暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、最後の課題

勝手な事ばかりを抜かす長老達を、論理でねじ伏せた後。自宅に戻って食事にする。

 

長老達は必死にわたしのお父さんお母さんを懐柔しようとしたり。

 

或いは深淵の者から派遣されている戦士達に粉を掛けようとしているが。

 

この間ルアードさんと話をしてから、深淵の者の戦士達は、明らかにわたしに対する態度が変わっている。

 

一人前の錬金術師に対して接する態度へと変わったのが、はっきり分かるほどで。

 

長老達がどれだけ媚態を尽くしても。

 

むしろその全てが、わたしの耳に届いている程だった。

 

情けない行為の数々を耳に入れられるのは、何というかとても悲しいのだけれども。それでも何とかしなければならない。

 

わたしはまだ力をつけて。

 

最悪の場合の抑止力にならなければならないし。

 

何よりこの世界のどん詰まりを破壊するものにならなければならないのだから。

 

勿論勉強も欠かさない。

 

そろそろ空間関連の錬金術も学ばなければならないと考えて、数日前に見聞院本部に出向いて、最高機密の本を何冊か借りてきた。

 

邪神を仕留め、上級ドラゴンを仕留めたわたしの実績があるから貸し出してくれた本で。ライゼンベルグの腕利き公認錬金術師でも、中々借りることは出来ないというだけあって、貸し出しには散々色々な手続きを踏んだし。

 

本そのものにも強力なアラームが掛かっていて。

 

もし盗まれたり傷つけられたりしたら。

 

強烈な反撃が自動で掛かるようになっているようだった。

 

ともあれ、今までに無いほど難しい本で。

 

本そのものの文章が、暗号化されているケースが多い。

 

しかもこればかりは、カルドさんに聞いて、アドバイスを受けるわけにも行かない。自力でどうにかするしか無い。

 

空間の錬金術について調べていると。

 

やはり思い知らされる。

 

現時点の、錬金釜の口に空気の薄皮を張って調合精度を上げるやり方では、やはり限界がある。

 

この手段でも、普通に錬金術を使うよりも遙かに高精度な道具が作れるが。

 

やはり究極にまで到達するとなると。以前聞いた、空気の無い部屋での調合が必須になってくる様子だ。

 

空間転移は魔術でも出来るが、えげつない増幅率が必要になるため。

 

最低でも最高純度のプラティーン、出来ればハルモニウムが必要だと言う記述もあった。

 

つまるところ、非常に危険な実験を行うために、貴重なハルモニウムを消耗する必要が生じてくる、と言う事で。

 

更に言うならば、失敗したハルモニウムに関しては、処分してしまうしか無いだろう。

 

ともあれ、メモを取っていくが。

 

膨大な量の理論が必要になってくる。

 

更にあまりにも難解なので。

 

時間を掛けてかみ砕きながら。

 

丁寧に、手順を調べていかなければならなかった。

 

ふと、アトリエを訪れた人がいる。

 

プラフタさんだった。

 

綺麗な人だけれど、相変わらず雰囲気がおかしい。そういえば、この人が一人で来るのは初めてかも知れない。

 

わたしが集中して作業をしていたからか、お姉ちゃんが外で待っていて貰うように、話をしてくれていたそうで、頭が下がる。

 

この人は、現在は錬金術を使えないそうだが。

 

あのソフィー先生にその豊富な知識を使ってアドバイスを続け。

 

一人前にまで育てた、と言う事だ。

 

もっとも、ソフィー先生はああなってしまった訳で。

 

多分プラフタさんの想像を超える怪物だった、と言う事なのだろう。

 

一段落したので、お茶を出して、話を聞く。

 

まず街の経営の話をされたので、頷くと、権力者層が話を中々聞いてくれないという事を素直に言った。

 

プラフタさんは頷くと、自分もそうだったと話をしてくれる。

 

「既に肉体を失った私ですが、ヒト族の体を持っていた頃……500年以上前になりますね。 ルアードと一緒に仕事をしていました。 その時も、強欲な人間達に、発展させた街の経営を乗っ取られ掛け。 ルアードを暗殺され掛けた事があります」

 

「え……」

 

「ルアードの真の姿を見たでしょう。 人間は見かけで相手を判断する傾向が強く、ヒト族はその傾向が特に顕著です。 ルアードは生まれながらに内臓に疾患を幾つももっていて、錬金術師として大成しなければ長くは生きられなかったでしょう。 私はまったく何とも思ってはいませんでしたが、周囲は違いました。 ルアードは私の召使いか何かと思われていたようです。 挙げ句の果てに、醜悪のルアードなどと言う侮辱の言葉も掛けられていました」

 

「……っ」

 

言葉も出ない。

 

まず色々な情報が多すぎて、頭を整理しきれない。

 

プラフタさんは古い時代に何かしらの事で……いや、恐らくは間違いない。ルアードさんと喧嘩別れした時に、肉体を失ったのだ。そして今のプラフタさんは、何かしらの仮の肉体を使っているという事なのだろう。それについては飲み込めた。

 

だが、古い時代、公認錬金術師制度が無かった頃とは言え。

 

ソフィー先生を育て上げたほどの人が、同格と認めるほどの錬金術師が。

 

よりにもよって見かけで差別され。

 

あげくに利権を巡っての争いで、暗殺され掛けまでしたのか。

 

「ルアードは命を取り留めましたが、その時から私とルアードは決定的に人間社会というものに対して不信感を覚えました。 二人は最終的に決別し、以降はまったく違う方法論で、世界を変えようとしました。 貴方は錬金術を破壊の力だと言いましたね。 ルアードは恐らく、自己流でそれに近い結論を出してしまったのだと思います」

 

「……」

 

「ソフィーと話して、私は今日ここに来ました。 イルメリアにも同じ話をしてありますが、賢者の石の作成を行ってください。 素材であれば、揃っているはずです」

 

「賢者の石……」

 

知っている。

 

いや。知っていなければ、錬金術師としては潜り以下だ。

 

錬金術の集大成。

 

究極の一。

 

ありとあらゆる事を成し遂げられるという、究極の終着点。殆ど作成に成功した者はいないという話だが。

 

「少なくとも此処500年では、高純度の賢者の石を作ったのはソフィーだけです」

 

「!」

 

「そしてソフィーは、創造神へ直接アクセスする事を賢者の石で行いました。 その結果、全てが分かった、と言うのが真相なのです」

 

そうか、そうだったのか。

 

あらゆる謎が解けた気がする。

 

あの狂気に満ちたソフィー先生は、深淵をあり得ないほどに覗き込んだ結果だとは思ってはいたが。

 

そうか、賢者の石を用いて。

 

文字通り、深淵の最深部にまで到着してしまったのか。

 

そして、わたしも。

 

ソフィー先生に対する抑止力となるのなら。同等の力を得る必要がある。

 

勿論ソフィー先生を超えるのは無理だ。

 

あの人は今だから分かるけれど、文字通り時代の特異点。天才という言葉なんて生ぬるい存在。歴史を自分でダイナミックに動かしていくほどの怪物だ。

 

だが、その怪物の突進を一瞬でも止められる程度の力を得ることが出来れば。

 

わたしは、何とか交渉のテーブルを作る事が出来るかも知れない。そうすれば、ソフィー先生の暴虐を食い止めることだって。

 

「賢者の石のレシピについては、渡しておきます。 ただし、作る時には私を呼ぶようにしてください」

 

「はい……」

 

「最低でも空間と時間を操作する錬金術を身につける必要があることも覚えておいてください。 準備が整ったら、深淵の者に声を掛ければ、私はすぐに駆けつけます。 では、最後の課題を突破するべく、準備を整えて。 時限はありませんが、早ければ早いほど良いでしょう」

 

頷く。そして、プラフタさんを見送るが。

 

彼女はアトリエから出ると、もう何処にもいなかった。

 

空間を操作する錬金術を、自由自在にしている、と言う事なのだろう。既に錬金術は出来ないと言う事だから、或いは道具を使ったのかも知れないが。

 

嘆息。

 

空間の錬金術だけでもこれだけ難しいのに。更にその先にある究極へ辿りつかなければならない、か。

 

お姉ちゃんがお茶を片付けた後。

 

心配そうに声を掛けてくる。

 

「フィリスちゃん、大丈夫? 今までに無いほど難しい事をしようとしているみたいだけれど」

 

「うん、何とかやってみる」

 

「イルメリアちゃんと情報共有してみたら」

 

「……そうだね」

 

それが一番かも知れない。

 

此方が分かっていても、向こうが苦手としている事もあるだろう。その逆もまたしかり、である。

 

いずれにしても、賢者の石の作成は、生半可な事ではできっこない。

 

アトリエを出ると。

 

アルファ商会が来ていた。

 

イプシロンさんが話をしている。あまり芳しい内容では無い様子だ。

 

此方に気付いたので、手を振って来る。

 

話に混じって欲しい、と言う事なのだろう。

 

「フィリスどの。 隣街ですが、少し確認した結果、あまり……いや言葉を濁しても仕方が無いのです。 はっきりいって、現時点ではどうしようもないのです。 産業は何も無いし、特別なスキルを持つ者もいない。 いっそのこと、砦か何かとして割切るか、もしくは急いでインフラを整備して、更に隣街へ道をつなげるか、考えた方が良いかも知れないのです」

 

「それほどですか」

 

「どうにもならない程に貧しすぎるのです。 勿論これから物資のやりとりを行い、マンパワーを注ぎ込んで発展するべく力は尽くすのです。 しかしながらこれは、公認錬金術師がいないとどうにもならない状況なのです」

 

「……」

 

そうか。

 

しかし、公認錬金術師なんて、そうホイホイ出てくるものでも無い。

 

実際問題、少し前にライゼンベルグで公認錬金術師試験が行われたらしいのだけれど、合格者は出なかったそうだ。

 

わたし達の時があまりにもレベルが高すぎたらしく。

 

そのハードルで、皆躓いてしまっているらしい。

 

更には、わたし達がライゼンベルグへのインフラを確保したことで、山師の類がどっと試験に押し寄せたらしく。

 

推薦状も無いのに試験を受けようとするような輩や。

 

推薦状をどうやってとったのか小首をかしげるような錬金術師未満まで押し寄せたとかで。

 

相当な混乱が起きているそうだ。

 

公認錬金術師試験は、ここしばらくでハードルが急激に上がったらしく。

 

錬金術師の質の絞り込みをかなり厳しくやっているらしい。

 

この辺りは、試験を管理する人員が変わった、というのも大きく関与しているという話で。

 

今後、山師同然の錬金術師は、十把一絡げに排除される時代が来る、という噂も出てきている。

 

「錬金術師になれそうな人材に心当たりはないのですか?」

 

「オスカーさんという人に会ったことはありますけど……」

 

「あの人は我々の同志なのです。 そして本人が錬金術に興味を持っていないのです」

 

「あ、はい……」

 

分かってはいたが、やっぱりそうか。

 

ともあれ、しばらくは人材育成に力を入れつつ、インフラを整備していかなければならないだろう。

 

それに、賢者の石を作らなければならない。

 

並行で幾つもの作業を行わなければならないかと思うと。

 

わたしも頭がパンクしそうである。

 

ともかく、隣街の周辺インフラを整備して、畑を拡げられるように処置はしなければならない。

 

水の確保も急務だ。

 

鉱物の声を聞けば、井戸を掘れるかも知れないし。

 

駄目な場合は、何処かから水路を引いてくるしか無い。

 

カルドさんを見かけたので、話をする。

 

チャートを組んでくれるというので、頼むと。

 

わたしは、人材がいるかも知れない場所。

 

フルスハイムに、気分転換に出かけることにした。

 

 

 

フルスハイムのレンさんのアトリエに出向く。

 

錬金術の人材をどう見つけるか。

 

それを聞きたかったのだ。

 

ソフィー先生は多分超常的な方法を使っているので、あまり当てにならない。キルシェさんは恐らく、何処かの専門的なやり方を知っている人間に見いだされたと見て良い。何よりあの人は才能が規格外なので、多分参考にならない。

 

そうなると、この街で育ち。

 

錬金術師になったこの人が、参考になるかも知れないと思ったのだ。

 

頭を下げて話を聞きに行くと。

 

レンさんは、少し考え込んでから、話をしてくれた。

 

「錬金術師の人材発掘ですか」

 

「はい。 そもそもフルスハイムでさえ公認錬金術師がもう一人は欲しい事も分かっています。 でも、辺境には公認錬金術師が足りなさすぎるんです」

 

「それは分かっています。 ラスティンはまだマシな方で、アダレットに至っては、錬金術師が来ると神のように歓迎してくれる、という話も聞きます。 公認錬金術師になると、その歓迎を目当てにアダレットに移住するものも珍しくないそうです。 少し前まではライゼンベルグでの陰湿な権力闘争が続いていたこともあり、嫌気が差してしまった場合もあったようですが」

 

何処も同じか。

 

せっかくの人材を。

 

世界はこんなに荒れ果てていて。錬金術師は何人いても足りないのに。どうしてこう、人間は愚かなんだろう。

 

個人個人はそうでは無いかも知れない。

 

だけれど、種としての人間には、わたしはもう何も期待出来ないし、してもいない。

 

「錬金術師としての教育については、私はたまたま裕福な家庭に生まれて、たまたま錬金術師の先生がつきました。 しかしながら、これだと効率が悪すぎると思います」

 

「才覚を発掘する方法はありませんか?」

 

「ギフテッドをもっていれば一発なのですが、あれは錬金術師にも持つ者が希だと聞いています。 貴方はそういう意味ではとても恵まれているのですよ」

 

「はい。 それは分かっています……」

 

だから分かる。

 

自分のやり方では通用しないと言う事も。

 

何よりわたしは感覚型だ。

 

イルちゃんみたいな理論派では無い。

 

例えば、時々お姉ちゃんに、何を言っているか良く分からない、と困られることがある。

 

わたしには分かっているのだが。最も親しい人にさえ、会話が成立しないケースがあったりするのだ。

 

錬金術師同士でレシピ交換をする事も時々あるけれど。

 

わたしの作るレシピはとにかく独特らしく。

 

イルちゃんに文句を言われることもある。もう少し分かり易く、論理的にして欲しい、と。

 

その辺りはわたしも理解しているので。

 

だから相談に来たのだが。

 

「そうですね。 人を集めて、専門家にそれぞれ見てもらう、という事をしてはどうでしょうか」

 

「専門家、ですか」

 

「数は少ないのですが、錬金術師としての才覚を発掘し伸ばす専門家がいると聞いています。 錬金術師になる事を望む人はたくさんいるので、声を掛ければ集まるかと思います」

 

「……分かりました」

 

深淵の者にはいる筈だ、その専門家が。

 

明らかに人材育成を目的とした孤児院に人員派遣をしてくれる、という話をしているのである。

 

ならば、フルスハイムで応募を掛け。

 

更にその人に来て貰うしか無いだろう。

 

一度イルちゃんの所にも出向き、軽く話をしておく。やはり其方でも、賢者の石についての話は受けたそうだ。

 

なお、イルちゃんも、賢者の石のレシピは難易度が高すぎて、頭を抱えているという。

 

苦悩はお互い様か。

 

人材育成についても、宿場町の都合上、多数の錬金術師が通るそうだが。

 

推薦状を売ってくれとか言い出す輩や。

 

あからさまに実力が無いのに、試験など余裕だろうと謎の自信に満ちた錬金術師未満が多数来るので、呆れていると愚痴られた。

 

此方は、望み薄か。

 

仕方が無い。

 

準備をしてから、対応するしか無いだろう。

 

エルトナに戻ると。

 

人員を整えて、隣街に。まずは隣街の周辺を見て回り、水が無いかどうかを確認する。

 

元々寂れた街だ。

 

城壁も薄く、街の周囲で様子を窺っている獣も決して少なくは無かった。街の方はティアナちゃんに様子を見てもらい。

 

わたしはドロッセルさんと、深淵の者の戦士を引き連れて、街の周囲を徹底的に確認。危険と判断した獣は、全て見かけ次第排除した。

 

その過程で土に触って確認するが、水が少ない。

 

水脈がない。

 

これは、エルトナから水を引くか。

 

今でも、エルトナからこの街に伸ばしている道の左右にある森には。エルトナからわざわざ水をもってきて撒いている状態である。

 

エルトナには元々地底湖があったくらいなので(埋めてしまったが)、水脈そのものはあるが。

 

此処まで水路を引くとなると、かなり厳しい。

 

森は一度作ってしまえば、保水力を有するようになるので、ある程度は水を確保してくれるのだけれど。

 

畑を作るとなると、一定量の水が必要になってくる。

 

当然のことながら側に川があるのが好ましいのだが。この貧弱な水の量だと、街の中に井戸を一つ作るのが精一杯か。

 

そういえば、アルファ商会のイプシロンさんが言っていたが。

 

水を持ち込んだら、住民に群がられたという。

 

それほどの厳しい状況だというのなら。どうにかして、対応をしなければならないだろう。

 

だが、はっきり分かる。

 

世界中の辺境集落が。

 

こんな状態なのだ。

 

公認錬金術師がいない場所は、ほぼこんな有様だと判断しても間違いないだろう。

 

街の中に入る。小さな井戸があるが。中を見ると、貧弱な水量で。水自体も衛生的とは言えなかった。

 

これを飲み水にしていたら、体を壊す人間が出るだろう。それも一人や二人で済む筈もない。

 

見ると、病気になっている人もいる。

 

お薬を提供するが、これははっきりいって、根本的な状況から改善するしかない。

 

確かにイプシロンさんが言う通り、此処は砦か何かとして割切るか。

 

それとも本格的な工事をして、水路でも引いてくるか。

 

二択だ。

 

だが、もし此処の人達をエルトナに連れ帰り、此処には守備要員を残すとして。更に隣街まで街道を延ばすまで、此処を単に砦として使うとする場合。此処はあまりにも長期の戦略事業の一端となる。

 

流石に此処の隣まで道をつなげば、アダレットへ道が通じているのだが。

 

問題はその過程だ。

 

かなり強い獣が多数いる上、ネームドも複数確認されている。

 

皆殺しにして進むにしても。此処までの道を作るまでもかなり大変だったのに。その先まで行くのは、更に更に大変だろう。

 

ツヴァイちゃんが来る。

 

「お姉ちゃん。 見てきたのです」

 

「うん。 わたしもざっと見てきた。 これは腰を入れて作業をしないと、人が住める状態ではないね」

 

「同感なのです。 こんな所では、生きる人も生きられないのです」

 

決断を促すしか無いか。

 

此処にどうしても住みたいと多くの人が望むなら、此処で腰を入れてまず水を引くところから始める。

 

メッヘンから水路を引くとなると、作業に一月は掛かるだろう。ただこの作業には、エルトナの水資源を更に豊かに出来ると言う利点もあるし、何よりメッヘンの暴れ川を更に大人しく出来ると言うもう一つの美味しい点もある。

 

メッヘンまでの安全経路は確保できているので。

 

水路の作成は、エルトナまでは難しくない。

 

距離的にも大した事がない。

 

問題はエルトナからこの隣街までの水路で。もしやるとなると、高度差などを考えて、かなり深く地面を掘らなければならない。硬化剤も相当な量が必要になってくる。

 

水は簡単には手に入らないのだ。

 

測量を丁寧に実施し。

 

角度もきっちり計算しないと、水を自然に送り届けることは出来ない。

 

いわゆるポンプを使う手もあるが。

 

アレは当然のことながら作るのに手間が掛かる。

 

ディオンさんからレシピは買い取ってあるので作る事は出来るが、それにしても複数のポンプを作る事、途中に貯水槽を作る事が必要になるから、コストは更に跳ね上がる。

 

其処までして、この街に水路を届けることに、意味があるのか。

 

少し悩んだ末、わたしは空飛ぶ荷車で周辺を更に確認する。

 

池や川があれば良いのだが。

 

小さな沼などはある。

 

だが、街の水をまかなえるほどの川などは存在していない。

 

やはり、そう上手くは行かないか。

 

頭をくしゃくしゃと掻き回す。

 

まず、アングリフさんに相談に行く。どういう順番で進めていくか、だが。アングリフさんは、決まってるだろと即答した。

 

「敢えて貧しい街にしがみついて死ぬのも馬鹿馬鹿しい話だ。 どうせ道は延長するつもりなんだろう? エルトナはまだまだマンパワーが足りないし、水路が出来るまで水を輸送し続けるのもハイコストだ。 移住して貰え」

 

「……両方の街の長老達に話をつけないといけないですね」

 

「ああ、そうだな。 それと、宿場町にするつもりなら、いずれは再興しなければならないのも事実だ。 砦にするにしても、防備は固めなければならねえぞ」

 

「それは分かっています」

 

あの貧弱な城壁では、ネームドに襲われたらそれこそひとたまりも無いだろう。

 

非常に頭が痛い。

 

会議が紛糾するのが分かりきっているが。

 

それでもやらなければならなかった。

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