暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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フィリスは色々な人やものに助けられ、街道として機能していない街道を何とか抜けて、次の街に向かう事を目指します。

しかし其処で求められるのは、錬金術師の力。

あまりにも世界は過酷で、隣街も例外ではなかったのです。


知らない街への到達
序、全てを失った男


何もかもを一夜で失った。

 

ヒト族の男性レヴィ=ベルガーは、まだ若いのに、挫折を味わった経験がある。というよりも、理不尽に全てを奪われた、というのが正しい。

 

裕福な家に生まれた。

 

過不足無く育った。

 

善良な両親と兄姉達。

 

大きな街で、安泰に生きられる。その筈だった。

 

だが、その街を。

 

突如としてドラゴンが襲った。

 

それも、生半可な奴では無い。街にいた公認錬金術師でも刃が立たず。自衛のために備えていた戦士達も皆殺しにされた。

 

後で知った事だが、ここ数十年では滅多に、他に数例しかない悲劇だった。

 

ともかく、何もかもを失い。

 

街を逃げるしか無かった。

 

これが五歳の時の事。

 

成人した今でも鮮烈に覚えている。

 

本来なら、幼いときの記憶は忘れてしまうものらしいのだが。

 

それでも、忘れられるわけがない。

 

突然現れた理不尽の権化。

 

焼き尽くされる全て。

 

兄姉も両親も。

 

全てドラゴンの手に掛かった。目の前で踏みつぶされ、食い千切られ、そして焼き払われた。

 

皆殺しにされたのだ。

 

財産も全て失った。ドラゴンは宝石にも金にも興味を見せず、全てを破壊し尽くしていった。

 

からくも屋敷から一人逃れ、何もかもを無くしたレヴィは、難民となって彷徨い。そして隣の町で、孤児院に受け入れられた。

 

其処は。今まで暮らしていた天国のような場所と違って。

 

地獄だった。

 

周囲は全て敵。

 

孤児院の中には、孤児を奴隷として売買しているような場所がある。最近はどこもそういった孤児院はなくなっているらしいし。近年は特に減っているようだが。この孤児院は巧妙なやり口で周囲の目を避け。悪事に手を染めている連中だった。

 

レヴィは周囲の子供達の様子を確認し。

 

そして逃げる事を決めた。

 

やがて脱出には成功したが。またしても、レヴィは何もかもを失った。役人に全てを話したが。話も聞いて貰えなかった。だが、戻ったところで殺されるのは目に見えていた。

 

おかしな話だが。その孤児院は、後で院長が不審死を遂げたと聞かされている。

 

ともあれ、街に傭兵団がたまたま来ていたので。

 

頭を下げて入れて貰った。

 

子供でも出来る事はある。傭兵団は荒くれの集まりだが、故に皆の生活が雑になりやすい。

 

まずは下働きから始め。それから剣術を覚えた。

 

やがて、レヴィは。過去の栄光を夢見るようになった。

 

ほんの幼いときまで、確かに身を包んでいた豊かな生活。それを取り戻したいと、願うようになった。

 

剣術の才能はあった。

 

傭兵団でも見る間に頭角を現し、大人相手に一本取る事もあった。やがてそれが当たり前になり、腕利きとして注目されていった。

 

しかし、レヴィの感覚は独特で、誰も周囲は理解してくれなかった。変人と誰にも呼ばれた。下手に目立つと欠点を馬鹿にされることも多い。だが反発すれば集団で叩かれる。レヴィはまた孤独になった。生きていけるようにはなったが。それも、死と隣り合わせの毎日だった。

 

請われては匪賊を斬り。

 

仕事のまま猛獣と戦い。

 

強力な敵を前に、無能な味方を後ろに、ゴミのように仲間が死んでいく中。

 

傭兵団は、ドラゴンの襲撃を受けた。またドラゴンに襲われたのだ。理由はよく分からないが、縄張りに入ったとか。相手の機嫌が悪かったとか。そんな理由だったのかも知れない。

 

ドラゴンには、普通の人間は何をしても勝てない。その話は聞いていた。剣の腕は上がったが。それでも勝てる気などとてもしなかった。

 

撤退命令がすぐに出たが、それは全滅を避けるだけの結果に終わった。

 

いずれにしても、傭兵団は滅茶苦茶に蹂躙され。

 

二度目の居場所を、またしてもレヴィは失う事になった。からくも生き延びるだけで精一杯だった。

 

だが、今回は。

 

あまり喪失感はなかった。

 

才覚があり、明らかに剣術が出来るレヴィに対して、周囲の冷淡な態度。

 

これは絶対に忘れる事が出来ない。

 

言動が滑稽だ。

 

孤児院から逃げてきたらしい。

 

そう言って嗤う連中の顔を。

 

絶対にレヴィは許すことが出来ないだろう。

 

もう傭兵団に入ろうという気にはなれなかった。最低限の生活を続ける金だけは手元に残っていたので、それだけは幸いだった。

 

やがて、レヴィは遺跡に入っては、古代の遺物を探す事を始めた。一人でいる方が、むしろ楽だと気付いたのは、その時だった。古い時代の遺物は、幼い頃に周囲にあった豊かさを思い出させてくれる。

 

それだけで、レヴィは。

 

むしろとても幸せな気分になる事が出来た。

 

傭兵団で下働きをしていたから。

 

何でも生活関連は出来た。

 

むしろ、料理に関しては、一時期傭兵団の荒くれ達に全てやらされていたくらいで。

 

生半可な本職には負けない自信だってある。

 

各地をフラフラしている内に。

 

勝てる相手と勝てない相手を見分ける術も身につけられるようになった。

 

遺跡を見て、此処は大丈夫か、だめかも。

 

中にヤバイネームドがいるかも。

 

何となく分かるようになった。

 

そんな頃だった。

 

彼奴が現れたのは。

 

レヴィの前に姿を見せたのは、赤い体の魔族。あからさまに、纏っている魔力の量が、その辺で見かける魔族とは違っていた。

 

イフリータと名乗ったその魔族は。

 

レヴィに言う。

 

もしも世界を恨むのなら。

 

変える事の手伝いが出来ると。

 

ただ惰性で生きているのなら。

 

退屈を紛らわせる手段があると。

 

興味を持ったレヴィは。

 

イフリータについていくことにした。

 

 

 

そこはレヴィがまったく知らない場所だった。異次元というか異空間というか。星空の上を歩いているかのようだ。

 

不思議と暗くはなく。

 

逆に明るすぎもない。

 

周囲は真っ暗な空間なのに。

 

どうしてか足下も見える。

 

人影は殆どいない。たまに、雑談している数人や。忙しそうに走り回っている小さな影を見る。

 

だが此方には興味を示していないようだった。

 

ほどなく、通路のような場所に出る。

 

其処は無数の階段で接続されていて。立体的に編み目のように組み合わさった通路の群れだった。

 

暗い空間の中。

 

明らかに不自然にそれらが浮かんでいる。

 

何か無いかと探しに潜った、滅ぼされた街の錬金術師のアトリエでさえ。

 

此処まで凄まじいものは存在していなかった。

 

だが分かる。

 

これは錬金術の産物だ。

 

錬金術師が異次元の実力を持っている事は知っていた。

 

だが、これほどまでとは。

 

金持ちの生活時代には、或いは何か見たことがあったのかも知れない。

 

しかし、レヴィが覚えているのは、やはり最後の瞬間。

 

全てが終わったときの事だけだ。

 

それを考えてしまうと。

 

今でも視界が真っ赤になる。

 

だから出来るだけ考えないようにして生きてきたし。周囲とずれていると言われるようになってからは、そういうものだとも思って、周りが嗤うのなら好きにさせるようにしてきた。

 

そうしないと生きていけなかったからだ。

 

その反動として、何に対しても無感動になった。

 

だから今も。

 

不思議な空間をイフリータについて歩きながら、凄いなあとそれだけ思っていた。

 

「遺跡漁りのレヴィと呼ばれているそうだな。 お前の事は調べさせて貰った」

 

「我が名が知られているというのは光栄だ。 この星空の迷宮に俺を招き入れたのも、それが故なのか」

 

「面白いしゃべり方をするとは聞いていたが……傭兵の間を渡り歩いていた割りには貴族のようだな」

 

レヴィは貴族ではなかったが。裕福な生活をしていた。

 

だから、そう言われると嬉しかった。

 

「ふっ、そう褒めるな。 我が暗き波動が疼く」

 

「ふむ、よく分からん」

 

幾つかある階段の一つを降りると。

 

其処が少し広い場所になっていた。

 

其処でしばらく、色々な事をした。

 

まず何かの道具を、ホムが持ってくる。こんな広い場所で、ホムが護衛も連れずに歩いているのは珍しい。

 

つまり此処は、何かの巨大施設の一部と言う事だ。

 

ラスティンの首都ライゼンベルグでさえ人口は十万。

 

アダレットも同じ程度だと聞いている。

 

これは、広さは流石にそれらに及ばないかも知れないが。

 

規模で言うと、ひょっとすると近いかも知れない。

 

一体何処の組織だろう。

 

そう無感動に考えている内に。

 

何やら様々な道具を使って、レヴィの体を調べ始める。直接触られることはなく。ホムが道具をかざして光を当てたりして。

 

それで何やら計測しているようだった。

 

「戦闘力評価、総合61。 B判定です」

 

「ふむ、噂通りの腕前のようだな。 流石に傭兵団の壊滅から生き延び、一人で遺跡を探っているだけの事はある」

 

「何のことだ。 我が深淵の嗜好であれば、余人に理解及ばぬものだというだけだが」

 

「深淵という言葉はあまり口にしない方が良い」

 

不意に。

 

イフリータが真顔になったので。

 

むしろレヴィの方が驚いた。

 

魔族が真顔になると、ヒト族のそれとはちょっと違う。そしてイフリータの実力は、レヴィでもこれは勝てないなと一瞬で分かるほどのものだ。渋々ながらも、頷くしかなかった。

 

「すまないな。 俺は深淵というものの真実を知る立場にいる。 それは本当に恐ろしいものなのだ。 今でも正気を保っていられるのが不思議な程にな。 そして滑稽な事に、我が所属する組織もそれに深い関わりを持っているのさ」

 

「ふむ……そうか。 では我が漆黒の嗜好と呼び変えるとしよう」

 

「何でも良い。 ステータスとしては充分だ。 我らが深淵の者にてお前を雇い入れたいが、構わぬか」

 

「!」

 

まさか。

 

此奴らが、そうなのか。

 

レヴィも流石にたじろぐ。

 

深淵の者。

 

傭兵の噂に聞いたことがあった。

 

やれ大型化した匪賊の組織を手当たり次第に抹殺しているだの。それと癒着している連中も人知れず抹殺しているだの。

 

邪神を人知れず滅ぼしただの。

 

ドラゴンを駆除しているだのという噂がある組織があると。

 

暴れ狂う邪神が出ると、二大国でもどうにも出来ないのに、いつの間にか消滅している。それを実施したのはこの組織で、数百年も前から動いているのだと。

 

そういえば、アダレットも愚かな王が妙に良いタイミングで死んだり。

 

圧政の引き金になりそうな官僚が突然死したりして。

 

随分と長続きしている。

 

無能な錬金術師が政治的駆け引きで回していたライゼンベルグも、いつの間にか錬金術師の質を上げる方針に転換し。今では少なくとも、公認錬金術師の実力は底上げされている。

 

裏に手を引いている組織があるという噂があるのだが。

 

これほどの規模であるならば、納得も出来る。震えが来るのを、何とか抑えるので必死になる。

 

レヴィも散々修羅場をくぐってきたのだ。

 

どれほどヤバイ場所に連れてこられたのかは理解出来る。

 

「や、雇うといっても、所詮俺は……」

 

「お前は今の時点ではただの遺跡の盗掘屋だ。 相応に目利きは出来るようだが、戦士としては一流にわずかに届かない程度。 そしていずれこのまま生きていれば、何処かの遺跡でかなわない相手に出くわして死ぬだろうな。 ある程度は危険を察知できるようだが、本当に危険なネームドは更にその上を行く」

 

「……」

 

返す言葉もない。

 

その通りだ。

 

実際、いままでは運が良かっただけ。遺跡になっている場所にはネームドが住み着く場合も多い。

 

ネームドの強い奴になってくると、弱めのドラゴンくらいの力がある奴もいる、と聞いている。そして性格も巧妙で悪辣だ。

 

どういうわけか、遺跡の深部や滅びた街の地下などに、ドラゴンが住み着くことは滅多にないらしいが。

 

その代わり、邪神が出る事がある、という噂もある。

 

いずれにしても、このままの生活を続けていれば。

 

勝てない、しかも撤退できない相手との遭遇は時間の問題だ。

 

そして遭遇してしまえば。

 

終わりだ。

 

今までは幸運だったが。それとも別れることになるだろう。

 

「別に汚れ仕事をしろと言うつもりは無い。 お前は経歴を見る限り、傭兵で人を斬ったことはあるようだが、それ以外で無意味に殺戮を繰り返すような者でも無い。 ごく善良で、生きるために剣をとり、ただ刹那的に遺跡に潜っているだけの普通の人間だ。 ねじが外れている訳でも無いし、その言動もずれていることを馬鹿にされている内に、開き直って身につけた、そんなところではないのか?」

 

「そ、それは」

 

「貴族か富裕層の出身である事は確定のようだな。 流石に出生までは追えなかったが、やはりか」

 

「……」

 

見透かされている。

 

この魔族。

 

実力だけではなく、ただ者では無い。これは、永く生きているが故の経験なのか。

 

レヴィは心臓を鷲づかみにされるような恐怖を感じたが、相手は戦おうとは思っていない。むしろ優しい言葉だけ掛けてきている。それだけでも、結構恐怖があるのだ。もし相手が戦う意思を持っていたら、どうなっていたことか。

 

「護衛を頼みたい」

 

「護衛……?」

 

「今、見習いの錬金術師が旅をしている。 この鍵はある遺跡の宝箱のものだが、破損している。 修復を頼んだ後、興味を持ったと言って接触。 相手が一人前になり、必要がなくなるまで護衛しろ。 報酬金は前払いでこれだけ渡す。 相手が一人前になったら、同額を渡す」

 

いきなり。

 

どっさりと、金貨を渡された。

 

目を剥く。

 

こんな金額。

 

それこそ、中規模以上の傭兵団が、ネームドでも相手にする時に、渡されるような金額である。

 

桁外れの組織の人間を相手にしているのだと。

 

レヴィも改めて悟らされる。

 

映像が出た。

 

魔術に寄るものだ。

 

背が低く、肌が白い。背も低く、弱々しいヒト族の女の子の姿が映った。あからさまに旅慣れていない様子である。

 

「護衛対象はこの娘だ。 名はフィリス=ミストルート」

 

「そなたらほどの圧倒的存在が護衛を依頼すると言う事は、この者は絆結びし関係者か」

 

「違う。 ただ、世界を変えうる存在だ」

 

「な……」

 

錬金術師の実力は知っているつもりだが。

 

こんな子供が、か。

 

俯く。

 

相手は同じヒト族。

 

こうも変わるのか。

 

錬金術が使えるか使えないかで。

 

世界に影響を及ぼせるほどの存在になれるというのか。

 

ふっと、イフリータが笑う。

 

それは嘲笑うのでは無く。哀しみを抱えているレヴィを気遣うような笑みだった。

 

「錬金術師と言っても万能ではない。 事実俺たちの主君は、500年も掛けてやっと親友との和解を果たすことが出来た。 世界にどれだけ大きな影響力を持つと言っても、所詮は人間なのだ」

 

「な、何の話だ……」

 

「余計な事を余計な相手に喋った場合には死んで貰うが、それ以外の事は特に何も行動を掣肘はせん」

 

さらりと恐ろしい事を言われ。

 

そして鍵を渡された。

 

気付くと。

 

いつの間にか、草原に出ていた。

 

それまでの記憶が曖昧だが。

 

イフリータに言われた事はしっかり覚えていたし。金も持っていた。

 

いずれにしても、はっきりしているのは。

 

裏切ったら殺される。それも確実に、ということだ。

 

本物の深淵の者が相手だったら。それこそ邪神さえ倒すような存在である。二大国でさえ、総力を挙げて戦う相手である邪神をだ。

 

それに狙われて、生き残れる訳がない。

 

ともかく、フィリスという娘を探すことからだ。

 

嘆息すると。

 

レヴィは歩き始める。

 

よく分からないが、こんな何処かも分からない場所に飛ばされたと言う事は。その娘は近くにいるのだろう。

 

憂鬱ではあるが。

 

決して不愉快ではなかった。世界を良い方向に変えられるのなら。それは本望だ。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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