暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
頼りない人ではありますが、フィリスはこういう錬金術師のあり方もあるのだと、好感を持ちます。
序、帰還
谷を丘にする作業を終えて、メッヘンに戻る。既にメッヘンの方も、あらかた修復は終わっていたが、
ここからが大変だそうである。
街の壊れた部分を、いっそのこと全て新しくする。
出来れば城壁は全てつながるようにしたい。
そういう意見が出ていた。
しかしながら、先立つものがないのも事実。
幸い、ラスティンでは、あまり徴税は激しくない。
公認錬金術師がいる街や、戦力が充実している街では役人はいない事が多いが。それとこれとはあまり関係がない。
そもそも徴税が厳しくないのは、首都ライゼンベルグまで、税金を無事に輸送できる保証が無いから、というのが理由らしい。
ライゼンベルグはほぼ各街に自治を任せているのが実情で。
軍などは余程の事が無い限り送る事はなく。
送ったところで無事にたどり着けるかも怪しいそうだ。
更に言えば、武門の国で知られるアダレットも似たような有様らしく。
勇猛で知られる騎士団は、せいぜい匪賊やネームドの駆除に精一杯。
というわけで、二大国と言っても。
どちらも、各地の都市に自治を認め、緩やかに領土に組み込むことくらいしか出来ていないのが実情で。
徴税こそ不安視しなくても良いが。
その代わり支援も期待出来ない。
かといって、メッヘンにはこれと言った特産品もない。
公認錬金術師はいるが、それだけ。
生活には過不足無いし。
水害でのダメージも抑えられるようにはなったらしいが。
それでも、街を綺麗に作り替えるとか。
夢のまた夢、と言う事だ。
アルファ商会も、流石に非現実的だと考えたのか。メッヘンに対する金の貸し付けなどは提案していないらしい。
これらの事情は。
わたしも何故か参加させられた、長老と重役の会議で、聞かされた。
話自体は理解出来たのだけれど。
政治的な話が非常に延々と長々続いたので。
何度も寝落ちしそうになった。
ディオンさんが発言を求められて。
困り果てたように言う。
「なんとかフィリスさんのおかげで生命線とも言える街道の復旧には成功しました。 街の状態も落ち着いたと思います。 しかしながら、この機会に一気に城壁をつなげるのは、現実的ではないです」
「ううむ、金を回せば少しは商人も来るかと思ったのだが……」
「長老、この街は、街道の要所にあるわけではないのです。 もう少し堤防を整備して、農園を拡げて、自給自足を出来ているくらいの状態から、更にもう一歩進んで特産品をたくさん売り出せる、くらいの状況にまで行けば……或いは」
「長期計画にせざるを得ないか」
肩を落とす長老。
確かに、そもそもこの辺りはまだ草原になっている場所がある、くらいしか発展していない。
わたしが来た時点でも、匪賊が街を伺っていたし。
自警団の戦力も充分とは言えない。
街の人口を増やすのも厳しいし。
何よりも、公認錬金術師の力量が足りない。
これはもっとひ弱なわたしが言うのも何だけれど。
本人が認めてしまっている事実だ。
流石にわたしも、これ以上のお手伝いは出来ない。
限られた時間の中。
ライゼンベルグに行かなければならないのだから。
会議が重苦しい雰囲気で終わり。
解散になる。
少し悩んでから。
ディオンさんに声を掛ける。
「あの、すみません」
「ああ、フィリスさん、ごめん。 会議の間、退屈だっただろう。 貴方にまで出て貰う必要はなかったはずなのに、長老がどうしてもって、ね」
「はい。 此方こそ、役に立てるような発言が出来ずにすみません。 その、それでなんですけれど……わたし公認錬金術師試験を受けようと思っているんです」
「!」
ディオンさんは驚いて。
そして、ああと、納得した様子で頷いた。
「そうか、推薦状!」
「はい、何か課題があればやってみたいです。 街のためになる事を、課題にしてくれてもかまいません」
「いや、ごめん。 僕が公認錬金術師で、推薦状を書けることをすっかり忘れてしまっていたよ。 本当にごめん。 こんなにお世話になったのに」
「いえ、お世話に何て」
なんで謝りあっているんだろう。
よく分からないけれど。
とにかく、ディオンさんは、少し考えた後に言う。
「風車はとりあえず直っているから、そうだな。 今回の水害で、堤防の更なる強化が必要だと僕も痛感したんだ。 インフラを整備する前に、川を何とかしないと、せっかく緑化しても地面が駄目にされてしまうかも知れないからね」
「石材をとってくれば良いですか?」
「堤防を作るには、相応の技術がいるんだ。 石を放り込めば出来ると言う訳にはいかなくて……」
一旦アトリエに行き。
この辺りの地図を見せてもらう。
そして、川の図を見せてもらった。
かなりまっすぐにはなっているが。
昔は蛇がのたうち廻ったように、凄まじい流れ方をしていたらしい。
あの谷を見れば分かるけれど。
確かにそれはあるのだろう。
今も曲がっている場所があって。それが案の定、今回の水害の原因になったらしい。被害は最小限に抑えたらしいが。
「此処から此処を、つなげてしまうつもりなんだ」
ディオンさんが、すっと指を地図上に走らせる。
なるほど。わたしなら、鉱物の声を聞きつつ、発破を仕掛ければ、出来るかもしれない。
というか、乗りかかった船だ。それくらいはやっていっても罰は当たらないだろう。
軽く説明をした後。
ディオンさんは本当に申し訳なさそうにいう。
「これだけ色々してくれたフィリスさんだ。 もう無条件で推薦状を書いてしまいたい位なのだけれど、一応推薦状を書くにはルールがあって、公認錬金術師の指定通りに課題をこなす必要があるんだよ。 しかも遡及は不可能なんだ。 本当に申し訳ない。 今まではなし崩しの作業だったから、それもできなくて」
そう言われると恐縮してしまう。
何だか、わたしと同じで。
とても気が弱い人なんだな、と言うことが分かった。
とにかく、護衛とともに現地を見に行く。
確かにかなり無理な蛇行をしている場所で。この間の水害で、大きく河岸もえぐれた跡が残っていた。
なるほど、此処から出た水が、メッヘンに襲いかかったのか。
幸い全面崩壊には至らなかったけれど。
これは確かに、川の流れを整理してしまった方が良いはずだ。
だが、水の中に潜るのは自殺行為。
島魚でさえあんなに恐ろしいのに。
水の中を専門に行動する獣がどれほど恐ろしいか何て、想像もつかない。
「発破を使って崩してしまう予定なんだけれど、できるかい?」
「ちょっとまってくださいね?」
耳を澄ませる。
鉱物達の声を聞く。
発破を仕掛ける場合も、この能力は有効だ。
大体の指標になる。
そうして分かったが。
恐らく逆効果だ。
「……まずいです。 発破を仕掛けると、多分制御不能になります」
「どういうことだい」
「この辺りの地盤はもう死んでいます。 もし発破で無理に爆破したりしたら、前の比では無い鉄砲水がメッヘンを襲います」
どよめきが上がる。
戦士達は、わたしと一緒にインフラの復旧作業をした仲だ。
わたしが鉱物の声を聞き。
つるはしで鉱物をいとも簡単に崩している(ように見える)状況を目にしているのだ。
その言葉には、彼らを動揺させるだけのものがあったのだろう。
お姉ちゃんも険しい顔をしていた。
「地盤が死んでいる、か」
「鉱石達が、水がいっぱい、水がいっぱいと喋っていて、この辺りは地下水だらけです」
「そうなると、発破で一気に、というのは確かに無理そうだね。 何か考えはあるかい?」
「……そうですね」
あるとしたら。
一度水を止める。
現在、蛇行している、一番危ない場所を、掘るなり発破なりでまっすぐにする。
その後、蛇行している部分を埋め立ててしまう。河岸は補強する。
それから水を流す。そんな感じだろうか。
問題は水だ。
現状、この辺りの岩盤はあらかた死んでしまっていて、ちょっと崩しただけで何が起きるか分からない。
下手に触ると大災害だ。
そうなってくると、考えながら動く必要がある。
鉱物の声を聞きながら、地図を受け取り、周囲を歩く。
水にやられていない場所を確認しながら、歩いて行くと。
随分と、大回りになった。
結論は、ほどなく出た。
「ディオンさん、この辺りは地盤が生きています。 死んでいる地盤を取り除いて、それから流れがまっすぐになるように、地盤を追加する……くらいしかわたしには思いつかないです」
「なるほど。 ……分かった、協力して作業をしてみよう。 まず、僕の方で水を吸い出す装置を作ってくるから、その間にフィリスさんの方で、具体的に死んだ地盤の除去作業をどうするか、考えて欲しい」
「分かりました」
半数の護衛と共に、ディオンさんが戻る。
そういえば、メッヘンに来てから十日を過ぎている。
エルトナを出てからそろそろ二十日に迫ろうとしている。
時間は無制限にあるわけではない。
そろそろ、全てを片付けたい。
推薦状を貰って、此処を出るまでに、一月以上は掛けたくないけれど。
かといって、此処の人達が苦しんでいるのは見過ごせない。
メッヘンの人達が困っているのを何とか出来ずに。
エルトナをどうにか出来るはずが無い。
今はソフィー先生が何とかしてくれているけれど。
本来はわたしがどうにかしなければならないのだ。
頬を叩く。
川を確認。
深い上に流れが激しい。
岩を考え無しに砕くと、川が浅くなったり流れていった岩が無事な河岸を直撃したりして。恐らくはとんでもない所から決壊して、雨も降っていないのに水害になるだろう。それは鉱物達が言っている。
そうなると、一旦川の流れと切り離す必要がある。
どの道水を一旦止めなければならないのだ。
方法は例えば、一旦この流れを止めて、支流の方に水を行かせるとか。
しかし、そんな事をするには、余程の巨岩を放り込むしかない。
しばし考えた後。
お姉ちゃんに話す。
「リア姉。 このくらいの岩、近くにないかな」
「そんなもの、どうするの?」
「うん。 ちょっと上流に行くと支流があるでしょ。 一旦そっちに、水を流そうと思って」
「……?」
詳しく説明すると。
見る間にお姉ちゃんは真っ青になり。
逆にレヴィさんは笑い始めた。
「ふはははは、フィリスよ。 そなたは破壊神の如き発想をするのだな!」
「は、破壊神!?」
「ちょっと、うちの可愛いフィリスちゃんを、化け物みたいに言わないで!」
「失敬。 しかしリアーネよ。 フィリスの発想が実に破壊的である事は、決して悪い事ではないとも思うがな」
呆れたように嘆息した後。
お姉ちゃんは、近くに岩を探しに行ってくれる。
咳払いすると。
レヴィさんは聞いてくる。
「それで、その岩を川に放り込むとして、どうやって動かすつもりだ、フィリスよ。 てこの原理をつかうにしても、ものには限度があるぞ」
「溝を掘ります」
「?」
要するに、鉱物と相談しながら。
地面に溝を掘る。
その溝を転がっていけば、直接岩が落ちるようにする。
この辺りの岩は、上流から流れてきたものばかりだからか、丸い。ちょっと削ってやれば、転がるくらいには丸くなるだろう。それはわたしが加工すればいい。
後は溝に押し込んでやれば。
川まで一直線に転がっていく。
地図を見る限り、少し上流に、四つほどに支流に分かれている場所がある。
どの支流も水量には余裕があるようだし、此処が塞がっても大丈夫だろう。下流で複雑に合流しているようだし、いっそのこと此処に水を統合してしまうのも有りかも知れない。
工事が終わったら、岩を発破で爆破。
一気に川を、スムーズな流れにしてしまう。
そうすれば、川が暴れる事態はぐっと減るだろう。
これらを説明すると。
戦士達は顔を見合わせる。
ジェシカと呼ばれている、猫顔の獣人族の女戦士が、ぼやいた。
「錬金術師は凄い事を考えますね」
「えっ!? すみません」
「いえ、責めていません。 発想が何というか桁外れというか……」
ほどなく、お姉ちゃんが戻ってくる。
良い岩が見つかったという。
様子を見に行くと、確かに良い感じだ。
川の幅を計算して、丁度塞ぐくらいのサイズにまで削る事。更に、川までの通路となる溝を掘ることを平行で行う。川の側での作業が特に危険なので、最初は戦士達全員で護衛して貰い、わたしがつるはしを振るう。
溝を掘った後、岩に向けて下がりながら、溝をつなげていく。溝にちょっと水が流れ込んでくるが、それはどうでもいい。
川の中では、大きな。
得体が知れない生き物がわたしを狙っていたが。
多数の戦士が武器を構えて、いつ襲ってきても対抗できるようにしてくれていたので。
結局仕掛けてくる事はなかった。
鉱物が優しく指導してくれたこともあり。
ほどなく溝が岩にまで届く。
後は岩の上に上がって、つるはしを振るう。
かなりつるはしの痛みが激しい。
多分、今回の作業が終わったら、新調しなければならないだろう。
ずっと使って来たけれど。
つるはしに使っている鉱物が、もう限界だよと、優しく教えてくれている。
この街を出てからは、まだどう行くかを決めていないし。
その旅の途中に新調すればいい。
岩の加工が終わる。
後はディオンさんと相談して。
この岩をまず川に放り込み。
支流へと川の流れを振り分けてから。
問題になっている場所を調整すれば良い。
ディオンさんは、一日ほどで出来ると言っていたので。
それを信じて待つ事にする。
休憩を入れ。
周囲を警戒した後。
岩をみんなで押す。
流石に大きな岩だ。ちょっとやそっと押したくらいではびくともしない。護衛の戦士の中には、力が強い獣人族もいるのに。
この間協力して貰った魔族のアモンさんがいれば、少しは楽になりそうなのだけれど。
アモンさんは、今街の方で守りを固めている。
やはり多数の戦士が街を離れていたことで。
かなりの数の獣が街を伺っているという。
組織的には動いていないようだが。
小規模な襲撃はいつあってもおかしくない、ということなので。やはり最強の戦士がはりついている必要がある、と言う事だった。
岩が重心を教えてくれるので。
皆で其処を中心的に押す。
やがて、とんでもない巨岩が。
動いて、溝にはまってくれた。
岩を見上げて、もうちょっと調整する。つるはしがかなり厳しいが、このお仕事が終わるまでもってくれればそれでいい。その後は、インゴットを打ち直して、新しいつるはしを作る。
今回の件で、散々鉱物を爆破したので。
質が良い鉱石がたくさん手に入っている。
インゴットもいいものを作れるはずで。
今使っているものとは、比較にならないほど強力な鋭さを持つつるはしを作る事が出来るだろう。
とりあえず。ちょっと動かして調整、を繰り返し。
安定して岩が動くようにしたところで。
アトリエを展開。
休む事にする。
此処からの作業は、不慮の事態にも備えて、先達であるディオンさんが合流してからだ。
アトリエに戦士達も入って貰い。この間からかなり蓄えが増えた肉を焼いて振る舞う。料理はお姉ちゃんとレヴィさんがやってくれるのだけれど。
何だか二人で張り合って、美味しい料理を作ってくれるので、それだけで充分である。
戦士達もみな、おいしいおいしいと満足してくれているようだった。
わたしは食事を終えると、すぐに地図とにらめっこ。
水量を減らして安全にした後。作業は出来るだけ迅速に行わなければならない。
いっそ、今のうちにつるはしを新調するか。
いや、それには多分数日が掛かる。つるはしがだめになったら、発破を使うしかないだろう。
代わりに、お薬と爆弾を補充しておく。明日は、確実に忙しくなる。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい