暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
空飛ぶ荷車に分乗して、装甲船の左右から飛び出す。どっちかに致命的な何か攻撃を食らっても大丈夫なように、という安全策からだ。
殆ど直撃するところまで接近した船がいきなり上昇しはじめたのを見て、面食らったように上を見るロギウスの至近に。
既にわたしが接近している。
先陣を切るのは、アングリフさんだ。
前回が引退戦だと決めていたが。
結局もう一戦つきあわせることになってしまった。
だが、アングリフさんは不満一つ言う事も無く。わたしが作った大剣を振りかぶり。わたしの作った装備で身を包み。
極限まで身体能力を高めて、ドラゴンに果敢に挑みかかる。
一閃。
すっと、ドラゴンが横滑りに動く。
残像は出来なかったが。しかし、とても滑らかな動きだ。反撃に尻尾を叩き込もうとするロギウスだが。
其処へお姉ちゃんが完璧なタイミングで一射。
尾を射貫く。
やはりハルモニウムの鏃なら、上級ドラゴンにも通じる。
痛みに雄叫びを上げたドラゴンの頭上に、数十に達する火球が出現。
更に、口にブレスの光が宿り始める。
だが、直後。
パイモンさんが、ぶっ放す。雷神の石・極。極限まで増幅された雷撃が、束となってロギウスに直撃。押し込んで、岩壁に叩き付ける。更に上空の火球には、イルちゃんの放った魔剣が突き刺さり、爆破していく。
荷車を飛び降り、接近戦を挑みに行く前衛組。
岩陰に隠れ、展開する後衛組。
もう声を掛けずとも、皆がそのまま、ありのままに動ける。
わたしは地面に手をつくと詠唱開始。
ブレスを吐こうとするロギウスだが。
シールドを展開しようとするイルちゃんを制止すると、レヴィさんが前に出て、地面に剣を突き刺し、すっと印を切った。
そう、あの宝玉。
あれから、ネックレスに加工して、レヴィさんの首にぶら下がっている。
一応貴重品だと分からないように、鈍い色の金属でコーティングしたが。
効果はまったく変わらない。
ぶっ放されたロギウスのブレスを、真正面から、多少ずり下がりながらも受け止めきってみせるレヴィさん。
ふっと鼻を鳴らすのを見て、ロギウスが激高するが。
その時には、その顔面に、ドロッセルさんが蹴りを叩き込み。
一瞬身動きを止めたところに、脳天から斧を叩き込んでいた。
唐竹に、とまではいかないが。
大斧がロギウスの頭に突き刺さる。だが、浅い。
頭を振るってドロッセルさんを追い払うロギウスだが、脇腹にアングリフさんが大剣を突き立て。
更にそれを手で払おうとした所に。
今度はカルドさんとお姉ちゃんの狙撃が、両目を直撃した。
眼球は、潰せていない。
だが、これで相手は完全に本気になった。
凄まじい魔力が全身から吹き荒れる。砂塵が、また周囲に満ち始める。やはり一錬金術師が作った道具では、上級ドラゴンには届かないのか。
否。まだ砂塵は完全復活していない。
それならば、此方も、火力をフルパワーで活用するだけだ。
わたしの詠唱が完了。
全力でぶっ放す。
ロギウスの背中の岩壁が、錐のようになってロギウスを激しく抉り。左右も下も、岩が杭のように噴きだし。
更に余剰分は頭上から襲いかかる。
凄まじい魔力で押し返すロギウスだが、隙が出来る。
パイモンさんの、雷神の石・極二射目。
更に、イルちゃんの特大魔剣が、同時に突貫する。
ブレスを速射するロギウスが、雷神の槌を相殺するが。その間に潜り込んだ魔剣。ロギウスは、なんとそれを真剣白刃取りする。凄まじいが、だがそれで手は塞がった。
複雑な攻防の中、背後に回り込んでいたアングリフさんとドロッセルさんが、同時にロギウスの翼に切り込む。
翼が、鮮血を噴き出しながら、半ば抉り取られる。
ロギウスのブレスが更に出力を上げ、無茶苦茶に周囲を薙ぎ払い、谷が崩壊を始めるかと思ったが。
わたしは魔力消耗を意に介さない。
さっきイルちゃんが作ったとみせてくれたエリキシル剤を飲み干すと。
地面に手を突き。
今度は谷の崩壊を止めたのだ。
勿論、体中の魔力が吸い上げられていくようだが。
その代わり、体の中に入れたドンケルハイトが。燃え上がるような凄まじい力をわたしにくれる。
立ち上がる。
ブレスをまともに食らった岩壁が持ちこたえたのを見て、ロギウスがおののきの声を上げるのが分かった。
わたしはすっと手を上げる。
エルエム戦で用いた、ブリッツコア。
空中に展開したそれに、燃え上がるようにわき上がる魔力を注ぎ込み。
そしてフルパワーでぶっ放した。
額の血管が破れた。
血が噴き出るが、どうでもいい。
更に、好機とみたパイモンさんが、両手に雷神の石・完成型を手に、わたしの一撃にあわせる。
文字通り稲妻の巨竜となった閃光が、ロギウスに見る間に迫る。上空に逃れようにも、船に塞がれ。翼も半ば切りおとされている状態で。ロギウスに出来るのは、シールドで全力防御に回ることだけだった。
だが、そのシールドに、さっきの一撃からイルちゃんの手元に戻っていた巨大な魔剣と。
さっき上空で火球を全て爆散させた魔剣。
膨大な数の剣の群れが、立て続けに突き刺さる。
シールドに罅が入っていく。
アングリフさんとドロッセルさんが得物を放り投げてシールドに突き刺し。
お姉ちゃんとカルドさんはありったけの矢玉を叩き込む。
それでも、上級ドラゴンが全力で展開したシールドだ。
ふつりと。
そのシールドの出力が弱まる。
今までずっと身を隠していたアリスさんが、ロギウスの首の後ろを、横一線に切り裂いていたのである。
ロギウスのシールドに走る罅が、一気に拡大。
残像を造り、戻ってきたアリスさんが、膝を突く。多分、一撃に、全ての力を乗せたのだろう。
両腕からも、剣を握る手からも、出血していた。
恐怖が、ロギウスの目に浮かぶのが分かった。
本能だけで動いているくせに感情はあるのか。
恐怖に打ち震える人々を好き放題に蹂躙するくせに。自分は怖れているふりをして見せるのか。
まるで匪賊と同じだ。そう思ったわたしは、叫びながら限界ギリギリまで魔力を絞り出し、ブリッツコアに注ぎ込む。
更に、わたしの側で、ツヴァイちゃんが神々の贈り物を発動。タイミング、狙う位置ともに完璧。
ロギウスのシールドを貫通。更に巨竜の喉に、風穴を穿っていた。
それが決定打になる。シールドが爆ぜ割れ、全員の総力攻撃がシールドをぶち抜いて、ロギウスに炸裂した。
世界から。
音が消える。
レヴィさんが、一瞬遅れて、フルパワーでシールドを発動。
同時に、消えていた音が。あまりにも巨大すぎる破壊力となって、辺りを蹂躙していた事に気付かされた。
爆発が巻き起こり、それは十秒以上も続いた。
膨大な爆風がシールドにまくり上げられ。谷を内側から半ば吹き飛ばし。
シールドの後ろに逃げ込んだわたし達以外の、谷の全てが爆発に巻き込まれ。巨大なきのこ雲が上がっているのが分かった。装甲船までもが上空で熱量に翻弄されていた。
見える。
ロギウスが、悲鳴を上げながら、焼き尽くされていく様子が。
人間の魔術では出力が足りない。
下級のドラゴンでも倒せない。
だが、出力を極限まで上げた魔術なら。ドラゴンを倒せる。それが例え上級であっても。
それは此処に立証された。
内部から暴走した魔力が、鱗を吹き飛ばしていく有様が。どうしてか、嫌にゆっくりと見えた。
最後の最後に、ロギウスが空に向けて放った弱々しいブレスが、装甲船を直撃したが。その程度のブレスで落ちるような柔な船では無い。
程なく、谷そのものを焼き尽くした爆発が収まり。
形を大きく変えた谷からは。
砂塵は消え。
そしてその場には。
かろうじて原型だけは残しているロギウスの亡骸が。もはや生前のように覇気も無く、何も動く事もなく、横たわっていた。
降りてきた船に、ロギウスの死骸を可能な限り全部積み込むと、急いでその場を離れ、グラオ・タールに向かう。
まだ彼方では戦闘が継続している可能性がある。
その場合、支援をしなければ色々とまずい。グラオ・タールの自警団は手練れ揃いだったけれど。
それでも、もし谷にネームドが多数いて。
それが全て襲いかかっていたとしたら。
決して面白い結果にはならない筈だ。
低空飛行で、装甲船二番艦を往かせる。
かなり傷ついているが、それでもグラオ・タールまではもつはず。それにしても、飛行キットがやはりネックだ。脆すぎる。今回も、船体はほぼ無事だったのに、飛行キットだけが大きく傷ついている。
前のエルエム戦でもそうだったが、装甲船に取り付けるものは、いっそキット化しないか。
それともハルモニウム装甲にするか。
どちらかを選択するべきかも知れないと、わたしは少し不安定に揺れながら飛ぶ装甲船のおなかの中で思った。
応急手当を済ませる。
速攻で勝負を掛けるつもりだったから、皆手傷は少ない。本当に殺すか殺されるかの勝負だった。
戦力で見れば、多分エルエムの方が上だったと思う。
しかし戦略的優位はロギウスにあった。
もし戦いが長引いていたら、砂塵が復活して、後は為す術も無くなぶり殺しにされていただろう。
見えてくる。
相応の数の獣と、グラオ・タールの自警団員が戦闘中だ。
「支援に行きます!」
「出られそうな奴は!」
アングリフさんが叫ぶと、レヴィさんとドロッセルさん、それにカルドさんとお姉ちゃんが挙手。
一撃に全てを賭けたアリスさんはまだちょっと具合が良くない。
パイモンさんも、首を横に振った。
アングリフさんはわたしを見たが。
わたしは首を横に振る。
フルパワーでぶっ放した魔術と、最後の総力ブリッツコアでの消耗。何よりも、その時に飲んだエリキシル剤の反動が大きすぎる。
一気に力を引き出したからか。
その分のダメージが、今体に来ている感触だ。
「イルメリア、ならば支援を頼むぞ。 手札を出せるだけ出してくれ」
「分かったわ」
「他の皆は前衛組を支援! ライト、レフト、まだ主砲は撃てるか?」
「いえ、炉の状態が限界近く、無理です」
ライトさんの返事に、アングリフさんは舌打ち。
とはいっても、あれだけの無茶をしたのだ。更に最後のきのこ雲に、装甲船はモロに巻き込まれた。
今浮いているだけでも奇蹟、といえる。
ほどなく、タラップを解放し。
アングリフさんが先頭に、皆が獣の群れの背後に突っ込んでいく。
案の定ネームドが何体かいるようだし。
此方の疲弊も激しいが。
それ以上に、ハルモニウム武器と、更にヴェルベティス製の神衣による能力の強化が著しい。
思い切り背後を突かれた上に。
増援の戦力が大きい事もあって、グラオ・タールの自警団員は一気に劣勢を盛り返し、獣を斬り伏せ始める。
其処に、念のために来ていたフロッケの自警団員が加勢した事もあり。
後は一方的な展開になった。
イルちゃんの魔剣が、次々と獣の頭や喉をつらぬき。
キルシェさんの周囲に浮かんでいる球体が光の魔術を展開し、敵を焼き払っていく。
更に追い詰めた獣も片っ端から狩る。
あの砂塵に紛れて、多くの人々を殺してきただろう獣たちも。
今、逆に狩られる側に廻り。
悲鳴を上げて逃げようとする所を。
容赦なく背後から斬り倒された。
戦いは程なく包囲戦から掃討戦に移行。
追い詰められた敵に、イルちゃんが爆弾を放り込み、まとめて駆除する。ドラゴンを滅ぼした後の戦いは、むしろメインディッシュより長引いたけれど。それでも、負担はぐっと小さいように見えた。
最後にアリスさんが少しだけ加勢したが。
その時にはもう戦闘は終了。
谷にまで自警団員が出向き、獣の死骸を回収してきていた。
そして回収した獣は全て吊して解体を開始する。
剥ぎ取った毛皮はそのまま売り物に出来るし。
肉は燻製にして保存食にする。
内臓なども食べられる部位は活用するし。錬金術に使えそうなもの。例えばネームドから取れた深核などは、皆で分配する。
フロッケの新しい長老とグラオ・タールの長老が握手をしているのを横目に。わたしはノルベルトさんと、救援に来てくれたキルシェさんに頭を下げる。
「助かりました」
「いや、役に立って良かった。 砂塵が晴れるのが、此処からも見えたよ」
「どうせなら、私も呼んでくれれば良かった。 改良した」
「まあ、あんたなら出来たかもな。 意地を張らずにそうしておけばよかったかも知れんな」
むっとした様子のキルシェさんだが。
何となく腹を立てている理由は分かっているので。ノルベルトさんに耳打ち。ああそうかと頷いたノルベルトさんは、レシピをキルシェさんに、今回の増援の礼だと言って渡す。見る間にキルシェさんは機嫌が良くなった。
すぐにレシピを解析したのか。
頷いて、それで戻っていく。キルシェさんが戻るのを見て、フロッケの新しい長老も、慌ててそれに従って帰って行った。
フロッケはもう大丈夫だろう。
グラオ・タールの自警団員のために、傷薬を放出する。
在庫はまだまだあるのだし、今回の作戦に参加してくれたことにはとても大きな意味もあった。
此方からお薬を提供するのは当たり前の話だ。
かなりの大軍を相手にしただけあり、相応に被害は出ていたが。
それでも、致命的な怪我をした人は少なく。
更に、かなり危険な状態だった戦士も、黄金色の葉をベースに作ったお薬を惜しまず使った事で持ち直した。
どうやら、人的被害は出さずに上級ドラゴンを仕留められたようだ。
そう思うと。
色々と嬉しい。
これで、周辺の状況も一段落だろう。後はエルトナの側にいる邪神だが、あれは人間に興味も見せないし、近付かない限りは何もしてこない。実際、近くでエルトナの拡張工事をしているのに、動きを見せているという話もない。
邪神というべき存在ではなく。
本来の意味での神、なのかも知れない。
だとすれば、戦う意味もないだろう。
ようやく。
これで、わたしに出来る範囲内の問題は、一通り片付いた、と言う事だ。
ノルベルトさんに手を振って、この場を後にする。
お姉ちゃんは何か言いたそうにしていたが。まあ、時間はある。ゆっくりとその内、親子として互いを認識出来るようになって行けば良いはずだ。
多少ふらつきながらも、装甲船二番艦はフルスハイムに到着。
フルスハイムでも、あの凄まじいきのこ雲は目撃されていたらしく。
更にかなり揺れたらしい。
港のドッグに入った装甲船の惨状を見て、カイさんは形容しがたい笑みを浮かべて、大騒ぎだったと教えてくれた。
案の場だが、すぐにレンさんのアトリエに呼ばれる。
どうやら、ここからが本番というか。
内憂外患を処理する中。
外患は終わったが。
内憂をこれから片付けなければならないようだった。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
-
このままでいい
-
一日で一章がいい
-
更に分割して欲しい