暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、翻弄暴威

宣告してから一月丁度で、アトミナとメクレットが姿を見せた。フルスハイムで準備をギリギリまでしていたわたし達の所に、もう準備は終わったよね、と言わんばかりの顔で、である。

 

厚かましいというか、時間に正確というか。

 

いずれにしても、この二人を連れてエルエムを潰しに行く。

 

それについては、決定事項だ。

 

ただ、勝率は、少しでも上げておきたい。

 

二人には、分かる事を可能な限り話して貰う事にする。

 

今度の相手は邪神。

 

何をしてくるか、まったく分からないのだから。

 

イルちゃんとパイモンさん。

 

他の皆にも同席して貰う。

 

アトミナとメクレットは、子供にしか見えないが。これだけの数の手練れに囲まれても、まるで萎縮する様子も無い。

 

「今回調査を頼んだ場所は、昔知り合いが探索を望んだ場所でね。 君達と同じように空を飛ぶ船を作って、調べに行ったんだ」

 

「……」

 

この子供達の知り合い。

 

昔。

 

メクレットの言葉には、違和感だらけ。だが、それでもおかしいとはどうしても思えない。

 

この子らは、見た目通りの存在では無い。

 

それについてだけは、絶対と言って良いほど確かだった。

 

「彼は僕達の友人だった。 邪神についての研究もしていた。 戦力は充分につけたはずだったが、まだ認識が甘かった。 船そのものがあの島に到達したことは知っているが、それ以降は分からない」

 

「その調査を頼むってわけか」

 

「そうなるわ」

 

アングリフさんの前に。

 

アトミナが、ぽいという感じで、金貨の袋を置く。

 

尋常では無い大きさだ。

 

確認するが、今まで見たことが無いような金額が入っていた。

 

まあ、邪神の討伐依頼となれば当然か。

 

単独で手練れの錬金術師がいる街を滅ぼすドラゴンよりも、更に格上の存在なのである。本来だったら、国がやるべき仕事だ。

 

そして、話には聞いているが。

 

まだ多数、国でもどうにも出来ない邪神が、世界では大手を振って堂々と存在していると言う。

 

そういうものなのだ。

 

この世界は、人間のものではないのである。

 

「エルエムと言いましたか。 詳しい情報をお願いします」

 

「エルエムは他の地域でも目撃例が以前はあった邪神でね。 二体の魔族の女が背中合わせにつながっているような姿をしている。 片方は赤、片方は蒼。 それぞれ炎と氷の能力を用い、連携して戦う邪神だ」

 

「実質邪神二体分か……」

 

「いや、邪神としては今はかなり弱体化している。 これについては調査済みだ。 ……ヴェルベティスをその精度で作れるなら、勝機は充分あるだろう。 だが奴に時間を与えると、どんどん周囲を要塞化していくはずだ」

 

話しているのはメクレットだ。

 

アトミナは、殆ど喋らない。

 

というか、面倒なようで。

 

ネゴの類は、メクレットに押しつけているように見える。

 

「少し前に邪神の頂点と思われる奴の実力を見た」

 

「ひょっとしてパルミラ?」

 

「……」

 

「パルミラとエルエムだと、それこそ陽とホタルだよ。 しかもエルエムが完全の状態でね。 パルミラと戦って相応の報酬を受け取ったのなら、勝ち目はあるだろう」

 

アングリフさんは鼻を鳴らす。

 

もうこの二人の素性を詮索する気にもならないようだった。

 

他に何か敵の能力について知らないか、とお姉ちゃんが切り出す。

 

多分だけれども、わたしの危険を少しでも減らしたいのだろう。まああんな化け物と戦った後だ。気持ちは良く分かる。わたしもツヴァイちゃんの様子が心配でならない。

 

「邪神は共通して、肉体の高速修復能力を持っている。 エルエムもそれは例外では無く、今弱っているのは強敵との戦闘で高次元に存在するコアに甚大なダメージを受けたからだ。 コアにダメージを受けると、流石の邪神もどうにもならない。 邪神を殺すには、コアを完全に消滅させるか、もしくは飽和攻撃で肉体を完全に消し去るか、二択だ」

 

「コア……」

 

「流石にパルミラのような存在になると、そのコアさえ瞬間回復させるが、エルエムには其処まで出来ない。 心配はしなくても大丈夫だよ」

 

わたしは挙手。

 

炎と氷で、どうして連携できるのか。つながっているのなら、それは互いに力を打ち消し合ってしまうのではないのか。

 

実際わたしも、ブリッツコア四種を同時発動させるときは、打ち消しあわないように相当苦労した。具体的には、微妙な時間差を置いて敵に攻撃が届くように調整した。

 

それについては、分からないと応えられる。

 

というか、見てみないと分からないと修正されたが。

 

なるほど。

 

いずれにしても、幾つか分かった事がある。

 

この二人は多分深淵の者関係者。それも幹部クラスだろう。

 

子供の姿をしているのは、アンチエイジングをしたか、何かしらの処置をしたか。非戦闘員というのも嘘くさい。実際には自衛能力くらい持っている可能性が高そうだ。

 

だが、その場合、ソフィー先生がどうしてわたしを指名したのかが気になる。

 

難易度の高い仕事をさせて、力をつけさせるためだろうか。

 

しかし、深淵の者と強力なコネを持っているだろうソフィー先生が。その幹部に、危険をわざわざ冒させるだろうか。

 

或いはこの二人が、ソフィー先生の上位にいる可能性は。

 

いや、可能性はあまり高くないだろうとわたしは思う。地位的な観点ではあるかも知れないが。

 

あのソフィー先生が、自分の目的のために、誰かの下で働くとはどうにも考えにくいのだ。

 

多分イニシアチブを取りたがる筈で。

 

もしも上位の幹部と摩擦を起こすようなら、その時は容赦なく消すだろう。ティアナちゃんのような手駒も持っているだろうし、何よりあの実力。下手をすると武名高いアダレットの騎士団が総力でもソフィー先生には勝てない。いや、下手をしなくても多分勝てないだろう。

 

その上ソフィー先生はあらゆる意味で神かそれに近い能力に達している。

 

その状態で、人間の組織の下につくだろうか。

 

まさか、わたしを利用しての暗殺。

 

いや、それもまた考えにくい。

 

そんな事をしなくても、自分でやれば良いし。

 

ソフィー先生はわたしを大事な手駒だと認識している様子だ。手駒を使い捨てにするような事は無いだろう。

 

少し考え込んだが。

 

わたしは幾つか質問をした後。

 

仕方が無いと、腹をくくった。

 

いずれにしても、邪神の脅威は放置出来ないのだ。ただ出来れば、もう少し戦力が欲しいのだが。それもかなわないか。フルスハイムは今禁忌の森に対する城壁を作っている最中で、レンさんは手が離せない。オレリーさんはまだフルスハイム近辺の貧弱なインフラを強化している最中で、此方も手を貸せとはとても言えない。ディオンさんは戦いに向いていない。キルシェさんやノルベルトさんは少しばかり居場所が遠すぎる。ライゼンベルグの錬金術師達は力を借りるにはコネが無いし、何よりもそも戦闘向けでは無いだろう。

 

我々だけでやるしかない。

 

ライトさんとレフトさんには引き続き装甲船二番艦を任せるとして。

 

ただ、もう少し手勢が欲しい。

 

わたしはアトミナとメクレットを横目で見る。

 

少なくとも、この二人の護衛兼監視役が欲しい所だが。イルちゃんを見るが、首を横に振られる。

 

つまるところ、前に抜けたという腕利きの穴埋めで手一杯。二人を引き抜いてきただけで結構宿場町に負担を掛けている、と言う事だ。

 

やむを得ない。

 

傭兵を雇うか。アングリフさんに頼んで、数人回してもらうしかない。不死身のアングリフとまで呼ばれる人だ。声を掛ければ、腕利きが集まるだろう。

 

「ではまず威力偵察から。 それから、本格的な探索に入ります」

 

「うむ……異存は無いが、あのパルミラよりは劣るだろうが、相手は邪神だ。 何をしてくるか分からん。 最悪の場合の、退避手段が欲しいな」

 

「そうだな。 撤退の判断は早めにした方が良いだろうぜ」

 

アングリフさんに促される。

 

わたしは頷くと、明日、船を出す事を決めた。

 

 

 

装甲船二番艦が再び湖から飛び立つ。フルスハイムの人達が、港に鈴なりになって見に来ていた。

 

良くしたもので、観光目的に屋台まで開いている。

 

新しい名物扱いしている様子だ。まあ、現役で稼働している空飛ぶ船などライゼンベルグにもないだろうし、当然か。

 

まずはある程度浮遊して、ゆっくりと安全確保をしつつ、水を全て落とす。

 

艦底に獣が貼り付いていないかを確認。貼り付いている場合は、雷撃の魔術を炉を使って展開し、叩き落とす。

 

実際、二匹頭足類が貼り付いていたので。

 

この電撃で叩き落とし。

 

湖に転落した頭足類は、焼け焦げていた。すぐに湖がばしゃばしゃと泡立ち、水の中に引きずり込まれていく死体。

 

獣同士でのシンパシィなどない。

 

人間に対して一様に敵対的なだけで。

 

死ねば見ての通りだ。

 

水遊びとかをする場所が欲しいのなら、川では無く自分で作った水場でやるしかない。そういうものなのである。川に無防備な姿で入ったりしたら、瞬く間に獣の餌である。

 

問題が無いかを確認。

 

アングリフさんが腕組みして、じっとしているが。

 

不機嫌そうだった。

 

実は、昨日のうちにアトミナとメクレットを監視する要員を探して貰ったのである。

 

だが、答えは見ての通り。

 

それを出来そうな傭兵は集まらなかった。

 

何より邪神に対して威力偵察をする、というだけで殆どの人間が怖じ気づいてしまい。

 

それどころではなくなったのである。

 

結局、遠目に見ているだけ。

 

近頃の若造は、というような類のことを、アングリフさんは言わなかった。あくまで多分だが。邪神の実力は分かっているし、それを知っていながら金で戦えと誘うのは無情に過ぎると判断したからだろう。

 

わたしだって同じ立場だったら。

 

お金を払っても、命がけの仕事である事は告げるし。邪神と戦う事になる可能性が高い事も告げる。

 

それで相手が引いたのなら。

 

諦めるしか無い。

 

結局、仕方が無いので、アトミナとメクレットの二人には空飛ぶ荷車に乗っていて貰う。見張りはレヴィさんにして貰うつもりだ。

 

いずれにしても守りの要を担うレヴィさんだ。

 

二人を任せるには、他に人員もいないだろう。

 

充分な高度を確保。

 

ゆっくりフルスハイムを見下ろしながら移動を開始する。

 

船が珍しいのか、アードラが遠巻きに此方を伺っていたが。やがて距離を取ると、去って行く。

 

此方の方が遙かに大きい上。

 

感じる魔力が桁外れなので、仕掛ける意味がないと判断したのだろう。

 

もっとも、甲板に誰か出ていれば話は別だっただろうが。

 

今は皆船の中だ。

 

上空に出ると、温度や気圧がかなり変わってくる。

 

これについては、船の内外につけた計器類を確認して、わたしも知った。

 

カルドさんはメモを取っている。もっとデータが欲しいと呟いていたが。こればかりは、どうしようもない。

 

無尽蔵に動く魔力炉と言っても。

 

この船を毎日カルドさんの都合で動かす訳にはいかない。

 

そして統計はデータ量で精度が決まる。残念ながら、ちょっとやそっとのデータでは、ゴミにしかならない。

 

船がゆっくり西進を始める。

 

レヴィさんに呼ばれたので、頷いてアトリエの中に。

 

レヴィさんに渡したチェストを解放するという。

 

鍵については以前わたしが修復した。

 

さて、中には何が入っているか。

 

重さからいって、山盛りの金貨とか、凄い大剣とかではないだろう。それほど大きなものではない筈だ。

 

チェストそのものは「かなり頑丈」で。

 

というか、流石にパルミラのくれたチェストだけあって凄まじい強度で。

 

感じる魔力から言っても、使われている金属(声は聞こえるが、何かの合金と言う事しか分からない)から言っても。

 

壊す事は不可能だろう。

 

念のため、アングリフさんとお姉ちゃんにも立ち会って貰う。

 

鍵をかざすと。

 

レヴィさんは、何か変な呪文のようなものを唱え始めた。

 

「我が意思に従い、強固なる神の壁をこじ開けよ。 その存在は神の一端にて、世界を崩す扉なり。 おお我が手にある鍵よ、そなたの力を今此処に解放するのだ!」

 

「随分面倒な詠唱を作ったな」

 

「いえ……その、普通に入れるだけで開く鍵です」

 

「何だよ、てことはただの気分か」

 

アングリフさんが呆れるが。

 

わははははと笑いながら、レヴィさんが鍵をチェストに突っ込む。

 

そういえばあの鍵。

 

レヴィさんは何処で手に入れたのだろう。まあ詮索するのも野暮だ。ただ、もしもパルミラが面白半分でばらまいているのだとしたら。

 

いや、それも考えにくい。

 

パルミラは暴虐の権化にしか思えなかったが。

 

その一方で、悪意の類は感じなかった。

 

実際多少でも悪意があったのなら。

 

わたしたちを、戦いの前の状態にまで回復させる、などと言うことは絶対にしなかっただろう。

 

とにかく、鍵は鍵穴に差し込まれ。

 

チェストはすっと空いた。

 

多分錬金術での変質を行って、欠けた分を補修した。それだけが、あれを開ける鍵だったのだろう。

 

というのも、あのチェスト。

 

そのそも尋常な手段では手に入れる事など出来ないのだから。

 

チェストが開くと。

 

宝玉のようなものが入っていた。

 

鉱物の声が聞こえる。

 

どうやら、竜核や深核の、更に上位の品らしい。凄まじい魔力が。それこそ、ちょっと手を入れれば大爆発するような魔力を感じ取ることが出来る。

 

戦慄するわたしを横目に。

 

レヴィさんは小首をかしげていた。

 

「フィリス。 何だこれは」

 

「恐らく、凄く品質の高い……というか次元違いに凄い深核です」

 

「ふむ……」

 

困り果てた様子でレヴィさんも首をかしげる。

 

流石にこんなものを貰っても、換金するくらいしか使い路が無い。

 

嘆息するレヴィさんに、わたしが妥協案を出す。

 

「わたしが買い取ります」

 

「ふむ?」

 

「その代わり、その剣にもう少し手を加えても良いですか? アングリフさんの剣のように、熱を発するように出来ますけど」

 

「熱よりも何だかこう、触っていない相手を切り裂く事は出来ないか」

 

また抽象的なことを言われる。

 

わたしとしても困るが。まあ何とかするしか無いだろう。

 

「遠隔で斬ると言う事ですか? ……危なくないですか?」

 

「その辺りはフィリスの腕前でカバーしてくれ」

 

「……分かりました」

 

いずれにしても、今回は威力偵察だ。宝玉については保留として、一度コンテナに入れておく。

 

一度状況を見て、もしも行けそうならばそのまま邪神を討伐する。無理そうだったら、一度引き返す。

 

どちらにしても、時間はある。

 

一度アトリエを出て、備え直す。

 

遠くをドラゴンが飛んでいる。アラートが鳴るが、ドラゴンは此方に興味を見せず、悠々と飛び去っていった。

 

何か目的があるのかも知れない。

 

此方を完全に無視していたので、そう感じさせられたのだが。

 

まあ、その辺りはよく分からない。

 

禁忌の森の上空にさしかかる。

 

眼下を確認すると。

 

城壁が急ピッチで作られていた。船に向けて手を振っているが、甲板に出て振り返す訳にもいかないだろう。

 

かわりに、チカチカと船を光らせた。

 

最低限まで出力を落とし、雷撃の術を展開したのだ。

 

船が瞬いたことで、意図を察してくれたのだろう。下で働いている人達が、わっと喚声を上げる。

 

フルスハイムの象徴だ。

 

空まで飛んでいるぞ。

 

そんな声も聞こえてきた。

 

わたしだけで作ったものではない。

 

むしろわたしだけで行った戦略事業なんて、ほとんどない。殆どの場合は、誰か頼りになる錬金術師の補助を受けていた。

 

わたしは、いつ。

 

一人前になれるのだろうか。

 

今も側にお姉ちゃんがいて。

 

アングリフさんが顧問のようなことをしてくれていて。

 

ツヴァイちゃんが数字を管理してくれて。

 

結局、わたしは皆のアドバイスを聞きながら、錬金術師をそれとなくやっていく事しか出来ていない。

 

嘆息する。

 

あの喚声を受ける価値は、わたしにはあるのだろうか。

 

何より、この世界の先にあるどん詰まりの未来。あれを打破できるとは、とても思えないのだ。

 

ふと気付くと。

 

イルちゃんに、アトミナとメクレットが何か話しかけていた。

 

揶揄するようにひそひそと、だけれど。

 

イルちゃんはぐっと拳を握りしめて、悔しそうだ。アリスさんは側に控えているが、何も言おうとはしない。

 

わたしは話しかけるべきでは無いと判断したので。そのまま船を進めて。更に高度を上げていった。

 

程なく、空に浮かぶ岩の塊の全容が見えてくる。

 

わたしが丸ごと砕いた岩山のどれよりも大きい。凄まじい巨大さだ。

 

岩隗の上には木が生い茂っていて。

 

獣も多数生息している。

 

しかも岩隗は一つでは無く、多数が複雑に入り組むようにして存在していて。それらはまるで迷路のようにつながり、絡み合っていた。

 

「総員警戒!」

 

「微速前進してください」

 

「微速ー前進ー」

 

ライトさんがゆったりという。

 

こういうしゃべり方は、船の操舵というものが取り返しがつかないから、らしい。わざとゆっくり分かり易く言う事によって、聞き間違えないようにし。操舵の事故を避けるために行っているそうだ。

 

他にもアイアイサーなどと言った用語も。船乗り独自のものらしい。

 

なおこの二人にはマニュアルを渡した後。

 

カイさんに軽く研修をして貰ったのだが。

 

その際に、こういうしゃべり方を叩き込まれたそうである。すぐに身につけたのは、流石と言うべきだが。

 

やがて、一番大きな岩隗に出る。

 

なんと湖まであり。

 

巨大な、それこそ屋敷ほどもあるぷにぷにがいて、何かを貪り喰っていた。

 

これは、文字通りの魔境だ。

 

生半可な傭兵は、この光景を見ただけで尻込みし、逃げだそうとしたかも知れない。逃げる場所なんて、どこにもありはしないが。

 

ある意味、むしろ良かったのだろうか。

 

無理矢理傭兵を連れて来ても。

 

これでは、役になど立たなかっただろう。

 

アトミナとメクレットを見る。

 

二人は平然としている。

 

やはりただの子供では無い。こんな光景を見て、平静でいられる子供など、想像も出来ないからだ。

 

ツヴァイちゃんは、邪神と聞いてから青ざめていたが。

 

今は大分落ち着いているようだ。

 

ドラゴン戦にも参加したツヴァイちゃんである。ネームドとも獣とも、散々間近で戦いを見ている。

 

それなのに、此処までのダメージを心に受けるなんて。

 

わたしも、正直言うとまだ怖い。

 

だが、やらなければならない。

 

船が下りられそうな場所を見つけた。一旦船を停止させ、様子を確認する。もしも獣が仕掛けてくるようなら、主砲を叩き込んで蹴散らす。

 

だが。岩隗が豊富な緑に覆われているからか。

 

獣は此方に対して警戒はしているようだが。

 

少なくとも、無差別に攻撃をしてくる様子は無かった。

 

「降り……」

 

「いや、もう少し周囲を確認しておくべきだ。 邪神……エルエムとか言ったか。 そいつがどの辺りにいるかくらいの見当はつけたい。 今回はあくまで威力偵察だからな」

 

「そうでしたね。 わかりました。 微速ー前進ー」

 

ライトさんがまた、微速前進を伸ばして言い。

 

装甲船二番艦は、ゆっくりとその場から動き始めた。

 

入り組んだ浮かぶ岩の間を縫って進んでいく。小さな岩隗も浮かんでいるので、外に出てサンプルを採取。

 

装甲が装甲だから、岩がぶつかったくらいではびくともしないが。

 

それでも、速度はあまり上げない方が良いだろう。

 

バードストライクの恐ろしさについては、散々調べて知っている。

 

速度を上げると、鳥でさえ飛翔体に致命的なダメージを与えるのだ。鳥より遙かに質量が大きい岩がぶつかったらどうなるか何て、はっきり言って考えたくも無い。

 

道具を取り出す。

 

前にフロッケ周辺を調査するときに使った道具だ。

 

それを炉と接続して、岩隗を上から調査する。

 

イルちゃんとパイモンさんにも原理は説明。パイモンさんは、レシピを売ってくれとすぐに飛びついてきた。

 

「それほど難しいレシピでは無いですよ」

 

「いや、これはフィリスの考えより完成度の高いレシピだ。 わしの村の周囲を調べるのに、一つ作っておきたい」

 

「わかりました。 それでは」

 

レシピを渡す。

 

あまり自覚は無かったが、いつの間にかわたしのレシピは、そんなに良いものになっていたのか。

 

浮遊島の間を調査しながら進んでいくと。

 

なんと逆さに植物が生えている島を確認。

 

よく見ると、ゆっくり回転しているようである。

 

確かに、通常ではあり得ない生え方だ。普通の植物があんな風に生えるなんて、あり得る事では無いし、そもそもお日様を浴びることが出来ない。

 

お日様がいらない植物も存在するが。

 

あれはどう見てもそうだとは思えなかった。

 

メモを取っておく。

 

調査もしておく。

 

更に奥へ進もうかと思ったが、細かい岩が船体にぶつかり始める。どんどん岩が小さくなってきているのだ。

 

船が通れる隙間が無くなってきている。

 

プラティーンの合金と、ハルモニウムで固めている船体だ。

 

ちょっとやそっとの岩がぶつかった程度では傷の一つもつかないが。これ以上大きい岩となってくると、話も別になってくる。

 

面倒だ。

 

わたしは、周囲の鉱物の声を聞きながら思う。

 

「微速後退してください」

 

一旦は、此処までだ。

 

ツヴァイちゃんが、イルちゃんと協力しながら、今まで見て回った箇所の地図を、書き下ろしている。

 

此処が一筋縄ではいかないこと。

 

そして恐らく船で直接邪神に挑めないことは分かった。

 

威力偵察の成果としては、それで充分。

 

ならば、引き上げるまでである。

 

一度浮島地帯を抜け。

 

そして、フルスハイムにまで戻る。

 

殺気を向けられる事も。

 

獣に絡まれて、大きな打撃を受けることもなく。装甲船二番艦は、フルスハイム東の湖に着水。

 

既に夜中になっていた。

 

一度解散とし。

 

以降のことは明日考える事とする。

 

アトミナとメクレットは、なにもそれについては言わなかった。ただ、調査を止めて良いとも言わなかった。

 

つまり明日以降も。

 

別の角度から、あの浮遊島群を、調査しなければならない、と言う事だ。

 

気が滅入るが、やむを得ない。

 

わたしは、明日以降の計画を考えながら、船の甲板に出る。鉱物の声を聞き、船体のダメージを確認。

 

幸い、補修は必要なく。岩がぶつかった場所も、傷一つついてはいなかった。

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