暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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基本的に人間が倒す事が出来ない、この世界における絶対的人間の天敵、邪神。

それをついに屠ることに成功したフィリス。

フィリスは仕上げとして、グラオタール近辺に異常気象を起こしている上級ドラゴンを仕留めに出向きます。

己の力が、破壊のものだと自覚しながら。


豪風を乗り越えて
序、浮島の闇


二日間、装甲船二番艦の中で休み、態勢を整える。薬による回復と、体力の回復を進めて、それからやっとエルエムとの戦いを行った島に降り立った。

 

周囲にはエルエムの死の影響か、強い魔力が拡散している。その拡散は止められそうにもない。

 

なるほど。

 

これを吸収した獣がネームドになるんだな。

 

なんとなくそう察するが。

 

だからといって、今更どうにも出来ない。

 

それに、ネームドの脅威は、邪神とは比較にもならない。フルスハイムには苦労を掛けるが。

 

それでも邪神に襲われるより遙かにマシだろう。

 

ただ、レンさんには報告する必要がある。

 

多分すぐにぽこぽこネームドが湧いてくる訳では無く。

 

時間を掛けてネームドが現れてくるのだろうから。

 

或いはもっとずっと後の世代に、フルスハイムの住人がネームドとの戦いをしなければならないのかも知れない。

 

わたしは、きっと。

 

その時には、多分人間では無くなっている。

 

ソフィー先生の目的。

 

そしてわたしは手駒と見なされている事から考えても。人間として、生を全うすることは不可能だろう。

 

それならば、或いは。

 

次世代のフルスハイムの公認錬金術師と協力して、ネームドを駆除する時が来るのかも知れない。

 

周囲を見回して確認。

 

見つけた。戦闘中もある事は確認していた船の残骸だ。しっかり戦闘の余波にも耐え抜いている。

 

改めて確認すると、やはり撃沈されたらしく、横腹に大穴が空いている。多分、わたしが怖れた事態がこの船では起きてしまったのだ。つまり邪神の攻撃で装甲を貫通され、炉が誘爆したのだろう。

 

これでは中にいた人達は、ひとたまりもなかったに違いない。

 

アトミナとメクレットが来る。

 

しばらく、ぼんやりと船を見つめていた。

 

アングリフさんが前に出ると、船の残骸を調べ始める。

 

死者に失礼がないように、と思ったが。

 

近づいて見ると、もう数百年は経過していることが分かった。装甲があまりにも異次元なため、錆びることも無く形を残していただけで。

 

内部には、もはや人の残骸は残っていなかった。

 

小さな獣に文字通り骨ごと食い荒らされたのだろう。

 

ただでさえ、炉が誘爆したときに、木っ端みじんになってしまったのだろうし。

 

こればかりはどうにもならない。

 

何か、遺品は無いだろうか。

 

もうこの船があからさまに数百年前のものだということはどうでもいい。

 

アトミナとメクレットがただ者では無い事くらいは、この場にいる全員が知っている事なのだから。

 

鉱物の声を聞く。

 

何か、この船に乗っていた人の、遺品は無いだろうか。

 

鉱物は曖昧な答えしか返してくれない。

 

困った。

 

流石に、自分の事では無いとわからないか。

 

だが、少しその曖昧な答えを整理しながら、船の中を歩く。

 

内部から喰い破られたとは言え。

 

船の構造体は無事で、崩落の恐れもない。

 

実際すぐ側でわたし達が邪神エルエムとの死闘を演じたのに、崩れもせずに残っているのだ。

 

この様子だと、千年経っても壊れることは無いだろう。

 

持ち帰って、素材を再利用しても良いくらいだ。

 

死者への冒涜になるかも知れないから、それは避けたいが。

 

見つける。

 

くすんでいるが、何か宝石のようなものが収まったペンダントの残骸だろうか。

 

壊れてしまっている。

 

多分爆発に巻き込まれた影響だろう。

 

もう、機能はしていなかった。

 

錬金術の道具であろう事は明白だった。

 

「何も無いわね……」

 

「うん」

 

「フィリスちゃん、この船」

 

「リア姉、何も言わないで。 この船は、勇敢な人達が此処まで乗って来た。 それだけで、凄い事だし、貶めてもいけないよ」

 

お姉ちゃんの言葉を遮る。

 

お姉ちゃんも、それが正しいと思ったのだろう。後は何も言わなかった。

 

アトミナとメクレットは、船の構造を知っているかのように歩き回っていて。側についているアングリフさんが眉をひそめていたが。

 

呼び止めてペンダントの残骸を渡すと。

 

珍しくいつもヘラヘラしている二人が、真顔になった。

 

特にアトミナは。

 

常に性格の悪さを発言からにじませていたのに。

 

完全に黙り込んだ。

 

「お知り合いのですか」

 

「……良く見つけたね」

 

「鉱物達に聞きました。 一番船の中で被害が小さかった場所を、です。 其処に落ちていました」

 

「……」

 

受け取ると、二人は黙り込み、後は何も喋らなかった。

 

多分死者を悼んでいるのだろう。

 

この状況で生還できる筈が無い。

 

どんな偉大な錬金術師でも、そうだ。

 

ソフィー先生クラスなら分からないが。あの人は、もう人間とは言い難い気がする。

 

「周囲を調べるぞ。 もうこの船は、調べても仕方がねえ」

 

「はい」

 

アングリフさんに促されて、周囲を調べに掛かる。

 

邪神がいなくなったことで、かなり安全度は上がったとは言え。周囲には巨大な獣が多数いる。離れて行動するのは危険だ。ましてや此処は邪神がバトルフィールド用に更地にしていた島だ。

 

邪神がいなくなった今。

 

獣がいつ様子を見に来ても不思議では無いのだから。

 

ただ、流石にちょっと前まで邪神がいたからだろう。

 

獣も警戒して、周囲から監視するに留めている様子だ。

 

それはそうだ。

 

獣にして見ても、邪神は絶対者。

 

相手の気分次第で殺される。

 

そんな危険な存在の縄張りに踏み込もうなどとは、考えないだろう。それに多分だが、ネームドの事を考えると。

 

邪神に対して、本能的な恐怖を、獣が抱いていてもおかしくない。

 

ましてや此処の邪神は、文字通り「荒ぶる」という言葉が相応しい存在だった。

 

そうなってくると、この警戒ぶりも頷ける。

 

しばし周囲を探索するが。

 

流石に数百年前ともなると。

 

痕跡と呼べるようなものは殆ど残されていなかった。

 

戦いが一方的だっただろう事は分かる。

 

というよりも、船の炉が誘爆した時点で、殆ど全滅。以降は、船が落ちるだけで、全ておしまいだったのだろう。

 

邪神自身は深核しか残さなかったし。

 

辺りには、高密度の魔力が籠もった石やらしか見つからない。

 

一応回収はしておく。

 

石も砕いてすり潰せば中和剤に出来るのだから。これだけの魔力を長時間浴び続けた石なら、きっと役に立つだろう。

 

邪神のいた島を調べ終える。

 

船に関しては、もう回収出来るものもない。

 

アトミナとメクレットに聞くが、もう何もいらないと言われたので。

 

他の浮遊島を調べて回る。

 

流石にもう一体の邪神がいる、というような事は無いだろうが。

 

此処までの苦労をしたのだ。

 

何か良い素材が見つかるかも知れない。

 

案の定、巨大で強力な獣が住み着いていたが。同時に森になっている場所も多く。警戒しながら進めば、それほど頻繁におそわれる事もなかった。

 

黄金色の葉や。

 

金の絹糸も見つかる。

 

他にも珍しい薬草が多数存在していて。

 

麓にある、禁忌の森のものよりも、更に品質は良かった。

 

これは色々な意味で凄い。

 

普通の、どんな調合にも使えるような薬草。通称魔法の草ことトーンでさえ、みなぎるような魔力を充填させている。

 

傷つけすぎないように気を付けて摘みながら、周囲を更に探索して行くが。

 

やはり邪神がいた島から離れれば離れるほど、品質が落ちていく。

 

あの邪神が無差別無分別にばらまいていた魔力を。

 

此処の植物も。

 

勿論動物も。

 

浴び続けていた。

 

そういう事なのだろう。

 

湖に出る。

 

かなり巨大な獣が悠々と泳いでいるし、周囲が開けている。接近するのはかなり危険だ。

 

そこでイルちゃんが、魔剣の技術を利用したらしい、空飛ぶ籠を出してくる。

 

それを使って水を汲み。

 

魚や貝類も回収してきた。

 

水がこんな強い魔力を秘めているのを始めて見た。さわるとばちりと静電気が走るくらいである。

 

森の中から、此処と湖を行き来する籠を見やる。

 

獣は興味を示す者もいるようだが。

 

ただの籠だと判断したからか。

 

それ以上は何もしなかった。

 

まあ仕掛けてくるようなら、お姉ちゃんが射貫くだけだが。

 

ともあれ使えそうなので、相応の量を汲んでおく。

 

一通り調査を終えた後。

 

装甲船二番艦に戻る。

 

アトリエに回収した品を運び込んで、皆に分配。パイモンさんは、何度も唸りながら、回収した水を見ていた。

 

「これほど高純度の魔力が籠もった水とは……」

 

「時間を掛ければ再現は出来るかも知れないですけれど、ちょっとこれが満ちている湖でどんな獣が住んでいるかは考えたくないですね」

 

「そう、だな」

 

「フィリス、この岩は?」

 

イルちゃんに言われたので、持ち帰った岩を砕いてみる。

 

宝石の原石がぼろぼろ出てきた。

 

ただでさえ、宝石は色々と活用できる。魔力を込める事も出来るし。装飾品に埋め込むことで、魔力のブースターにも出来る。

 

そしてこの島にある宝石である。

 

その効果は折り紙付きだ。

 

他にも多数の原石があったので、良さそうなのを見繕って回収してきたのだ。

 

勿論これも平等に分ける。

 

深核も丁寧に割って三分割。

 

一通り戦利品を回収し、吟味した後、引き上げる事にする。フルスハイムに一度撤退して、それから此処で何があったのかを報告しなければならない。

 

軟着陸したときのダメージはあるが。

 

船を修理するのは、さほど難しくないし。フルスハイムまで飛んでいくのも、それほど難儀はしないだろう。

 

問題はその後。

 

グラオ・タールの北にある、常に砂塵が舞っている谷。

 

人間が立ち入れない其処に。

 

上級のドラゴンが潜んでいる可能性が高い。

 

フルスハイムは基幹都市だ。

 

また上級のドラゴンにインフラを潰されると、周辺の都市全てに甚大な影響がある。

 

同じ事をさせないためにも。

 

予防措置として、早めに処理はしなければならない。

 

アングリフさんが腕組みして、壁に背中を預けていたので。

 

咳払いしてから、話しかける。

 

アングリフさんは邪神戦が終わったら引退するという話だったけれど。もう少し力を貸して欲しい。

 

その話をする。

 

しばし不死身とまで呼ばれた傭兵は無言で話を聞いていたが。

 

やがて、嘆息した。

 

「やれやれ、今度は弱体化無しの上級ドラゴンかよ」

 

「お願い出来ますか」

 

「やるしかねえんだろう? 分かった。 孤児院の院長の件もある。 まだ死ぬわけにはいかねえし、何よりも乗りかかった船だ。 だが、これで最後だぞ」

 

頷く。

 

有り難い話だ。

 

この人がいなければ、突破出来ない難関は幾つもあった。

 

常に最前線で敵の猛攻を突破する鍵となり。

 

敵に致命打を与え続けた。

 

船が移動する間。

 

軽く話を聞いてみる。

 

アングリフさんは、面白い話じゃあ無いぞと前置きしてから、話してくれる。

 

傭兵時代の話。

 

ろくでもない子供時代を送ったアングリフさんは。両親の顔ももう覚えていないという。気がついたら傭兵になっていて。それからずっと傭兵として各地の街で獣や匪賊と戦い続けた。

 

気がつけばその無謀な戦い方から、不死身と呼ばれるようになり。

 

最初は揶揄だったその呼び方も。

 

常に敵を最前線で斬り伏せ、叩き殺して行く様子から。

 

やがて畏怖へと変わっていった。

 

だが、その頃からだった。

 

アングリフさんは思い知り始めたのだ。

 

後から入ってきた奴が、どんどん死んで行く。

 

生きている先輩がいない。

 

次に会うことは殆ど無い。

 

傭兵は損耗率が激しい仕事だ。各地の街の自警団に帰化できればまだ良い。そして、帰化出来た場合は、すぐに家庭を持ったりする。

 

だが、そんな風に上手くやれた奴は殆どおらず。

 

そして、ある日気付いてしまった。

 

最初に自分を不死身とはやし立てた奴が。

 

一人ももう生きていないことを。

 

それから、非常に何もかもが虚しくなった。恵まれた体格を生かして戦っていくうちに、嫌でも戦略は覚え、戦術は身についていった。

 

錬金術師の護衛をしたときに、見聞院の話を聞いて。

 

腕利きなら、勉強もすれば更に力もつくと言われ。

 

見聞院に足を運んで、戦略と戦術を学んだ。

 

役に立つ本もあったし。

 

机上の空論を並べただけの紙屑もあった。

 

いつのまにか中年を過ぎ、老人に片足を突っ込んだ頃には。

 

戦略級の傭兵として、周辺地域では名前を知らない者がいない腕前になっていた。

 

だからこそ分かっていた。

 

人間では勝てない相手がいるという事も。

 

しかし、わたしと組む事が出来て、アングリフさんは色々と面白い経験が出来たと言う。

 

本来だったら絶対に人間では勝てない相手に勝つ。

 

戦う事なんて思いもよらない相手と戦う。

 

そんな経験が出来たのだから。

 

それに、だ。

 

アングリフさんは、わたしに未来を見たと言う。

 

「岩山だろうが何だろうがぶち抜いて道を作っていく様子は、俺からして見れば未来を作るようにも見えた。 まああまり本人を面と向かって褒めるのは良い事じゃあないんだがな。 それでも、孤児院を作るって事は、お前と組まなきゃ実現不可能だったことを考えると、なあ」

 

「そんな、なんといったら良いか」

 

「傭兵として真っ先に死んで行く奴は、相手を何も知らないか、自分を何も知らない奴なんだよ。 俺は孤児院で、自分を知り、敵を知る事を若い連中に学んで欲しい。 そうすれば、絶対では無いにしても生き延びる確率は上がるからな」

 

「……」

 

勉強、か。

 

わたしもいろんな本を読んで。

 

実地でいろんな事を試して。

 

そして知識をたくさん身につけて。それを実践することで、力をつけてきた。

 

アングリフさんの言葉には、頷ける部分も多い。

 

気付くと、船がフルスハイム上空にさしかかっている。邪神との死闘で、かなりのダメージを受けているから、ドッグにそのまま入る。

 

船を下りると、カイさんが待っていた。

 

「これはまた、手酷くやられたな」

 

「でも、勝ちました」

 

「ほ、本当か!? 相手は邪神だったんだろ!」

 

「はい」

 

おおと、声が上がる。

 

数百年前とはいえ、すぐ近くの街を虹神ウロボロスが滅ぼした事は、フルスハイムの誰もが知っている。

 

その時の戦いの痕跡は、遺跡として丸ごと残っているし。

 

惨禍もこの街には伝わっているのだ。

 

あの邪神、相当に弱体化していた。

 

虹神ウロボロスとは、多分だが比較にならないほど弱くなっていただろう。

 

それでも、勝つことはできたのだ。

 

確かに、皆が狂喜するのも当然だろう。

 

さて、これからレンさんの所に行って、街の重役達とも話して。それから。

 

ふと、服の袖を掴まれる。

 

アトミナだった。

 

普段はメクレットから話をする事が多いのだけれど。アトミナが積極的に動くのは珍しい。

 

「何ですか?」

 

「まずはお礼。 それと聞きたいことがあったから」

 

お礼というのは、ペンダントの残骸。遺品のことだろう。

 

アトミナが言うには、調べて見たが、友人の遺品で間違いないという。そうかと、わたしは嘆息する。

 

普段からつかみ所が無いこの二人だが。珍しく、神妙な表情をしていた。

 

「せめてもう少し準備をしておくべきだった。 私達らしくも無い失敗だったわ」

 

「次は、失敗しないようにすればいいと思います」

 

「そうだね。 だがもう彼に次は無い」

 

分かっている。だから、その犠牲を無駄にしてはいけないのだ。

 

咳払いすると、アトミナはもう一つについて告げた。

 

「君にとって、錬金術とは何?」

 

「え……」

 

「どうせあの船は当分動けない。 明日で良いから、聞かせて頂戴。 君にとって錬金術は、破壊の力なのか、創造の希望なのか」

 

二人はひらひらと手を振ると、その場から消える。

 

わたしは口をつぐむと、考え込んでしまった。

 

確かにそれは。わたしとしても、そろそろ出さなければならない結論なのかも知れなかった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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