暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
オレリーさんが戻ってきた。
緑化作業の進捗をついでに見にも来た。
わたしはそれを知らされて、慌てて中和剤の作成を切りが良いところで切り上げて、アトリエを出る。
ベリアルさんが、レポートを渡し。
それをオレリーさんがチェックしている所だった。
「オレリーさん!」
「調合中だったらそっちを優先しな。 失敗したら大変な調合の場合もあるだろう?」
「あ、はいっ。 すみません。 切りが良いところで切り上げました」
「まあいい。 ベリアル、現時点での緑化は順調だが、少し予定を早めようと思っていてね」
予定を早める。
緑化作業を更に進める、と言うのか。
わたしの方を一瞥だけすると。
オレリーさんは続けた。
「フルスハイムの様子を見てきた。 あれは予想通り、いや予想より悪い。 間違いなく最高位のドラゴンが悪さをしているね」
「最高位のドラゴン!」
「ああ、中級くらいの邪神に匹敵する相手だよ。 今ライゼンベルグにいる唐変木どもでは手も足も出ない。 恐らくは、何かしらの理由で知っているねアレは」
戦慄する。
フルスハイムについては調べたが。
この近辺のインフラは、フルスハイムがなければ話にならない。
ドナの北東にある巨大湖は、大陸最大の湖で。
これによる水運でフルスハイムは発展してきて。
そして水運に湖沿岸の都市は頼り切っている。
陸路は荒野だらけで、当然危険な獣、場合によっては当然ドラゴンやネームド、邪神さえ出ると言う。
そんなところ。
通れるわけがない。
「フルスハイムのレンは、竜巻を押さえ込む方法で検討しているようだけれども、あれはどう見ても手が足りないね。 最近優秀な若手の錬金術師が手助けに入ったようだけれど、それでも手が足りていない」
「ふむ、長老。 何か手があるのですか」
「北の遺跡を調査してきたが、地下部分のネームドがごっそり消えている」
「!」
北の遺跡と言えば。
ネームドの巣窟。
地下にはドラゴン並みのネームドもたくさんいると言う話だ。
それが消えたというのは。
まさか、何処かに移動を開始したのか。
街でも襲われたら大変な事になる。
一匹でもネームドはあんなに桁外れに強いのだ。たくさん出てきたりしたら、それこそどうにもならない。
だけれど。
オレリーさんは、そんなわたしの心配を先回りするように言う。
「地下は地獄と化していた。 少し調べていたが、手当たり次第にネームドが殺されていたよ。 獣も怯えきっていて、私を見るだけで逃げていく有様だった。 あれは、とんでも無い奴が蹂躙したと言う事だね。 地下にいたネームドは全部が駆除されたんだよ」
「待ってください長老。 あそこにいるネームドは……」
「出来る奴に心当たりがあるだろう」
「!」
ベリアルさんが押し黙る。
わたしは。
嫌な予感で、直接胃が締め付けられるようだった。
「地上部分のネームドもかなり減っている。 獣そのものもね。 上手く行けば、最短ルートで、安全にドナとフルスハイムを行き来できる経路を作れるかも知れない。 そうすれば人員の行き来が容易になって、フルスハイムへの増援を廻せるようになる筈だ。 東への緑地延長は後回しだ。 遺跡まで緑地をつなげられるかい?」
「……遺跡には俺も行ったことがありますが、もしもフルスハイムへの直通路を作るとしたら西端だけでしょう。 彼処を無理矢理緑化するとなると、かなりの危険を伴いますが……」
「フィリス」
「はいっ!」
オレリーさんの厳しい目がわたしに向く。
兎に角容赦がなくて。
締め上げられるようだった。
「これから二手に分かれるよ。 私が精鋭を連れて、北の遺跡のネームドを削る。 ベリアル、あんたは一線級を連れて私を手伝いな」
「承知っ!」
「バッデン、戦士を十五人追加だ。 これから私が街に戻って連れてくる。 緑地の護衛はあんたに任せる。 フィリスへの指示は出来るね?」
「お任せを」
空気が変わる。
ベリアルさんもバッデンさんも、指導者としてのオレリーさんに絶対の信頼を寄せているのだ。
そしてオレリーさんも。
その信頼に応える実力を見せている。
これが修羅場を散々くぐってきた人の「凄み」か。
生唾を飲み込むわたしに。
オレリーさんは言う。
「聞いての通りだ。 これから、北にある遺跡と緑地、街道を直結する。 ルートはバッデンが指定するから、あんたは栄養剤を追加で造り、肥料を大量生産しな。 栄養剤の素材は私が持ち帰る」
「分かりました!」
「後、これから一線級の戦士が抜ける。 人夫達が獣に襲われる可能性が出てくるから、常に気を張りな。 人夫達に作業させるのは昼間だけ。 夜はアトリエに収納するんだよ」
「はい」
頷くと。
オレリーさんは、一度絨毯でドナに戻り。
そして、戦士を追加で連れてきた。
十五人追加される代わりに。
錬金術の装備で身を固めた精鋭(装備類も、オレリーさんのお手製の、それも最強の品ばかりの様子だ)が、北の遺跡に向かう。
何しろ状況が状況だ。
一気にけりを付けるつもりなのだろう。
ベリアルさんも、オレリーさんについていった。
さて、ここからが大変だ。
バッデンさんと話し合う事にする。
既に夜。
アトリエに人夫達を収容し。
食事をしながらだが。
お姉ちゃんとレヴィさん、ドロッセルさんにも立ち会って貰う。
ここからが正念場なのだ。
「まず懸念すべきは二つ。 長老達が大きな手傷を受けて戻ってきた場合だ」
「相手は弱めのネームドだと聞いていますけれど」
「それも複数が相手になる可能性がある。 長老の実力は相当なものだが、それでも複数のネームドが相手になると、遅れを取る可能性がある。 まあ、ベリアルもついているし、まずないとは思うが。最悪の可能性に備える必要がある、と言う事だ」
「フィリスちゃん。 凄い戦士でも、とんでもないミス一つから、格下に負ける事が確かにあるの。 備えておくことに損は無いわ」
お姉ちゃんがバッデンさんをフォロー。
分かった。
お薬の準備はしておくべきだろう。
そして、此処からだ。
現時点での緑化作業をしている地点はそのままに、増えた人員を活用して、これから突貫工事で北へ緑化作業を行う。
既にある程度手が入っている地点は良いとして。
此処からは突貫工事だと、バッデンさんは言う。
「まず土地を耕す必要があるのだが、北の遺跡手前はかなり大きな岩だらけでな、これを砕く必要がある」
「オレリーさんがネームドを駆除している最中にそれはまずいのでは」
「そうだ。 故に、まず順番に緑化の経路を北に延ばしていく」
地図を拡げて。
すっと指を乗せ。北上させていくバッデンさん。
ちなみに遺跡までは、此処から歩いて一日ほど掛かる。
その距離を緑化となると。
最低でも三週間以上は貼り付きっぱなしだろう。
更に、水を輸送するのも相当に大変な作業になる筈だ。
水が湧き出してくるような道具があればいいのだけれど。あったとしても、今のわたしにはとても作れないだろう。理論さえ思いつかない。
「順番が必要だな」
レヴィさんの言葉に。
バッデンさんが頷いた。
ドロッセルさんが提案する。
「自衛力がある私が、とりあえず必要な地点を耕すよ。 後、戦士達も同じようにして手伝ってくれると嬉しい」
「ふむ、その間に栄養剤を作るのだな」
「フィリスちゃん、出来る?」
「はい。 それと、あの自動で動く荷車、見せてくれますか? もしも出来るようなら、わたしのも同じように改造しようと思って」
腕組みするバッデンさん。
確かにあれが増えれば、水を運ぶのが格段に楽になる。
やがて、頷く。
「分かった、任せよう。 ただし、壊すなよ」
「はい。 肥料については、ある分を全て渡しておきます。 夜の内に、荷車を調べさせてください」
これで、一旦当面の方針は決まった。
わたしは、自動で動く荷車を確認。
荷車はわたしが作ったのより、ずっと良く出来ている。
頑丈だし。
色々と修理がしやすいようにもなっていた。
部品を取り替えれば。
すぐに動かせるように、幾つかのパーツが組み合わさっているのが凄い。しかもこれは、量産できるようだ。
それに、誰でも分かるように。
組み立て方、解体の仕方が書かれている。
凄い仕組みだ。
メモを全てとり。
心臓部を確認する。
どうやら、追従の魔術が掛かっているらしく。
声を掛けた人間に自動的についていくようになっている様子だ。
荷車を引く必要さえないのである。
なるほど、便利だが。
しかしこれは、奪われないことを前提にしたものだ。
今も戦士の護衛がいるから出来ている事であって。
本来は街の中で使う物、なのだろう。
或いは、匪賊を完全に排除しているから出来るのであって。
本来街の外に持ち出してはいけないものだ。
頷きながら、魔法陣の仕組みをメモ。
魔術としては理解出来るけれど。
それ以上の事は複雑すぎる。
数日を掛けて研究していくしかない。オレリーさんに手ほどきをして貰えれば、楽なのだけれど。
いや、此処で楽をすることを考えては駄目だ。
此処でわたしは。
一気に力を付ける。
出来る事を増やして。
そして、先に行くための力を手に入れる。
そうしなければ、いずれ絶対に頭打ちになる。
わたしは魔術師としては大したこともないし。
錬金術師としても、才能がどれくらいあるか分からない。鉱物の声が聞こえるのはレアな特徴らしいけれど。
それぐらいしか武器がない。
荷車をしばらくチェックした後。
わたしの荷車も、改良点がたくさんある事を理解。
いずれ連結して複数台の荷車をつなげて運ぶことも考えなければならないが。
その時には。今見たものが役立つだろう。
アトリエに戻ると。
人夫達に先に休んで貰って。
わたしはメモを元に、魔法陣をゼッテルに書く。
お姉ちゃんとレヴィさんに確認して貰い。
その複雑さに驚かされた。
「追従の魔術か……」
「これ、例の荷車に?」
「うん。 これで動かせると思う?」
「いや、このままでは駄目だな」
レヴィさんに駄目出しされる。
だが、レヴィさんは、きちんと理由も説明してくれた。
「これは魔法陣の一部の筈だ。 恐らく、停止の魔法陣もあるはず。 そうでないと、そもそも指示を出したら、荷車に一生追いかけ回されることになる」
「あ、そうですね、確かに」
「他にも、多分前進、後退などもある筈だ。 確認するべきだな」
「分かりましたっ」
言われて、すぐに調べる。
集中力が、頭の回転速度を上げる。
わたしは、今。
錬金術を、確かにたのしんでいたかも知れない。
翌日から、本格的な作業が開始された。
今まで単純に経過を見守るだけだった緑化作業が、一気に方針転換。北への街道を延長する方向で作業が開始されたのである。
更に、北の遺跡から追われた獣が来る可能性もある。
また、可能性は低いけれど。オレリーさん達が敗走するのを、撤退支援しなければならないかもしれない。
最大限の警戒が必要だった。
お姉ちゃんは見張り櫓に登って貰い、周辺を警戒。他の櫓にも、目が良い戦士に登って貰う。
レヴィさんは人夫達の真ん中に。
いざという時には、防御魔術で時間を稼ぐためだ。
ドロッセルさんは、屈強な戦士達と一緒に最前線で土を耕して、空気を入れる。
乾燥しきった死んだ土に。
まず空気を入れ。
その後に栄養剤を入れて。
更に水を投入。
成長が早い雑草の種を入れる。
その基本的なやり方は、わたしも分かった。
だが、問題は森から距離がある事だ。
まだ途中の緑地は木が育ちきっていない。
獣がこの状況で、どれくらい手加減をしてくれるのか、よく分からない。人夫にさせられる作業と地点は、かなり限られてくる。気を付けて護衛を入れないと、大変な事が起きるだろう。
ただでさえ、森の中は「比較的安全」であって、人間を獣が襲わない、というわけではないのだから。
今も実際。
森の中から、大きな蛇が此方を見ている。
わたしなんて一瞬で絞め殺して丸呑みにしてしまいそうな蛇が、
舌をちろちろさせながら。
此方を見ている。
蛇がその気になればとても素早く動けることを、わたしは知っている。この間から、何回か見たからだ。戦士達はあっさり倒していたが、わたしに同じ事が出来るとはとても思えない。
バッデンさんに栄養剤を渡す。
頷くと、ベリアルさんほど手際は良くないけれど。
バッデンさんは作業を淡々と進めていった。
予定よりも、栄養剤の必要量が多くなる。元々の作業予定よりも、かなり緑化する地域が増えるからだ。
勿論、オレリーさんが「化け物」呼ばわりしていた人の作業ほどではないが。
それでもわたしの想定していた作業よりも相当に量が多い。
栄養剤をもう一セット作る。
深核は使い切ってしまった。
黄金のぷにぷに玉は出来るだけ温存したいが、これは仕方が無いだろう。
場合によっては使う事を視野に入れなければならない。
そのまま肥料の作成に移る。
キャンプの位置も、途中で相談して、少しずらした。
水の便は少し悪くなるが。
水路を途中で作り始めたので、それも二日以内には解消されるはずだ。
堤防には将来を見越して水路用の管が設けられており。コレは普段は魔術で完全封鎖されているのだが。
今、一部を解放する準備をしていた。
こういった準備を見ても。
オレリーさんが如何に長期計画での緑化を考えていたのかがよく分かる。
本当に先の先まで読んで、この10年動いていたのだなと、感心するばかりである。
わたしなんて、メッヘンでは目先の事しか考えられなかったのに。
本当に、先の先まで考えて、手を打っている。
ドナが発展しているのも当たり前だ。
しかも、オレリーさんはもう相当な高齢。
普通だったらボケが来てしまってもおかしくないのに。
エルトナにいたグリゴリさんの事を思い出してしまう。
あの人は悲しい出来事に運命を翻弄され。
哀しみの末に呆けてしまった。
勿論年齢もあるだろうが。
それ以上に哀しみが大きかった。
オレリーさんは、そういうものとは無縁だったのだろうか。
いや、そんな事は無いはずだ。
それこそ。
あれ。
何だろう。
ちょっと今、凄く嫌な予感がした。
頭を振って、調合に戻る。
嘆息すると、肥料が発酵する間の時間を見越して。
ゼッテルに魔法陣を仕込む。
防御魔術の魔法陣。
それにエルトナ水晶を使って。
最終的に威力を何倍にも増やし。
大気中にある魔力を吸い上げ。
それを動力源に、永続発動するようにする。
そういえば、これも不思議だ。
大気中には魔力がいくらでもあるのに。
どうして地面には定着しないのだろう。
とにかく、ゼッテルに魔法陣をたくさんたくさん書く。そしてマフラーに仕込む。正確には、こよりにして、マフラーの素材になる毛糸に仕込む。
そして毛糸をマフラーに編む。
編むやり方は、意外にもドロッセルさんが指導してくれた。
手際よく編んでいくドロッセルさん。
わたしも四苦八苦しながら、一緒になって編んでみるが。やっぱりかなり不格好になってしまう。
ドロッセルさんは苦笑いすると。
最終的な作業だけやれば良いと言って、手際よくぱっぱとわたしとお姉ちゃん、レヴィさんとドロッセルさんの分を編み上げてしまった。
編み上げた後、エルトナ水晶を磨いて。
複数個が、マフラーの先端にぶら下がるようにする。
エルトナ水晶の声を聞きながら丁寧に磨き。
魔術と相互作用していることを確認しながら。
インゴットを加工。
薄く引き延ばし。
エルトナ水晶を覆って。
フックでマフラーとつながるようにする。
後は首に巻いてみた後、自分で実験。
何回か自分を軽く叩いてみたが。
恐ろしいほどに衝撃が緩和される。
お姉ちゃんが心配そうに見ていたので、せっかくだから手伝って貰う。
「リア姉、わたしをこれでぶってくれる?」
「出来る訳ないでしょ! フィリスちゃんに手を上げるなんて、そんな事するくらいなら私は舌を噛んで死ぬわ!」
「大げさだよリア姉!」
何事だとレヴィさんが此方を見に来ていたので、慌てて状況を説明する。
そうすると、レヴィさんが、じゃあ俺がやると言い出した。
「フィリスが造りし不可思議なる道具を試すのだろう? まずは自分で実験するという心がけ、正にものを作り上げた人間に相応しいものだ。 故に俺は漆黒の風となって力を貸そう」
「は、はあ。 お願いします」
「こんな感じかな?」
思い切りハンマーで腹パンされた。
いや、レヴィさんは手加減していただろうけれど。
わたしは思わずうぐと呻いて、その場に蹲る。
お姉ちゃんがナイフに手を掛けるのを見て、慌てて止める。
「止めてリア姉! 大丈夫! 全然平気!」
「フィリスちゃん、無理はしていない?」
「平気! 本当に平気!」
立ち上がる。
事実手袋の回復効果との相乗で、すぐに立ち上がれる。
これは実用的だ。
今回はこの程度の出来だが、今後編み込むゼッテルを増やし。魔法陣を改良すれば、更に強力なものに仕上げられるだろう。
でも、今のは。
ちょっと痛かった。
わたしはまだ鍛え方が足りない事を痛感させられる。
とりあえず、完成品は皆に配る。
レヴィさんには、きちんと黒いのを渡した。
勿論喜んでくれる。
効果がシンプルなのも気に入ってくれたようだ。
「防御効率が上がるのは嬉しいな。 いずれもっと強力になるようにしてくれ」
「分かりました」
「まあフィリスちゃんが作った道具なら、つけるのは吝かじゃないわ」
お姉ちゃんはそんな事を言っているが、苦笑いしているドロッセルさんには気付いていない。
編んだのはドロッセルさんなのだけれど。
これは敢えてネタ晴らしをする必要もないだろう。
その後は肥料の作成にしばらく注力し。
余裕が出来たタイミングで、手袋を量産する。
身体能力が上がる上に常時回復が掛かる、以前作った手袋だ。
人夫に配れば、作業効率は更に上がるはずである。人夫達も似たような道具を身につけているようだが。重ね掛けになるから、更に効果が上がる筈だ。
十セットを、肥料を作る合間に造り。
人夫に配ってつけて貰う。
作業が楽になったと、皆とても喜んでくれたが。
まだまだ、やらなければならない作業は山積みである。
一日が過ぎ。
二日が過ぎた。
三日が過ぎた頃には、必要量の肥料を撒き終え。新しく耕した区域が、既に雑草の緑に覆われ始めていた。
その一方で、最初に耕していた辺りは。
既に低木が覆い始めている。
それについても、丁寧に作業をして、森を作るために順番に色々と手を入れているようだ。
バッデンさんに一つずつ聞いて。
手順を覚える。
いずれわたしも、単独で緑化作業をやらなければならなくなるかも知れないのだ。
緑化については、手順を暗記するほど知っておかなければならないだろう。
また、水路も掘る。
事前に指定してあったらしく、敢えて耕していなかった場所を掘り。更に硬化剤で岸を固定。
街道になっている場所の下には既に作ってあった管を通し。
そして川にあった管の封印を解除。
水が流れ込む量は、バルブで調整出来るようだ。
すっと流れ込んでいった水。
水は非常に綺麗だが。
生活用水としては使えても。
飲むのは駄目だと、バッデンさんに釘を刺される。
「一気に進展しましたね」
「これで五割という所だな。 後は長老がそろそろ第一次遠征から戻ってくる筈だが……」
「オレリーさんに、精鋭がついているとなると、生半可なネームドには負けるとは思えないですけれど」
「そうなんだがな。 そうやって、死んで行った奴を俺は何人も知っているからな」
背筋に寒気が走る。
バッデンさんほどの強者でもそうなのか。
だとすると。
わたしなんかは、もっと気を付けて。
それこそ常に、慎重すぎるほどに動かなければならないだろう。
オレリーさんが戻ってきたのは。
結局その夜だった。
キャンプに戻ってきたオレリーさんは、相変わらずもの凄く不機嫌そうな顔をしていて、何か嫌なことでもあったのだろうかと思ってしまうほどだったけれど。
考えて見ればこの人が笑う所なんて、一度も見たことが無い。
長老の威厳を作るためなのか。
それとも基本的にいつも機嫌が悪いのか。
それはよく分からないが。
アトリエで、話をする。
わたしの側にはお姉ちゃんがつく。それもオレリーさんは、あまり気に入らないようだったが。
「フィリス」
「はいっ!」
「これ、栄養剤に使いな」
渡されたのは深核。それも二つだ。
これだけあれば、充分だろう。
それと、幾らかの毛皮と、牙。それに骨も貰う。
どれもネームドの物だとすると、貴重な材料になる筈だ。強力な装備品を作れるかも知れない。
「バッデン、進捗は」
「現在55%というところです。 危険地域まで後半分ですね。 遺跡の側の安全確保をしてから危険地域の開拓をするとして、それまでは黙々と作業を進めていくことが出来そうです」
「そうかい。 護衛は足りているかい?」
「出来れば早めに増員を」
ああ、やっぱり足りていなかったのか。
頷くと、オレリーさんはネームド討伐の状況について教えてくれる。
街にいた錬金術師のアトリエから、意思を持った道具類が多数出現し、それらを討伐したという。
更にそれにあわせて、住み着いていたネームド六体を討伐。
現時点で、まだ四体の存在が確認されているので、次の討伐で片付けてしまう予定だという。
流石だ。
短時間で六体も。
それに疲弊している様子も無い。
高齢なのに、体力もまだまだわたしなんかとは比較にならないのだろう。
これで現時点での状況報告は完了。
これからの指示に移る。
「街の方に伝令を出して、戦士を五人、人夫を五人、追加させよう。 バッデン、栄養剤と肥料はどうだい」
「流石に長老のものには及びませんが、アルファ商会が販売している標準品と大差ない出来です」
「そうかい。 ならばもう少し腕を上げないとね」
「頑張ります……」
厳しい目で見られる。
アルファ商会の標準品と大差ないとすると。
一応売り物にはなる、と言う事だ。
なお、今回の会議には。
前に商品を売りに来たエルさんもいる。
ドナの重役の一人と言う事だし、まあ当然だろう。
「エル、ドナの状況は」
「現時点では問題はありません。 フルスハイムと直通路が完成するという噂が既に流れていて、それに期待している民も多い様子です」
「誰だい、そんなのを話したのは」
「さあ、それは分かりませんが……口に戸は立てられないというあれでしょう」
嘆息するオレリーさん。
分かる。
今までとは違う。
明確に機嫌が悪い。
ちょっと怖くて逃げたくなったけれど。それは周りも同じのようで、バッデンさんさえ青ざめている。
「まあいい。 では、予定通りに行動。 解散。 最終的な危険地帯の緑化作業は私も参加する。 それまでに準備は整えておくように」
立ち上がって、礼をする。
怖かった。
オレリーさんが補給だけ済ませると、精鋭だけ連れてまた北の遺跡に向かうのを見送る。
短時間でネームド六体。
遺跡の地上部分と地下ではネームドの戦闘力が雲泥だという話だけれど。
それでも相当な実力だ。
だが、既に夜なので。
今日はもうみんな休んで貰う。
人夫達にもアトリエに入って貰う。戦士達はキャンプだが、疲れが溜まっている人にはアトリエに入って貰う事にしている。
その代わり、わたしやお姉ちゃん、レヴィさんやドロッセルさんも。余裕があるときには外のキャンプを利用する事にはしていた。
ふと目を離した瞬間、人夫の子供が一人、錬金釜を覗きそうになっていたので、慌てて止める。
だけれど、お姉ちゃんの方が動きが速かった。
「駄目よ。 これに触ると、長老が怒るわ」
「……っ」
子供が見る間に真っ青になる。
脅しとしては完璧な抑止効果を発揮したようで。
以降その子供は、絶対に釜に近づかなかった。
どうやらオレリーさんは。
辣腕で知られる以上に。
誰からも平等に怖れられているらしかった。
怖い顔だけれど優しい。
きっと、そんな事はないのだろう。
多分あの人は。
平等に、誰にでも。それこそ自分に対しても、徹底的に厳しいのだ。
そういうやり方もある。
わたしもいずれ。そういうやり方を、勉強しなければならないのかも知れなかった。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい