暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、洞窟の脅威

初めての緑には感動した。

 

本当にこんな場所があるのかと、涙さえ出てきた。

 

ずっと茶色ばかり見てきたから。

 

お外の事が書かれた本が全て嘘しか無く。

 

緑なんてないのではないかとさえ思い始めていたのだ。

 

やはり感情の制御が上手く行かない。

 

草についても、貰った図鑑を見ながら、一つずつ調べる。声が聞こえるなら、どれくらい採っても大丈夫なのか分かるのだろうけれども。それは流石に、すぐにやるわけにはいかない。

 

お姉ちゃんに聞きながら。

 

慎重に採取する。

 

何度も側で説明を受けた。

 

「この世界は、基本的に殆どが荒野で、緑は錬金術師が作ったか、特殊な事情で存在しているか、もしくは邪神がその場所にいるかのどれかしかあり得ないの。 此処は邪神が存在するケースよ」

 

「うん。 でも、大人しい邪神なんだね」

 

「そうよ。 ただし怒らせたらエルトナを滅ぼしに来るかも知れない。 だから、丁寧に、慎重にね。 根を傷つける事は絶対に厳禁。 果物も、熟していないものは絶対に採っては駄目よ」

 

「はい」

 

お手本を見せてもらって。

 

葉を採取したり。

 

果物を採ったりする。

 

周囲では、この間倒したウサギよりおっかない動物がたくさん此方を見ていた。彼らはこの緑を守っているのだろう。此処を開発して切り開くなんてもってのほか、というか。多分そんな事をしたら邪神に殺される。

 

ソフィー先生は容赦のない人に見えたけれど。

 

此処に手を出していない様子を見るに。

 

無害な邪神には基本何もしないのだろう。

 

つまり、この世界の大原則なのだ。

 

荒野がこれだけ拡がっている世界なのである。

 

動物でさえ。

 

緑を奪うことを絶対の禁忌としている、というわけだ。

 

その一方で、襲いかかってくる植物もいるという。

 

こういう植物は、例外の部類に属し。

 

場合によっては知能さえ持ち。

 

周囲の動物を殺して栄養にし。

 

生きているタイプだそうである。

 

お姉ちゃんもあまり多くは見た事がないらしいのだけれど。

 

何しろ植物なので、凄まじい巨大さに成長する事もあるし。

 

魔術を使うものもいるらしく。

 

危険度では、大型の肉食獣と大差ないという話だった。

 

とにかく、昂ぶる心を抑えながら、周囲を採取して周り。品質は決して良いとはいえないけれど。それでも素材は相応に手に入れる。

 

すぐにコンテナに運び込む。

 

そしてコンテナの魔術が、今更ながらに物資の新鮮な保存をしてくれている事に気付くが。

 

それはそれだった。

 

やはり、このコンテナ。

 

まだ逆立ちしても届かない錬金術で作られている。

 

このすごさは、多分説明しないと誰にも分からないだろう。

 

ひよっこの錬金術師であるわたしも、今更気付いたのである。

 

キャンプは、緑がわずかに拡がっている地帯から離れた所に建てたが。

 

そのキャンプも。

 

じっと獣たちに見張られているようだった。

 

だが、手出しをしてこないのは。

 

此方がルールを守って採取をしたからだろう。

 

獣たちでさえ、この世界での決まり事を守って植物を食べているくらいなのだ。

 

ただ、疑問も湧く。

 

みんなどうやって、あんな巨体を維持しているのだろう。

 

それが分からない。

 

お姉ちゃんが、この間仕留めたウサギを料理してくれる。

 

そして、今日はちょっといつもと違っていて。

 

料理の仕方を、わたしにも教えてくれた。

 

普段は血なまぐさい事は一切わたしにはさせようとしなかったのだけれど。

 

どうも外に出てから。

 

お姉ちゃんは色々と違ってきている。

 

「まず、一番フィリスちゃんが好きな兎肉のソテーを作りましょう」

 

「うん、分かった」

 

「最初に必要なのは……」

 

油も、ウサギから採取したものがある。

 

調味料関連は、お姉ちゃんがある程度持ち出してきていた。それを見て、ある程度思いつく。

 

素材さえ揃えば。

 

わたしでも造り出せるかも知れない。

 

爆弾とお薬の次は。

 

順番に、生きていくのに必要なものを、錬金術で作っていくべきだろう。

 

ナイフを使って切り分け。

 

アトリエの奥にある調理場で料理をする。

 

煙は何処かへ逃げていく。

 

外に出て行く様子は無いのだけれど。

 

アトリエの中に留まる様子も無い。

 

見ると、煙を吸い取る仕組みがついていて。

 

何処かに捨てているらしい。

 

どうやっているのかはよく分からないのだけれど。

 

多分、どこか知らない場所に捨てているのだろう。これも、ソフィーさんが作り上げた仕組み、というわけだ。

 

手本を見せてくれたお姉ちゃん。

 

その通りにやってみるが、上手くいかない。

 

ナイフの持ち方から習い。

 

順番に少しずつやっていく。

 

お姉ちゃんの五倍も時間を掛けながら。

 

何とかお肉を適当な大きさに切り分けて、火を通す。

 

一度燻製にしているから、温めるだけ。

 

新鮮なお肉の場合は、また調理方法が違うらしいのだけれども。

 

それはそれだ。

 

燻製は、それはそれで煙がしみこんでいて、これが奥深い味に変わってくれている。

 

火を通した後。

 

あまり高級とは言えない調味料で味付け。

 

ただしこれも腕次第で。

 

とても良い味に化けるという。

 

頷きながらやり方をならい。

 

メモを取る。

 

このメモを取るためのゼッテルも、今のうちにたくさん増やしておかないとならないだろう。

 

植物を早速有効活用するべきかも知れない。

 

やっと食事が仕上がったので、食べる。

 

ソテーといっても、ただ肉を焼いたわけでは無く。

 

軟骨なども利用して、味付けに使っている。

 

お姉ちゃんの味を完全再現出来ているわけではないけれど。

 

それでも充分に美味しかった。

 

満足して、今日は休む。

 

だけれど、起きだしたら。

 

幾つもやる事が浮かんで来て。

 

すぐに錬金釜に向かう。

 

まずはゼッテルだ。

 

これについても何となく分かる。図鑑を見て、確認。まず植物を丁寧に潰して、繊維単位まで分解。

 

更にこれから不純物を取り除き。

 

ゆでで更に邪魔なものを取り去る。

 

繊維だけにして、これが透明になるまで煮込んだ後。

 

中和剤を使って魔力を取り込ませ。

 

更に釜の表面に浮かんで来たものを、掬い上げて。

 

平らに並べ。

 

乾くのを待つ。

 

中和剤は水から作ったものだが。

 

紙として定着させるまでに。

 

まずは魔法陣を描き。

 

その上で、魔力を流し込みながら。

 

固定化にも利用する。

 

基礎的な錬金術の資料を見ながら、順番にやっていくが。

 

やはりというかなんというか。

 

最初はごわごわのものしか出来なかった。

 

少なくともこれは売り物にはできない。

 

ただ、自分で使う分には申し分ない。

 

ペンで書いてみるが。

 

インクが染みるようなこともないし。

 

手触りと見かけ以外は。

 

かなり良い品だ。

 

魔力も籠もっているから、むしろ魔法の道具の素材に使うのであれば、これで充分かも知れなかった。

 

資料を見て。

 

もう一度作って見る。

 

今度はなめす行程を入れてみる。

 

乾かす途中で。

 

棒を使って、満遍なくなめす。

 

失敗すると、すぐに繊維が棒に絡みついてしまうので。

 

慎重にやらなければならない。

 

というか、棒が濡れていると絡みつきやすくなると分かったので。

 

棒を毎回乾かし。

 

そして繊維がある程度乾いたタイミングを見て。

 

棒でなめすことを丁寧に行った。

 

手際が悪い。

 

分かってはいるけれど。

 

この辺は手探りでやるしかない。

 

何度か失敗して、また煮込んで。乾かして。

 

一日が過ぎた頃に、ようやく二度目の成功。今度は、一度目のごわごわゼッテルではなく。

 

かなり良いものが仕上がった。

 

少なくとも見かけは、だ。

 

魔力が籠もっているし。

 

魔法陣などを描けば、かなり役に立ってくれる筈である。

 

魔術が関連する道具などに取り込めば、非常に強力な力を発揮してくれる筈だ。

 

あくまで今のフィリスの基準で、だが。

 

額の汗を拭うと。

 

メモを取っておく。

 

コツは覚えたウチにしっかり記憶しておかないといけない。

 

更に調味料だ。

 

これについても、入手した幾つかの木の実をすり潰して。

 

作ってみることにする。

 

こっちはゼッテルと違って、レシピもないのでかなり難しい。こうすればこうなるのではないか、という閃きのままにやってみる。

 

ただ、やはり所詮閃きは閃き。

 

一発で上手く行くわけがない。

 

上手く味が混じり合わない。

 

中和剤の基本から見直して。

 

何度か繰り返していくウチに。

 

やっとそれっぽいものが出来る。

 

塩だ。

 

だが、塩といっても。

 

それほど味は濃くないし。

 

調味料として使うのはかなり厳しい。

 

砂糖も作って見たいが。

 

あれはもっと難しいだろう。

 

甘い果実がそもそもそんなにたくさん多く無いし。

 

その中から、甘さだけを取り出すのは、本当に大変だろう事は、わたしだって分かるほどだ。

 

とにかく塩っぽいものも、きちんと利用する。

 

幸い口に入れて有害かどうか見分ける魔術が使えるので。

 

さっと使って、問題ない事を確認。

 

ただし、少し塩を振ってちょっとだけ燻製肉を食べてみたが、もの凄くまずかった。でも、自分で作った塩による調味だ。責任を持って、きちんと片付ける。

 

後は何かしらの工夫をしていって。

 

少しずつ調整していけば良いだろう。

 

今は材料も無い。

 

岩塩でもあれば、多少は楽になるのだけれど。

 

あれはあれで、限られた地域にしかないと聞いている。

 

海があればもっと楽だろうけれど。

 

海は更に遠い。

 

つまるところ、どちらも現実的ではないわけで。

 

今の時点では、このレシピは保留だ。

 

ゼッテルをある程度作っておいて。

 

出来が悪いゼッテルをレシピのメモ代わりに使い。

 

コンテナに収めておく。

 

コンテナには空きの棚もかなりあったので。

 

そこに収めておく。

 

コンテナにたくさんものが入ろうが、アトリエの重さは変わらないことが分かっているので。

 

多分コンテナまで圧縮しているのではないのだろう。

 

いずれにしても、今のわたしには、理論さえ想像できない事だ。

 

やっと外に出て。

 

東に向かう。

 

山だらけの地帯を抜けるまでが大変だと、お姉ちゃんは言う。

 

街道と呼ばれている、ただ踏み固められただけの地面も。

 

実際問題、殆ど薄れてしまっていて。

 

周囲とロクに区別も付かない。

 

もちろん獣も平然と此方まで出てくる。

 

此方が街道にいるからと言って。

 

容赦などしてくれない。

 

あのウサギより、もっと大きなウサギがいるのを見て、お姉ちゃんがわたしを手で制止。一緒に岩陰に隠れる。

 

戦わないのかと聞いてみたが。

 

首を横に振られた。

 

「今の戦力では厳しいわ。 あれ、最初に戦ったのより二回り強いわよ」

 

「うわ、そんなに」

 

「品種が違うの。 より攻撃的で、魔術も使う種よ。 相手も既に此方に気付いているから、隠れた事によって戦意が無いことを示すの。 もしそれでも戦うつもりなら、私が命に替えてでもフィリスちゃんを守るわ」

 

「……」

 

お姉ちゃんの言葉に頷いて。

 

口を押さえる。

 

じっとウサギが此方を見ている。

 

鋭い目つきだったが。

 

やがてついと視線を背けると、巨体でどすどすと音を立てて歩き去って行った。

 

それを見送った後。

 

お姉ちゃんが教えてくれる。

 

「あのウサギ、子供がおなかにいたわ」

 

「えっ!」

 

「そういうこと。 ただでさえ品種が攻撃的な種類の上に、子供まで抱えているとなると、凶暴性も倍増しよ。 肉食獣でさえ手を出したがらないでしょうね」

 

「リア姉、凄いね」

 

お姉ちゃんは首を横に振る。

 

もっと強い戦士が外には幾らでもたくさんいると。

 

そしてわたしもそれは何となく分かる。

 

ソフィー先生は異次元としても。

 

ソフィー先生だけが異次元に強いわけではないだろう。

 

多分、だけれども。

 

戦いを生業にしているような人の中には。

 

強い人が幾らでもいるはずだ。

 

呼吸を整えると。

 

水場に出る。

 

水がこんこんと沸いているが。

 

見ると、か細い川が近くを流れている。

 

お外の事が書いてある本に書いてあった。

 

川というのは、実際には地下にとても深く拡がっているものらしくて。

 

側を通っているだけで、かなりの水が周囲に浸透しているのだとか。

 

川の側に緑が見られる事もあるが。

 

それも、そもそも大きな川があまりないし。

 

邪神が加護していないと難しいという。

 

水場には、甲羅だけでわたしより遙かに大きい、あからさまに肉食のカメが何匹も屯していた。

 

幸い此方には興味を示さず、水場でじっとしていたので。

 

距離を取ったまま、桶を使って水を汲む。

 

勿論この水は湧かした上で飲む。

 

ナマのまま水を飲むなんて、閉ざされたエルトナに暮らしていたわたしでさえ自殺行為だと分かるほど愚かな行動だ。

 

カメはこっちに勿論気付いていたが。

 

何匹かいる個体が。

 

全部此方には興味が無さそうだ。

 

おなかがすいていないのかも知れない。

 

お姉ちゃんに促されて見てみて、納得。

 

近くに、食い荒らされた死体が。

 

地面に転がされていた。

 

多分水場に近づいたところを、水中に潜んでいたカメに不意打ちを受けて、やられたのだろう。

 

待ち伏せで獲物を狩る獣はかなりいるらしいと本では読んでいたけれど。

 

あのカメも、そうだったと言う事だ。

 

ただ。カメはあまりたくさん食べなくてもいいらしい。

 

あの原型も留めていない(残った足の形からして、人間ではないことは確かだが)不幸な獲物でカメはおなかいっぱいになっているし。

 

当面は危険はないのだろう。

 

水を汲み終えて。

 

周囲に散らばっている鉱石も集めて。

 

その場を離れる。

 

一旦アトリエに入り。

 

水をコンテナに入れると。

 

また水を何回かに分けて汲んだ。

 

水は幾らあっても足りない。

 

生活にも使うし。

 

錬金術にも使う。

 

この先、もう少し東に行くと、街があるという。

 

其処には錬金術師がいるという話をお姉ちゃんがしてくれたが。

 

当然の事ながら、その「もう少し」は一日や二日歩いた程度でたどり着ける距離ではない。

 

だから水は。

 

どれだけあっても足りない。

 

そして、せっかくなので。

 

水の補給が可能なうちに。

 

水に関する調合を少し行っておく。

 

まず第一に、蒸留水を作る。

 

中和剤はソフィー先生に教わって、ある程度出来るようになった。

 

だから、中和剤は別に良い。

 

次にやるのは。

 

飲み水にも使えるし。

 

何より釜を洗うのに必須となる蒸留水だ。

 

釜は調合の度に洗う。

 

精度の高い蒸留水で洗えば洗うほど、凄くいい品のものが作り出せる。

 

これは最初に教わった事だ。

 

この釜自体は、わたしが聞いた事もない凄い金属で作られているらしく、何を入れても基本的に平気らしいのだけれど。

 

それでも洗わないと、やはり汚れて精度は落ちてしまうと言う。

 

昔話の魔法使いが使うような釜じゃあるまいし。

 

中に謎の液体が入っていて。

 

それをかき混ぜれば何でも出来る。

 

其処まで都合が良い代物ではないのだ。錬金術は。

 

奥には、金属を加工するための設備もある。

 

あれの使い方は、お姉ちゃん同伴で習ったけれど。

 

鉱石はあるので、いずれやってみたい。

 

ともかく今は。

 

蒸留水に集中だ。

 

まず火を熾す。

 

魔術でこれは出来るので、後は燃料だけ。燃料に関しても、その辺で動物の乾いた糞などを集めてある。

 

燃料を入れる場所は釜の真下では無く。

 

そういう装置が別個にあるので。

 

燃料を放り込むだけで良い。

 

火掻き棒で使い終わった燃料を押し出すだけで良いので。

 

とてもその辺りは便利だ。

 

勿論、これがとても便利な仕組みだと言う事は、ソフィー先生に教わって知っている。感謝しながら使わなければならないだろう。

 

火を熾し。

 

水を湧かし。

 

その蒸気をフラスコに集める。

 

そして、そのフラスコの最初の水は捨てる。

 

これは洗うためのものであって。

 

蒸留水として使うものではない。

 

続いて同じ作業を行い。

 

今度の蒸気を集めて、本物の蒸留水を使う。

 

最初の熱した水での洗浄で。

 

かなりフラスコは綺麗になっているが。

 

気にする場合は、これを最低三回は繰り返して、徹底的にフラスコを綺麗にするという。

 

更に、これを専門の硝子容器に入れるのだが。

 

この硝子容器も事前に洗う必要があるので。

 

最低でも二回は蒸留水を作らなければならない。

 

その分燃料と水も消費するので。

 

蒸留水を造ると言うだけでも。

 

かなりの水が必要なのだ。

 

黙々と、沸いている水を見る。

 

釜も洗う必要があるから。

 

どれだけ蒸留水はあっても足りない。

 

更に、蒸留水の品質が上がれば上がるほど。

 

水を使う錬金術の道具は。

 

その精度も上がっていく。

 

当たり前の話だ。

 

不純物がなくなるのだから。

 

やがて、釜の下に、かなり水に入っていた汚れなどが溜まり始めた。

 

一旦釜を沸かすのを止めて。

 

蒸留水造りを切り上げる。

 

そして事前に教わっている通りに釜が冷えるのを待ってから釜を傾けて。

 

お姉ちゃんと二人がかりで洗う。

 

この作業がかなり大変で。

 

釜の底に、作った蒸留水を流し込んだ後、力仕事で汚れをこそぎ採った。

 

「フィリスちゃん、これ、何の金属?」

 

「よく分からないけれど、ハルモニウムとか言っていたよ」

 

「ハルモニウム!?」

 

「リア姉、知ってるの」

 

お姉ちゃんはしばらく黙り込んだ後。

 

釜の素材は誰にも言わないように、と念を押した。

 

それがとても怖かったので。

 

わたしは頷くしかなかった。

 

その上で、洗う作業を続けながら。

 

お姉ちゃんは言う。

 

「大きな街でも滅多に出ないと言う最高級の金属よ。 ハルモニウム製の剣になると、国宝級の品になる事もあるらしいわ」

 

「こ、国宝っ!?」

 

「フィリスちゃんはそれだけ期待されている、って事ね」

 

どうしてだろう。

 

お姉ちゃんが、「期待」という単語を口にしたとき。

 

凄く暗い光が目に宿った。

 

そして、それだけ価値がある品だと言う事は。

 

確かに人の暗い欲望を強烈に刺激するはずだ。

 

普段悪い事をしないような人でも。

 

魔が差すかも知れない。

 

何しろ、国宝級の金属だ。

 

奪い取って売れば。

 

どれだけのお金になるか分からない。

 

そしてそんなお金があれば。

 

例えば飢えている家族を養ったり。

 

困っている人達を大勢助けたりと行ったことも出来る。つまり、この金属の事は、口にしてはいけないのだ。

 

いずれわたしは。

 

その金属以上の価値があるものを作れるようになり。

 

多くの人を救えるようになる。

 

そしてこの荒野だらけの世界を、少しは変えられるようになる。

 

そう期待してくれた。

 

今はそう信じる。

 

汚れは大体落ちた。

 

この汚れを落とす薬か何かも、その内作りたい。

 

いずれもっともっと品質が高い品を作る事になった場合。

 

必須になるだろう。

 

またしばし蒸留水を造り。

 

そして水が少し足りなくなったと判断したので。

 

お姉ちゃんと一緒に。

 

水場に行って、カメの数を確認。離れていることを確認してから、水を汲んで、急いで離れた。

 

水場には当然他の生物も来る。

 

水場では、植物のある所と同じように、獣は諍いを起こしたがらないらしいのだけれども。

 

それでも何があるかは分からない。

 

である以上、無防備な状態を晒すのは好ましい事では無い。

 

水をくみ直すと。

 

蒸留水をまた作る。

 

そしてまた釜を洗った頃には。

 

更に一日が過ぎていた。

 

 

 

蒸留水を作るだけでもこれだけ大変だと言う事がわかったし。

 

大量の蒸留水をコンテナに格納しておくと、それはそれで安心感が湧くことも分かった。

 

これは適宜追加していかなければならないだろう。

 

非常に重労働なので。

 

誰かを雇うか。

 

或いは旅の仲間を増やすべきなのかも知れない。

 

この間会ったティアナという子を誘えないだろうか。

 

同年代の女の子と言う事で、色々と難しい話もできるだろうし、仲間になってくれれば嬉しいのだが。

 

それに、旅をすれば。

 

彼方此方で色々と物資を仕入れることも出来る。

 

あの子は戦いを生業にしているようだから。

 

お給金を出さなければならないかも知れないが。

 

それは街に辿り着いたら、錬金術の産物を売る事で、お金に換えてまかなえるかも知れない。

 

いずれにしても、何もかも。

 

最初の基礎を固めなければならない、と言う事だ。

 

ティアナじゃなくても、傭兵として誰かしらは雇えるかも知れないし。今は気楽にその辺りは考えよう。

 

それよりまず。

 

売り物になる品を作る事が先だ。

 

基礎的な物資は幾らでもいる。

 

水は幸い当面足りる。

 

たくさん汲んできたからだ。

 

後は移動しながら。

 

少しずつ、錬金術の手際を上げて。

 

作れるものを増やしていけば良い。

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