暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この作品世界における極めて珍しい森に囲まれているドナの街。

それはそれだけ、オレリーさんという錬金術師が優れている事を意味しています。

フィリスは経験と実力を兼ね備えた超ベテランから、その力を見定めるようにして試されていくことになります。


緑の乱流
序、暗き森


休みを入れて態勢を立て直したわたしは、ベリアルさん達と一緒にドナの東に出て。森を抜けると、壊されてしまったキャンプの復旧から始める。

 

緑化作業の計画については。

 

修正点も含め、細かいものを貰っている。

 

コレが終わったら、推薦状を貰えるという話なのだけれど。

 

具体的にはどれくらいやれば良いのだろう。

 

木が生えそろうまでか。

 

それとも、緑に地面が覆われるまでなのか。

 

その辺りは。

 

正直よく分からない。

 

まず、栄養剤を、ざっと教わった方法で作っていく。

 

とはいっても、緑化作業は、栄養剤を作れば良いというものではない。何回かの段階を踏まなければならないのだが。

 

まず、地面に魔力を行き渡らせる。

 

これが第一。栄養剤はこのために使う。

 

素材については、この間ネームドから採取した深核を用いる。実際には、深核でなくても良いらしい。

 

ネームドの体の中にある、圧縮した膨大な魔力さえ使えば。

 

それで大体何とかなるのだそうだ。

 

まず深核を錬金術で変質させ。

 

キューブ状に固め。

 

ゼラチンでコーティングして。

 

数年掛けて、じっくり地面に溶け込んでいくようにしていく。

 

その結果、地面には魔力が染み渡り。

 

木々も生長していく。

 

続いて栄養だ。

 

魔力があるのは基礎条件。

 

地面に魔力が行き渡るようになると、雑草などが適当に生え始めるそうだけれども。しかしながら、それだけでは時間が掛かる。

 

其処で肥料を作る。

 

肥料を撒いて地面を耕し。

 

土に栄養と空気を入れ。

 

植物が育ちやすい条件を作る。

 

その後、まずは成長が早い雑草の種をまき。

 

徐々にしっかり成長する木の種を植えていく。

 

最初の雑草は、一度焼いてしまうそうだ。

 

そうすることで、より植物が育ちやすい栄養のある土地に出来ると言う。

 

今回は、街道を作るため。

 

安全確保のための森を作る。

 

畑を作る場合は、それはそれで別の手順を踏む必要があるらしく。

 

いずれにしても、遺跡から来るネームドが、人間を即座に襲わないように。街道の盾になるよう、森を作るという計画だそうだ。

 

まずは深核を変質させる。

 

わたしも魔術が使えるから分かる。

 

もの凄い魔力を感じる。

 

これでも邪神のほんの一部の力。

 

それも、恐らくコレは、オレリーさんが言っていた最下級の邪神、エレメンタルという存在の一部なのだろう。

 

一体邪神という存在は。

 

どれだけ圧倒的なのだろう。

 

震えが来る。

 

兎も角、深核をすり潰し。

 

中和剤と混ぜ合わせて変質させ。

 

ゆっくりと、魔力そのものを周囲に拡散させる栄養剤に作り替えていく。この作業、思ったより遙かに難しい。

 

また、ちょっと深核を使っただけで、相当量の栄養剤に切り替えられる。

 

全部を使うのでは無く。

 

少しずつ削ってすり潰し。

 

使って行く方が良さそうだ。

 

二日ほど掛けて。

 

栄養剤を作る。

 

まずは実物を見たことがあるベリアルさんに判断して貰うけれど。見た感じでは、問題は無い様子だ。

 

「流石に長老のものと比べると雲泥だが、最初でこれなら充分だ。 即座に使用出来る」

 

「分かりました。 後どれくらい作れば良いですか」

 

「これと同じものを二十」

 

「はい」

 

すぐに作業に取りかかる。

 

作り方を把握すれば後は簡単だ。

 

一度に作る量を増やせば良い。

 

作れば作るほど熟練するし。

 

質も上げられる。

 

ゼラチンについても、材料は揃っている。

 

それほど作る事は難しくない。

 

もう二日で。

 

二十セットが出来たので、ベリアルさんに納品。既に人夫達は、護衛を受けながら仕事をしていた。

 

自動で動く荷車で水を運び。

 

土を耕して空気を入れる。

 

耕した土の奥に栄養剤を埋め込み。

 

水を掛けて、じっくりと耕して、肥料を何時でも入れられる状態にしていく。

 

続けて肥料の作成に移る。

 

これは、発酵という作業を。

 

本来の数十倍に、錬金術を用いて加速する事により。

 

植物にとってのおいしいご飯をつくるものだ。

 

まず肉や植物などの実を混ぜ合わせ。

 

全てをグチャグチャになるまで煮込む。

 

実はやり方は色々あるらしいのだけれども。今回はオレリーさんに口頭で教わったやり方で行く。

 

じっくり煮込んだ後。ゼラチンに植え込んでおいた、森の土を確認。

 

ゼラチンがかなり変色している。

 

これは炉によって温度を調整していたゼラチンで。

 

森の土に潜んでいる、発酵を促すものを増やす効果があるそうだ。

 

変色したゼラチンを、煮込んだ後温度を下げた栄養の塊に混ぜ込み。中和剤を投入。変質させる。

 

このゼラチンそのものも強力に変質させ。

 

ゆっくり土の中に栄養として溶けていくようにする。

 

栄養が強すぎると、却って植物は駄目になってしまうそうで。

 

そのさじ加減が難しいのだとか。

 

一旦温める作業が始まり。

 

時間が出来た。

 

頭がかなり温かくなっているので、クールダウンのためにも外に出る。その後寝るつもりだが。とりあえずまずクールダウンだ。

 

外で行われている作業を見ると。

 

棒を立てて、何かを測っていた。

 

影の長さ、向きを見て。

 

そして何やら手押しでくるくる回る道具を押している。

 

作業をしているのは戦士達なので。

 

多分専門的な作業なのだろう。

 

「これは何の作業ですか?」

 

「測量だ」

 

「これが……」

 

「そうだ」

 

作業をしていたバッデンさんが、苦笑する。

 

本当にわたしが、田舎から出てきたばかりなのだと、思い知らされたから、なのだろう。

 

測量という事については、エルトナを出る前にちょっと聞いた。

 

地図を作るためにすることだ。

 

くるくる回る道具は、正確な距離を測るために使うもので。

 

魔術が掛かっていて、一度セットすると、必ず直進する仕組みになっていると言う。

 

手押し式になっているが。

 

方角がついていて。

 

更に方位磁針もセットになっているようだ。

 

方位磁針が壊れたときの事も考えて。

 

方角を正確に測ってから動かしているのだろう。

 

頷きながら、メモをとる。

 

いずれ自分もやるかも知れないし。

 

仕組みは見て覚えておきたい。

 

作る事が出来れば。

 

今後、推薦状取得の課題で、かなり有利に動き回れる筈だからである。出来るだけ、手札は大いに越したことがない。

 

錬金術師は戦略級の存在だ。

 

それはこの間から、散々思い知らされた。

 

だったら、戦略級の作業が出来なければならない。

 

色々知らなければ。

 

戦略級の仕事など出来ない。

 

戦闘でも、錬金術師は、主に相手に致命打を与えるために動く事になる。多分腕が上がってきたら、防御魔術や回復行動でも、戦略級の動きが求められるのだろう。

 

それを考えると。

 

今から、あらゆる事を貪欲に吸収しておく必要がある。

 

影の長さを見て。

 

時間が来たことを悟る。

 

一旦戻って、ゼラチンの状態を確認。

 

今度は中和剤を混ぜながら冷やし。

 

固まった所で細かいキューブ状に刻んでいく。

 

更に此処に、固定の魔術を掛けて完成。

 

固定の魔術はわたしには使えないので。

 

ベリアルさんに理論を教えて貰いながら中和剤で強い魔力を持たせたゼッテルに魔法陣を描き。

 

更にそれを六芒星の形で増幅して。

 

発動させた。

 

同じようなゼラチンをまず最初に一セット持ち込む。

 

ベリアルさんに品質を見てもらうが。

 

肥料としては問題無さそうだ、と言う事だった。

 

ただ、使ってみて、まずは様子見だという。

 

なお、ゼラチンと言っても。

 

幾つかの作業を経た結果、鋼のように堅くなっているが。

 

「順調だ。 質を上げながら、作業を続けてくれ」

 

「はい」

 

外を見ると。

 

かなり遠くまで、先ほどの測量をしていた。

 

更に次の作業に移るべく、第二陣の人員が来ていた。戦士数名と、技術者らしい人達。それに追加の荷車である。

 

どうやら安定したとオレリーさんが判断したようで。

 

作業を一気に進めるつもりなのだろう。

 

自動で移動する荷車に併走して、水を撒いている子供の人夫の姿が目立つ。遊び感覚でお金が貰えるのだから、むしろ構わないのだろうか。

 

老人の人夫は、ゆっくり行う作業に従事していた。

 

土を丁寧に耕して。

 

空気を入れていく。

 

見ると、錬金術で体力や筋力を補助するための道具をつけているようだ。農具もかなり軽い。鉱物の声を聞く限り、凄く強い魔術が掛かっているようで、軽く強くなっている様子である。

 

凄いなあ。

 

呟いてしまう。

 

わたしよりずっと格上の錬金術師は。

 

街をこうやって、戦略的に、ダイナミックに変えていく。

 

ソフィー先生もそうだったけれど。

 

他の熟練者も、こういう風に動けるんだなと言う事が確認できると、素直に凄いと言う言葉が出てくる。

 

早く一人前になりたい。

 

そうも思う。

 

今は、作業を知り尽くしているベリアルさんが指揮を執っているけれど。

 

いずれオレリーさんやソフィー先生のように。

 

わたしが陣頭指揮を執りたい。

 

出来るのだろうか。

 

やらなければならないだろう。

 

作業に戻る。

 

栄養剤と肥料を交互に造り、予備のストックも増やしておく。

 

そして適当な所で眠る。

 

体力が無い人は、アトリエの中で眠って貰う。

 

どうせ内部は広いのだし。

 

お姉ちゃんもレヴィさんも料理を作るのが楽しそうだし。

 

別に誰も損はしていない。

 

起きだすと、作業に戻る。

 

ドロッセルさんは外で力仕事をしていて。

 

大岩を遠くに放り投げたりしていた。

 

腕力を求められれば嬉しそうに飛んでいって。

 

其処で嬉々として体を動かしている様子だ。

 

あれで劇作家というのだから驚きである。

 

戦士としか思えないし。

 

人は見かけによらないものだ。

 

栄養剤と肥料の追加分を納入すると。

 

作業はかなり進んでいた。

 

手際が良いというよりも。

 

作業をしている人の力を何倍にもする道具が補助をしている事や。

 

指揮をしているベリアルさんが有能なのが大きい。

 

よく見ると、人夫達はつかれている様子も無い。

 

回復の魔術が常時掛かっていて、体力もそれに伴って回復しているのだろう。

 

耕すのはほぼ終わり。

 

今度は、細かい指示を出しながら、ベリアルさんが棒を植えていた。

 

その棒は二列に並んでいて、街道から東に向けてずっと続いている。途中。北上する分岐路もあった。

 

そして棒の間は耕されていないどころか。

 

硬化剤が撒かれている。

 

そう、あの水害対策の時に、ディオンさんが使っていた硬化剤だ。

 

「ベリアルさん、これは何をしているんですか?」

 

「うん? ああ、此処を街道にする。 道幅は少し大きめの馬車が通れる程度。 時々すれ違える場所も作る」

 

「それで栄養剤を入れないで、硬化剤を撒いているんですね」

 

「そうだ。 森の中では獣が大人しくなるのを利用して、むしろ森の中に街道を通してしまうのだ。 実際お前達も、ドナに来る最中は獣に襲われなかっただろう?」

 

はははとベリアルさんは笑うが。

 

しかし凄く怖い目に何度も何度もあった。

 

それを正直に話すと。

 

やっぱりまだ半人前だなとベリアルさんは遠慮無く大笑いし。お姉ちゃんが凄い目でベリアルさんを睨んだ。

 

冷や汗が流れるが。

 

咳払いすると、ベリアルさんは真面目な顔に戻る。

 

この人は猛々しい戦士としての顔とともに。

 

オレリーさんの第一の部下として。

 

ドナの重要な戦略事業に関わってもいる側面も持っているのだろう。

 

「明日辺りから、気が早い草が芽を出し始める。 数日待ってから、これを一旦刈り取り、焼き払って灰を撒く」

 

「少しずつ、背が高い草を植えていくんですね」

 

「そうだ。 最初に植える草には悪いのだが、これが一番緑化を早く進行させることが出来る」

 

メモをとる。

 

他にも、緑化作業をするには何をすれば良いか、順番に聞いていく。

 

少し考えた後。

 

ベリアルさんは、わたしを土手の方に連れていく。少し大きな岩があったので、崩して欲しいというのだ。

 

ドロッセルさんが既に来ていたが。

 

流石にコレは動かせないと、諦めていた。

 

無理もない。

 

前にわたしが、谷でブチ割ったのと同じくらいの大岩だ。

 

「鉱物の声が聞こえるフィリスどのだ。 これは砕けるか?」

 

「すぐにやります」

 

「ほう、心強いな」

 

「リア姉、手助けして」

 

お姉ちゃんが身軽に岩の上に上がると、わたしを引っ張り上げる。

 

そして、わたしが鉱物の声を聞きながら、つるはしを数度降り下ろすと。

 

岩はぱっくり綺麗に割れた。

 

更に何度か岩を砕いて。

 

荷車で運べる大きさにまで小さくしてしまう。

 

おおと、声が周囲から上がった。

 

上空で警戒のため旋回している魔族の戦士まで拍手をしてくれたので、ちょっと照れくさい。

 

「そのつるはしが特注品、と言うわけでも無さそうだな」

 

「何処をつつけば壊れるか、鉱物が教えてくれるんです」

 

「そうか」

 

ベリアルさんが、砕けた岩の中から、有用な鉱石は分けてくれる。

 

残りは全部徹底的に砕いて。

 

硬化剤に混ぜてしまうそうだ。

 

今は手が空いているので手伝うと言うと、頷いて任せてくれた。そのまま、作業の邪魔になっている岩をみんな砕いて回る。これで、更にみんなの作業が楽になる。

 

改良した手袋のおかげで、常にわたしも回復魔術を受けている状態なので、作業そのものはまったく苦にならない。

 

むしろ、どんどんはかどるので。

 

気持ちが良いほどだった。

 

夕方になると。

 

予想より早く、気が早い雑草が芽を出し始めていた。

 

緑化が進んでいる。

 

それを目で確認できて。

 

わたしもとても嬉しい。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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