暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
あたしは見ていた。
フィリスちゃんが四苦八苦しながら、フロッケのインフラを完成させる様子を。
これで飛行キットを使った定期便ではなく、普通の馬車がフロッケまで行き来できるようになった。
ドラゴンや獣に襲われることもない安全な道だ。
問題は匪賊だが。
それについては、定期的に駆除をしていけばいい。
現時点では、時々それぞれの街から匪賊になるものがぽつぽつ出る。フルスハイムのような基幹都市では犯罪組織も発生する。
それらについては。皆、出現する度に皆殺しにしているので。
大きな集団に成長する事はない。
まあ、この辺りは。
ティアナちゃんが抑止力になっている。
匪賊は鏖殺が殺しに来る。
鏖殺が来たら絶対に助からない。
この話は、敢えてある程度逃がしてやった匪賊によって周囲に伝えさせ。伝え終わった後に消すという方法で、効率よく駆除を進めている。
あたしは、その間に。
幾つもやる事がある。
丁度今も、アダレットまで行って、状況の視察をして来たところだ。
どうやら蘇ろうとしている。
最強の邪神が。
雷神ファルギオル。
既に兆候はあった。数年来には蘇るだろうという予測もあった。それが確実なものになった事をあたしは確認した。
まあ何度もの周回で、毎回蘇っているので。
今回はいつもより多少早い、程度。
ただ此奴は、フィリスちゃんのエサにするには少しばかり遠いので。今後出てくる後二人の鍵。
世界を変革しうる双子の錬金術師のエサにするつもりだ。
そのためには、敢えて復活させ。
そして適当に力も削いでおく必要があるだろう。
相手は仮にも雷神。
相応の力を持つ邪神だが。
今のあたしには、そう大した相手では無い。
視察を終えた後、深淵の者本部に戻り。
毒薔薇と出会ったので、アダレットの状況を確認しておく。
既にアダレットに戻らせたシャノンちゃんは、しっかりジュリオさんの補佐をしている様子で。
騎士団の引き締め直しをやっているらしい。
あの子は加減を知らないし。
そもそも素顔を周囲に見せないので。
若手の騎士達には、「顔無しの怪物」として、早速怖れられている様子だ。
更に、それを見た現騎士団長は、既に事実上の大御所生活を開始。業務をどんどんジュリオさんに委託し。
自分がいなくなった後の体制を作るべく。
着々と地固めをしているらしい。
ジュリオさんも最近は口ひげを生やして威厳を保つための工夫などをしているようだが。
たまにあたしが様子を見に行くと。
昔通りの屈託のない笑顔を浮かべる。
優れた騎士であると同時に。
良識的な人でもある。
同時に匪賊を絶対に許さないと考える同志でもあるので。
話はしやすい。
「貴方がアダレットに来てくれれば、もう少しやりやすくなるんですがね」
「分かっているでしょうに」
「ああはいはい。 其方で二人の錬金術師をしっかり仕上げてから、でしたね」
「そういうことです」
元々アダレットの闇を一手に管理していたほどの怪物だ。アンチエイジングで若返ったとはいえ、その威厳は衰えず、毒薔薇はあたしにも一歩も引かない。
くつくつと笑いあうと。
互いにその場を後にした。
プラフタと合流した後。
軽く話をする。
「そろそろ、フィリスちゃんを双神と戦わせようと思っているんだけど、どう?」
「危険すぎます。 あれは、貴方のような規格外であるから戦えたのであって、弱体化している今でも中級ドラゴンを凌ぐ実力を持っています。 恐らくフィリスが戦った時点の湖底の邪竜よりも実力は上でしょう」
「だからだよ。 前より弱いエサだと成長も見込めない。 もし死ぬようならやり直せば良い」
「……貴方はっ」
プラフタは激昂するが。
すぐに冷める。
分かっているのだ。フィリスちゃんとイルメリアちゃんの成長が、今後のこの世界の「詰み」を回避するための必要な布石だと言う事は。
ましてや今回は、「今までの」中で、一番二人が良く育っている。これ以上もないほどに、である。
イルメリアちゃんは劣等感に押し潰されず。
フィリスちゃんは地獄のような周囲の人間達の醜悪さにもめげずに、必死に強くなろうとあがいている。
これでいい。
勿論、人間全てにこんな地獄を経験させるつもりは無い。
必要な存在にだけだ。
「500年間夫婦喧嘩をして、少しはプラフタも学んだでしょ? この世界はどう取り繕おうと詰んでるんだよ。 どれだけ高潔な錬金術師が身を粉にしても、害虫は際限なく湧いてくる。 やがて人間は協調することも出来ずに、資源を使い果たし、詰みの時がやってくる。 この世界は人間だけのものではないし、人間は万物の霊長などでは断じてないのに、それを理解出来ぬまま、エゴを振りかざし続けて、やがて滅びる。 どうしてそれを分かっているのに、まだ感情的に反発するのかな」
「貴方のように、深淵そのものにはなりきれないだけです」
「ふふ、そう。 でもその方が楽だし、力も得られるんだけれどね」
「……私は、人間の体を失いましたが、まだ人間のつもりです。 ソフィー、貴方は人のまま、人を捨てるのですね」
違うとわたしは覚めた目で言う。
人など。
とっくの昔に捨てた
それを後悔するつもりも無い。
この世界は、神ですら9兆回もの試行回数を重ねても、詰みを打破できなかったのだ。世界に蔓延っている邪神などと言うただの装置共ではない。世界そのものを内包する本物の神でさえも、だ。
そんな世界を変えるのに。
人間のままでいられようか。
否。
人間がそのままでは、例え神であってもこの世界の詰みは回避できない。
ならば。
取るべき未来は一つしか無いのだ。
そしてそれを取るには。
人材が必要なのである。
何度も何度もプラフタと議論したが。どうしても納得してくれない。
周回の度に議論を続け。
場合によってはプラフタと殺し合いになった事もある。
だが次の周回でやり直せば良い。
いつの間にか、そう考えるようにもなっていた。
さて、次の手だ。
フィリスちゃんに、エルエムの住処を攻めさせる。
彼処には邪神の力の影響で、最高品質の錬金術の素材が多数眠っている。
それらを回収すれば、フィリスちゃんは更なる高みに昇るための錬金術に手を掛けられるだろう。
そして鉱物だけでは無く。
ギフテッドの性能を、更に強化拡大できるはずだ。
これからが正念場。
いよいよ、大詰めの時が来た。
あたしを、哀しみの目で見るプラフタ。
別にどうでもいい。
それ以上の哀しみを、あたしはもう数え切れないほど見てきた。
詰みを回避するためには。
あたしはどれだけでも。
深淵を覗き込むし。
手でも汚そう。
(続)
寒波を作って身を守るしかない者達の救済。寒波にずっと包まれて苦労し続けてきたフロッケの民の救済。更にはライゼンベルグから安全に通る事が出来る道の創設。
不可能とも思える事業を、全員……ではありませんが、ほぼ全員が納得する形で成し遂げたフィリス。
その戦略的インフラ事業の手腕は、既に世界屈指のものとなりつつあります。
そうなるよう仕向けた存在の思うとおりに……
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
-
このままでいい
-
一日で一章がいい
-
更に分割して欲しい