暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、血を吸う大地

十人の戦士。

 

二十人の人夫。

 

かなりの大所帯だ。

 

だが、いずれも慣れている様子である。

 

話によると、ドナに逃れてきた貧民もいるとか。今回のお仕事で稼ぎになると聞いて、仕事に申し込んできた人も多いと言う。

 

子供を見ると、体格が露骨に違う。

 

ドナの出身らしい子は皆背も高いし骨格もしっかりしている。

 

良いものを食べているからだろう。

 

だが、難民としてこの街に流れ着いたらしい子供達は。

 

みんなひ弱そうで、肉もついていなさそうだった。

 

こんなに差が出るのか。

 

エルトナは、まだマシな場所だったのかも知れない。

 

そう思わされて、わたしは悲しくなる。

 

わたしもまだ子供で、もうちょっとは成長するけれど。

 

大人になって、もう少し背が伸びたり、胸とか大きくなったりするのだろうか。

 

元々エルトナも、栄養はそれほど豊富ではなかった気がする。

 

ドナの街に生まれていたら。

 

わたしももっと大きくなっていたかも知れない。

 

壮年の魔族の男性。この間兜を被っていた人物が、指揮を執るという。確かサイレンスと呼ばれていたはずだが。

 

兜を外すと。

 

精悍でもの凄く強そうな顔が出てきた。

 

「錬金術師フィリスどの」

 

「は、はいっ」

 

思わず気をつけをしてしまう。

 

魔族として全盛期の肉体。

 

人間の倍もある背丈。

 

そして歴戦だと一目で分かるオーラ。

 

この人こそ。

 

実は、この間の課題で、お目付をしていた、真のリーダーだった、というわけだ。

 

「俺は兜を被っているときはサイレンスと名乗っているが、兜を外して本当の意味での仕事をするときにはベリアルという本名を名乗る。 兜を被っていないときは、ベリアルと呼んで欲しい」

 

「はい、ベリアルさん」

 

「うむ。 俺は兜を被っていないときは少し多弁になりすぎるきらいがあってな。 それで普段は余計な事を喋らないように兜を被るようにしているのだ。 しかし、貴殿は若くして才能に恵まれた錬金術師と判断した。 以降は兜を脱いで対応させていただく」

 

「分かりました」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

戦士達はいずれもベテラン。

 

少なくとも、この間戦ったネームド、カルネならこの戦力で一瞬にして揉み潰せるだろう。

 

大きめの荷車四台。

 

更にキャンプ用の資材をそれに積み込み。

 

人夫を中心に、周囲を戦士が守って、ドナを出る。

 

人夫の中には子供もいるが。

 

これは、何とかならないのだろうか。

 

「何かあったら、何でも詳しく聞いてくれ」

 

「はい。 その、学問を教えてくれる……みたいなものは……ドナにもないんですか?」

 

「存在している。 長老が赴任してから、周辺の緑化と並行して作り上げた」

 

「でも子供が働き手に……」

 

ベリアルさんは、少し悩んでから言う。

 

なお、わたし達は最前列だ。

 

「学問は無料で教える施設がある。 其処で学問を学んでいる者もいて、街で技術者や商人として働いてもいる。 子供のうちに学問を学び、現在は職人になっている者もいる」

 

「でも、子供も働きに出ているんですね」

 

「ドナはまだ大きくなっている街だ。 人手は幾らあってもたりない。 確かに子供は学問をして、遊んでいるのが一番なのだろうが、な。 俺は幾つかの街を見てきたが、子供が学問と遊びだけをしていられる場所など、見た事がない。 残念ながら、まだ当分そんな時代は来ないだろう」

 

厳しい現実だ。

 

わたしは、どうにか変えたい。

 

ほどなく、会話禁止のハンドサインが出た。

 

獣が出る地域だ。

 

街道は、話によると獣よけの処置がされていて。獣が人間を襲いにくいらしいのだが。

 

それでも、限度はある。

 

実際ドナに来る最中、街道を跨いでいる大蛇も見た。

 

あの様子では、油断して一人で歩いていたりしたら、襲ってくる獣だっている筈だ。

 

無言で隊列を組んだまま移動を続ける。

 

それで気付く。

 

荷車は、馬が引いていない。

 

そして、疲れた者が荷車に乗っているが。

 

荷車は勝手に動いていた。

 

あの机と同じ仕組みか。

 

だとすると凄い。

 

やっぱり自動で動く道具を作れるのか。

 

仕組みが知りたい。

 

でも、今はまず。

 

現地に到着し、キャンプを作る事からだ。

 

一日ほど東に進むと、分岐路に出る。分岐路にはそのままキャンプスペースが作られていて、獣よけも念入りに施されているようだった。

 

丁度夜になっていたので、今日はここで休む事にする。

 

戦士が何人か森に入り。

 

獣を数頭仕留めてきた。

 

その中には、この間鹿を食べている百足を平然と見下していたヤギも混ざっていた。

 

つまりこの戦士達は。

 

あんな百足くらい、鼻で笑える実力を持っている、という事である。

 

頼もしいけれど。

 

頼りっぱなしにも出来ないだろう。

 

ネームドはわたしも積極的に戦って、倒して。

 

そして素材を生かして、緑化を進めていかなければならない。

 

アトリエを拡げて、中で休む。

 

調合は。

 

体力的に、やっている余裕が無かった。

 

そして、今更気付く。

 

ネームドを倒すのは。

 

そもそも、この課題の下準備として、絶対に必要な事だったのだと。

 

ネームドも倒せないようでは、緑化作業なんて夢のまた夢。

 

わたしが桁外れに強い魔力を持っているのなら、それを生かして緑化作業を出来たのかも知れないけれど。

 

残念ながらわたしは魔術師としてはボンクラだ。

 

優しく色々教えてくれる鉱物達に働きかけて、力を借りるだけで死にかける程度の力しか無い。

 

もしわたしが緑化を目論むなら。

 

それこそ、ネームドを倒すしか無いのだ。

 

オレリーさんは、それを知っていたからこそ。

 

いきなり厳しい課題を出してきたのだろう。

 

そして、緑化も出来ないような錬金術師なんて。街を復興させるには力が不足しすぎている。

 

ただでさえ各地の街が大変なのだ。

 

それも、今に始まった事ではなく、昔から、である。

 

錬金術師は、世界を変えなければならないのかも知れない。

 

オレリーさんは、厳しい人だけれど。

 

きっと、世界を変えるための力を欲しているのではあるまいか。

 

気付くと朝に。

 

いつの間にか眠っていたらしい。

 

歩くのにはすっかり慣れていた。

 

足にダメージはない。

 

朝の内に、さっさとキャンプを畳み。

 

また黙々と東に進む。

 

森の木はどんどん背丈が低くなっていき。

 

やがて、森を出た。

 

最初は草原が拡がっていたが。

 

それもすぐに無くなり。

 

文字通り凶獣と枯れ果てた大地が拡がる荒野に変わり果てていった。

 

ドナはあれほど豊かな緑に覆われているのに。

 

ちょっと街を出るだけでこれだ。

 

悲しいを通り越して悔しくなってくる。

 

どうしてこの世界は。

 

こうまでも過酷なのだろう。

 

「よし、以降は喋っても構わないぞ。 これより少し南下して、川の近くにキャンプを展開する」

 

ベリアルさんが手を叩いて、周囲に指示を出した。

 

緑化作業はわたしに任せるが。

 

部隊の指揮はベリアルさんが執る、と言う事なのだろう。

 

わたしもそれで異存ない。

 

わたしに部隊の指揮なんて出来ないし。

 

戦いだって、素人なのだから。

 

玄人に任せられる所は、任せるべきである事くらいは分かっている。

 

川が見えてきた。

 

要所にしっかり堤防が作られていて。

 

その堤防も、獣よけがきっちりされている。

 

ただし、流石に川の周囲まで緑化は出来なかったのだろう。

 

また、川から何カ所か、飲料水用の水路が作られている。勿論飲料水といってもそのままは飲めないが。

 

川に行って水を汲んでいたりしたら。

 

それこそ命が幾つあってもたりない。

 

大型の獣が入り込めないようにした水路の存在は貴重だ。

 

此処を中心にキャンプを展開。

 

大きめの天幕を組み立てようとしたが、わたしは不要と指示。わたしのアトリエを本部にすれば良い。

 

ちょっと窮屈だけど、ベリアルさんもギリギリ入れる。

 

他にも戦士達にも入って貰い。

 

中で軽く打ち合わせをすることにした。

 

「これは譲渡品か。 流石に現時点の貴殿に作れるとは思えぬが」

 

「はい。 凄い錬金術師の先生に貰いました」

 

「そうか、大事になされよ」

 

「はい、宝物です」

 

ベリアルさんが目を細める。

 

前にも参加してくれたバッデンさんが咳払いしたので、わたしは地図を拡げた。

 

緑化地点について、皆に説明。

 

すると、皆慣れているのか。

 

すぐに状況を理解してくれた。

 

「遺跡までもう少しだな」

 

「あの遺跡を攻略できれば、上手く行けばフルスハイムと直通路を作れるかも知れねえ」

 

「だがあの遺跡はなあ……」

 

戦士達が口々に言う。

 

詳しい話を聞かせて貰う。

 

何でも、遺跡は元々、ラスティンでも屈指の大都市だったらしい。

 

それが邪神の攻撃で滅亡。

 

その邪神、虹神ウロボロスは、当時のラスティンでも屈指の錬金術師達が力を結集、その大半の命を落としながらも撃破に成功。

 

しかしながら、その余波で街は完全に壊滅。

 

復興どころか、強力なネームドの巣になっているらしい。

 

そして、この遺跡を抜けたすぐの所に。

 

ラスティンでも中枢になる都市の一つ。世界でも珍しい、人が万を超える大都市、フルスハイムが存在している。

 

フルスハイムへの直通路を作る事が出来れば。

 

ドナは更に発展するし。

 

フルスハイムも、森林資源の恩恵を直に受けられる。

 

現在は、迂回路を通ってフルスハイムに資源を売りに行くしか無く。

 

非常に時間が掛かる上。危険で仕方が無いのだという。

 

なるほど、そういう事か。

 

わたしは長期計画の一端を担っている、ということだ。

 

それにもう一つ理由があるという。

 

「森で獣が凶暴性を薄れさせることは、フィリスどのも知っていると思うが」

 

「はい。 明らかに凶暴では無くなっていました」

 

「コレを利用して、東に街道を延ばす計画がある」

 

「え……」

 

フルスハイムへ行きやすくするため、だけではないのか。

 

ベリアルさんは頷くと、軽く話してくれた。

 

地図も出してくる。

 

もっと大きな、この辺りの地図だ。

 

見ると、フルスハイムとくっつくようにして、とても大きな湖がある。これが水運の中心で、更に湖の周囲にフルスハイムほどではないにしても、かなりの数の街が存在しているという。

 

だが、湖に頼りすぎている。

 

そういう声もあるのだとか。

 

そして今、フルスハイムでは大きな問題が起きているらしく。

 

物流に大混乱が起きているのだそうだ。

 

「前から長老は言っていた。 フルスハイムの利便性に頼りすぎると、いつか痛い目にあるかもしれないと。 本当にそれが起きてしまったのだ」

 

「それで、東に街道を?」

 

「そうだ。 東は荒野が拡がっていて、とても人間が通れる場所では無い。 だが此処を開拓すれば、湖の南端にあるそこそこに大きな街への経路を作る事が出来る。 陸路だが、緑化を進めて、更に途中に休憩所を。 更にはそれを発展させて、小さくても良いから街を作れば……」

 

「最悪の場合を回避できるんですね」

 

なるほど。

 

どうやらわたしがやるべきことは、想像以上に重い仕事らしい。

 

オレリーさんは、とても厳しい人だと思っていたけれど。

 

こんな仕事を任されると言う事は。

 

本当に厳しい人だった、と言う事だろう。

 

だけれども。

 

エルトナを救うためには。

 

あらゆる経験を積まなければ駄目だ。

 

公認錬金術師になっても。

 

実力が伴わなければ意味がない。

 

こんな良い仕事をくれたのなら。

 

やりとげなければならないだろう。

 

わたしは頷く。

 

「では、まずネームドを狩りましょう。 近場にネームドは」

 

「偵察からそろそろ戻ってくるはずだが」

 

不意に。

 

外で騒ぎになる。

 

慌ててアトリエを出ると。

 

血だらけの戦士が倒れていて、応急処置が始まっていた。しかもこの人、あのグランツさんだ。

 

この人ほどの強者が。

 

一体何にやられたのか。

 

すぐにお姉ちゃんが回復の魔術を掛け始める。

 

わたしもすぐに薬を出す。

 

流石に手足が千切れていたらどうにもならないが。

 

傷を埋めるくらいは、今のわたしの薬でも難しくない。

 

更に、念のための時に備えて貰ってきたネクタルも飲ませる。

 

死者を生き返らせるとまで言われる奇蹟の薬だ。

 

オレリーさんにここぞと言うときに使えと言われたので、使う。

 

グランツはさんはしばらく苦しそうにしていたが。

 

やがて、すこし楽になったのか。呼吸を自分で整え始めた。

 

「グランツ、何が出た」

 

「まずいぞベリアル。 即時撤退……した方が良い」

 

「まさか、遺跡の深部にいるネームドか!?」

 

「かなりの手傷は受けているようだったが……そうだ」

 

ぞくりときた。

 

遺跡の深部にいるといえば、ドラゴン並みの実力者だという話だ。

 

しかも手負い。

 

最悪では無いか。

 

「長老を呼んでくるしか対処の方法がない。 この戦力では、戦闘を挑むのは自殺行為だ」

 

「いや、駄目だ。 人夫を逃がしきれない。 やるぞ」

 

ベリアルさんが立ち上がる。

 

そして、いきなり雄叫びを上げた。

 

すくみ上がる。

 

そして、理解した。

 

この人が。壮年の、全盛期といっていい実力を持った魔族が、怒りに打ち震えている事を。

 

「神の力の一端を喰らった獣風情が、良くも我が仲間を傷つけたなあっ! 地獄に叩き落としてくれる! 灼熱の炎に焼かれながら、己の愚行を悔いるが良いわ!」

 

「グランツさん。 まず、相手の特徴を教えてください」

 

「フィリスちゃん!」

 

蒼白になるお姉ちゃん。

 

わたしは首を横に振る。

 

これは戦いを避けられない。

 

手負いの獣だったら、絶対に一番手頃なエサを狙いに来る。つまりわたしたちだ。敵が回復する前に、総力戦を挑むしかない。

 

ネームドはその非常識な実力をさっきみたばかり。

 

あんな化け物だ。

 

どんな能力を持っていてもおかしくない。

 

ましてやネームドを狩り慣れているだろう人に此処までの重傷を負わせた相手だ。

 

とてもではないが、非戦闘員を逃がす余裕なんてくれるとは思えない。

 

此処で戦士達が足止めをして、非戦闘員を逃がすという手もあるかも知れない。

 

だけれど、グランツさんは、バッデンさんやベリアルさんとそう実力も変わらない人だ。それが此処までメタメタにやられたとなると。時間稼ぎに守りに入るよりは、敵が回復する前に叩く方が勝算がまだある。今、戦力が最大まで揃っている状況で、戦うしかない。

 

それを説明すると。

 

ベリアルさんも頷く。

 

静かに、強い怒りを込めて。

 

お姉ちゃんもしばし黙り込んだ後、覚悟を決めたようだった。

 

レヴィさんが、重苦しい雰囲気の中声を開く。

 

「それでフィリスよ。 どうする」

 

「まずは敵の情報です。 どんな相手でしたか、グランツさん」

 

「……得体が知れない奴だ。 全身が何だか巨大な塊で、刃物が突きだしていた。 刃物は伸縮自在で、広域攻撃を自由自在、しかも刃物の強度も凄まじかった」

 

「良く生きて帰れたな」

 

ベリアルさんの声に、グランツさんは苦笑い。

 

露骨な深手が入っていて、相手の動きが鈍かったという。

 

ならばなおさら、勝機はある。

 

わたしも、試作品も含め、全ての爆弾とお薬を出して来て、荷車に積む。

 

後は、交戦地点だが。

 

ベリアルさんが浮き上がって、既に偵察してくれている。

 

さて、どうなるか。

 

「見つけた……」

 

流石に早い。

 

全員が戦闘態勢に入る中、ベリアルさんは舌打ちし、着地する。

 

「どうやら向こうから此方に来るつもりのようだ。 非戦闘員をエサにするつもりなのだろう。 凄まじい勢いで突貫してきよる」

 

「非戦闘員は、全員アトリエの中に! 何があっても出ては駄目です!」

 

わたしが促して。

 

全員をアトリエの中に。

 

グランツさんにも入って貰う。

 

全員でキャンプを出て、交戦に備える。だが、敵の姿は見えてこない。まさか、地下にでも潜ったのか。

 

いや、それならば。

 

絶対に鉱物が教えてくれる。

 

そんな声は聞こえない。

 

と言う事は。

 

「上だ!」

 

「散開ッ!」

 

ベリアルさんが吠え猛る。

 

そして自身は魔術でシールドを展開、真上から飛んできた何だかよく分からない化け物を受け止め。

 

お姉ちゃんがわたしを抱えて飛び退く。

 

その距離が、思ったよりもの凄くて驚いた。手袋の強化によるものだろう。

 

それよりもだ。

 

なんだこれ。

 

生き物なのか。

 

確かに、得体が知れない塊。それも赤黒く、とてもおぞましくて、見ただけで吐きそうな肉塊に。

 

全身から、無数の刃が。

 

いや、近くで見ると分かるが、多分あれは鉱物だ。

 

声が聞こえる。

 

体内に鉱物を取り込み。

 

それを剣のように、自由自在に操れるようにしたものだろう。

 

そして、この流動性の高い動き。

 

「ぷにぷにのネームド……!」

 

「たかが、とは言えそうにないな!」

 

シールドをブチ割られ、間一髪で逃れるベリアルさん。

 

同時にわたしがフラムを放り込み。

 

戦士達も、矢を放てる者は矢を。

 

魔術を使える者は魔術を。

 

一斉に叩き込む。

 

だが、それらを、柔軟に動いた刃のような鉱物が。

 

盾になって防ぐ。

 

わたしは即応。

 

地面に手を突いて、鉱物に力を借りる。詠唱開始。敵が怪しいと気付いたのか、形態を変えようとするが、突貫したドロッセルさんが、フルスイングで斧を叩き付ける。猛烈な圧力に、流石のネームドもずり下がる。

 

位置、微調整。

 

発動。

 

鉱物がせり上がり。ネームドを貫く。

 

悲鳴を上げたぷにぷにが、わたしを見た。

 

ざっくりと抉られているが。

 

確かにそいつには多数の複眼と。

 

鋭く裂けた牙だらけの口があった。

 

触手代わりにしているだろう鉱物をしならせると、一斉にわたしを貫かせようと伸ばしてくる。

 

ベリアルさんが割って入り、シールドを展開。

 

防ぎきれない。

 

数本が、ベリアルさんの体に突き刺さった。

 

だが。それさえも利用する。

 

わたしは、次の発破を投擲。

 

鉱物がまだ刺さっている。

 

ならば。

 

爆裂する氷爆弾レヘルン。

 

思ったより威力は出ないが、敵の体を冷やすには充分だ。

 

もがき、刺さった鉱物から逃れようとするネームドだが、そうはさせない。一斉に躍りかかった戦士達が、一斉に得物を叩き付ける。

 

だが、回転しつつ、鉱物を刃のようにして振り回し、寄せ付けない。その余波で、ベリアルさんに刺さっていた刃も切り裂くようにしながら抜けた。

 

更に、気付く。

 

この回転。

 

音を、詠唱にしている。

 

殆ど間を置かず、大爆発が巻き起こされた。

 

作ったばかりのキャンプが薙ぎ払われ。

 

接近戦を挑んでいた戦士達が吹き飛ばされる。

 

絶句してしまう。

 

深手を負っていてこの戦闘力なのか。

 

ベテランの戦士達が多数いてこの有様なのか。

 

恐怖で漏らしそうだ。

 

だけれども、わたしは。

 

それより先に動く。

 

続いて雷撃を発する石を組み込んだ爆弾、ドナーストーンを投げつける。これも一般的な錬金術爆弾の一つだ。

 

炸裂した雷撃が。

 

敵の突起を伝い。

 

猛烈に全身を駆け巡る。

 

内部から何カ所も爆ぜ割れ、ネームドは悲鳴を上げながら、それでも此方に突貫してくる。

 

無理矢理立ち上がった戦士達が、何人か止めに入るが。

 

それも蹴散らしながら突貫してくる。

 

レヴィさんが立ちふさがる。

 

お姉ちゃんも。

 

素早く魔術をくみ上げると、レヴィさんが数枚のシールドを展開。そのシールドに、ネームドは躊躇無く突撃した。

 

激しく爆ぜ割れていくシールド。

 

真横に回り込んだお姉ちゃんが、入魂の一矢を叩き込む。

 

深い傷口に吸い込まれる矢。数本が、立て続けに敵の傷口を抉る。

 

レヴィさんのシールドがぶち抜かれる。

 

剣を抜いたレヴィさんが、回転しながら殺しに来るネームドの怒濤の猛攻を凌ぐが、それも長くはもちそうにない。

 

ベリアルさんは深手を負って動けない。

 

まずい。

 

不意に気付く。

 

倒れている戦士達の中にドロッセルさんがいない。

 

そうか。

 

お姉ちゃんがナイフに切り替えると、接近戦に転じる。

 

お姉ちゃんも気付いたはずだ。

 

全周攻撃を繰り返しながら、わたしに迫るネームド。

 

凄まじい殺気。

 

殺気も、戦いを重ねたから、わたしも感じ取れるようになって来ている。

 

だから、分かるのだ。

 

殺意と悪意が。

 

吹き付けるようにして襲ってくる。

 

レヴィさんが剣撃の暴風に吹っ飛ばされる。

 

だが、それは飛び下がった事も意味している。

 

ネームドが。わたしがいた場所に飛びついた時には。

 

既にベリアルさんもお姉ちゃんもいない。勿論わたしもだ。

 

わたしは、起爆する。

 

発破を、である。

 

戦略級の発破だ。

 

モロにそれに巻き込まれたネームドが、流石に悲鳴を上げる。内部から、何カ所か、爆風が吹き出すのも見えた。

 

鉱物で貫いた穴を。

 

爆風が貫通したのだろう。

 

それでも動くネームド。

 

不死身か。

 

幾らタフなぷにぷにのネームドと言っても、ものには限度がある。だが、今の爆風はネームドに間違いなく致命打を与えた。

 

更に、その全身に。

 

周囲から、一斉に槍やら剣やらが突き刺さる。

 

さっき爆圧で吹き飛ばされた戦士達だ。

 

流石に皆歴戦の猛者。

 

あの程度で戦闘不能になるほどヤワでは無い、と言う事だ。

 

回転しようとするも、戦士達が動きを止めたため、それも出来なくなるネームド。絶叫しながら、それでも詠唱を始める。口だけでも詠唱できるのか。だが、その口に、飛来した岩石が蓋をした。ドロッセルさんが放り投げたものだ。

 

牙が多数へし折られ。

 

詠唱も中断されたネームドが、絶叫。

 

更に、戦士達も力を込めて、刃を食い込ませていく。

 

わたしはありったけのフラムを束ねると。

 

離れて、とさけぶ。

 

皆が同時に跳び離れ、此方に向き直ったネームドが防御態勢を取った瞬間。

 

フラムを起爆。

 

鉱物の盾が、ずり下がらせながらも、フラムの火力からネームドを守りきる。だが、同時に鉱物も、金属疲労が限界に達したか、複数が砕け、へし折れる。

 

怒りの声を上げるネームドだが。

 

盾を解除した瞬間。

 

高々と跳躍していたドロッセルさんが、斧を脳天から叩き込む。

 

文字通り渾身。

 

瞬時に鉱物の刃を動かして、盾にしようとしたネームド。

 

その即応は凄まじく。

 

ドロッセルさんの斧が、わずかに届かない。

 

だが、地面に強烈な亀裂が走る。

 

それほどの衝撃が、ネームドを貫いた、ということだ。

 

わたしは両手を地面に突くと。

 

詠唱を開始。

 

気付いたネームドが、私に向けて、刃を伸ばしてくる。

 

それを、もはや詠唱もままならないベリアルさんが、体で防ぐ。数本の刃がベリアルさんを貫くが、それが故にネームドも動けなくなる。

 

詠唱完了。

 

先と同じ、鉱物を突き出す魔術が。

 

身動き取れないネームドを、真下から今度こそ串刺しにする。

 

悲鳴を上げながら、体を動かそうとするネームド。

 

まだもがけるのか。

 

だが、ベリアルさんが、身体強化の魔術を自身に展開。

 

力尽くで、岩の杭からネームドを引きちぎり。

 

もはや体の形を維持できなくなりつつあるネームドを、振り回し。

 

そして刃をへし折りながら、地面に叩き付けていた。

 

クレーターが出来る。

 

雄叫び。

 

まだこれでも動くのか。

 

わたし以外皆満身創痍だ。

 

そして気付く。

 

これこそ、生への執着。

 

生物が本来持っている、如何なる手段を用いても生き残ろうと考える、恐ろしいまでの本能。

 

エサを。

 

エサを寄越せ。

 

そう言わんばかりに。

 

ネームドが、ぼろぼろになった体を引きずりながら此方に来る。

 

軟らかい肉。

 

つまりわたしを喰らおうと。

 

傷だらけになったレヴィさんが、その背後から剣を突き立てる。

 

振り払おうとしたネームドの口の中に、お姉ちゃんが放った渾身の矢が尽き立つ。

 

動きが、ついに止まる。

 

「とどめだ! 一斉攻撃しろ!」

 

わっと戦士達が立ち上がり、怒濤のごとく襲いかかる。

 

そして、まだもがいていたネームドが。

 

ネームドだったものになるまで。

 

徹底的に。

 

執拗に。

 

情け容赦なく。

 

攻撃を叩き込み。

 

そして動かなくなるまで、止めなかった。

 

 

 

ネームドの屍を解体する。

 

ぷにぷに玉の存在は知っていたが、黄金に輝くものが出てきた。それも複数である。応急処置をしたベリアルさんが苦笑する。

 

「前の深核を使った方が良いだろう。 これは非常に貴重な品だ。 ぷにぷにの中でも、上位種やネームドの体内にしか生成されない高級品だ」

 

「凄い品、何ですね」

 

「俺は長老に付き従って、ガキの頃からネームドの討伐任務に出ていたが、それでも見たのは数回だけだ。 やはりこのネームド、遺跡の深部から出てきた個体だな。 戦力も、一割程度しか残っていなかったと見て良いだろう」

 

「あれで一割ですか」

 

ベリアルさんが頷く。

 

そうか、北の遺跡の地下には、こんなのがゴロゴロいて。

 

しかも戦力は十倍もある、というのか。

 

怖くて近づけない。

 

皆の応急手当が終わった所で、一度引き返すことにする。

 

試験失格、と言われる可能性もあるけれど。

 

命には替えられない。

 

その場合他の街で推薦状を貰えば良い。

 

惜しいけれど、今はけが人を放置して、緑化作業どころではない。それに、人夫達もみんな怖い目にあって、震えているはずだ。

 

一度戻るのが良いだろう。

 

ベリアルさんにそれを告げて、一旦ドナまで戻る。

 

帰路は重苦しい雰囲気になったが。

 

しかし、同時にも思う。

 

ドラゴンは最低でもあれくらいの強さがある。いや、あのネームドが全力状態の場合と互角くらい、と言う事だろう。

 

今のままでは。絶対に勝てない。

 

つまり、今のうちに。

 

戦いの技を、もっと磨いておかないといけない。

 

もっと貪欲なくらい。

 

強さを求めなければならない。

 

自身を鍛えるのもそうだけれど。

 

自動発動する、身を守る道具などが重要になってくるだろう。

 

それらをしっかり完成させないと。

 

とてもではないが。

 

今後やっていけない。

 

今回、相当な使い手がこれだけ揃っても、ネームドに苦戦したのは。それは錬金術師であるわたしが頼りなかったからだ

 

わたしさえしっかりしていれば。

 

みんなこんなに怪我をしなくても済んだし。

 

あんなネームドなんて。

 

難なく仕留められたはずなのだ。

 

ドナに辿りついたのは二日後。

 

状況を見て、すぐにオレリーさんは事態を理解。

 

グレードが高い傷薬を出して、負傷者を回復にあたってくれた。

 

ごめんなさいと頭を下げると。

 

オレリーさんは鼻を鳴らす。

 

「あんたは何も間違った判断をしてはいないよ。 卑屈になるんじゃない」

 

「でも、長期的に東への道を作るための計画が……」

 

「キャンプ用の物資を荒らされたくらいで、人員に死者も再起不能の者も出していないんだ。 それで充分だよ。 ましてや恐らく、北の遺跡の深部から出てきたネームドとの交戦だろう?」

 

「はい。 凄く……強かったです」

 

違う。

 

わたしが弱かったんだ。

 

涙を拭うわたしをみると。

 

それ以上何も言わず。オレリーさんは、今日は休むように指示。それ以降は、明日伝えると言った。

 

わたしはアトリエに戻ると、熱が出た。

 

ちょっと無理をしすぎたのだ。自分で作ったお薬を飲んで、眠る事にする。

 

お姉ちゃんが美味しいお茶を淹れてくれたけれど。

 

それで随分体も温まって。

 

ゆっくり眠る事も出来た。

 

悪い夢は見なかった。

 

みんながあのネームドに殺されて。

 

ズタズタに貪り喰われる夢とか。

 

アトリエに立てこもった人達が引きずり出されて。

 

一人ずつ殺されて喰われる夢とか。

 

そういったものを予想していたのだけれど。

 

杞憂に終わった。

 

むしろ、わたしが緑化をして。

 

静かに全ての作業が終わる夢を見た。

 

ふと思う。

 

どうして、ネームドを殺す、というような事までしないと緑化が出来ないのだろう。

 

世界は、不公平というか。

 

むしろ不条理に満ちているのではないのか。

 

だとしたら。

 

目が覚める。

 

熱は引いていたが、その代わり無理をしたせいか、体が彼方此方痛かった。

 

初めての大失敗。

 

それは、むしろ体に負担を掛けていた。

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