暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

132 / 150
1、錬金術とは

思うに。わたしは最初から、破壊を錬金術によって見た。ソフィー先生が現れたときに見せたのは、徹底的な破壊だった。

 

エルトナを守っていた扉を破壊し。

 

壊した扉を一瞬で再生修復するという行動で、既成概念を破壊し。

 

そしてわたしが何処かで抱いていた諦観も破壊した。

 

その後も、あらゆる全てが破壊につながっていった。

 

何もかもを壊しながらわたしは進んできた。

 

だけれど、その破壊の後には。

 

創造も確実に存在していた。

 

復活したインフラ。暴れなくなった川。孤立しなくなった雪山。ドラゴンに脅かされなくなった街。

 

蘇った宿場町。

 

いずれもが、破壊が無ければ、あり得ない創造だったのだ。

 

破壊と創造は表裏一体。

 

思えば、ソフィー先生が願っている、破滅の未来の転覆も。ある意味究極の破壊行為と言える。

 

綺麗できらきらしているものが錬金術では無い。

 

世界と向き合い。深淵を覗き込み。自らも深淵に引きずり込まれながらも、知識と力を得て。

 

破壊と創造と向き合っていかなければならない。

 

そんな学問が錬金術だ。

 

ただ、わたしにとっては結論は出ている。

 

破壊が最初にありき。

 

その後に創造がある。

 

この世界は、全てが色々と狂っている。だから、まず狂っている部分を破壊しなければならない。

 

その後にやっと創造が出来る。

 

アトミナとメクレットが来る前に。

 

この世界について書かれた歴史書の記述を思い出す。

 

どれも、ここ数百年で世界が比較的安定して、二大国による秩序が出現した、という記述で一致していたし。

 

カルドさんのような本職に聞いても。

 

同じ答えが返ってくる。

 

だがそれは、混沌を破壊する事によってもたらされた秩序であって。恐らくその混沌を破壊したのは。

 

深淵の者だ。

 

一晩休んだ後。

 

早朝に訪れたアトミナとメクレットは、ソフィー先生と、プラフタさんを伴っていた。

 

ソフィー先生が指をぱちんと鳴らすと。

 

周囲が暗い空間に包まれる。

 

プラフタさんが眉をひそめた。

 

お姉ちゃんが横やりを入れるのをソフィーさんは防ぎたかったのだろうけれど。それにしても、どんどん手段を選ばなくなってきている。

 

そしてアトミナとメクレットに関しても。

 

やはりソフィー先生と、極めて近しい存在なのだろう。

 

「ルアード、フィリスにおかしな事を吹き込んでいないでしょうね」

 

「私達よりも、ソフィーの方が深刻なんじゃないの?」

 

「それはいえてるね」

 

けらけら。

 

アトミナとメクレットが笑う。

 

それより何だ。ルアードとは。

 

そういえば、ソフィー先生が気になる事を言っていた。アトミナとメクレットのことを、何だか妙な感じで呼んでいたのだ。

 

アトミナとメクレットは、手をつなぐ。

 

光が二人を包む。

 

其処に現れたのは。

 

青白い顔をした、フードで姿を半ば隠した男性だった。

 

何かの皮膚病らしく、顔は異様に青白く。

 

体から感じる魔力もおかしい。

 

多分、内臓が色々機能していないのだと、わたしは即座に見抜いた。

 

「これが私の本当の姿だ。 深淵の者の首領、ルアードとは私の事だよ」

 

「っ!?」

 

「私とプラフタは今から500年ほど前にこの世界を変えようとした。 だが、決定的な方法論の違いから対立した。 私はプラフタと袂を別ち、深淵の者を結成。 世界を裏側から改革を開始した」

 

「貴方が……」

 

アトミナとメクレット、いやルアードは頷く。

 

プラフタは、無言のまま、話を聞いていた。

 

「私は、この世界には現在すらないと考えた。 故に錬金術の禁忌である根絶の力に手を出してしまった。 プラフタは未来を奪うことはあってはならないと考えた。 だから私達は殺し合いになった。 500年後、要するに数年前、ソフィーのおかげで和解を果たすことが出来たが、理由は何だと思うかね」

 

「……世界が、そもそも詰んでいることが分かったから、ですか」

 

「まあ似たようなものだ」

 

ルアードは、肩をすくめた。

 

ひょっとして。

 

この様子からして、ルアードとプラフタさん、それにソフィー先生は。

 

深淵の最奥を覗き込んだのではあるまいか。

 

背筋が凍る。

 

わたしも、深淵を覗くのがどれだけ危険な行為かは熟知しているつもりだ。それが、深淵の最奥を覗いたりしたら。

 

「この世界は、滅び行き、救いを求めた者達が、神に救われ集められた世界だ。 だがこの世界そのものがそもそも詰んでいた。 真面目な神は救った者達の面倒を見ることを決めた。 しかしどうやっても、人間という種族は互いに殺し合う。 故に協力しあわなければ生きていけないこの世界が作り出された」

 

「!」

 

絶句する。

 

それは、本当か。

 

だが、確かに全てのつじつまが合う。

 

この世界はあからさまに異常すぎる程過酷だ。

 

ドラゴンの破壊力。邪神の強さ。いずれも人間が何をやっても勝てない。神の力の一端を借りているも同然の錬金術を使っても、「勝てるかも知れない」程度の状況にしか持ち込めない。

 

そして、散々見てきた色々な街での愚かな人間同士の争い。

 

エルトナでさえ。

 

それは同じだったのだ。

 

「神は想像を絶する回数世界をやり直し、その度にこの世界に修正を少しずつ加えていったそうだ。 絶対に他の種族と相容れるつもりが最初から無かったヒト族の精神性を少しいじる事さえしたらしい。 最初はこの世界は楽園だったという話なのだから、如何に人間が愚かなのか、嫌でも分かってしまうな」

 

返す言葉も無い。

 

本来は楽園で暮らせていたはずなのに。

 

人間が全てを台無しにしてしまったのか。

 

世界にたくさんいる邪神は。

 

おそらく人間がこんなでなければ、もっと慈悲溢れる存在だったのではないのだろうか。それを考えると、悲しくて涙が出てくる。

 

でも、それでも。

 

わたしは錬金術師としてやっていくつもりだ。

 

だが、力を得た以上。

 

その力に責任が伴う事も、理解しているつもりである。

 

「それでは、質問に答えて欲しい。 錬金術とは、破壊か、それとも創造か」

 

「破壊です」

 

「即答か」

 

「はい。 わたしにとっては、錬金術は全てを破壊する力として始まりました。 そして創造は、破壊の後にしか生まれません」

 

これは私の中では真理だ。

 

その破壊には、必ずしもきれい事ではすまされない事だってたくさん含まれる。

 

わたしも匪賊は大勢殺してきたし。生きるためにたくさんの獣だって殺してきた。

 

エルトナでは愚かな重役達を押さえ込むために独裁者のように振る舞いはじめている事も理解している。

 

いずれもが、破壊だ。

 

だが、破壊の後に創造が産み出されることはわたしも分かっている。だからこそ、破壊には意味がある。

 

勿論無意味な破壊もある。

 

それは許してはいけない破壊だ。

 

「破壊すべきものを破壊し。 その後に新しいものを創造する。 それがものの声を聞き、その意思に沿って変質させる錬金術の本質だとわたしは思っています」

 

「なるほど。 プラフタ、どう思う?」

 

「ソフィーが育てなければ、こうはならなかったのでしょうね……」

 

プラフタさんは、あまり嬉しそうでは無かった。

 

しばし黙り込んだ後。

 

プラフタさんは言う。

 

「フィリス。 貴方は破壊の後に創造が、という話をしました。 それでは、世界の理を破壊し、未来を破壊する根絶の力についてはどう思いますか」

 

「破壊すべきものを破壊するのが重点であって、何もかも破壊し、都合の良いものだけを創造する力には手を出すべきではありません」

 

「貴方はそうならないと保証できますか」

 

プラフタさんは、もしもの場合は。

 

此処でわたしを殺す気だ。

 

それが分かった。

 

でも、わたしも此処で引くわけには行かない。

 

「分かりません。 でも、安易な破壊はしない。 それについては、今後も守ろうと思っています」

 

プラフタさんはしばし黙り込んだ後。

 

大きくため息をついた。

 

「場合によっては怪物をもう一人増やす事になると覚悟していました。 その考えを捨てないようにしてください」

 

「わたしは……」

 

「もう貴方は、充分に人から足を踏み外しています。 私やルアード、ソフィーのように」

 

そうか。

 

確かにそうかも知れない。

 

わたしには力が備わった。錬金術と言う力が。

 

この力は、人間では絶対に勝てないドラゴンや邪神にさえ対抗できる。百人がかりが一年掛けても崩せない岩山を一瞬で破壊する事が出来、万人がかりで魔術を使っても浮かべられない船を一人で飛ばす事だって出来る。

 

或いは機械技術がぐっと進めば出来るようになるのかも知れないが。

 

それでも、錬金術にはかなわないだろう。

 

プラフタさんは、ソフィー先生を促してこの場から消える。

 

ルアードさんが、この場にわたしと残った。

 

「君はこれから我々に並び立つ錬金術師になるだろう。 最終的に君はどうしたい。 このどん詰まりの世界の未来を開くつもりはあるか?」

 

「はい。 その力に到達できるなら」

 

「そうか。 だがそれは、「あの」ソフィーが、何度も挑んでは失敗しているほどの難事だ。 それでもやれるか」

 

「やれるかは分かりません。 ただ、出来る範囲でやってみるつもりです」

 

しばしの沈黙の果てに。

 

ルアードさんは、わたしに言った。

 

いつでも頼るようにと。

 

エルトナに来ている人達は、案の定深淵の者の構成員だそうだ。まあそうだろうと思っていたし、知っていたが。その首領から明確に宣言されたことになる。

 

そして、深淵の者は。

 

これからわたしを重要な戦略級錬金術師と判断。

 

以降は共同戦線を張ってくれる、と言う事だった。

 

「グラオ・タール北のドラゴンを倒しに行くそうだね」

 

「はい。 ただこれに関しては、自分達だけで何とかしてみるつもりです」

 

「わかった。 エルトナの方は、おかしな動きをしないようにしっかり監督しておくから、気にせず行ってくるといい」

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げる。

 

そして、周囲は。

 

いつのまにか、いつものアトリエに戻っていた。

 

お姉ちゃんもツヴァイちゃんも。ソフィー先生達が来ていたことにさえ気付いていなかった。

 

あの人が本気になったら、それこそ誰も何も気付くことさえ出来ずに殺される。

 

それを改めて思い知らされて。

 

わたしは身震いしていた。

 

 

 

ドッグに船を見に行き。

 

修理の様子を確認する。

 

修理用の合金を持ち込んだので、カイさんに渡して。修理がどれくらい掛かるかを聞くと、一週間、と言う話だった。

 

それだったら、準備をするには充分だろう。

 

上級ドラゴン、それも今度は弱体化無し。

 

流石に邪神以上とは思わないが。

 

それでも相当な相手だ。わたしも、現状の戦力で満足せず、更なる強化を図っていきたい。

 

イルちゃんとパイモンさんにも一週間後だと伝える。

 

パイモンさんは、何だか少し機嫌が良かった。

 

「うむ、分かった。 備えておこう」

 

「何かあったんですか?」

 

「ああ、あの浮島で採取した水がアンチエイジングに更に効果を示しそうでな。 中年くらいまで若返れそうだ」

 

「それは良かったですね」

 

わたしも、その内使うようになるのだ。

 

他人のアンチエイジングに口出しするつもりはない。

 

この世界がどん詰まりであり。

 

未来の人間に託す、何てことがただの責任放棄である事が分かった以上。わたしはやらなければならない。

 

もっとも、アンチエイジングを望まない人にまで、それを押しつけるつもりは無い。

 

ソフィー先生も、それに関しては。

 

きっとわたしと考えが同じなのだろう。

 

イルちゃんはパイモンさんと真逆のように沈んでいる。

 

何となく分かる。

 

多分イルちゃんも、聞かされたのだ。

 

ソフィー先生が、わざわざ出向いてきたこと。それにアトミナとメクレット、つまりルアードがイルちゃんに対してあからさまに顔見知りだったこと。

 

それに何より、イルちゃんがわたしと同等くらいの錬金術師だと言う事。

 

だったら、そろそろ告げに来るのが普通だ。

 

一度解散するが。

 

イルちゃんに耳打ちする。

 

案の定、頷かれた。

 

「この世界の真相、まさかこれほどまでの狂ったものだとは思わなかったわ」

 

「泣いていても始まらないことは分かっているけれど。 正直どうしようもないね。 何か思いつくことさえ出来ないよ」

 

「そうね。 力は知識に比例して身についていくものよ。 もっと力を得なければならないけれど、力は得てしまうと……」

 

そう。

 

錬金術師にとって力とは知識。知識を得るのは深淵を覗き込む事と同義だ。

 

ソフィー先生がわたしの頭を無理矢理掴んで深淵を覗かせ。そしてわたしの目が濁ってきていると喜んでいたのも。

 

それが力に結びついていることを知っているからだ。

 

勿論それが人として正しい事かどうかは分からない。或いは間違っている事なのかも知れない。

 

だが、人間がそもそも人間であるが故に、この世界がどん詰まりの末の破滅を迎えると知ってしまった今は。

 

もはや、人間として正しい事が。

 

正しい事なのかどうかは分からなくなってしまった。

 

いずれにしても、これから戦うのは、エルエムと下手すると同格かも知れない相手だ。雑念は死に直結する。

 

戦闘までにコンディションは最高の状態にまで整えておかなければならない。

 

それに、出来れば、更に手数も増やしておきたかった。

 

更に言えば。

 

レンさんの所で、重役会議にも出なければならない。

 

邪神撃破の正式報告。

 

それにこれから、フルスハイムを将来的に脅かす可能性が高い上級ドラゴンの存在。

 

どちらについても、報告し。

 

装甲船二番艦の使用許可を得る必要もある。

 

それを考えると、一週間という時間は短い。

 

ただ。今回はソフィー先生に、期日を指定されている訳では無い。無理だと判断すれば延ばせば良い。

 

それだけだ。

 

憂鬱だが、出なければならない。

 

二日後に、メアちゃんがアトリエに来た。会議が招集されたそうなので、来て欲しいという話だった。

 

イルちゃんとパイモンさんと一緒にレンさんのアトリエに出向き。

 

集まっているフルスハイムの重役とレンさんに。

 

邪神を撃ち倒したこと。

 

しばらくはその余波で、禁忌の森周辺にネームドが増える事を告げる。

 

おののきの声と。

 

露骨な恐怖が向けられるのが分かった。

 

たった三人で邪神を。

 

そう、ひそひそと話しているのが聞こえた。

 

否、違う。

 

床の鉱石が、教えてくれるのだ。いや、本当にそうか。何だか、ざわざわと、周囲の素材が満遍なく教えてくれているような気がする。

 

勿論床の声も聞こえるが。

 

それ以外からの声が、微弱ではあるが、前よりも更にはっきり聞こえはじめているのだ。

 

「それで、グラオ・タールの北に潜んでいるドラゴンを倒しに行くと言うのですな」

 

「はい。 元々強烈な砂嵐を起こして、谷を封鎖し、周辺のインフラを著しく阻害している上級ドラゴンです。 撃破しておかないと、いつフルスハイムに飛来してもおかしくはありません」

 

「上級ドラゴンがフルスハイムに飛来か。 考えたくも無い……」

 

「かといって、あの竜巻は記憶に新しい。 放って置いたら、あれと同レベルの惨禍が、またフルスハイムを襲うのか」

 

額の冷や汗をハンカチで拭う老人の重役。

 

まだ、この人達の方が、エルトナの重役よりは話が分かるか。

 

エルトナの重役は、わたしの事を下手に知っている分、むしろタチが悪いと感じる。

 

今では、敵意や殺意さえ抱いているようだし。

 

もう昔のあの人達とは、別人と考える他無さそうだ。

 

「船の使用の許可をお願いします」

 

「……やむを得ないだろう。 ただ、申し訳ないが、人員は出せない」

 

「はい、それも承知しています。 禁忌の森との接点を塞ぐ城壁の構築に全力を注いでください」

 

「うむ……」

 

レンさんが呆れた様子で頭を振る。

 

それでも兵力を出したいくらいは言えないのかと、顔に書いてあるが。

 

中途半端な実力者を出されても死ぬだけだ。

 

かといって、自警団の中核メンバーを出された場合。多分城壁作りの方が疎かになる筈で。

 

レンさんも其方に掛かりっきりである今の状況を思うと。

 

できない事はできないと、はっきり言って貰った方がありがたいというのがわたしの本音だった。

 

腰を上げると、アトリエに戻る。

 

途中、パイモンさんが、露骨に不機嫌そうに呟いた。

 

「わしもああいう立場は分かるのだがな。 だから故に不愉快でならん」

 

「……」

 

イルちゃんも、今は宿場町を切り盛りする身。

 

その辺りは分かっていると見て良いだろう。

 

アトリエに戻ると。

 

見聞院から借りてきた資料に目を通して。メモを取り。新しいレシピを作るべく頭を働かせる。

 

武器でも防具でも爆弾でも。

 

何でも良い。

 

ドラゴンの防御を切り裂くには、最低でもプラティーン合金、出来ればハルモニウム製の武器や。超高出力の魔術が必要になる。

 

今回は上級ドラゴン、それも弱体化無し。

 

更に厳しい戦いが予想される。

 

充分に準備していったエルエムとの戦いでも、彼処まで苦戦したのだ。

 

今回の戦いに関しても、気を抜くつもりはない。

 

一切合切の戦力を投入して、出来れば相手の反撃を許さずに仕留めきる。

 

そこまでやりたいところだ。

 

後、位置的に近いグラオ・タールに出向き、ノルベルトさんの協力は得たい。グラオ・タールとしても、フルスハイム同様脅威となっているドラゴンなのだ。ノルベルトさんの周辺は安定しているし、協力は得られるかも知れない。

 

ノルベルトさんはドラゴン戦の経験もある錬金術師だ。

 

今協力してくれれば、どのような形であれ助けになるだろう。

 

しばらくわたしは無心で調合をする。

 

世界を変える、か。

 

ソフィー先生に言われていた事の意味が。

 

ルアードさんに言われた事で。

 

また少し変化した気がする。

 

この世界がどん詰まりで。

 

その原因が神と言うよりも、むしろ人間にあるのだとしたら。わたしは人間を止める事を、視野に入れるべきなのだろうか。いや、もう確定事項になりつつある。

 

その時お姉ちゃんは悲しむだろう。

 

ツヴァイちゃんだって悲しむはずだ。

 

だけれども、お姉ちゃんやツヴァイちゃんのためでもある。

 

お父さんとお母さんも悲しむだろう。

 

だけれど、それでもやらなければならない。力を持ったからには、しっかりそれを使う義務がある。

 

面白半分に殺戮したり。

 

自分の正義を世界に押しつけたりするのでは意味がない。

 

そんな事は人間がやる事だ。

 

人間がそもそも世界を滅ぼす元凶だというのなら。むしろわたしは。

 

ふと、強烈な闇を感じた。

 

わたしは、人間を止めてしまう事を今後は前提にして動く。色々と後ろ暗い事も考えなければならない。だからといって、わたしが人間を滅ぼしては意味がない。少し頭を冷やさなければならないだろう。

 

一度深呼吸して、心を落ち着かせる。

 

ツヴァイちゃんを呼び止めて頼む。

 

ドンケルハイトの花びらを一枚だけ、複製できるか、と。

 

かなりの負担が掛かるはずだが。

 

花びら一枚だけなら。

 

お姉ちゃんが顔色を変えるが、ツヴァイちゃんはむしろ口をぎゅっと引き結んで、頷いた。

 

待っていたその言葉を、という顔だ。

 

もしも、このままお姉ちゃんとツヴァイちゃんと一緒に暮らしていくと。最後に残るのは、寿命から考えてもわたしとツヴァイちゃんだろう。

 

わたしはもう。

 

人間としてのあり方を守るつもりなんてないし。

 

人間の正道を行こうとも思わない。

 

ただ、わたしが見ているのは。

 

この世界の究極的な破滅の回避。そのためには、何でもする。皆に、少し負担も受け持って貰うかも知れない。

 

わたしはもう。こう考える時点で。

 

確かに人間からは、踏み外し始めているのかも知れないし。持っている力も、既に人間の領域から外れつつある。

 

わたしにとっては、もはや人間であることは。

 

重要でも何でもなくなりつつあった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。