暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、並列旋回

荷車で石材と硬化剤を異界に運び込み、指定された地点にアトリエを作り始める。深淵の者には既に話が行っているらしく。何をしているのかと誰何してくる者もいなかったし。遠巻きにこっちを見ている者もいなかった。

 

逆に言うと、手伝おうと口にする者もいない。

 

これは恐らく、ソフィー先生から厳命が出ているのだろう。わたしとイルちゃんだけにやらせろと。

 

分かっている。

 

だからわたしは、黙々と手を動かして、作業を続けるのだ。

 

イルちゃんも時々来て、進捗を見に来る。

 

空気を体の周囲に纏わせる魔術を常時展開する道具。

 

更には、完成したアトリエから空気を吸い出す道具。

 

これはイルちゃんが作る事で決まっている。

 

前者は、いわゆるエンチャントと同じ原理。

 

イルちゃんは魔剣に様々なものを纏わせて、敵に突き刺して更に傷口を拡大する戦術を採っていたが。

 

これの応用だ。

 

人体を魔剣に。纏わせるものを空気にしただけである。

 

ただしイルちゃんの話によると、空気というのはあっというまに汚くなるらしい。

 

密閉された部屋で火を焚くと、すぐに命を落としてしまうらしいが。

 

つまるところ、調合に使える時間は少ない。

 

このため、現状ではまだ短い時間しか活動できない状態で。

 

これを改良するべく、今工夫をしているそうだ。

 

空気を吸い出す道具に関しては簡単だ。

 

問題は空気を吸い出した状態を維持することで。

 

これに関しても、今改良を重ねているという。

 

アトリエの壁には、隙間を一切作らない。入り口も出来るだけ狭め、ドアを二重につける。

 

実のところ、家を組み立てるのは初めてなのだけれど。

 

図面通りにものを組み立てるのは散々やっているので、別に難しくもない。

 

今回はお姉ちゃんやツヴァイちゃんに手伝って貰えないが。

 

その代わり、外はティアナちゃんが「責任を持って」見張ってくれるらしい。

 

お姉ちゃん達もいるし、エルトナの方は大丈夫だろう。

 

長老や重役達も、役立たずは排除した。

 

問題が起きても、事態を悪化させることは無く。

 

すぐにわたしを呼びに来るはずである。

 

「まったく飾りが無い造りね」

 

「うん。 それより、錬金釜をかき混ぜたりする時に、空気が中和剤に触れないようにするのも気を付けないと」

 

「それもそうだけれど、空気を全て無くすと、強烈に吸い出されるらしいのよ。 それに対しても工夫をしなければならないわ」

 

「うーん、課題は多いね」

 

ただ、今までのような難題だとは感じない。

 

イルちゃんはパイモンさんにも相談してみると言って、その場を離れる。

 

わたしは何が内部で起きても大丈夫なように、徹底的に堅牢性を重視してアトリエを作るだけだ。

 

石材を切り出すのも。

 

組み立てるのも。

 

硬化剤で組み立てるのも。いずれも、城壁を作るのと同じノウハウが生きてくる。

 

さっさと作業を済ませながら、わたしは貰っている飴を口に入れる。

 

最近お姉ちゃんが考えたのだけれど。

 

甘いものを適宜補給した方がいいらしい。

 

そこで、アルファ商会が(今になって思うと、アルファ商会も深淵の者と直接つながっていたのだが)、飴を卸してくれて。

 

それを必要経費で購入している。

 

勿論甘いものは相応に高価だ。

 

だから、飴は仕事時以外は口にしないことにしている。

 

たまに何か大きな事業を成功させた後、自分へのご褒美で良いものを食べもするけれど。

 

わたしは今、エルトナを両肩に乗せている身。

 

少なくとも、孤児院で面倒を見てもらっている子供達よりも、良い食生活をするつもりはない。

 

逆に言うとアングリフさんには、孤児院では他の家と同等の食事を出すようにとも話をつけている。

 

それだけの予算は渡しているし。

 

アングリフさんが、その予算をちょろまかすことは無いだろう。

 

額の汗を拭うと。丁度時計が鳴る。

 

これも必要経費で購入したものだ。

 

流石に此処までツヴァイちゃんは来ないし、何よりも此処異界は昼も夜もない。時間の感覚がおかしくなる。

 

そこで、カルドさんに言って、時計を選んで貰い。

 

簡単なアラーム機能がついているものを購入したのだ。

 

きちんと役に立ってくれているので大変有り難い。

 

異界を出てアトリエに戻る。

 

外に出ると、ツヴァイちゃんが、もう今日の出来事をリストアップしてくれていた。

 

「城壁の補強はほぼ完了しているのです。 獣による襲撃は七回。 いずれも問題なく撃退。 街に入り込もうとした盗賊を二人ティアナさんが捕縛したのです」

 

「分かった、すぐに処置するね」

 

「お姉ちゃん、あまり厳しい処置は……」

 

「大丈夫。 相手が匪賊でもなければ、罪に相応しい罰を与えるだけだよ」

 

わたしの笑顔が減っていると、この間ツヴァイちゃんが言っていたらしい。お姉ちゃんから聞いた。

 

それは悲しい事だ。

 

ツヴァイちゃんは嬉しい事にわたしを今では本物のお姉ちゃんとして慕ってくれている。血はつながっていないし、同じ人間とは言えヒト族とホムなのに。

 

だからそんなツヴァイちゃんを悲しませる訳にはいかない。

 

感情のコントロールは意図的にするようにしているが。

 

それでも、出来るだけツヴァイちゃんの前では、笑顔を浮かべるようにもしていた。

 

まずは隣街へ。

 

城壁の様子を徹底的に確認する。

 

隣街への道は、既に低木が根付き。更にポンプで水が送られている水路で、潤い始めている。

 

隣街にも貯水池を作るつもりだが。

 

それは、更に隣街への街道を延ばすとき、ポンプを使ってまた水を送り出すためである。

 

いずれにしても、両脇を緑で守ったことにより、街道の安全度は飛躍的に増した。

 

既に馬車が通っても、多少の護衛がついていれば何の問題も無い状況だ。

 

ただ、わたしは走る。

 

必要がないなら、空飛ぶ荷車はいらないし。

 

身体能力を極限まで引き上げているのだ。

 

使わない理由は無い。

 

護衛としてお姉ちゃんと、キマリスさんについてきて貰う。

 

そろそろ夕方から夜になる。

 

勘が鋭いお姉ちゃんと、夜目が利く魔族であるキマリスさんに護衛して貰えば、問題は無い。

 

なおキマリスさんには、型落ちとはいえわたしが作った装備品を渡しているので。

 

ついてくる事は造作もない。

 

ましてや夜になると、魔族の力は倍増するのだから。

 

日が沈み、急激に暗くなる中。

 

わたしは今日の作業分も含め、城壁の声を聞きながら、徹底的に調べて回る。鉱物の声は、もはや人間の声と変わらず聞こえる。植物や水の声も弱いとは言え聞こえるようになって来ているのだ。

 

元よりギフテッドを持っていた鉱物に関しては。

 

非常に緻密子細に聞こえるのが、わたしにとっては当たり前の事になっていた。

 

「リア姉、カンテラをお願い。 キマリスさん、周囲の警戒を」

 

「うん、任せて」

 

「おう」

 

カンテラをかざして貰うと、わたしは問題の箇所を確認。

 

ピッケルを取り出すと、少し削り。持ち込んでいる石材を埋め込み、硬化剤で補強。何度か叩いて、強度に問題が出ていないことを確認した。

 

手抜き工事ではない。

 

使った石材に内部空洞が出来ていて、それが脆くなる原因となっていた。

 

それだけである。

 

問題を解決したので、念のためにブリッツコアから雷撃を叩き込む。

 

城壁は吹き飛ぶどころか、小揺るぎもしない。

 

満足したので、わたしはキマリスさんに話を聞く。

 

「城壁にプラティーンを使っていることは、気付かれていませんか」

 

「ああ、問題ない。 流石に頑丈すぎると不思議がられているようだが」

 

「そのくらいなら大丈夫でしょう。 もしおかしな動きをする人がいたら、すぐに連絡してください」

 

「分かっている」

 

プラティーンも、今では簡単に作れるとは言え、貴重な金属だ。

 

インゴット一つで家が建つくらいの価値はある。

 

ハルモニウムのように、国宝級とまでは行かないにしても。

 

それでも盗賊などが知ったら、それこそどんな手を使ってでも盗み出そうとするだろう。

 

更に物見櫓に昇って、状態を確認。

 

昔はお姉ちゃんに手を貸してもらって昇ったくらいだったけれど。

 

今だったらはしごなんか使わずに、そのままひょいひょいと壁を掴んで昇ることが出来るくらいだ。

 

此処は特に頑強で無ければならない。

 

丁寧に鉱物の声を聞いて、問題が起きていないか確認。

 

どうやら問題ないらしい。

 

降りるときも、はしごなんて必要ない。

 

そのまま飛び降りておしまいである。

 

忙しいのだから、すぐに次へ。

 

エルトナに戻ると、ティアナちゃんが捕まえた賊を引見する。

 

何人か入り込んでいた賊の頭を確認する限り。新しくエルトナに赴任した公認錬金術師はまだ小娘と言う事で、最初は侮られていたらしい。

 

だが今では、エルトナに入ると生還不可能。

 

匪賊だったら絶対に殺されるという噂が流れているらしく。

 

此奴らも、真っ青になって、既に小便を漏らしそうな顔をしていた。

 

「何でも喋ります! だから命だけは!」

 

「尋問なんて無駄なことはしません。 貴方たちの記憶を全て確認し、その上で適切な罰を降します」

 

五月蠅いので猿ぐつわを噛まし。

 

頭を掴んで、記憶を引っ張り出す。

 

どうやらこの男達、かなり貧しい街から盗賊行脚をしながら此処まで流れてきたらしく。

 

女を抱く金ほしさに、こそ泥を繰り返していたらしい。

 

フルスハイムの歓楽街で、女を抱く記憶も出てきたので。お姉ちゃんが露骨に眉をひそめたが。わたしは別にもう何とも思わない。

 

匪賊が人間をいたぶりながら殺し、更には場合によっては生きたまま切り刻んで喰らうような記憶だって見たのだ。

 

今更男女が交わる映像を見た程度で動揺するほど頭も子供じゃ無い。

 

というか、わたしはどうも錬金術を極める程にどんどん感覚からして人間離れして来ている様子で。

 

欲求なども、極めて弱くなっているのを実感していた。

 

性欲も同年代の女子だったら相応にあるらしいのだけれど。わたしは自覚するほど薄い。誰か良い男と結婚したいとか、そういう欲求も無かった。

 

或いは、こういう記憶を散々覗いてきたから、かも知れない。

 

いずれにしても、この二人に他に仲間は無し。罪状はこそ泥を十数件。

 

更にはお金は全て使ってしまった事も分かった。

 

記憶にあった被害者をリストアップ。

 

全ての被害者に、被害額を補填するように立ち会った役人には指示。

 

この二人には仲間もいないことが分かったので。

 

後は法に従って、奪った金の分だけ強制労働だけでいいだろう。

 

少なくとも殺すほどの罪はおかしていない。

 

「きちんと真面目に懲役を果たしたら、解放してあげます。 以降は盗賊から足を洗って真面目に働くのなら、エルトナの民として迎えることも考えます。 ただしまた盗賊になるようだったら、その時は罰が更に重くなりますので、注意してください」

 

告げると、盗賊は記憶を引っ張り出された事。

 

何の動揺も無く、わたしが冷酷に罰を宣告したことに対して、震えあがっていた。

 

噂以上の怪物。

 

そう思ったのかも知れない。

 

いずれにしても、これで今日の作業は終わりだ。

 

懲役刑を受けている他の盗賊達と同じ懲罰房に入れると、監視させる。

 

その手続きを済ませると、後は夕食後に眠る事にする。

 

今日はうちで食事をすることにする。

 

アトリエでずっと過ごすのも、あまり健康的に良い事とは思えない。それにお姉ちゃんとレヴィさんだけではなく、たまにはお母さんの料理も食べたい。

 

最近は夕食になると。

 

お父さんとお母さんが、旅をしていた頃の話をしてくれる。

 

二人とも相応に戦えたそうだが。

 

インフラが整っていない地域で、傭兵を雇って移動する時は、本当に毎回が命がけだったという。

 

匪賊に襲われた事も当たり前のようにあったし。

 

目の前で人が死んで行く所も、何度も見たと言う。

 

流石にお姉ちゃんをノルベルトさんから引き取った話はしなかった。それについてはしばらくこういった場では出ないだろう。

 

だけれど、それはデリケートな話だし。

 

こういう場では、出ない方が良い。

 

「生活は良くなってる?」

 

「ああ。 前には不満ばかり零していたお隣さんも、病気は治ったし、仕事もとても楽になったと評判だよ」

 

「そう、それは良かった」

 

仕事はいくらでもある。新しいエルトナは、拡大の途上なのだ。

 

ドロップアウトする人が出ないように、仕事は色々用意しているし。力が足りない人には、型落ちとはいえ私が作った装備類を貸しだしてもいる。また、仕事には向き不向きがどうしてもある。

 

あまり他人と関わりたがらない人でも、一人で出来るような仕事を用意もしているし。

 

何も集団活動だけが全てでは無い。

 

わたしと同じくらいの年の幼なじみも。

 

二人目の子供が出来たらしいけれど。

 

それで不満を零していることは一切無い。

 

更には、外から新しい血が入ってきた事で、それを歓迎する風潮も強いようだ。

 

「何かあったらすぐにいってね。 全部解決するから」

 

「頼もしいな。 でも、フィリス」

 

「大丈夫、何でも一人で解決できると思ってはいないから。 其処までうぬぼれられるほど、わたしは強くない」

 

そう。

 

手も足も出ない相手だっていた。

 

ギリギリの勝負だって散々経験してきた。

 

わたしは世界最強でも何でも無い。わたしよりずっと凄い錬金術師も存在することを知っている。

 

だから、一人で何でも解決できると思うほど、わたしはうぬぼれていない。

 

もしそんな風にうぬぼれても。

 

お姉ちゃんがきちんと喝を入れてくれるだろう。

 

今日は自宅で休む事にする。

 

チャートを一瞥してから、だが。

 

完了したタスクを潰して行くが、まだまだ先は長い。隣街に置くべき施設だけでも、まだ完成していないものが幾つもある。

 

そして、賢者の石に全力投球するためにも。

 

コンディションを、更に高めていかなければならなかった。

 

 

 

異界のアトリエが完成する。

 

同時に、イルちゃんが持ち込んだ空気抜きの道具を稼働。凄まじい音と共に空気が吸い出され。

 

更には、その状態で固定が行われた。

 

魔術を利用して、空気が入り込まないように壁を作る。

 

これにより、アトリエの内部には、強烈な内向きの圧力が掛かるらしい。

 

本来、家屋というのは内向きの圧力には対応しておらず。

 

普通の家だと一瞬でぺしゃんこになるそうだ。

 

既に廃屋で実験済みだという。

 

ただ、勿論わたしも頑強さと密閉性に関しては、徹底したものを作った自信がある。アトリエそのものもそうだが。アトリエの外側の壁にも、薄くプラティーンで装甲を施している程だ。

 

更にそのプラティーンには、装甲強化の魔法陣を徹底的に刻み込んでもいる。

 

このアトリエは、内部で何が起きても壊れないことを想定しているのだ。

 

「問題は無いようね」

 

「次は内部に入るための準備だね」

 

「ええ。 まずは動物実験よ」

 

荒野で捕まえてきた兎。ただ小型の個体だ。

 

これに空気をまとわせる道具をくくりつける。

 

ものとしては腕輪に近いのだが。腕輪には、チューブのようなものがついている。

 

原理を確認すると、この腕輪が魔剣に炎や雷撃を纏わせるように、空気を装着者に纏わせ。

 

更にはこのチューブで、外と空気を常時入れ替えさせるという。

 

これにより、本来なら爆散してしまう環境でも、行動が可能になるという。

 

イルちゃんは、異界の空や。

 

通路の下に拡がっている、何も無い空間を見て呟く。

 

「何なんでしょうね、この異界。 理論は理解出来ているのだけれど、とてもではないけれどこの世の事とは思えないわ」

 

「この世ではないんじゃないのかな」

 

「あるからには「この世」よ。 別の世界だろうが関係無いわ」

 

「それはそうかも知れないけれど」

 

イルちゃんも表情が険しい。

 

いずれにしても、ここからが本番だ。

 

アトリエに入れた兎は、怯えきっていたが、すぐに死ぬような様子も無く。ストレスで苦しんでいるくらいで、それ以外のダメージは無い様子だった。

 

数日このままの状態を維持。

 

問題が無いようなら、この空気を纏う装置を量産するという。

 

頷くと、わたしはフルスハイムでそろそろ錬金釜が出来る事を告げる。

 

イルちゃんはそれを聞くとため息をついた。

 

「ハルモニウム製の錬金釜だなんて、ライゼンベルグにも幾つも無い筈よ」

 

「そうかも知れないけれど、あるんだから使おうよ」

 

「ええ。 分かっているわ」

 

名門だなんて言って、ふんぞり返っていた家族が滑稽にしか思えない。

 

そうイルちゃんはぼやく。

 

まあ気持ちについては大いに分かる。

 

今や、イルちゃんの方が「名門錬金術師」の両親や兄姉よりも確実に力量が上なのだから。

 

公認錬金術師試験を受けたときには、既に生半可な公認錬金術師よりも腕が上だと言う事は保証されていた。

 

世界でドラゴンを倒せる錬金術師はそう多くない。

 

その時点で、それは明らかだった。

 

ただし、だからといって万能では無い。

 

今回も、二人で試行錯誤を繰り返していることから言っても、それは明らかすぎる程である。

 

念のため、徹底的にアトリエを調べて、問題が無いことをもう一度確認してから戻る。

 

今日はエルトナにエスカちゃんが来ていた。

 

どうやら授業日は決まっているようで。授業日に併せて、空飛ぶ荷車で送り迎えしているそうだ。

 

送り迎えに関しては、孤児院の方でお金を出している。

 

錬金術の才能持ち。

 

それが如何に貴重な存在か、誰もが知っている。

 

エスカちゃんはロジーさんの所で働いている事からも、お金は持っているので。自分で最初は払いたがったそうだが。

 

錬金術の基礎を教えているヒュペリオンさんが、本職になったらお金は幾らあっても足りなくなると説得したらしい。

 

今では、既に中和剤を作れるようになり。

 

簡単なお薬も作れるようになって。

 

着実に腕を上げているそうだ。

 

流石に才覚は怪物級とまではいかないようだが。それでもかなり才覚はある方だと、ヒュペリオンさんは太鼓判を押していた。

 

この人自身が凄い錬金術師だと言う事は、試験の時から分かっていた。

 

或いは、この人が。

 

キルシェさんの言っていた、自分でも及ばない錬金術師、なのかも知れない。

 

恐らくキルシェさんをライゼンベルグに送り届けるよう、アルファ商会に口利きしたのは深淵の者関係者だろうし。

 

あり得る話だ。

 

だとすると、深淵の者には、ソフィー先生やルアードさん、プラフタさん以外にも、文字通り魔物のような人材が揃っている事になる。

 

だが、それでも世界の改革には成功していないし。

 

どん詰まりも回避できていない。

 

その事実を考えると気が重い。一歩一歩、未来に向けてやっていくしかない自分の非才が歯がゆいばかりだ。

 

授業が終わったので、ぺこりと一礼して、エスカちゃんが帰って行く。

 

ヒュペリオンさんと軽く話す。

 

エスカちゃんのお薬も見せてもらったが、まあまあの出来だ。とりあえず、わたしが最初に作ったのよりずっと良い。

 

躊躇無くナイフで肌に傷を入れて薬を試すわたしを見て。

 

ヒュペリオンさんは苦笑いしていた。

 

「流石にあの魔人ソフィーどのの弟子なだけはある。 其処まで思い切って自分で実験は出来ませんよ」

 

「敬語は良いですよ。 貴方の実力は知っているつもりです」

 

「ふふ、貴方は深淵の者でも未来のエース候補として着目されています。 才覚に関しても、私を上回っていますよ。 ならば年少者であっても、敬意を払うのは当たり前の事です」

 

「ありがとうございます」

 

それにしても、魔人か。

 

むしろ魔神のような気もするが。それは敢えて口にはしない。

 

ソフィー先生の恐ろしさは、深淵の者関係者でも一致した見解なのだろう。

 

イプシロンさんから話は幾つか聞いたが。

 

深淵の者は500年ほど前から活動を開始してから、ずっと腐敗と無縁だという。ルアードさんがそれだけ徹底的に組織管理をしているという事や、世界の現状を知っていて、500年前からアンチエイジングで幹部として頑張っている人材の有能さ。更には貪欲に人材を取り込んでいる事もあるが。最近ではソフィー先生が抑止力担当として加わった事もあり、不正なんて怖くて出来ないという空気があるそうだ。

 

それはそうだろう。

 

あの人に掛かったら、それこそ不正など一瞬で見破られ。どんな恐ろしい目に遭わされるか分からない。

 

最初はわたしに未来をくれた人だった。

 

でも今は、怖くて仕方が無い相手でもある。

 

「それよりも、この教育施設はとても良いですね。 もっと無料での体験教室を開いてください。 錬金術師の素質は残念ながら滅多に持っている人がいません。 今までヒト族以外で確認されたこともありません。 しかし、多数の人間を調査すれば、或いは……」

 

「分かっています。 インフラが安全になった今、どんどん手は拡げていくつもりです」

 

「お願いしますよ。 世界の終末が詰んでいることは共通の認識です。 打開のためには、少しでも人材が欲しいのですから」

 

頷くと、孤児院を離れる。

 

さて、今日は後の時間、隣街用の設備の調合。

 

それに足りなくなっているものの調合。

 

更にはコンテナの整理をするか。

 

忙しい日が続くが。

 

まだやれる。

 

わたしは、こんな所では、立ち止まるわけにはいかないのだから。

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