暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、黒い影

鬱蒼と茂る森。

 

それ自体が、この世界には珍しい。

 

此処まで立派な森を作るのには、数十年という時が掛かったはずだと、あたしは判断した。

 

敬意を払わなければならないだろう。

 

例え世界を変えることが出来ていないとしても。

 

森の奥には、泉と大樹を中心に、街がある。

 

かなりの生活水準を実現している様子で。

 

周囲の森にいる獣たちも比較的大人しかった。

 

街に入ると。

 

公認錬金術師である、この街の長老。オレリーが姿を見せる。既に老境に入っているが、彼女はライゼンベルグの公認錬金術師でも、十指に入る実力者だ。ただし、ライゼンベルグの権力争いに嫌気が差して、早めに地方に移り住み。元は不毛の荒野だったこのドナの街周辺を、緑に変えたという実績の持ち主である。

 

世界を変えることは出来なかったが。

 

少なくともドナ周辺は、生物が住みやすい場所へと変えたのだ。

 

数少ない、邪神を葬った錬金術師の一人であるオレリーは。

 

既に全盛期は過ぎているとしても。

 

少なくとも。

 

あたしの到来に気づけるほどの実力は持っていた。

 

「剣呑な気配が近づいてくると思ったら。 まるで全身から血を浴びたようだね、その気配は」

 

「うふふ、お久しぶりです、オレリーさん」

 

「ふん、そうだねソフィー=ノイエンミュラー。 鏖殺のソフィーとまで呼ばれるあんたが直接来るとは、碌な事ではないんだろう?」

 

鏖殺か。

 

そういえば、今でこそティアナに匪賊掃除は任せているが。

 

むかしはあたしが直接やっていた。

 

匪賊という匪賊を殺して周り。

 

あたしが来たと言う噂を聞くだけで、匪賊が逃げ散るようになった。匪賊と連んでいる役人や商人も、夜逃げするようにして、転がるようにして逃げていった。

 

だが、それも今はやっていない。

 

それだと却って効率が悪いと判断。

 

ティアナにその辺の汚れ仕事は任せるようになったからである。

 

今のあたしは。

 

もっぱら世界の裏側から。

 

世界を変えるべく動いている。

 

「あたしが目をつけている子が、近々ここに来ます」

 

「! ほう……あんた程の化け物がかい」

 

「化け物とは酷いですね。 とてもひ弱ですが、将来性豊かな子ですので、是非「可愛がって」あげてください」

 

「はあ、仕方が無いね。 壊れても知らないよ?」

 

この人は、超スパルタで知られる。

 

この人から推薦状を得られた公認錬金術師候補は十人といない。

 

なおあたしが公認錬金術師試験を受けたときは、二十人から推薦状を集めたのだが。その一人がオレリーさんだった。

 

それ以降、この人には色々興味を持って。

 

仕事を依頼したり。

 

緑化についての話を聞きに来たりしている。

 

あたしも知らない技術を幾つか知っていたので。

 

非常に有意義だった。

 

軽く話をした後、足りない物資などがないか聞き。回すように手配すると言うと、鼻をならされる。

 

「正直借りなんか作りたくはないんだがね、仕方が無いね。 これも街の皆のためだ」

 

「良いんですよ謙遜しなくても。 あたしは基本的には、世界をよくする人間の味方ですし」

 

「その一方で匪賊は消毒かい」

 

「そうですが何か?」

 

この人は、どうも世間一般で当たり前になっている、匪賊に対する見敵必殺の掟を好んでいないらしい。

 

とはいっても、この人自身が匪賊を多数倒して来ている歴戦の猛者だ。

 

現役を離れた今も、その勇名は周辺に轟いている。

 

「いきな。 話は分かった。 あんたがそれほどいうんなら、さぞや有望な子なんだろうよ。 徹底的に揉んでやる」

 

「お願いしますね。 ちょっとひ弱すぎて、あたしが撫でると首が折れそうだったので」

 

「……少しは力加減を覚えな」

 

「心しておきます」

 

手を振って、その場を離れる。

 

すぐ近くに待機していた護衛と合流。

 

呆れ果てたようにプラフタが嘆息した。

 

「フィリスの成長速度を最高に保つように、根回しを徹底的にするのは良いのですが、いくら何でも……」

 

「水害の被害があの程度で済んだのはあたしが手を回したからなんだけどなあ」

 

「ゼロにも出来たでしょう」

 

「死者は出してないよ?」

 

プラフタはあたしに色々言いたいことがあるようだが。

 

それでも最後は口を閉じた。

 

さて、次にもまだまだやる事がある。

 

そもそも、今目をつけている錬金術師の卵は一人では無いのだから。

 

もう一人の有望株、イルメリア=フォン=ラインウェバーは、予定通り家を飛び出したことが分かっている。

 

今は別働隊が監視しているが。

 

後は真逆の方向性を持つこの二人が接触するように、適当に誘導してやればいい。

 

人材が欲しい。

 

この世界を変えるための。

 

そのためには何だってする。

 

あたしはくつくつと笑うと。

 

次の目的地に、足を向けた。

 

 

 

(続)




合理主義の怪物となったソフィー=ノイエンミュラー。
彼女は私欲を行動に挟みませんが、同時に一切容赦もしません。
なぜならば、彼女は。

既に深淵の最深部にいるからです。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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