暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ぐるりと、赤い方の女体が此方を向く。
殆ど胸と腰しか布で覆っておらず、異常に露出が多い。更に髪は燃え上がるよう。そして目は宝石のように青い。
ただし、その青さからは、冷たい殺意しか感じられなかった。
イルちゃんがシールドを展開しつつ、アングリフさんが右に、ドロッセルさんが左に跳び、まずはパイモンさんが仕掛ける。
雷神の石完成型を掲げると。
上空から、極太の雷撃が、エルエムを直撃。
だが、流石だ。
その一撃を、四本ある腕を掲げて、エルエムは瞬時にシールドを展開、防ぎ切ってみせる。詠唱さえしていなかった。
続けてわたしだ。
踏み込むと同時に、地面に手を突く。
地面から杭が飛び出すようにして、岩がエルエムを貫きに掛かるが。それも、エルエムは柔らかく二本の手だけで受け止め。更にもう二本で、左右から同時に躍りかかったアングリフさんとドロッセルさんの一撃を受け止めて見せる。
わたしは横っ飛び。
お姉ちゃんとカルドさんが、同時に矢と弾丸を放つ。
すっと、手を振る邪神エルエム。
空中でぴたりと静止する飛び道具。
矢は一瞬で氷に包まれ。
弾丸は燃え溶け尽きた。
あれはプラティーン製の弾丸なのに。
流石と言わざるを得ないのか。
癪だけれども、やはりドラゴネアとは段違いだ。弱体化していなければ、本当に単独でフルスハイムと周辺都市を此奴だけで滅ぼしていただろう。
だけれども。
此奴は、この空の迷宮からは、絶対に出さない。
後ろ。
アリスさんが斬り付けるが。シールドが展開され、防がれる。青い方の人体が、そっちを向いているのだから。それこそ手なんぞ向けずともシールドを張れると言う訳か。だが、これならどうだ。
邪神の全周囲を、イルちゃんの魔剣が包囲。
皆が飛び退くと同時に。
回転しながら、飽和攻撃を仕掛けた。
全てが灼熱を帯びており。
しかも刀身はハルモニウムで要所を固めている。
パルミラには通じなかったが。
ハルモニウム製の刃を、簡単に砕けるか。
邪神は周囲を見て、少しだけ急いだ様子で手を動かし、シールドを展開。猛攻を悉く食い止めるが。
その剣に混じって、お姉ちゃんが渾身の一矢を叩き込む。
剣が弾かれた瞬間。
その弾かれた位置に、ピンポイントの一撃を入れたのだ。
シールドに矢が突き刺さる。
そして、矢そのものが、爆発した。
お姉ちゃんに言われて、用意していたのだ。
鏃に魔法陣を仕込んだ特別製を。
貫通力を上げるもの。
撃ち込んだ後に爆発するもの。
いずれも作成コストは尋常では無かったが。ハルモニウム製の鏃にそんなものを仕込んだのだ。
火力は推して知るべし。
初めて邪神にダメージが通り、手が二本消し飛ぶ。
シールドも消え、その全身を大量の魔剣が貫き、炎上するが。
剣が無理矢理内側から押し返され、邪神は全身を冷気で包み、無理矢理消火。それどころか、傷も見る間に回復していく。
そして、邪神エルエムは。
本気になったようだった。
まだ無事な手を振ると。
凄まじい風が吹き荒れ、辺りを滅茶苦茶に打擲する。風だというのに、それそのものが鞭であるかのように、凄まじい有様だ。
イルちゃんがシールドを展開し、アトミナとメクレットを庇っているが。
それが無ければ、もう吹っ飛ばされているだろう。
「おおおおおおっ!」
叫びながら、それでも踏ん張ったドロッセルさんが、大岩を投げつける。
風を無視するようにして飛んだ大岩が、邪神を直撃するが。邪神は涼しい顔で、自分を襲った大岩をその場で砕く。
だが、わたしが詠唱を完了。
砕けた岩が、なおも流星雨のようにして降り注ぎ。
更に傷口に食い込んだ。
ドロッセルさんは更に、邪神にタックルを浴びせ、とどめとばかりに背負っていた斧を掴み直すと、フルスイング。邪神の胴の半ばくらいにまで食い込む。
更にアングリフさんが邪神の逆側から大剣を振るい、青い方の頭を唐竹にたたき割る。
しかし、直後。
周囲を打擲している暴風が、凄まじい熱を帯び。直後、冷気を帯びた。
無茶苦茶に温度が変わる暴風。
更に、雨まで降り始める。
それも、気持ち悪いくらい温い雨だ。
周辺環境を秒単位で激変させ、人間では対応出来ないように嬲るつもりか。
そして最後は。
船を沈めかけたような大技で、一気に大ダメージと。
邪神に、アリスさんが特攻。
至近で旋回しながら跳躍し、わたしの目で追えた限り五十回くらいの斬撃を一瞬で叩き込む。
更にレヴィさんがシールドを展開しながら突貫。
シールドで、相手を押し込む。
大斧と大剣が体に突き刺さり。
更に体中に魔剣の傷と、更にシールドで押し込まれていながら。
邪神はまだ余裕の様子。
というか、表情にまるで変化が無い。
痛いとさえ感じていないのか。
それとも、人の似姿なのは単なる戦いづらくするためだけのギミックであって、感情もなにもないのか。
本能のまま人間を襲うドラゴンと。
それでは何が違うと言うのか。
崇めた所で災厄しかもたらさず。
人間を滅ぼす事しか考えないような神なんて、排除する以外には無い。パルミラが創造神だとするならば。
どうしてこんな眷属を作り出したのか。
秒ごとに、猛烈に体力が奪われていく中。
わたしは詠唱完了。
ありったけのブリッツコアを、周囲に展開。
パルミラ戦でも使ったが。
拡張肉体の技術の応用をちょっとだけ生かして。こういう攻撃態勢を取れるようにはしたのだ。
わたしの技量が足りなくて、これくらいしか出来ていないけれど。
フルパワーでの砲撃は、わざわざブリッツコアを取り出さずとも、ちょっとした詠唱だけで出来る。
更にパイモンさんが、凄まじい風雨にさらされつつも。
両手に雷神の石を掴み。
前に向けて差し出す。
イルちゃんも、詠唱と同時に、切り札を切った。
とんでも無くでっかい魔剣が、船の中から飛び出してくる。船の側面にある救助艇と同じくらいはある。魔族の背丈ほどもあるあの魔剣、なるほど、重さからしても長さからしても、人間にも魔族にも扱えないだろう。巨人族やケンタウルス族などの、超レア種族なら話は別かも知れないが。
「総攻撃だ! 隙を作れ!」
アングリフさんの言葉と同時に。
猛烈な風雨がいきなり晴れる。
邪神はダメージが回復していない。
あ、まずい。
そう悟ったのは。
これが、大威力攻撃の発動の瞬間だと、悟ったからだ。
とっさに飛び出したレヴィさんが、シールドを張る。イルちゃんが動くよりも早い。
そして、双の邪神は、左右前後に展開している前衛組を完全に無視。
わたし達めがけて、装甲船を襲ったのよりも数段太く強烈な熱線と冷線を、詠唱も無くぶっ放してきた。
まずい。
死ぬ。
だが、レヴィさんは、今までに見たことも無いほどのシールドを展開。
なんだ、今更いきなり技術が向上するとも思えない。神衣を纏ったからと言っても、こんな。
まて。そうだ、思い当たる節がある。あれだ。
あのチェストに入っていた宝玉。凄まじい力を感じるものだった。確かわたしが買い取った筈だが、いつの間にか持ち出していたのか。
あれを増幅に使ったとすれば。
それでもなお、邪神の攻撃は苛烈。あまりにも異次元。
レヴィさんのシールドがはじき飛ばされ。
レヴィさん自身も吹っ飛ばされ、後方へ飛んでいくが。だが、その時、にっと笑うのがわたしには見えた。
剣技は振るえなかったが。
総攻撃の好機を作った。
そう顔に書いてあった。
わたしは、踏みとどまる。
そして、パイモンさんと、イルちゃんとあわせて。
今出来る最大火力の攻撃を、ぶっ放していた。
世界が漂白されるほどの白い雷撃が、イルちゃんの超巨大魔剣に纏わり付くと、邪神に向けて飛ぶ。
邪神も邪神で流石だ。瞬時に、今までに見たことが無いほどの巨大なシールドを展開するが。
回復途中の傷に、お姉ちゃんの放った矢と。カルドさんの放った弾丸、それもハルモニウムの弾丸が突き刺さる。
更にここぞとばかりに、はじき飛ばされていた魔剣をそれぞれ掴んだライトさんとレフトさんが、完璧な呼吸で邪神に投げつける。
シールドが、それでも展開され。
魔剣はシールドに突き刺さる。
そう、刹那の攻防で見る。
それだけ、邪神の力が落ちている。
あと少し、手があれば。
全員の意思が、多分それを共有した。
アングリフさんが大剣を、ドロッセルさんが斧を投げつけ。アリスさんは邪神のシールドの側を通り抜けつつ、数十回の斬撃を撃ち込む。
弱っていたシールドがぶち抜かれる。
砕け、破片となって降り注ぐシールドの残滓。
魔力があまりにも高密度すぎて。
それはガラス片のように、明らかに質量を持っていて。禍々しいまでに美しかった。
そして全身傷だらけの邪神の目に、初めて恐怖の色が浮かぶ。
「いぃっっけええええええっ!」
今まで、有効打にならなかった魔剣に対して。
イルちゃんが裂帛の咆哮。
そして、魔剣は。
それに答えた。
邪神を文字通り串刺しにし、そして纏っていた雷撃を、そして熱を、立て続けにフルパワーで爆裂させる魔剣。
邪神の体の彼方此方が爆ぜ割れる。
赤い方の頭は内側から消し飛び。
青い方の頭も、半ば爆ぜ割れて、半分しか残らない。
腕も足も。
殆ど骨が露出し、或いは半ばから千切れ跳び。
胴体の方も、内臓が吹き飛ぶのが見えた。
それでも、邪神。
まだ死なない。
まだ動いているのが見える。
魔力を使い切ったイルちゃんが、吐血しながら地面に蹲るのが見える。パイモンさんも額から血を流している。
まだだ、もう一手。
わたしは、最後の力を使って走る。
邪神の最後の抵抗だろうか。
凄まじい熱波が、辺りを薙ぎ払う。
接近戦組をまとめて吹き飛ばすそれを。
わたしは地面に手を突き。
岩を噴き出させて、無理矢理防ぎ切る。
そして頭を殆ど失っている邪神が見上げたときには。
わたしは空飛ぶ荷車、そう後続の無事な方に飛び乗り、そこから、はじける贈り物をありったけぶち込んでいた。
あらゆる種類の爆弾が、邪神に降り注ぎ。
殆ど原型も残っていない邪神に対して、一方的な爆裂と破壊で殴り倒し続ける。
素人が踊るような下手くそな舞を無理矢理やらされた邪神は、それでも回復しようとしているのか。
体勢を立て直そうとするが。
其処を、今まで潜んでいたツヴァイちゃんの、神々の贈り物の一撃が。
残った頭ごと、上半身を消し飛ばしていた。
「いい加減に……」
神衣の影響か、それでも火傷と傷だらけ「程度」で済んだアングリフさんが。
突貫し、飛ばされていた愛剣を拾うと。
まだ消滅しない邪神を、更に真っ二つに切り裂く。
赤い体と青い体が分断されたその瞬間。
文字通り、空気を切り裂くような、とんでもない叫び声が周囲に響いた。
思わず耳を塞いで蹲る。
何となく分かった。
これが、邪神の。
双神エルエムの断末魔なのだと言う事を。
だが、それでも。
断末魔でもなお、此方を殺そうとしていると言う事も。本当に人間に対する殺意だけで構成されているんだなと、呆れつつ、見る。
残った邪神の体が燃え尽きていく。
或いは溶け消えていく。
最低の悪あがきの後。
もはや、エルエムは。
深核以外には痕跡も何も残さず。
この世から、消滅していた。
辺りに散らばった道具類を回収。負傷者を回収して、装甲船二番艦に引き上げる。タラップを急いで閉じ、点呼。
良かった。
全員無事だ。
あれだけ凄まじい戦いの中で、どう上手に立ち回ったのか。
アトミナとメクレットは、平然としていて、傷一つ無かった。
皆、無言の中。
炉の状態を確認し。
シールドを再稼働すると。
わたしはその場で倒れてしまう。お姉ちゃんが受け止めてくれなければ、床に顔をたたきつけて、歯を折っていたかも知れない。
まあ、流石に今のこれだけガチガチに固めた装備なら。
転んだくらいで、そんなダメージは受けないか。
しばらく無心に休み。
一番傷が浅かったレフトさんとライトさんが、同じく軽傷で済んだツヴァイちゃんと一緒にコンテナからお薬を出してきて。
無事だったアトミナとメクレットの指示通り、お薬を使い始めるのを見る。
まだ流石にドンケルハイトは使っていないが。
黄金色の葉を使ったお薬は試している。
確かに今までのお薬とは薬効も桁外れで、指くらい吹っ飛んでも再生は可能だ。腕が千切れてもその場でつなげられる。そのくらい、世界の理に外れた快復力を実現できる、という事である。
何も喋る余裕は無く。
しばらくは休むほか無かった。
お姉ちゃんが食事を作ってくれたので。食べて一眠りすることにする。
かなりの重傷を負ったレヴィさんは、傷こそ回復したが。体力が著しく消耗した結果、まだ動けないようで。
ライトさんが、かゆを手づから食べさせていた。
「すまなかったな。 売り払ったのに、勝手に持ち出したあげく使ってしまって」
「ちょっと驚きました。 でも、どうしたんですか?」
「あの宝玉を渡した後、呼ばれた気がしてな」
「呼ばれた……」
どうやら、あの宝玉。
わたしが思っていたものと、違っていたらしい。
意思を持つ深核とでも言うべきなのか。
例えばさっき、エルエムを殺した後。その場には、強烈な力を感じる深核が落ちていた。あの邪竜の竜核よりも更に凄まじい力を感じるものだった。
だが、チェストに入っていた宝玉は。
それとは異質に感じた。
つまるところ、これは深核だろうと思ったが。
違うのかも知れない。
「金は、返す。 やはりこの宝玉は、俺が持っておきたい」
「はい。 あのシールドの様子を見る限り、多分それが一番良いと思います」
「すまん。 勝手な事をしたな」
「いいえ。 随分助かっているし、かまわないですよ」
本当だったら、窃盗になるのだろう。
だがレヴィさんのものだったのだし。何よりレヴィさんは最初期からわたしを護衛してくれていた人だ。
だったら、それくらいは目をつぶる。
ただペナルティはいるか。
一応こういうのは、しっかりした方が良い。
レヴィさんにはそれを話した上で。エルトナに作る孤児院の教師をして欲しい、と頼んだ。
しばらく考えた後。
分かった、とレヴィさんは承諾してくれる。
まあ、それが一番良いだろう。
変わり者かも知れないけれど、腕は確か。
それに人材はそこら辺に生えているものでもない。
この人は剣術を教えるのに充分な技量を持っている。エルトナで人材育成に専念してくれれば、後は望むものもない。
宝玉を見つめながら。
レヴィさんは呟く。
「手放そうとしたのが間違いだった。 そもあの創造神がわざわざチェストに入れていた程のものだ。 宝として、持っておくべきだったのだ」
もう、わたしの言葉は聞いていない。
そう判断したので、わたしは自分も自分で休む事とする。
さて、一休みした後は。
アトミナとメクレットにつきあって、此処で破壊された船の調査をして。それからまずはフルスハイムに引き上げ。
それから。
「ちょっといいかしら」
イルちゃんが、わたしの思考を遮る。
少し考えていたようだけれど。彼女は、顔を上げる。
「今の戦力なら行けるかも知れないわ」
「イルちゃん、何の話?」
「此処の調査が終わった後の話よ。 グラオ・タールの北に、異様な風が吹き荒れている場所があるって話がある事を覚えている?」
「うん。 確か、ドラゴンの影が何度も目撃されているとか」
イルちゃんは頷く。
何でも、その谷の周辺は非常に危険な獣が多数住み着いており。更には、フルスハイムからもかなり近いと言う。
フルスハイムは中核都市。
周辺にある危険は可能な限り排除したいと、イルちゃんは言うのだ。
「いるとしたら恐らくは上級ドラゴンよ。 それも風による守りで身を固めて、周囲を虎視眈々と伺っていると見て良いわ」
「弱体化していない上級ドラゴン……」
下手をすると、先に倒したエルエムと同レベルか、それ以上の相手。
だが、確かに今なら。
やれるかも知れない。
傷も、神衣のおかげで最小限まで抑え切れた。
持ち込んだ道具類も、神にまで牙が届くことを確認できた。
「ライゼンベルグ周辺の安全を確保すればするほど、私達の社会的な発言権も力を増す事になる。 既得権益に好き勝手をさせずにもよくなるわ。 ライゼンベルグの腐敗した、年ばかり取った錬金術師達を黙らせることも可能になるはずよ」
「イルちゃん、悪い笑顔浮かべてるよ」
「ともかく、殺りましょう」
「……うん」
最悪の害獣である上級ドラゴンが野放しになっているのであれば。確かに放置する道理は無い。
力があるなら、的確に使う必要がある。
パイモンさんは、やれやれと言いながら、協力を約束してくれた。
ならば、いける。
わたしは、先の激しい戦いのことをぼんやりと思い出しながら。次の戦いではどう改善するか、改良すべきは何かを、考え続けていた。
(続)
ついにこの世界における人間の天敵。
邪神の討伐に成功するフィリス。
しかし、力がつけばつくほど遠く見える背中。そして力強く誘導される深淵の闇。
フィリスがヒトでいられるのは、いつまでなのか。
次の戦いも、間近に迫っています。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい