暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、泥との戦い

フロッケがかなり遠くに見えるようになってきた。

 

元々空を飛んで行き来していた雪原だ。

 

実際に足で歩いてみると。それが如何に過酷なのかもよく分かる。

 

昔、公認錬金術師がいなかった時代は。フロッケは、姥捨てまでしていたそうだが。

 

この寒い中で力尽きていった人達は、さぞや辛かった事だろう。

 

わたしは泥を掘り返しながら、ふと気付く。

 

泥土に警告を受けたのだ。

 

「全員下がって!」

 

「お、おうっ!」

 

働いていた自警団員達が、脱兎で下がる。わたしのギフテッドについては、皆見て知っているのだ。

 

だからこそに、その警告は強い意味を持っている。

 

一瞬置いて、どっと泥土が崩落を開始し、わたしがいた辺りを派手に埋めてしまった。

 

少し退避するのが遅れたら、大変な事になる所だった。

 

元々この辺りは地盤が極めて緩かったらしく。

 

其処に熱フィールドが持ち込まれたものだから、泥土化した地盤が一気に崩れた。それが今の事故の要因らしい。

 

わたしは何とか難を逃れたが。

 

鉱物が警告してくれている。

 

まだ崩れる、と。

 

充分に距離を取ると。

 

わたしは固唾を飲んで見守っている自警団員達を、もっと下がらせた。

 

「リア姉、ちょっと刺激をあの辺りに与えてくれる?」

 

「矢を撃ち込めば良いのかしら?」

 

「うん。 良い鏃を使わなくていいから」

 

「分かったわ」

 

既に地盤がしっかりしている所で踏ん張ると。

 

お姉ちゃんはぎりぎりと愛用の弓を引き絞り。

 

「矢を当ててから」「放つ」。

 

弓の技量が上がってくると、矢を放ったときには既に当たっているらしいが。お姉ちゃんも散々化け物レベルの敵と戦い続けたのである。既にその技量には到達しており。それどころか、特に意識しなくても当てることが出来る様子だ。

 

しかも、今の火力であれば、千歩ほど先の敵の額や目(勿論移動している相手)に直撃させることも出来ると言う。

 

いずれわたしもそれくらいの自衛力を身につけたい所だけれど。

 

わたしは、武勇にはやはりそれほど自信は無い。

 

いずれ自衛できる武勇を身につけたい所だけれど。

 

流石にそれはまだまだ先だろう。

 

ともあれ、今のお姉ちゃんの射撃で、更に激しく泥土が崩れ。

 

どっと今まで掘っていた場所を埋めてしまった。

 

「やれやれ、掘り直しか……」

 

「……」

 

「錬金術師どの?」

 

「いや、もう少し待ってください」

 

まだだ。もう一段階変化が起きる。

 

その予想は当たる。

 

鉱物というか、泥土が教えてくれたからだ。

 

どっと、陥没する泥土を見て、自警団の戦士達がおののきの声を上げた。

 

クレバスになっていた場所に、泥土がバランスを崩して流れ込んだのだ。泥水も、凄まじい勢いで流れ込んでいく。

 

これは、危ない。

 

頷くと、わたしは。

 

空飛ぶ荷車で慎重に近くまで行き、何度かつるはしを振るって、更に崩れるところは崩す。

 

今日のタスクは大幅に遅れるが。

 

人命には変えられない。

 

元々泥まみれの場所なのだ。こういう事態が起きることは、最初から想定していたし。それによる被害を防ぐためにわたしがいる。

 

安定するように、崩せるところは徹底的に崩してしまい。

 

更にアトリエから砂や石材を取り出すと。

 

どんどん必要な箇所に放り込んでいく。

 

雪が降り始め、吹雪になる。熱フィールドの中では雨が降り始めるが。

 

これ以上地盤が状態をこじらせると厄介だ。今日に関しては、このまま作業を継続する。

 

空飛ぶ荷車を複数だし、石材を持ってきて貰っては、わたしが直接投げ入れる。

 

本来は持ち上げることも難しい重さだけれど。

 

改良に改良を重ねている錬金術の装備類のおかげで、身体能力が極限まで上がっているから、持ち上げるのは難しくないし。難しい場合はドロッセルさんに手伝って貰う。

 

雪が降り始めたからか、獣の襲撃は止んだが。

 

その代わり、雨が体力を容赦なく奪っていく。

 

一段落した所で、即時撤退をアングリフさんが指示。

 

わたしも素直にそれに従った。

 

アトリエに戻る。

 

働いていた戦士達も、わいわいと戻っていく。

 

予想以上にトラブルが多いが。しかしながら、作業開始前から分かっていたことだ。作った道は、しっかり守りを固めれば良いのであって。その守りを維持していけば、やがて結果を伴ってくれるはず。

 

そう信じる。

 

わたしに鉱物は嘘をついたことがない。

 

オスカーさんの話によると、植物に嘘をつかれたことはあるらしいのだけれども。

 

それは相手に悪意がある場合。

 

鉱物には悪意も何も無いので。

 

多分その辺りは、心配しなくても良い筈だ。

 

わたしは嘆息すると。

 

体を綺麗にして、手を洗い。その後は、ヒト族用の栄養剤を飲む。

 

これは雨を浴びて体力を消耗したからで。風邪などを引くと厄介だからだ。

 

この栄養剤は兎に角まずいのだが。

 

それでもしっかり飲んでおかないと、体を壊す恐れがある。

 

食事はレヴィさんが用意してくれたので、有り難くいただく。その時、不意にレヴィさんが話を切り出した。

 

「前に鍵を修復して貰った事があっただろう、フィリスよ」

 

「あ、はい。 覚えてます」

 

「実はな、あの鍵が封じているいにしえの宝がどうも分かったようなのだ」

 

「本当ですか?」

 

大仰にレヴィさんが頷く。

 

黒マフラーに黒い剣(どっちも作ったのはわたしだが)。

 

美学で身を固めたレヴィさんは、やはり何というか、大げさに喋る。

 

「いにしえの宝こそ我が求めるもの! やはり手に入れたい!」

 

「どこにあるんですか?」

 

「うむ、それがな。 実はこの古文書によると……」

 

見せてくれるのは。

 

いかにも胡散臭い古文書だ。

 

ただし、見聞院から借りてきたものを、レヴィさんが自分の美学で写し取り、それっぽく作り上げたものだと説明される。

 

つまりレヴィさん。

 

古文書っぽいメモを自作したのだ。

 

そしてそれを自分で古文書と言い張っているのである。

 

流石にカルドさんが目の色を変えたが、抑えてとわたしが視線で告げる。

 

カルドさんのような人にしてみれば、レヴィさんの所行は、許されざる蛮行なのだろうから。

 

「ライゼンベルグの北、世界樹と呼ばれる木あり。 其処に創造の乙女眠り、宝を保持す」

 

「聞いた事がありますね。 ただ彼処は、閉鎖的なコミュニティを作っている獣人族が、他の種族の侵入を防いでいるそうですよ」

 

「うむ。 其処で交渉して、宝を開けに行きたいのだ」

 

「交渉って、ムチャクチャな……」

 

そもそも、四種族が力を合わせて生きているのがこの世界だ。

 

そんな状況で、獣人族だけでコミュニティを作っている、というだけでそもそも色々と問題がありすぎるし。

 

何よりもどうしてあの鍵が。

 

そも宝に一致すると。

 

説明を順番に聞いていくと。

 

あの鍵は、そもそもその創造の乙女の文様を刻んでいるらしく。

 

更に言うと、宝そのものは、別に珍しくもないらしいのだ。

 

創造の乙女と言えば、確か教会で信仰している神様で。邪神では無いとされている、珍しい信仰対象の筈。場所によっては創世の乙女とも呼ぶらしいが、まあそれはどうでもいい。

 

色々と前提からしてそもそも無茶苦茶だ。

 

わたしは頭を抱えたくなるが。

 

ともあれ、レヴィさんは試してみたいらしい。

 

ただ。世界樹の話は聞いたことがあるし。

 

その麓には貴重な素材が山のようにあるという話もまた聞いている。

 

それならば、一度交渉を持って、麓に行ってみたいという欲求も確かにあるのも事実だ。

 

レヴィさんは無茶苦茶を言っているが。

 

だが、それは仕方が無い無茶苦茶でもあるだろう。

 

「分かりました、機会があれば」

 

「うむ……」

 

レヴィさんの料理は美味しい。

 

それに今まで色々と守りという点で、戦力の主軸を担ってくれた。

 

かなり危険な場所のようだが。

 

しかしながら、行ってみる価値はあるかも知れない。

 

それに、だ。

 

そもそも装甲船の改造と、それに関する試運転を試したいとも思っていた。

 

空を飛ぶだけではなく。

 

彼方此方に高速で飛んでいくことが出来る。

 

もしそうなれば。

 

わたしは錬金術師として、最高ランクの足を持てる事になる。

 

勿論空を舞う獣に襲われる頻度も増えるかも知れないが。

 

それは逐一迎撃して行けば良いだけの事だ。

 

ともあれ一休み。

 

幸い風邪は引かなかったが。

 

翌朝、ツヴァイちゃんから報告を受ける。

 

「お姉ちゃん。 石材を見境無しに運び出した結果、ちょっと在庫の再確認が必要になっているのです」

 

「ごめん、頼める?」

 

「いえ、それは問題はないのです。 ただ、問題が発生しました。 あまり石材に価値が無いのは分かっているのですが、今まで無造作に積み上げていた石材が、かなり無茶な配置になっていて……」

 

言われたまま、様子を見に行く。

 

なるほど、几帳面なツヴァイちゃんはこれでは腹を立てるかも知れない。

 

文字通り山を幾つも飲み込んだコンテナだ。

 

その奥行きの果てには、大量の棚と、膨大な物資があるが。

 

石材は、それこそ十把一絡げで、棚に突っ込まれている。

 

それを見境無く取り出した結果。

 

歯っ欠けだらけになっていて、非常に見栄えが良くない。

 

勿論見栄えだけでは無い。管理という観点からも、これは確かに非常によろしくないだろう。

 

そういえば、このコンテナの中。

 

今更だが、もの凄くひんやりしている。

 

肉が痛まない訳だ。

 

何というか、何か違うと言うか。肌でびりびりと、感じるのである。

 

棚に色々細工がされているのは知っているが。

 

それ以前に、何かもっととんでもない仕掛けがしてあるのでは無いのか。そう思えても来る。

 

「これから、石材を取り出すときは、私が管理して良いです?」

 

「ごめんね。 お願いするよ」

 

「分かりましたのです」

 

数字の管理に関しては、ツヴァイちゃんはそれこそ本職中の本職だ。全てを任せてしまうのが何もかも無難と言えるだろう。

 

作業に戻る。

 

昨日の惨劇の後は、だいぶ状態が落ち着いていたが。雨水も溜まっているし、うんざりした様子の自警団達が、どうしたものかと立ち尽くしていた。

 

わたしはスポンジを取り出すと、まずは水を吸い出す所から開始。

 

更に、まだ崩れる可能性がある箇所を、全て処置してしまう。

 

丸二日こうして作業予定が遅れたが。

 

人が命を落とすことに比べたら、何でも無い。

 

作業は粛々と続いた。

 

 

 

Y字路を作る予定の地点まで作業を進めた時点で、わたしは一度エルトナに戻る。

 

面倒な事に、エルトナを放置はしておけないのである。

 

その間、二日ほど作業の進展を中止して、緑化作業に専念して貰う。

 

専門家であるオスカーさんも、流石に此処まで条件が特殊だと、色々と大変な様子で。時々わたしの所に、あれが足りないこれが足りないと、かなり難しい栄養剤を要求してきた。

 

レシピも貰ったので作ったが。

 

それだけで相当な時間をロスしたし。

 

今までに無い栄養剤だったので、相当に苦労もした。

 

ともあれ、現地はオスカーさんとフロッケ村の戦士達に任せ、エルトナに。

 

エルトナで素早く作業を終わらせると。

 

白眼視してきている長老と重役達に、フロッケ村での作業の進捗について話をしておく。長老は昔の素朴な人柄を捨て去ったかのように、冷徹かつ皮肉混じりに言うのだった。

 

「そんな遠くの雪山で働いて何の意味があるのかね?」

 

「フロッケは多くの特産品を抱え、神童とまで呼ばれる近隣屈指の公認錬金術師がいる場所です。 そんな公認錬金術師でも出来なかった麓への安全経路の確立。 これを成功させれば、その意義は非常に大きい。 エルトナの名は上がり、ますます発展するでしょうね。 ……わたしがエルトナにいればですが」

 

「……」

 

「戦略的な事業は、短期的には効果が見えにくいものです。 大人である貴方たちなら、分かっている筈です」

 

そうわたしがきっぱり切り捨てると。

 

後の反論は無かった。

 

何というか、非常に虚しいが。

 

だが、それでもこうやって、毎回論破していかなければならないのは大変に面倒くさい。

 

如何にソフィー先生の派遣してくれた人達や、ティアナちゃんが見張ってくれているとは言え。

 

それでも、足下が崩されるのは、油断したときだ。

 

わたしも分かっている。

 

あの泥土の道のように。

 

油断すると、あっという間に足下は崩れてしまう。

 

そして地盤を失ったら。

 

何処か別の地盤を作るまで。

 

相応の苦労をしなければならないだろう。

 

エルトナに来ているアルファ商会のイプシロンさんに、鉱石を売る。エルトナの水晶は兎に角高品質と言う事で、予想以上のお金で買い取ってくれる。

 

そしてそのお金は、戦略事業に全て充てる。

 

わたしの懐に何て入れないし。

 

重役達に甘い汁なんて吸わせない。

 

貧富の格差は小さく。

 

貧しい人も相応に余裕を持って暮らす事が出来る。

 

それが集落の安定を保つコツなのだと。

 

わたしは色々な場所を見てもう知っている。

 

ならばホームレスになるような人を出さず。困っている人は助かり。努力すれば報われ。そして理不尽が横行しないようにすればいい。

 

少なくともわたしがそう心がけている限りエルトナは理不尽の好き勝手にはさせない。

 

必要作業を済ませると。

 

すぐにフロッケに飛んで戻る。

 

作られている城壁を確認。

 

何カ所か問題があったので、わたしが直接手を入れる。硬化剤も使うし、プラティーンで補強もする。石材を削って積み直し。更に問題がある場合は一度壊して石材をはめ込み直しもした。

 

耐久テストもしていく。

 

ドロッセルさんのパワーは、多分今やアングリフさん以上だが。

 

彼女に思いっきり城壁をぶん殴って貰う。

 

獣の首をへし折る彼女のパワーで、城壁は吹き飛ばない。むしろ、ドロッセルさんが痛がる。

 

それを見せると。

 

自警団の人達は、拍手した。

 

「これなら、ドラゴン以外の相手なら、文字通り蹴散らせるな」

 

「緑化が進めば、ドラゴンに襲われる怖れも無くなる」

 

頷く。

 

それで皆が幸せになれるのなら。

 

それはとても良い事なのだと、わたしは思う。

 

更に作業を続け。

 

まずは、フルスハイム東に続く道を作り上げるべく、順番に泥土を取り除いていく。

 

やはり坂になっている、というのもあり。

 

作業は非常に問題が噴出しやすい。

 

十四個目の熱フィールドを設置して、すぐにわたしはそれに気付いた。

 

水脈が通っている。

 

困ったことに、かなり地面の下近く。これは、下手な事をすると、大変な事になるかも知れない。

 

キルシェさんを呼ぶ。

 

熱フィールドの位置をずらすか検討をするが。

 

しかしながら、此処からずらすとなると、貴重な素材を使う熱フィールドを、更に複数作らなければならない。

 

素材が足りるかどうか。

 

更に言うと、どの道水脈が横断しているのなら。

 

何処を掘っても同じになるだろう。

 

やむを得ない。

 

実際、熱フィールドを展開後。

 

雪を溶かしてみると、この辺りは川になっている。これを埋め立てるのは、少しばかり問題だろう。

 

そして恐らく、本来は雪が溶けたときにだけ姿を見せるだろう小魚が。

 

姿を見せて、ちろちろと泳いでいる。

 

「橋作る」

 

「それしかなさそうですね」

 

意見は即座に一致したが。

 

これからが大変だ。

 

まず石材を用意し。

 

グラビ結晶を仕込む。

 

また石材は、装甲としてプラティーンで固め。

 

水源をまたぐようにして、設置する。

 

グラビ結晶で浮くようにしているので、橋としてはとても軽いのだが。問題は水源の両端の地盤が極めて緩いことである。

 

更に言うと、橋だけ無防備になると非常に危険。

 

橋の上にも土を盛り。

 

其処を緑化して、周囲からの攻撃を防ぐ必要がある。

 

城壁も作りたいが、流石に橋の上に作るのは構造的に厳しい。其処でオスカーさんに来て貰い、アドバイスを受ける。

 

少し考えた後。

 

オスカーさんは、幾つか条件をつけた上で、植物の提供を申し出てくれた。

 

「すごくデリケートな子達なんだ。 おいらが時々見に来て手入れするけれど、それでいいなら」

 

「そんな事でいいなら大歓迎」

 

「此方からもお願いします」

 

「そうか、じゃあちょっと注文が色々多いが、全てクリアしてくれよ」

 

まず土からして、普通のものでは駄目だと言われたので、準備する。これについては、先達の錬金術師がレシピを作っていて。

 

前に案内して貰ったオスカーさんの持っている異空間内にも。

 

その土で満たされた空間があると言う。

 

更に温度。

 

今の熱フィールドを、少し弱める必要があるという。

 

つまり現状では暑すぎるのだ。

 

仕方が無い。

 

それについては、此方で何とかするしかない。

 

キルシェさんが作ってくれるそうなので、任せる。わたしは代わりに、土の方をどうにかする。

 

レシピは非常に複雑で。

 

ただの土とはとても思えない程だったけれど。そもそも極めて限定された条件でしか育たない木らしく。これだけ貴重な木だと、獣も攻撃を即座に躊躇うほどのものだという。

 

ならば、城壁は必要ないか。

 

まず橋を設置。

 

これも地盤から工夫しなければならなかったので、えらい大変だった。周囲に石材を埋め込んで基礎にし。

 

更にその上に土を盛って緑化できるようにし。

 

石材そのものも安定性を極限まで高めなければならないため、杭を作ってそれを地面深くに撃ち込み。

 

それを基軸にして石材を安定させた。

 

いずれにしても、今回の作業中、最も大変だったかも知れない。

 

皆の体力の消耗が尋常ではなく。

 

自警団の戦士達も、此処までする意味があるのだろうかと小首をかしげてはいたが。

 

しかしながら、橋から釣りが出来る事。

 

更に、フルスハイム東から入手した魚が高くついていたこと。

 

此処にしかいない珍しい魚がいる事、などを知ると。

 

それぞれ納得してくれた。

 

後は雪崩対策だが。

 

これに関しては、この橋を雪崩から守るように、城壁を熱フィールドの外側に設置することで対応する。

 

午前中は雪も降らないのだ。

 

その間に、さっさと作業を行い。

 

此方を伺っている獣を時々排除しながら、てきぱきと進めてしまえばそれで良い。

 

熱フィールド発生装置がキルシェさんの所から上がって来たので。

 

橋を仕上げつつ城壁も作っておく。

 

城壁は見る間に雪に埋もれていくが。

 

雪崩を防ぎ切れればそれで良いのである。

 

雪崩が起きる場合の、此方に向かうケース。方向、威力、それらをツヴァイちゃんが計算し。

 

最悪の状況でも耐えられる強度に仕上げてある。

 

ならば問題なし。

 

最難関の土木工事が終わり、冷や汗も流れきる。

 

後は、これ以上の難所は恐らくはないと見て良いだろう。

 

見ると、川になった水源には、かなり大きな魚も泳いでいる。主とでも言うべきなのだろうか。

 

取り尽くさないように、注意はしなければならないが。

 

泥に半ば埋もれながら生きているような不思議な魚だ。多分、余程の事が無い限りは、平気だろう。

 

次の場所に移る。

 

もう少しで、フルスハイム東への街道が通じる。

 

その後は、ライゼンベルグ北への街道も通じさせ。

 

フロッケは孤立集落ではなくなる。

 

その時には、フロッケは。

 

檻の中に閉ざされた雪の集落では無くなるどころか。独自の環境で得られる高品質な素材を提供できる、経済における重要な拠点となるのだ。

 

少し前に座を追われた長老は。

 

今は自宅でやけ酒を嗜んでいるという。

 

既に見る影も無く衰え始めている様子で。

 

恐らく、長老という座に縋り付くことで、必死に命脈を保っていたのだろう。それがふつりと切れてしまった。

 

哀れだとは思わない。

 

長老を追われたときにまき散らしていた醜悪な戯れ言。

 

わたしはよく覚えている。

 

フロッケが豊かだろうが貧しかろうが、あの長老にはそれこそどうでも良かったのだ。

 

それこそ毎年貧しい人間を姥捨てに出す事になろうが。

 

それでも良かったのだろう。

 

権力を保持する。

 

あの長老にとっては、それが全てだった。皆が少しでもマシな生活をする、何てことは一切合切頭に無かった。

 

麓が見えてきている。

 

この事業だって、普通の人間にはできっこない。

 

錬金術師だからできた事だ。

 

だが、それさえもあの長老には何も心に響かなかった。

 

自分の利権。

 

それだけが全てだったからだ。

 

ああいう人間が。

 

今後世界を、ソフィー先生が見せたような、本物の地獄へと導いていくのだろう。それだけは、絶対にさせてはならない。

 

吹雪き始めた。

 

次の所での作業を、切りが良いところで中止。アトリエに一度戻る。

 

今まで作った街道は、緑化も城壁もかなり仕上がっていて。吹雪いている今も、雨が降っているだけで、地面がグズグズのドロドロになったりはしない。良い感触だ。壁の方は丁寧に鉱物の声を聞いて、問題が無いかを確認。

 

ドロッセルさんに頼んで、時々不安なところを押したり蹴ったりして貰う。

 

それで壊れるようなら、雪崩なんか耐えられる訳も無いのだから。

 

それで良いのである。

 

いずれにしても、現時点では不安点は出ていない。

 

オスカーさんが植え替えた木も、みんな元気に根を伸ばしているようだった。

 

フロッケに到着。

 

一旦自警団の戦士達と解散して、定期便が麓に飛んでいくのを見送る。キルシェさんが操縦しているのだろう。吹雪の中でも平気、と言う訳か。

 

定期便が戻ってくるまでアトリエの中で休み。

 

その間に数字を処理。

 

やはり雑にコンテナを扱った代償は決して小さくなく。

 

ツヴァイちゃんと一緒に、かなりの量の石材を移動しなければならなかった。

 

丁度良い機会なので、岩山を崩したときに派手に突っ込んだ鉱石も、更に細分化を進めておく。

 

品質、つまり純度が低い鉱石でも、使い路はある。

 

あらゆる全てを無駄にしないのが錬金術師だ。

 

流石に廃棄物はどうにもならないが。

 

場合によっては、それさえ活用できるという話も聞いている。

 

さて、もうひとがんばりか。

 

コンテナの作業は、ドロッセルさんとツヴァイちゃんに任せて、アトリエを出る。

 

丁度戻ってきた定期便が。

 

フロッケの、内憂が消えた広場へと、降り立つのが見えていた。

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