暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、破壊神

数日間眠り続けていた。

 

起きた後、そう聞かされた。体の方は大丈夫だ。というよりも、今まで無理をしていた疲れが、全て消し飛んでいるように思えた。

 

力がわき上がってくる。

 

恐らく、上限を引き上げたという言葉は本当だろう。

 

わたしの体のパラメータが、パルミラによって根本的に弄られたのだ。

 

同時に、心も冷えていた。

 

何となく、分かる。

 

これが恐らく、ソフィー先生が辿りついた。いや、賢者の石を作る前から辿りついていた心の世界。

 

凍り付いたような、地獄そのものの世界だ。

 

きっとソフィー先生は、最初からこんな世界に住んでいた。

 

だから錬金術を極める事が出来た。

 

ほぼ単独で賢者の石を作成するほどの境地に達する事が出来た。そして、その代わりに多くのものを犠牲にした。自分自身の人間性が、恐らく最初に犠牲にしたものだったのだろう。

 

冷静すぎる自分の心。

 

そして、まずはベッドから起き上がると、わたしは食事にする。

 

すぐにお姉ちゃんが食事を用意してくれたので、口にする。美味しいけれど、昔のような感動はなく。

 

ただ美味しいと思うだけだった。

 

わたしは、イルちゃんと決めた。

 

破壊するのはわたしが担当する。

 

その後にイルちゃんはよりよいものを作る事を考える。

 

今後は、まずわたしが駄目なものを破壊し。そしてイルちゃんがよりよく創造する。その流れを如何に効率化するか、考えを進めていくしかないだろう。

 

破壊しなければならないものには、人間四種族という生物の根本的性質も含まれている。勿論どう破壊するかも、これから考えて行かなければならない。

 

足下を固めておいて正解だった。

 

まだこれでグダグダやっているようだったら。

 

それこそ、今から外に出て、直接わたしが手を下して、血の雨を降らせなければならなかっただろう。

 

食事を終えると、ごちそうさまと口にして。

 

何か言おうとしたお姉ちゃんを一瞥だけして、アトリエの外に出る。

 

地上に作り直されたエルトナは。

 

今やお日様の光を浴び。

 

城壁に囲まれ。

 

緑も彼方此方に植え込まれていて。

 

立派な孤児院だけでは無く。活版印刷などを行う機械技術者が住まう施設や。様々なインフラも整備されている。

 

作ったばかりの水路に、ポンプで水がくみ上げられ。

 

城門の前には、門番がしっかり見張りをし。

 

行き交う人々は健康そうで、何よりだ。

 

貧富の格差は出来るだけ小さく。

 

貧しい人にも生活出来る余地を。

 

それを実現したこのエルトナは、今後更に発展させ。更にはモデルケースとして、上手くやっていかなければならないだろう。

 

つるはしを何度か振るってみる。

 

非常に軽い。

 

今まで以上に、だ。

 

同時に、これまで作った装備品に対する改良点が、どっと頭の中になだれ込んでくる。これは単純にわたしの頭のスペックが上がったから、だろう。出来る事が増えた事が、素で理解出来るようになったのだ。

 

その中には。

 

人造の人間。

 

つまり、アリスさんや、その同族達の作り方もあった。

 

いや、無から知識が湧いてきたのでは無い。

 

今までに見てきた書物や事実。

 

何より自分で体験してきた事が、記憶から呼び覚まされ。今までとは別次元の効率で組み合わされていった結果だ。

 

スペックが上がるというのはこういうことか。

 

その内、わたしはソフィー先生と同じように。

 

単独で邪神を殺す事も可能になるのだろう。

 

側に降り立つティアナちゃん。

 

前は接近に気付く事さえできなかったけれど。今はどうやって側に降り立ったか、一部始終を把握できた。

 

反応も出来るだろう。

 

銃弾を叩き込まれても、空中で掴み取って握りつぶす事も容易い。それだけ今のわたしは、本来のスペックを十全に引き出せている。

 

「ようこそ、深淵の世界に」

 

「ティアナちゃんには分かるんだね」

 

「ふふ、まあね。 深いよ、この世界は。 でもフィリスちゃんはもっと私より先に行けるね」

 

「……そうかもね」

 

仲間が増えて嬉しい。

 

そう狂気の殺戮鬼の目には宿っていた。わたしは、それを喜ぶ事が出来なかったし、好ましいとも思えなかった。

 

まずは、何から手をつけるか。

 

この街の問題は大体片付いた。

 

隣街の問題を一通り片付けてから、更に隣街への道を通す。いずれにしても、着実に計画し準備してきているが。それも終わったら、次の段階へ移行するべきだろう。

 

ふと、気付く。

 

代謝がもの凄く少なくなっている。

 

さっき食べた食事で、今までの二倍から三倍の時間は稼働できそうだ。食べたものに関しても、無駄にする量は半分以下に出来るだろう。

 

まずは、役人の所に行く。

 

話を聞かされているらしく、わたしを見ても。

 

深淵の者の息が掛かった役人は、静かに対応した。ただ、わたしを見て、一瞬目に怯えが走ったのを見逃さなかったが。

 

「どうしましたのです」

 

「これから隣街に向かいます。 人夫を集めてください。 遅れを取り戻します」

 

「分かりました。 集まり次第護衛をつけて送りますのです」

 

「お願いします」

 

礼を欠かす事はしない。

 

相手に敬意を払わない事が何を意味するか、わたしもよく分かっているから、である。

 

では、順番にやっていこう。

 

まずはアダレットへの道を整備し。エルトナをインフラの重要拠点へと引き上げる。

 

そしてアダレットとラスティンの主要都市同士が有機的に結合できるようになったら、今度は邪魔をしに来るだろうドラゴンどもを排除する方法についても考えなければならない。

 

更に次の問題は、人間が世界の主導権を取った後の事。

 

もし人間が世界の覇者となったら、四種族同士での争いが開始されるのは必至。そうなったとき、どうすべきか。

 

いっそのこと、深淵の者で人間を完全に支配し、統率するか。

 

だがそれでも、あの手この手で人間はエゴを振りかざし、好き勝手に振る舞おうとするだろう。

 

ならばいっそのこと、人間から自由意思を奪うか。

 

だがそれでは、世界は恐らく凍結してしまう事だろう。

 

今までだったら、絶対に思いつかなかった考えが、それこそ湧き水のように浮き上がってくる。

 

一つずつ丁寧に検証しながらわたしは歩き。

 

隣街についていた。

 

今まで以上にクリアに、全ての声が聞こえる。

 

鉱物だけじゃ無い。

 

植物も。

 

空気さえも。

 

わたしに全てを教えてくれていた。

 

さて、此処からだ。

 

どん詰まりの世界をどうにかするために、わたしは破壊するべきものを決め。それを徹底的に破壊し尽くしていく。

 

その後はイルちゃんがどうにかすればいい。

 

役割分担が決まった今。わたしの負担は、半減したと考えても良かった。

 

 

 

隣街から伸びる道を、想定の半分ほどで耕し終え。

 

護衛が呆れる程の反応速度で、襲ってくる獣を全て返り討ちにして行く。

 

わたしは黙々と緑化作業を指示し。

 

上手く行っていない箇所は即座に見つけ、その場に急行しては、指示を出していった。

 

わたしの指示は、話によると前よりも遙かに分かり易くなったらしい。

 

それはそうだ。

 

何がまずいのか、人間の心理を以前より遙かに良く把握できるようになったからである。

 

あらゆる意味で人間を止めている。

 

それについては異論も無いし。

 

悲しいとも思わない。

 

ただ、それだけの力を、有効に活用するだけだ。

 

お姉ちゃんが心配するので、休憩は入れるが。食事に関しては、減らすようにとも告げてある。

 

理由については、お姉ちゃんも分かっているようで。

 

何もそれについては言わなかった。

 

だが、お姉ちゃんの目に、深い憎悪と怒りが宿っているのは分かった。

 

わたしに対してのものではない。

 

多分、わたしが「こんなになった」原因。創世の乙女に対する怒りだろう。もっとも、怒ったところで仕方が無いし。

 

そもそもアレの力を上手く使う事。つまり錬金術を更に極めていく事を考える方が現実的だが。

 

隣街の隣街への道が開通。

 

そこそこに大きな街と言う事もあり、公認錬金術師もいる。

 

まさかエルトナ方面から道がつながるとはと、少し頭がはげ上がっているおじさんの公認錬金術師は握手を求めて来たので、素直に応じた。少なくとも、きちんと仕事をしている人間だと言う事は、一目で分かった。

 

「その年で公認錬金術師になり、非の打ち所が無い道を作るとは流石だ。 わしも負けていられないな」

 

「ありがとうございます」

 

「宿場町の方には、此方からも投資させて貰う。 ライゼンベルグへの短縮路ができた事もあり、今後は賑わうはずだ。 共に世界をよくするために努力しよう」

 

前向きな言葉だが。

 

相手がわたしがおかしい事に気付いている事も。とっくに見透かしていた。

 

だが、別にかまわない。

 

もしも過度に邪魔になるようならば消す。

 

消すというのも、選択肢は別に殺すというものだけではない。それに、一応の腕前を持つ公認錬金術師だ。

 

腐敗しないようならば。

 

人材として、この世界のために役だって貰わなければならないだろう。

 

軽く接待の宴会に出ると、後は適当に戻る。

 

この時点でドロッセルさんのお仕事は終わった。

 

現時点で、インフラの整備が一段落し、深淵の者の配下が重点的に配置されているエルトナには、もう戦略級の傭兵は必要ない。

 

ドロッセルさんほどの腕前になると、何処でも必要とされる。

 

戦略級の傭兵は数が少なく。

 

ましてや腕利きとなると何処でも引っ張りだこだ。

 

ただでさえ、ドロッセルさんは、そろそろアダレットに行きたいと言っていた。

 

向こうには両親がいるのだし。水入らずで過ごす事も悪くは無いだろう。

 

ドロッセルさんも、それを察したのか。

 

道が完成した翌朝には、わたしのアトリエに来た。

 

「どうやら、此処までで大丈夫みたいだね」

 

「はい。 今までとても有難うございました。 わたしもその内アダレットに行きますので、その時には「扉」を設置するつもりです。 ドロッセルさんなら何時でもアトリエに歓迎します」

 

「お、嬉しいね。 ただ迷子がちょっと心配だなあ」

 

「分かっていますよ」

 

来るタイミングも予想していたので。

 

声を掛けておいた人がいる。

 

見た事のない服で着飾ったホムの女性がアトリエに入ってきて、一礼。

 

アルファ商会の支部を任されている商人の一人である。つまるところ、深淵の者の息が掛かった商人だ。

 

ちなみにコルネリアという名前で。

 

今後、アダレットでの商売を任される事が決まっているという。

 

何でもソフィー先生と一緒に戦った仲間の一人で。

 

行方不明になってしまったお父さんを探しているらしく。

 

アルファ商会と連携して動くようになってからは、商売の才能もあって順調に売り上げを伸ばし。

 

その結果、アダレットで大きな商売を任される事になったとか。

 

まあ、しばらくは王都には行かず、様子見をしながら最終的に王都へ向かうつもりのようだが。

 

なお、ホムとしては例外的に身体能力が高く。

 

ソフィー先生と一緒に戦っていた頃は、一撃必殺の武器を手に、前線で暴れ回っていたそうだ。

 

護衛は必要ないような気もするのだが。自身はともかく、流石に隊商を守りきるには厳しいのだろう。

 

一人が強くても、多数の敵に飽和攻撃を受けると対応は難しい。ましてや定点目標を守りきるのは厳しいのだ。馬車などを護衛する場合は、やはり歴戦の傭兵が指揮を執るのが一番である。

 

「コルネリアというのです。 よろしくお願いするのです、ドロッセルさん」

 

「此方こそ」

 

「アダレットに行くので、護衛をお願いするのです。 商売をいきなり王都でやるつもりはないのです。 ただ、王都には用事があるので、其処までは護衛を頼むのです」

 

コルネリアさんの出してきた書類に沿って契約を済ませるドロッセルさん。

 

契約内容も、いずれも本来の数割増しの価格らしく。ドロッセルさんは充分に満足していた。

 

書類を丁寧に読み、契約の確認が終わると、ドロッセルさんは改めて言う。

 

「色々有難うねフィリスちゃん」

 

方向音痴のドロッセルさんだ。アダレット王都どころか、そもそもアダレットにたどり着けるかも怪しかっただろう。

 

わたしも丁度良い話があると聞いて、わざわざ手を回して貰ったのだ。

 

本来はコルネリアさんも、隊商を連れてもっと遠い経路からアダレットに向かうつもりだったらしいのだが。

 

このショートカットルートの完成により、此方を採用する事に決めたらしい。

 

「これからは時々利用させて貰うのです。 アルファ商会傘下、コルネリア商会の御用達の宿として、整備をして欲しいのです」

 

「分かりました。 此方でも手配はしておきます」

 

「お願いするのです」

 

お姉ちゃんとドロッセルさん。ドロッセルさんとツヴァイちゃんも挨拶を済ませる。

 

アングリフさんも、既に傭兵としては引退した身だが。

 

ドロッセルさんを見送りには出てくれた。

 

レヴィさんもカルドさんもである。

 

かくしてドロッセルさんは、わたしの側から去った。

 

ただ、わたしもこれからアダレットに行く事になるだろう。それがいつになるかは分からないが。

 

恐らく、再会の時はそう遠くない。

 

わたしは、それを確信するまでも無く。

 

何処かで知っていた。

 

 

 

数日後。

 

レヴィさんがカルドさんと一緒に、近場の遺跡を探索する、という話をわたしにした。

 

どうやら、その時が来たらしい。

 

今まではあくまで機会が来たら、だったが。

 

ドロッセルさんが去った事で、多分わたしの周囲が安定した、と判断したのだろう。

 

実際問題、状況は安定している。

 

カルドさんも、同じように考えたようだった。

 

エルトナを去るわけでは無い。

 

今後も拠点はエルトナにおいて、孤児院の先生もしてくれるそうだが。やはり血が騒ぐというか、探索をしたいという気持ちは強いようだ。

 

最初に向かう遺跡は、ドナとフルスハイムの中間にあるもの。虹神ウロボロスに滅ぼされた街の残骸。

 

そう。わたしがオレリーさんの協力を得ながら。

 

避けるように山際に道を作った、あの遺跡だ。

 

現在では凶悪なネームドも住み着いておらず、たまにドナの自警団がオレリーさんと一緒に住み着いた獣を駆除して回っているらしいのだが。

 

それに同行し、獣を駆除しながら、遺跡を調べて見たいそうである。

 

元々標の民であるカルドさんだ。

 

やはり手近な遺跡から丁寧に調べたいという欲求も強いらしく。

 

レヴィさんと組んで、幾つかの遺跡を見て回りたいらしい。

 

カルドさんも、エルトナに出来た活版印刷の工場や、他の技術に関する誘致に対しても積極的で。

 

以降もエルトナを拠点にすることを明言してくれているので。

 

此方としても有り難い。

 

レヴィさんは孤児院でも剣や魔術を教えてくれるほか、料理を授業のレパートリーに入れたらしい。

 

これはアングリフさんの提案で。

 

料理を美味しく作れる事は、商売につなげられるから、だそうだ。

 

ただ料理人などの客商売は向き不向きがあるので。

 

料理人が経営者を兼ねるのも難しいと聞いている。

 

その辺りは、アングリフさんが何かしら教えたりするのかも知れない。

 

まあ、今の二人なら。

 

わたしがあげた装備類による強化もある。

 

まずその辺りの獣程度には遅れを取らないし。

 

ドナのオレリーさんや、オレリーさんが鍛えた自警団と連携して動くのであれば、危険はないと判断して良いだろう。

 

二人を見送る。

 

そして、アングリフさんに言われて、孤児院に出向く。

 

孤児院には時々足を運んでいたのだが。

 

まだ空きスペースがかなり目立った。

 

地下室も殆ど空の状態で、奥の方にちょっとだけ荷物が詰め込まれているのが目立った。

 

「現在、此処で預かってる子供らと、それに勉強に来る連中のためにももっと本やら機材やらが欲しいんだが、どうにかならねえか」

 

「本なら活版印刷所で今刷っていますから、余裕が出来次第回します」

 

「まあ稼がないといけないもんなあ」

 

「わたしの手元にある宝石類の在庫だけでも当面は大丈夫ですけれど、基本的に赤字事業は作りたくありませんし、何よりも機械技術者は少ないので」

 

腕組みした後。

 

アングリフさんは、顎をしゃくる。

 

表に出ろ、と言うのだろう。

 

そういえば、格闘戦のやり方について教えてくれたことがあったけれど。

 

その時は、直接組み手をする事はなかった。

 

子供達はアングリフさんは慕っているようで。

 

ちょっと軽く戦闘実習をするという話をすると、大喜びで外に出てきた。

 

わたしはそういえば。

 

素手でどれだけ今やれるのだろう。

 

ティアナちゃんが塀の上に座って笑顔で様子を見ている。わたしが素手で戦えるほど強くなったのが、楽しくてならないらしい。

 

同じ装備品をつけているから、条件は五分五分。

 

後は、単純に軽く手合わせをするだけだ。

 

アングリフさんから、仕掛けてくる。

 

わたしが応じて、すり足で移動しながら、懐に潜り込む。

 

格闘戦は苦手で、殆どやったことはなかったが。

 

今は記憶の中から引っ張り出してくる様々な動きに、体がスムーズに反応してくれる。

 

今まで見てきたのは人間の動きだけでは無い。

 

四足獣がどうやって敵と戦うか。

 

二本足で走り回る巨大な鳥が、どう敵を殺すか。

 

足さえ無い獣が、どう動き、敵を仕留めるのか。

 

それらも見てきている。

 

全ての動きを応用しながら、下段から仕掛け。アングリフさんは流石に歴戦、それをするりと避けてみせる。

 

わっと子供達が喜ぶが。何も分かっていないから喜べるのだ。

 

此処で行われているのは、本物の殺し合いを行って来た者同士の演舞。勿論そのデータは殺し合いに起因している。

 

アングリフさんの動きは引退した人間とはとても思えず。

 

果敢に攻めるも、中々隙が無い。

 

それどころか、一瞬の油断を突いてカウンターを的確に入れてくる。気を抜くと、膝やら蹴りやらをモロに食らう。

 

一撃、強烈なミドルを貰って、威力を殺しながらずり下がるが。

 

アングリフさんは追撃してこない。

 

わたしはジグザグに地面スレスレの低い態勢を取って間合いを詰め、至近で跳び上がるように飛び膝を入れる。

 

がつんと弾きあって、跳び離れる。

 

今のは手応えがあった。

 

「ふう、こんなもんかな」

 

「ありがとうございました」

 

礼。

 

武器を使った演舞だったら、また違った動きになっただろうが。徒手だったらまあこんなものだ。

 

それにしても、どうしていきなりこんな。

 

聞く前に、子供達を孤児院に戻してから、アングリフさんは言う。

 

「今の動き、とても素人のそれじゃあねえな。 分かってはいたが、もう完全に人間止めちまったんだな」

 

「この世界が……」

 

「ああそれは分かってる。 更に言うと、子孫に託してどうにもならねえ事もな。 吟遊詩人の語る物語じゃああるまいしな。 人間の可能性は有限だし、個々人の可能性だってそれは同じだ。 子供が親と同じ能力を持っているわけじゃあないし、人間の組織は簡単に腐敗する」

 

「アンチエイジングを受けて、深淵の者に入ってくれませんか? それが嫌なら、わたしの手伝いをして欲しいです。 ……多分人材は今後幾らでも必要です」

 

アングリフさんは、首を横に振る。

 

一度、話したのだ。

 

この世界が今後どうなるのか。

 

それでも、アングリフさんは、首を横に振った。やはり、どうしても性にはあわないのだろう。

 

「今戦って見て分かったが、もう俺にはガタが来始めていやがる」

 

「内臓などは健康ですが」

 

「それも分かってるが、それでも分かるんだよ。 いずれにしても、あまりにも摂理から反した治療は不要だぜ。 俺はあのガキ共に、未来を渡せればそれで満足だ」

 

そうか。

 

頷くと、わたしはアトリエに戻り。

 

ぼんやりと思索した。

 

人それぞれの道だ。わたしにそれを止める権利は無い。

 

お姉ちゃんとツヴァイちゃんはどうだろう。わたしについてきてくれるだろうか。

 

お母さんとお父さんは、多分無理だろう。あまりそういうのに興味があるとは思えない。いずれにしても、分かっている。

 

わたしはこれから、孤独の道を歩くことになる。

 

イルちゃんを一として「同志」はいる。

 

だがそれはあくまで「同志」。

 

そも考え方を決定的に違う存在として、互いに取り決めた仲だ。そういう意味では、イルちゃんもこれからは永劫の孤独を味わう訳か。

 

誰も、側にはいなくなる。

 

多分ソフィー先生は、ずっとこの感覚の中にいたに違いない。

 

わたしは大きく嘆息すると。

 

今後どうしていくべきか。本格的に思索し始めたのだった。

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