暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、時空間を掴む

わたしは天才では無い。

 

ギフテッドはあるけれど、一を聞いて十を知る、と言うような真似は出来ない。天才と呼んで良いのかは分からないが。とにかく神童と呼べるキルシェさんを見た事があるわたしは、あの子ほどの頭のキレが無い事は自覚している。

 

まずわたしがやるべき事は。

 

最初にレシピ通り丁寧にやってみること。

 

それで上手く行ったのなら。

 

次の段階へ行くこと。

 

そして何よりも、反復練習を繰り返して、どんな難しい調合にも慣れること。

 

それらを全てこなして行くと。いつの間にか、わたしの手が。体が。全てを覚えていく。

 

勿論その記憶に頼りっきりでは駄目だ。

 

最終的には、論理的に出来るようになら無ければならない。

 

感覚だけで調合をすると、後からレシピを見たときに、かなり混乱することもある。ただでさえ、わたしの作るレシピは難しくて分かりづらいと言われる事が多いのだ。わたしは自己流で何でも行う。

 

だからこそに、その自己流を極めていく必要もある。

 

そして、繰り返しによるミスの減少に関しては。

 

今は相応の自信も身につけていた。

 

わたしが持ち込んだ、「二つ目」の空間転移ドアを見て、イルちゃんは頷く。機能も確認した。

 

「なるほど、流石ね。 これがあれば、わざわざ空飛ぶ荷車で、此処とエルトナを往復しなくても良さそうだわ」

 

「扉自体が広くないから、荷車はそのまま通せないけれどね。 サイズについては、今後工夫が必要かも」

 

「そうね……」

 

実は、わたしはあのお城のような異世界を、少し歩いてみたのだ。

 

キマリスさんに頼んで、少し周囲を散策させて貰った。

 

案の定キマリスさんは自分の家のように周囲を完璧に把握していて、何ら問題なく案内をしてくれたし。

 

わたしも迷わず歩くことが出来た。

 

それで分かったのは、深淵の者は、基幹都市レベルの本拠地を持っている、という事である。

 

世界を裏側から動かしている組織なだけはある。

 

それも500年掛けて、二大国を成立させ、世界の状況をある程度安定させた立役者なだけはある。

 

ただ、此処までこの強烈な異世界を拡げられたのは、ソフィー先生の助力による所が大きいらしく。

 

ソフィー先生が来るまでは、この十分の一以下の規模しか無かったという。

 

それでも大したものだと思うのだけれども。

 

いずれにしても、関門の一つはこれで突破出来た。

 

イルちゃんも、成果を見せてくれる。

 

時間操作の錬金術である。

 

レシピも見せてもらう。

 

何でも、空間と時間は密接な関係にあるらしい。

 

此処でいう時間操作というのは、魔術によって自分を加速したり、自分の体感時間を操作するようなものではない。

 

空間と一体になっている時間そのものを操作する、という高度なもので。

 

しかも時間操作の影響を、自分だけ受けない、という凄まじいものだ。

 

多分だけれども。

 

ソフィー先生がエルトナに来た時見せたあの奇蹟。

 

破壊した扉を一瞬にして修復するというあれは。

 

多分時間操作を行ったのだろう。

 

いや、あの時喋っていた事からすると、更に高度な錬金術だった可能性も決して低くはない。

 

いずれにしても、ソフィー先生の背中は遙かに遠い。

 

まだまだ、もっと力が必要だ。

 

まず実演して見せてもらう。

 

理論を聞きながら、イルちゃんの宿場町の隅にある、錬金術の実験用スペースに移動。周囲には厳重に柵などが配置され、誰かが入れないようにしている。

 

地面には爆発の痕や抉った跡。

 

恐らく此処で、爆弾や魔剣の実戦投入に向けての調整を行っていたのだろう。

 

わたしもエルトナで、似たような場所を作るべきだったか。

 

わたしの場合、周囲を見張って貰いながら、荒野で実験をしていたから。獣に横やりを入れられることもあり。

 

こういうスペースをきっちり作って、邪魔が入らないように実験を行っているイルちゃんには素直に感心する。

 

イルちゃんが取り出したのは、時計のような道具だが。

 

機械仕掛けの時計ではなく。

 

金属で覆ってはいるが、内部に歯車の類が無い事は、声を聞いて理解出来た。また、時針分針秒針についても動いている様子は無い。

 

「現時点で出来るのは、止めた時間の中で動く事だけよ。 悔しいけれど、私の現状の実力だと、パルミラのように時間を巻き戻す事までは出来ないわ」

 

「まずは一歩一歩、だよ」

 

「そうね。 分かっているわよ」

 

イルちゃんは頷くと。手を握るようにわたしに促し。

 

時計についているスイッチを握りこむ。

 

同時に。

 

世界が灰色になった。

 

「本来は、時間を止めてしまうと周囲の空気が鉄のように堅くなるの。 そこで、自分と接触している部分だけ時間を動くようにしているのだけれど、それを調整するのが本当に大変だったわ」

 

「うわ……雲まで止まってる」

 

「手を離すと貴方も止まるわよ」

 

「うん、分かってる」

 

ソフィー先生は、こんな力を、多分もう道具に触ったりせず。「時間を止めよう」と思うだけで、発揮できる道具を開発しているのだろう。

 

そうでないと説明がつかない事が多すぎる。

 

改めて戦慄する。

 

これは、もはや人間が触って良い力だとは思えない。

 

少なくとも悪用されたら、文字通り世界が滅ぶ力だ。

 

ソフィー先生は。

 

悪用どころか、必要と感じたらこれを使って、どんなことでも平然と実施してみせるだろう。

 

ぞっとする。

 

わたしは本物の怪物の掌の上にいて。

 

その気減次第では殺される。

 

今更ながら、それを思い知らされていた。

 

イルちゃんがスイッチを押し込むと、時間は戻った。呼吸を荒げるイルちゃん。凄まじい魔力を消耗したのは、一目瞭然だった。

 

血を吐くまでは行かなかったが、激しく咳き込んでいる。

 

かなり辛いだろう。

 

青ざめている彼女に、人間用の栄養剤を渡す。

 

イルちゃんは一気に飲み干すと、更に顔を青くした。

 

「本当に味に考慮しないわね」

 

「大事なのは栄養だよ」

 

「分かっているわよ!」

 

何度か更に咳き込むイルちゃん。

 

確かにまずいけれど、エルトナの地下で暮らしていたとき、食べていた保存食に比べればなんぼもマシだ。

 

イルちゃんは本当に舌が肥えているのだなと、こういったことだけでも分かる。

 

でもそれもまたイルちゃんだ。

 

一旦イルちゃんのアトリエに移動。

 

馬車のアトリエとは別に、かなり立派なアトリエを作っている。ただし、事故が起きたときの危険性を考慮してか、宿場町の隅に。しかも周囲にシールド発生装置を配置までしていた。

 

いざ事故が起きたら。

 

アトリエだけが消し飛ぶようにしている。

 

こういった、自分もきちんと責任に含めるやり方はわたしもやっているが。好感が持てる。

 

責任をきちんと果たさない人間に。

 

力を持つ資格は無い。

 

わたしは持ち込んだ扉をイルちゃんにプレゼント。

 

これで、わたしのアトリエとイルちゃんのアトリエはつながったも同然。以降はお隣さんに行く感覚で行き来できる。

 

ただ、プライバシーというものもある。

 

少し考えた後、イルちゃんは扉の横の壁に、異世界への扉を設置。

 

更には、魔術の鎖でロックを掛けた。

 

「基本的に開かないときは、集中して錬金術をしているか、それとも風呂や食事の時と思って頂戴」

 

「うん、分かった。 それでイルちゃん、これからだけれど……」

 

「ええ」

 

レシピを拡げて、覗き込む。

 

イルちゃんが作った時間のレシピ。

 

私が作った空間のレシピ。

 

実はこれらについては、あくまで賢者の石を作るための下準備に過ぎない。

 

空間操作に関しては、空気が無い空間への侵入手段。

 

時間操作に関しては、調合を行う部屋での、不純物排除の手段。

 

いずれにしても、これらをそも前座として用いなければならないほどに、賢者の石の生成は難しいのだ。

 

そして賢者の石を生成すれば。

 

わたし達が全戦力を叩き付けてもまるで手も足も出なかったパルミラの本体に接触する事が出来る。

 

本体は、あのパルミラとは、それこそ次元が三つも四つも違う実力らしく。

 

そんなものを直視して正気を保てるか今から凄く不安だが。

 

それでもやらなければならない。

 

ソフィー先生は文字通り何をするか分からない。

 

最悪の場合は、わたしとイルちゃんが、命がけで立ち向かえば止められるようにしなければならない。

 

その程度の力は、手にしなければいけない。

 

「まずは提供される空間に、ハルモニウム製の釜を作って搬入ね。 ハルモニウムの鋳造は頼めるかしら」

 

「釜を作るのに充分なインゴットはもう用意してあるよ」

 

「流石ね。 では釜を作ってもらって頂戴」

 

実は、錬金術の釜については、知人で以前に作成した人物がいる。

 

ロジーさんである。

 

よくしたもので、ハルモニウム製の釜だったそうである。

 

多分ソフィー先生用の釜だろう。

 

あの人はあからさまにソフィー先生と一緒に仕事をしていた雰囲気があるし。間違いないとみて良い。

 

帰り際に、これはフルスハイムで頼めば良い。

 

ちょっとお金は掛かるが、戦略上の物資としては必要な出資だ。

 

「次に調合を行う部屋の作成ね。 ……時にどうする?」

 

「何の話?」

 

「わたし達二人がかりで調合する? 二人別々に賢者の石を作れとは言われていないわ」

 

「そうだったね」

 

プラフタさんは確かに、別々に作れとは言っていなかった。

 

それに、賢者の石のレシピを見る限り、貴重な素材しか使わない。それもどれもこれもが高品質なものばかりだ。失敗は許されない。失敗が多い上、初挑戦ではミスも多いわたしだけだとかなり不安だ。

 

少し悩んだ後、決める。

 

「一緒に作ろう。 今のわたしとイルちゃんなら、かなり時間を短縮できるはずだよ」

 

「分かったわ。 それが良さそうね」

 

実は二人で錬金術をするのは、これが初めてだったりするが。

 

それはそれだ。

 

石材などを組み立てて、空気の無い調合部屋を作るのは、わたしがやる。

 

この部屋の時を止めるのは、イルちゃんがやる。

 

後は、空気を纏う道具の作成。

 

それに加えて、賢者の石を作るために必要な、中間生成物を大量に作らなければならないが。

 

手分けして作業を開始。半日掛けてチャートを造り。

 

同意を得られたところで、一旦わたしは帰還。フルスハイムに寄って、ロジーさんのお店に。

 

ロジーさんはハルモニウムを渡して釜を作って欲しいと言うと。

 

この時が来たかと、嘆息した。

 

「実は少し前に、エスカにもプラティーンで釜を作ったばかりでな」

 

「あ、エスカちゃん、本格的に始めたんですね」

 

「ああ。 今はレンさんの所に通いながら、一つずつ錬金術を覚えている所だそうだ」

 

それは何よりだ。

 

エスカちゃんが珍しくいないと思ったら、そういう事か。

 

ずっとエルトナにいる訳にもいかない。

 

エルトナでも、フルスハイムでも勉強するとなると、レンさんにも教わるのが効率的だ。

 

その副作用かも知れないが。

 

どうもデスクの辺りがとっちらかっている様に見えた。

 

ロジーさんは素朴な雰囲気の穏やかな人だが。

 

この辺りはずぼらである。

 

それはエスカちゃんの尻に敷かれている事からも分かってはいたが。とにかく、有望な人材が出てきたのは良い事である。

 

ハルモニウムを渡す。ロジーさんはハルモニウムを手袋をつけてから触ったが。しばしして頷いた。

 

「流石に最高品質とは行かないが、これだったら充分な釜が作れるだろう。 何か凄いものでも作るのか?」

 

「はい。 最高のものを」

 

「そうか。 では俺も腕を振るうとするさ」

 

出来るだけ早くの完成を頼むと。ロジーさんはしばし黙り込んだ後、分かったとだけ応えた。ただし、二週間掛かると言う。大きな時間的ロスだが、ハルモニウムの加工の手間を考えると、それくらいは安いものだ。

 

エルトナにそのまま直帰。

 

アトリエに置いているもう一つの空間の扉を使って、イルちゃんのアトリエに行くと、釜についての話をする。

 

さて、此処からだ。

 

隣街から、更に隣街への道の確保。隣街の周辺の緑化。

 

水路が完成したので、インフラ工事もスピードアップ出来る。同時に、宿場町としての基盤を整えなければならない。

 

水周りは良いにしても。

 

建物などを作る人間については、専門家を確保したい。

 

というよりも、隣街は貧困が過ぎて、元長老の家くらいしか、まともな家屋が存在しなかったのだ。

 

糞尿も垂れ流しになっていて。

 

一度徹底的な大掃除が必須だった。

 

勿論イルちゃんも、まだ宿場町周辺での作業がある。それらも考慮し、チャートを組まなければならない。

 

「作成までの準備期間の目安は二ヶ月ね」

 

「……ちょっと長いね」

 

「賢者の石よ。 その程度の準備期間で作れるなら安いものだわ」

 

それもそうか。

 

チャートを再確認した後、持って帰る。

 

そして、道具が揃って動き出した活版印刷を使って、まったく同じものを作成。

 

イルちゃんに返した。

 

活版印刷の無駄遣いだとイルちゃんは苦笑いしたが。

 

今はこれでかまわない。

 

後は、パイモンさんにも何らかの形で手伝って貰えれば良いのだが、流石にそれは高望みしすぎだろう。

 

素材類は揃っているし、これ以上は特に必要もない。

 

後は、覚悟を決めるだけ。

 

端末のパルミラでさえ、あれほど凄まじい力を持っていたのだ。本物を直視して、とにかく正気を保てるように、今から心しておかなければならない。

 

世界を変えるには深淵を覗くしか無い。

 

深淵までの道を整備する作業は。

 

既に整いつつある。

 

 

 

翌日。

 

早朝、叩き起こされる。お姉ちゃんが、わたしを揺すってまで起こすのは珍しい事態だ。疲れている事は、分かりきっているだろうに。

 

だからわたしも飛び起き。

 

慌てて着替えて、外に飛び出した。

 

叩き起こされた理由は分かっている。だから、戦闘の準備を整えて、外に出たのである。

 

周囲から、おののきの声が聞こえる。

 

空を舞っているのは、ドラゴンだった。

 

遠目に見る限り、多分中級ドラゴンだろう。色からしてシルヴァリアだ。戦闘能力は非常に高いが、ドラゴンらしく人間を殺す本能だけで動いている。

 

声を掛ける。

 

ドロッセルさんはまだいるので、すぐ来てくれた。

 

レヴィさんとカルドさんも。

 

アングリフさんは、既に大剣をわたしに返した。だから、最悪の事態に備えて、避難誘導を開始してくれている。

 

ドラゴンは上空をゆっくり旋回していたが。

 

様子見をしているだけらしく。

 

だが、目を離すわけにも行かなかった。

 

「シールド発生装置、起動しても大丈夫だ」

 

「分かりました。 起動します」

 

すぐに炉の方に行き。

 

其処に設置されている魔法陣に触れ、手順に沿って街を守る巨大なシールドを発生させる。

 

ドラゴンはそれを見ても何も行動を変えず。

 

ただ悠々と空を、おちょくるように飛び続けていた。

 

勿論ドラゴンが飛来した理由は分かっている。

 

エルトナの発展が著しいからだ。

 

状況次第では人間を間引くために動いてくるはず。だが、現時点では、ドラゴンは仕掛けてくる様子は無い。

 

それにしても、いきなり中級とは。

 

まだエルトナの規模は、フルスハイムどころか、ドナにも遠く及ばない。

 

インフラは相応に整っているかも知れないが、街に住んでいる人間の絶対数が少ないのだ。

 

「叩き落とす?」

 

側に来ていたティアナちゃんが、好戦的な笑みを浮かべる。

 

この子なら、空高くを飛んでいるドラゴンに対する攻撃手段くらいは持っていそうだが。わたしは首を横に振った。

 

様子見だ。

 

ドラゴンは朝日が昇り終えると、そのまま飛び去っていく。

 

どうやら、エルトナを徹底的に観察し。

 

分析を終えたので、帰って行った様子だ。

 

多分人間が増えている気配を察してここに来て。

 

攻撃を行うか否かの判断をした、と言う所だろう。そして今回は攻撃しても意味がないと判断して、戻っていった。

 

ドラゴンは本能で動いている。

 

人間に憐憫を掛ける事もないし。必要だと判断したら、即座に大量虐殺を始めるはずだ。

 

此処で戦ったらどうなるか。結果など、やらずとも分かりきっている。

 

勝てる。その代わり、辺りも無事では済まない。

 

せっかく整備したインフラも、ずたずたにされるだろう。もしもしつこく此方を挑発してきたり、シールドにブレスをぶち込んできたら叩き落として引き裂いてやるつもりだったが。相手にその気が無いのなら、仕掛ける必要はない。リスクばかりが高いからだ。

 

一旦シールドを解除。

 

念のため、今日は見張りの数を増やすことを宣言。皆を落ち着かせてから、重役の会議に出る。

 

これで作業が遅れるが。

 

必要なコストと言う奴だ。こればかりは仕方が無い。

 

それに、最初からトラブルが起きることは想定済みだ。この程度の遅れは、後から取り戻せば良い。

 

ドラゴンに対する方法はあまりない。

 

錬金術師と、錬金術の道具で武装した部隊で猛攻を仕掛け、倒す。

 

それだけだ。ドラゴンがあまりにも強すぎるので、必勝法と呼べるような戦術が確立されていない。これは見聞院でもドラゴン関連の本を調べて確認している。せめて対抗戦術が確立されていたら、少しは楽になるのだけれど。

 

しばしして、キマリスさんが来る。

 

先ほどのドラゴンを追跡した結果、エルトナから北西、何も無い荒野のど真ん中に居座って。其処に丸まって、動かなくなったらしい。

 

メッヘンからも近いと言う事もあって、其方も騒ぎになっていると言う。

 

なるほど。

 

エルトナと連携してメッヘンも最近発展している。両方を同時に伺える位置に陣取るという訳か。

 

「度重なる挑発行為や攻撃を行ってくるようなら、撃墜します」

 

上級を倒したのだ。

 

中級に勝てないはずが無い。

 

アングリフさんが抜けて戦力は低下しているが、それでも充分。もしもしつこいようだったら灰燼に帰す。

 

そう宣言すると、役人は頷く。わたしの好戦的な台詞にも、引いている様子はあまりなかった。前の牢屋送りにしてやった長老は、青ざめたり、ヒステリックに反論してきたものだが。

 

感情が薄いホムで。

 

しかも深淵の者の息が掛かっているからかも知れない。

 

いっそ、役人はみんなホムにすれば、不正は九割減るのかも知れないが。流石にそういう訳にもいかないだろう。

 

この世界は皆で協力していかなければ成り立たないほど、あらゆる意味で厳しいのだから。

 

「分かりました。 いずれにしても、その場合の判断は早めにお願いするのです」

 

「はい」

 

頷くと、アトリエに。

 

お姉ちゃんに、開口一番睡眠が足りていないから寝直せと言われた。

 

ばたついた結果、もう昼過ぎだ。

 

でも、最近ただでさえ睡眠を削って仕事をしていたのだ。お姉ちゃんが怒るのも、無理はない。

 

言われるままベッドに入り直すと、少し眠る事にする。

 

嫌な予感。

 

これから集中を乱すようなことが立て続けに起きる可能性が高い。

 

街の側にいる邪神も、今の時点では静かにしてくれているけれど。あれがドラゴンに呼応して攻めこんできたりしたら、どうなるかは考えたくも無い。

 

魔術が使えるわたしの勘は馬鹿に出来ない。ましてや今は、魔力を極限まで増幅しているのだ。

 

呼吸を整えると、わたしは無理矢理にでも眠る事にした。

 

いずれにしても、今やらなければならない事は。頭をしっかり休め。ケアレスミスを減らすべく、コンディションをベストに保つ事。

 

それ以外にはあり得なかった。

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