではないだろう」

 

二十日後、か。

 

一度エルトナに戻るとして。

 

その途中までに、分担して十個ずつこの熱発生フィールド装置を作るとしたら、数日余ってしまうか。

 

だが、それでも別にかまわない。

 

あの人ほどのプロフェッショナルが協力してくれれば、これ以上心強いことはない。

 

更に言うと、あの人は個人の武勇も相当に優れている。

 

ネームドとまともに渡り合える程で。

 

多分だが。

 

現状のアングリフさんともかなり良い勝負をするのではないだろうか。或いは更に強いかもしれない。

 

幾つかの打ち合わせをすると。

 

アトリエに戻って、量産作業に入る。

 

ここからが正念場だ。

 

まずは必要数を造り。

 

戦略事業としてのインフラ整備を開始する前に、一度エルトナに行って様子をしっかり確認する。

 

本当はエルトナでずっと作業をしていたいくらいなのだが。

 

わたしの力が求められるのなら応じるし。

 

更に言えば、ソフィー先生が見せた絶望の未来に対抗するためには力もいる。

 

今は必要ないが。

 

いずれパイモンさんやイルちゃんの使っていたアンチエイジングのための道具も使うことになるだろう。

 

ソフィー先生は千年単位の桁外れの年数を口にしていた。

 

意地を張って人間のままでいても。

 

何の意味もない。

 

後続に託して全てが解決すると考えるほど、わたしはもう頭が花畑では無い。エルトナで夢を見ていた頃のわたしとは、もうあらゆる意味で違うのだから。

 

黙々と在庫のプラティーンを加工し。

 

ゼッテルを造り。

 

そしてツヴァイちゃんが黄金色の葉を増やすのを確認。

 

やはり凄まじい消耗をするようで。

 

葉を少し増やすと。

 

それだけでぐったりするようだ。

 

お姉ちゃんがすぐにミルクを渡して、それを飲み干しているが。それでも即座に回復しない様子だ。

 

青ざめたツヴァイちゃんを手慣れた様子でベッドに寝かせるお姉ちゃん。

 

葉は、完璧に複製されていたが。

 

わたしは不安で心臓がばくばく言っている。

 

弱り切っているツヴァイちゃんは、すぐに眠ってしまい。しばらく目覚めなかった。体が貪欲に回復を欲しているからだ。

 

心配になったからか、ケアレスミスが増え。

 

わたしも少し休む事にする。

 

今やっている作業は。

 

ケアレスミスが許されないのだ。

 

しばらく頭を冷やした後。得意な金属加工から、徹底的に進めていく。設計図は何度も手直ししている内に頭に徹底的に叩き込んだ。わたしは頭は良くないが、その代わり反復練習を愚直にやるから、最終的に完成度は上がる。ましてや鉱物はわたしにアドバイスもくれる。

 

鉱物関連に関してはケアレスミスはしない。

 

余程疲れていない限りは。

 

触ると熱を帯びているのが分かるほどの魔力を蓄えたプラティーンだ。或いは、この熱そのものも、放熱の必要があるかも知れない。

 

定期的に水を掛けるように、マニュアルを整備するか。

 

或いは、水冷を常に行えるように、何かしらの工夫がいるかも知れない。

 

そんな事を考えつつ、戻ってきた集中力を駆使して、部品を少しずつ作っていく。

 

そして組み合わせる。

 

錬金術は地味な作業を積み重ねて。最終的に神域の道具を作り出す技なのだ。決してきらきらしていたり、ぴかぴかしていたり、派手な力では無いし万能でもない。

 

無数の汗の先に。

 

完成という結晶があるのだ。

 

ツヴァイちゃんが目を覚まして、お姉ちゃんに怒られていた。

 

やはりかなり無理をしていたのか。

 

本人も、全てをいきなり複製せず、少しずつ慣らすと約束させられていた。

 

ただ、やらなければ覚えるものも覚えない。

 

力だってつかない。

 

そういう事もあって、複製の錬金術を使うな、とまではお姉ちゃんも言わなかった。

 

この辺り、お姉ちゃんも複雑なのだろう。

 

わたしには錬金術をさせているし。

 

それで目がどんどん濁っているのも分かっている筈だ。

 

だがお姉ちゃんにも、なんとなくわたしに引けない理由ができた事も察することが出来ている様子。

 

或いは、ひょっとして。

 

外堀から埋めるようにして。ソフィー先生が、最初からお姉ちゃんには粉を掛けていたのかも知れない。

 

組み合わせた品を、順番に実験して。

 

合格である事を確認しながら、完成品として仕上げていく。

 

やはり一つ出来ると。

 

次からは出来る速度がぐんぐん上がっていく。

 

コツを掴んでいるのだ。

 

それと、ケアレスミスは鉱物が教えてくれるし。

 

それ以外の苦手と自覚している加工手順については、自分でも気を付けるようにしている。

 

錬金釜を洗浄し。

 

一旦乾かす。

 

流石にソフィー先生の用意してくれた錬金釜だ。

 

何度どれだけ過酷に使用しても。

 

まったく揺らぐどころか、傷一つついていない。

 

プラティーンでも、これほど酷使していたら、今頃作り直さなければならないだろうに。

 

五つ完成品を作った所で。

 

ツヴァイちゃんにそろそろだ、と告げられる。

 

頷くと、キルシェさんの所に行って納品。

 

意外な事に、キルシェさんもかなり手間取っていた。

 

「手が足りない」

 

「大丈夫、帰り際にオスカーさんを連れてきます」

 

「それは助かる」

 

「納品分は検査もしてください。 二人で検査をした方が、事故は減ると思います」

 

頷くと、キルシェさんは、自分で作った三つを渡してくる。

 

意外な事に、わたしの方が調合が速かったらしい。

 

時間は常に足りない。すぐに山を下りる。

 

幸い雪山は今日は機嫌が良く。

 

空飛ぶ荷車で、すっと降りる事が出来た。

 

ただ機嫌が良かった分、獣の動きも活発で、こっちをじっと見ていたので。仕掛けられていてもおかしくは無かったが。

 

フルスハイム東に出ると。

 

まだオスカーさんが来ていないことを確認。

 

後は無心で、エルトナに戻り。

 

そして感情を無にして。

 

わたしの足を如何にして引っ張るかしか考えていない長老達と、丁々発止でやりあった。

 

もはや、これに関しては。

 

向こうも引くに引けない様子だ。

 

重役達を集めて会議をすると。

 

必ず文句を言い出す人間がいるし。

 

数に任せて明らかに非論理的な意見を無理矢理通そうとする者が出てくる。

 

わたしという存在の権威を引きずり下ろすために。

 

その政策が正しかろうが間違っていようが関係無く、無理に通そうとする。それは施政が上手く行っていない場合には、よくある事だそうである。

 

アングリフさんにそういう話をされて。

 

わたしはげんなりした。

 

最終的にはわたしが行う戦略事業に遅れが無い事や。

 

生活水準の著しい向上について説明し。

 

それらで黙らせる。

 

もっと豊かな生活をしたいと堂々という愚か者もいるが。

 

そもそも皆が豊かに生活出来ていない時点で、自分だけ富を独占したいという思想そのものが腐っている。

 

わたしが据わりきった目でそれを指摘すると。

 

流石に黙った。

 

ソフィー先生の派遣してくれた人達に後は任せて。

 

フロッケに戻る。

 

周辺で着々と影響力を増しているわたしを、長老達は快く思っていないようだが。もうそれはどうでもいい。

 

今の重役の世代がいなくなった後。

 

エルトナを完全に掌握し。

 

わたしの地盤として整備する。

 

地盤が無ければ、そもそもとして、この世界を腰を据えて変えていく事など出来はしないのだ。

 

そのためには。

 

いや、駄目だ。

 

手を血に染めるのは、最後の最後の手段にしたい。

 

匪賊のように、人間とは言い難い相手なら兎も角。

 

相手はどれだけ性根が腐っているとは言え人間。

 

噴出した闇に翻弄されているだけの、哀れな小さな存在だ。

 

それをひねり潰すのは。

 

やはりわたしとしても、心苦しかった。

 

フルスハイム東で、オスカーさんと合流。

 

事前に自警団と話をつけておいたのだ。

 

オスカーさんは、ライゼンベルグ近辺の緑化作業を、イルちゃんと共同して行っていたらしく。

 

獣が徘徊してとても人が入り込めなかった地域も、安全地帯に作り替えてきたらしい。

 

流石に全てを緑化する、とまでは行かなかったが。

 

それでも相当な範囲を緑化し。

 

ライゼンベルグ東側の街道まで、ある程度整備したそうだ。

 

そして、フロッケの街道整備計画についても、同意してくれた。

 

「あの雪山の植物たち、過酷な状況で大変そうだからなあ。 とはいっても、土地に迷惑を掛けている訳でも無いリッチを殺すのも気が引けるのも事実だ」

 

「土地に迷惑を掛けているリッチもいるんですか?」

 

「ああ。 そういうのはおいらも容赦しねえ」

 

「……」

 

そうだろうな。

 

この人が一番怒るのは、植物を傷つけられたときだろう。

 

そしてこの人は見かけとは裏腹に相当できる。怒ったときには、さぞや周囲に血の雨が降る事だろう。

 

「山を回って、移動したがっている植物はおいらが連れてくるよ。 その植物たちを生やしていけば、多分みんな幸せになれるだろう」

 

「お願いします」

 

「ああ。 それで作業はまだ半分くらいか?」

 

「一度装置を必要数作って、その後は様子を見ながら……ですね」

 

軽く話した後は。

 

空飛ぶ荷車でフロッケまで行く。

 

フルスハイム東からは、ライゼンベルグへ安全に向かえる街道が伸びている。これにフロッケに安全に向かえる街道がつながれば。

 

更に人の行き来は活発になる。

 

そしてフロッケには、近隣でもトップクラスの公認錬金術師がいるのだ。

 

周囲の経済にも、今以上の影響を与え。

 

活性化させるだろう。

 

わたしとしては、それで充分だと思う。

 

問題はフロッケの長老達だが。

 

エルトナの事を思うと。

 

あまり好ましくない状況が来るとしか、思えなかった。

 

 

 

フロッケに到着。

 

キルシェさんとオスカーさんはあまり話した事がなかったが、それでも面識はある。軽く話すだけで、打ち合わせの段取りは決まった。

 

ただオスカーさんは言う。

 

「フロッケに来てみたが、まだ植物たちはあんまり満足していないな。 まだ調合には時間が掛かるんだろう? その間、おいらが周囲の森に手を入れてくるよ」

 

「それは助かる。 でもいいのか?」

 

「かまわないよ。 おいらもこの辺りの植物とは友達になっておきたいし」

 

「そうか。 では頼む」

 

グラシャラボラスさんが、オスカーさんを案内して、アトリエを出て行く。

 

わたしは道中チェックしたキルシェさんの作った分の熱ドーム発生装置を渡し、検査に問題は無かったことを告げた。

 

キルシェさんも、此方の作った分に問題が無かったことを告げてくる。

 

今の時点では、二人ともきちんと出来ている、と言う事だ。

 

「完璧に近い。 私は作業が遅いから、羨ましい」

 

「でも、キルシェさんも完璧でしたよ」

 

「……」

 

どうしたのだろう。

 

ふとキルシェさんが黙り込むが。

 

すぐに沈黙は通り過ぎた。

 

「フィリスがエルトナに行っている間に二つ作った。 でもまだ半分残ってる。 早く残りを仕上げる」

 

「分かりました」

 

ここからが本番だ。

 

必要数を作ったとしても。

 

本当に計画通りにやれるかは分からない、というのが実情なのである。

 

雪を溶かして進んでいけば、道が出来るかどうかはまったく現状では分からない、としかいえない。

 

地元の人間がある程度使っている道はあるが。

 

それも、雪の上を踏んで進んでいるのであって。

 

実際に雪を全部溶かしてみたら、クレバスがあってもおかしくは無いのである。普段よりも、インフラ整備の作業については、かなり時間が掛かると見て良いはず。何より不安なのは、地面もカチカチに凍っていること。

 

凍っている地面を溶かしたら。

 

何が出てくるか、知れたものではないのだ。

 

当然、作業中はリッチとの約束通り照明弾を上げるので。

 

その間は、獣による攻撃も警戒しなければならない。

 

今のアングリフさんを一とするわたしの護衛戦力は、早々負けるような実力ではないし。

 

フロッケの自警団も凄腕揃いだが。

 

それでも、何があるか分からない以上。

 

油断は禁物だ。

 

ドラゴンがいきなり仕掛けてくる可能性もある。

 

縄張りは把握しているし、刺激は出来るだけしないようにはするが。

 

それでも彼奴らは。

 

人間を殺すためだけに存在している生きた兵器だ。

 

油断だけは、絶対にしてはいけない相手である。

 

調合に集中し。

 

数日で残り分の装置を作り上げる。

 

後はキルシェさんと交換して、互いに出来を確認。チェックを念入りに行い、ミスがない丁寧なキルシェさんの仕事に感心した。

 

仕事が遅いとは自己申告していたが。

 

それでもキルシェさんも慣れてきているからか。

 

最終的には同じくらいの速度で仕上げていた。

 

勿論、だからといってわたしの腕がキルシェさんと並んだと思うほど、頭は花畑ではない。

 

まだまだ未熟。

 

わたしは更に力をつけていかなければならない。

 

今後の事を考えても。

 

そして、長老達を集めて。

 

インフラ整備の話をする。ここからが正念場である事を、わたしは悟っていた。

 

前はパイモンさんが長老を一喝してくれたが。

 

今回も同じように行くかは分からない。

 

フロッケの、錬金術師と「民」の溝は。

 

エルトナのそれと同じく。

 

広く、そして深いのだ。

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