暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、大いなる力へ

無惨な姿になった上級ドラゴン、ロギウスの残骸を装甲船から引っ張り出す。グラビ結晶を用いないと、運び込む事も出来なかったし。運び出すことも出来なかった。

 

凄惨なドラゴンの死体を見て、その巨大さと無惨さにフルスハイムの重役達は恐れおののく。

 

わたしはドラゴンの鱗がハルモニウムの材料になる事。

 

体内からは竜核と呼ばれる貴重な素材が入手できる事、などを説明すると。

 

実際にその場で、皆に手伝って貰って解体を開始。

 

そして鱗の一部は、フルスハイムに譲渡した。

 

これは装甲船を使わせて貰った礼だ。

 

竜の鱗がどれほどの価値があるものなのかは、レンさんが証言してくれる。重役達も、そんなものを気前よく提供されれば、黙らざるを得ない。

 

今回の作戦は危険な内容で。

 

しかも今の時点で、潜在的な危険に過ぎなかったドラゴンを殺しに行くという事で。内心は反対している重役も多かったようだが。

 

しかしながら、間近に見たドラゴンの凄まじい恐ろしさと。

 

何より気前よく飛び込んできた利益。

 

この二つに、文字通り札束と暴力の両方で殴り倒され。

 

後は何も文句を言うつもりはなくなったようだった。

 

残念ながら、湖底の邪竜の時と違って、ロギウスは速攻を選択しなければならなかった事もあり。

 

新鮮な肉は得られなかった。

 

鱗の内側は殆ど消し炭。

 

内臓類も駄目になっていた。

 

ただし、それでも竜核は無事だったので。竜核まではいらないとレンさんが言ってくれた事もあり。

 

竜核は三分割して。

 

わたしとイルちゃん、パイモンさんで分ける。

 

これだけで、どれだけ貴重な道具が作れるか分かったものではない。

 

もしもこれ以上の装備品を作ったり。

 

これ以上の性能の道具類を作るとなると。

 

恐らくは、邪神を積極的に狩りに行き。その素材を入手するしかないだろう。もしくは世界樹に出向き。命がけでパルミラの「遊び」につきあうか。どちらかに二択になってくる。

 

わたしは。

 

更なる力が欲しい。

 

いずれにしても、今回はこれで解散だ。

 

パイモンさんは、村の様子が心配だからと、早々に切り上げて戻っていく。アンチエイジングを進めて行くとなると、次に出会うときは更に若返っているかも知れない。それもパイモンさんが選んだ道だ。わたしにどうこう言うつもりはない。

 

イルちゃんは、話があるそうなので。

 

宿を借りて、部屋に入ると。

 

部屋に音漏れ防止のための魔術を掛ける。

 

何となく様子がおかしいことを悟っているからか。

 

お姉ちゃんも、それについては何も言わず、干渉しようともしなかった。

 

イルちゃんは、魔術の展開を確認した後。

 

大きく嘆息した。

 

「無駄でしょうけれどね。 一応念のためよ」

 

「ルアードさんに会ったよ」

 

「!」

 

「その様子だと、イルちゃんも前から接触していたんだね」

 

ぐっと口を引き結ぶと。

 

イルちゃんは、悔しそうに拳を固めた。

 

ルアード。正確にはアトミナとメクレット。もしくは本来の姿がルアードで、活動用の姿がアトミナとメクレットなのかも知れない。

 

ともあれ、イルちゃんの所に、公認錬金術師試験を受ける前から姿を見せていて。

 

色々重要な所で。

 

様子を見に来ていたという。

 

ある時は心を抉るような言葉を投げかけてきたり。ある時は、実験台の状態を伺うかのように話を振られたり。

 

怖いと思い始めた頃には。

 

その正体が、とんでも無く危険な存在だと言う事は分かり始めていた。

 

「私は凡人だけれども、故に頂点を伸ばせる存在だという事をこの間言われたわ。 錬金術師の才能というものは、結局の所ギフテッドに依存しないらしいわ」

 

「……何となく分かる気がする。 最近なんだけれど、少しずつ鉱物以外の声も聞こえるようになって来たの」

 

「貴方も」

 

「そっか、イルちゃんもなんだね」

 

あまり嬉しくない。

 

昔は、鉱物が何から何まで教えてくれるのが兎に角嬉しかった。それが当たり前の事だったし、疑問も抱かなかった。

 

だけれども、何もかも声が聞こえるようになってくると。

 

最初からそうだった人は。

 

心を病むのではないかと、思い始めていた。

 

そして、案の定。イルちゃんは、恐ろしい事実を教えてくれる。

 

「あのソフィー=ノイエンミュラーは、典型的な全ての声が聞こえるタイプだったらしいわ」

 

「そうだよね……」

 

いつだったか、その話をされた気がする。

 

今なら分かる。

 

ソフィー先生は、幼い頃から狂気の世界に生きてきた。薄明の世界とでも言うべきだろうか。

 

周囲に理解者はいただろうが、それも全員ではなかっただろう。

 

わたしは鉱物だけの声が聞こえて。

 

しかも両親は理解者で。

 

お姉ちゃんという最大の味方もいて。

 

何よりエルトナにとって利益になる存在だったから、生きてこられた。でも、外に出てみてはっきり分かった。

 

これらの幸運な条件が揃わなかったら。

 

わたしは錬金術師どころか。

 

まともな人生を送ることさえ。そう、子供の頃に、もう人生を中断させられていたかも知れない。

 

勿論錬金術師としての才能という、最低限のスタートラインがなければ、どうにもならない世界だと言う事も分かっている。

 

そういう不平等極まりない世界だと言う事は、もう諦めてもいる。

 

だが、だからこそ。

 

わたしはこの世界と戦わなければならないのだ。

 

「これからどうする?」

 

「わたしは、世界と戦うつもり」

 

「そう……」

 

「イルちゃんはどうするの?」

 

きっとイルちゃんも、ソフィー先生に見せつけられているはずだ。この世界が最終的にどうなるか。

 

人間という存在そのものがまずいという事実も。

 

ならば、力を持つ者は。

 

相応の対応はしなければならない。

 

最悪な事に、人間の可能性は有限。更に言えば、この世界の資源もまた有限なのである。時間は限られている。

 

ソフィー先生がどうにも出来なかったくらいに。

 

後進の人間に託して、世界を任せるなんて事は、残念ながら選択肢には入らない。もうそんな選択をしている状況では無くなった。

 

何もしなければ、世界は確実に詰む。

 

その確率は100%だ。

 

ならば、その絶対の壁に。

 

わたしは穴を穿たなければならない。たとえ、ソフィー先生が、完全に深淵の存在になっていても。

 

世界の最アンダーグラウンドに関わる事になっても。

 

どれほど危険な存在かは分かっている。

 

それでも協力していかなければ、この世界はどうにもならない所まで来てしまっているのだ。

 

イルちゃんは。ゆっくり、丁寧に説明していくわたしを静かな目で見ていたが。

 

やがて、小さく頷いた。

 

「実はね。 私は貴方よりももっと前に、深淵の者と契約を正式にしていたの」

 

「!」

 

「何となく見当はそれでついたわ。 深淵の者の凄まじい技術力を見れば、何となく分かったから。 アリス達の出自も、どうして誰も疑問に思わずアリス達を受け入れているかも、ね」

 

そうか。イルちゃんも苦悩していたのか。

 

そう思うと、わたしも涙が出てくる。

 

きっと悲しかっただろう。

 

でも、アリスさんはイルちゃんのために文字通り命がけで戦ってくれる人だ。ただし、もしもソフィー先生が、イルちゃんを消せとアリスさんに命じたら。その時、アリスさんが逆らえるかどうかは、甚だしく疑問だ。それをイルちゃんも分かっている。だからこそ、苦悩は膨らむ。

 

涙を拭うと。

 

頷く。

 

「わかった、協力しよう。 協力して、この世界のどん詰まりを解消しよう。 でも、ソフィー先生は危ないと思う。 最悪の時には、ソフィー先生に対抗できる力も身につけないといけないと思う」

 

「そうね。 あの人は本物の魔よ。 神ですら食い殺す深淵そのもの。 もしも対抗するのなら……」

 

後は、言葉も無い。

 

言う必要もないからだ。

 

わたし達も、同じように。深淵の力を手に入れるしか無い。

 

だが、深淵を覗き込めば覗き返される。

 

ソフィー先生は元々、凄まじい意思力の持ち主だ。話を聞く限り、何千年単位での繰り返しを考えられない回数こなしている。普通の人間だったら耐えられないし、とっくに諦めている。

 

だがそんな状態でも、ソフィー先生は淡々平然と世界のどん詰まりを解消するために、あらゆる手を模索している。

 

人材を収集しているのもその一環だろう。

 

自分だけの視点では、解決できない問題もあると理解しているから、他の人材を得ようとしている。

 

例え自分に逆らい。

 

或いは決定的に相容れない人材であっても。

 

わたしも、力を得るとしても。

 

ソフィー先生のコピーになってしまっては意味がない。

 

最悪の場合はあの人を止め。

 

そして自分の意思で最善手を模索していく。

 

そんな存在にならなければならない。

 

人間であることに、もう未練は無い。アンチエイジングを行う事に抵抗は無いし。何より人間の醜さはもう散々見尽くした。

 

イルちゃんがもう一つ溜息。

 

「それで、貴方は何になるつもり」

 

「? どういうこと?」

 

「世界に対してどう接していくか、と言う事よ。 新しい価値観を創造していくのか、それとも既存のものを壊して新しいものが発生する余地を模索するのか。 聞かれたんでしょう、ルアードに」

 

「ああ、それならば決まっているよ」

 

わたしは即答。

 

わたしはこの世界の。

 

破壊神になると。

 

破壊の後にしか創造は生まれない。この世界はどん詰まりになっている。ならば、既存のルールを破壊しなければならない。

 

わたしは、破壊神となる事で。

 

その世界のどん詰まりを解消する。

 

イルちゃんはそれを聞くと、頷いた。

 

「そう。 ならば私は、貴方とは逆の道を行くわ。 新しい力と価値を、無から創造していくつもりよ」

 

「うん。 それならば、互いに上手に連携すれば、効率よく世界を変えられそうだね」

 

「そうね……」

 

頷くと、部屋を出る。

 

どうせソフィー先生は聞いていただろう。あの人ほどの存在になると、もう今のわたし達ではどうにもならない。

 

ソフィー先生は恐らくだが、世界の管理者であらんとしている筈だ。

 

そして他の思考、価値観をもつ人材を欲している。

 

それならば、わたしは。

 

破壊を統べるものとなる。

 

既存のルールの問題点を破壊し、どん詰まりの世界に穴を開けるための者となる。それを破壊神というのなら。

 

わたしはこれから破壊神だ。

 

イルちゃんも悩んでいたのだろう。創造神の実態を見てから、この世界のどん詰まりぶりを、身を以て感じられたからというのもあるだろうし。何より、ソフィー先生やルアードに言われたのなら、なおさらだ。

 

宿を出るとき、イルちゃんの顔は見えなかった。ただ、わたしと同じで、もう目は濁りきっているだろうとも思った。

 

お姉ちゃん達と合流。

 

イルちゃんと一旦別れる。どうせまたすぐに連携する事になるし、そろそろ空間関連の錬金術を学ばなければならない時期だ。

 

そしてエルトナの方で、色々と処置をしなければならない。

 

もしもこれ以上グダグダわめき散らすようなら。

 

長老も重役達も。

 

皆殺しにすることを、視野に入れなければならないだろう。

 

皆のためになる事を推進しているのに、自分達のためだけの利権を求めて騒ぐような輩など、匪賊にも劣る。

 

勿論、そうならないように努力はする。

 

最悪、洗脳してしまうのも手か。倫理に欠ける上に、社会の上層に立つ相手に。倫理で応じる理由など無い。

 

お姉ちゃんは何も言わなかった。

 

わたしに何かあったのか、悟っているのだろうから。

 

エルトナに戻る旨を皆に告げる。

 

一通り、周辺で脅威になる存在は排除し尽くした。

 

錬金術に必要な素材も、充分すぎる程に備えた。

 

それならば、これからは。

 

最後の目的に備えて、準備をしていく。エルトナの街を、拠点とするべく徹底的に整備する。

 

ただ、それだけ。

 

わたしには、これから。

 

自由と呼べるものは、存在しない。

 

 

 

(続)




フィリスの力は既に人間を逸脱し始めています。

その精神も。

そう仕向けた人が。狙った通りに。

フィリスが人としての自分にこだわらなくなった時。

もくろみは、次の段階に進むのです。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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