暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
フィリスは故郷に持っていた子供時代の思い出と決別することにします。
エルトナが、あらゆる意味で未来に進むために。
必要な作業が始まります。
序、在りし日の終わり
鉱物以外の声も聞こえはじめているのだ。鉱物の声は、今までに無いほどクリアに聞こえるようになっている。
わたしはつるはしを振るう。
発破など必要ない。
つるはしで岩山を破壊し尽くすのも、今なら難しくは無い。そう、今のわたしは、存在そのものが戦略級なのだ。
昔、エルトナの街が地下にあった岩山を、完全に崩壊させ。
そして資源を一切合切回収。
更に次の岩山を崩し。資源を回収していく。膨大な水晶や宝石の原石、様々な金属がボロボロ出てくる。
全てを全自動荷車でコンテナに運び込む。荷車への積み込み、コンテナへの回収は人力でやらなければならないが。それらは屈強な深淵の者の戦士達が行うし。荷車の誘導はそれこそ老人や子供でも出来る。歩いて誘導するだけで小遣いが貰えると言う事で、家計の足しにと仕事をしたいと名乗り出てくる老幼は多かった。
わたしがつるはしを振るう度に大きな音がして、街が揺れ。
その度に、こわごわとわたしの方を見ている視線を感じるが、今更一切気にすることも無い。
やはりもう発破は必要ないな。
わたしはつるはしを振るって、次の岩山を崩し始めながら、そう考えていた。どう崩れるかも分かっているので、逃げるのも難しくは無い。
上級ドラゴンであるロギウスを殺し。
イルちゃんとパイモンさんと解散してから。
エルトナに戻って一週間。
今はこうやって、ガンガン岩山を崩して資源化し、隣の町への道を作り始めている。
既に空飛ぶ荷車を使って岩山を越え、隣の町へは足を運び。話をしてある。
流石に岩山が丸ごとなくなって道が出来る、という話を聞いて、隣街の人々は驚いたようだが。
そもそも公認錬金術師もいない街だ。
エルトナとの道を確保できれば、街道の一端となる。そうすれば、人が行き来するようになり、お金も流れるようになる。
更に、その先をずっと行けば、アダレットにつながってもいる。
まだ遠く先ではあるけれど。
どん詰まりの場所にあった街が。アダレットとラスティンをつなぐ交通網の一端に早変わりするのである。
そのメリットは、想像以上に大きい。
向こう側は大喜びして話に乗ったが。
わたし自身は、内心しらけていた。
今は喜んでいるだろう。
だが、岩山を崩し終え。
道を作り。
緑化して安全策を講じていけば、錬金術師の力を目にする事になる。破壊の存在を目指しているわたしの圧倒的な力を間近にする事になる。
そうなれば、相手は畏敬では無く。
畏怖を抱くようになる。
やがてそれが恐怖になるのも、そう遠い日では無いだろう。わたしは一切、相手に優しくしてやるつもりはない。
甘やかしても。
何一つ良い結果など生まないからだ。
岩山を崩し終えると、後は残った岩などを砕き、荷車に乗せてどんどんコンテナに入れていく。
コンテナ内部では、深淵の者から貸し出された人員が、ツヴァイちゃんの指示通りに資源を運び込んでいて。
後は全て任せてしまって大丈夫だろう。
お姉ちゃんが周囲の見回りから帰ってきた。
岩山が連なっているこの周辺だ。どんな獣が潜んでいるか知れたものではない。更にわたしがガンガン岩山を崩している状況だ。そいつらが飛び出してくる可能性も否定出来ないのである。
お姉ちゃんは、残りの岩山が二つと聞くと。
頷いて、話をしてくれた。
どうやらこの近辺に、わたしが直接殺しに行かなければならないほど強力なネームドはいないそうだ。
いずれにしても、普通の獣止まり。
そこまで警戒する必要はないそうだ。
また近場でドラゴンを見かけたという話もなく。周辺での安全は、ある程度確保できているという。
頷くと、わたしはまたつるはしを振るい続ける。
身につけている神衣や、改良に改良を重ね続けた道具類もある。
同じ装備品でも、素材を変えるとまるで別物に化ける。
それらで能力をブーストしているわたしは。
もはや魔族の大人を片手で軽々持ち上げて、遠くへ放り投げられるくらいまでは、身体能力も上がっている。
道具ありきの身体能力とは言え。
既に人間が相手だったら、遅れを取る事はない。
不意打ちで後ろから斬りかかられても、刃物がハルモニウムでも無い限り、わたしの体を覆っている守りの魔術を突破することは出来ない。
つまるところ、怖れるものは。
この場には無い、と言う事だ。
「フィリスちゃん、そろそろお昼よ」
「うん。 じゃあ、あと一つ岩を崩したら戻るね、リア姉」
「そう。 ではおうちで作って待っているからね」
頷くと、わたしはつるはしを振るい。
残っている巨岩を粉砕し、出てきた資源類を全て回収。品質をより分けるのは後でやればいい。
アトリエに運び込むのを見届けてから。ツヴァイちゃんと一緒におうちに。
今日はサラダ類が多くて、ちょっと無言になったが。
栄養のバランスをお姉ちゃんが考えてくれているのも分かっているし、何よりも植物資源が如何に貴重かも知っている。
だから文句を顔に出しながらも食べる。
食事の後は、軽く休んだ後。
孤児院の方を見に行く。
もうあらかた形は出来ていて。教員などの人員についても、派遣が決まっている。
実は深淵の者と直接話をして。
此処の出身者の内、見込みがありそうな人間を深淵の者に派遣する代わりに、有能な教師を回してもらうと言う事で話はついているのだ。
これで教師不足の恐れはなくなり。
なおかつ、此処を出た卒業生も、食いっぱぐれる恐れは無くなる。
孤児院を作った場合。
一番危険なのは、出身者が職を持てない事なのだ。或いは、ろくでもない引取先が名乗り出てくること、である。
こういった孤児院は人身売買に関わったりもするため。
その危険性は尋常では無い。
だからわたしも、事前に丁寧に調べて。孤児院の仕組みを悪用されないように、徹底的に手を打った。
後は、孤児院をきちんと作り上げればそれで完了だ。
別に何処でも何でも出来る人材など育てる必要はない。
何か芸があるだけでも、人間は生きていける。
むしろ何かしらの芸をきわめれば、必ず重宝される。
更に言えば、わたしが見る限り、人間の才能なんてのは基本的に総合的にはあまり変わらない。
たまに規格外もいるが。
それ以外はあくまで皆似たようなものだ。
それだったら、それぞれの得意分野を延ばせば、それぞれがスペシャリストとして活躍出来る。
わたしなんかが典型例だろう。
錬金術以外に何の取り柄もなく、容姿が優れている訳でも無いわたしなのに。
今は各地の戦略事業で活躍し。
そしてエルトナの事実上の支配者として振る舞うまでになっている。これは一つの才能を開花させた結果。
仮に何一つ満足に出来ない人間がいたとしても。
それはそれで、専門技能を身につけていけば、必ず役に立てる。
この世界には。
人間が少なすぎるのだから。
技能が無くても知恵があれば代用できる。
そういった人材を育成する場所を造り。
そして、傭兵しか生きる場所がなく、ゴミのように死んで行く。そんな子供達を量産することだけは、避けなければならない。
アングリフさんが来る。
仕立てたスーツを着込んでいて、ちょっと動きづらそうだ。
前回の戦いで、今度こそ引退、を宣言したアングリフさんは。
大剣をわたしに返し。
以降は、校長として振る舞うと宣言した。
今の時点では、カルドさんとレヴィさんが、教師として時々仕事をしてくれると約束してくれているが。
カルドさんは標の民としての本業があるし。
レヴィさんは色々なところで宝を探したい、とこの間言われた。
何でもパルミラの所で手に入れた宝玉が、とにかく馴染むらしく。
このような宝が他にもあるのなら、見つけたい、というのだ。
わたしはたまに宝探しにつきあおうとも決めているし。
いずれにしても、教師をしてくれるのなら、それくらいの対価は安いものである。
他にも何名か、深淵の者から派遣されてきた教師が既にエルトナに来ていて。勿論兼業だが、授業もしてくれることを約束してくれている。
アングリフさんは丁度今、その中の何人かと顔合わせをして来たところで。
上機嫌の様子だった。
「フィリス。 相談したいことがあるんだが、いいか?」
「はい。 まだ足りない物資がありますか?」
「いや、孤児院自体は何ら問題はないな。 もう子供を引き取ることも出来るし、いつでも稼働可能だ」
「それでは、相談事とは」
子供そのものがいないと、アングリフさんは言う。
そもそもエルトナにはホームレスがいない。
今の時点で其処までの貧困層が存在しないのだ。
今、エルトナには、人が流れ込んできているが。最貧困層はおらず、此方で来次第すぐに仕事を割り振っているし。あからさまな犯罪目的で来た人は、即刻お帰りを願っている。勿論力尽くで、である。
あの街は景気が良い、という噂を流すと同時に。
どうやら「鏖殺」がいるらしいという噂を流し。
更に精強極まりない深淵の者から貸し出されている戦士達が周囲を固めている事を見せつける事で。
悪さをしようと入り込んで来た連中は。
そそくさと逃げ去っていく。
タチが悪い連中の中には、子供を捨てて去って行くような者までいるが。
そういう輩は放置。子供は引き取る。子供は大事な未来の資産だ。
そんな風にして此処に捨てられていった子供が、既に数人、孤児院で生活を始めている。
深淵の者から派遣された中年のヒト族の女性(孤児院で働いていたので、シスターとでも呼ぶべきだろうか)が、読み書きどころか何も知らないその子供達を躾けるところから始めているが。
いずれにしてももっと多くの子供を引き取りたいという。
「俺はもう剣を捨てたからな。 この街から動くつもりもねえ。 不幸な子供がいたら、連れてきてくれるか?」
「わかりました。 各地をどうせ色々回るつもりでしたし、その時に様子を見てきます」
「頼むぜ」
アングリフさんが戻っていく。
わたしは嘆息すると、仕事に戻る。
岩山を粉砕した後は、道を作り始めなければならない。今度はオスカーさんもいない。護衛としてはティアナちゃんを一として充分すぎる戦力が揃っているが、緑化作業が如何に大変かはわたし自身がよく分かっている。
更に出来れば、岩山を壊した先の街の。更にその先まで、インフラ整備を手伝おうとも考えている。
どうせ錬金術師もいないのだ。
インフラなんてまともに今後整備できる筈も無い。
現時点でも、粗末な城壁と。
街を守れる最小限の自警団。
森で守れてもいない「街道」しか無い事は分かっている。
これらについては、昔のエルトナと同じか、それ以上に悪い状態で。
案の定、獣による被害が多数出ているとも聞いている。
それならば、放置しておくわけにもいかないだろう。
明日中に。
この岩山を崩し、資源化しきる。
岩山につるはしを降り下ろしてから、麓で作業をしている人達に退避の指示。
自分も、錬金術の装備でブーストアップしている力をフルに活用して、さっさと麓まで逃れる。
今、岩山の要所をつるはしで貫いた。
それにより、程なく岩山が派手に崩れ始め。凄まじい岩雪崩が起き。わたしが丁度足を止めた地点まで、岩が転がってくる。
おおと、声が上がった。
鉱物の声は、他のものよりもよりよく聞こえる。
最近は精度も更に上がっているから、どの辺りまで崩落が及ぶかも、きっちり把握できるようになっていた。
すぐに崩れた岩山を、更に崩す。
残った岩山はあと一つ。
明日中に此処の片付けを終わらせ。
更にもう数日中には、もう一つの岩山も崩してしまう。
そのつもりだ。
夕方過ぎまで作業を終わらせる。
わたしは主に大きな岩をつるはしで粉砕し続け。岩を運ぶのは、仕事をしに来ている者達に任せる。
仕事をしている中には孤児院の子供もいる。
荷車に岩を運び込むのは、戦士達の仕事。
全自動荷車を誘導するのは子供達の仕事。
現時点では、子供も働かなければ生活出来ないし。何より子供にとっても小遣い稼ぎになる。孤児院でも食事などの世話はしているが。小遣い稼ぎとなると、わたしの仕事を手伝うのが早い。そして人手は幾らでも必要だし、何より簡単にできる上、不正のしようもないので、問題は一つも無い。荷車に乗せている鉱石にしても、子供が持ち上げられるような大きさでもない。
孤児院が本格稼働したら、この街の子供にも可能な限りの教育を。望むなら大人にも教育を提供するつもりだが。
それには人員がまだまだ足りない。
エルトナの発展も足りない。
めぼしい岩類は全て崩し。
二次崩落の恐れが無い処まで徹底的に調査した後。
見張りを残して、今日は作業終了。
どうしても悪さをしに来る者がいるのだ。
そのため、いかにも歴戦を臭わせる上に、夜に強い魔族の戦士達数名に、工事現場は見張って貰う。
夜の魔族は力が二倍になる上に、夜目も利く。
こういう所で悪さをするのは大体ヒト族か獣人族なので。
魔術によるアラームも掛かっているこういう場所で、そもそも悪さが出来ないように威圧的に見張りを配置しておくのが一番有効だ。
見張りは隠れて見張るのでは無い。
姿を見せて相手を威圧することによって、事前に敵の行動を阻害するものなのである。
家に戻る途中。
いつの間にか隣をティアナちゃんが歩いていた。
「盗賊が入り込んでるよ。 今の時点では姿を隠してるけど」
「そう。 証拠も押さえているんだね」
「ほい」
差し出してきたのは、声を記録する道具だ。
わたしが作った。
レシピはそれほど難しくない。相手の頭の中を直接魔術で覗けるくらいなのである。声だけ記録する道具くらいは、作るのなぞ造作も無い。
それを聞く限り、やはり何処の家が蓄えてそうだとか。岩山を崩している所は隙が無いだとか。
錬金術師に手を出しても勝てそうに無いから、重役の家から盗みだけしてさっさと街を離れようとか。
数人で話し合いをしていた。
「どうする? 消す?」
「捕縛して、匪賊かどうか確認。 処置はその後」
「じゃ、捕まえてくるね」
「ん……」
匪賊だったら、勿論斬首。
匪賊に対しては、見敵必殺が基本。勿論それは、このエルトナでも同じ事だ。匪賊は存在していてはいけないのだ。
人間を食った者が。
人間の社会に復帰出来る筈も無い。
ましてや匪賊になると、人間をいたぶって殺したり、肉を喜んで喰らうようになる。それはもはや、ヒトの形をした獣だ。
ならば駆除しなければならない。
まだ汚れを落としていないわたしの元へ、すぐに深淵の者の戦士達数名が、盗賊を捕まえて引きずって来た。
彼らは一様に青ざめていた。
どうしてばれたと顔に書かれているほどだった。
わたしはゆっくり、丁寧に説明する。
「貴方たちの頭の中をこれから覗きます。 映像は機械的に周囲に見られるようにします」
「……!」
「もし貴方たちが匪賊だったら、即座に処刑です。 ただの盗賊だった場合は、決まった法に従って罰を受けて貰います」
わたしの目に容赦がかけらも無いことに気付いた盗賊達は、悲鳴を上げながら、逃れようとするが。
既に縛り上げられ、猿ぐつわも噛まされている。
重役達も連れてきて。
わたしが記憶を一人ずつ映像化していく。
その結果、分かったのは。
組織的に動いている盗賊団で、各地の街を物色し、時には盗み、時には奪い、悪事を重ねながら移動している連中だと言う事だった。
此処にいるメンバー以外に数名。
仲間がいる。
すぐに顔をリストアップして、深淵の者の戦士達に渡す。
そしてこの者達は、どうしたものか。
処刑、までする必要はないだろう。
ラスティンの法に沿って処理するとするか。
フルスハイムの見聞院には時々顔を出して、法関連の書籍などを取り寄せて確認している。
現時点で記憶を覗いた限り、この者達は人を殺すところまではやっていない。たくさんの不幸はばらまいているが、それだけだ。
ならば、不幸をばらまいた相手に対して、与えた不幸の分金を稼がせ、返させる。
それで良いだろう。
「四年間の強制労働とします。 途中で逃げだそうとした場合は、斬首します。 ああ、逃げようとしても無駄ですよ。 わたしが作った道具類が、常に貴方たちを監視しています」
わたしは錬金術師だ。
この盗賊共も、それを知っている。
だから、冷徹にわたしが告げると。以降は黙って、逆らわなくなった。
二日もしないうちに、この盗賊達の仲間も、全て捕縛され、エルトナに連れてこられた。
何、これからして貰う仕事なんて、それこそいくらでもある。逆らったら即座に電気ショックが流れる仕組みにもしておいた。
これから四年間。しっかり罪は償って貰う。
人を殺してもいない賊であれば、殺すまでやる必要はない。わたしは、恐怖の視線で見上げる賊に、憐憫のひとかけらも向けず、後の処置は戦士達に一任した。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
-
このままでいい
-
一日で一章がいい
-
更に分割して欲しい