暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、深淵への片道切符

プラフタさん立ち会いのもと、賢者の石の調合に入る。

 

深紅の石そのものを中和剤として使い。それそのものの要素も取り込みつつ、他の素材から作り出した中間生成物を全て同時合成する。

 

本来は混ざり合う事が無い要素が全て、これにて混ざり合う。

 

調合そのものは簡単だ。

 

深紅の石そのものが、中和剤として最上級の品。それこそドラゴンの血から作った中和剤などこれに比べれば路傍の小石に等しい程に、である。

 

故に、変質は凄まじく。

 

文字通りハルモニウムの釜で無ければ、爆発していたかも知れない。

 

生唾を飲み込むわたしの前で。

 

反応が収まっていく。

 

やがて、目に分かるほど美しい赤い石が、釜の底にへばりつくようにして出来ていた。

 

丁寧に剥がす。

 

思ったほど堅くは無い。

 

というよりも、ヘラを入れて剥がしてみると。すんなり剥がれてくれた。

 

そして硝子容器に入れると。

 

それはゆっくり時間を掛けながら形を変えていく。

 

プラフタさんは、最小限のアドバイスをしただけ。

 

そして、頷いた。

 

「ソフィーの作った賢者の石と比べると、58点と言う所ですね。 100点満点で」

 

「はい」

 

思ったより高い品質なんだなと、わたしは思う。

 

あの人が作るのが100点だとすると、今のわたしがそれを超えるはずが無いので、まあ妥当なところだろう。ましてや初めて作るのだから。

 

ただ、これを70点にするには更なる膨大な努力が必要だろうし。

 

90点を作る頃には、多分身内はみんな死に絶えているだろう。

 

わたしは一人アンチエイジングで生き延びていて。毎日の日課に、お墓参りが追加されているかも知れない。

 

何だか悲しい話だが。

 

そういうものだ。

 

続けて、イルちゃんが調合を開始する。

 

さほど時間は掛からず、イルちゃんも上手く行ったようだった。

 

賢者の石は。

 

二人とも完成させる事が出来たのである。

 

疲れは取れていたし。

 

思ったよりも、最終作業は楽だった。

 

だが、何となく分かる。

 

賢者の石を作った事で、わたしは恐らく、決定的に変質した。

 

そう、わたし自身が、である。

 

力がわき上がってくる。

 

賢者の石を作る事で、膨大な経験を積んだから、ではないだろう。プラフタさんが言っていたように。賢者の石を作ると言う事そのものに意味があったのだ。

 

差し出されたのは高栄養のレーション。

 

それを食べてから、少し休んで、すぐに戻ってくるようにと言われた。

 

恐らくは。

 

世界の創造者。

 

端末ではない、本物のパルミラと会うために、体調を万全にしておけ、という意味だ。ある意味死刑宣告に近いかも知れない。

 

呼吸を整えると、アトリエに戻る。

 

そして、おなかが温かいなと思いながら。茫洋と天井を見つめた。

 

「隣、いいかしら」

 

「うん……」

 

ベッドにお姉ちゃんが座る。

 

わたしが寝ているとき、お姉ちゃんはきちんと距離を取ってくれる。いつも鬱陶しいほどべたべたしてくるのに。

 

この辺り、わたしを溺愛している反面。

 

きちんと嫌われないように、距離の取り方を心得ている、と言う事を意味もしている。逆に言うと、お姉ちゃんは本当にわたしが大事だから、絶対に嫌われたくは無いのだろう。

 

「とても難しい事を成し遂げたのね」

 

「……ううん、一番難しいのはこれから。 きっとわたしは、もう戻ってこられないと思う。 この場所には戻ってこられるとは思うけれど、もう人間じゃあ無くなっていると思う」

 

「そう」

 

「リア姉、何だか力を得るってのは悲しい事だね」

 

お姉ちゃんは何も言わない。

 

お姉ちゃんには葛藤があった筈だ。閉鎖的なエルトナで地位を確保するためには、それこそ必死だったはず。

 

お父さんとお母さんが現役を退いてから、お姉ちゃんの両肩には更に重荷がのしかかった。

 

外で狩りを行い。

 

たまに来る商人から、ぼったくられないように、舐められないように、更には怒らせないようにもしなければならない。

 

そんな難しい立場を任されるまでには。

 

それこそ血のにじむような努力をしたはず。

 

弓矢の達人になるまでだって、相当な鍛錬を積んだはずで。それはわたしが錬金術につぎ込んだ努力と、まったく遜色ないものだっただろうと見当は簡単につく。

 

「何があっても私はフィリスちゃんの側にいるし、例えフィリスちゃんが何になっても私は味方よ」

 

「うん……ありがとう」

 

「もう自分で決めた事なんでしょう」

 

「……このままだと、世界はどん詰まりの果てに滅んでしまうんだよ」

 

お姉ちゃんは何も言わない。

 

そういえば。

 

わたしが旅に出るとき、お姉ちゃんは同行を申し出たが。あの時の前後、少し様子がおかしかった。

 

ひょっとしてわたしより先に。

 

ソフィー先生はお姉ちゃんに接触して全てを話していたのかも知れない。

 

或いは、だが。お姉ちゃんにも、錬金術師としての素養があってもおかしくない。何しろ、公認錬金術師二人の子供なのだ。

 

ノルベルトさんはロギウスの作った砂塵を時間限定とは言えかき消したし。

 

その奥さんだった人は、下級とは言えドラゴン相手に非戦闘員が逃げるくらいの間時間稼ぎを成功させている。

 

素質がお姉ちゃんにあってもおかしくはない。

 

「力を得たからには、相応の責任を果たさないと。 でも、なんでだろう。 力を得れば得るほど、どんどん心が静かになって、目がよどんでいくのが分かるんだよ。 友達や仲間を大事にしようという気持ちはあるの。 だけれど、どんどん何処かで一線を引いている自分にも気付いてしまうんだ」

 

わたしは泣いていたかも知れない。

 

でも、お姉ちゃんは何も言わず、話を聞いてくれた。

 

「この世界のどん詰まりは本当に悲惨な末路を迎えるの。 それを食い止められるならどんな手でも使わないと……でもわたし、邪神より邪悪な存在にはなりたくない」

 

わたしは目を擦りながら半身を起こすと。

 

行ってきますとだけ言い残して。

 

その場を離れる。

 

お姉ちゃんは何も言わず、わたしを見送ってくれた。

 

さて、これからあのパルミラの本体に謁見する。

 

そして、最悪の場合でも。

 

何をするか本当の意味でまったく分からないソフィー先生の、抑止力にはなる力だけでも手に入れなければならない。

 

だが、あのソフィー先生が相手だ。

 

文字通りそれには激甚なリスクが伴うだろう。

 

わたしは戻ってきたとき、もうあらゆる意味で人間ではなくなっている。

 

最後の別れだ。

 

わたしは、扉をくぐって異界に。

 

くしくも、イルちゃんも。同じタイミングで、異界に入ってきていた。

 

プラフタさんが頷く。

 

さあ、時間だ。

 

 

 

(続)




ついに人間をやめたフィリス。

もはや戻る事は不可能です。

そして世界の詰みを打破するべく人材を育てて来たソフィーさんは、笑顔で。深淵そのものの笑顔で、フィリスを出迎えるのです。

ようこそこちら側に、と。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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