暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、貫き通せ

休憩から目を覚ますと。

 

外では戦いの音がした。

 

飛び起きて、慌てて身支度をして。フラムを身につけて、アトリエの外に出る。

 

血の臭いを嗅ぎつけたらしい獣が数匹。

 

メッヘンの戦士達と戦っていた。

 

戦士達が優勢だが。

 

それでも加勢しなければならない。

 

「下がって!」

 

わたしの声に。

 

多少乱れはありつつも、戦士達が道を空ける。

 

そして、わたしがフラムを投げ込む。

 

炸裂する炎の爆弾が、こじ開けた乱戦の隙を抜けようとした狼の顔面至近で爆裂。消し飛ばしていた。

 

戦士の一人が、伸びてきた触手に捕まる。

 

巨大なぷにぷにだ。

 

戦士の名を叫びながら、ラルフさんが躍りかかるが、触手は驚くほどしなやかに動き、剣をかわす。

 

わたしがその間に、

 

クラフトをとりだし、ぷにぷにの口に放り込む。

 

驚くほど静かに。

 

頭が働いていた。

 

ぷにぷにが、内部から爆裂。

 

しかもこのクラフトは。

 

火薬を混ぜるように工夫したもの。

 

クラフトは炸裂して周囲に鉱物の破片などをまき散らして、それによって相手を殺傷する爆弾だが。

 

これに更に火薬を混ぜることにより。

 

飛翔する殺傷物の速度と威力を更に上げているのだ。

 

悲鳴を上げて戦士を離すぷにぷにに。

 

アモンさんが火炎の術を叩き込み。

 

更にお姉ちゃんが、入魂の一矢を叩き込む。

 

崩れ落ちていくぷにぷには無視。

 

敵の頭数を減らす。

 

レヴィさんが残像を造りながら動き、四度の連撃を狼に決めるが。

 

一撃がそれぞれ軽かったのか、そのまま体当たりを浴びる。

 

だが、レヴィさんは踏みとどまる。

 

速度よりも、防御を重視している戦士なのか。

 

受け流して、平然と笑ってみせるレヴィさん。

 

それがきっかけになった。

 

獣たちが逃げ腰になる。

 

だが、アモンさんが叫ぶ。

 

「逃がすな! 今は一匹でも脅威を減らす!」

 

「了っ!」

 

それがこの辺でのかけ声なのだろう。

 

敗走に移った獣を片っ端から斬り伏せ。

 

そして全てが倒される。

 

戦士達も傷だらけだ。

 

わたしは、アトリエに戻ると、薬をかき集めて来た。

 

使うようにと皆に渡すと。

 

お姉ちゃんに手伝って貰って、薬の追加を作り始める。アトリエの中では、まだ負傷者が呻いている。

 

即死は免れたとは言え。

 

出来ればディオンさんの作ったもっと高品質なお薬をあげないと。いつまでもつか分からないし。

 

何より身体能力が低いディオンさんを此処まで連れてくるのは酷だろう。

 

わたしが。

 

やるしかないのだ。

 

お薬の一セットが出来たので、すぐにお姉ちゃんに持っていって貰う。

 

釜を洗う手つきもかなり慣れてきた。

 

蒸留水がいつの間にかかなり減っているので慄然とするが。

 

今は全ての蓄えを放出するつもりでやるしかない。

 

ふと、商人に目が行く。

 

戦いの間、アトリエに避難して貰っていただろう商人だ。

 

ひょっとすると何か良い物資を持っているかも知れない。

 

「すみません、売り物を見せて貰えますか」

 

「薬の類はないのです。 足りなくなるだろう物資、主に食料品を中心に持ってきましたのです」

 

「それでも構いません。 植物などは、お薬の材料として有用です」

 

「それならこれを」

 

商人が、使用人らしい獣人族の子供に促し。

 

子供が出してくる。

 

ざっと並べられたのは、木材類や、或いは細々とした部品。いずれもお薬には使えそうにない。

 

釜の洗浄が終わったので、一旦火を通して水分を飛ばし。

 

次のお薬の作成に掛かる。

 

その間に時間が出来るので。

 

額の汗を拭いながら。

 

見せてもらう。

 

品はどれも駄目だ。

 

いずれもが、これから街を復旧することを想定した物資で。

 

恐らく水害があったことを聞いて。

 

商機と判断して持ち出したものだったのだろう。

 

首を横に振る私を見て。

 

商人は悲しそうに口元を抑えた。

 

「薬も少しはあったのですが、土砂に埋もれてしまったのです」

 

「……仕方が無いです。 わたし、コンテナを見てきます」

 

物資も補給していないのだ。

 

道中物資は回収していたとは言え。

 

どれだけ持つか。

 

ざっと見るが。

 

此処で籠城、なんて事になると。

 

非常に危険だという結論しか出てこない。

 

今だって、狼を中心とした獣の群れが、戦士達だと分かっていながら襲撃を掛けてきていたのである。

 

それだけ此処が危険、と言う事だ。

 

もう一セットお薬を作って。

 

更に毒消しを作る。

 

獣に噛まれた人には、傷口にねじ込んで貰う。

 

そうしないと、病気になる可能性がある。

 

高位の回復魔術が使える人には、病気をある程度治せる人もいるらしいけれど。

 

錬金術師の作る薬の方が確実だ。

 

悔しいけれど、わたしにはまだ作れない。

 

消毒薬や熱冷ましなら作れるのだけれど。

 

病気を治す、となると。

 

途端にハードルが上がるのだ。

 

出来次第、身動きできる人に持っていって貰う。

 

戦士達が動けるようになりしだい。

 

メッヘンに戻る。

 

その後、体勢を立て直して、この道を通れるようにしなければならない。もしも此処を通らない場合、比では無いほど危険な道を行かなければならないという事なのだし。更に言えば、崖の道を崩す判断をしたのはわたしだ。

 

責任は最後まで取らなければならない。

 

「フィリスちゃん!」

 

「リア姉、また襲撃?」

 

「いいえ、どうにか手当は終わったわ」

 

「……そう、良かった」

 

やはり獣に噛まれた人が出ている。

 

重傷者はいないが。

 

できる限り早めにディオンさんに、病気消しの薬を作ってもらわないとまずいだろう。

 

これでは典型的な二次災害だ。

 

外に出て、まずはアトリエをしまう。けが人は中で大人しくしていて貰う。

 

瓦礫に埋まった崖の様子を確認。鉱物の声を聞きながら、瓦礫の上に上がって、崖の上にまで出る。

 

アモンさんに来て貰って、崩れるようなら助けて欲しいと頼む。

 

お姉ちゃんと他の戦士達も、自力で上がって来た。

 

「一旦、可能な限り瓦礫を崩します。 その間、土を掘り返して、瓦礫の上に撒いてください」

 

「谷から丘にするんだな」

 

「はい。 目立つ場所は崩しましたが、まだ崩せそうな場所が何カ所かあるので、それを上手に崩せば……坂に出来ると思います」

 

「心得た」

 

アモンさんが側につく。

 

鉱物の声を聞きながら、わたしはつるはしを振るい始めた。

 

まず、最悪の場合でも、此処を通れるようにしないといけない。谷の入り口と出口には、坂を作り。

 

谷だった場所の上を通れるようにしなくてはならないだろう。

 

「一人見張りをお願いします。 もし商人の隊列が来た場合、事情を説明して引き返して貰ってください。 下に待機している馬と荷物の見張りもお願いします」

 

「俺が上空で見張ります」

 

そう挙手したのはウコバクさんだ。

 

頷くと、わたしは、無心に崖を崩し続ける。

 

崩落した岩が、瓦礫を押し潰す。

 

砕けながら飛び散っていく。

 

ある程度なだらかになったところに、土砂を流し込んでいく。

 

その後は、アモンさんが身体強化の魔術を自分に掛け。

 

何度も踏みつぶすように跳躍し、激しい衝撃を与えた。

 

そうすることで土を踏み固めつつ。

 

崩落がもう起きないようにしているのだ。

 

下で待機している馬にくくりつけて、上がってみて貰う。

 

何とか馬で上がる事が出来る。

 

良かった。一旦これで、崖は超える事が出来る。

 

念のために何度か坂を行き来して貰う。

 

轍が出来る頃には。

 

完全に安定していた。

 

一旦隊列を崖の上に避難させる。

 

此方を伺っているアードラが見えるが。

 

仕掛けてくる様子は無い。

 

魔族を含む護衛がいるからだろう。

 

わたしも泥だらけのなか、必死につるはしを振るって、危なそうな場所をどんどん崩していく。

 

そして、適当に崩したところで手を振り。

 

待機していた戦士達が、土砂を流し込んでいった。

 

だが、とてもではないが。

 

谷を埋めるには至らない。

 

危なそうな場所だけを、そうして潰して行くだけだ。

 

今の時点では悔しいけれど、それだけしかできない。

 

額の汗を拭いながら、わたしはそのまま進み、谷の終わりに出た。此処も瓦礫が崩れ落ちているが。

 

入り口よりも更に崩す必要がありそうだ。

 

アモンさんの背中に乗ると、谷の途中に出る。

 

鉱物の声を聞きながら。

 

崩せそうな場所を確認。

 

発破を使うべきだ。

 

そう判断すると、皆に話す。

 

「発破を使って、一気にこの辺りを平らにします」

 

「前に獣を一掃した奴ですな。 フィリスどの、距離をとった方が良いのでは」

 

「はい。 鉱物の声は聞いていますが、一応念のため、ある程度戻った方が良いでしょう」

 

「分かりました、その間に埋められそうな場所は埋めておきましょう」

 

ラルフさんが指示を出して、何隊かに別れて行動開始。

 

わたしは一旦アトリエに戻ると。

 

皆の様子を見て。

 

けが人が悪化していないか、お姉ちゃんと確認。

 

幸い、目立って悪化している人はいないけれど。

 

それもいつまで保つか。

 

それに、だ。

 

けが人の一人を見たレヴィさんが、眉をひそめる。

 

「少しまずいな」

 

「詳しくお願いします」

 

「傷口を見ろ。 消毒はしたが、やはり毒が入ったのだ」

 

さっき、獣と戦った戦士の一人。

 

傷口が熱を帯びている。

 

傷は治したし。

 

毒消しもねじ込んだ。

 

と言う事は、毒がそれより早く体に回った、と言う事だ。

 

まずい。確かに良くない。

 

ディオンさんの所に連れていかなければならないだろう。

 

頬を叩くと。

 

すぐに発破用のフラムの作成に取りかかる。

 

谷の入り口出口を整備し。

 

せめて後から来た商人が、通れるようにしてからでないと、戻るのはまずい。今の段階ですら、二次災害が起きている。三次災害が発生する事だけは、食い止めなければならないのだ。

 

アモンさんに抱えて飛んでいって貰う事も考えたが。

 

そもそもアトリエの中で安静にして貰っていてこれなのだ。

 

動かすのは好ましい事では無い。

 

「リア姉、手伝って」

 

「任せて」

 

「フィリス。 俺が一走りして、先にメッヘンにこの危急を伝えてこよう。 先に向こうでも薬を作っておけば、谷を崩すのに手間取った所で、漆黒の病魔が猛き戦士の命を脅かすことはあるまい」

 

「……はい、お願いします」

 

レヴィさんの提案も呑む。

 

こんな時くらい、普通に喋ってくれてもいいのだけれども。

 

まあそんな事をグダグダ言っている時間さえ惜しい。

 

釜を洗って、調合を開始。

 

もっと良い薬を作れれば。

 

こんな問題、起きはしなかったのに。

 

外に顔を出すと、レヴィさんにツーマンセルで、一人ついて欲しいとお願い。ラルフさんが頷くと、レヴィさんと一緒にメッヘンに戻っていった。お姉ちゃんに仕込まれた。何か危険な仕事をするときは、ツーマンセルで行う事で、危険を著しく減らす事が出来るのだと。

 

後は、岩を崩すための発破だ。

 

兎に角危ないので、集中して調合する。

 

しばしして。

 

どうにか発破を作り終えた頃には。

 

外は真っ暗になっていた。

 

だが休んでいる暇は無い。

 

「灯りの魔術を使える人は!?」

 

「こんな状況で作業するのかフィリスどの!?」

 

「今はけが人の状況がよくありません! いつこの道を使おうとする人が出るかもわかりません! 最低でも、この道を通れるようにしてから撤退しないと!」

 

「……分かった、だが細心の注意を払ってくれ!」

 

手を上げたのは。

 

ヒト族の一番年老いた戦士だ。

 

鉱物の声を聞いて。

 

崩落が及ぶ範囲の外にまで出て貰う。

 

アモンさんの背中に乗せて貰い。

 

移動して、適宜発破を仕掛けていく。

 

灯りの魔術の効果範囲がかなり広い。

 

相当な熟練者なのだろう。

 

あの人がエルトナにいてくれたらな、と思ってしまうが。

 

駄目だ。

 

わたしが。

 

ああいう人がいなくても。

 

エルトナが大丈夫な状況を、作らなければならないのだ。

 

まだかなり崖がしけっているが。

 

そもそもこのフラムは油紙で包んでいる上、火力が桁外れだ。ちょっと濡れたくらいでは問題なく起爆できる。

 

一箇所目、問題なし。

 

二箇所目に行くが、鉱物に警告を発せられ。アモンさんに避けてと叫ぶ。岩が崩れ落ちてきて、ちょっと遅れれば二人まとめてぺしゃんこだった。

 

「フィリスどのには本当に鉱物の声が聞こえるのだな」

 

「優しくて、いつも助けてくれます」

 

「崩してしまって、心は痛まないのか」

 

「それが、鉱物達は崩されることや、違う場所に行く事を、悲しんだり苦しんだりはしないようなんです」

 

そうかとアモンさんは呟く。

 

分からないから、それで良いと言う事だろう。

 

わたしはそのまま二箇所目に発破を仕込み。

 

そして三箇所目が終わると、引き上げる。

 

更に、周囲に誰もいない事を確認してから。

 

起爆した。

 

ドンと、谷が揺れる。

 

今までで一番激しい崩落が起きる。

 

凄まじい光景で。

 

谷の出口が、砂のお山でも崩すように、崩壊していった。

 

ほどなく、完全崩壊した其処は。

 

ただの坂になっていた。

 

だが。まだ此処は通れない。

 

鉱物の声を聞きながら。

 

まだ危ない箇所がないか、確認。

 

こういう崩れ方をすると。

 

変な空洞が出来る事がある。

 

その場合、空洞に入って崩落に巻き込まれた人が助かる場合もあるけれど。

 

上を踏んだら、落とし穴として作用してしまう場合もある。

 

何カ所か、そういう危険な場所を見つけたので、アモンさんに思いっきり踏んで貰う。小規模崩落が何カ所かで起き。

 

そして、土砂を徹夜でぶっかけて。

 

どうにか、通れる坂にした。

 

わたしもへとへとだが。

 

戦士達も、皆疲れ果てている。

 

だが、もう少しだ。

 

レヴィさんとラルフさんが戻っていて、谷の変わりぶりに目を見張ったが。

 

だが、良い報告をしてくれる。

 

「ふははははは、喜べフィリスよ。 ディオンが病魔を払う薬を既に調合し始めている」

 

「良かった。 後は、戻る、だけです、ね」

 

「もう寝ろ」

 

「……待って、後、馬車を降ろして、それからです」

 

流石にレヴィさんも。

 

フラフラのわたしを見て、直球の一言だけを放ったが。

 

それでも、わたしは最後まで見届けなければならない。

 

遠くでは獣の遠吠えも聞こえている。

 

先に襲ってきた獣の集団は、捌いて格納したが。

 

その血の臭いを嗅ぎつけた可能性が高い。

 

この状態で追撃を受けたら。

 

メッヘンの主力は文字通り壊滅する。

 

急がなければならないのだ。

 

馬を、戦士達が引いて。

 

灯りの魔術を全開にし。

 

どうにかして、坂を下る。

 

馬も怖がっていたが。

 

坂は土砂で固められていたし。

 

何よりアモンさんが先を歩いているので、大丈夫と判断したのだろう。

 

お姉ちゃんに聞かされたが。

 

馬はとにかく憶病な生き物で。

 

知らないものは絶対に踏まないそうだ。

 

だから、まず踏んで歩いて見せる事で。馬を進ませる、というわけである。

 

この試みは上手く行き。

 

ほどなくして、ようやく坂を下りきる。

 

アモンさんには苦労を掛けるが、ウコバクさんを呼んできて貰い、後は撤退。

 

谷の入り口出口には、谷が崩落したばかりなので、夜間通行禁止、注意して進むようにと看板を立てて貰った。

 

後は撤退だ。

 

わたしは馬車の荷台に乗せて貰って、そのまま仮眠を取る。

 

普段だったら怖くて眠れないけれど。

 

今は、ちょっと気を抜くだけで。

 

すぐに落ちてしまう。

 

何度か落ち、起きるのを繰り返す内に。

 

陽が昇ってきて。

 

メッヘンが見えてきた。

 

向こうで居残りの戦士達が手を振っている。ディオンさんもいるようだ。

 

「フィリスちゃん、後は私が状況を説明するから、アトリエを開いてから眠って」

 

「うん……」

 

荷車に併走していたお姉ちゃんに言われて、頭がぼんやりしたまま答える。

 

そして、アトリエを展開して。

 

ベットに転がり込むと。

 

わたしは意識を手放していた。

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