暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、浮島へ

ちかりと瞬く。

 

直後に、衝撃。

 

船全体が陽動。炉の数値を見て、確認。イルちゃんの見立ては正しい。多分十発までなら、耐えられる。

 

「第二射来ます」

 

「面舵いっぱい!」

 

勿論直撃は避けられない。

 

だがつるべ打ちにされるのは避けなければならない。二度目の直撃。だが、舵を切った装甲船二番艦は浮遊岩を盾にしながら、ゆっくり敵の射線から逃れる。三度目の直撃。だが、四度目は無かった。

 

お姉ちゃんが、三度の攻撃をしっかり観測してくれていた。それによると、わずかに曲がっていたという。

 

なるほど。

 

直進だけでは無く、ある程度攻撃の軌道を操作する事も可能、と言う事か。

 

厄介な話だ。その気になれば、ぐっと曲げることも出来るのかも知れない。

 

ドラゴンのブレスが、同じように曲げられるとは考えにくい。

 

そうなってくると、やはり人間のとは出力違いの魔術と判断するべきだろう。

 

「船体ダメージ無し」

 

「炉の状態は」

 

「現在調整中」

 

「……」

 

慌ただしく周囲を確認しながら。

 

地図を書いているカルドさんを見る。ツヴァイちゃんが幾つかアドバイスをして。コンパスと定規を忙しく動かしているカルドさんは、結論を出したようだった。

 

昨日から連続で四日間。

 

威力偵察を続けている。

 

その間に、合計三十七回の攻撃を受け。

 

一度は五連続での攻撃を受けた。

 

攻撃の性質はいずれも同じで、直撃すれば炎上する謎の魔術。質量も伴っている。シールドではじき飛ばすことが出来るが。敵は一度も攻撃を外していない。

 

つまり狙ったところに、狙った通りに当てている。

 

お姉ちゃんが言う所の、当ててから放っている、という状況なのだろう。

 

炉が落ち着いてから、再び探索に戻る。

 

今度は射撃を浴びなかったが。

 

今の攻撃の余波で、かなり浮遊岩が動いている。それが理由かも知れない。邪神といえども、何かしらの理由で森を傷つける事は避けたいのだろう。

 

幾つか分かってきたことがある。

 

それに、地図もかなり完成してきた。

 

一度浮遊島の真上に出て。全体図を確認。

 

その後、フルスハイムへと帰還した。

 

どうやらフルスハイムでは、遠くで連日光が瞬いていると話題になっているらしく。レンさんの所に不安になった重役が訪れまでしているという。

 

わたしが禁忌の森の上空を調査していること、邪神がそこにいて、討伐しなければならないことは告げてあるが。

 

やはり、邪神を変に刺激しているのでは無いかと、不安なのだろう。

 

邪神がフルスハイムを襲撃した場合の事など、誰も考えたくもないのは分かる。

 

ドラゴンでさえあれほどの惨禍だったのだ。

 

現状の、再編成途上のフルスハイムの戦力では、邪神を撃退などとてもではないが無理だ。

 

不安を出来るだけ急いで取り除くためにも。

 

早々にエルエムを殺さなければならない。

 

船をドックに入れると。

 

皆で会議をする。

 

地図は出来た。

 

後はどこから、どう攻めるかの段階になった。

 

調査も散々行った。

 

それによって、幾つかの事が分かってきた。

 

「やはり浮遊島は三層構造で間違いなさそうだな。 そして邪神エルエムは、一番下の階層にいる」

 

地図から顔を上げて、パイモンさんがいう。

 

異論は無い。

 

頷くと、わたしは攻撃を受けた線を、順番に指さしていく。その中には、お姉ちゃんが確認した攻撃時の軌道変更も含まれている。

 

「やはり邪神は明確な敵意を人間に持っています」

 

「まあだから邪神なんだけれどね」

 

「……恐らくいるのは此処でしょう」

 

それは、地図では記されていない場所。

 

敵は射線が通ったときには即座に攻撃してくるし。

 

何よりも、射線が通っていなくても、曲射してくる。

 

そうなってくると、出会い頭の攻撃を受けた時のデータを元に、敵がいると推察される場所を絞り込むしか無い。

 

その結果。

 

かなり狭い範囲に、敵の居所を絞り込むことが出来た。

 

そして、ここからが重要だ。

 

どうやって近付くか。

 

船で無計画に近付くのは論外。

 

そもそもあれだけ積極的にアウトレンジ攻撃をしてくる相手だ。多分近付く前に炉がオーバーヒートして、シールドが壊され。最終的には撃沈させられる。

 

流石にパルミラほどの戦闘力はないにしても。

 

船に対する正確極まりない攻撃と。それを連発しても衰えない様子からしても、弱体化していても邪神の実力は明らかだ。

 

そうなると、ある程度安全確保した場所で一旦船を下り。

 

狙撃を避けられる位置を綿密に計算しながら動き。

 

そして接近戦を挑むしか無い。

 

接近戦を挑むにしても、戦う時に消耗しきっていると話にならない。相手は接近戦においても最低でもドラゴン並みの実力を持っているとみるべきで。

 

それを考慮すると、はてどうしたものか、となる。

 

地図を見て、敵の射線を確認すると。

 

三層ある浮遊島の内、上の一層から空飛ぶ荷車を使って接近するのは論外と見て良いだろう。

 

多分途中であの攻撃の直撃を受ける。

 

そうなると、ある程度の被弾を覚悟の上で、二層にまで降り。其処から死角を縫って近付くしか無い。

 

しかし、地図をびっしり埋め尽くしている敵の射線を見ると。

 

そんなルートは開発できるかどうか。

 

お姉ちゃんが挙手。

 

カルドさん以上の狙撃手であるお姉ちゃんには。

 

しっかり敵の攻撃を観察して貰っていたのだ。

 

「フィリスちゃん。 明日、このルートで通って貰いたいんだけれど、良い?」

 

「正気か!?」

 

アングリフさんが思わず身を乗り出す。

 

ドロッセルさんも腕組み。

 

何というか。

 

色々とまずい。

 

それは、攻撃を最も激しく受けた射線が集中している場所だからだ。

 

だからこそだと、お姉ちゃんは言うのだが。

 

「見たところ、他のルートでは、射線が通っているか、若しくは攻撃可能な状況でも仕掛けて来ていないケースがあるわ。 恐らくだけれども、此処が急所よ。 此処を無理にでも突破出来れば、多分一気に敵の懐に飛び込めるわ」

 

「可能性はあるけれど」

 

「だから、このルートを通るの。 恐らく攻撃頻度から言って、安全圏まで抜けるまで7~8回の攻撃を受けるはず。 だけれども、もしも私の考えが正しければ……」

 

上手く行けば、敵に主砲をたたき込める所まで、接近することも可能かも知れないと、お姉ちゃんは断言した。

 

なるほど、一理ある。

 

何しろ狙撃のプロの発言だ。

 

更に、今のお姉ちゃんは、わたしが作った神衣を纏ったことで、更にスペックが上がっている。

 

多分頭の回転も速くなっているはずで。

 

まず信頼して良い。

 

「リア姉、上手く行けば……」

 

「いや、駄目な場合も考えられるから、相手の反応を見るのよ。 最悪の場合は、此方のルートに変更して、船体へのダメージをある程度無視してでも強行突破、フルスハイムまで逃げましょう」

 

「……そうだね」

 

現実的な考えだ。

 

実際問題、現状では危険の大きい強行突破策か、発見されたら即死確定のハイドアタックしかない。

 

それならば、むしろ相手が重点的に攻撃を仕掛けてくる地点を調査。

 

突破出来るようならばした方が良い。

 

呼吸を整える。

 

反対意見を募るけれど。

 

特に誰も反対はしなかった。

 

ならば決まりだ。

 

他に策も無いのである。ならば、この手を否定する理由はない。何よりも、威力偵察というのはそういうものだ。

 

一度解散。

 

ゆっくり休む事を皆にあえてアングリフさんがいう。

 

詰まるところ、恐らくは明日が決戦になると判断したのだろう。

 

明日が駄目でも、突破「不可能」なルートが見つけられればそれで良い。むしろ敗因になり得る要素を見つけられれば、その方が勝率が上がるからだ。

 

ただ、邪神は「今は」弱っている状態。

 

パルミラとの交戦経験を考える限り、ずっと弱っていてくれているとは考えにくい。

 

多分、そう残り時間はない。

 

明日決めるのが。

 

確かに現実的かも知れなかった。

 

 

 

上空に出る。

 

お姉ちゃんが想定したルート通りに侵攻を開始。敵からもっとも狙撃を受けた地点だが、それが故に。

 

敵にとっては突破されては困る場所の可能性が高い。

 

それが正しい。

 

そう自分に言い聞かせながら。

 

いざという場合には、即座に逃げられるように、ライトさんとレフトさんの方も見る。場合によっては柔軟に。

 

アングリフさんがいう。

 

勝つ場合に理由が無くても。

 

負ける場合には理由があると。

 

ならば、負ける理由を造らなければ良い。わたしは生唾を飲み込むと、見えてきた浮遊島と。

 

地図を見比べた。

 

そろそろ、来る筈だ。

 

そして、予想通りに、敵の第一射が来た。

 

直撃。

 

シールドが中和する。

 

シールドを展開しているから、速度は上げられないが。だが、そのまま進む。第二射。第二射までの感覚が、想定よりもかなり早い。

 

だが、それでも現時点での行動に代わりは無い。

 

第二射もシールドが防ぎきる。

 

浮遊する岩隗の間に突入。

 

此処で三層ある岩隗の、下層すれすれまで高度を落とす。もしもこれで三層に邪神がいるとすれば。狙撃される頻度が減るはず。

 

だが、殆ど間を置かず。

 

第三射が来た。

 

岩隗が揺れているのが見えた。

 

木々も激しい熱と風に揺れている。

 

なるほど、これは。

 

どうやらお姉ちゃんの判断は正しかったと見て良さそうだ。敵は慌てていると見て良い。植物への被害を無視してまで狙撃してきたのだから。

 

このまま行く。

 

「総員、総力戦用意!」

 

アングリフさんが叫ぶ。

 

言われなくても、準備は終わっている。

 

第四射、第五射。立て続けに来る。だが、いずれもシールドで防ぐ。だが、炉が警告音を発した。

 

そういう機能をつけてあるのだ。

 

「負荷増大」

 

「どうする、そのまま行くか」

 

「そのままで!」

 

「よし……」

 

アングリフさんが舌なめずりする。

 

もう、後には引けない。

 

第六射。シールドの負荷が、目に見えて大きくなってきた。炉もスパークしている。十発までなら耐えられる。そのイルちゃんの見立てが正しい事を、信じる。

 

「邪神確認!」

 

カルドさんが叫ぶ。

 

同時に舵を切る。

 

邪神は、まだ点のようにしか見えないが、想定の範囲内に確かにいた。そして、その背後には、馬鹿みたいに巨大な魔法陣が浮かんでいる。

 

なるほど、とんでも無い出力だ。

 

あんなばかでかい魔法陣を展開しているなら、この高火力狙撃を連発出来るのも道理か。

 

「アトミナ」

 

「ええ」

 

二人が、頷きあっている。

 

そういえば。

 

何か見える。

 

あれは船の残骸か。と言う事は、どうやら間違いないらしい。こんな所に船の残骸がある筈も無い。

 

あれは、あの邪神に落とされたのだ。

 

船を叩き落とす大火力の狙撃によって。もう狙撃と言うより、ピンポイント砲撃とでも言うべき代物だが。

 

そうか、ならば人間の害。駆除しなければならない存在と言う事は確実だ。消し去らなければならない。

 

神だろうが何だろうが関係無い。

 

これ以上のさばらせる訳にはいかないし。ましてや、あんなのをフルスハイムに近づける訳には絶対にならない。

 

ドラゴンが襲来したときとは比較にならない惨禍が起きる。

 

数千人死ぬかも知れない。

 

絶対にそんな事は許してはならないのだ。

 

「主砲!」

 

「フルパワーで撃てます」

 

「待って、主砲を撃つとシールドが耐えられなくなるわよ!」

 

「ライトさん、次の射撃を受けた次の瞬間、シールド解除、主砲でフルパワーの射撃、行ける?」

 

その場合。

 

シールドを張り直せなくなる可能性が高いと、ライトさんが言うが。

 

かまわない。

 

シールド無しでも、一撃くらいなら耐えられる。

 

やれやれと、アングリフさんが隣で頭を掻いていたが。此処はつきあってもらうしかない。

 

タラップを解放できるようにする。

 

甲板から出て戦闘なんてまどろっこしい真似は出来ない。総員、二台の空飛ぶ荷車に分乗して貰う。

 

邪神が、ここで。

 

想定外の動きを見せる。

 

不意に、背負っている巨大な魔法陣が、数倍に巨大化したのだ。

 

アングリフさんが、わたしの指示を聞いて、即時に作戦を立ててくれた。

 

というよりも、他に手はない。

 

「多分次の一撃しかシールドは耐えられん! シールドを敵の攻撃がぶち抜いた瞬間、タラップ解放、全員船を脱出、船は主砲を撃ちつつ軟着陸しろ! 敵の動きが一瞬でも止まった隙を狙って、総員で仕掛ける! 相手はあのパルミラ程では無いにしても圧倒的な力の持ち主だ! 秒も無駄にするな! ライト、レフト、主砲を撃ち次第船は良いから戦線に加われ!」

 

「アイアイサー」

 

「……」

 

イルちゃんが唇を噛んだ。

 

もう他に手もない。

 

あのばかでかい魔法陣、フルパワーでは無い可能性だってある。

 

これで弱っている、というのだから嫌になる。

 

本当にとんでも無い怪物を相手にしているのだと、間近で感じてしまう。

 

敵が、今までの数倍の火力で、砲撃してくる。

 

火力が大きくなったからはっきり見えたが。

 

先に灼熱が。

 

次に極寒が。

 

ほんのわずかな差で、撃ち出されている。

 

何かの参考になるかも知れない。

 

シールドが相殺、消滅するが。船が大きく傾ぐ。すでに空飛ぶ荷車に分乗していたから関係無いが、ライトさんとレフトさんは、上手に踏ん張って、操舵を続け。

 

そして、主砲をお返しとばかりにぶっ放していた。

 

超高出力の雷撃が、間髪入れずに撃ち返され。

 

邪神を直撃、その全身を光が包み込む。奴がいるのは何も生えていない岩の上。邪神の周囲だけ、岩が露出し、草も生えていないのだ。

 

つまるところ此奴。

 

世界に力を漏出させてはいるが、自分が戦いやすいように。周囲だけ緑化していない、と言う事だ。

 

狡猾な奴である。

 

だが、それが徒になり、主砲が直撃。その瞬間、タラップ解放。まずわたしの乗る空飛ぶ荷車が飛び出し。

 

そしてもう一台にライトさんとレフトさんが飛び乗ると同時に発進。

 

大爆発を起こした邪神に、一気に間を詰めた。

 

煙が晴れる前に、荷車を飛び出し、散開。二台目でも同じようにする。そして流石は邪神。

 

煙などものともせず。

 

頭に来るほど正確な狙撃で、空飛ぶ荷車を直撃。

 

ハルモニウム製とはいえ、飛行キットまではそうではない。

 

車輪も吹っ飛び、地面に叩き落とされる。

 

もし乗ったままだったら。

 

多分死んでいただろう。

 

頭に来た。

 

ずっと大事にして来た荷車だ。あんな風にされたら絶対に許せない。

 

全員が無事に展開完了。

 

煙が晴れると、多少傷ついてはいるが、それでも高速で修復を開始している様子の邪神。

 

なるほど、高速修復能力は、パルミラほどではないにしても当然のように備えている、と言う事か。

 

だったら作戦通り。

 

一気に決めるしか無い。

 

後方で、軟着陸した装甲船が、大きな音を立てている中。

 

戦いが始まった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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