暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、堤防

ディオンさんが荷車に積んで持ってきたのは、原理がよく分からない機械だった。錬金術で性能を上げているらしいのだけれど。要するに、水を吸い出して、別の場所に吐き出すらしい。

 

蛇みたいな太い管が二つあって。

 

使い方を説明された。

 

そして現状を説明すると。

 

ディオンさんも頷く。それでやってみよう、というのである。

 

意見が決まったところで、まずは岩を溝に沿って動かす。

 

かなりの重労働になったが、わたしも協力して、一気に川にまで岩を運んでいく。念入りに調整した岩だ。

 

一度転がり始めると、嘘みたいに軽くなって。

 

一気に川にまで滑り込んだ。

 

どん、と凄まじい音がして。

 

川に岩がはまり込む。

 

そして、水が凄まじい勢いで噴き上がる。

 

お姉ちゃんがわたしを抱えて跳躍。

 

岩を放り込むときは気を付けろと、事前に指示が出ていたからか。

 

戦士達も、みな離脱に成功した。

 

ほどなく、状態が落ち着く。

 

川に栓となった岩が入り込んだことで、

 

水は支流へと流れ込む。

 

ウコバクさんが様子を見に行く間に、わたしは水位がみるみる引いていく川の様子を確認。

 

大きめの獣が、かなりの数いるが。水位が減っているのをみて、慌てて下流に避難している様子だ。

 

下流ではまた川が合流する地点があると、知っているのだろう。

 

おさかなもいる。

 

蛇みたいに長いのとか。

 

鋭い牙をもっているのとか。

 

わたしよりおっきいのとか。

 

ぷにぷにもいた。

 

水に適応する種類がいるというのは本当らしい。いずれにしても、かなり大きくて、下手に近づくのは利口とは思えなかった。

 

ウコバクさんが戻ってくる。

 

「支流、問題なし! いずれも要所での水漏れなど起きていません!」

 

「ありがとう、ウコバクさん。 フィリスさん、それでは予定通りに」

 

「はい!」

 

まずは、暴れ川の原因となっている蛇行している地形を、全て崩してしまう。全部まっすぐに流れるようにするのだ。

 

元々地盤は死んでいる。

 

発破を使うまでも無い。

 

水位が減っていることで、川から大型動物の奇襲を受けることもなくなった。わたしはつるはしにもう少し頑張ってと言い聞かせながら振るい、地盤を崩していく。そうすると、水を噴き出しながら、面白いように土砂が崩落していく。

 

此処に人夫を連れてくるわけにもいかない。

 

荷車を使って、土砂を運び出し。

 

更に水も、ディオンさんの装置が吸い出し、下流に流し込んでいく。

 

この装置の威力は流石で。

 

ディオンさんが普段頼りなくても。

 

間違いなく公認錬金術師であることを、わたしに理解させてくれた。

 

「次、崩します!」

 

「よし、全員下がれ!」

 

戦士達も連携して動いてくれる。

 

アモンさんがいればもう少し楽だったのだけれど。その代わり、皆戦士達はわたしを信頼してくれているので、それはとても嬉しい。

 

つるはしで死んでいる地盤を壊し。

 

一気に土砂が川底に流れ込む。

 

お魚さんがかなり巻き込まれるのは心苦しいので。

 

死んでしまったお魚さんは回収して貰い。

 

火を通して、後で食べる事にする。

 

大きめの獣は、距離をとって此方を見ている様子だ。

 

水がこんなに減ってしまっている状況では、仕掛けるのは危ないと判断するだけの知能は持っている、と言う事だろう。

 

最初の蛇行地点を崩し終わる。

 

土砂を運び出すのを、五つの荷車を使って、一気に行う。

 

空を飛べるウコバクさんは、常に周囲を警戒。

 

そして、此処からだ。

 

土砂に、ディオンさんが何かを混ぜている。

 

中和剤と何かを混ぜ合わせたもののようだが。

 

何だろう。

 

聞いてみると、硬化剤だという。

 

「これは砂利を岩のようにまとめる硬化剤なんだ。 蛇行部分を、これで埋めてしまおうと思ってね」

 

「なるほど、堤防の代わりにするんですね」

 

「そういうことだね。 しかも水はまっすぐ流れてくれるから、強化は最小限で構わないはずだ。 仮にこの硬化部分が破れても、水害にはならないだろう」

 

確かに。

 

水は高い所から低いところに流れる。

 

まっすぐ流れる経路があるのに。

 

敢えて横に行こうとする水はいないだろう。

 

くずすのはわたしがやる。

 

固めるのと、水を排除するのはディオンさんにやってもらう。

 

手分けして、次の蛇行部分に行く。

 

せっかくだから、この辺りの水害の要因になりそうな蛇行している川の構造は、今回一気に片付けてしまおう。

 

そういう話で決めているのだ。

 

案の定というか。

 

最初に手がけた場所ほどでは無いけれど。

 

やはり、地盤がかなり脆くなっている。

 

このままでは、第二第三の水害が近々起きていた可能性が高く。ディオンさんがどれだけ頑張っても、いたちごっこになっていただろう。

 

それならば、今のうちに。

 

不安要素を全排除する。

 

つるはしが苦しい、苦しいと言っている。

 

鉱物の声が聞こえるわたしには、それがいやというほど分かる。

 

本当に苦しいけれど。

 

それでも我慢して貰う。

 

「ごめんね。 後で打ち直してあげるからね」

 

「うん? フィリスどの、どうなされた」

 

「はい、つるはしがもうそろそろ駄目になりそうなんです」

 

「……鉱物の声が聞こえる力は疑わないが、そんな事まで聞こえるのか」

 

ラルフさんが驚愕する。

 

勿論わたしが嘘を言っているとは思っていない。

 

今までわたしが見せた実績を、信頼してくれている、と言う事だ。

 

先より少し手強いが。

 

蛇行している川を、一気に崩してしまう。此処は蛇行がかなり長いので、崩すのも間に通路を開けるようにして。蛇行している箇所は埋めてしまう。周囲に土砂はいくらでもあるので、埋めるのは簡単。

 

埋める前に、少なくなった水でぴちぴちしている魚は全部回収してしまう。

 

生きているものは下流に流し。

 

死んでいるものは回収して、焼いて食べられるようにする。

 

一部の戦士は、これら魚の回収と処置に回って貰った。

 

かなりの数の魚だ。

 

これだけあれば、メッヘンの非常食としても、有用だろう。捌いた後煙を通せば、かなり長時間もつのだ。

 

ディオンさんと相談しながら、川の蛇行構造を打開。

 

更に下流へと移動する。

 

一日で三箇所の蛇行構造を潰し。

 

更に翌日に、ディオンさんが補給に戻っている間に二箇所の蛇行構造を潰した。

 

或いは通路を空け。

 

或いは全部崩して、一本のまっすぐな通路にしてしまう。

 

緩やかに曲がっている場所もあるのだが。

 

鉱物の声を聞く限り、実はかなり負担が掛かっていて、将来的に水害を起こしかねない状況になっている場所もあった。

 

それらも全て補強してしまう。

 

ラルフさんがぼやく。

 

「これらは、本来は俺たちだけだったら何年、下手すると何十年も掛かる事業だ。 本当に助かる」

 

「いえ、わたしは……」

 

「分かっている。 だが、あんたは公認錬金術師になれるさ。 このまま頑張ればな」

 

そう言ってくれると、本当に嬉しい。

 

泥だらけになりながら、張り切る。

 

下流の合流地点に到着。

 

この辺りからは、流石に川も流れが安定している。一気に川幅が広くなっているし、何より川の間近に集落がなく、支流だけでかなり太い。

 

メッヘンからも相応に離れてきているし。

 

このくらいで作業は充分だろう。

 

ディオンさんが戻ってきた。

 

硬化剤の材料を持ってきたのだ。

 

アトリエを貸して、硬化剤を作ってもらい。

 

その間に私は、工事の予定について固めてしまう。お姉ちゃんと相談し、鉱物の声を聞きながら。氾濫の原因になりそうな場所を徹底的に洗い出し。更に今のうちに、埋めるべき所は全て埋めてしまう。

 

地図が変わる。

 

今まで、曲がりくねる蛇のようだった川が。

 

それこそ伸ばした紐のように。

 

わずか数日だ。

 

錬金術師が二人いるだけで。

 

これほどの破壊力を発揮する。

 

それが現実なのだと。

 

わたしは、自分が成し遂げた事だというのに。

 

むしろ、その圧倒的な凄まじい破壊力に。

 

驚きと、わずかな恐怖さえ感じていた。

 

 

 

硬化剤が完全に固まる。水を掛けて実験してみたが、確かに大丈夫だ。鉱物の声を聞く限り、しっかり馴染んでもいるようである。更に硬化剤には、ディオンさんが持ち込んだ大型のインゴットを用い、地盤と連結して固定もする。生半可な力でこれを引きはがすのは不可能だ。

 

最後の仕上げ。

 

栓にしている大岩に。

 

発破を仕掛ける。

 

そして、皆に下がって貰う。

 

此処からは何が起きるか分からない。

 

ただでさえ、大岩の周辺は水位が上がっているのだ。

 

全員が緊張する中。

 

わたしは発破を起爆した。

 

岩が、木っ端みじんになる。

 

岩と相談しながら、木っ端みじんになるように発破を仕掛けたのだから、当然だ。鉱物はわたしに嘘をつかない。

 

どっと、水が流れ始める。

 

水しぶきが凄まじい。

 

かなり川から離れているわたしの所にも、雨のように降りかかってくる程だ。

 

上空にいるウコバクさんが、告げてくる。

 

「第一箇所突破! ……問題なし! 硬化剤、機能しています!」

 

「報告を続けてください!」

 

「第二箇所突破! ……おお、硬化剤、機能しています!」

 

一気に水が、まっすぐになった川を突き抜けていく。

 

蛇行していた川がまっすぐになったのだ。

 

それは素直に通ってもくれるだろう。

 

多くのお魚さんには犠牲になって貰ったが。

 

その犠牲は無駄にはしない。

 

そして、合流地点で、どっと凄い水柱が上がった。

 

わたしのいる場所からも見える程だった。

 

「上流の様子は!」

 

「渦が出来ています! 本流に流れ込む水が一気に増えた影響でしょう!」

 

「渦が収まるまでは此処で様子見ですね……」

 

「はい」

 

ディオンさんが、ウコバクさんにそのまま監視を続けるように指示。

 

戦士達も、いつでも動けるように。

 

そして周囲への警戒を続けた。

 

雨のように降って来ていた水しぶきは止まったが。

 

それでも、上流からは、ごうごう、ごうごうと、凄い音が聞こえている。また、本流の水位も、凄まじい勢いで上下していた。

 

しばし、様子を見るしか無い。

 

たっぷり二刻ほども掛かっただろうか。

 

その間、幸いにも、硬化剤で固めた地点が剥がされるようなことはなかったし。

 

川が決壊することもなかった。

 

ほどなく、恐ろしい音を立ててていた川は静かになり。

 

水の流れこそ激しいが、それでもだいぶ穏やかに流れてくれるようにはなった。

 

ただ水はまだかなり濁っている。

 

安定するまでは、少しばかり時間が掛かるだろう。

 

やった。

 

誰かが声を上げると。

 

感極まったのか。

 

誰かが泣き始める。

 

水害の克服は。

 

メッヘンの悲願だったのだ。

 

ディオンさんも泣いている。

 

そうか、それだけ大きな事の達成に、わたしは立ち会っているのか。

 

同時に。

 

ずっと握りしめていたつるはしが。

 

ばつんと、音を立てて割れた。

 

真っ二つになった。

 

あ、とわたしは思って。あわてて壊れたつるはしの半分を拾い上げる。こんなに綺麗に割れるなんて。

 

ごめんね。

 

思わず呟いていた。

 

打ち直しだ。

 

でも、本当に頑張ってくれた。

 

谷を崩し。

 

暴れ川を沈めた。

 

それは、このつるはしだ。

 

わたしはただ鉱物の声を聞いただけ。

 

このつるはしがなかったら、わたしはとてもではないけれど、此処までの事は出来なかっただろう。

 

涙を拭う。

 

わたしもいつのまにか泣いていた。

 

でも、他のみんなとは違う意味でだった。

 

お姉ちゃんがいつの間にか、肩を抱いてくれていた。わたしは、何度も止まらない涙を拭った。

 

 

 

ほどなく熱狂も収まったので。

 

メッヘンに凱旋する。

 

メッヘンに来ている支流も、一時少し濁ったようだけれど、水量は安定していて、問題ないと長老に言われた。

 

暴れ川は当面暴れないだろうとディオンさんが言ったことで。

 

長老は、カツラが取れているのも気付かずに、わたしに頭を下げた。

 

「フィリスどの! 感謝いたしますぞ! ディオンどのも、本当によく……よく……!」

 

重役のホムが、こっそりカツラを隠す。

 

空気を読むと言う奴だろう。

 

後でこっそり頭にかぶせるに違いない。

 

わたしもそれらはみないフリをして、感動を共有することにした。

 

その後、ディオンさんのアトリエに招かれて。

 

推薦状を書いて貰う。

 

「実は、推薦状を書くのは初めてなんだ。 やり方は公認錬金術師試験が終わった後に習ったけれど、ちょっと自信が無くてね。 ただ、多少不備があっても、僕のハンコが入っていれば大丈夫の筈だから」

 

「いえ、そんな。 ありがとうございます」

 

公認錬金術師のハンコは。

 

錬金術で作った、かなり高度な代物らしく。

 

偽造ができないらしい。

 

ハンコを押したゼッテルを、スクロールにして渡してくれるディオンさん。

 

この人は確かにわたしから見ても頼りないけれど。

 

この街には欠かせない人だ。

 

「これから、行く先はやはりライゼンベルグかい?」

 

「はい。 東に行く……としか漠然と分かりませんけれど」

 

「それならば、いっそ南に行くと良いよ。 南に行くと、この辺りでは有名な錬金術師の、オレリーさんって人がいる。 フィリスさんほどの才能がある有望株なら、きっと揉んでくれるはずだよ」

 

「そんなに凄い人なんですか?」

 

ソフィー先生を思い出して、わたしは思わず大きな声を出してしまった。

 

オレリーさんという錬金術師は、ドナという街の長老も務めていて。

 

その実力は圧倒的。

 

なんとドナの周辺は森になっているのだが。

 

その緑化を一代で成し遂げたのがオレリーさんだというのだ。

 

しかも元々はライゼンベルグにいたのを。

 

中年になってからドナに移り。

 

そして十年ほどで緑化を成功させたらしい。

 

近隣にないほどの自然で安全な森が出来ていて。

 

その手腕は、ライゼンベルグでも十指に入るとか。

 

邪神を倒した事もあると言う事で。

 

凄い錬金術師だと言う事は、すぐに分かった。

 

「僕も会いに行ってみたんだけれど、けちょんけちょんに言われてしまってね、推薦状は貰えなかったよ。 なんでも、本当に厳しい人で、推薦状を貰えた人は殆どいないという話だよ。 でも、フィリスさんだったらきっと貰えると思う。 オレリーさんに推薦状を貰えたとなると、他の公認錬金術師も、フィリスさんを門前払いなんて出来なくなると思う。 厳しいし、色々きついことも言われると思うけれど、絶対にフィリスさんのためになると思う」

 

「分かりました。 ……頑張ります」

 

「うん。 フィリスさんは僕が同じ年くらいだった時よりも、ずっと先を行っているし、きっと凄い錬金術師になれるよ。 頑張って」

 

頭を下げる。

 

この人は頼りないけれど。しかし立派な錬金術師である事には間違いなかった。

 

その夜は、ゆっくり休んで。

 

そしてメッヘンを出る。

 

長老(カツラはずれていなかった)と重役達、それに戦士達が、皆で見送りをしてくれた。

 

長老は裏表無い感謝の表情で私の手を握る。

 

「もしも、公認錬金術師試験に受かったら、また来てくだされ。 その時には、歓待させていただきますぞ」

 

「ありがとうございます。 それと……出来ればエルトナの街とも仲良くしてくれると嬉しいです」

 

「エルトナ?」

 

「確か西の山岳地帯に存在するという鉱山街なのです。 商人が時々水晶を買い付けにいっているのです」

 

長老に、重役のホムが耳打ちする。

 

そうか、最初に辿りついたこの街でも、エルトナは知られていない場所なのか。

 

「分かりました。 必ずや、機会あれば」

 

「お願いします」

 

見送られて、メッヘンを離れる。

 

これで、しばらく街に寄る事は無いだろう。

 

歩きながら、お姉ちゃんに聞く。

 

「あんなに喜んで貰えて、良かった。 わたし、壊しただけだったのに」

 

「そうね。 でも、フィリスちゃんは人も助けたし、暴れ川も沈めたのよ」

 

「正に驚天の技だ。 卵とは言え流石錬金術師だな」

 

レヴィさんに、お姉ちゃんがちょっとむっとしたようだが。

 

からからとレヴィさんは笑う。

 

自分で崩した元谷の丘を越えて、更に南へ。

 

草原が徐々に乾いた荒野へと変わっていく。この辺りまでは、ディオンさんが頑張って緑化したのだろう。

 

だがそれも不十分。

 

街の周囲が森で覆われるくらいになると、猛獣の被害も激減するとディオンさんに聞いている。

 

まだまだ、メッヘンは発展途上という事だ。

 

わたしが公認錬金術師になれたとして。

 

戻るときに。

 

メッヘンはそのくらいまで発展できているのだろうか。

 

夕暮れまで歩いて。

 

アトリエを展開。

 

一番良いインゴットを取り出すと。

 

つるはしに加工する。

 

元のつるはしも溶かして。

 

これに混ぜる。

 

そして、移動しながら、二日掛けて。

 

新しいつるはしに仕上げた。

 

前のつるはしではない。

 

でも、散々つるはしを振るったわたしは、少しだけ力も強くなっている。そのわたしには、丁度良い重さで。

 

そして何より、前のつるはしの魂を引き継いでいる。

 

わたしはこの新しい。

 

そして魂を引き継いだつるはしで。

 

道に立ちふさがる障害物を。

 

全部粉砕するのだ。

 

ほどなく、辺りに緑はなくなり。

 

道の周囲は完全に荒野になった。

 

まる三日ほどその状態が続いた後。

 

遠くに森が見え始めた。

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