暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

21 / 150
錬金術師の卵であり、「鉱物の声」を聞き取ることが出来るフィリス。
技術は未熟ですが、あまりにも無力な人々に比べれば出来る事は幾らでもあります。
水害に見舞われている街を守るために。
フィリスは奮闘します。


復興崩落
序、小さな街


石材が足りない。結局前回持ち帰った石材では、まったく足りなかった。

 

だから同規模の輸送隊を組んで、また回収に行く。わたしがさっさとつるはしで石材を砕いて、荷車に乗せる。

 

荷車が無理をしない程度の重さに切り分けて。

 

更に次に来た時、即座に持ち帰れるように、ある程度切り分けておく。

 

途中、猛獣が姿も見せたけれど。

 

流石に十人規模の人間に仕掛ける気にはならないのか。

 

遠くで様子を窺っているに留まった。

 

この間あれだけ駆除したのに。

 

まだたくさんいる。

 

本当に、何を食べて存在しているのだろう。わたしには不思議でならなかった。

 

結局六往復して、それで石材についてはどうにか余剰が出来た。

 

わたしが石材を運んでいる間に、ディオンさんは街の主要なインフラの整備を続けていて。

 

そして風車、というのは直ったようだった。

 

それは何というか、複数の腕を持つ巨人のようだった。お外の事を書いている本に、魔族のレアな種族として、巨人という存在が紹介されていたが。丁度それを思い起こさせるほどである。

 

四枚の長い腕が。

 

風に吹かれて回っている。

 

ディオンさんに、中を見せてもらうと。

 

複雑な仕組みで。

 

臼を廻し。

 

穀物を加工しているようだった。

 

なるほど。

 

臼を回すのは重労働だ。

 

それを全部風の力でやってくれるとなると、それは確かにとても頼もしい。ましてや相当な力を自動的に発揮してくれるのであれば、言う事も無いだろう。

 

感心して何度も頷くわたしに。

 

ディオンさんは情け無さそうに頭を掻いた。

 

「錬金術でこれでもかなり誤魔化しているんだよ。 本当はこんな力はでないし、効率も良くないんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

「情けない事にね。 逆に言うと、錬金術をもっと使いこなせれば、こんな大規模な設備でなくても、同じ事が出来るんだよ。 僕の力不足のせいで、こんな大きな風車で、穀物を挽く位のことしかできないんだ」

 

「それでも、今のわたしよりずっと凄いです!」

 

ありがとうというと。

 

ディオンさんは、また呼ばれて作業に戻っていった。

 

わたしは長老の所に出向く。

 

石材のお礼を言われたけれども。

 

まだまだ仕事があると言う。

 

本当に申し訳ないと頭を下げられる。

 

確かに、街はまだ混乱から立ち直っていない。橋も、やっと何とか直ったところのようだし、もう少し手伝わなければならないだろう。

 

「街の南にある道がふさがってしまっていましてな」

 

長老によると。

 

崖になっている場所があり、其処に多数の岩が流れ込んでしまっているという。

 

この道は、他の街への街道になっていて。

 

勿論危険はあるものの、少し行けば休憩所があるなど、重要な拠点らしい。

 

道をふさいでいる大岩のせいで、行き来が非常に大変な事になってしまっているため。これの復旧をしてほしい、というのだ。

 

頷く。

 

わたしに出来る事はあまり多く無い。

 

お薬などは充分という事なので。

 

これ以上作る必要もない。

 

ならば、まずはその岩をどける所からだろう。

 

護衛数名をつけて貰う。中にはレヴィさんも混じっていた。どうもそもそもレヴィさん自身が食客を気取っていたらしく。街の戦士達から見るとよそ者なので、いっそわたしの護衛に、という流れになっているようだ。

 

いずれレヴィさんを雇えないか交渉して見るつもりだし。

 

わたしとしてはそれで構わないのだが。

 

何しろ不思議なしゃべり方をする人だ。

 

この人も孤立しているのでは無いのだろうかと、少し不安だった。

 

黙々と街の南に向かう。

 

その途中で。

 

妙な話を聞かされた。

 

「偵察に出ていたジェシカが言っていた事本当か?」

 

「本当らしいぞ。 アモンさんが確認してきたって話だ」

 

「何の話ですか?」

 

「ああ、フィリスどの。 近場にいた匪賊のアジトが発見されたらしいのですが……」

 

もう戦士達は、みんなわたしに丁寧に接してくれる。

 

それはとても嬉しいのだが。

 

何だか距離を置かれている気もした。

 

怖れられている。

 

それを感じるのだ。

 

確かに、見習いのわたしでさえ。ラルフさんが言っていたように、並の戦士の十倍は働けている、ように見えるのだろう。わたしには正直な所、どれくらい働けているのかは、よく分からない。

 

でも、それで距離を置かれてしまうと。

 

少し寂しい。

 

何だか自信が無さそうにディオンさんがしているのを見ると。

 

わたしは思ってしまうのだ。

 

ひょっとして、錬金術師と他の人の間には。

 

壁や溝が出来てしまっているのではないのかと。

 

それも、レヴィさんや他の人とは比では無いレベルで、だ。

 

話を戦士が続けてくれる。

 

「匪賊のアジトが、全滅していたそうです」

 

「全滅……えっ!?」

 

「それも争った形跡さえなく。 メッヘンの近くに巣くっていた匪賊は、三十人近くいることが確認されていました。 それが、一方的に皆殺しにされたと言う事です。 抵抗する余地さえなく」

 

「……」

 

青ざめる。

 

それだけの人間が、一瞬で消滅した、と言う事か。

 

お姉ちゃんが詳しく、と話を聞いて。

 

更に細かい状況が分かってくる。

 

匪賊のアジトは、文字通り一瞬で薙ぎ払われたように、何も構造物が痛んでおらず。匪賊のものらしき血の跡だけが残っていたそうだ。

 

宝の類は無事に残されており。

 

そればかりか、アルファ商会の護衛を連れた商人が、匪賊のアジトで回収したということで、街に持ち込んできたことで事態が発覚したらしい。

 

お姉ちゃんが冷静に指摘する。

 

「その様子だと、やったのは獣でもドラゴンでもないわね」

 

「ああ、恐らくは。 もしも奴らだったら、食い残しなり、抵抗の跡なり、逃げようとした跡なりが残るはずだ」

 

「そうなると結論は一つ。 やったのは人間と言う事よ」

 

「まさか……」

 

お姉ちゃんには対等に口を利いている護衛の戦士達だが。

 

流石に今の言葉には青ざめる。

 

そして、そんな事が出来る人間となると。

 

伝説に残るような戦士や、魔王と呼ばれる実力に達した魔族。

 

もしくは錬金術師か。

 

錬金術の装備を纏った戦士。

 

いずれかしかありえない。

 

お姉ちゃんの表情は険しい。

 

ひょっとして、何か知っているのではないのだろうか。

 

いずれにしても、匪賊の襲撃は警戒しなくてもいいが。

 

ただ、ずっと獣に警戒されている。

 

いつ襲われてもおかしくないということもあるからか。

 

皆、誰が言い出すことも無く。

 

雑談は止めた。

 

わたしに戦闘力があまりない事は、周囲の皆が理解してくれていた。だが、それでもなお、わたしは戦士達よりも役に立てている、らしい。だから、皆必死にわたしを守ってくれる。今でも、陣形の中央に置いて、何があっても守る構えだ。

 

そしてそれは、別にわたしを守っているわけではない。

 

小さな自分達の街である。

 

メッヘンを守るためだ。

 

わたしはお薬を作れる。

 

爆弾も作れる。

 

戦略級の事が出来る。

 

だから、守らなければいけない。

 

此処にいる戦士達には、基本的に戦術的な行動しか取ることが出来ないのだ。街の根幹に関わる行動は。

 

数百人がかりで行うか。

 

錬金術師が関わるしか無い。

 

わたしはなし崩しで今関わっているけれど。

 

それでもわたしはしばらくメッヘンにいることを明言しているし。

 

何より成果を上げている。

 

だから皆守ってくれる。

 

利害の一致と言う言葉をお姉ちゃんから習ったが。

 

わたしに対する敬意も。

 

わたしを守ってくれるのも。

 

街の利のため。

 

そういうものだ。

 

わたしも、自分の利のためにメッヘンをどうにかしようとしているのだろうか。

 

そう思うと、何だかやるせない気分になるが。

 

その内慣れるのだろうか。

 

更に嫌な子になった気がして、気分が沈む。

 

やっとあれほど焦がれたお空の下に出られたのに。

 

「止まれっ!」

 

先頭にいた戦士が声を張り上げる。

 

この辺りはまだ水が捌けていないが。

 

それが故だろう。

 

とんでもなく巨大な化け物がそこにいた。

 

わたしも外に出てから、まだ一度しか見ていない。

 

島魚だ。

 

陸上でも活動可能なお魚らしき生物。上位のものになると、角を持っている事もあるらしい。

 

その巨体は生半可なものではなく。

 

わたしなんて、一口でぺろりと平らげてしまいそうだ。

 

「フィリスどの、フラムで威嚇してくだされ。 もしも掛かってくるようならば、総掛かりで仕留めます」

 

「わかりました!」

 

膝が震えるけれど。

 

仕方が無い。

 

此処はそもそも、人が往来する街道だ。今此方が避けても、此処を通ろうとする人が、どんな迷惑を被るか分からない。

 

わたしは両手でフラムを持つと。

 

下手投げで、正確に島魚に放り込む。

 

何だろうとみていた島魚は。

 

至近距離で起きた大爆発に驚き。

 

もの凄い高さまで跳び上がった。

 

跳び上がった高さに、わたしの方が驚いたくらいである。

 

戦士達は慣れたもので、既に剣や槍に手を掛けている。お姉ちゃんも、既に矢を番えていた。

 

島魚はしばらく飛び跳ねていたが、恐らく形勢不利とみたのだろう。

 

ボウ、ボオウと凄い叫び声を上げながら。

 

川の方へと逃げていった。

 

致命傷ではないはずだ。

 

嘆息すると。

 

周囲を確認。

 

他の獣も、いつの間にかいなくなっている。

 

今の爆発を見て、仕掛けるのは危険だと判断したのだろう。

 

それならば良いのだけれど。

 

「急ぎましょう」

 

お姉ちゃんが急かす。

 

わたしも頷くと、急いで皆の後を追った。急ぎ始めると、どうしても旅慣れていないわたしは遅れそうになる。ましてや荷車を引いているのだから当然だ。

 

必死に走って。

 

へろへろになった頃。

 

やっと、目的地が見えてきた。

 

谷だ。

 

しかも、真っ茶色。

 

何だかエルトナを思い出してしまって嫌な場所だ。

 

此処は南の方へ行く際に、通る必要がある場所らしく。基本的には、迂回はできないらしい。

 

理由としては、島魚が出る川のすぐ側を通ったり。

 

ネームドのいる場所を通過しなければならないから、だそうで。

 

この細い道が。

 

メッヘンに対する命綱の一つになっているようである。

 

そして、その谷を塞ぐようにして。

 

わたしの背丈の五倍はありそうな大岩が。

 

谷にすっぽり入り込んでいた。

 

なるほど、これは通れない。

 

岩には縄の跡がついていて。

 

四苦八苦して、此処を無理矢理突破した商人がいたらしいことが分かってくる。見ていると、何だか同情してしまう。

 

ともかく、岩に責任はない。

 

鉱物の声からも。

 

悪意は感じなかった。

 

「お姉ちゃん、登るから手伝って」

 

「分かったわ。 周囲の警戒を!」

 

「承知!」

 

戦士達が散る。

 

わたしは身軽に岩の上に跳んだお姉ちゃんが、ロープを垂らしたので。

 

それに掴まって、岩の上に。

 

上がってみると、下が凄く遠くて怖いけれど。

 

岩を崩す事そのものは難しく無さそうだ。

 

声も聞こえる。

 

「どうするの? 発破を使う?」

 

「ううん、崩す」

 

「凄いわ、流石はフィリスちゃんね」

 

「凄く何てないよ……」

 

お姉ちゃんは褒めてくれるけれど。

 

多分わたしがもっと強かったら。

 

さっきの島魚だって、傷つけずに追い払う事が出来たはずだし。

 

或いはこんなたくさんを連れてこなくても。

 

岩なんて、一人でどうにか出来たはずだ。

 

とにかく周囲に注意を促した後、つるはしを振り上げる。流石にこの大きさの岩だから、簡単にはいかない。メッヘンの城壁に食い込んでいた奴よりも、何倍も、いや下手すると十倍以上は大きい。

 

何度もつるはしを振るう。

 

手応えも重く、手が痺れる。

 

これは、愛用のつるはしを、改良する必要があるかも知れない。

 

靴などは、ソフィー先生がとても使いやすいものを残してくれたので、それを使っているのだけれど。

 

手袋にしても、服にしても。

 

例えば常時防御魔術が掛かっていたり。

 

回復魔術が掛かっていたりするようなものを。

 

錬金術で作れるらしい。

 

基礎を学ぶ過程でそれらは教わった。

 

この岩を崩すのにしても。

 

つるはしも。

 

てぶくろも。

 

改良すれば、更にスムーズに行えるはずだ。

 

何十回目だろうか。

 

つるはしを降り下ろすと、岩に亀裂が走り始める。お姉ちゃんがわたしを抱えて飛び退くと同時に、岩が真っ二つになり。

 

地響きと共に、ずれ込んだ。

 

一旦離れてから、鉱物の声を聞く。

 

そして、今度はちょっと違う場所を、登ってからつるはしで砕く。

 

やがて一部が派手に崩落して、周囲に散らばった。

 

「危ないので、もう少し拡がってください!」

 

「承知した!」

 

戦士達が、周囲の警戒網を拡げる。

 

わたしはお姉ちゃんと一緒に、岩を崩し続け。

 

丸半日を掛けて。

 

ついに、岩が原型を留めなくなる所まで、崩す事に成功した。

 

だが、此処からだ。

 

崩した岩を運び、谷を通れるようにしなければならない。

 

既に夜も遅いので、アトリエを張って、戦士の皆にも入って貰う。レヴィさんが無言で料理を始め。

 

そして、戦士が数人で外に出て、普通のサイズの猪をとってきた。

 

多分皆で食べるくらいの量はあるだろう。

 

伝令として、若い魔族のウコバクさんがメッヘンに飛んでいった。とりあえず岩を崩すのは成功。今夜は此処で一泊してから、明日の朝に戻る、という連絡である。人間の倍も背丈がある魔族だけれど、ウコバクさんはまだわたしとあまり年も変わらない魔族らしくて、背もお姉ちゃんよりちょっと高いだけだった。

 

皆で食事にする。

 

肉は腐りかけの方が美味しいくらいなのだけれど。

 

今回は新鮮なお肉として味わうとする。

 

ただ当然、火は通さないと危ない。

 

猪には、悪い虫が住んでいることが多いらしく。

 

そのまま食べると、悪い虫が体に悪さをする事があるらしい。お姉ちゃんに教えて貰う。

 

しっかり火を通して皆で食事にするが。

 

手がひりひりと痛かった。

 

「フィリスちゃん、手は大丈夫?」

 

「うん。 でも、そろそろ手袋を作るつもり」

 

「手袋だったら、俺たちのを提供しましょうか?」

 

「ありがとうございます。 でも、大丈夫です。 回復魔術が常に掛かるものを作るつもりです」

 

そう説明すると、戦士の一人は驚き。そして感心したようだった。

 

一晩休む。

 

いずれにしても、明日からが本番だ。

 

明日はお日様が昇ったら。

 

すぐに行動を開始しなければならない。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。