暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

122 / 150
1、飛翔船

装甲船二番艦に四つ目の炉を運び込んだとき、パイモンさんが来た。

 

前よりも更に若返っている。前は老人だったが。今は初老くらいにまで見えるようになっていた。

 

パイモンさんが公認錬金術師をしている集落も、着実に発展しているという。

 

若返るのに使っている技術は、公認錬金術師がたまに使っている「逆転」と呼ばれるもので。

 

老化を反転させることで、年齢を若返らせるものだという。

 

今はまだ興味が無いので調べていないが。

 

いずれお世話になるかも知れない。

 

パイモンさんがアトリエに入ってから、本題に移る。お姉ちゃんが、お茶と茶菓子を準備してくれた。

 

「世界樹の調査をすると言うことだが、彼処にはカルト的なコミュニティを形成している獣人族達がいる筈。 ある意味匪賊より厄介だが、大丈夫なのか」

 

「はい、それは問題ありません。 此方で手を打ちました」

 

「そうか。 ならば信じよう」

 

パイモンさんは奥さんにも先立たれ、子供達も独立して、今は基本的に錬金術に打ち込めるらしい。

 

故郷の村も、既に安定しているそうで。

 

一月や二月くらいなら、離れてもまったく問題は無いそうだ。

 

羨ましいと零すと。

 

パイモンさんは苦笑いする。

 

「エルトナの話なら聞いているが、空を知ったモグラたちは相変わらず狂騒を繰り広げているようだな」

 

「ええ、本当に。 もうどうしたら良いのか」

 

「わしの場合は時間を掛けてじっくり信頼を得ていった。 同時に、わしがいなければ街が成り立たないこともしっかり叩き込んでいった。 フィリスはまだ若い。 時間を掛けて、そうしていけば良いだろう」

 

「……そうですね」

 

確かにその通りなのだが。

 

そうなると、いずれわたしはソフィー先生のようになるだろう。

 

わたしはよかれと思ってした事も。

 

怖れられ。

 

恐怖とともに受け入れられる事になる。

 

それはきっと、あまり嬉しい事ではないと思うけれど。だけれど、パイモンさんが言うアドバイスは、聞いておいた方が良い。

 

長老や重役達がわたしにいちいち突っかかるのは、甘い汁を吸えないからで。

 

そもそも重役だからと言って甘い汁を吸えるというのがおかしいという事を、しっかり教育しなければならないのかも知れない。

 

責任は放棄し。

 

権利は欲しがる。

 

それは人間の普遍的な醜さなのかも知れないけれど。

 

そんなことだからこの世界はいずれ滅んでしまうのだ。

 

パイモンさんが来てくれたので、炉の作成を手伝って貰う。五つの炉を組み合わせる過程で何度も実験を行い。

 

問題が発生する度に微調整する。

 

やがて、炉が完全稼働。

 

更に、普段は上向きに畳める飛行キットも取り付ける。

 

かなり大きな飛行キットなので、運ぶのが大変だったけれど。

 

組み立てそのものは、グラビ結晶による補助を使いながら慎重に行ったので、さほど時間も掛からなかった。

 

船が完成した頃。

 

イルちゃんがアリスさんと一緒に来る。

 

何だか疲れている様子だったが。

 

理由は聞くなと、開口一番に言われたので、そうする。

 

イルちゃんの方は上手く行っているかと聞くと。

 

彼女は寂しそうに笑った。

 

「人材が足りなくてね。 少し前に、超腕利きの戦士が抜けたのよ。 アダレットに行く必要が出来たとかで」

 

「わ、それは……」

 

「で、代わりが来たんだけれど」

 

イルちゃんがアリスさんを見る。

 

アリスさんは無表情のままだ。

 

イルちゃんによると、アリスさんに雰囲気が似た人が、二十人ほど来たらしい。

 

皆腕利きで、寡黙だが真面目かつ勤勉だそうだが。

 

あまりにも雰囲気が似ているので、周囲に動揺が広がっているという。

 

アリスさんの話によると「一族」らしいのだが。

 

それにしても雰囲気が似すぎていて、有り体に言って怖いそうだ。アリスさんは、そう言われても、何も返さなかったが。

 

イルちゃんはこの辺りはっきり言うが。

 

アリスさんは非常に真面目にイルちゃんを支えているし。イルちゃんもアリスさんを信頼しているが分かる。

 

だがそれはそれとして。

 

流石に同じような雰囲気の人が二十人も来たら、何だかおかしいと思うものなのだろう。

 

「手伝うわ。 タスクを頂戴」

 

「うん。 それじゃあ、此方をお願い」

 

三人で手分けして。

 

飛行船の残りを仕上げていく。

 

途中から港に来たカイさんが、空でも飛びそうだなと冗談めいて言ったが。空を飛ぶのだとわたしが返すと、顎が外れたようだった。

 

何しろ水底にもぐる船だ。

 

空を飛ぶことが出来ても不思議では無い。

 

飛行キットの取り付けが終わり。

 

翼の稼働についても確認。

 

更に炉との接続を四苦八苦しながら行い。

 

上手く行ったら今度は炉同士の連携について実験。

 

二週間ほど掛けて、上がって来た細かい問題点を全て改良し。最終的に、いつでも飛べるように仕上げた。

 

その間に、イルちゃんがアリスさんをライゼンベルグ西の宿場町まで派遣して。

 

例の「一族」を二人ほど連れて来て貰う。

 

どちらも操舵師としての人員だ。

 

基本的に何でも出来るらしいので、操舵師も問題ないだろう。

 

カイさんはフルスハイムから離れられないし、代わりが必要になる。

 

かといって、腕利きの操舵師なんて、海沿いの街にでも行かなければいないだろう。

 

アダレットの首都は海に面しているらしいので、其方に行けばいるかもしれないが。

 

残念ながらあまりにも遠すぎる。

 

行ける範囲内にあるラスティン首都ライゼンベルグは山の中。

 

フルスハイムにも、手の空いている操舵師はいない。

 

そもそもこの船も、わたしの私有物というわけではなく。

 

フルスハイムにとって多大な貢献をしたからわたしが使える、というだけの話であって。

 

けっしてわたしが好き勝手に使用して良いものではないし。

 

ましてや壊す事なんて絶対に許されない。

 

実験を兼ねて、一度浮かせる。

 

船が浮き上がるのを見ると。

 

港の見物人達は、おおとどよめきの声を上げた。

 

操舵師に雇ったアリスさんの「同族」、二人ともすぐに操舵のマニュアルを覚えてくれたので。

 

一連の作業に問題は無かった。

 

一旦ドックに入れた後。

 

わたしは湖底の邪竜を殺してからせっせと増やしておいたハルモニウムを使って。船の装甲を強化する。

 

カイさんに聞いて、攻撃を貰った場合クリティカルなダメージを受ける場所に、優先的にハルモニウムの装甲を追加。

 

以前も感じたが、ハルモニウムは非常に「軽い」。

 

重量そのものはあるのだが、進むときに抵抗をあんまり受けない。

 

空気を切り裂くと言うよりも。

 

空気が避けて通っている、という感触だ。

 

更にハルモニウムの装甲と言う事は、ドラゴンの鱗も同然。更に言えば、そのドラゴンの鱗を、錬金術で変質させ、更に強化しているのである。

 

故に、ハルモニウムの装甲は贅沢ではあるけれど。

 

装甲としては、この世における最高の素材であり。

 

恐らく信頼性において、これを凌ぐものはあり得ないだろう。

 

また、わたし自身空飛ぶ荷車に乗って、船の周囲を徹底的に見て回って、鉱物の声を聞き。

 

アドバイスを受けながら、微調整を行う。

 

その間、カイさんと港の人夫が、船底の苔落としを手伝ってくれた。

 

こういった装甲船でも、汚れはつくし。汚れから苔が生えたりもする。

 

当然ドッグに入れて落とさなければならないのだが、危険を伴うので。

 

船が浮いている状態は有り難いと、カイさんに言われた。

 

ならば、或いは。

 

船を浮かせるための飛行キットを量産して、フルスハイムに譲渡するのも有りかも知れない。

 

後でレンさんに相談してみよう。

 

安全性という点では、既に飛行時間でも試行回数でも折り紙付き。

 

更に船に衝突回避のシステムを組み込めば。

 

事故も更に減らす事が出来るだろう。

 

ただでさえ湖面に出れば獣による襲撃が懸念されるのである。

 

流石に現在輸送のために動き回っている装甲船は一隻しか無いし、他のは基本的に木造船だ。

 

それらはメンテナンスも大変だし。

 

何より獣に襲撃された場合、獣の戦力が護衛を上回ると、乗っている人はまず助からない。逃げる方法が無いからだ。

 

ならば、助かるように。

 

ある程度工夫をする必要もあるだろう。

 

更に三日を掛けて。

 

徹底的な装甲船二番艦のチューニングを行い。

 

イルちゃんとパイモンさんにもチェックして貰う。

 

完璧、と言う話が出たので、良かった。ハルモニウムの声は前は聞こえなかったけれど。今はかなりクリアに聞こえるようになっている。

 

後は、レンさんを通じてフルスハイムの重役達と話をし。

 

この船を借りていくという契約通りに、事を進めるだけだ。

 

問題は其処でトラブルが生じないか、だが。

 

そもこの街を脅かしていた竜巻と邪竜を排除したわたし達は、恥ずかしい事に英雄扱いされていて。

 

フルスハイムの街を歩いていると、お礼を言われたり。

 

お店では割引して貰ったりもする。

 

つまり人望という奴がある訳で。

 

その人望に傷をつけるような事をしたらどうなるかは、計算高い彼らは把握している事だろう。

 

船は一旦浮かせたまま待機。

 

見張りにはアングリフさん達がつく。

 

わたしはお姉ちゃんと、イルちゃんとパイモンさんと一緒に、レンさんの所に行き。

 

船を借りる話を。

 

その後は、案の定重役会議が招集され。

 

やはり苦々しい顔をされた。

 

「あの船は、確かに貸し出す約束はしましたが……」

 

「見苦しいですよ」

 

レンさんが一喝すると。

 

不満そうにしていた重役は黙り込むのだった。

 

そも、重役達は、あの竜巻が発生したとき、何もできていない。インフラ整備にしろ、避難路の確保にしろ、動いたのは錬金術師と自警団員だ。

 

彼らにはその負い目がある。

 

わたしが、軽く説明。

 

禁忌の森の空に浮かぶ岩に、邪神がいる。

 

その討伐を兼ねて、船を試運転すると。

 

その話をすると、更に動揺は大きくなったが。

 

逆に、それで反対意見は完全に沈黙した。

 

邪神がいる事。

 

その力が、フルスハイムの近くである禁忌の森に及んでいることが確実である事は、彼らに大きなショックを与えた。

 

その結果。

 

わたしが出る事を認めざるを得なくなったのだ。

 

そもそも、邪神の戦闘力は、フルスハイムのような基幹都市の全力を挙げても対応出来るものではなく。

 

腕利きの錬金術師が集まって、その多数が命を落とす事を覚悟しながらようやく撃破出来る「かも知れない」という異次元の領域である。

 

ドラゴンをもしのぐ人間最大の天敵。

 

それがいるとなれば。

 

調査は当然とも言えた。

 

かくして船の使用許可は「本来の約束通りに」きちんと降りた。

 

後は、実際に。

 

まずは試運転がてらに、世界樹に向かうだけだ。

 

 

 

船に皆が乗る。イルちゃんとパイモンさんの馬車については、レンさんが預かってくれる上に、馬の面倒も見てくれる、と言う事だった。

 

前より炉が増えたので、更に少し手狭になったが。

 

アトリエを展開してしまえば。

 

その中に入れば良いだけである。

 

もっとも、船が沈んだら、アトリエに入っていたところで助かる事はないだろうし、常時周囲の監視は必要になる。

 

船の主砲はきちんと機能する。

 

水の中でも、試運転時は大型の獣を仕留めたのだ。

 

空中戦でも、勿論役に立ってくれる筈である。

 

また飛行キットに関しても、炉から防御の魔術を展開出来るように調整をきちんとしているので。

 

此方に関しても、あまり心配はしなくて大丈夫だ。

 

ゆっくり浮上。

 

キルシェさんにアドバイスを受けたとおり改良した結果。

 

飛行キットは更に安定している。

 

あまり速度は出ないけれど。

 

それでも、障害物が全く無い空を行ける、というのは大きい。今までの積み重ねが、この空飛ぶ船を実現した。

 

もっとも、空飛ぶ都市を実現した先達の錬金術師もいる。

 

別に空飛ぶ船も、世界で初めての存在ではないだろう。

 

後、本番。つまり禁忌の森上空の岩隗に出向く場合。

 

ソフィー先生が言っていた、二人組を乗せなければならない。

 

単純に非戦闘員が二人増えるのだ。

 

勿論、ソフィー先生が相当に戦闘慣れしていると言っていたから、足は引っ張らないとは思うが。

 

それでも、不安は残る。

 

何より、公認スパイとみるべきだろう。

 

何をされるか、知れたものではなかった。

 

「高度ー安定ー」

 

操舵手の一人。「ライト」さんがいう。「レフト」さん共々、アリスさんを少し幼くしたような女性の姿をしている。

 

声も殆ど同じで。

 

アリスさんの声と聞き分けられない。

 

実際に状況を目にして、イルちゃんがノイローゼ気味になるのが分かった。

 

これだと、アリスさんが三人いるようなもので。

 

しかも本人達が自己主張せずみんなメイドスタイルなので。

 

見分けがつかない。

 

アングリフさんも頭を抱えているようで。

 

何度かアリスさんを呼ぼうとして、ライトさんやレフトさんに話しかけて、違うと言われて困惑していた。

 

「おいフィリス、何とかならないのか」

 

「名札でもつけて貰いますか?」

 

「名札ってなあ……」

 

「それなら、これならどうかな」

 

ドロッセルさんが提案してくる。

 

どうせ錬金術の道具は身につけて、身体強化をするのだ。イルちゃんお手製の装備類は身につけているライトさんレフトさんだが。わたしが作ったマフラーは身につけていない。

 

そこで、二人にわたしから、赤いマフラーと青いマフラーをプレゼントする。

 

マフラーと言っても調整に調整を重ねているし、首に巻いても暑くはならない。守る事はあっても邪魔にはならない便利な品だ。

 

ライトさんに赤いマフラーを、レフトさんに青いマフラーをプレゼントすると。

 

二人は小首をかしげていたが。

 

皆が満足した。

 

これなら分かり易い。

 

イルちゃんは嘆息する。三人から少し離れた所で、軽く話してくれる。

 

「名札も考えたのだけれど、流石にそれは失礼だと思ったのよ。 助かったわ」

 

「それにしても似ているな。 何処かの閉鎖集落の出身者か? 血が濃くなりすぎると顔が皆そっくりになる事があるらしいと聞いているが」

 

「分からないわ。 アリスの一族はみんなあんな様子で、実家にいた頃からああだったから。 あんなにたくさん同族がいるとは思っていなかったけれど」

 

ふむと、パイモンさんが小首をかしげる。

 

わたしも違和感を覚えた。

 

どうも何というか。

 

それとは少し違う気がするのだ。

 

わたしのいたエルトナも閉鎖集落で、近親婚が当たり前だったけれど。それでも彼処までそっくりさんだらけではなかった。

 

というよりも、はっきりいうと。

 

アリスさんと同一人物にしか思えないのである。

 

年齢は少し若いけれど。

 

それはそれ。

 

彼処まで似ていると、作為的なものを感じる。

 

まさかとは思うが。

 

錬金術の秘奥に、人間を作り出すものがあると聞いている。確か、ホムンクルス、だったか。

 

書籍で読んだだけで実物は見ていない。

 

ただ、人造生命は存在するらしく。

 

それは多数の触手を備えていて。機能だけを重視した姿をしているらしい。

 

見聞院に行った時に色々な資料を見たが。

 

それでも、ホムンクルスの作成に成功した、という資料は見たことが無い。

 

あれ。

 

そういえば、人間四種族の一つ、ホム族。

 

これ、名前の一致は、偶然なのだろうか。

 

「イルちゃん、ライトさんとレフトさん、互いに区別はついているの?」

 

「本人達同士では区別がついている様子よ。 会話を見ている限り、個体識別は問題ないようだわ」

 

「そうなると、やはり特殊な環境が産み出した一族、なのだろうな。 血が濃くなりすぎると不幸しか産まん。 早めに新しい血を入れた方が良いだろう」

 

「……そうね」

 

イルちゃんは難しい顔をしている。

 

理由は何となく分かる。

 

多分イルちゃんにも、アリスさん達が何者なのか、よく分からないのだ。

 

雰囲気からして、実家にいた頃からのつきあいらしいのに。

 

どういう出身で、

 

どこから来たのかよく分からない、というのは妙な話である。

 

やはり作為的な何かを感じる。

 

ただ、今は。

 

それを詮索している場合では無い。

 

湖を越え。

 

方位磁針を見ながら確認。

 

西の方に、禁忌の森が見える。

 

そして禁忌の森の上空には、望遠鏡を使わないと見えないが、きちんと例の浮島が存在していた。

 

交代で覗いて。

 

確認を実施。

 

パイモンさんが呻く。

 

「あれほどの巨大な浮島を作る邪神、どれほどの力を持っているか検討もつかん。 虹神ウロボロスはラスティンの錬金術師が総掛かりで、多くの被害を出しながらようやく倒したと聞いている。 ライゼンベルグに出向き、総力戦の話を持ちかけるべきなのではあるまいか」

 

「いえ、それが、あそこにいる邪神が今かなり弱体化しているという情報を得ています」

 

「どこからの情報だ」

 

「それはすみません、言えません。 でも、確かな情報です。 ライゼンベルグに声を掛けて戦力を集めているより先に、我々で叩く方が早いはずです」

 

腕組みするパイモンさん。

 

イルちゃんは嘆息すると。

 

見えてきた巨大な木の話をする。

 

フロッケと見聞院の更に向こう。

 

孤立した陸の孤島状態の其処に。

 

天に伸びるような巨大な木が佇立している。

 

その凄まじい異様は、あれが本当にこの荒野に満ちた世界に存在するものなのかと、疑念を抱かせる程で。

 

その木の周囲には、豊かな森も当たり前のように拡がっていた。

 

あれぞ、世界樹。

 

試験の後の講義で、公認錬金術師でも、入る事は勧めないと言われた場所。

 

貴重な素材は取れるらしいが。

 

カルト化した獣人族の集落が存在し。

 

極めて排他的な性質から、攻撃的な態度で侵入者に接してくると言う。

 

だが、ソフィー先生は言った。

 

既に彼らは配下だと。

 

話もつけてあると。

 

生唾を飲み込む。

 

この船なら、多少の戦力に攻撃されても何ともない。

 

多分一つの街の自警団くらいなら、まとめてねじ伏せる事が可能だ。それも、それほど苦労せずに。

 

世界樹を守る腕利きの獣人族達でもそれは同じだろう。

 

だが、もしもそうやって。人を食っているわけでもない、匪賊でもない人間を蹂躙したら。

 

匪賊と同レベルの存在になってしまう。

 

わたしはそうはならない。

 

だが、世界が詰んでいるというのなら。

 

手段は選べないのだろうか。

 

ソフィー先生のように。

 

深淵の権化になるしか路は無いのだろうか。

 

「高度ー指示ー乞うー」

 

「フィリス」

 

「あ、うん。 ライトさん、高度は現状維持。 森の側まで、そのままの高度で進んで」

 

「アイアイサー」

 

そのまま高度を保ち、森の上空へ。

 

獣は仕掛けてこない。かなりヤバイ大きさのアードラが舞っているのが見えるのだが、仕掛けてくる様子も無い。

 

此方の装甲がハルモニウムだと分かっているから、だろうか。

 

全周で周囲が見えているから隙も無い。

 

問題は森の中とかからドラゴンがブレスで攻撃してくる場合だが。

 

それも今の時点では無かった。

 

そろそろ森の上空にさしかかる。

 

一旦停止。

 

そして高度を下げるようにと指示。

 

ライトさんがマニュアル通りに操作。ゆっくり装甲船二番艦が降下を開始する。

 

さて、森に住んでいる閉鎖的な獣人達は既に此方に気付いている筈だ。

 

総員戦闘準備。アングリフさんが声を掛ける。

 

此方が仕掛けるつもりは無くても。

 

向こうはどう出るか分からないのである。

 

ましてや集落全体がカルトだというのなら、何をしてきても不思議では無いだろう。

 

観察していて気付くが。

 

森そのものは、非常に規模が大きいが、その一方で静かだ。

 

禁忌の森のような、強烈な排他性は感じない。

 

一方で、住んでいる人間、つまり獣人族は排他性が強烈だというのだから、それはそれでおかしな話だ。

 

一体どういうことなのだろう。

 

これほどの規模の森でも。

 

森を離れると、少し草原があるだけで。後はすぐに荒野になってしまう。

 

更に言うと、此処へ向けた街道などもない。

 

ソフィー先生は、此処を掌握していると言っていたけれど。

 

来る場合どうしているのだろう。

 

やはり空路か。

 

後、昔はラスティンの傭兵をしていたようだけれども。

 

それも、どうやって接触していたのだろう。

 

このような状態だと、森に来るだけで一苦労だった筈だ。

 

或いは、その苦労を押してでも。

 

来て傭兵として雇っていく事に意味があるほどの、凄腕揃いだった、と言う事なのだろうか。

 

ともあれ、高度は地上ギリギリで停止。

 

このまま、浮かんだままにする。

 

まずアングリフさんが降りて、それから順番に皆降りていく。船にはライトさんとレフトさんが残ってもらい。

 

二人には中空で待機して貰う。

 

獣が攻撃してきた場合は反撃。

 

ドラゴンが攻撃してきた場合は森に逃げ込む。

 

これらの話は既にしてある。

 

二人はアリスさん同様、多少無機質ではあっても聡明だし。

 

問題は起きないだろう。

 

二人に船を任せると、わたしは荷車の状態をチェック。かなり良い状態の草むらだし、踏み荒らすのはあまり気が進まない。

 

空飛ぶ荷車に皆乗って、低速で進む事にする。

 

その方が良いだろう。

 

音もしないし。

 

何より、攻撃を受けた場合、荷車の装甲が盾になる。

 

森の内部になると、流石に下草がかなり減ってくるので。一旦荷車から降りて。陣形を組んで進む。

 

それにしても静かな森だ。

 

獣もどちらかと言えば穏やか。

 

ただし非常に大型の獣が目立ち。

 

荒野で遭遇したら、それこそ死闘を覚悟しなければならないような者ばかりだった。

 

戦闘を避けながら、ゆっくり探索していく。まずは、獣人族に接触しなければならない。

 

まだ、彼らは姿を見せなかった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。