暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、炎暴虐

城壁の上に上がって、レヴィさんに言われるまま見る。

 

向こうに丘が拡がっている。

 

わたしには、危険な影は見えないし感じ取れないが。

 

しかしながら鉱物達が教えてくれる。

 

何かいる。

 

レヴィさんが言うには、丘の影に、ウォルフと呼ばれる獣が十頭ほど潜んでいるという。今、人間の集落が混乱しているのを見て、強襲を仕掛け。あわよくば、子供や老人をさらっていくつもりなのだろう。

 

勿論さらわれたら。

 

助かる事などあり得ない。

 

匪賊も動き始めているらしく。

 

猛獣だけにはかまけていられないそうだ。

 

「可能な限り迅速に排除する」

 

此方に来てくれた戦士達のリーダーをしている、魔族のアモンさんが言う。わたしも同意だ。

 

匪賊の恐ろしさは何度も聞かされている。

 

街を狙っているのだとしたら。

 

迅速に獣を駆除し。

 

対策を練らなければならないだろう。

 

まずは地図。

 

お姉ちゃんが言うと、頷いたアモンさんが、地図を出してくる。

 

アモンさんはまだ壮年の魔族で、いわゆる「盛り」である。魔力も腕力も相当にみなぎっているようだが。残念ながら、今は昼。魔族の力は半減してしまう。

 

それでも生半可なヒト族や獣人族では刃が立たないほど強いが。

 

それでも出来れば、この人は夜に戦いたかっただろう。

 

「この地点に発破を仕掛け。 誘いこんで一気に撃破しましょう」

 

「問題はどうするか、だが」

 

「起爆はフィリスちゃんがするわ。 誘いこむのは私が」

 

「いや、俺も出る」

 

アモンさんが立ち上がると、レヴィさんも頷いて立ち上がった。

 

他の戦士達は弓を構える。

 

取りこぼしをアウトレンジから仕留めるためだ。

 

まず、わたしがレヴィさんの護衛を受けたまま。

 

発破を埋めに行く。

 

途中、レヴィさんに聞かれた。

 

「怖くは無いのか、錬金術の手を持つ者よ」

 

「えっ? あの、フィリスと呼んでくれて構わないですよ」

 

「ふはははは、謙虚なことだ。 それではフィリスよ。 恐れはないのか」

 

「怖いに決まってます」

 

それはそうだ。

 

でも、わたしは決めた。

 

あのどん詰まりのエルトナをどうにかすると。

 

ソフィー先生がある程度どうにかしてくれるとは思う。

 

でも、エルトナのことは。

 

エルトナ出身のわたしが、最終的にはどうにかしなければならないのだ。

 

鉱山から出る事さえできない生活なんて。

 

まともじゃないに決まっている。

 

そんな生活は。

 

終わらせなければならない。

 

そして緑が溢れる世界で、暮らせるようにしなければならない。

 

理不尽に満ちた世界を。

 

そうではない世界にしなければならないのだ。

 

ならば戦う。

 

怖いけれど。

 

戦わなければならない。

 

地面を確認。

 

多少湿気っているけれど、このくらいなら大丈夫だ。周囲からは視線を感じる。レヴィさんが剣に手を掛けたまま周囲を睥睨している。普段のよく分からない言葉は発しない。実戦をいつでも出来る状態にしている、と言う事だ。

 

後退。

 

ハンドサインが出たので、頷いて下がる。

 

発破は全て埋めた。

 

そして、同時に、お姉ちゃんとアモンさんが出る。

 

二人はわたしとすれ違いに、翼を拡げて飛んでいるアモンさんと一緒に、丘の向こうへと突撃する。

 

二人とも早い。

 

わたしが城壁に辿り着くのとほぼ同時に。

 

多分アモンさんがぶっ放した攻撃魔術が、爆裂。

 

敵が凄まじい怒りの声を上げるのが聞こえた。

 

戦いが始まる。

 

ギャンと、鋭い声が上がる。

 

唸りが聞こえる。

 

戦いは多勢に無勢。

 

声を聞く限り、本当に十体で済むのか。

 

とにかく、お姉ちゃんが起爆しろと言ったら。起爆するように指示は出ている。お姉ちゃんは身体強化の魔術が使えるので、想像以上に速く動けるのだ。

 

程なく、戦いの様子が見えてくる。

 

四つ足の大きな獣が一体。

 

吹っ飛ばされて。空中で爆散した。

 

敵の群れをいなしながら。

 

アモンさんとお姉ちゃんが下がってくる。既に二段階ある起爆ワードの一段階目は唱え済み。

 

二段階目を唱えれば。

 

即時起爆が出来る。

 

わたしは待つ。

 

丘を越えて、二人がこっちに来る。

 

どっと殺到してくる獣。

 

やはり十どころじゃない。もっといる。だけれども、二人は冷静に、戦いを続行していた。

 

だが遠目にも分かる。

 

傷だらけだ。

 

「想定より大群だ……」

 

「かまわん、まとめて処理出来る好機だ」

 

周囲の戦士達がいうが。

 

わたしはお姉ちゃん達の方に集中していた。

 

ハンドサインはまだか。

 

「匪賊だ!」

 

声が上がる。

 

どうやら此方を伺っているらしい。

 

まずい。

 

でも、今は。お姉ちゃんに集中。信頼して、機会を窺うしかない。

 

匪賊はまだかなり遠く。

 

此方の様子を窺っているだけのようだが。

 

それでも此方が苦戦しているとみたら、すぐにでも街に押しかけてくるだろう。そうなれば総力戦だ。

 

まだか。

 

無数の獣をいなしながら、下がってくるお姉ちゃんとアモンさん。

 

アモンさんは防御の魔術を展開して、獣の突進をいなしているが、それも限界。魔術の防壁が彼方此方ばりばり裂けているのが分かる。

 

唇を噛む。

 

もう少し、もう少しの筈だ。

 

信じるのも、祈るのも。

 

神様じゃない。

 

お姉ちゃんだ。そして、一緒に戦っているアモンさんだ。

 

ふと、気付く。

 

ハンドサインが出た。

 

わたしは起爆ワードを唱える。

 

同時に、お姉ちゃんが最大加速。アモンさんが、横っ飛びに伏せつつ、斜めに新しく壁を展開。お姉ちゃんもその影に隠れた。

 

起爆。

 

爆裂した五つの発破が、キノコ雲を作り出す。

 

そういうものが出来るとは聞いていたが。

 

本物が出来るのははじめて見た。

 

お姉ちゃん達は。

 

そう思うと同時に、熱風が叩き付けられる。

 

吹っ飛ばされそうになる所を、レヴィさんが手を掴んで支えてくれた。

 

しばしして。

 

その場には、クレーターが出来。

 

周囲には、獣の残骸が散らばっていた。

 

そして、ギリギリだが。

 

お姉ちゃんとアモンさんは、耐え抜いていた。

 

勝ちだ。

 

呼吸を整えながら、見る。

 

後は俺たちの仕事だとばかりに、戦士達が生き残った獣に襲いかかり、圧倒していく。その様子を見て、隙無しと判断したか、匪賊達は撤退していった。レヴィさんも、掃討戦に参加。

 

戦う様子ははじめて見たが、剣の鋭さがもの凄いし、身の軽さも。

 

お姉ちゃんと互角に戦えるくらいの実力かもしれない。

 

ほどなく、獣の残党は一掃。

 

だけれども、敵も抵抗も想定外に凄まじく、けが人はかなり多い。

 

お姉ちゃんが回復魔術で応急処置を始めるけれど。

 

すぐにわたしも行って、取っておいた回復薬を使う。

 

「フィリスちゃん、それは」

 

「リア姉、また造るだけだよ。 みんな、これ使ってください!」

 

「おう、錬金術の薬か! ありがたい!」

 

実際、今回の被災で。

 

わたしの錬金術師の薬は活躍したのだ。

 

皆、躊躇無く使ってくれた。

 

そして、傷が消えていく。

 

まだわたしの薬では、体力を完全回復するまでには至らないけれど。それでも、殆どの軽傷はなおったようだった。重傷者も出ていない。手指を食い千切られたような人は出なかった。

 

それにしても、問題は匪賊だ。

 

少しだけ見たが、確かに完全に野獣化した人間達。

 

そして知恵を持ち。

 

人間のやり方を知り尽くしているだけ、タチが悪い。

 

匪賊への対処は。

 

見敵必殺が基本。

 

つまり見つけ次第殺さなければならない。

 

匪賊になって、特に人間を喰った場合。殆ど戻ってくる事は出来ないのだという。

 

相手は人間では無い。

 

元人間なのだ。

 

そう考えて。

 

歯を食いしばって、殺し尽くすしかないのだ。

 

とにかく、獣の方は処理が終わった。

 

少なくとも組織的にメッヘンを伺っていた群れは処理出来た。

 

どうしてあんなに大きくて怖い獣が、たくさん荒野に存在できているのかはよく分からないけれど。

 

あの獣たちが街に乱入して。

 

抵抗できない子供や老人を食い散らかす。

 

そういう悲劇は、避ける事が出来たとみて良いだろう。

 

獣の残骸を、戦士達が回収してくる。

 

残骸としか呼べないものの中からでも、素材は取れるようで。

 

その場で肉や皮を剥いだり。

 

牙を剥がしたりしていた。

 

その中で、肉は即座に燻製にして、保存が利くようにし。

 

毛皮の中で、比較的無事なものを、わたしに分けてくれた。

 

ラルフさんも、錬金術師が何を欲しがるかは、分かっている様子である。

 

「あの発破がなければ、もっと多くの被害が出ていただろう。 一番価値がありそうなのがこれだ。 受け取ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言うのは此方の方だ。 ディオン先生だけでは手が足りなかった。 あんたが来てくれていて、本当に良かったよ」

 

「そんな、わたしなんて」

 

肩に手を置かれる。

 

お姉ちゃんだった。

 

こういうときは、素直に礼を受けるのが、むしろ礼儀だと言う。

 

それならば。

 

此方も礼をして、毛皮を受け取る。

 

長老の方も、少しお金を出してくれるという。

 

充分に、発破の素材はあるし。

 

時間さえあれば、物資の補給は出来るだろう。

 

いずれにしても、間近の脅威は去ったが。

 

それでもまだ安全なわけではない。

 

匪賊も今は引いたが。

 

また此方を狙って来るかも知れない。

 

まだ、油断は出来ない。

 

アトリエに入ると、どっと疲れが出たので、ベッドに直行。

 

後はお姉ちゃんが見張りなどをしてくれると言ってくれたけれど。殆ど耳に入らなかった。

 

起きたら、まずはお薬と発破を調合して。

 

それにフラムを調合して。

 

後は、手が足りなさそうな所を手伝って。

 

ふと気付く。

 

公認錬金術師は。

 

毎日もっともっと大変な事をしているのでは無いのか。

 

ソフィー先生は余裕の様子だったけれど。

 

アレは本人が桁外れの実力者だったからであって。

 

わたしでは、こんな毎日を捌く事なんて、とてもできないのではないのか。

 

不安が不意に押し寄せてきて。

 

泣きそうになる。

 

それでも、疲れの方が勝っていたので。

 

わたしはいつのまにか。

 

眠りに落ちていた。

 

 

 

目が覚める。

 

体中重い。

 

お姉ちゃんが料理を作ってくれていたので、一緒に食べる。仕留めた獣の肉を調理したものだけれど。

 

レヴィさんはアトリエから出ているらしく。

 

お姉ちゃんの味だった。

 

「リア姉、今回のお仕事終わったら、レヴィさん雇えないかな」

 

「お金はある程度貰ったし、そろそろ手数は欲しいと思っていたものね。 フィリスちゃんは、あの人が気に入ったの?」

 

「気に入った? ううん、そういうのじゃなくて、誠実に仕事はしてくれるから、護衛としては助かるかなって」

 

「ふうん……」

 

お姉ちゃんは少し考え込んでいたが。

 

頷いてくれた。

 

どうやら、意見は一致したらしい。

 

お姉ちゃんはエルトナを出てから、どうもわたしの事をまず第一に考えて、それ以外の事を全て後回しにする傾向がある。

 

確かにわたしはまだ半人前だけれど。

 

それでももう子供じゃない。

 

もう少し、尊重して欲しい。

 

今の考えだって、多分わたしのためになるかどうかだけで判断していたはずで。

 

それはちょっと悲しい。

 

わたしだってお姉ちゃんの事は好きだ。

 

でも、それとこれとは。

 

別の問題に思うのだ。

 

「ごちそうさま。 美味しかったよ」

 

「その笑顔が見られるだけで嬉しいわ」

 

「うん……」

 

ちょっと怖い。

 

少し度が過ぎていると思う事も時々ある。

 

でも、大事なお姉ちゃんだ。

 

それになんだろう。

 

何か、とても大事な事を、見落としている気がする。

 

何だろう。

 

思い出せない。

 

とにかく、顔を洗った後、外に出る。

 

外はだいぶ落ち着いていたけれど。

 

まだまだこの街の状態は、一段落したとは言えない。お薬の類はもう必要ないだろう。だが、壊れたものが多すぎる。

 

ラルフさんが早速此方に来た。口調が丁寧になっている。私を尊敬してくれた、と言う事なのだろう。嬉しいが、ちょっと恥ずかしい。

 

「フィリスどの、休憩は充分か」

 

「はい、今起きた所ですが……」

 

「石材が足りなくてな。 これから近くの山にまで取りに行こうと思っている」

 

「アトリエに少しありますが、全然足りない、ですか」

 

今保持している量を話すと。

 

首を横に振られた。

 

足りない、と言う事だ。

 

それはそうだろう。

 

小さいとは言え都市なのだ。

 

荷車が何台か来る。

 

わたしも、アトリエから荷車を引っ張り出した。

 

「この荷車を戦士達で護衛して、近場の岩場まで行き、其処で石材を掘り出す。 加工は街に戻ってからだが、途中で匪賊の襲撃が予想される」

 

「!」

 

「故に、フィリスどのに来ていただきたい」

 

「わかりました。 ただ、今すぐは駄目です。 お薬と爆弾を補充するので、少し待ってください」

 

ラルフさんも頷いてくれる。

 

わたしも魔術は使える。

 

だけれど、現時点でフラムの火力を上回る攻撃魔術を使う事は出来ない。

 

もっと腕が上がれば、今作れるフラムやクラフトの火力を上回る事は出来るかも知れないけれど。

 

今は残念ながら。

 

まだまだ無理だ。

 

すぐにアトリエにとんぼ返りして。

 

お姉ちゃんに手伝って貰って、お薬と爆弾を作る。

 

爆弾は少し造り足すだけで良いだろう。発破は今の時点で必要ないから、フラムを少々、位で良いはずだ。

 

問題はお薬で。

 

先の獣掃討戦で、殆ど全て使い切ってしまった。

 

自分だけではなく、今回来てくれる戦士数人の分も、あわせて作っておかなければならない。

 

匪賊がどれくらいの数いるかは分からないけれど。

 

わたしだって。

 

元とは言え、人間を殺せるか分からない。

 

もし匪賊との戦いになったら。

 

わたしは支援しかできない可能性もある。

 

レヴィさんがアトリエに来る。

 

手伝ってくれるらしい。

 

そういえば、ディオンさんは何をしているのだろう。手をかざして見ると、街のインフラの最重要部分である、風車を直しているらしかった。風車というのがよく分からないのだけれど。

 

アトリエの中からも見られるのは便利だ。

 

ともかく、集中してお薬を造り。

 

爆弾も必要分は作った。

 

力仕事はレヴィさんに手伝って貰い。

 

お姉ちゃんには休んでいて貰う。

 

手伝うとお姉ちゃんはいったのだけれど。

 

どうせロクに寝ていないのは目に見えている。

 

だから、これからのためにも。

 

休んで欲しいのだ。

 

そう説得すると、少し悩んだ後、お姉ちゃんは休んでくれた。

 

奥の部屋に消えるお姉ちゃんを見送った後。

 

レヴィさんは言う。

 

「まさに鋭き茨よ。 しかしながら、少し眠れる姫を強く抱きしめすぎるきらいがあるな」

 

「え、ええと、過保護って事ですか?」

 

「ふはははは、そうとも言う」

 

「そうですね……時々愛が重いって感じます」

 

お薬を数えて、品質を確認。

 

ここに来てから、たくさん作ったからか。

 

驚くほど技量が伸びていた。

 

更に爆弾も作る。

 

此処からは特に注意して、集中して作業をし。

 

事故は起こさずに、やり遂げることが出来た。

 

さて、後は。

 

休んで貰っていたお姉ちゃんを起こして、外に。

 

そして、まだ日が高いこと。

 

往復しても、夜にはならない事を確認してから。

 

合計五台の荷車を護衛する八人の戦士の名前と顔を覚え。

 

そして一緒にメッヘンを出た。

 

街道などない。

 

がらがらと、五台の荷車の車輪が音を立てる。

 

その中で、わたしが作った荷車が一番大きかったので、真ん中に置く。

 

他の人達は外側に出て。

 

アモンさんが空を飛びながら、先頭を。

 

最後尾にレヴィさんがついた。

 

わたしは荷車を引く。

 

側にお姉ちゃんがついているのは。

 

わたしが狙われた場合に対応するため。

 

荷車を中心に、陣形を組んでいるが。

 

これを魚鱗陣というそうだ。

 

本当はもっと多くの人数で、互いをカバーしながら組む陣形らしいのだけれど。今回は仕方が無い。

 

黙々と歩き。

 

少し影が長くなった頃だろうか。

 

岩場に到着する。

 

確かにかなりたくさん、崩しがいがある岩がある。

 

これなら、たくさん石材を取れるだろう。

 

「見張りをお願いします! リア姉、手伝って」

 

「分かったわ」

 

「またつるはし1丁でやるのか?」

 

「鉱石が教えてくれるんです。 どこを崩せば、割れるかって」

 

ラルフさんに答えるが。

 

いずれにしても、不思議なものでも見るような目をされた。

 

アモンさんがわたしの上に浮かび上がると。

 

崖の上からの奇襲を警戒。

 

更に他の戦士達は、周囲全てを警戒し。不意打ちを避けた。

 

誰も一言も発しない。

 

メッヘンの街が、如何に匪賊の脅威にさらされているのかが、よく分かる。それだけ恐ろしい相手なのだ。

 

わたしは黙々とつるはしを振るい。

 

石材を崩す。

 

綺麗に割れる岩。

 

ある程度のサイズにしたら声を掛けて、戦士に荷車へと積み込み直して貰う。石材だから流石に重い。荷車も、ぎっしりと、苦しそうな音を立てた。

 

もう二つ三つか。

 

大きめに石材を切り取って。

 

現地で使えるようにまた切り分ければ良い。

 

再びつるはしを振るい。

 

また石材を切り出す。

 

更にそれを二つに割り。

 

荷車に乗せた。

 

今度はあまり無理がない音がしたので、ほっとする。

 

もう少し石材を切り出して。

 

そして、荷車はいっぱいになった。

 

「終わりました!」

 

「早いな!」

 

「見てください、これくらいあれば充分ですか?」

 

「これを、この短時間に!?」

 

驚かれるが、恐縮してしまう。

 

わたしは鉱物の声が聞こえるし。

 

鉱山の街で育ったのだ。

 

そういう地金があるから出来る事。

 

他の事は、周りの誰にも及ばない。それを説明すると。だとしても、と。ラルフさんは驚いていた。

 

「助かった。 すぐに街に戻ろう。 兎に角あらゆる物資が足りない。 水もまだ完全に確保できているとは言い難い。 街の守りも、手が足りない」

 

「分かりました」

 

すぐに岩場を離れる。

 

思ったより時間が余ったと言う事だが。

 

また魚鱗陣を組んで、隊列のまま街に戻る。

 

ただ、今度は最前列をレヴィさんが。

 

最後尾にアモンさんがついたが。

 

体が大きいアモンさんが、匪賊に襲撃された場合、最初の一撃を受け止める、という訳なのだと。

 

今更ながら気付いた。

 

確かに今までは前から襲われる可能性が高かったし。

 

これからは背後から追撃される可能性が高い。

 

更に言えば、石材をたくさん抱えているのだ。

 

此方の動きは鈍る。

 

匪賊としても、襲う好機だろう。

 

だが、どうしてかは分からないが。

 

結局街まで、匪賊は出なかった。

 

ほっと胸をなで下ろすが。

 

お姉ちゃんが、ものすごい厳しい顔で、後ろの方を見ていた。何だろうと思ったけれど。

 

わたしには、なにも分からなかった。

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