暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、エルトナの未来

エルトナの西側に、最後に残っていた岩山を粉砕。

 

元々山岳地帯のエルトナではあるが、これで山に囲まれた要塞都市への完成がまた近付いた。

 

最終的には周囲の岩山を全て破壊してしまうのもいいのだろうけれど。

 

残念ながら、現時点では其処までの都市にするだけのマンパワーがない。

 

まずは、岩山を崩した所に城壁を作り。

 

城壁によって守られた都市にする。

 

石材は有り余っているし。

 

ただの石材では無い。

 

勿論錬金術で強化を施し、更には多数の櫓も配置する。

 

相手は主に獣だ。

 

これだけ重武装の都市だと、基本的に匪賊は近寄ってこない。ましてや入り込んだ盗賊が、悉く生還していないという噂は周辺都市に既に広がっているらしく、明らかにその手の連中は姿を見せなくなっていた。

 

城壁の構築に関しても、色々な所でノウハウは学んだ。

 

各地で学んできたノウハウが、此処で生かされている。

 

わたしはまず、基礎を作り上げ。

 

それを硬化剤でガチガチに固め。

 

石材を加工して積み上げつつ。それらについても、丁寧に微調整。更にはプラティーン合金を用いて城壁を補強。生半可なブレス程度では貫けないように加工を行う。

 

更に、街全体を保護するシールドを展開出来るように。

 

以前イルちゃんから買い取ったシールドのレシピを見ながら、街の要所に、六芒星を描くようにシールド発生装置を仕掛けていく。

 

魔力源に関しては、炉を作れば良い。

 

これも空飛ぶ船を作るときに、散々作ったものだ。別に今更、作るのに他人の手など借りる必要もない。

 

アトリエに籠もって調合を重ね。

 

城壁の様子を見に行っては調整を行う。

 

城壁に関しては、声が非常にクリアに聞こえるので、手抜き工事は一発で分かる。

 

やはり強制労働させている盗賊が手抜き工事をすることがあるが。

 

瞬時にわたしが見抜くのを気付くと。

 

流石にそれも止めるようになった。

 

一方で、きちんと仕事をするのなら、食事も提供するし、家屋も相応に清潔なものも用意している。

 

そうやって犯罪者ではあるが、殺すまでの存在では無いと判断して扱っている事が分かると。

 

わたしに畏怖を抱くようになるのが、よく分かった。

 

この手の手合いは、畏怖させておけば良い。

 

畏敬を抱いて貰うのはかまわない。

 

今の時点では、わたしには仲間はいても部下はいない。

 

今後部下を育てていくとなると、畏敬を抱いて欲しいものだけれども。それには多分コツがあるだろう。

 

更に、わたしは作業で一切手を抜かない所も見せる。

 

城壁が完成した後。

 

ブリッツコアを全力でブッ放しで、壊れないところを働いた全員に見せる。凄まじい雷撃の脅威に震えあがる者もいれば。

 

おおと感心の声を上げる者もいる。

 

更には、城壁が焦げてもいない所を見ると。凄いという声が素直に上がった。

 

現時点ではこれでいい。

 

他の街で行って来た戦略事業の集大成を。

 

エルトナで行うだけだ。

 

城壁の方が一段落したら、今度はシールド発生装置に移る。街の中央にある錬金術の炉の周囲は建物で隠してしまい、更に魔術のアラームが掛かった柵も仕掛ける。

 

すっかりわたしに主導権を握られて不機嫌そうな長老達にも当たり前だが説明。

 

ドラゴンなどに襲われた場合に。

 

街を全て守るためのシールド発生装置。

 

その動力炉だと。

 

勿論シールドは展開した後。

 

空飛ぶ荷車で、わたしが直接攻撃してみせる。

 

使ったのは、エルエムやロギウスとの戦いで使った、複合ブリッツコアだ。火力ならドラゴンのブレスにも劣らない。

 

空を焼き尽くすような雷撃に、シールドが耐え抜くのを見ると。

 

長老達は苦虫をまとめて噛み潰しながらも。

 

その有用性を認め。わたしが作ったシールドの価値に俯くしか無かった。

 

力で相手をねじ伏せ。

 

不要なものは破壊し尽くす。

 

わたしはそう決めた。

 

だから、その考えに沿って、どんどん戦略事業を進めていく。

 

エルトナに戻ってきてから一月が経過した頃には。

 

とうとうエルトナ内部での作業は一段落。

 

メッヘンやフルスハイム、ライゼンベルグまで出向き、孤児や浮浪者、更には難民などを引き取ってきて、孤児院に連れて来た。

 

名目上は孤児院としているが。

 

実際は職業訓練校兼、生活を行うための施設だ。

 

各地の街にも、大きな所には孤児院や救貧院というものがあったりするのだが。そういったところでやっているのはあくまで炊き出しなどまで。教会などでは子供に勉強を教えたりもするが、それも限定的だ。

 

職業訓練まで行うと言う話をすると、わたしの所に実験的に人員を貸し出したいという場所は多く出た。

 

今までの実績がものをいった、という事もある。

 

わたしの事を畏怖する人も出てきてはいるが。

 

しかしわたしがやってきた戦略事業の実績を間近で見てきて、感謝している者もたくさんいる。

 

そういった人達は、わたしに信頼を寄せてくれるので、有り難い。わたしとしても、面倒が無くて良いからだ。

 

数日間空飛ぶ荷車で各地を回るだけで、三十人以上が集まった。

 

これで、アングリフさんが望んでいた学校も開校できる。

 

次は、いよいよ西にある街へ、インフラ整備を行う時が来た。

 

今回はいつも手伝ってくれたイルちゃんもパイモンさんもいない。

 

だけれども、周辺のネームドはあらかじめ駆除しているし。

 

獣も大物はあらかた処理が完了している。

 

後はこれから順番に、土を耕し、栄養剤を入れ。

 

雑草を入れて火を通し。

 

硬化剤で街道になる場所を固め。

 

そして道の両端を緑化していく。

 

城壁も作れれば良いのだが、この辺りは流石に其処まで凶暴な獣もいないし、そこまでする必要もないだろう。

 

ただし彼方此方には物見櫓を作った方が良いし。

 

作業中には、しっかり人夫を護衛する必要もある。

 

道も散々作った。

 

勿論一人で作る事になる訳だから、場合によっては勝手が違ってくるかも知れない。その時は、誰かしらに助けを求めるだけ。

 

場合によっては、深淵の者に専門家を派遣して貰うのもアリだろう。

 

ただ、それはあくまで必要な事だけ、に済ませたい。

 

最終的には、全てが自立できるように動く。

 

それがわたしにとって理想的な事だ。

 

他に依存した状態で、破壊神になどなれるものか。

 

勿論それはイルちゃんも同じの筈。

 

ソフィー先生があまりにも危険な存在である現状。何かあった時のためにも、対抗できるための力は蓄えなければならない。

 

そのためには。

 

この程度の事は、一人で出来なければ話にもならないのだ。

 

 

 

インフラ整備に関しては、たくさんの経験を積んで来ているが。

 

それでもやはり、時々「詰まる」事はある。

 

わたしは黙々と土を耕し、作業を進めるが。時々、後方で思うように人が動いてくれない事がある。

 

それは指導をしているわたしの責任だから。

 

その都度わたしが動いて、様子を見に行き。作業に関しては指導をする。

 

わたしの側にはドロッセルさんがついて獣に対する見張りを。

 

近くに立てた物見櫓にはお姉ちゃんが。

 

レヴィさんが作業をメモしながら管理しているツヴァイちゃんの護衛をしてくれているが。

 

大体ツヴァイちゃんが問題が起きたことを知らせてきて。

 

わたしが様子を見に行くパターンが多い。

 

それもツヴァイちゃんが告げてくるのは、あくまで進捗が予定通りに進んでいない場合だけで。

 

数字しか見ていない。

 

これに関しては、ホムの特性上仕方が無い部分もある。

 

わたしも、それを責めるつもりは毛頭無いし。

 

進捗がどうして予定通りに進んでいないかのは、必ず理由がある。

 

誰かがさぼっていたり、いい加減な仕事をしていたりといったケースは殆ど無く。

 

実際に確認してみると、指導が足りない場合が殆どだった。

 

作業する人間が考えていない、というケースはまず無く。

 

多くの場合は、きちんと指導が出来ていないと、進捗通りに仕事が動かない。

 

わたしは丁寧な説明を極力心がけ。

 

それによって、進捗通りに作業が進まなくなることは、殆ど無くなった。

 

やはりまだ一人では厳しいか。

 

だが、わたしはもう独立してやっていくようにならなければならない。

 

そして自立しての作業が出来るようになった後。

 

ようやくソフィー先生が、凶行に走ったときに、止められるだけの力が身につくはずである。

 

である以上、わたしは周囲のせいにしない。

 

勿論自分だけのせいでもない。

 

原因を客観的に分析し。

 

自分さえも道具と考えて。

 

何もかもを機械的に動かす。

 

それでいいのだ。

 

この世界がそもそもまともに動いていないのだから、自分だけでもまともに動かさなければ。

 

世界をどん詰まりにしている人間という生物の欠陥を、ただせる筈も無い。

 

額の汗を拭うと。

 

次の作業に移る。

 

袖を引かれる。頷くと、わたしは今日の仕事を切り上げるべく、準備に取りかかる。袖を引いたのは勿論ツヴァイちゃん。

 

わたしが作業を切り上げるのに必要な時間まで計算した上で、そろそろ、と声を掛けてくれるのだ。

 

有り難い。

 

隣街へのインフラ整備作業は、予定よりも多少は遅れながらも、確実に進展を続けている。

 

ならば、急ぎすぎることも無い。

 

勿論時間は有限だ。

 

今後、わたしが同じような戦略事業をする事になっても。この経験は、充分に生きてくるはずだ。

 

今日は家には帰らない。

 

アトリエで体を綺麗にした後、休む事にする。

 

その間、ツヴァイちゃんは孤児院に出かけて、アングリフさんと話をしてから戻ってきた。

 

わたしの秘書として、活動してくれている。

 

多分、自分がそうすることで、わたしにとって一番役に立てる。そう考えているからだろう。

 

事実その通りなので。

 

非常に有り難い。

 

わたしはたくさんの街を見てきた。たくさんの人を見てきた。

 

世の中には仲が良い家族ばかりでは無い。親兄弟で殺し合う例だって、幾らでもあると聞いている。

 

うちは、わたしと両親以外は血がつながっていない特殊な家庭だ。

 

それでもお姉ちゃんとわたしとツヴァイちゃんは、普通の姉妹より仲が良いと思っているし。

 

息だってぴったりあっている。

 

お父さんとお母さんが、お姉ちゃんやツヴァイちゃんに酷い事をしたと言う話は聞いたことも無いし。

 

二人もわたしを大事にしてくれる。

 

勿論、ヒト族とホムでは考え方が色々と違って、それがすれ違いにつながる事もあるけれど。

 

ツヴァイちゃんなりにわたしを大事に考えてくれているのは分かっているので。

 

それは気にしないことにしていた。

 

「アングリフさんはやっぱり補助がついて助かった、って言っているんだね」

 

「はい。 今日はカルドさんが読み書きについて教えていたそうなのです。 読み書きが両方とも出来る人は、あまり多く無いのです」

 

「うん、それは分かってる」

 

貧困層は読むことは出来ても書く事が出来ないことが非常に多い。

 

今アングリフさんが預かっている人達はその典型例。

 

そのほかにも、これから数学を教え。

 

更に錬金術の素質があるか、深淵の者から派遣されてくる専門家が鑑定をするそうだ。

 

錬金術師としての素質があるのだとすれば。

 

それはとても素敵なことだ。

 

出来る事がとても多くなる。

 

「お姉ちゃん、私は思うのですが、もっと授業は解放しても良いと思うのです。 私はたまたま商人の家に生まれたから、読み書きも出来るようになりましたし、四則演算も得意なのです。 でも、そうでは無い人は、それだけで損をしてしまうのです」

 

「うん、そのつもりだよ。 でも、もうちょっと上手に授業が回るようになったら、そうしていく感じかな。 最初から誰だって何でも上手くはやれないものだし、まずは少しずつ、だね」

 

「その少しの時間の間に、手から取りこぼしてしまう命があるかも知れないのです」

 

「……そうだね。 ごめん。 出来るだけ急ぐよ」

 

そうだった。

 

ツヴァイちゃんだって、本当に間一髪だった。

 

あの時わたしにツヴァイちゃんが助けを求めなかったら。いや、わたしが通りがからなかったら。

 

その後はどうなっていたか分からない。

 

しばし、無言が続いたけれど。

 

今日はツヴァイちゃんはおうちで寝る、と言う事だった。

 

わたしはアトリエで休む事にする。

 

久々に、一人だけでアトリエに残る事になる。

 

そうすると、色々なものの声が。

 

いつもよりも更にクリアに聞こえた。

 

鉱物の声だけじゃあ無い。

 

普段は、こうやって力を貸してくれるみんなのことがとても有り難い。調合の時は、どれだけアドバイスに助けられたか分からない。

 

だけれども、こういう一人になりたいときは。

 

こういった声が、煩わしく感じてしまう。

 

でも、それでは駄目だ。

 

ただでさえわたしは情緒不安定なのだ。

 

昔ほど酷くはないけれど。

 

それでも、やはり心が時々暴れ出して。発作的に自分でも手がつけられなくなったりもする。

 

灯りを暗くして。

 

そのまましばらく無心に眠りを貪る。

 

そして目が覚めたが、疲れはあまり取れていなかった。お姉ちゃんがいつの間にか来ていて、朝食を作ってくれている。

 

わたしの機嫌があまり良くない事を即座に見抜いたのか。

 

お姉ちゃんは、いつも以上に笑顔だった。

 

こういうときは、笑っていた方が良い。

 

そう思っているのだろう。

 

無言で、食事にする。やっぱり美味しいけれど、あまり満足感や、幸福感はなかった。

 

食事後は、外で軽く体を動かした後。

 

お姉ちゃんと誰よりも早く現場に出て。

 

周囲の状態を確認する。

 

獣が様子を見に来た跡が残っているが、大した獣では無い。もしも作業中に寄ってくるようなら、ブリッツコアでズドンと焼き払うか。お姉ちゃんに射貫いて貰う。それだけである。

 

レヴィさんとツヴァイちゃんが来る。

 

あくびをしながらドロッセルさんが来た頃には、人夫が揃っていたので、作業を開始。

 

予定は遅れたが。

 

それでも、一応後二日くらいもあれば、隣街が見えてくる筈、である。

 

その後は、一旦隣街に挨拶をして。

 

一度隣街の城門まで土を耕し。硬化剤を撒き。

 

そして緑化を進めて。

 

最終的には、エルトナと隣街が安全に行き来できるようにする。

 

硬化剤は改良を更に進めているから。

 

最近は、余程重い馬車が二台同時にすれ違っても、何ら問題なく耐え抜いてくれる。

 

技術は上がっている。

 

自分にそう言い聞かせながら、つるはしを振るう。

 

土は教えてくれる。

 

ここからもっと効率が良いよ。

 

此処をつつけば一気に崩せるよ。

 

わたしは頷くと、ひたすら三十人分の働きをしながら周囲も確認し。そして、時々後ろから飛んでくるツヴァイちゃんの言葉を聞いて。

 

進捗を確認。やはり指示が足りない部分があるので、わたしが丁寧に指導して、場合によっては見本も見せる。

 

こういうとき問題になるのは、現場で働いている人間では無い。

 

指導を出している人間だ。

 

指導を出しても言うことを聞かないような人間もいるが、それはあくまで例外に過ぎないので。

 

それは諦めて、別の仕事をしてもらうしかない。

 

いずれにしても舐められないようにするためには、相応の畏怖にしても畏敬にしても得る必要がある。

 

そして予定よりもわずかに遅れながらも。

 

とうとう隣街が見えた。

 

一度作業を中断し、その場をお姉ちゃんに任せて、隣街に出向く。護衛はドロッセルさんだけで良い。

 

隣までも、エルトナが岩山を崩し、街道を作っていることは確認していたようなので、ありがたがって迎えてくれたが。

 

それもいつまで続くか。

 

歓待の宴を行いたいとか言い出したが、わたしは断る。こんな貧しい街で、宴なんてしている余裕は無い。

 

まずは道をつなげて。

 

安全を確保してから。

 

更に、みんながきちんと食べていけるようになってから。

 

宴はその後。

 

そうきっぱり説明すると、多少相手は鼻白んだようだが。わたしが正論を述べている事には納得できたからか。以降は何も言わなかった。

 

ただ、文句を言わなかったのは。

 

わたしがこの隣街に一切合切期待しておらず。

 

自警団の戦力も、ドロッセルさん一人で鼻歌交じりに全滅させられる程度のものでしか無い事を知っていたからで。

 

もしもわたしが無理に警備のための自警団員を出せとか言っていたら。

 

きっと反発していただろう。

 

今は、それでいい。

 

まず隣街へインフラを有機的に接続する。それが重要なのだから。

 

水についても、現時点のエルトナでは普通に湧き水で足りている。最悪の場合、メッヘン辺りから水を引いてくると言う事も出来る。

 

メッヘンからの水路作成はそれなりに難事になるが。

 

だが、考えてもみればメッヘン側の川は、工事こそすれどまだ何かしらの切っ掛けで暴れ川に戻る可能性もある。

 

ディオンさんだけでは、その時には手に負えないだろう。

 

その時の事を考えると。川の水量は減らしておいた方が良いかも知れない。

 

また暴れ川と戦うのは、考えるだけでもしんどいのだ。

 

ともあれ工事現場に戻り。

 

以降は黙々と作業を進める。

 

少し早めに切り上げて、人夫達は護衛付きで帰らせるが。わたしはアトリエを工事現場に建てて、休む事にする。

 

ドロッセルさんとレヴィさん、わたしとお姉ちゃん、更にツヴァイちゃんを交えて、軽く話をしておく。

 

今後の事について。

 

「隣街ですが、インフラを接続した後は、しばらく混乱が続くと思います」

 

「エルトナは隙が無いけれど、隣街は違うからね」

 

「はい。 だからティアナちゃんにしばらく隣街に行って貰おうと思います。 犯罪者のピックアップもしておきたいですし」

 

「いいの、あんな狂犬を行かせて」

 

ドロッセルさんが狂犬呼ばわりしたので、思わずわたしも苦笑い。

 

まあ、ティアナちゃんが如何に危険な子かは、この場の全員が知っている。

 

狂犬などという可愛らしい存在だったら。

 

どれだけ有り難かった事かとも思う。

 

「ティアナちゃんに聞いたのですが、あの子の剣はとにかく血の臭いに敏感だそうです」

 

「血の臭いというと、人を殺した相手とか、そういう事?」

 

「はい。 匪賊を殆ど瞬間的に察知する特別製だとかで、仕事がはかどると言っていました」

 

「仕事ね……」

 

ドロッセルさんが頭を掻く。

 

レヴィさんが腕組みした。

 

「いずれにしても、近場の匪賊はもうこの辺りからは逃げる事だけしか考えていないだろう。 鏖殺の名前は連中の間では災厄の類としか認識されていないし、会ったら助からないという噂も雷鳴のように響いているらしいからな」

 

「はい。 だから、此方でも鏖殺が隣街に来るという噂を流しておきます」

 

「念には念、ね」

 

「うん、リア姉。 ……後はティアナちゃんに犯罪者をピックアップして貰って、隣街に入ると同時に全部まとめて捕縛。 隣街をある程度掌握してから、更に隣街へのインフラを整備するつもりです」

 

反対意見は出なかった。

 

それが合理的だからだ。

 

もし匪賊がいるようなら見敵必殺でかまわないし。

 

犯罪者なら、相応の法に従って処分する。

 

それだけで、今まで狭い集落の中で息をひそめて暮らしていた人々は、日の下に出られるようになる。

 

少なくとも犯罪組織の類はないだろうし。

 

いたとしても好き勝手に振る舞っているゴロツキくらいだろうが。

 

そんなものは、ドロッセルさんが出なくてもわたしだけで充分。今のわたしが身に纏っている装備との相乗効果なら、それこそデコピン一発で頭の上半分が脳みそごと吹っ飛ぶ。だから気にしなくても良い。

 

翌日からは、更にペースを上げる。

 

硬化剤を隣街の入り口まで撒き終えるまで二日。

 

緑化作業のために雑草を植え、焼くまで更に四日。

 

そして木の苗を植えて。

 

しっかり育つのを確認するまで二週間。その間仕留めた獣の数は177。いずれも小物ばかりで、毛皮くらいしか活用できる場所は無く。肉はみんな人夫と街の人達に振る舞ってしまった。

 

今までの戦略事業に比べると、とても大変だった気がする。おかしな話である。今までに比べて、これほど温い条件でのインフラ整備は無かった筈なのに。

 

今更ながら。わたしが如何に優秀な錬金術師達と一緒に仕事をしていたのか、思い知らされた気分だ。

 

イルちゃんもこんな感じで、宿場町を整備し再建したのだろうか。さぞや大変だっただろう。

 

やはりまだ未熟。

 

わたしは更に貪欲に、力を求め続けなければならない。

 

街道を歩いて、丁寧に鉱物の声を聞きながら、状態を確認。既に道の左右には、しっかりと低木が生い茂り。このまま時間を掛ければ森になる。そうすれば、獣の襲撃はほぼ気にしなくても良くなる。

 

硬化剤も問題ない。

 

所々チェックして、問題が無いことを逐一調べて回る。

 

以前サポートしてくれた人が何人も周囲から抜けている。だから、余計に丁寧に調べなければならないのだ。

 

硬化剤がまばらになっていないか。

 

品質が落ちていないか。

 

勿論、作業時にもチェックしているから、問題が無いことは分かっているのだが。それでも念のためだ。一から、他人が作ったつもりで丁寧に調べ、声を聞いて確認をしていく。

 

それらが終わった後、護衛を乗せて、馬車を隣街へ。

 

かなり大荷物を載せた馬車なので、二頭引きだが。

 

それでも、硬化剤が痛んだりする事はなかった。

 

合格、と判断して良いだろう。

 

隣街へ、物資を運び込む。足りていない物資が多数あるのが、見て取れたからだ。

 

隣街の長老や重役達は感謝して頭をわたしの靴にすりつけかねない有様だったが。

 

それもすぐに考えが変わるだろう。

 

まず、水関係のインフラを整備する。

 

そして家屋関連。

 

更に仕事と外貨を持ち込む手段を用意する必要がある。

 

この隣の街は、今までほぼ孤立状態で。辿りつくにも、護衛に傭兵団を雇って、無理矢理押し通って行くしか無かった。

 

其処までして行く価値も無い小集落だったから、たまに商人が来れば良い方。それも、商人に足下を見られて貴重な資源を買いたたかれるのが当たり前。口には出さなかったが、人売りもしていたようだ。

 

それに街を守る戦力も貧弱そのものだったから、下手をすれば獣の襲撃を受けて、消滅する危険さえあった。

 

だから、此方から支援する。

 

ともあれ、別の集落への安全経路が出来たと言うだけで、隣街にとっては闇から抜け出ることが出来たに等しい。

 

しかしながら、その程度で満足してはいけないのもまた、事実なのだ。

 

わたしはアングリフさんと相談しながら、隣街との交渉。更に隣街の整備について、案を出していく。

 

街の公認錬金術師として。

 

余所と連携せずして行う仕事は。まだまだ経験が不足している。

 

こういうときに、歴戦の傭兵が助けてくれるのは、本当に有り難かった。

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