暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、踊る会議愚かな議題

案の定、エルトナの長老達や重役は反発した。

 

それだけではない。

 

わたしを崇拝するような態度さえ見せた隣街の長老や重役達まで、態度を一変させた。

 

エルトナに移り住むとしたら、我々の立場はどうなるのか。

 

そんな事を吠え出す。

 

分かりきっていた。だが、それでもどうしようもない。わたしは一つずつ、丁寧に説明していくが。

 

それでも、彼らは感情論を喚き散らす。

 

「あんな凄い道を作ったんだ! 水路だってすぐだろう!」

 

「そうだそうだ! それにただでさえ大勢よそ者が入ってきて大変なんだぞ!」

 

隣街の長老と。

 

エルトナの長老が。

 

結託してぎゃんぎゃん喚く。アングリフさんが大きく咳払いする。怒鳴ってくれても良かったのだけれど。

 

いずれにしても、この人が後ろで睨みを利かせていなければ、多分もうつかみ合いの喧嘩になっていただろう。

 

この人が、現役を引退したとは言え、ドラゴンと真正面から戦っていたことは、この場の誰もが知っている。

 

だから、アングリフさんが現役時代の鎧を着たまま会議に出ていることは、それだけで大きな抑止力になっていた。

 

「いいか、道を作るのも簡単じゃねえ。 そして此奴は、本職の錬金術師で、しかも非常に珍しいギフテッド持ちだ。 その超レアな錬金術師が、彼処には水が無くて生活が苦しくなるって言ってるんだよ。 意味が分かるか?」

 

「そんな事は暮らしていた我々が一番分かっている!」

 

「それをどうにかするのが錬金術だろう!」

 

「どうにかはします。 ただし時間が掛かると言っているんです」

 

わたしもいい加減ブチ切れそうだったが。

 

極力声は低く抑える。

 

「良いですか、水路を引くとしても、その間は其方に借金が増える事になります。 わたしは一人しかいません。 戦士達だって、いつも手が空いているわけではありませんし、それはわたしも同じです。 錬金術師は神域の技ですが、全能の技ではありません。 街の長として、住民に少しでも良い生活をして貰いたいとは思わないんですか?」

 

「わしらは長だぞ!」

 

「またそれですか……」

 

「長く生きて街のために尽くしてきた! 我々にはその苦労に相応しい楽な生活をする権利がある! あんたにはそれを保証する義務が……」

 

いい加減にしろ。

 

怒号が、全員を一撃で黙らせる。

 

なお、わたしじゃない。

 

アングリフさんでも無かった。

 

此処に助けに来てくれている深淵の者の一人。キマリスさんだった。

 

深淵の者の戦士代表として来てくれている人だが。流石にこの有様、目に余ると思ったのだろう。

 

「我々はフィリスどのの支援をするためにわざわざここに来ている。 だからフィリスどのがどれだけエルトナの生活を改善し、隣街への道をつなぐのに苦労しているかも知っている。 お前達は何をしている。 自分の利権を主張し、フィリスどのの足を引っ張るばかりではないか!」

 

「その通りなのです」

 

相当腹に据えかねていたのか。

 

イプシロンさんもそれに加勢する。

 

この場の誰もが分かっている。

 

この二人がへそを曲げた場合。エルトナの守りは裸同然になる。そして更にわたしがエルトナを去ることになれば。

 

エルトナも、隣街も、共倒れだ。

 

真っ青になる長老二人に。わたしは咳払いした。

 

「とにかく。 戦略事業というものは、長期にわたって行うものです。 何度も言うように、錬金術は神の御技ではありますが、全能ではありません。 貧しく危険な土地に住民を縛り付けておくのが長老のやる事ですか? 自分達の権力を保持することだけが、長老の「苦労」とやらですか? 貴方たちはどうして長老になっているのか、少しは考えてはどうですか」

 

喚こうとする長老二人だが。

 

魔族の歴戦の戦士に伝説の傭兵、更に経済を握っているホムに睨まれていては、もう何もできなかった。

 

咳払いすると、わたしは。

 

静かになった会議で、丁寧に今後の戦略事業について説明していく。

 

まず隣街へ水路を引く。

 

これに関しては、メッヘンに赴き、ディオンさんと相談し。暴れ川の一部の水量を受け取る形で水路の作成を開始。

 

やり方については、メッヘンからエルトナまでは水を水路で引き。

 

エルトナに貯水槽を作って、其処からはポンプで水を隣街まで送る事になる。

 

その間に隣街の城壁を補強し、宿場町としての要塞化を進め。更に並行して戦士達には近場の獣の駆除と、ネームドの処理をして貰う。ネームドの処理の際には、わたしも出る。

 

水路を確保できたら、今度は更に隣の街までの道を作成する。

 

ただしこの街道は、恐らく作成に二ヶ月はかかる。

 

途中の道が起伏も激しく、獣も多いからだ。

 

幸い匪賊は周辺には出ないが、それでも道そのものが険しい。

 

これを強引に突破するとなると。どうしても時間が掛かる。

 

道が完成すれば、アダレットへの道が通じている街への直通路が出来る事になり。街は交易の宿場町となる。それほど腕利きでは無いが、更にもう一つ隣の街には公認錬金術師もいるらしいので、かなり状況は安定するはずだ。何ならその公認錬金術師と連携しても良い。

 

そうすれば要塞化していること、安全なこともあり、隣街に多くの旅人がお金を落とすようになる。

 

ただし。

 

それまでの間には、街に留まれば苦しい生活を続ける事になる。

 

「隣街はわたしも見ましたが、痩せこけた子供達、飢えている人達、いずれも悲惨な有様です。 こんな状態から彼らを解放できるというのに、どうして決断できないんですか、長老が二人も揃って。 長老の仕事は、街の人々の生活を改善する事であって、私腹を肥やすことでは無いでしょう?」

 

「小娘が……」

 

ぼそりと呟いたのは、隣街の長老。

 

まあこうなるだろうとは分かっていたが。

 

キマリスさんが手を伸ばして、長老の頭を掴もうとしたが。流石にわたしが咳払いする。

 

隣街には魔族もいない。

 

そんな程度の集落なのだ。

 

それなのに、それでも権力を保持したいか。絶対者でいたいか。

 

情けなくなってくる。

 

やはり人間は、どこかしらおかしい。

 

何処を破壊すれば良いのかはよく分からないが。しかしながら、これはいずれにしても、わたしの判断は間違っていなかったことになる。

 

「これより住民の移動を開始します。 居住区は幾らでも空いています。 更に言えば、孤児院での学習を進めれば、皆読み書き、四則演算は出来るようになります」

 

「……」

 

「異議無しと判断します。 明日から、順次住民には移動して貰います」

 

額に青筋を浮かべている長老二人だが。

 

いっそ殺してしまおうかとわたしは思った。

 

だが、それでは匪賊と同じだ。

 

会議が終わり、解散となる。隣街に馬車で長老を送り届けながら、イプシロンさんが言う。

 

既にお空は真っ黒。

 

外は肌寒くなりはじめていた。

 

星が瞬く空の下で、物騒な話を少しだけする。

 

「フィリスどの。 もうあの者達は排除して、貴方が長老を兼任しては」

 

「賛成」

 

キマリスさんも頷く。

 

アングリフさんは、それに対して、冷静な言葉を口にした。

 

「此奴にはまだ経験がたりねえ。 それにまだまだ錬金術師としてやる事もあるみたいだしな」

 

「確かに。 負担が大きくなりすぎるのです」

 

「まいったな。 いずれにしても、彼奴らはいずれフィリスどのの背中を刺しかねないぞ」

 

「ああ、それなら大丈夫」

 

いつの間にか。

 

わたしの隣にティアナちゃんが。そういえば、隣街を探って貰っていたのだったか。

 

「入り込んでいた暗殺者は、駆除しといた」

 

「暗殺者!?」

 

「とはいっても盗賊崩れだけどね。 隣街の長老とエルトナの長老が裏で金を回して、呼んだみたい。 長老の家に胴体放り込んでおいたから、多分明日には涙目になってると思うよ」

 

けらけらとティアナちゃんは笑う。

 

溜息しか漏れない。とうとう暗殺者を雇うところまで長老は思い詰めていたか。

 

キマリスさんが拳を鳴らす。

 

流石に許せないと判断したのだろう。

 

わたしも、流石に愛想が尽きた。

 

「深淵の者から、実績のある人を派遣できないか、相談できますか」

 

「流石に人材は其処まで余っていない」

 

「そう、ですよね」

 

「だが、フィリスどのは今後の世界を担う人材だ。 イプシロンどの、無理を言ってみるか」

 

キマリスさんの言葉に、イプシロンさんも頷く。

 

いずれにしても、暗殺者を雇うところまでやったのなら、此方ももう黙っているつもりはない。

 

少し強攻策になるが。

 

対応をしなければならないだろう。

 

アトリエに入ると、研究を進める。空間操作の錬金術はおぞましい程難しいが。まずはこれを攻略しない限り。

 

先には進めないのだから。

 

 

 

翌朝。

 

長老が、転がるようにしてアトリエに来て、戸を叩いた。真っ青になっている。

 

「フィリス! 悪かった!」

 

土下座する長老。

 

起きたばかりのわたしは、もう情報が伝わったのかと思って、呆れながら戸を開ける。勿論油断しない。いきなり刺しに来る可能性もあるからだ。話を全て知っているお姉ちゃんも。もう完全に敵を見る目で長老を見ていた。

 

わたしが殺れといったら、お姉ちゃんは即座に長老を殺すだろう。

 

わたしも、この人が此処まで無能だとは、思ってもいなかった。

 

震えあがっている長老。

 

何人かを掴んで持ってきたキマリスさんが、その場に投げ捨てる。

 

いずれもエルトナの重役達である。隣街の長老と重役達もいる。ついにこの日が来たか、という顔をキマリスさんはしていた。

 

キマリスさんは、わざと威圧的にどんと愚か者達の側の地面を踏む。

 

体格がヒト族の倍ある魔族だ。その威圧は尋常では無い。

 

「それでどうするフィリスどの。 殺すなら殺すが?」

 

「ひいっ!」

 

キマリスさんの言葉には、憐憫のかけらも無い。此方もわたしが指示すれば、即座に殺す事だろう。

 

わたしはしばらく冷たい目で、長老の禿頭を見下ろす。

 

エルトナを出たときは。

 

こんな本性の人だとは思ってもいなかった。この人は、わたしをどれだけ失望させれば気が済むのだろう。

 

いや、わたしは人間に期待しすぎていたのだ。

 

豊かな生活を与えれば、きっと心も穏やかになると思っていた。

 

そう思って頑張って来た。

 

結果は違った。

 

ソフィー先生に教えられたことを思い出す。

 

最初に創造神は。

 

救った人々のために楽園を作った。

 

だがその楽園では、人々は瞬く間に滅びてしまった。

 

状況はその時とは少し違うだろう。

 

しかしながら、似たような事が起きたのかも知れない。

 

或いは、中途半端な富が、人を変えてしまったのだろうか。

 

誰もが幸せになれる世界を作るには。

 

やはり破壊が必要だ。

 

それをこの長老達の愚行を前にして、わたしは改めて、徹底的なまでに思い知らされていた。

 

「法に従って処置します。 利権が対立した公認錬金術師を、暗殺者を雇って排除しようとした、しかも私腹を肥やすためにとなると、ライゼンベルグで懲役刑ですね。 それも無期です」

 

「無期じゃと! わしがもう老人だと……」

 

「黙れ」

 

厳しい声は、なんとお父さんから飛んだ。

 

普段は温厚なお父さんだが。少し前から、騒ぎを見に来ていて。わたしを暗殺しようとした長老達に、流石にキレたようだった。

 

お父さんは家族を愛している。

 

血のつながっていないお姉ちゃんもツヴァイちゃんも平等に愛せる立派な人だ。

 

だからこそに、こういう醜態にはほとほと愛想が尽きたのだろう。

 

「フィリス、この愚か者共を、映像の証拠つきでライゼンベルグに連れていき、ラスティンの法に従って裁くと良い。 長老、貴方の事は相応に尊敬していたのだがな、晩節を汚したな」

 

「ま、まて、わしがどれだけこの街に尽くしたか……」

 

「あんたがやってきたのはこの街の維持だ。 それも死にかけの病人を延命させるような、細々としたことだけ。 皆を日の下に出し生活を劇的に改善し外の獣にも資源が尽きるのにも湖の獣たちにも怯える日々を終わらせた英雄と、どっちが立派だと思っている。 せめてフィリスを全面的にバックアップして、その仕事をやりやすいように支援してくれていれば、私もあんたを庇ったんだがな」

 

本気でお父さんが怒っているのは初めて見た。

 

額に青筋まで浮かんでいる。

 

まあ、それもそうだろう。

 

わたしは頷くと、檻を用意して貰い。空飛ぶ荷車にそれをセット。全員を乗せて、ライゼンベルグまで往復した。

 

ライゼンベルグには、牢と裁判所がある。

 

証拠を一通り全て提出し、後はもう任せる。

 

言い逃れのしようがない証拠が揃っている事もあり。何よりも暗殺者を雇って殺そうとした、というのは重罪中の重罪。

 

暗殺者の頭(ティアナちゃんが「貸して」くれた)から抽出した記憶データも一緒に提出した結果。

 

即日全員の無期懲役が決まった。

 

これでエルトナの元長老と重役達。

 

更に隣街の長老と重役達は。

 

全員が以降の人生を牢の中で過ごすことになった。

 

慈悲をと叫ぶ長老に。もうわたしは、何も語る事が一つも無かった。

 

さようならと、挨拶をする気にもならなかった。

 

この人には恩があったかも知れない。だがそれ以上の、何十倍もの発展による還元をエルトナにわたしはもたらした。

 

それを完全に逆恨みされ。

 

あげくの果てに命まで狙われたとなったら。

 

わたしにも、もはや言葉は無いし。許すことも絶対に出来なかった。

 

お姉ちゃんでさえ、わたしの行動を止めることはしなかったし。誰も反対はしなかった。

 

エルトナを出発するとき、長老の弁護をする街の人達は一人も出なかったが。

 

ただ、わたしに対しては。

 

畏怖の視線を向ける人も少なからず出た。

 

ライゼンベルグの庁舎に出向いて、役人を派遣してもらう手続きをすませると。すぐに帰る。

 

ただ、その途中。

 

フルスハイムに寄って、この間の教育希望の話について確認する。

 

教育を希望する人は、思ったよりも多く出ていた。

 

三十人ほどいる教育希望者の中には。

 

ロジーさんの所で押しかけて働いている、エスカちゃんも混じっていた。

 

帰った後は、やる事が幾つもある。

 

とりあえず膿出しはこれで上手く行ったと思いたい。

 

わたしは、これから。

 

幾つもの事を、更に速度を上げて、こなして行かなければならないのだ。

 

そのためには、哀れなふりを装って。

 

愚行に手を染めた人達を振り返っている暇など無かった。

 

教育希望者を空飛ぶ荷車の中にあるアトリエに招待し。そのままエルトナに到着。

 

深淵の者には、錬金術の素質を見極める事が出来る教師の手配と。

 

とりあえずの街の管理を出来る人を要求していた。

 

何人かの気むずかしそうな人達が来ていたが。その中の何人かは、不自然に若かった。

 

恐らくは、錬金術によってアンチエイジングを受けている人なのだろう。

 

教育希望者達を孤児院に案内。

 

教師達に任せる。

 

また、既に隣街の貧しい人達は、エルトナに移って貰っていた。生活が劇的に改善したからか、彼らの中に文句を言う人はおらず。

 

更に読み書きと四則演算を教えて貰えると聞くと。

 

是非と応募してくる人も多かった。

 

彼らを加えて、五十人ほどを追加で一気に面倒見ることになったが。

 

それは深淵の者にとっても人材発掘にもつながる。

 

また、エルトナにとっても、将来を担う人材を育成することにもなる。フルスハイムにとっても有用だろう。

 

わたしは彼らに教育を任せると。

 

メッヘンにすぐに出向いて、水路の建設の話をする。

 

ディオンさんは相変わらず少し頼りなかったけれど。

 

水路の話については、すぐに許可を出してくれた。

 

暴れ川の制御は、メッヘンにとっての課題。

 

運河を作ってその水量を減らすことは、メッヘンにとってもとても有用なことだからだ。

 

ただ、話を終えた後。

 

ディオンさんは、珍しくわたしに苦言を呈していた。

 

「ちょっとやり方が厳しすぎるという話が僕の耳にも届いているよ。 大丈夫かい、フィリスさん」

 

「あまりにも膿が溜まりすぎていました。 仕方が無い処置だったと思います」

 

「うん、それは僕にも分かるんだ。 でも、あまりやり過ぎると、いずれきっと何か良くないことが起きるよ」

 

「心しておきます」

 

ディオンさんは心からわたしを心配してそう言ってくれた。

 

ならば、素直に心に留めておくべきだろう。少なくとも利権が長老達と一致していたから、ではない。

 

ディオンさんか。

 

頼りないと言われながらも、メッヘンでは支柱になっている。これはわたしから客観的に見ても明らかだ。

 

何が違うのだろう。

 

いずれ、学んでおかなければならないだろう。

 

さて、水路の工事に移る。

 

水路の工事は、まず事前に水路を掘り。

 

石材を細かく砕いて水路の基礎を固め。

 

更にそれを硬化剤で固めることによって、水の通り道を作る。この時、川と水路をいきなりつなげないのが基本となる。

 

水路をエルトナにまで通したら。

 

今度は貯水池を作る。

 

この貯水池は、深く広く作っておくのが基本。

 

また非常に深くなるので、子供が近寄らないように、アラームなどの警報装置を作る必要もある。

 

此処から更にポンプを使って隣街まで水を送り出すのだが。

 

それについては、今はまだ考えなくても良い。

 

土木工事はわたしがもっとも得意とする所だ。

 

更に言えば、水路を緑化地点の隣に作る事で、植物に自動で水を供給することも出来る。獣も水まで流れているとなると、更に街道への攻撃を控えるだろう。ただ、川に住んでいる大型の獣が水路に入り込まないように、水路は浅く作らなければならないが。

 

黙々と作業をする。

 

エルトナまでは、その気になれば空飛ぶ荷車ですぐに帰れる距離だ。

 

石材も有り余るほど所有しているし。

 

硬化剤も、数百年単位で水路での使用に耐える。毒物も勿論流出させない。

 

周囲の護衛も最小限でいい。

 

今回は緑化作業も入らないから、簡単だ。

 

水路の何カ所かには仕切りを入れられるように工夫もする。これは何かしらの問題が発生したときに、メンテナンスを行えるようにするため。

 

それと、水は絶対に生で飲まないようにと、看板も立てる。

 

生水を飲むことは、死に直結する。

 

一応、念のため。

 

水路は何かしらの方法で塞いだ方が良いか。

 

カルドさんに提供して貰った、古代の水路の資料を見ながら。

 

わたしは工夫を一つずつ重ねて。水路を確実にエルトナへと延ばす。

 

最終的に、水路はまず細かく砕いた石材の基礎。それを固める硬化剤。そして金網で上を塞ぎ。

 

ねじで留めることによって、取り外しも可能とした。

 

水路の何カ所かには仕切りと。

 

それから、緑化している土に、わずかに水が流れ込むように調整し。

 

更にはエルトナの空き地に、ため池を作成する。

 

水は高きから低きへ流れる。それ故に高度を念入りにはかり。

 

ため池の周囲には盛り土を造り。更にため池内部にも、隣街への水を運ぶためのポンプと、水路を作るための作業スペースを作成。

 

黙々と作業をしている内に。

 

一週間が過ぎ。

 

そして、お試しの教育で簡単な読み書きと四則演算の教育を終えたフルスハイムの人達が、満足して帰って行った。

 

その気になれば、もうエルトナからはフルスハイムまでは、歩いてでも帰れる。

 

道は整備したのだから。

 

勿論、もっと高度な教育を受けたいという人もいる。

 

そういう人は残留し。

 

教育を受けていくつもりのようだった。

 

アングリフさんが来たので、状況について確認する。

 

アングリフさんは、窮屈そうなスーツを着て(現役引退したというのに、筋肉でスーツがぱんぱんである)、頭を掻く。

 

「教師共の頭が固くてなあ。 俺が金のため方と稼ぎ方を教えようとすると、みんな部屋から追い出しやがる」

 

「まあ、それは仕方が無いです。 それで、みんなどんな様子ですか?」

 

「預かってる子供や元浮浪者は、みんな元気にやってるぜ。 こんな施設が俺の故郷にもあれば、俺は傭兵なんかにならなくてもすんだかもな」

 

「……」

 

教育についても聞くが。

 

皆概ね満足しているという。

 

読み書きが出来ると言うのは、かなり大事な事で。これがあるとないとでは、まったく出来る仕事が違ってくる。

 

四則演算もしかり。

 

四則演算が出来れば、その気になれば商人にだってなれる。勿論それで成功するとは限らない。

 

何人かホムの生徒もいたらしいが。

 

流石にホム。すぐに四則演算をマスターして。もっと難しい数学を、ホムの教師から習っているそうだ。

 

そして、魔術や錬金術についても教えている。

 

魔術は素養の発掘が簡単で、田舎の街でも大体どこでも技術が普及している。

 

だが錬金術はそうではない。

 

才能が無ければ始まらない上に、その才能を発掘するのが難しいのだ。

 

そして、どうやら才能を発掘するのに成功したようだった。

 

様子を見に行く。

 

教室で、錬金釜を小さな体で一生懸命掻き回している背中。見覚えがある。エスカちゃんだ。

 

教えているのは、以前ライゼンベルグの試験で姿を見かけた気がする、気むずかしそうな男性の錬金術師。

 

アングリフさんによるとヒュペリオンさんというそうだが。

 

そうか、あの人、深淵の者の関係者だったのか。

 

いずれにしても、エスカちゃんが錬金術師としての才能を持っているとすれば、フルスハイムの未来は明るい。

 

或いは、もっと錬金術師としての才能を持っている人を発掘できれば。

 

近隣の状況を、もう少しは改善出来るかも知れない。

 

良かった。

 

わたしは強攻策ばかりを採ったし。

 

あまりにも外道が目立った人達を、十人以上無期懲役で牢に放り込みもした。

 

だが、その一方で。

 

それ以上の数の人を救ったし。

 

未来を発掘することも出来た。

 

それを実感できた。

 

嘆息するわたしの肩に、アングリフさんは大きな手を置く。

 

「ありがとうな。 カルドの奴も此処で歴史を教えるのが楽しそうだし、何より教育を無料で行ってくれる、というのが周囲を活性化もさせるはずだ。 傭兵みたいな難儀な仕事をしなくても良くなる奴が大勢出るのは良い事だ。 何よりこの辺りからは匪賊もいなくなったし、盗賊も怖くて近寄らなくなる。 ドラゴンも危険な奴はお前が退治してくれたし、邪神まで。 ……後は少しでも恩知らずが減れば良いんだがな」

 

わたしは頷く。

 

そして、作業があると言って、現場に戻る。

 

感謝してくれている人もいる。

 

それで、今は満足するべき。そう自分に言い聞かせ、わたしはつるはしを振るい続けた。

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