暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
続いてすぐにソフィーさんから指示を受ける事になります。
世界に存在する最強の人間の敵。
邪神を倒せ、と。
序、邪神の話
フロッケでの作業が終わり、一度エルトナに戻った後。
作業を終わらせてからフルスハイムに出向く。
アトリエを展開し、其処で装甲船二番艦の強化工事を始めるべく、作業を開始した。
まずは三つだった炉を五つに増やし。
空を飛ぶための超大型飛行キットを取り付ける。
この飛行キットも、多数造り。
更にキルシェさんに幾つか改良点を指摘されて、内容を完全に陳腐化させている。つまるところ、練り上げきった結果完成している。
完成品だから手を入れることも無いし。
応用するなら根本から改良、つまり新型にする必要がある。
そして今回は新型を作る必要はなく。完成品を単純に大型化するだけなので、さほどの苦労はない。
順番にプラティーンを中心に合金を造り。
飛行キットと炉を作り。
そして、港に戦艦として停泊している二番艦を訪れて。
内部の状態を確認しつつ。
少しずつ部品を運び込んでいった。
話によると、二番艦は装甲船一番艦以外の船が水運インフラとして出るときに護衛をする事があるくらいらしく。
積載量が少ないこと。
操作が難しい事もあって。
現在では、基本的にあまり動かしてはいないそうだ。
それもそうだろう。
装甲船一番艦はカイさんが毎度動かしているようだけれども。
二番艦まで動かせる船乗りが、フルスハイムにはいないのだろう。今後は、人材育成が急務という所だ。メアちゃんは船乗りと言うよりも、むしろお店の経営の方が向いているだろうし。
勿論レンさんにも話をしておく。
以前きちんと約束をしたので。二番艦を使用するのには問題は無い。
何よりフルスハイムの湖底にいたドラゴンを屠り、水運インフラを壊滅させていた竜巻を消した功労者として、わたしはVIP扱いを受けている。
この街の重役で、わたしを白眼視する人間はいない。
正直エルトナよりこっちの方が心地よいくらいだけれど。
エルトナはエルトナとして、地盤として確保しておきたいのだ。
この街には、正直規模から言ってもう一人か二人公認錬金術師が必要だろうとも思うのだけれども。
そう都合良く人材は生えてこない。
そういえば、近々ライゼンベルグでまた公認錬金術師試験が行われるらしいのだけれど。
今度は合格者が出るかかなり厳しい、という噂をレンさんから聞いた。
まあ今までが、そもライゼンベルグまでたどり着けるかかなり怪しい状態だった、という事もある。つまり試験を受けられる人間が、相当な精鋭かもしくはライゼンベルグ在住者か、の二択だった。
ところがインフラを整備した事により、今後はどっと有象無象の山師も含めた錬金術師が訪れるわけで。
試験を受ける人間の質もぐっと下がることになる。
一応推薦状三枚は集めて来ているはずだが。
それもどこまできちんとした戦略事業をしているか、正直見当もつかない。
わたしも、実は試験に関しては、厳しい意見を持っている。
以前試験を一緒に受けたイルちゃんとパイモンさん以外の錬金術師達の様子を見る限り。
あの中から合格者が出るかどうかは厳しいと思う。
装甲船に荷物を運び込んだ後。
丁寧に封をして。きちんと盗難対策を施し。
またアトリエに戻る。
インゴットをしばらく無心に叩いていると。
不意に、周囲が暗くなった。
来たな。
わたしは、もう驚かない。
こういう異常現象は。
もう未経験ではないからだ。あの人が来るときは、こういう異常現象を伴う。
「ソフィー先生ですね」
「正解。 よく分かったね」
「今度は、何をすれば良いんですか」
ソフィー先生には恩がある。
凄い錬金術師だと言う事も分かっている。凄いどころか、多分世界最強を争うレベルだろう事も。
だけれど、恐ろしいという事と。心の奥底で感じる反発が、今は少しずつ強くなっている。
この人が言っている事。
しようとしている事は有無を言わさないレベルで正しい。
それは全くの事実だ。
だけれども、この人はあまりにも手段を選ばない。それがわたしには怖いのだ。
わたしもどちらかというと、力尽くでの解決手段を採ることが多い。それは自覚している。
それでも、この人は。
次元が一つか二つ、ブッ飛んでしまっている。頭のねじが全部飛んでいるとでも言うべきなのだろうか。そんな感じだ。
暗闇の中。どうしてかソフィー先生が、歩いて来る。
わたしも暗闇の中で立つ。
二人だけが、闇の中で相対していた。互いだけがこの空間にいるという事が、どうしなくても分かるのだった。
こんな異常な状況で、わたしは心を鎮める。殺される事はないと分かっているからだ。
なお、鉱物の声は一切聞こえない。気持ちが悪いほどに静かだった。
どうして暗闇の中で立っていられるのか。足場はどうなのか。それに何故相手が見えるのか。
何一つ分からないまま、会話が始まる。
会話と言うよりは、むしろ一方的な宣告。むしろ指示と言うよりは命令だけれども。
それはお互いの力関係から言っても仕方が無い。わたしはこの人に逆らえるほどの力も無いし、手札も持たない。
「禁忌の森の空で、岩の塊を見たね」
「はい」
「彼処に邪神がいるんだよ。 双神エルエムっていう名前のね。 名前の通り、二体で一体の邪神なんだ」
「っ!」
それだけで分かる。
ソフィー先生は、わたしにその邪神を倒させるつもりだ。
邪神。ドラゴンすら霞む最強の存在。この世界を支配する、錬金術師でさえ勝率が極めて低い怪物の中の怪物。文字通り理を左右する、形を取った理不尽。
資料を見ればみるほど、その圧倒的な化け物ぶりは明か。
その一方で、この乾ききった世界に、緑をもたらしている存在でもある。
ネームドも、邪神の力の一端を受け取っているに過ぎず。
そのネームドから取れる深核を使わないと、錬金術師でさえ植物を育てる栄養剤は作り出す事が出来ない。
それほどに、邪神の影響力は、この世界においてあまりに圧倒的なのである。
畑を作るのさえも。邪神の影響力が必要になる。
大気中には魔力が幾らでも溢れているのに。それほどこの世界の大地は、乾ききっているのだ。魔力が大地にはまったくないのだ。
その乾いた大地を潤せるのが邪神の力。
つまるところ、「邪」であっても、神であることに間違いはない。
ドラゴンの力でも似たような事が出来るが。
あれも、考えて見れば邪神ほどでは無いが、超絶的存在。根は、同じなのかも知れない。
「今、エルエムはとても弱っていてね。 それで丁度良いから、潰してきて、あるものを回収してきて貰おうと思っているんだけれどいいかな」
「嫌だと言っても、行けと言うんでしょう」
「うん、その通り。 分かってきたね、フィリスちゃん」
ソフィー先生は優しげに笑うけれど。
目元はまったく笑っていない。
目を見ていると、それだけで頭がおかしくなりそうだ。これ以上近くで深淵を覗いたら、わたしは。
きっと深淵そのものになってしまう。そう、ソフィー先生と同じように。
「か、回収は、何をすれば」
「昔、同じように空を飛んであの岩隗に向かった錬金術師がいた。 深淵の者の幹部にて、優れた錬金術師だけれど、流石に相手が悪かった。 当時のまだ規模がさほどでも無かった深淵の者では、彼を助けることが出来なかった」
「……」
ソフィー先生が、古くから活動していたという深淵の者とずぶずぶだと言う事は分かってはいる。
だが、露骨な話だ。
深淵の者の幹部。或いは顧問くらいの立場であると、今明かしているようなものなのだから。
だが、ソフィー先生の壮絶な話を聞く限り、むしろ深淵の者を道具扱いしていない事の方がある意味不思議に思える。
この人は、それくらいの怪物なのだから。
その気になれば、街の一つや二つ、瞬く間に滅ぼせる魔人。それが、ソフィー先生という錬金術師だ。
「遺骨なんかはとっくに風化しているだろうから、物品の回収は必要ない。 ただ、現場検証をしたいから、非戦闘員を二人……まあ二人か。 連れていって欲しいんだよねえ」
「邪神のいる場所に非戦闘員を!? それも二人!?」
「何、非戦闘員で子供だけれど、荒事には慣れているから。 戦いで足を引っ張ることはしないよ。 ああ、もちろんだけれど邪神はきちんと殺すように。 邪魔だからね」
ふふふと、ソフィー先生は笑い。
いつのまにか至近にいた。
いつ動いたのかまったく分からなかった。
きっと時間を止めたのだろう。この人には、それくらい簡単なのだから。
至近距離から目を覗き込まれる。
ソフィー先生の目の中には。
地獄と言うも生やさしい。
漆黒が明るい光に見える程の深い深い闇があった。
そしてソフィー先生はまったく笑っていない目のまま、わたしの顔を掴んで。わたしは闇の中の闇を覗き込まされた。抵抗どころか、動く事も出来なかった。狂気なんて言葉ではとても表現できない、文字通り無限に拡がる闇の野を。
「うん、順調に濁ってきた。 イルメリアちゃんも良く仕上がってきたし、今回はとても順調だね」
「こんな事をして、本当に世界のどん詰まりは」
「そんな事はあたしにも分からない。 何しろもう数限りなく繰り返しているんだから」
「……っ」
まるで、ものか何かのように。世界そのものを評するソフィー先生。
でもこの人のような、地獄というも生やさしい悪夢を見ながら生きてきている人にとって。
それは別に、驚くことでも無いのかも知れない。
「そうそう、それと世界樹の麓を守る獣人達には話をつけておいたから、行くなら行ってみたら。 歓迎はしてくれないだろうけれど、その代わり邪魔もしないと思うから」
「手荒なことは……」
「手荒も何も、彼処に住む獣人達は深淵の者の配下だから。 独自の信仰に生きているけれど、その一方で生きるために傭兵として稼いでいるんだよ。 前はラスティンが抱える秘密の部隊だったんだけれど、此方で掌握し直したの」
さらりととんでもない事を聞かされる。
そうか。そんな事になっていたのか。
ソフィー先生は、人材の収集と掌握に貪欲だ。
それこそ、能力さえあれば。化け物だろうが何だろうが、配下に加えるのだろう。
ティアナちゃんを見ていればよく分かる。あんな危険な子を、平然と御せているのが、その証拠だ。
きっと、わたしも。その道具の一つ。
でも、ソフィー先生にとっては、自分でさえ道具に過ぎないのだろう。
それは何となく分かった。
徹底している。とにかく、圧倒的なまでに妥協がない。誰も特別扱いしない。勿論身内どころか、自分さえも。
だから恐怖の権化であっても。憎むことは出来ないし。
そのやり方が苛烈で残忍であったとしても。
公平である事は認めざるを得ないのだ。その公平さが度を過ぎていて、もはや人ではない存在だとしか思えなくても。
「それじゃあ準備を整えてから行って来てね。 イルメリアちゃんと、あのパイモンって錬金術師には声を掛けておいた方が良いと思うよ。 ちょっと今のフィリスちゃん達だけだと荷が重いだろうからね」
「分かりました……」
「それじゃ」
いきなり。
何の前触れも無く。
闇の空間から放り出され。そして、周囲はいつも通りのアトリエに戻っていた。
ふと気付く。
ソフィー先生は、わたしがいつ何をしているか、全て監視しているのではないのだろうか。
あり得る話だ。
そもそも、ソフィー先生ほどの人になってくると。
その程度の事は出来てもまったく不思議ではないのだから。
深呼吸すると。
インゴットの作成に戻る。
そして、決めていた。
近いうちに世界樹の麓に出向こう。
金の絹糸が必要になる。
現状では、皆の力に限界がある。更なる装備の強化を行うには、ヴェルベティスが必要になる。
そして金の絹糸は、あの禁忌の森を除くと。
恐らくは邪神の力が色濃く表れている場所くらいにしか出現しない。
調べて見たが、金の絹糸を作る虫はとても強い魔力を好むようで。自衛能力も持っているらしい。
それはあんな強力な絹糸を吐いて身を守るほどだ。
更に言えば、あの絹糸は、多分黄金色の葉を食べて作っているから、あの色になっている可能性が極めて高い。
世界樹の麓に住まう獣人については。
少し前に調べたが。
独自の信仰で、「神」を信仰している、とある。
世界樹ほどの巨大森林地帯は、自然にはまず出来ない。
強大な邪神がいて、しかも其処に住まう獣人族達を迫害していないのはほぼ確定事項。
そうなると、黄金色の葉や、金の絹糸。
場合によってはドンケルハイトを見つけられるかも知れない。
ドンケルハイトがもし手に入ったら。
文字通り究極に近い効力の薬や。
その圧倒的な魔力を利用した、極限まで身体能力を強化出来る装備類を作れる可能性が高い。
そしそうなれば、邪神にも。或いは手が届くかも知れない。
ハルモニウムだけでは駄目だ。
邪神の下位存在であるドラゴンの力だからだ。
だから、もう一工夫いる。
禁忌の森は、何度も探索するには危険すぎる。故に、一度調査も兼ねて、世界樹を見に行くべきだろう。
わたしは、そう判断していた。
インゴットを仕上げると、黙々と炉に入れて調整。
その合間に、アルファ商会に出向いて、手紙を出して貰う。
一通はパイモンさんに。
そしてもう一通はイルちゃんに。
急がなくても良い。
ただ、邪神を討伐すること。その前に、準備をするために世界樹に出向くこと。
その際に力を借りたいこと。
得られる貴重な素材は、三人で分けることを手紙に記載。
イルちゃんもパイモンさんも公認錬金術師だ。特にパイモンさんはアンチエイジングに強い興味を持っていた。
それならば、世界樹の麓にて得られる素材には、興味を持つはず。
きっと手を貸してくれるだろう。
手紙を書き終えてから、一度エルトナに戻る。
定期的に戻って、長老と重役達が馬鹿な事をしないか見張らなければならないのが兎に角面倒くさい。
わたしは前触れ無く瞬時に戻ってくるので、長老達は悪さをする余裕が無い。
そう思わせておかなければならない事もある。
何より、エルトナで今主に働いてくれている人達は、ソフィー先生が貸してくれている人材なのだ。
彼らを邪険にしたり、トラブルを起こすようなことは。絶対にあってはならないのである。
丁度良いことに、活版印刷の道具類が、大体揃っていた。カルドさんに見せて、実際にどう使うか実演して貰う。
なるほど、同じ本を大量に作れるわけだ。
決めた文章を、どんどん紙に記載していく。この技術があれば、貧しい人でも本を手にできるようになる。
早速の稼働を頼む。
本は幾らでも必要だ。
ゼッテルは必ずしも幾らでも作れる、と言うわけでは無いのだが。
既にエルトナの周囲に作った森からは、植物繊維を木を傷つけない事を考慮してもある程度入手できる。これらを使って、本は必要量作れる。
金持ちだけの特権だった、本を持つ事。
それが特権では無くなる。
わたしは基本的に、貧富の格差が小さく、一番貧しい人でも安楽に暮らせることが幸せなコミュニティの条件だと知っている。富める者は嫌がるかも知れないが、わたしには逆らえないようにしておく。
孤児院の様子は。
見に行くが、まだだ。一応体裁は整えられているが、まだ各地で孤児になっている子などを受け入れる体制が出来ていない。
アングリフさんにも見てもらったが。
幾つか注文を受けたので、それにあわせて少し建物の調整をする。
何でもアングリフさんの話では、戦場しか知らないような子供は、何も知らないから不幸なのであって。
知る事と、技術を身につけることが、色々な人生を選べるようになるための武器になるという。
つまり技術習得のために、色々な教師が必要だと言う事で。
更に孤児だけでは無く、誰でも学べるようにした方が好ましいというのが、アングリフさんの意見だった。
全くの正論だと思うので。
話通りに、機能を建物に盛り込む。教師についても、見繕えるように準備を此方でしておく。
そういえば、前に何処かで聞いた。フルスハイムだったか。
貧しい集落では、教会くらいでしかものを教える場所が無く。
子供達はそういった場所で言葉を覚えるのだとか。
そうなってくると、教会にいる神父が腐敗した場合、手の打ちようが無くなる。色々と問題が多い仕組みだ。
アングリフさんの年齢を考えると。流石にもう現役で体が動く時間は長くはないだろう。更にアンチエイジングの類もアングリフさんが好むとは思えない。勿論聞いてはみるが、多分いらないと言われるはずだ。
それならば優秀な補佐役をつける必要があるし。
更には、貧しい子供でも平気なように、宿舎も作る必要がある。
エルトナ発の人材が、各地で活躍出来るようになれば。きっと、少しは周辺の都市も良くなるはずだ。
エルトナでの用事を済ませて、フルスハイムに戻る。
まずは、装甲船を仕上げなければならない。わたしは額の汗を拭いながら、炉でインゴットの調整を続けた。装甲船の部品に仕上げるために。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい