暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
そんなフィリスの前に、危険極まりない……この世界がどれだけ人間に厳しいかを示す場所が姿を見せます。
序、危険地帯開拓
いよいよ来る所まで来た。
緑化作業が順調に進んだ結果、見えてきたのだ。近隣でも屈指の危険地帯である遺跡が。
邪神に滅ぼされた街。
それも、当時のラスティンが総力を挙げて倒さなければならなかったほどの凶悪な。
そして今はネームドに制圧された人外の魔境。
わたしは生唾を飲み込むと。
後方で緑化作業をしているのを横目に。地図を拡げるバッデンさんと。お姉ちゃんと。それに腕組みして様子を見ているドロッセルさんと。荒野の上でテーブルを囲んでいた。レヴィさんは巡回してくれている。
「やはり遺跡をわずかにかするようにして緑化していくしかない。 その過程で、かなりの数の岩を砕く事になる」
「それはわたしがやります」
「うむ。 砕くのは問題ないが、その先が厄介でな」
遺跡は元々、西の岩山を背中にするようにして発展していた街の残骸。
現時点では、岩山を管理する者もおらず。
城壁だった場所は消し飛んでしまっていて。
緑化作業を行うにしても、かなり狭い道しか作れないという。
あまり広い森を作れないとなると。
それがどれだけ安全なのかは、正直な所わたしにもよく分からない。
「遺跡を少し壊して、其処も緑化する事は出来ないですか?」
「実はそれを俺も考えていた。 だが、問題は遺跡を壊す事に長老が許可を出すか、と言う事でな」
「何か問題があるんですか」
「遺跡の地下には巨大な空間が拡がっている。 へたに壊すと、大穴が空く」
そういう事か。
ちょっと背筋が凍る。
大規模な崩落事故とか起きたら、確かに洒落にならない。
だったら、いっそのこと。
手は別に打てないだろうか。
「鉱物の声なら聞こえます。 地下に空間があるかは分かります」
「そうか、そうだったな」
「それを利用して、崩しても大丈夫な場所を特定してしまうのはどうでしょうか」
「悪くないが、問題があるな。 長老がネームドの掃除をしてくれているが、獣はたくさんいるという事だ」
確かにその通りだ。
それに、だ。
巨大な地下空間が拡がっているとしたら。
それは未知の技術で作られている可能性もある。
それだけ発展していた街だったのだとしたら。
錬金術師の凄いアトリエとかがあったのかも知れない。
それを台無しにしてしまう可能性もある。
少し考えなければならないだろう。
いずれにしても、緑化作業はいよいよ抜き差しならぬ所まで来てしまった。此処からは、人夫を守りつつ、岩を砕いて、道を切り開いていかなければならない。
遺跡の内部はそもそも危険すぎて踏み込めない。
傭兵をつけた特使が、あれほどの手傷を負ってキャンプに来た位なのである。
ましてや人夫を踏み込ませるなんて、絶対にあってはならない事だ。
兎に角オレリーさんが来てから遺跡について調べるとして。
緑化できる場所と、そうではない場所も、しっかり見分けておかなければならないだろう。
バッデンさんに案内され。わたしは巡回から戻ってきたレヴィさんとお姉ちゃん、ドロッセルさんと、後二人の戦士と一緒に、これから道を作る場所の下見に行き、ついでに転がっている邪魔な岩を処理する。
小さめなものはつるはしで砕いてしまうし。
大きいのもやはりつるはしで砕く。
城壁と岩山の間の地面は完全にカチカチで。
この辺り、本当に利用されていなかったのだな、というのが一目で分かる。
というか、なんか変色している。
或いはゴミでも捨てていたのかも知れない。
だとすると、緑化作業は、手間取ることになるかも知れなかった。
鉱物の声を聞く。
やはり、地面には力が無い様子だ。
何だか汚染されていると思った方が良さそうである。
一方で、良い情報もある。
岩山の方から、ちろちろと水が流れてきている。
とても小さな川だが。
水源として利用できるはずだ。
或いはフルスハイム東にある大きな湖の水源の一つかも知れない。この程度の小さな川なら、水源に流れ込まなくても大丈夫だろう。しかも見たところ、流れてきた水はこの辺りで止まってしまっている。
水たまりから流れて、多分遺跡の中に流れ込んでいるのだろうが。
それは要するに、遺跡の方にしみこんでいるのでなければ。
穴が開いていて。
そのまま、遺跡の地下に水が入り込んでいる、と言う事だ。
だが、それなら遺跡が水没していないのは何故だろう。
地下には強力なネームドがたくさん「いた」という事だし。
水はどうしているのだろうか。
鉱物の声は聞こえるわたしだけれど。
水は分からない。
いずれにしても、この水は水路にして加工すると、バッデンさんが地図に水源を書き足した。水が溜まっている地域も、である。これに関しては、わたしが鉱物に聞ける。地盤が緩んでいる可能性があるから、注意もしなければならない。この辺りの話をすると、便利な能力だと褒めてくれる。だけれど、凄い錬金術師になると、あらかたの存在の声が聞こえる人もいるらしいとも言われた。
そんな錬金術師は、一体どんな実力なのだろう。
獣に気を付けながら、更に北に。
そうすると、ようやく小規模な森が見えてくる。
これがフルスハイムの辺縁らしい。
少し岩山を登って、周囲を確認して。驚かされた。
こんな大きな街が存在するのか。
兎に角広い。
広すぎる。
城壁に囲まれていて。その内側は、湖と街が半ば一体化している。
ドナと同じように水路が街の中を入り組んでいるのだけれど。規模が三倍以上はありそうだ。
ただ、湖の方には。
おぞましい巨大な黒雲が出ていて。
凄まじい速度で回転している。
あれは竜巻というものだと言う以外何だか良く分からないが、危ない事だけは理解出来る。
驚くほど大きな湖で。
あの竜巻がなかったら、ひょっとしたら向こう側が見えないかも知れない。
地平線というものは、外に出てから見ることが出来た。
バッデンさんの話によると、水平線というものもあるらしい。
お姉ちゃんもそれは見た事がないらしいので。
もしも竜巻がなければ、姉妹揃って初めて水平線が見られたと思うと、少しばかり悔しい。
フルスハイムの側にまで行くと、検問が張られていた。
バッデンさんが挨拶をして、向こう側の少し偉そうな人が出てくる。
どうやらバッデンさんは、ドナの顔役として知られている様子で。老齢のヒト族の、重厚そうな戦士が出てきた。髭も真っ白でかなりの老齢に見えるが、重そうな鎧を苦も無く着こなしている。
軽く話をしていたが。
いずれにしても、向こうでも安全経路の確保については、歓迎するという内容の言葉が聞き取れた。
ただ、緑化については、驚いていたが。
「ドナの長老が凄腕と言う事は我等も聞いていたが、あの遺跡の側に安全経路を、緑化によって作るというのは驚きだ。 遺跡に住まうネームドもあらかた駆除したというのも本当なのか」
「ああ。 長老はまだ戦士として現役だ」
「齢70を越えて現役とは羨ましい。 儂はもう昔のようには動けんよ」
「そう言われるな。 貴方はまだ現役では無いか」
敬礼をした後。
バッデンさんが戻ってくる。
そして、簡単に言われた。
「これでフルスハイム側でもある程度の支援を出してくれるはずだ。 一旦キャンプに戻ろう、フィリスどの」
「はい。 それにしてもこんな大きな街が、どうしてこんな危険な遺跡をずっと放置していたんですか?」
「……地下にいる強力なネームドを刺激したくなかったんだろう。 だが、この間その強力なネームドがあらかた蹴散らされたからな。 状況が変わった、という奴だ」
そのまま、来た道を戻る。
キャンプに到着する頃には真っ暗だったが、危険はそれほど感じなかった。途中で獣に襲撃されることもなかった。
ただ。先にオレリーさんが待っていたが。
「話は聞いているよ。 調査の結果は」
「すぐに説明します」
アトリエに入ると、バッデンさんが地図を拡げる。
水源について話すと、オレリーさんは腕組みして、少し考え込んだ。
「私も地下には入った事があるが、水が溜まっているような場所は見ていないね。 遺跡の地下には流れ込んでいない、と見て良いだろう」
「だとすると、水は何処へ行っているのでしょう」
「フィリス、あんたは「聞こえる」んだろう? どうなんだい」
「いえ、鉱物の声しか聞こえないので……地面の下にしみこんでいる、くらいしか分かりません」
ふうと、オレリーさんが嘆息する。
そういえば、この人はものの声を聞けるのだろうか。
いや、聞くのは止めておこう。
失礼に当たるかも知れないし。
この才能は、最高ランクの錬金術師でも持っていない事があるとかいう話も聞くからだ。
「途中の邪魔な岩が片付いているのは此方でも帰り際に確認したよ。 問題は途中の汚染された土だね」
「はい。 あの汚染土は取り除くか、或いは……」
「それもあるが、面倒なのが来ていてね」
オレリーさんが顎をしゃくると。
若者と言うには無理があり、壮年と言うには若いヒト族の男性が来る。
眼鏡を掛けていて、線が細い雰囲気だが。
相応に荒事は出来そうだ。
腰には銃をぶら下げている。
破壊力の小ささ、それに機構の複雑さから、機械を扱える大きめの街でしか手に入らないらしいのだけれど。
持っていると言う事は、フルスハイムで買ったのだろうか。
そういえばあまり見に行ってはいなかったけれど。
ドナにもひょっとするとあるかも知れない。
「各地を旅して回っている学者先生だそうだ。 ただし少しばかり面倒でね」
「ラスティンから公式に派遣されてきた標の民の学者、カルドです。 よろしく」
標の民、というのはよく分からないが。
ラスティンの公式派遣の学者となると、色々と面倒だ。
ライゼンベルグから此処までわざわざ足を運んでいると言う事にもなる。
無碍には出来ないだろう。
「この学者先生が、遺跡を調べたいんだそうだ。 ネームドはとりあえず一通り潰してきたが、護衛を頼むよ」
「ええ……」
「私は遺跡や荒野の方を精鋭と巡回して、獣が緑化作業している所を邪魔しないようにする作業があるからね。 フィリス、あんたが緑化作業をしながら、この学者先生を案内しな」
「……」
絶句。
ただでさえトラブルだらけなのに、こんな事まで押しつけられるのか。
でも、オレリーさんが周辺を護衛してくれるなら、かなり緑化作業の安全は確保できると見て良いだろう。
カルドさんは丁寧に皆に挨拶していくが。
お姉ちゃんとドロッセルさんには、どうしてか真っ青になって一言だけ挨拶した。
よく分からない。
そういえば、ウィッテさんにも距離をとっている。
何だろう。
「今日はここまでだよ。 それでは解散」
オレリーさんが、アトリエを出て行く。
野宿なんて苦にもならないのだろう。
そのまま、戦士達もキャンプに散る。
わたしはカルドさんに色々話を聞きたかったが、何だかものすごく気むずかしそうなので、声を掛けられなかった。
とにかく、これから必要になるのは。
栄養剤。
肥料。
それもたっぷりだ。
地面を耕すのも重労働になる。
人夫達には、主に土砂の運び出しを担当して貰う事になるだろう。自動で動く荷車を使うから、それほど体力は使わないはずだが。問題は人夫達を狙う獣。周囲をオレリーさんと精鋭が巡回してくれると言っても限界がある。
アードラなどの奇襲には、注意しなければならない。
少し考えた後。
お姉ちゃんに声を掛ける。
「リア姉、多分此処から、結構忙しくなると思うの」
「それはそうでしょうね。 何人かいる魔族の戦士には空中からの監視をお願いするつもりだし、私は出来るだけ前線近くに立てた見張り櫓で周囲を監視するつもりだけれど」
「あの、それでなんだけれど……あの学者さん、多分わたしについてくると思う。 わたしが最前線で鉱物の声を聞いて、遺跡の邪魔な部分も取っ払うと思うから。 そうしたら、あの人、何か怖いかもしれない」
見る間にお姉ちゃんの顔色が変わる。
お姉ちゃんはわたしに危険が迫ると怒気を隠さないけれど。
その時の顔だ。
「そういえば、あの学者、何かしらね。 私を妙に避けていたけれど」
「ドロッセルさんやウィッテさんも避けていたみたいだよ?」
「……ふうん。 予定変更ね。 私がフィリスちゃんを側で見張るわ」
「ええっ!?」
ネゴをお願いしようと思ったのだけれど。
まさかそう来るか。
それはそれで困る。
でも、お姉ちゃんはそう言い出すと多分もう何も聞かない。此処は諦めるしかないだろう。
ともあれ、今日は休む。
彼方此方歩き回ったけれど、疲れはそれほど溜まっていない。
眠ろうと思えば眠れる。
明日は、朝一から調合をして。
それから。
そう思う内に、もう眠りこけていた。
手をかざしてフィリスのいるキャンプを見張っていたティアナは、後ろから声を掛けられて振り返る。
年齢としては常識外の使い手あるこの子も、あたしの接近にはまだ気づけないか。
「ソフィーさん、どうしたの?」
「ティアナちゃん、これから任務を与えるよ」
「わ、何ですか!? 匪賊狩り?」
「そうだよ」
やったあと、跳び上がって喜ぶティアナ。
本当に目を輝かせている。
コレクションは増える。
復讐は出来る。
更にあたしに褒めて貰えるで。
ティアナにとっては、匪賊狩りは楽しい遊びと同じなのだ。
色々な意味で心が壊れているこの子は。世界の深淵を覗き込んでしまったあたしと同類なのかも知れない。
「今回の任務は、フルスハイムに入り込んでいる匪賊の駆除。 フルスハイムで少しばかり動く予定ができたからね。 邪魔をされると面倒だし」
「わ、街の中での暗殺任務ですか!? 楽しそう!」
「うん、期待しているからね」
似顔絵を渡す。
ターゲットは十五名。ちなみに此奴らの仲間の頭を直接調べて似顔絵は作った。拷問なんて非効率的な手段は採らない。嘘をつくかも知れないし、詳細な顔とかは分からないからだ。相手の脳を直接覗くのが効率的である。
一晩で皆殺しは難しいかも知れないが。
まあこの子なら、フィリスがドナからフルスハイムへの直通路を完成させるまでには、任務を完遂するだろう。
「フィリスちゃんの見張りはどうしますか?」
「ああ、それはあの子に任せるから」
「ぶー」
「そんな顔しないの。 ほら、匪賊狩りを終えたら、またフィリスちゃんの見張りをして良いからね」
そう言うと、またパッと明るい顔になる。
分かり易い子である。
敬礼すると、残像を作って消える。まあ今晩中に三人か四人は駆除するだろう。あの子は兎に角鼻が利くのだ。
匪賊は例外なく人間を喰う。
その臭いが分かるらしい。
人間を食った事がある人間には、独特の臭いがつくらしく。
それで判別できるらしい。
その辺りは、ひょっとすると。
錬金術師の才能に似ているのかも知れない。
声の正体を知っている今でも。
あたしはそれを貴重なものだと思っていた。
空間が歪み。
プラフタが、重装鎧で顔まで隠している護衛を連れて現れる。例の交代要員。ティアナのバディをしているアダレットの現役騎士。しかも幹部候補である。
「ソフィー。 例の緑化計画の監視ですか?」
「うん。 フィリスちゃんは良くやっているよ。 オレリーさんももうネームドを駆除し終えたみたいだね。 あの人に揉んで貰えば伸びると思ったけれど、案の定かなり腕を上げているみたい」
「また時間を止めて近くで見てきたのですか」
「そうだよ」
プラフタは悲しそうにあたしを見る。
手段を選ばないあたしを。
プラフタは哀しみの目で時々見る。
以前喧嘩別れした、そして仲直りに500年を費やしたルアードを思い出してしまうからだろうか。
「さ、じゃあ行こうか、フルスハイムに」
「ソフィー、貴方は……」
「なあに」
「何でもありません」
プラフタは、それ以上何も言わなかった。
そして、その場には、無言の鎧姿の騎士だけが残った。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい