暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、北の脅威

結論から言うと。

 

ネームドの脅威は存在しなかった。

 

それは良かったのだが。

 

数人の戦士が獣に追われながら、特使を護衛していた。

 

北にある街、フルスハイム。

 

旅の途中で何度も名前を聞いた。

 

この国、ラスティンでも屈指の大都市。

 

世界でも珍しい万を超える人員を有する街。

 

其処から、強行軍で来た、と言うのである。

 

獣を叩き潰すのはむずかしくなかった。

 

わたしが強いわけではなく。

 

単に周囲の戦士達や、お姉ちゃんやレヴィさん、ドロッセルさんが強かっただけだ。

 

ただ、特使の話となると厄介だ。

 

ドナの街は、フルスハイムほどの規模は無いにしても。

 

近隣でも指折りの大都市。

 

その長老への特使となると。

 

かなり厄介な事が起きている、と言う事なのだろう。

 

そうお姉ちゃんが言ったので。

 

思わず首をすくめる。

 

この緑化作業は、トラブル続きだ。ようやく軌道に乗ったところなのだから、このまま何とか上手く行って欲しい。

 

そう思うわたしの意思と裏腹に。

 

なんでこう問題ばかりが起きるのか。

 

とにかく、獣を捌くのはレヴィさんとドロッセルさんでやってくれるらしいので。

 

わたしはお姉ちゃんと、ベリアルさんを交えて話を聞く事にする。

 

傷ついていた戦士達は、傭兵らしく。

 

わたしが薬を分けて、しばらくは休んで貰う事にする。フルスハイムへの帰路の護衛も、お仕事に入っている、ということだったからだ。

 

「それで、特使とは」

 

「例の竜巻の件で、オレリーどのに意見を聞きたいと。 分析結果を預かっています」

 

「ふむ」

 

「竜巻?」

 

ベリアルさんが説明してくれる。

 

フルスハイムは巨大な湖に面している街の一つで。

 

この湖を利用した水運で発展したそうである。

 

安定した水運は街道の要所となるのに充分な要件を有し。

 

湖に凶暴な獣が少ないこともあって(少なくとも船を撃沈するような怪物級の猛獣はでないそうだ)。人口万を超える都市へとなった。

 

しかしながら、その湖全体を覆う、巨大竜巻が発生し。

 

今、フルスハイムは存亡の危機にあるという。

 

絶句。

 

しかも、フルスハイムから、他の湖の縁にある街に行くには、危険で開拓もされていない荒野を抜ける必要があり。

 

とてもではないが、普通の戦力でできる事では無いという。

 

この辺りは、オレリーさんの話とも符合する。

 

しかし、竜巻についての対応策か。

 

どうすればいいのか気になるが。

 

いずれにしても、ここに来ている戦士達の手は裂けないだろう。

 

「わたしが、お姉ちゃんとレヴィさん、ドロッセルさんを連れてこの人をドナまで護衛します」

 

「よいのか」

 

「今は手が空いていますし、ちょっと物資が足りなくて試したいことも出来ないですし」

 

「分かった、それではお願いしたい」

 

ベリアルさんに、お薬と爆弾を渡しておく。

 

往復してもそれほど時間は掛からないし、その間に壊滅している、と言う事はないだろう。

 

ただ、先に伝令として。

 

空を飛べる魔族に、ドナに行って貰って許可を貰う。

 

流石に空をいけると速い。半日もかからず魔族の戦士は戻ってきて、オレリーさんの返答をくれた。

 

オレリーさんは承知してくれたのだ。

 

ならばもたついている必要もないだろう。状況は良いとは言えないのだから。

 

手紙の内容についても、大まかな話は既に伝令に伝えて貰ってある。

 

多分、特使の人は、かなりやりやすいはずである。

 

すぐにアトリエを畳むと、ドナに戻る。

 

人夫達は残念そうにしていたけれど。

 

すぐに戻るので、問題は無い。

 

ただ、何かがあると厄介だ。

 

出来るだけ急ぐ方が良いだろう。

 

無事とは言い難い特使は荷車に乗ってもらい。

 

護衛でフルスハイムから来た傭兵も、一緒に来て貰う。

 

とはいっても、ドナの戦士達に比べると何とも頼りない傭兵達だ。

 

或いはこっちの方が水準なのかも知れないが。

 

フルスハイムという街は、人口の割りに、ドナほどしっかりしていないのかもしれない。

 

公認錬金術師の実力の差だろうか。

 

それとも、長い間繁栄した結果、弱体化してしまった場所なのだろうか。

 

よく分からないけれど。

 

鯰ヒゲの特使を荷車に乗せると、出来るだけ急いで走る。

 

荷車が揺れるか聞くけれど。

 

心配ないと、特使には言われた。

 

まあ四輪だし。

 

更に道は良く整備されている。

 

獣も荒野に比べれば大人しい。

 

そういえば。

 

今更思う。

 

どうして荒野に比べて。

 

森にいる獣は大人しいのだろう。

 

お姉ちゃんに走りながら聞いてみるが。

 

獣も植物を傷つける事の意味を知っているからだろうとしか返ってこなかった。

 

本当だろうか。

 

どうも腑に落ちない。

 

たとえば、獣には、増える、食べる、寝る以外の行動が、優先されるとは思えない。

 

群れを作るのは、増えるのを効率化するため。敵から狙われにくくなるし、何より狙われても助かる確率が増える。

 

食べるのは生存するため。

 

寝るのもしかり。

 

つまり生きるために生きているのが獣だ。

 

植物があったところで、エサか寝床くらいにしか考えない。

 

そういう獣の方が、不自然では無い気がするのだが。

 

どうしてか、獣たちは緑を大事にし。

 

傷つける事を大罪としている。

 

獣の中で、緑を尊重しないのは。

 

匪賊くらいだ。

 

小走りで行く。

 

一緒に走っているお姉ちゃんが、警告をしてくる。

 

「フィリスちゃん、ドナ周辺は良いけれど、恐らく少し離れると匪賊が出るわ。 くれぐれも単独行動は控えるようにしてね」

 

「分かったよ、リア姉。 それにしても、本当に獣、仕掛けてこないね……」

 

「獣よけの処置をしているのもあるのだろうけれど、そんなに疑問?」

 

「うん……」

 

森の中に入った。

 

後は黙って、ハンドサインだけで会話する。

 

傭兵達にもそれは徹底してあるので。

 

静かなまま、荷車の車輪が動き続ける音が響いた。

 

強行軍なので、途中で干し肉をかじりながら走る。

 

手袋による回復効果は強烈で。

 

かなりの距離を走っても、わたしみたいなひ弱っ子でも、走り抜くことが出来た。普通だったら、こんな距離は走れない。

 

体力が常に回復し続ける。

 

それがどれだけ大きいのかは、実際にやってみてよく分かる。

 

勿論水晶を組み込んだ結果効果が上がっているのもあるのだろうけれど。

 

傭兵達が音を上げているのを見ると。

 

確かにかなり体力はついているのだ。

 

ただ、流石に傭兵達も歴戦の勇士である。

 

ドナの戦士達に比べると頼りないとは言う話だったが。

 

それでも、相当なものだった。

 

ドナまで無理矢理一日で到着。

 

傭兵達に休んで貰って、わたしは特使をオレリーさんの所へと案内する。

 

オレリーさんは特使をしらけた目で迎えるが。

 

書状を見ると、更に機嫌が悪くなった。

 

「本来はライゼンベルグから腕利きを回すべき何だろうに、何を考えているんだか。 それにフルスハイムにも公認錬金術師はいるだろう。 なんでこんな老いぼれに声を掛けてくる」

 

「そう言わずに、お願いします。 公認錬金術師のレン様も、オレリー様ならと仰られていて」

 

「あれは十代で公認錬金術師になった俊英だろう? 今更こんなババアの言う事を聞きに来るなんて、修練が足りないんじゃないのかね」

 

「その、お怒りはごもっともなのですが」

 

本当につらそうなので。

 

口を出そうかと思ったけれど。

 

お姉ちゃんがすっとわたしの腕を掴んだ。

 

こういうとき、口を出すと、却って事態をこじらせる。

 

そういう意味なのだろう。

 

「ともかく、意味不明な巨大竜巻という事だけれども、恐らくはドラゴンの仕業だろう」

 

「ドラゴン、ですか」

 

「ただし高位のドラゴンだ。 何かしらの理由で、湖で活動している人間の事が気に入らなくなったんだろうね。 前にも例がある」

 

本を取り出してくるオレリーさん。

 

本そのものが貴重品だが。

 

ちょっと覗くと。

 

地下室には、巨大な書斎があった。

 

あれだけで一財産どころか、とんでもない財産だ。

 

流石にこの街をたった10年で、森で覆っただけの事はある。

 

或いはライゼンベルグで蓄えた富かも知れないけれども。

 

「竜巻を起こすドラゴンの話は、ラスティン領内でも報告がされている。 また、水棲に特化したドラゴンの話もだ。 水棲のドラゴンは倒すのが難しい上に図体がでかくなる事が多く、兎に角厄介だがな」

 

「は、はあ」

 

「鈍いね。 竜巻を消したとしても、ドラゴンが害意を持っている限りフルスハイムは脅かされ続けるという事だよ。 一時的に竜巻をどうにか出来る可能性はあるが、対処療法でしかない。 しかも、噂には聞いているかも知れないが、ドラゴンは常に世界に一定数が存在している」

 

え。

 

何それ。

 

背筋が凍るかと思った。

 

ドラゴンと言えば、一番弱くても、強力なネームドと同等かそれ以上という実力を持っていると聞いている。

 

熟練した錬金術師でも、倒せるかどうかは分からないと言う話だ。

 

それなのに、そんなのが。

 

常に同数世界に存在しているのか。

 

つまり湖で悪さをしているドラゴンを倒しても。

 

また幾らでも沸いてくる、と言う事だ。

 

そしてまた沸いてきたドラゴンが悪さをしたら。

 

どうしようもなくなってしまう。

 

咳払いするオレリーさん。

 

「フィリス。 ドラゴンはね、同数が保たれているだけで、性質までは保たれないんだよ」

 

「えっ、そうなんですか」

 

「そうだ。 だから人間の街を積極的に襲撃するようなドラゴンは狩る意味がある。 逆に、人間を積極的に攻撃しないようなドラゴンは、例え邪魔でも放置しておいた方がいいんだよ」

 

「……不思議な話、ですね」

 

いずれにしても。

 

オレリーさんは書状をしたため始めた。

 

散々説教はしたが。

 

一応返事はするらしい。

 

書状をスクロールにすると。

 

蜜蝋で止めて、特使に渡す。

 

特使は恐縮した様子で受け取った。

 

「フィリス、いいかい」

 

「は、はいっ!」

 

「私はこの情けないのを護衛して先にフルスハイムまで行ってくる。 あんたは緑化作業を続けな。 リアーネ、この書状にある家に行って、渡してきな。 まったく、十代で公認錬金術師試験に受かったっていうから、俊英だと思っていたのにこれだ。 まだまだ引退は出来そうに無いね。 ライゼンベルグの唐変木どもの為体にも反吐が出る」

 

ああ、なるほど。

 

やはり何というか。

 

この人は、ライゼンベルグに嫌気が差して、首都を離れたのだ。

 

それを何となく理解してしまった。

 

オレリーさんは、絨毯のようなものを出してくる。

 

なんとそれは、オレリーさんと特使、護衛の傭兵二人を乗せたまま、浮き上がった。

 

空飛ぶ敷物。

 

やはり、錬金術の道具で。

 

お空は飛べるのか。

 

思わず興奮して頭に血が上る。

 

抑えるように努力していたのに。

 

「オレリーさんっ!」

 

特使の方がびっくりして、絨毯から落ちかけた。

 

オレリーさんは神経質そうにわたしを見る。

 

「そ、それ、どうやって浮かせているんですか!?」

 

「……簡単に言うと、グラビ石という、浮遊する石がある。 これを利用しているんだよ」

 

「分かりましたっ! ありがとうございます!」

 

「ほら、そこ。 一応の防御魔術は掛かっているけれど、落ちても知らないよ」

 

特使に警告すると。

 

オレリーさんは、一気に絨毯を動かし、空に舞い上がった。

 

手をかざして、思わず見送ってしまう。

 

街の住人は、ああ長老が飛んでいる、くらいにしか見ていない。

 

そうか、時々ああやって出かけていくのか。

 

体がぽっぽか温かい。

 

興奮して、それが抑えられなかった。

 

「リア姉、凄いね! 空飛んでる!」

 

「フィリスちゃん、そんなに嬉しかった?」

 

「うん! いずれわたしも作る!」

 

「そう。 でも、落ちると危ないから気を付けてね」

 

長老の家の扉は自動で鍵が掛かるらしく。

 

わたし達が出ると、後ろで勝手に閉まった。この辺りも、高度な錬金術で仕組みを制御しているのだろう。

 

後は、お姉ちゃんが言われた通りの場所に行く。

 

街の副長老扱いの老人がいる。

 

かなりの数の戦士も、常駐しているようだった。

 

この老人は、メッヘンのカツラのお爺さんと違って、背も伸びていて、眼光も鋭い。

 

多分元戦士なのだろう。

 

手紙を渡すと、厳しい目つきで受け取られて。

 

そして。まだ興奮が冷めない私に、事務的に言った。

 

「長老が言ったとおりに作業を進めてくれ。 ドナの方は、基本的に心配はいらない」

 

「分かりました。 すぐに緑化作業に戻ります」

 

「うむ……」

 

後は、作業をしている場所に戻るだけだ。

 

先に、商人の所に行く。

 

幾つか商家があったが。

 

この間キャンプに来たエルさんとエスさんの所は、比較的すぐ見つかった。

 

毛糸が入っているかどうかを確認すると、もう用意していたという。

 

すぐに受け取る。

 

緑化作業を行っている場所で。

 

時間的余裕が出来たら作りたい。

 

そう告げると。

 

小首をかしげられた。

 

「毛糸で錬金術です?」

 

「はい。 あ、黒く染めてあるものありますか?」

 

「ありますが、少し割高になりますよ」

 

「構わないです」

 

ちょっと追加料金を払い、品物を受け取る。

 

毛糸は柔らかくて、いつもわたしが着ている服よりも、ずっと着心地が良さそうだった。ただ温かい反面すかすかなので、そのまま地肌の上に着るのは向かないだろう。

 

待っていたレヴィさんとドロッセルさんと合流。

 

すぐに緑化作業に戻る事を告げると。

 

ドロッセルさんは、その前に食事にしないかと提案してきた。

 

そういえば、走りながら干し肉をかじっていたのだ。

 

あまり良いものを食べていなかった。

 

そう思うと、急におなかも空いてくる。

 

まあ、少しくらいは良いだろう。

 

まずは、おなかを満たして。

 

それから、走って職場に戻る。

 

それだけだ。

 

 

 

森を抜けると。

 

光景がかなり変わっていた。

 

まず硬化剤で固めた道の左右は、かなりの緑が見えるようになっている。川側の一部は、既に畑にするように、調整をし始めているようだ。土手の方にも手を入れ始めている。土手から上がって来た獣が、人を襲わないように処置をしているのだろう。

 

物見櫓も建てられていた。

 

木材は、森の中から幾らでも採ってくることが出来る。

 

上空をアードラが旋回しているが。

 

戦士達は、近づいてこない限り相手にしない。

 

でも彼奴は、多分人夫として働いている子供を狙っているはずだ。

 

さらわれたらまず助からない。

 

一旦荷車を止めると。

 

お姉ちゃんに頼んで、射掛けて貰う。

 

頷いたお姉ちゃんは、上空を旋回しているアードラに、一矢を見舞う。

 

その一矢が、以前より更に鋭くなっている。

 

今までの戦いで、痛打を浴びせられなかったのだ。

 

お姉ちゃんも、相当に腕を磨き直していたのだろう。

 

矢は吸い込まれるように、アードラに直撃。

 

翼を貫通して、アードラは態勢を崩して真っ逆さまに落ちた。

 

地面に直撃したアードラ。

 

戦士達がやれやれと言わんばかりに躍りかかると。

 

瞬く間に、肉塊にしてしまった。

 

羽はむしり。

 

肉は解体して、その場で焼き始める。

 

小さめなアードラだったから良かったけれど。

 

大きな奴だったら、今ので仕留められるかわからなかった。そうお姉ちゃんはぼやく。多分力不足を、わたし以上に嘆いていたのだろう。

 

影で相当に努力していたと見て良い。

 

キャンプに到着すると。

 

ベリアルさんが迎えてくる。

 

長老が絨毯で飛んでいくのは、もうベリアルさんも見たらしい。

 

いつも飛んでいくのかと聞くと。

 

重要事しか使わないそうだ。

 

「錬金術の技は、世界に干渉するほどの力を持っている。 ましてや長老ほどの凄腕になるとなおさらな。 だから、明確に世界にとって良い使い方で無い場合は、出来るだけ自粛する。 それが長老の方針だそうだ」

 

「なるほど……」

 

「それよりも、見ての通りだ。 まず肥料については、充分な出来だ。 もう少し増やしてくれるか」

 

満足げに見せてくれる緑の野。

 

数日留守にしただけだったのに。

 

こんなに変わるものなのか。

 

肥料を増やす件については承った。

 

注文も受ける。

 

「肥料に魔力を込められるか」

 

「魔力、ですか?」

 

「そうだ。 土地に魔力がある事が、植物が育つ最低条件になる。 だが肥料にも魔力を込めると、更に植物の成長が早くなる。 以前、化け物級の錬金術師がそれを利用して、一気に森を作り上げていてな。 此方でも出来るようなら、ノウハウを確立したい」

 

「分かりました。 やってみます」

 

肥料の作り方は分かっている。

 

これに強い魔力を充填してやれば大丈夫だろう。

 

すぐに作業に取りかかる。

 

現時点では不足している物資はない。

 

問題は、発酵を錬金術で促進する間に時間が出来ること。

 

釜がもう一つあれば。作業を更に効率化出来るのだけれど。

 

そもそも、今使っている釜が、充分以上過ぎるほどに良い代物なのだ。これ以上のものを望むのは贅沢が過ぎる。そんな事はわたしも分かっているから、贅沢は出来るだけ言わないようにする。

 

肥料を造り。

 

出来た端から渡す。

 

外では、既に伸びるのが速い植物が。

 

低木になりはじめていた。

 

水さえ適度に与えてやれば。

 

こんなに速く低木になるのか。

 

肥料を届けると。

 

品質を確認しながら、ベリアルさんが教えてくれる。

 

「今低木にまで育っているものは、いずれ森の中心になる木だ。 その周囲に、少し成長が遅いが、森を維持するのに必要な木を植えていく」

 

「森そのものを、丁寧に作るんですね」

 

「そうだ。 だが森を作るノウハウは、必ずしも知られているわけではなくてな。 栄養だけ与えても駄目だし、いきなり木の種を植えても駄目だ。 土地の緑化が重要だとわかり始めたのは、意外に近年のことで、俺たちは最新鋭の技術で森を育て上げている事になる」

 

なるほど。

 

ひょっとすると、ベリアルさんにとっては、オレリーさんが持ち込んだ技術を、四苦八苦しながら使っているのかも知れない。

 

魔力を込めた特性の肥料も渡す。

 

ベリアルさんは頷くと。

 

緑化している地域のごく一角。

 

実験用と書いた立て札が立てられ。

 

縄で囲んでいる場所で、それを使うと言っていた。

 

「あの錬金術師のように上手く行くとは限らない。 俺たちの方でも試行錯誤して、ノウハウを掴まなければならない。 ウィッテ!」

 

「はいはいー」

 

とろそうなヒト族の女の人が来る。

 

ぐるぐるの眼鏡をつけていて。白衣を着ている彼女は。

 

茶色い髪の毛もぼっさぼさ。

 

何度も転びそうになりながら来る様子は、わたしも見ていて不安になってしまう。

 

わたしより五〜六歳は年上に見えるが。

 

ぺこぺこしながら通り過ぎる。

 

何だろう。

 

凄く罪悪感を覚える。

 

「此方ウィッテだ。 錬金術師の才能はないが、ホム並みに数字に強く、様々な研究を得意としている。 錬金術が使えれば、長老が弟子にしていた、と公言している」

 

「初めまして、フィリスさん。 私よりずっと若いのに、錬金術師として活躍していてすごいですねえー」

 

「あ、はい。 ごめんなさい」

 

「へ? あ、まあともかく、使わせて貰いますね。 ノウハウさえ確保できれば、緑化のテクノロジーを更に進化させて、もっと荒野を行き来しやすく出来ると思うんです」

 

そうなのか。

 

何というか、マイペースに喋る人だ。

 

そのまま、嬉しそうにてれてれしながら、ウィッテさんは言う。

 

「森には獣を大人しくさせるだけでは無くて、保水力を高める効果もあるんですよ。 しっかりと森が土地を守っていると、災害も起こりにくくなるんです」

 

「ウィッテ、その辺に」

 

「すみません、ベリアルさん。 新しい技術に触れると、つい興奮してしまって」

 

「分かります」

 

わたしの手を握って上下にぶんぶんすると。

 

ウィッテさんは、早速肥料を確認して。

 

作業を始めていた。

 

わたしは、そのまま肥料を追加で作ってくれと頼まれたので、普通の肥料を作る作業に戻る。

 

さて、このまま何も起きなければ良いのだけれど。

 

キャンプに戻って、アトリエに入ると。

 

奥で子供達が、レヴィさんに食事を振る舞われていた。

 

わたしも欲しいけれど。

 

ちょっと我慢しよう。

 

あの子達が、働かなくても良いくらい豊かになれば。

 

きっと世界はもっと良くなる。

 

わたしは。

 

良く出来るかも知れない力を持っている。

 

だったら、今は頑張るべき時だ。

 

錬金術が使えなくても、頑張っている人もいることも分かった。

 

一流の錬金術師でも、どうにもできない事があることも分かった。

 

それならば、今は。

 

腕を兎に角磨く。

 

それだけだった。

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