暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、灯りの先

ライゼンベルグから役人が赴任してきて、重役の代わりの仕事を始めた。恐らくは、深淵の者の息が掛かっているのだろう。

 

極めて真面目な人達で。

 

わたしが口を出す必要もなく。

 

むしろ、わたしがきっちり資産公開をしている事を見て感心し。以降は黙々と、書類仕事に励んでくれた。

 

まあ殆どが生真面目なことで知られるホムだから、というのもあるのだろう。

 

ヒト族も一人いたが。

 

でっぷり太って頭も禿げている、俗物丸出しの見かけと裏腹に、非常に真面目な人で。

 

リーダー格のホムの役人の補助役として、甲斐甲斐しく働いている。

 

この様子であれば、エルトナも隣の町の業務も、任せてしまって大丈夫だろう。

 

そして、彼らが働き初めてから。

 

出るわ出るわ。

 

先任者のやっていた不正が、山のように出てきた。

 

今までは、重役を年功序列でやってきた。

 

年功序列は必ずしも悪い制度では無いのだが。一度腐り始めると歯止めが利かなくなるという欠点もある。

 

長老達が、わたしに隠れて必死に蓄財に励んでいた証拠が、ぼろぼろと出てきたのだ。それも客観的な証拠が。

 

長老宅の地下には、あからさまに盗掘した水晶類が山ほど隠されていたし。

 

それらの声を聞くと。

 

やはり長老が此処に隠したのは確実だった。

 

更には、裏帳簿まで出てきた。

 

役人達が解読したところ。

 

どうやら涙ぐましい少額ずつ、街の利益からくすねていたらしい。それも長年に渡って。

 

つまりお姉ちゃん達がお外で命がけで稼いでいた外貨をくすね。

 

貧しい生活をしていたみんなの生活を、更に圧迫していた、と言う事だ。

 

わたしと同じくらいの年で結婚して子供まで産んで。

 

以降は灰色の人生を送っていた幼なじみだって。

 

あの人達がくすねていた少しのお金が入っていれば。もっとマシな生活を出来ていたのではないのか。

 

そう思うと、もう同情する余地はまったく湧いてこなかった。

 

本人達にとっては、「役得」だったのだろう。

 

少しくらいの不正は誰も困らないと言う考えだったのかも知れない。或いは、悪事をするのは甲斐性、などと考えていた可能性もある。

 

いるのだ。たまに。

 

悪事をする勇気もないとか。

 

浮気も出来ない奴は甲斐性なしだとか。

 

そういう頓珍漢な事を言う人間が。

 

長老達はそういう思想に染まっていて。少しずつそれが心を腐らせて行っていたのだろう。

 

表向きは素朴で優しい人達だった。

 

だがそういう積み重ねがあったから。

 

外に出て、膨大な富と安全が目に入った瞬間。何か大事な心のねじというか、リミッターが外れてしまったのだ。

 

ともあれ、不正がないように、今まで略取した金品は全て管理下に置き直し。

 

更には、本来支給されるはずだったお金を、住民に再分配する。

 

長老達の行為を知っている人達も複数いた。

 

バツが悪そうにしているのですぐに分かった。

 

だが、もはやこれ以上責めても仕方が無いだろう。

 

そもあの地下のエルトナでは、争いを無為に生じさせても仕方が無かったのだ。

 

今、やっとそれを表に暴き出し。そして膿だけを出す事が出来た。それで良しとするべきだ。

 

厳格な人だったら、知っていた人も、みんな罰を受けさせたかも知れないが。

 

わたしは、宣言するだけで終わらせた。

 

もしも、また不正を行う人が出たら。

 

同じように処置すると。

 

それを聞くと、皆青ざめて。そして頷いた。それでいい。わたしは、もうエルトナでは、畏敬を得ようとは思わない。

 

畏怖の対象であればいい。

 

いずれにしても、これでエルトナの腐敗は破壊出来たはずだ。

 

その後は、エルトナの未来を創造すれば良い。

 

貯水池の作業が終わったので。

 

メッヘンの側の川から、水路に水を引く。まずは仕切りを入れ。順番に、水が流れ込む様子を確認。川の側にも仕切りを作り、流れ込む水は調整出来るようにしてある。

 

水路に流れ込んでくる水。

 

浸透圧だったか。水が土にしみこんでいくのが分かる。オスカーさんがいたら、植物が何て言っているのか確認したい。わたしにはまだそれほどはっきりは聞こえないので、ある程度喜んでいる、くらいしか分からない。

 

仕切りを一つずつ取り。

 

最終的に貯水池に流し込む。

 

これで、まずは大丈夫だろう。エルトナが干ばつに見舞われたときも、相当な日数持ち堪えることが出来る筈だ。

 

後は、ポンプを作って。

 

隣街まで水を送る仕組みを作れば良い。

 

作業が一段落したので、貯水池から出てきたわたしを、満面の笑みでドロッセルさんが迎えてくれた。

 

「フィリスちゃん、ちょっといい?」

 

「何ですか?」

 

「人形劇の脚本出来たから、出来れば見ていって欲しいなって」

 

「一人で人形動かすんですか?」

 

首を横に振るドロッセルさん。

 

登場人物が限られてくるし、とても難しいと思うのだけれど。助手として、ツヴァイちゃんが手伝うらしい。

 

娯楽としてはまず上質なものだろう。

 

ドロッセルさんが空いた時間を活用して、せっせと脚本を作り。

 

人形も手作りしていたことはわたしも知っている。

 

だから、その思いは無為にできない。

 

人形劇を見に行くとする。

 

様子を見に行くと、孤児院で預かっている子供達だけでは無く、かなりの人達が集まっていた。

 

人形劇が始まる。

 

一つの場面に出せる人形は限られている。

 

台詞はみんなドロッセルさんが担当。まあホムであるツヴァイちゃんは感情がヒト族ほど豊かでは無いし、演技は向いていないか。

 

舞台の上で動いているマリオネットや、手入れ人形は、どれも生き生きと動いていて。時々手入れ人形を動かしているツヴァイちゃんも、殆ど滞りなくやれている。

 

これだけでも、ツヴァイちゃんへの事前指導が如何に丁寧だったかよく分かる。

 

話自体は、とてもシンプルなもので。

 

悪いドラゴンにさらわれたお姫様を。

 

勇敢な王子様が助け出す、という話だった。

 

世界はそんなに単純には出来ていない。

 

最近はアダレットの情報も入ってくるようになったけれど。庭園造りにしか興味が無い無能な王様を、聡明なお姫様が無理矢理引退させ。国政を自分で見るようになったという。

 

またそのお姫様は双子で、弟がいるらしいのだけれど。

 

王子様であるその弟は、父親似で仕事がとにかく出来ないらしく。

 

騎士団に厄介払いされ。

 

騎士団で、名誉職だけ与えられて、本人もそれで満足してしまっているとか。

 

王子様とかお姫様とか。

 

現実はそんなものだ。

 

でも、人形劇に「現実」なんて必要ない。

 

あまりにも冷めてしまうような嘘は流石にあってはならないけれど。それでも夢があって、それで夢を壊さないような話があればそれでいい。

 

ドラゴンの人形はとても良く出来ていた。

 

それはそうだ。

 

ドロッセルさんは、わたしと一緒に、三回もドラゴンと戦ったのだ。

 

現物を見たのだから、当たり前の話である。

 

ドラゴンが欲ボケ親父みたいに人間の言葉を話し始めた時は流石に苦笑いしたが、人形劇の悪役なんてこれくらいでかまわない。

 

やがて、邪悪なドラゴンを王子様は苦闘の末に倒し。

 

お姫様を助け出してめでたしめでたし。

 

話自体はオーソドックスだったけれど。

 

それでも、人形の完成度。

 

人形劇自体の出来の良さ。

 

何より雰囲気を良く作っているドロッセルさんの演技と、人形を丁寧に動かす繊細な技術。

 

人形が本当に好きなんだなという事が伝わってきたし。

 

素晴らしい出来だったと、客観的にも思う。

 

わっとみんな喜んでいたし。

 

投げ銭もされていた。

 

まあ、お金が欲しくてドロッセルさんは人形劇を開いたのではないと思うのだけれども。それでもこういう所で支払われるお金は、正当な対価として受け取るべきだ。わたしもそれはもう知っている。

 

劇が終わると、みんな仕事に戻っていく。

 

今、エルトナには。

 

あらゆる仕事があるのだ。

 

力が無い人だって、仕事が出来るようにしているし。

 

本当に体が弱っている人は、わたしのお薬でどうにかする。

 

貧富の格差が小さく。一番貧しい人でも生きていける街。少なくとも、わたしの手が届く範囲ではそうする。

 

それが、わたしの義務。

 

この世界の仕組みを破壊すると決めたわたしの信念だ。

 

「どうだった?」

 

「良かったです。 また開いてくれますか?」

 

「うん。 でも、フィリスちゃんの仕事が一段落したら、今度はアダレットに行こうと思っていてね。 何度もは開けないかな」

 

ドロッセルさんのお仕事は本来は傭兵。更には、今後は戦略級の傭兵としての仕事も期待される。

 

そうなると、状況が良くないと聞いているアダレットの方が、仕事場としては正しいだろう。

 

それに、ドロッセルさんの両親もアダレットにいると聞いている。

 

それならば、一家水入らずというのも良いはずだ。

 

或いは、わたしが空間に関する錬金術をしっかり習得すれば、いつでもエルトナに戻ってきてくれるかもしれない。

 

それが、一番良い答えなのだろう。

 

「一瞬で此処まで来られるような錬金術を今勉強しています。 だから、アダレットに行っても、ここに来られるようにしておきます」

 

「錬金術、すごいね。 その錬金術の完成、楽しみに待っているよ」

 

「はい」

 

可能な限り、出来る事を増やす。

 

そして、わたしにはまだやる事がいくらでもある。

 

例え人間の闇をどれだけ見ようとも。

 

こうやって光を見せてくれる人もいる。

 

ならばわたしは。

 

やはりこの世界のどん詰まりを破壊しなければならない。

 

 

 

(続)




ついに一線を越えたエルトナの権力者達を事実上粛正したフィリス。

昔は優しい人達だと思っていた人が。自分を資源だとしか考えていなかったこと。都合の良い人形として富だけをもたらしてくれると思っていた事。言う事を聞かなくなったら暗殺まで目論んだこと。

フィリスは全てを理解し返り討ちにしました。

既に戻る事は出来なくなっています。

フィリスは、既に人間の社会を逸脱し。

師と同じ側に、踏み込みつつありました。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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