暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、安全路の延長

一旦退避するように指示が出て。

 

キャンプに全員と荷物を収容。

 

更に、数人が防火の魔術を展開した後。

 

刈り取った草に火を放つ。

 

森の側でも、念のために、防火の魔術を展開している戦士が数名見える。

 

やがて、耕した土に芽を出した、灰になるために生まれてきた草たちが、端から順番に燃えていった。

 

火が消えると。

 

地面が灰褐色に変わっている。

 

すぐに次の作業開始。

 

土をまた耕し。

 

土と灰を混ぜながら。

 

土に虫を入れていく。

 

虫だけではない。

 

ミミズもだ。

 

ちょっと触るのが怖いけれど。

 

話を聞くと、ミミズや虫は、土を豊かにしてくれるのだそうだ。

 

栄養剤と魔力だけでは駄目で。

 

まずは土に空気が入り。

 

栄養が行き渡り。

 

虫やミミズが植物が育てる環境を整えて。

 

やっと森が出来るのだという。

 

そもそも、豊かな土がある場所は、それこそ放置していても勝手に草木が生長していくそうだが。

 

こういう場所では、最初に土を作らなければならない。

 

「後は何をすれば良いですか」

 

「今の時点では、栄養剤はもう充分だ。 土に触ってみると良い」

 

「温かいですね」

 

「そうだ。 魔力が充分に充填されている。 この土は、はっきり言って放置していても、その内森にまで育つだろう。 ただし、大雨が来たりすると話は別だ。 しばらくはこの辺りがしっかり森に育つまで、我等が面倒を見なければならん」

 

頷く。さながらこの辺りは、生まれたばかりの森。いや、これから森が生まれる保育籠というわけだ。

 

種まきが始まる。

 

充分柔らかくなっている土に、

 

人夫が並んで、種を植え込み始める。

 

何種類かの種を。

 

それぞれ違った植え方をしているようだ。

 

幾つかの種はとても大きくて。

 

多分いずれ木になるのだろうと思った。

 

作業を見ていても仕方が無いので。わたしは一度アトリエに戻って、今までにメモした事を順番に処理していく。

 

指輪はどうだろう。

 

魔術に寄って身体能力を強化したり、防御魔術を常時展開する指輪。

 

しかし、指輪は少し難しい。

 

腕輪は。

 

腕輪は、ある程度調整も効くし、簡単かも知れない。

 

金属加工については、鉱物が教えてくれるから、かなり簡単だ。問題はどう魔術を仕込むか、だが。

 

二層構造にして、間にゼッテルに仕込んだ魔法陣を入れるか。

 

だが、それだと激しい戦闘に耐えられないかも知れない。

 

メンテナンスも出来て。

 

すぐに修正できるのが一番だ。

 

更に激しい動きにも耐えられるものとなると。

 

ネックレスが良いか。

 

ネックレスに防御機能を持たせると。例えば首に掛けて、更に胸辺りに垂らすようにすると、人体の急所二つを同時に守る事が出来る。

 

良い考えかも知れない。

 

かといって、首に触る部分が金属だと、さわり心地が悪くて、戦闘を阻害する可能性がある。

 

レヴィさんの使っているようなマフラー式にすると良いかもしれない。

 

まさかマフラーが攻撃をはじき返したら。

 

それはそれで敵の意表を突けるだろう。

 

それがいい。

 

レヴィさんが料理を終えて持ってくる。

 

人夫達にレヴィさんの料理は人気で。

 

みんな楽しみにしているようだった。

 

今日は森で仕留めてきた大蛇の肉だ。

 

蛇肉は意外にさっぱりしていると聞いていたのだけれど。

 

確かに食べて見るととてもさっぱりしていて、元が蛇でなければ全然おいしいお肉と思える。しかも凄く大きい蛇だったので、原型が分からないのも嬉しい。

 

わたしも最初は抵抗があったけれど。

 

レヴィさんはお姉ちゃんと張り合って美味しい料理を作っているので。

 

いつも美味しい料理が食べられると、人夫達には好評だ。

 

戦士達も料理を楽しみにしている様子があって。

 

色々と苦笑してしまう。

 

空いている時間を見繕って、子供達に戦士の一人が戦い方を教えていた。

 

まだ幼い女の子もいるが。

 

魔術について熱心に習っている。

 

ドナで生まれなければ。

 

あの子は月の物が来たら、すぐに結婚させられて、子供を産まされていたのかも知れない。そして以降は、子育てで人生を全て使ってしまっただろう。実際エルトナでも、そういうような状態だった。

 

でもドナは豊かな街で。

 

ある程度の選択肢もある。

 

あの子がそういう運命を辿ることはないだろう。

 

エルトナも。

 

子供達が学んで。

 

好きな事を出来る状態にしたい。

 

今、ドナはまだその段階に完全には達していない。

 

実際あの女の子も、此処で働くために来ているのだ。

 

みんな美味しそうに料理を食べて。その様子を見て満足げなレヴィさんに、マフラーを貸してと言うと。凄く嬉しそうにした。

 

「フィリスよ、マフラーの良さが理解出来たとは感心だ。 この俺が、一晩中でもマフラーのすばらしさを語ってやろう」

 

「いえ、そうではなくて、構造が見たくて……手袋と同じように、錬金術による強化装備を作りたいんです。 首回りと胸を守るには、マフラーに魔術を仕込んで、防御魔術を展開するのが良いかなって」

 

「素晴らしい発想だ! 正にその発想、メビウスの輪のごとし!」

 

よく分からないけれど。

 

褒められているのだろうか。

 

お姉ちゃんが、レヴィさんに食ってかかる。

 

「ちょっと、レヴィさん! うちのフィリスちゃんに何をするつもり! 一晩中何かをフィリスちゃんに語って良いのは私だけよ!」

 

「あの、リア姉、それは誰にされても迷惑……」

 

「いかがわしい事なんてしたら、その首はもう翌日にはないわよ!」

 

「ハハハ。 こんな細い童女に興味などないわ、安心するがよい」

 

ちょっと今のレヴィさんの発言にはかちんと来たが。

 

ただ、とにかくこのままでは話があらぬ方向に行くばかりだ。

 

流石にわたしも何でもかんでも瞬間沸騰はしない。

 

レヴィさんのマフラーを強奪すると。

 

さっさと調べ始める。

 

構造については分かったけれど、縫い物としては比較的楽か。

 

まて。

 

これは或いは。

 

ちょっと面白い事を思いついた。

 

まず糸をどうにかしなければならない。

 

こればかりは、まだわたしの技術では作れないし、いいものもない。だから手袋の時も、素材は買った。

 

せっかくだから、今度は糸から作るか。

 

そして糸そのものに魔術を練り込めば。

 

想像以上に強力な武装が作れるかも知れなかった。

 

考え始めると、一気に雑念が飛ぶ。

 

ソフィー先生に貰った基本的な書物を見る。

 

糸の作り方については記載があった。

 

方法は幾つかあるが。

 

ある種の蜘蛛の糸が、非常に頑強な上、扱いやすいとある。

 

わたしは加工された糸しか見たことが無かったから。

 

これは欲しい。

 

他にも毛糸などがあるが。

 

これは家畜をどうにかしなければならない。

 

家畜用に改良されているヤギや羊から、糸を得る必要があるのだけれど。

 

それはオレリーさんに相談するか。

 

或いは商人に聞くか。

 

今はいずれにしても、自分で糸を作って見たい。

 

だが、糸を作る場合について調べたが。

 

これがかなり大変だ。

 

元々かなり危険な繊維を。糸繰りという作業で、糸に変えなければならないのだ。

 

これには専門の機械が必要で。

 

専用の職人がいるほどである。

 

なるほど、糸というのは、それだけ貴重な品だったのか。

 

どうもわたしは本当に世間知らずだ。

 

だが知ったからには。

 

それも何とかする。

 

しばらく集中して勉強した後、外に出ると、ホムが来ていた。街の重役の一人らしい。数字に強く不正をしないホムが来たと言うことは。

 

此処から森の作成が本番になると言う事だ。

 

なお、子連れである。

 

ホムは条件が整うと子供をたくさんたくさん作る事は知っているが。

 

その代わり、匪賊に非常に狙われやすいため。

 

商人として移動する時は必ず護衛を付けるし、街の外にはあまり出たがらないと聞く。

 

此処に来ていると言う事は。

 

戦士達に余程の信頼をしている、ということだ。

 

勿論オレリーさんにもである。

 

「現在の進捗はどうなのです」

 

「栄養剤と肥料に関しては、想定よりも出来が良い。 フィリスどのは筋が良いぞ。 覚えるのがかなり早い」

 

「以前来た鏖殺の……」

 

「鏖殺?」

 

ベリアルさんとホムが気付く。

 

礼をされたので、頷き返すが。

 

わたしが錬金術師と気付いたからか。

 

子供のホムは、親の影に隠れてしまった。

 

感情がヒト族に比べて希薄なホムだから、こんなに感情を表に出されるのは色々と珍しい。

 

怖がられたことよりも。

 

そっちの方が驚きだった。

 

「私はエル。 ドナの重役なのです。 この子はエスなのです」

 

「すみません、わたし、何かしてしまいましたか?」

 

「いえ、前に来た錬金術師どのが、とにかくとんでもない辣腕だったのですが。 その人を見てからと言うもの、この子は錬金術師を恐れるようになってしまったのです。 確かに恐ろしい人ではありましたが、ドナの南を一気に開拓してくれた人でもあるのです」

 

「あの手際は凄かったな。 人間業とは思えなかった」

 

ベリアルさんが苦笑する。

 

多分、その人は。

 

前にオレリーさんが口にしていた、規格外の錬金術師なのだろう。

 

それにしても鏖殺。

 

たしかそれ、みなごろしという意味の筈だ。

 

錬金術師は確かに戦略級の存在だが。

 

一体どんな人なのだろう。

 

やはり、ソフィー先生の事が、この話題になると脳裏をちらつく。

 

何故なのか、それが分からない。

 

「それで、何か問題かフィリス殿。 しばらくは回復薬や爆弾を作っていてくれれてかまわぬが」

 

「糸が欲しいと思いまして」

 

「糸か。 エルどの、扱っているか?」

 

「扱っているのです。 何種類かあるのですよ」

 

なるほど。

 

この人は数字の管理兼、軌道に乗ったこの緑化作業に、商売をするためにやってきたという訳か。

 

やはりエルさんの影に隠れて震えあがっているエス。

 

くんなのかちゃんなのかは分からないが。

 

本当に、ネームドを目の前にした鼠か何かのように震えあがっているので、此方が不安になってしまう。

 

どうすればいいのだろうと思ったが。

 

ベリアルさんが頭を掻く。

 

「すまんなフィリスどの。 許してやってくれるか」

 

「はい、そんな此方こそ、何か悪い事をしてしまっていないか心配で」

 

「そうか。 実際あの辣腕の錬金術師、とにかく怖かったからな。 人間離れしているというか、邪神でも逃げ出すような気配だった。 この子供が、恐怖をすり込まれてしまっても不思議じゃあない」

 

「ほらエス。 この人は、あの人とは違うのです。 糸を持ってくるのです。 商人としての修行をしたいといったのは、お前なのです」

 

ホムが声を荒げることは滅多にない。

 

エルさんも、怒っているようだが。

 

声は荒げていなかった。

 

エスさんは涙目で頷くと。

 

荷車から、見本らしい糸を出してくる。

 

「此方が羊毛から作った毛糸、此方が絹から作った絹糸、此方が蜘蛛の糸から作った銀糸、これは金の絹糸なのです」

 

「お値段は……」

 

露骨すぎるくらい差がある。

 

毛糸はとにかくお安い。

 

これは羊をドナで飼っているからだろう。簡単に入手できると言う事だ。

 

絹糸は少し値が張る。というか、正直な話、趣味の部類に入るだろう。というのも、薄いし脆い。ただ美しい。

 

お金持ちが、財力を見せびらかすために使う糸と見た。

 

銀糸は非常に鋭い。

 

説明を聞くが、兎に角頑強で、造りによっては鎖帷子に匹敵する防御力を出す事も可能だとか。

 

これに魔術を仕込むと、とんでもない強度の防具が作れるという。

 

ただしこの蜘蛛が、そもそもあまり糸をたくさん出さないらしく。

 

絹糸の何倍も値が張る。

 

金の絹糸に至っては、お金持ちでさえ目を剥くような値段がついている。

 

何でも山岳部などの一部に住む、非常に強靱な一種の蛾の繭から取る事が出来るらしいのだが。

 

これが非常に危険な蛾で。

 

周囲にも強力な獣がいるため。

 

手に入れるためには相当な苦労がいるとか。

 

むしろ、ネームドがどうしてか持っている事があるとかで。

 

それを狙った方が安全、というどうかしている説明まで受けた。

 

なるほど、それなら羊毛一択だ。

 

必要量を告げると。要求量は手元にないので、今回の物資配給が終わった後、持ってくると言われた。

 

此方としてはそれで構わない。

 

頷いて、商売成立。お金も払う。

 

エスさんは、話してから、少しだけ警戒を解いてくれたようだが。

 

やはり怖いようで、エルさんが咎めるのも振り切って、馬車の方に戻ってしまった。

 

「すみません、いつもは早く一人前の商人になるのだと、向上心が強いくらいの子なのですが」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「此方としても、錬金術師は大口のお客様ですし、とてもではないけれど錬金術師を避けろなどとは言えないのです。 アルファ商会に所属している私としても、少し心配なのです」

 

そうか、それは良いことを聞いた。

 

アルファ商会では、値段は均一を常に心がけているという話である。

 

さっきの糸の値段は覚えた。

 

今後アルファ商会の商人に騙される恐れはない。

 

勿論普段はそんな事は無いと思うけれど。

 

お姉ちゃんに口を酸っぱくして言われているのだ。

 

基本的に、お金には気を付けろと。

 

お金が関わると人が変わる奴はたくさんいる。

 

だから、お金に関しては、常にしっかり警戒しろと。

 

ホムの商人はまず不正をしないが。

 

ヒト族はそうでは無いし。

 

例外は何処にだってある。

 

不正をするホムもいるかも知れないし。

 

常に気を付けるように、と言う事だった。

 

商売の話を終えて。

 

周囲を見る。

 

最初の雑多な雑草と違って、少し力強い植物の芽が、彼方此方から顔を出していた。

 

しかしそれと同時に、あの雑草もまた生え始めていたので。人夫がそれを全て処理しているようだった。

 

いずれにしても。

 

まだまだ緑化作業は軌道に乗ったばかり。

 

この作業が頓挫しないように。

 

わたしはしばらく此処で釘付けだ。

 

そう思っていたら

 

不意にバッデンさんが喚びに来る。

 

「丁度良かった。 フィリスどの」

 

「はい、何ですか」

 

「どうもネームドが姿を見せた形跡がある。 今の時点で被害は出ていないが、早期警戒をしたい。 すぐに来て貰えるか」

 

「分かりましたっ!」

 

丁度ホムが来る位に状態が安定してきたのだ。

 

踏み荒らさせる訳にはいかない。

 

わたしはすぐにお姉ちゃんとレヴィさん、ドロッセルさんに声を掛けると。

 

ネームドらしき姿が見えた方へ向かうのだった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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