暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
安全に麓、更にライゼンベルグとフロッケを結ぶ戦略的インフラ作業に取りかかります。
極めて困難な作業ですが、今のフィリスであれば……
序、雪山を穿つ
装置を起動。
熱フィールドが展開。みるみる雪が溶け始める。
自警団の戦士達が、おおと感心の声を上げていた。ヒト族より獣人族が多い自警団だが。それ故に相対的な戦闘力も高い。
まず、地面がしっかりぬかるむまで溶けるまで待ち。
それを掘り返す。
やはり鉱物の声を聞く限り、かなり土の下に眠っている獣がいる様子だ。眠っている間に死んでしまった獣も多いようで、死体がそれなりに出てくる。
指定の範囲まで掘り進め。
そして、泥になっている土を、一旦フロッケの側に積み上げる。
ここからが本番だ。
土から水分を取り除く。
これに関しては、既にわたしが準備を終えていた。
特に大した事をするわけでもない。
錬金術の道具類。
更にはそれで増幅された熱の魔術。それを用いるだけ。
要するにわたしが作った道具を身につけたフロッケ在住の熱使いの魔術師が、せっせと土を熱して、水分を飛ばしていき。ある程度水分が飛んだところで、元の場所に戻す。
かなり空気を吸っているから、膨らんでいる地面に栄養剤を入れ。
硬化剤で道になる部分を造り。
その下に熱フィールド発生装置を埋め込む。
これについては、壊れた場合のメンテナンスを行えるように、硬化剤に模様を刻み、装置の位置を特定出来るようにしておく。
特定したところで、普通の人間にはこの強力な硬化剤は壊しようがないので、問題は無い。
錬金術師でもなければ、ブチ抜けないほど強固なのだ。
その後は、まずはオスカーさんの指示に従って、周囲の緑化作業を進め。いつものように、雑草から植えていく。
ただ、ここからが違う。
オスカーさんが山中を回って、集めて来た植物たち。
それらを中心に、最終的に植えていくことになる。
流石は専門家。
互いに喧嘩しない植物を選んで植えてくれるらしく。その辺りは全て任せてしまって良さそうだ。
方角を方位磁針で念入りに確認し。
測量しながら、少しずつ作業を進めていくが。
基本的に難しい作業は午前中だけにする。
理由はリッチとの約束があるから。
契約通り、リッチは午後から吹雪かせ始める。熱フィールドは吹雪を耐え抜くが、雨は降る。
雨の中作業をすると、やはり体力の消耗もあるので。
此方としても、難しい作業をさせるわけには行かなかった。
一日で、装置二つ分の道を進め。
更に山裾に向けて、路を延ばしていく。
そしてわたしはアトリエから石材を取りだし。それを地面が固まった道の両脇に城壁として建てていく。
この作業に関しては、飛行キットを場合によっては石材に用い。
基礎となる重い石材はそれで輸送し。
しっかり固定してから、城壁を硬化剤でガチガチに固め。
更にプラティーンで要所を補強した。
石材だけだと、雪崩が発生した場合耐えられないのだが。
プラティーンを用いれば、重要な部分での守りは充分。更にプラティーンに魔法陣を書き込むことによって、城壁の強度そのものを十数倍に強化する。
これが、錬金術で出来る出力強化。
魔術師では超えられない壁だ。
流石にドラゴンのブレスを浴びて耐え抜けるかは分からないが。
この城壁の外側にも植物を植えることで、ドラゴンの攻撃を躊躇わせる。
ドラゴンは人間を殺すことには特化していても。
環境を破壊する事に関しては積極的では無い。
故にその性質を利用し。
緑化を二重に活用して。道の外側と城壁の外側に緑化地帯を造り、獣とドラゴン、更に雪崩からもこの道を守るのだ。
勿論道の作成コストは尋常ではなく。
作業そのものも、今までに行って来た戦略事業に比べると、かなり進展が遅い。
だがそれでも、確実に作業は進んでいる。
わたしも伊達に散々今まで力尽くで道をぶち抜いて来ているわけではないのだ。
途中で案の定仕掛けてくる獣もいるが。
既にハルモニウム製の装備で身を固めているみんなの敵ではない。
少なくともこの辺りの獣は。
どうにでもなる。
禁忌の森の獣くらいのが出てくると、かなり危険なのだけれど。この山は、彼処までの魔境では無かった。
作業を進めていき。
城壁を固め。
緑化作業でまず草を焼き。
オスカーさんの指示通り、山に生えていた植物を移植していく。その際、オスカーさんがかなり細かく注文をつけるので、自警団の人達もかなり困っていたが。しかしオスカーさんの働きぶりについては知っているので、文句も言えない様子だった。
それで良いのだろう。
少しずつ、確実に作業を進めていく。
この道が麓に二筋つながったとき。
フロッケは孤立集落ではなくなる。
優れた公認錬金術師がいる山の街であり。
その技術による特産品も買い付ける事が出来る。勿論拡張性も生じるから、人も移り住んでいく。
吹雪く山の中だから、少し危ないかも知れないが。
不足している資源は現時点では存在しないし。
オスカーさんが山中から集めて来た植物の中には、なんととても珍しいリンゴや、美味しい実をつける木もあるそうで。
それらは今後、オスカーさんが定期的に様子を見に来て。
しっかり世話をしてくれるという。
新しい特産品になるのは。
ほぼ間違いない、ということだった。
味が良いと言うだけではなく、寒冷地で育つ事を前提としているリンゴらしく。
強い魔力で木としての身を守っているそうで。
当然のことながら、実も魔力をふんだんに含んでおり。
素材としても非常に有用だそうだ。
ギフテッド持ちは有利だ。オスカーさんも、そういう意味ではとても世界のためになる。
そして今、フロッケにはギフテッドもちのオスカーさんとわたし。神童であるキルシェさんもいる。
事業の成功率は高い。
ただ、問題はある。問題というか最大懸念事項だが。
やはり緑化が途上の状態で、ドラゴンによる襲撃が起きた場合が一番危ない。
一体だったらどうにでもなるが。
複数体が同時に来たら、どうしようもない。
その時は、兎に角各個撃破するしか無いのだが。それでも多くの犠牲が出ることだろう。
イルちゃんとパイモンさんがいればあるいは、とも思ったが。
今更作業に参加して貰う訳にもいかないだろう。しかも、ドラゴンはずっと丸まっていて、こっちに興味を示す様子も無い。
そんな状態で、保険を掛けておく意味もあまりない。
さっさと作業を終わらせ。
ドラゴンも必要ないなら刺激しない。
それでまったくかまわないのだから。
そうするだけだ。
「地盤が緩いぞ、気を付けろ!」
「おう!」
「排水はどうする?」
「下流に流すしかないな。 後で熱ドームを拡大したとき、まとめて掻き出すしかねえ」
声が飛び交っているが。
実際足下は緩く。
屈強な獣人族の戦士達でも、土木作業に四苦八苦しているのがわかる。
わたしも崩すのはさほど苦労していないのだけれど。
汚れるのは避けられなかった。
最前線で働くのが、わたしはどうしても性にあっている。
一旦必要な分まで掘り返すが。
その間に荷車を何度も行き来させ。
泥だらけになり。
更には土を埋め直しては適切に乾燥させ。緑化作業を順番に行っていく。
その際、木を直接持ってくるオスカーさんが、色々と注文をつけるので。アングリフさんがいちいち自警団と折衝しなければならなかった。
大変だが。
それでもこの雪山を、自在に通れるようになると思えば楽なものだ。
泥だらけになりながらも、少しずつ街道を作り上げていく。
地盤がユルユルで不安になる箇所は、石材などで補っていく。
いくらでも石材ならありあまっているのだ。
途中でクレバスにぶつかる事もあり。
その場合は、鉱石を取り終えた岩の破片などを、どんどん流し込んで、無力化していく。
泥の適切な乾燥は、後方で魔術師が行い、管理はキルシェさんがやってくれているので。
わたしは最前線で泥まみれになって働けば良い。
黙々と作業を続け。
三つ目の熱フィールドを設置。
四つ目を設置した頃には。
最初の作業地点では、草が生え始め。
それを焼いて肥料にし。
オスカーさんが持ち込んだ木を植え込み。更に、低木の苗を植える作業を、着々と進めつつ。
わたしが提供した錬金術の装備を身につけた自警団員達が、わたしの指示した通りに石材を積み。
雪崩を防ぐための壁も作り始めていた。
わたしは最前線で泥を掘り返しつつ。
時々とって返しては、壁を錬金術で補強。
また、壁の積み方がまずい場合は。
直接指示し。
自分でも動いて、作業を的確に進めていった。
この手の戦略作業は、散々やってきた事もある。此処まで前提条件が悪い作業は初めてだが。
それでも、経験が全く無いというわけでもない。
今回の作業は、獣がそれほど襲いかかってこないという意味で、比較的マシだし。
何より、ノウハウがあるので、其処まで状況も厳しくない。
城壁の強化に関しても、わたしは散々ノウハウを積み重ねているので。これに関しても大して苦労はしない。
問題はプラティーン鉱石を大量に消耗することだが。
これに関しては、元々手が空いたときに散々プラティーンを生産してきたこともあるし。
何よりライゼンベルグへの道を作るときに。
原石は嫌と言うほど入手した。
コンテナにはまだまだ唸るほど入っているし。
ツヴァイちゃんの話によると、この道を七~八倍延長したところで、鉱石が足りなくなる事は無いそうだ。
午前中に計画的に作業を進め。
午後には戻ってアトリエに入り。
まずは体を綺麗にしてから、調合。
プラティーンのインゴット作成にしても、石材の加工にしても、勉強にしても。それこそやる事などいくらでもある。
順番にチャートに従ってタスクを処理していく事に関しても。
カルドさんが組んでくれるので。
それに沿って作業をしていけば良い。
また空飛ぶ荷車のおかげで。
ぬかるんだ泥を、足下が緩い中で輸送することも苦労する事は殆ど無く。
勿論事故になることもまずなかった。
それに、コンテナがどれだけ底なしに資源を飲み込むとは言え。
石材や砂などは、流石に使えるときには使って、在庫を適当に整理しておきたい、という本音もある。
料理はお姉ちゃんとカルドさんに任せるが。
アングリフさんは作業を一旦停止する午後も現場を視察に行き。
自警団の人達と、額をつきあわせて話し合いをしていた。
重要な話になると、わたしとキルシェさんも呼ばれる。
多くの場合、守りがまだ甘い場所をどうするか、という件で。
実際問題、作業中に強力な獣に襲われた場合、被害が尋常では無くなる、というのが理由だ。
見張り櫓を幾つか作るにしても。
雪で視界が最悪。
そこで、何か工夫をして欲しいと、アングリフさんに言われる。
「魔術で補助をするにしても、遠距離からの攻撃なんかに耐え抜くのは厳しいからな」
「見張り櫓をプラティーンで固めるのは」
「泥棒が出るかもしれねえぞ」
「見かけ上はプラティーンを露出させない方向で。 後、ガチガチに硬化剤で固めてしまいます」
ふむ、とアングリフさんは頷く。
防御はそれで良い、と言う事なのだろう。
そうなると攻めの方だ。
「後は視界の確保だな。 猛吹雪が続くことを前提として、獣の接近を察知し、更に迎撃する手段がいる」
「ブリッツコアを提供します」
「ブリッツコアか」
「はい。 試作段階でたくさん作りましたので、街道に近寄ってくる獣がいるようなら警告で雷をドカンと行くようにします。 ただ問題は雪の中にいる獣をどう察知するか、ですが……」
ちょっと考えた後。
キルシェさんに相談しに行く事にする。
キルシェさんが戦闘で使っている拡張肉体。
あれは恐らく、敵の位置を自動で察知して動いている。
その技術を使わせて貰えるのなら。
すぐに席を立つと、キルシェさんの所に。
其方は其方で大変そうで。運び込まれた大量の泥を、魔術師が乾かし。キルシェさんが、排水の補助をしていた。
自動荷車を用いて、水を熱フィールドの外に捨てに行っているのだが。
これが水を自動でくみ上げる装置を使っていて。
全自動化されている。
ただ。時々監視をしなければならない様子で。
キルシェさんが、機械の様子を時々見に来ている。
其処で、軽く話す。
そもそも、壁の外側も緑化するので、作業中の処置で良いと言う話では一致しているのだが。
キルシェさんも、こう視界が遮られた状態で作業をするのは危険だと感じていたらしく。
幾つかの案を出してくれた。
「どの道吹雪の中から匪賊が襲撃してくる可能性も考慮しなければならなかった。 それに話はついたとしても、リッチも完全には信頼出来ない」
「何か妙案はありますか?」
「……あるにはある」
拡張肉体を展開するキルシェさん。
球体が六つ。
相互補助をしながら、攻防共にこなす便利な品だ。
「これの簡易版を、常時見張り櫓の上空に展開する。 拡張肉体は相手を魔力と生命力で総合判断している」
「敵意有りと判断したら、ブリッツコアで一撃、と連携できますか?」
「出来る。 ただちょっと難しい」
レシピを見せてくれたので。
せっかくなので買い取る。
拡張肉体の技術はまだまだだし。
いずれ使いこなせるようになりたい。
それならば、今覚えてしまう方が良いだろう。
アトリエに戻り。
アングリフさんに説明。
そして、早速レシピを読み始めるが、尋常ではなく難しい。
ようやく理解出来る、というレベルだ。やはりまだまだ、キルシェさんはわたしより高みにいると判断して良い。
「どうにかなりそうか?」
「何とかしてみます」
いずれにしても、獣も雪の中で視界が利かない状況なのだ。
襲撃をしてくる場合は、余程特殊な獣か。
或いはドラゴンなどの規格外だろう。
むしろ約束通りまめに晴れさせているリッチによって。
視界が晴れている、午前中の方が獣が来るケースが多い。
それを考慮すると、其処まで神経質になる事も無いかも知れないけれど。いずれにしても、手は打たなければならない。
カルドさんに言って、タスクを増やして貰う。
作業はどれだけやっても、やってみないと分からない点が出てくる。
常に完璧に予定通りにはいかない。
そういうものなのだ。
だから、その辺りはある程度諦めて、タスクが増えるのも計算して作業をしていかなければならない。
それが多数の戦略事業に関わってきた、わたしの結論だ。
黙々と作業を続け。
五つ目の熱フィールドを設置。
二十の装置の内五つ目だが、まだまだ総合的に作業を見ると二割も進んでいない。
土木作業を続け。
疫病などが発生したり。地下にいる獣の奇襲を受けないように気を付けながら。順番にタスクを処理していく。
自警団の戦士達の疲弊にも目を配る。
疲れていると、とんでも無い失敗をすることがあるのは、誰だって同じ事。
戦闘慣れしているフロッケの戦士達だって、それに代わりは無いだろう。ましてや今回の作業は、色々な意味で人夫を入れられない。
またわたしも、堅い鉱山を文字通り崩すのは苦手ではないのだけれど。
柔らかい泥土を他の人の何十倍、というスピードで掘り崩すのは、そんなに楽じゃあない。
何処を崩せば簡単にいくか、というのは分かるけれども。
泥水は、それ自体が処理も大変だし。
何よりこの辺りは、ずっと雪が降っていたこともあって、土もかなりひねくれた性質をしている。
声が聞き取りにくい。
掘り出すのも、いちいち一苦労だった。
額を拭うと、それだけで顔が泥だらけになる。
お姉ちゃんが警告の声を上げ。
ドロッセルさんが即応。斧を投擲して、此方に全力疾走してきていた大型の猪の頭に突き刺す。
流石にハルモニウム製の刃。
斧は猪の頭を割るどころか、胴体にまで食い込む。
すっころんだ猪は、その場で倒れて。戦士達が、此方に引きずって来て、捌き始めた。
さあ、作業作業。わたしは、猪の処理は皆に任せて。ひたすらにつるはしを振るい続けた。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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