暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
まずわたしは。
黙々と、できる限りのレシピを作り始め。それに沿って、道具を作り始めた。
今では鉱物だけではない。
あらゆる素材が教えてくれる。
自分をどう使えば良いか。自分がどうなりたいか。
だから、ミスも極端に減っていたし。何よりも、それ以上に応用力が自然に身についていた。
賢者の石を作った経験。
更にパルミラに引き上げられた才能上限は伊達では無かった、と言う事だ。
新しい道具類をどんどん作っていく。
爆弾も全て刷新。
装備類も、使うかどうかは別として、どんどん新しい種類のものを開発していく。ハルモニウムもヴェルベティスも、素材にはもう困る事は殆ど無かった。深淵の者が直接提供してくれたからだ。対価として、わたしがお薬や爆弾を提供すれば良かったし。場合によっては、探索のための人員も貸してくれた。
今まで一緒に旅をしていたときに、同行を願ったみんなは半減してしまっているが。
深淵の者から出してくれた手練れ達の実力は文字通り次元違いで。
わたしが困る事は一切なかった。
今や、確実に手伝ってくれるのはお姉ちゃんとツヴァイちゃんだけ。気が向いたときにレヴィさんが手伝ってはくれるが、カルドさんは教師業と遺跡探索に専念する事に決めたらしく。ほぼ手伝ってくれることはなくなった。遺跡探索の時には同行してくれる事もあったが。
あれほど苦労して作り上げたヴェルベティスなのに。
今では、殆どミスする事も無く。
以前とは比べものにならない品質のものを作れるようになってしまっている。
それが幸せなことなのかはわたしには分からない。
いずれにしてもはっきりしているのは。今わたしが身につけている装備一式は。賢者の石を最初に作ったときとは、それこそ何倍も強力、ということだった。
ドラゴンを殺す事も難しくない。
ただ、わたしの所に、ドラゴン殺しが深淵の者から依頼されることは殆ど無かったけれども。
ツヴァイちゃんに声を掛けられる。
彼女は、わたしが変わってしまったことに気付いていても。
怖じ気づかずに、きちんと話をしてくれる。今となっては、貴重な一人だった。
「お姉ちゃん。 今日はエスカさんの勉強を見てあげる日なのです」
「あ、ごめん。 そうだったね」
アトリエを出る。
賢者の石を作ってから一年が経過。
ドロッセルさんから、無事にアダレットに辿りついたという手紙も届いている。
孤児院は経営が完全に軌道に乗り。
今や、此処で暮らしている子供達だけでは無く。
余所から勉強に来る人で賑わっていた。
エルトナの規模は人員1200を突破。
今後、更に増える見通しも立っていた。
それにともなって、ドラゴンが様子を伺いに来ることもあったが。もしも仕掛ける兆候がある場合は、事前に仕留めてしまうことにしていたので。
今の時点で、被害はまったく出ていなかった。
孤児院に出向くと。
少し背が伸びたエスカちゃんがいる。
元々働いていたこともあって考え方もしっかりしていたが。錬金術を始めて、更にしっかりとしてきたようだった。
これはその内、ロジーさんも逃げられなくなるだろう。
「今日はよろしくお願いします」
「はい」
今日は本来の教師であるヒュペリオンさんが忙しくて、わたしが代わりに教師をする事になった。
ここのところ難しい仕事ばかりだったので。
これくらいだったらむしろ楽だ。
わたしは本来教師業には向いていない。それも徹底的に、というのが客観的に分かるのだけれども。
深淵の最深部であるパルミラに接触してからは。
それも気にならなくなった。
ヒュペリオンさんに、何を教えれば良いかは聞いている。
エスカちゃんは才能こそさほど優れていないが、とにかく徹底的に反復練習をするので、上達そのものは早い。
ただ悲しいかな、錬金術は才能の学問だ。
エスカちゃんが到達できるだろう地点も、既にわたしには見えてしまっていた。
今日は相応に難しい調合の理論を教える。
メモを頷きながら熱心に取っていたエスカちゃんだけれど。
やがて聞いてくる。
「フィリス先生」
「はい、何ですか」
「この理論だと、本来は交わらない二つを強引に混ぜるんですよね。 ものの意思は反発しないんですか?」
「そのための中和剤です」
教師の時は、目下が相手でも敬語で接するように。
そう言われているから、そうしている。
エスカちゃんはしばらく小首をかしげていたが。他にも幾つか鋭い質問をしてくる。だがわたしは、その全てを丁寧に捌ききった。
納得してくれるかは分からない。
だが、いずれにしても頷きながらエスカちゃんはメモを取り。
そして、言われた通りに調合を実施。
わたしの指示に逆らうようなことも無く。
変なアレンジを勝手に入れるようなことも無く。結果として、ごくごく当たり前に、調合は成功した。
これでいい。
わたしは頷いて、更に品質を上げる方法について説明し。今日の授業を切り上げる。
多分後二年くらい頑張れば、エスカちゃんは公認錬金術師試験に臨むことが出来る筈だ。
公認錬金術師試験は、話によるとわたしが試験に受かってから、八度実施され、合計で三人しか合格者が出ていないらしい。
わたし達が受けた試験から難易度が跳ね上がったらしく。
それ以降、実力に欠ける錬金術師が、金で買った推薦状で受かる。そういった事がまず起きなくなったそうだ。
これに対して、逆恨みした「名門の錬金術師」がライゼンベルグの上層部に圧力を掛けたらしいが。
その「名門」達が、訴状を即座に取り下げたので。
結果として、今も試験は極めて難しいままだ。
裏で何が起きたかは知っている。ソフィー先生が動いたのである。更に、現在ライゼンベルグで人員の整理作業をしているパメラさんという深淵の者関係者も、相当な暗躍をしたらしい。
結果、闇に訴状は葬られ。
そして理由が分からないままの死を遂げた数人が、墓に入る事になった。
ソフィー先生のやり方はわたし以上に強引だが。
イルちゃんから聞いている、推薦状を金で買おうとした「名門の錬金術師」などの実態を見る限り。
出血を伴う改革はどうしても必要だろう。
わたしとしては、そう考えざるを得ない。
授業も終わって、アトリエに引き上げると、軽く食事にする。必要な食事量はどんどん減っている。
お姉ちゃんが心配しているが。
しかしながら、食べても無駄になるだけなので、仕方が無い。
食事が終わるとわたしは。
そのまま、依頼があった街へと、扉をくぐり。異界を介して向かう。お姉ちゃんとツヴァイちゃんには、事前に内容を話してある。
二人は、それでもついてきた。
異界には、ずらりと扉が並んでいる回廊がある。
ソフィー先生が作ったものだ。
世界の彼方此方につながっていて。
中には極めて危険な場所につながっているため、時間を止めて封印を掛けている扉まであると言う。
その一つを開けて、出ると。
既に満面の笑みのティアナちゃんと。数名の屈強な戦士達が待っていた。
今日は彼女たちとの合同作戦だ。
頷くと、無言で歩き出す。
丘を越えて見下ろすと。
茶色い大地と城壁に囲まれた、大きな街が見えた。
この世界でも珍しい基幹都市の一つ。
万を越える人間が住まう都市だ。
アダレットに属しているこの都市には、今大きな問題が発生している。水源が強力なネームドに制圧されたのだ。
下級のドラゴン並みの実力を誇るそのネームドは、陸魚の最大級の個体で。イサナシウスと言う。
此奴が居座ったため基幹都市は危機に陥っている。
安定した水源は、此奴が自分の巣に改造したため、都市へは汚染された水しか入らなくなり。
何よりも呼応するように、多数の獣が集結し。
基幹都市の自警団と錬金術師、更にアダレットの騎士団による攻撃を、二度にわたって撃退していた。
アダレットの首都とは距離が遠すぎることもあり。ソフィー先生の同志だったという精鋭騎士を含めた主力部隊は派遣できない。
それでわたしに声が掛かった、と言う事だ。
扉を開けて、懐かしい顔が姿を見せる。
パイモンさんだった。
どうやら、深淵の者に勧誘され。今年に入ってから参加したらしい。
アンチエイジングを駆使して、かなり若返ってはいるが。
パイモンさんに間違いなかった。
「おお、フィリス。 久しぶりよな」
「パイモンさんも。 かなり若返りましたね」
「そなたは……話通りかなり変わったな」
「はい」
お姉ちゃんが悲しそうにするので、その話はすぐに切り上げる。
テーブルを拡げて、作戦会議を実施。
ぶっちゃけ雑魚はティアナちゃんだけでもどうにもなる程度だが、それでも危険は可能な限り減らす。
作戦で水源を可能な限り傷つけないためにも。
全面攻撃で一瞬にして敵を片付け。
なおかつ広域破壊を行うような道具や。汚染を引き起こす道具も使用は出来ない。
時間停止はわたしも出来るようになったから。
それを使って、一気に勝負を付ける。
空飛ぶ荷車を使って、上空から水源を確認。
水源を堰き止めたイサナシウスが、悠々と横たわっていて。
その周囲には、多数のキメラビーストの姿も見える。
それも上位種ばかりだ。
なるほど、これでは基幹都市の保有戦力でもどうにもできないだろう。イサナシウスも非常に巨大で、ドラゴン並みというのも頷ける。
一通り敵の配置を見た後。
作戦開始。
お姉ちゃんと手をつないで、時間を停止。
悠々とイサナシウスの側に歩み寄ると。
イサナシウスの側面にゆっくり時間を掛けて穴を開ける。
強靱な肌をもつイサナシウスだが。今お姉ちゃんが使っているナイフはハルモニウム製だ。それをも凌ぐ。
そしてしっかり穴を開けた後。
イサナシウスの体内に、オリフラムを詰め込み。
そして開けた穴を硬化剤で塞ぐ。
戻ってから、時間停止を解除。
突如の激痛にイサナシウスが跳び上がるのを確認してから、わたしは起爆ワードを唱えた。
体内から吹き飛ばしたイサナシウスの頭が、真っ二つに爆ぜ割れ。
文字通り噴水のように鮮血をばらまきながら横倒しになる。
パニックに陥った周囲にいる獣たちに、ティアナちゃんがもう接敵。容赦なく首狩りを開始。
逃れてきたものを、他の戦士達が片付け。
街に向かうものを、パイモンさんが雷神の石で片っ端から処理する。
すぐに基幹都市の方でも騒ぎになったようだが。
戦いはすぐに終わった。
ティアナちゃんの所に行くと、時間を停止。首を嬉々として集めるティアナちゃん。
まだわたしは、ソフィー先生と違って、触っていないと時間停止を解除できないし。時間の巻き戻しや加速も出来ない。
だから多少煩わしいが。
騒ぎが大きくなるような作業に関しては。こうして時間を止めて行わなければならなかった。
イサナシウスの見上げるような巨体も。
ティアナちゃんが軽々と切り分ける。
生前だったら兎も角、死んでしまった今となっては。強力な魔力も失われ、切り刻むのも難しくは無い。
部品ごとに異界に運び込み。
そして殺した獣もあらかた運び終えてから、時間停止を解除。
ティアナちゃんはその凄まじい剣腕だけではなく、腕力も凄まじく。巨大な肉塊を何の苦も無く運んでいた。
後は、異界で仕留めた得物を捌き。
一部を報酬として受け取る。
イサナシウスの深核は非常に品質が高く。これを貰えるだけでも今回参戦した意味は大いにあった。
代わりに、深淵の者の幹部。毒薔薇さんが、数名の部下を連れて此方に来る。
一礼してすれ違う。
彼女はこれから先ほどの基幹都市に出向き、後始末をするのだ。
今回の事件が大きくなったのは、戦力があからさまに足りていない基幹都市の自警団。
そして立場に胡座を掻いて自己練磨を怠った錬金術師のせいだ。
ゆえにこれらを鍛え直す。
かなり過激な手段を採るかも知れないが。
わたしにそれを止める気は無かった。
そして、イルちゃんも来る。
これから水源を調査し、よりよい方向にするべくプランを練るのだ。
護衛としてアリスさん。そして、その「同族」。
今はもう正体が分かっているから、みんな同じ姿をしていても驚かないが。いわゆる「ホムンクルス」達がぞろぞろと、イルちゃんに従っていた。
なお流石にまだわたしもイルちゃんもホムンクルスを作る技術はない。「作り方が分かる」と「作れる」の間には大きな差があるのだ。
そもこのホムンクルス達、ソフィー先生が収集した「性能が高い人間」のデータをかき集めて作っているらしく。
それぞれ優れているのは当たり前らしい。
生命に対する冒涜のような気もするけれど。それはそれだ。
「戦闘お疲れ様。 何か問題はあったかしら?」
「ううん。 ただ、この処理が終わったら、基幹都市を見に行くつもりだけれど。 城壁とか、遠目に見ただけでもガタが来ている場所がかなりあるようだったからね」
「そう。 いずれにしても、ちょっと根本的な荒療治が必要かしら」
「……」
わたしは破壊担当。
イルちゃんは創造担当。
とはいっても、イルちゃんは非常に厳しい目で物を見る。現実的な方法を策定し、効率的な創造のために、わたしに非常に過激な破壊を依頼してくることもある。
一度戦利品を整理した後。
わたしはお姉ちゃんとツヴァイちゃんだけをつれて、基幹都市に出向く。
もう夕方になっていたが関係は無い。
基幹都市は騒然としていたが。
わたし達三人は、その喧噪の中をすり抜けるようにして。何ら問題なく歩きながら、調査をしていった。
わたしは周囲の声を聞きながら、インフラの問題点を洗い出す。
お姉ちゃんは優れた観察眼を利用して、明らかに問題となっている人間を割り出す。
ツヴァイちゃんは数字管理。
現状の時間や行き交う人間の数、街に出ているお店や、その繁盛の具合などを確認する。
三人でまとまって歩くのは。
流石に暗殺者にまとまって攻撃を受けた場合、対応出来ない可能性があるからだ。
前に長老に暗殺者を雇われてから。
わたしはこの辺りの事に関しては、過敏なほど準備を怠らないように動くようになっていた。
街を歩いてみるとやはり、だ。
街の中には水路があるのだが、モラルが腐っているのが、ゴミが投げ込まれている。
この水は各地の井戸につながっていて、濾過装置がついているとは言え、人々の口に入るのだ。
下水は垂れ流し状態。
最終的にはその垂れ流しが海に流れ込むのを、この街の錬金術師は理解出来ているのだろうか。
街の中には賊がかなり入り込んでいる。
既に匪賊らしいのも数人確認。
匪賊が入り込んでいると言う事は。
警備が弛んでいるか、匪賊と連んでいる者がいるか。恐らくは、その両方だろう。
城壁も、昔はドラゴンのブレスに耐えられるほどの強力なものだったようだが。現在は劣化が激しく。あのイサナシウスに突貫されていたら、多分粉砕されていただろう。
異界に戻った後、情報をまとめる。
お姉ちゃんは素早く、目についた賊や不審人物の顔のラフスケッチを書き起こす。
ツヴァイちゃんは様々なデータを、さっとゼッテルにまとめてくれた。
わたし自身は、問題のあるインフラと、改善に掛かる予算をまとめ上げ。
そして、一度戻ってきた毒薔薇さんに手渡す。
予算額を見て、毒薔薇さんは真顔になり。そして二度見したが。
わたしは首を横に振った。
「最高率化してこの価格です。 下水に関しては、一度全部破壊した方が早いくらいだと思います」
「ちょっと、ちょっと待ってくださいね。 この金額は、流石にアルファ商会と連携しても、すぐには出せないわ」
「それだけあの基幹都市が、前の錬金術師の偉業におんぶに抱っこだったと言う事です」
いっそ、わたしが今から城壁を全部壊してこようか。
そう言うと、毒薔薇さんも流石に引く。
わたしは今、半分以上本気だったのだが。いっそ乗り気になって欲しかった。
「今、イルメリアが新しい都市計画を立てて戻ってくるでしょう。 彼女ともよく相談して、わたしがどう動くべきか話しあっておいてください」
「……分かりました。 いずれにしても、腰を入れて動かなければならないようですね」
公式の場だからイルちゃんを呼び捨てにする。それはルールとして守る。
だが一方で、毒薔薇さんが頭を抱えているが。そんなのはわたしの知った事か。
そもそもこの人、アダレットを取り仕切っていたはずだ。基幹都市がこんな有様になっているのに、気づけていなかったのか。
今回のイサナシウス襲来で顕在化したとしても。
相手はたかがイサナシウスだ。
ドラゴンでは無いし、邪神でもない。
弱めのドラゴンよりは強いかも知れないが、「精強で知られる騎士団」を抱えているなら、それくらいは撃退してくれなければ困る。
一度アトリエに戻り、軽く体を綺麗にしてから眠る。
深淵の者から次にどうするかを言い出してくるまで、調合に専念する事にする。
やるべき事はいくらでもあるし。
慈悲心など掛けてやる謂われは無い。
この世界の未来が詰んでいる以上。
わたしはどれだけ過激な手段でも採らなければならないし。それには痛みも伴うのが当たり前だ。
勿論痛みは、多くの人々にも負担して貰う。
なぜなら、この世界を詰ませているのは人間で。
あのパルミラでさえ回避できない滅びを招くのも人間なのだから。責任を取って貰うのは、ある意味で無くても当然の話である。
一眠りして起きると、深淵の者から使いが来た。
どうやらイルちゃんが出した都市の再建計画で、わたしが算出した予算額を遙かに超えるものが提出されたらしい。
これからアルファ商会の幹部も交えて会議を行うと言うことで。
すぐに出て欲しいということだった。
ソフィー先生が動くべきでは無いかと思ったのだが。
今、ソフィー先生は強力な邪神と絶賛戦闘中、なおかつ後始末の準備中だそうで。
此方には来られないそうだ。
ため息をつくと、ツヴァイちゃんだけに同行を頼む。お姉ちゃんは流石に会議にまでは出なくても良いだろう。
異界に入り、かなり長い通路を歩いて会議が行われる空間に出向くと、世界を裏側から動かしている錚々たる面子が揃っていた。
この間面識をもった、アルファ商会の長、アルファさんもいる。
古参の幹部で、片目は義眼。片腕は義手である。
目の前で匪賊に家族を生きたまま食い殺され、自身も目と腕を食われたらしく。その怒りを忘れないようにするために、敢えて義眼と義手で生活しているという。深淵の者の技術力なら、目も腕も再生可能だという話なのに。
感情が薄いホムにも、こんな人もいるのだ。
イルちゃんは既に来ていて。
わたしが席に着くと、街再建のための計画書が出される。
見ると、わたしが算出した金額より、桁が一つ多い。
なるほど、これは毒薔薇さんが青ざめるわけだ。
咳払いするイルちゃん。
「相変わらず再建の見積もりが甘いのよ。 彼処まで腐っていると、再建には年単位の時間と、これくらいの予算が必要なの」
「そう、で、わたしは何を壊せば良い?」
目を細めたわたしに。
腕組みしたままイルちゃんは言う。
「そうね、計画に従って城壁を端から全部作り直しね。 更に街の水路も作り直す必要があるわ。 あんたが使っているあのポンプを使って、ゴミを入れられない高所に水路を作り直しましょうか」
「いいねそれ。 水源の方は……面白い事考えるね」
「いっそのこと水源も街に取り込むのが良いと思ってね。 何より緑化していないから、獣に好きなようにされるのよ」
イルちゃんが顎をしゃくると。
姿を見せたのは、オスカーさんだった。
久しぶりだ。
オスカーさんは軽く黙礼すると、席に着く。そして、既に状況は見てきた、と会議の参加者に言う。
「おいらでもあれは手間が掛かるな。 ライゼンベルグの周辺よりも大変かもしれない」
「ならば更に予算が必要ね」
「はあ。 アダレットにも負担して貰うとしても、これはアルファ商会の収益が、一年分くらい消し飛ぶのでは無いかしら」
「蓄えはあるのですが、ちょっと無視出来ない赤字になるのです。 かといって、この規模の基幹都市は、常に「世界」に狙われているのです」
アルファさんが言う。
この「世界」というのは、世界の管理者であるパルミラの末端、つまりドラゴンや邪神の事だ。
世界の人間を常に増えすぎず減りすぎないように動く。
それがドラゴンと邪神なのである。
故にドラゴンは世界に常に一定数が存在しているし。
邪神は殺しても、その力は世界に補充され。更には長時間を経ると、何らかの形で蘇る。
「悪いけれど、私やフィリスはこの街に貼り付いて仕事は出来ないわ。 何しろ近々「三人目」と「四人目」を育てるための例のプロジェクトが始まるんでしょう」
「はあ、仕方が無いわね。 ごめんなさい、アルファさん。 借りを作るわ」
「世界のためであれば仕方が無いのです」
深淵の者には、多くの錬金術師も所属している。
城壁の破壊、それに周辺の目立った獣の鏖殺はわたしがティアナちゃんと組んで行う事。更には、街の中核になる錬金術炉の作成と、シールド発生装置の作成はイルちゃんが行う事で予算を圧縮する事を決めるが。
わたしとイルちゃんが出来るのは其処までだ。
何しろ、さっき議題にも出たように。この世界を改革しうる錬金術師。
ソフィー先生は「双子」と呼んでいるから、多分双子なのだろうが。
それがそろそろ錬金術師として動けるようになる。
それにあわせて、超巨大プロジェクトが動き出す。
更には、最強と噂される邪神、雷神ファルギオルが近々動き出すと聞いている。
遙か昔に倒されたファルギオルが蘇り、そしてこの世界に災いをもたらすのだ。
これへの対処がかなり大変らしく。
わたしもイルちゃんも、近々アダレット王都に出向き、其処での作業に注力することになるだろう。
会議が終わると、すぐに全員がそれぞれ動き出す。
わたしは基幹都市に出向くと。
時を止めた後、一気に老朽化した城壁をつるはしで粉砕。今のわたしに掛かれば、鉱物は基本的に何でもつるはしで粉砕できる。
更に、お姉ちゃんを呼び。
深淵の者から手練れを三十人ほど借りて。
ティアナちゃんと手分けして、片っ端から基幹都市の周辺にいる獣の命を刈り取り始めた。
獣はこの世界では、荒野に幾らでも湧く。人間の数を抑制するため。そして人間の食糧としても、必要だからだ。
水源周辺を完全緑化するためには、基幹都市の自警団の手に負えない獣は全て処理しておく必要がある。
毒薔薇さんがこの基幹都市の自警団を鍛え直すまで、獣は待ってくれない。
だからわたしの手で、処理する必要があるのだ。
水源近くのは、イサナシウス処理の時にあらかた片付けたが、案の定インフラが劣化している都市周辺は、強力な獣の巣窟になっていて。片っ端から処理しなければならず。今のわたし達でも一週間以上作業には時間が掛かった。
同時にイルちゃんが炉を持ち込み。
シールド発生装置の取り付けも始める。
時間停止も駆使して、錬金術の作業を圧縮したのか、それとも在庫を放出したのかも知れない。
更に少し余裕があったので、水源近くの地盤に手を入れて、緑化作業をやりやすいようにしておく。
わたしが手を入れ終えた頃。
オスカーさんが、大量の苗をもって、様子を見に来た。
「お、気が利くな。 ん、おいらが見た感じ大丈夫そうだ」
「水源は都市に丸ごと組み込みます。 それを配慮しての緑化作業をお願いします」
「ああ、会議で言っていた奴だろう。 分かっているさ」
そういえば、オスカーさんは体重が非常に上下しやすいと聞いているけれど。
少しまた太り始めている。
ただ、その気になればすぐ痩せられるのだろうし、気にする事もないか。
一礼すると、その場を離れる。
わたしとイルちゃんが豪腕を振るった後は。
この街の人達が、支援を受けながら再建を行う番だ。
再建の作業に関しては、毒薔薇さんが監視してくれるし。予算についても、アルファさんが直接見てくれる。
世界に幾つもない基幹都市を失う訳にはいかない。
この都市は、如何に腐っていたとしても。死守しなければならないのだ。
ティアナちゃんが来る。
籠を背負っていて、其処からは血の臭いがしていた。
獣のものだけではなかった。
どうせ混乱するのに乗じて、匪賊が動く。
分かりきっていたので、匪賊と分かっているものを、先に狩って貰ったのだ。
「狩ってきたよー」
「待ってね」
首を取り出すと。
記憶を映像化して引っ張り出す。
いつもながら、おぞましすぎる残虐な行為が映し出されるが。それによって、匪賊と通じているのが誰か分かった。
記憶を固定し。その映像をいつでも出せるようにして。ティアナちゃんに映像を閉じ込めた水晶を渡す。
勿論、「追加の」狩りのためだ。
この基幹都市は、匪賊と癒着するほど腐っている。匪賊は見敵必殺が基本。そして匪賊と癒着した商人や役人にも消えて貰う。
当たり前の話だ。
憐憫を掛ける必要などない。人間を食った人間が、人間社会でやっていける訳が無いのだし。
何よりも、そんな獣と化した人間と癒着して利益を貪るような輩は、社会に存在していてはいけないのだ。
だから滅ぼす。
場合によってはわたしがやるが、今回はティアナちゃんがやる方が早い。
嬉々として飛んでいったティアナちゃんは、多分今晩中にターゲットを狩りつくしてしまうだろう。
そしてわたしの所に、戦利品を見せに来るに違いない。
お姉ちゃんが戻ってくる。
獣を処理した後、一つ噂を街で流して貰ったのだ。
「鏖殺」が来たと。
これで仮に匪賊が街にまだ潜伏していたとしても、震えあがってすっ飛んで逃げていく。関係者も同じだ。
もはや匪賊にとって鏖殺とは絶望の同義語。
そしてティアナちゃんは、噂が流れて慌てて逃げようとする獲物を、逃がしなどしないだろう。
文字通りの皆殺し。
それでいい。
ただでさえ、皆が協力しなければ生きていけないこの世界。獣と化して好きかってしたいなどとほざく輩を。
わたしは許さない。
ぎゅっとツヴァイちゃんの手を握る。
次の仕事まで少し時間はあるが。わたしに、心の安らぎが訪れる日は、もう二度と来ないだろう。
匪賊達には、精々最後の夜を楽しんで貰うとする。
既に夜も更けているのだ。わたしは、アトリエに戻るべく、きびすを返していた。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい