暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、汚泥をかき分けて

前倒しで硬化剤を作っていたこともあって。

 

作業現場を見に行く時間が増えた。

 

現時点で、汚染土地帯に入ってから、作業の進捗はトイトイに戻っている。わたしが予想以上の速度で、安定した品質の硬化剤を作っているのと。

 

雨で柔らかくなった土を、処理する速度で、遅れを取り戻せたこと。

 

更に、思った以上にカルドさんが文句を言わなかったこと。

 

対応をわたしが早くできたこと、などが理由としてある。

 

今日も少し前倒しして作業を終えることが出来た。

 

勿論無理はしていない。

 

硬化剤がしっかり固まった場所から。

 

空気を入れた土を戻し。

 

栄養剤を入れ。

 

草を生やす作業も始まっている。

 

それと同時に、遺跡の一部も完全に崩し。

 

土砂を捨てる荷車の通路として確保した。これに対しては、カルドさんもいい顔をしなかったけれど。

 

わたしが説得した。

 

除去する部分については、カルドさんに話をして。

 

見てもらい。

 

その後で、丁寧に除去した。

 

石畳などは雑に砕くのではなく、きちんと剥がして有効活用できそうなものはそうするようにしたし。

 

石材も使えそうなものは再利用することにした。

 

そして剥き出しになった地面の声を聞いて。

 

地下空間がありそうな場所は、可能な限り避けて通るようにもした。

 

何があるか分からないからだ。

 

淡々と作業は進み。

 

ついに水場に出る。

 

水場は汚染土と混ざり合っていたのだが。

 

それも一旦水の流れを止め。

 

汚染土を除去した後。

 

出来るだけ急いで硬化剤を入れる。

 

そうすることで、早々に水を使えるようになる。

 

水路はそもそも事前に掘ってあり。

 

汚染土の処理が終わった時点で。

 

其方に流れるように、工事も行った。

 

その日の工事はちょっとばかり遅くまで掛かってしまったが。

 

その分翌日は休みを入れる事にする。

 

人夫もかなりめまぐるしく入れ替わり。

 

ドナにとって、相当なお金が動いていることが、ド素人にも分かるはずだ。

 

フルスハイムの人らしいのも、見かけるようになって来ている。

 

どうやらフルスハイムから派遣されてきた戦士らしいのだが。

 

時々バッデンさんと話をしている。

 

わたしは作業現場で、鉱物の声を聞いて、事故が起きないようにするので精一杯なので、対応は任せてしまうが。

 

いずれにしても、あまり能動的に手伝ってはくれない様子だ。

 

ただ、フルスハイムは、例の竜巻で今大変だろう。

 

此方に手を回す様子が無いというのも分かるし。

 

責めるのは酷だとも思う。

 

一箇所、かなり危ない場所を見つける。

 

汚染土の中に岩が、それもかなり大きいのが埋まっている。

 

先にバッデンさんに警告して。

 

ドロッセルさんと一緒に其処を先に掘る。

 

案の定、かなり大きい岩が出てきた。

 

考え無しに汚染土を掘っていたら、大変な事になっていただろう。

 

岩を先に粉々に砕いて。

 

作業の安全を確保。

 

また別の所で、変な地下空洞を確認。

 

念入りに鉱物の声を聞いていくと。何だか妙な洞窟につながっているという。獣の巣かも知れないと言う事で警戒。

 

汚染土を除去していくと。

 

予想が当たる。

 

巨大なミミズみたいな獣が飛び出してきたので。

 

先に仕掛けておいた発破で、出てきた瞬間粉々に消し飛ばす。

 

可哀想だけれど。

 

明らかに害意のある獣だったので。

 

先に処置した。

 

或いは、汚染土にやられて。

 

異形になってしまったのかも知れない。だとしたら、可哀想な事だった。

 

汚染土の処理作業も見に行く。

 

人夫達がどんどん運んでくる汚染土を。

 

片手間にオレリーさんが処置している。

 

どうやら、汚染そのものは多岐にわたっているようで。完全な浄化は不可能らしい。

 

そのため、外に何も漏らさない強力な素材でコーティングし。

 

地下深くに埋めることで処置する様子だ。

 

その過程で。土の中に入っている空気を追い出す作業を行い。

 

土を小さく固め。

 

そして汚染もろともコーティングする。

 

コーティングの際には、長い時間を掛けて圧縮する魔術が常時発動するように工夫もしているようで。

 

仮にコーティングが壊れても。

 

圧縮された汚染土は、簡単には壊れない。

 

そういう仕組みだ。

 

なるほど。

 

でも、本当だったら、この汚染は。

 

きちんと分別して。

 

処理していくべきではないのだろうか。

 

だが、恐らくは出来ないのだろう。

 

オレリーさんほどの人が、こういう対応をしているのだ。

 

わたしが偉そうに言える事なんて、今の時点では何も無い。やり方の説明をメモした後、作業に戻る。

 

やること。

 

わたしに出来る事は。

 

いくらでもあるのだ。

 

遺跡の端まで、壊す予定のある地点は調査完了。

 

カルドさんは、もう少し遺跡を調べたいと言ったが。お姉ちゃんが咳払い。カルドさんが露骨にびくっとした。

 

「カルドさん、遺跡の調査が重要なのは分かりましたが、今は……」

 

「わ、分かっているよ。 僕も遺跡の破損が起きなければそれでいい」

 

「……」

 

本当に女の人が苦手なんだな。

 

わたしはちょっと同情してしまう。

 

この人、相応に甘いマスクをしているのに、此処まで極端な女性恐怖症だと、後々苦労しそうだ。

 

ともあれ、カルドさんの護衛はもう必要ないだろう。

 

だが、カルドさんはいう。

 

「少しばかり君に興味が湧いた。 僕は多少腕に覚えもあるし、各地を調査しなければならない。 もし良ければ、護衛の一人として加えてくれないだろうか」

 

「護衛、ですか?」

 

「遺跡の調査を合間に出来ればそれでいい」

 

「……」

 

此方としても、頭数がもう少し欲しいとは思っていた。

 

危険地帯を通るのに、戦力が現状では不足している。

 

それならば、頭数を揃えるために、戦力を増やすのは吝かでは無い。

 

利害の一致と言う奴だ。

 

わたしは頷く。

 

「分かりました。 お給金の方は」

 

「其方で決めてくれてかまわない」

 

「分かりました」

 

お姉ちゃんを見るが。

 

嫌だとは顔に書いていなかった。

 

お姉ちゃんも、手が足りない事は痛感していたのだろう。少なくとも、この女性恐怖症の繊細な学者を、拒否する気は無いようだった。或いは、わたしに害が無いと判断したから、かも知れない。

 

ともかく、一度アトリエに戻りながら。

 

途中に危険が無いか、徹底的に調査する。

 

丁寧に遺跡を見ていくが。

 

少なくとも、今掘り返している地点や、掘り返す予定地点では。

 

地下部分が存在していない。

 

そもそも地下に都市を造るという時点で、かなり凄い場所だったのだろう。

 

それが故に。

 

驕り。

 

滅んでしまったのだろうか。

 

邪神はどうしてこの街を狙ったのか。

 

オレリーさんが言うように、廃棄物を捨て放題だったから、だろうか。

 

でも、エルトナも日常での廃棄物の処理には苦労していた。

 

人間が数揃えば。

 

やはり、どこでも生じる問題にも思える。

 

或いは、それ自体が原因なのだろうか。

 

分からない。

 

水路については、既に殆ど仕上がっている。

 

事前に要点的に作っていたので当然だろう。

 

何カ所かで、硬化剤で固めた森の中に流れ込むようになっている。

 

土は空気を含むと膨らむというのは知っていたが。

 

近くの荒野を耕し。

 

汚染されていない土を運んできたとき。

 

削った荒野が殆ど減っていないのを見て、それを実感させられた。

 

本当に派手に膨らむのだなと、驚いてしまった。

 

逆に、圧縮は大変だろうとも思う。

 

最初に硬化剤で固めた辺りは、既にもう低木が生え始めているが。

 

残りわずかな部分は、まだ汚染土をどかしている段階だ。

 

わたしは丁寧に鉱物の声を聞いてまわり。

 

この間のように、地下からの獣の強襲がないように、気を配り続けなければならない。

 

「フィリスどの」

 

「あ、グランツさん」

 

この間、ネームドの襲撃で重傷を負ったグランツさんだ。

 

もう無事なようだ。

 

流石はオレリーさんのお薬。

 

わたしのお薬では、あれほどのけが人を此処まで短時間で回復させることは出来ない。

 

ぺこりと一礼。

 

わたしが怪我をさせたようなものなのだから当然だ。

 

「少し確認して欲しいものがあってな」

 

「はい、すぐに行きます」

 

ついていくと、また柱だ。

 

ただ、排除しなければならない場所からは外れている。

 

これについては、事前にわたしも何度か通り過ぎたので知っている。コレが今更、何かあったのか。

 

「この柱、活用してしまいたいと思っていてな」

 

「これ、恐らく無理ですよ。 遺跡の構造と思い切り噛んでますので、大規模な崩落が起きるかも知れないです」

 

「切り取るのはだめか」

 

「地上部分をですか?」

 

頷くグランツさん。

 

わたしは少し考えたが。

 

この柱は、城壁の基礎になっていたものでもないし。

 

恐らく裕福な家の柱か、何か大きな建物のものだったのだろう。

 

周囲の石畳も、何か変色していて、他と違っている。

 

遠くに獣がいるが、此方には人数がいるからか、みているだけだ。キメラビーストというかなり強力な獣なのだが。

 

お姉ちゃんが向こうを警戒している間に。少し調べて見る。

 

「……」

 

「どうだ、切り取っても大丈夫か」

 

「いえ、止めた方が良いと思います。 この辺り、少し不安定になっていて……地下の空洞には直結していないのですが、下手な衝撃は与えない方が良いです。 この柱そのものがかなり重いようですし、いきなりなくなるとどんな影響があるか分かりません。」

 

「そうか。 ならば止めておこう」

 

素直に聞いてくれて助かった。

 

この辺りは、いずれ獣よけの魔術を掛け錬金術で増幅した柵を作ってしまって、入らないようにする予定だとオレリーさんに聞いている。勿論全ての獣は避けられないだろうが、それくらいもうこの遺跡は人間の住む場所とは乖離している。

 

ネームドがいなくなったとしても。危険な事に変わりは無いのだ。

 

それにしても、この柱、そんなに良いだろうか。

 

理由を来てみると。

 

グランツさんは、わたしとの意識の違いを話してくれた。

 

「フィリスどのは簡単に岩を砕いているがな、俺たちにとっては、長老の作ってくれた装備を使って基礎能力を上げてやっとなんだ。 ギフトがある人間には、これだけの岩を加工する手間暇は分からないかも知れないが」

 

「あ……すみません」

 

「いや、少し棘のある言い方をしてしまってすまない。 フィリスどのはここに来てから、その力を皆のためになんら惜しみなく使ってくれているし、何よりひけらかしたり、他の人間を見下したりもしていない。 ただ、自分の持っている力がギフトである事は、理解してくれ」

 

確かにその通りだ。

 

この柱も。

 

本当だったら、色々なドラマがあって、此処に立っているのだろう。

 

此処を滅ぼした邪神は目もくれなかったかも知れない。

 

だが、本当におかしいのは誰だったのだろう。

 

よく見ると、柱は朽ちてはいるものの。

 

とても美しい装飾も施されていた。

 

模様は丁寧に刻まれている。

 

これは、いずれ何かしらの形で。

 

再利用をしてあげるべきなのかも知れない。

 

野ざらしにしておけば。

 

いずれコケか何かが生えたり。

 

獣が何気なしに崩してしまったりで。

 

あまり良い未来は見えないからだ。

 

わいわいと、騒ぎが聞こえる。

 

すぐに頭を切り換えて、其方に。

 

どうやら、フルスハイム側の人員が来ていて、近くの街道まで工事が届いたと言う事で。様子を見に来たらしい。

 

この辺りはかなり深く掘らないと汚染土も出てこない。

 

人夫達が通る道も既に安全を確保しているし。

 

緑化作業も順調だ。

 

フルスハイム側も、十名ほどの戦士を出して、周囲の巡回にあたってくれている。

 

遅いという声も上がっていたが。

 

しかし今フルスハイムは、あの巨大竜巻で大変なのだ。

 

あまり厳しい事は言えない。

 

フルスハイム側からは、商人も見に来ていた。

 

ヒト族もホムもいる。

 

とても背が高い魔族がいる。

 

普通の魔族の倍はあるあれは。

 

噂に聞くレア種族の巨人族だろうか。

 

流石フルスハイムだ。

 

獣人族の中にも、腕の他に足が四本あるケンタウルス族というレア種族がいるらしいのだけれど。

 

フルスハイムにはいるのだろうか。

 

「夕暮れまでに、掘り返しと汚染土の輸送、硬化剤の塗布は終わらせるぞ!」

 

「おうっ!」

 

気合いの入った声が掛かる。

 

オレリーさんがまた獣を倒したのか、何処かで断末魔の悲鳴が聞こえた。

 

だが、誰も気にしない。

 

獣がちょっかいを掛けようとする行動は。

 

ここ数日珍しくもなかったからだ。

 

掘り返しが終わり。

 

硬化剤の塗布も完了。

 

汚染土を運び出した後。

 

空気を入れてある土を此処に運び込み。

 

水路を繋ぎ。

 

緑化作業をして終わりだ。

 

一段落した。

 

まだ、完全に終わった訳でないけれど。

 

フルスハイム側が、拍手をしてくれた。

 

中には、前にバッデンさんと話していた、フルスハイム側の高官も混じっていた。

 

「素晴らしい。 ドナとの連携がこれで極めて楽になる」

 

「まだ完成した訳では無いので、もう少し待ってくれると嬉しいが」

 

「そうだな。 祝いの品については期待してくれ。 此方からは殆ど手助け出来なかったが、相応の品を贈らせて貰う」

 

「期待しているよ」

 

バッデンさんが、皆に引き上げるように言う。

 

アトリエに戻ると。

 

オレリーさんが既に戻っていた。

 

「良くやってくれたね、フィリス」

 

「あ、はい。 不手際が無ければ良かったのですが」

 

「合格だよ。 ほら」

 

推薦状を貰う。

 

しばらく、固まってしまった。

 

そうか、認めて貰えたのか。

 

こんな凄い人に。

 

このプロジェクトに関わった人々から、拍手を貰う。わたしは、すごく素敵な気持ちになった。

 

「ただ、切りが良いところまで作業はやって貰うよ。 ……人夫はこれから随時減らしていく。 緑化作業は残りの一段落が終わった所で、私が引き継ぐからね。 いずれにしても、フルスハイムへの直通路は突貫工事で仕上げるから、そのつもりで」

 

「そうなると、あと二週間くらい、ですか」

 

「植物の成長促進剤を私が用意したから一週間で何とかなる。 いずれにしても、これだけの作業をした者に、報いるのは当然だよ」

 

良かった。

 

それから、明日からの作業の説明。

 

東の街への緑化作業についても、これから継続してやっていくという。本来はフルスハイムでやるべき事なのだろうけれど。

 

向こうは竜巻の対応で精一杯なのだ。

 

近隣第二の規模を持つドナが、やるしかないのだろう。

 

「あの、公認錬金術師試験が終わったら、手伝います」

 

「気持ちだけ受け取っておくよ。 まずあんたは、自分の故郷をどうにかすることから始めるんだね」

 

「あ……はい」

 

「いいかい。 一つだけ私から言うならば、何事も、優先度をつけて行動するんだ。 恐らく偉大な錬金術師は、誰もがそうしている筈だよ」

 

そうか。

 

優先度か。

 

頷く。

 

そして、今日は早めに休む事にした。

 

一段落まで、此処まで素早くこぎ着けられた。

 

そして後一週間で、緑化作業も一段落する。

 

人夫の仕事そのものは減るが。

 

しかしながら、緑化作業そのものは今後も続くのだ。

 

ドナの街の好景気は当面継続するだろう。

 

ただ、街が豊かになれば。

 

それだけドラゴンなどが襲い来る可能性も上がると言う事。

 

後継者か。

 

大きな街には、少なくともドラゴンを退けられるだけの実力者が必要。

 

そんな狂った掟があるのは事実で。

 

オレリーさんが、最悪の場合は人間を止めるかと口にしていたように。オレリーさんの後継者は、いない。

 

事実、オレリーさんの後継者になってくれればとまで声を掛けられたのは。

 

街の人間が、高齢であるオレリーさんの事を心配しているからだろう。

 

今でも現役で、頭もはっきりしているが。

 

そろそろヒト族の限界寿命近いのだ。

 

英傑と呼んでも良いこの人を失った時。

 

ドナはどうなるのか。

 

オレリーさん自身が、一番心配しているのだろう。

 

比較的豊かで、上手く行っているドナでさえこれだ。

 

この世界は、どれだけ過酷で。

 

どれだけの人が苦しんでいるのか。

 

改めて思い知らされた気がする。

 

わたしは、或いは。

 

このギフトを。

 

鉱物の声を聞く能力を。

 

世界のために。

 

使って行かなければならないのかも知れなかった。

 

 

 

翌日の作業も、突貫工事が続いた。

 

空気を入れた土を入れ、ある程度固めた後。街道にする場所に、硬化剤を撒く。これで、街道の基礎は出来た。

 

後は栄養剤、肥料を入れ。

 

雑草を入れ。

 

そしてオレリーさんが作った成長促進剤を入れる。

 

植物はその日のうちに芽を出し。

 

翌日には刈り取って、燃やし。灰を土に撒いて混ぜた。

 

その後は、本来の森になるべく、基礎の植物を植えていく。

 

遺跡側の危険地帯だった場所も。

 

今ではすっかり、もう少しで街道が出来る希望の道へと変わりつつある。だが、作業そのものが大変な苦労を伴ったのも事実だ。

 

実際、遺跡に住み着いてた凶悪なネームド達が根こそぎ誰かに処理されなければ、こんな事はとても出来なかっただろう。

 

わたしもネームドとは戦ったけれど。

 

あれでも最弱の部類と聞いているし。

 

どれだけ死者が出たのか、見当もつかない。

 

水路も既に完成し。

 

水量はあまり多くはないものの。

 

今まで無駄に地下にしみこんでいた水は。

 

未来の森へと還元されていた。

 

ドナ側の入り口付近は既にかなり木の背丈が伸びている。

 

少しドナ側に戻って見ると。

 

既に森には小型の獣が放されており。

 

森としてあらかた完成している様子だった。

 

何カ所か、途中で分岐している道があったが、此方は未完成だから行くなと言う立て看板がある。柵も作られていた。

 

恐らくだが、この先に道をつなげる予定があるのだろう。

 

遺跡を最終的に、森で囲んでしまうつもりなのかもしれない。

 

東の方を見に行く。

 

ウィッテさんが、少数の人員と、黙々と調査と作業をしていた。マンパワーは遺跡側に割いていたが。

 

こっちはウィッテさんが戦士達の護衛を受け、黙々と作業をしていた訳か。

 

あまり進展はしていないようだが、マンパワーがないので仕方が無い。

 

手伝いを申し出たが。

 

首を横に振られた。

 

「一段落したら人員が来ますし、何よりこっちは私がどうにかしたいんです」

 

「そう、なんですね」

 

「東の街について、伝令が戻ってきました。 やっぱり悲惨な状態みたいです。 流石に人を売り買いするような事はもうしていないみたいですけれど、竜巻の影響で船も出せないし、それこそ身を寄せ合ってくらしている状態のようです」

 

この人は自分を売り飛ばした東の街のことを恨んでいないのだろうか。

 

ぐるぐる眼鏡に隠された目の奥の表情は見えない。

 

「少し時間が余るようでしたら、自分の事をしてください、フィリスさん。 まだ遺跡の方の作業には、フィリスさんの力が必要になるかも知れません。 こちらは危険地帯まで森を延長するまでまだ時間がありますし、多分大丈夫ですから」

 

「分かりました。 くれぐれも気を付けて」

 

「はい」

 

また手をとられると、ぶんぶんと上下に振られる。

 

わたしはあまり人の真意を詮索するのは良くないなと想って、その場を離れる。

 

例えばだ。

 

もしもウィッテさんが、東の街にあまり良い思い出が無いとしても。

 

緑化を進め。

 

街道をつなげた場合には。

 

嫌でも東の街の人間達は、ウィッテさんに感謝をしなければならなくなる。

 

文字通り頭が上がらなくなるだろう。

 

口減らしのために、奴隷として売り払った相手に、だ。

 

それは恐らく、永久の罪業として身に刻まれる。

 

ウィッテさんのさじ加減では、のど元も握られるはずだ。

 

人畜無害な印象を受けるウィッテさんだけれど。

 

下手をすると、食肉として匪賊に売られる可能性も高かったし、良くても悪い人の妾奴隷だったのだ。

 

ドナでオレリーさんが勘付いて助けなければ。

 

今はもう生きていないか、家畜以下の扱いを受けていたのである。

 

そんな事を自分にした東の街を本当に良く想っているとは考えにくい。

 

だからこそ。

 

真意は聞いてはならない。

 

ウィッテさんの真意はどす黒いかも知れないが。

 

その行動には、東の街を救うこともある。

 

両親も既に行方が知れないと言う話だし。

 

逆にウィッテさんは、心底から東の街を案じているのかも知れない。

 

いずれにしても。

 

そういった心に踏み込んで良いのは。

 

ウィッテさんだけだ。

 

誰も、人が何を考えているかを、決めつけてはいけない。

 

実際に心を読む能力でも無い限り。

 

そういう事はしてはいけないと思う。

 

わたしは、鉱物に声を聞かせて貰っているから、余計に思うのだ。

 

鉱物の発想は人間とは全く違っている。

 

当然、人間だって、それぞれ考え方が違うはずで。

 

それを型に当てはめようとする方がおかしい。

 

キャンプに戻ると。

 

黙々とわたしは、鉱物の在庫をチェック。

 

インゴットを造り。

 

更に、荷車の改良に移る。

 

空いた時間を使って。

 

荷車に使われている技術は覚えた。

 

やはりレヴィさんが指摘したように、追従だけではなく、前進、後退、停止、衝突回避の魔術が掛けられていた。

 

更に認証機能もあって。

 

特定のワードを唱えないと、動かないようにもなっていた。

 

ちょっと調べただけでは分からないほど、高度な技術が仕込まれていたのだ。

 

インゴットを仕上げて、自分の荷車をある程度補強した後。

 

お姉ちゃんに手伝って貰って、魔法陣を仕込む。

 

此処から数日は、わたしはアトリエ待機だ。

 

その間に、出来る事は可能な限りやっておく。

 

荷車の改良に二日。

 

実験に半日。

 

実験の結果をフィードバックするのに更に半日。

 

これで、自分で引かずとも、勝手に動いて追ってきてくれる荷車が出来た。後は様子を見て、荷車を増やせば良いだろう。

 

荷物が増える可能性があるのなら。

 

荷車を連結式にして、二連続か三連続でつなげるようにすればいい。

 

そして、荷車そのものも、もっと良い鉱物が入り次第装甲を強化したりして。

 

場合によっては、戦闘時のバリケードとして活用する事も考えていた。

 

ただ、この辺りの岩を割って得られた鉱石には、そこまで良いものはなかった。

 

物資が集まるフルスハイムも、インフラが壊滅している今は正直物資に余裕は無いだろう。

 

とりあえず、現時点で使える鉱石を見繕って。

 

インゴットを加工。

 

思いついたレシピを実際に試してみる。

 

作るのは腕輪だ。

 

前にディオンさんに貰ったレシピに、グナーデリングというものがあった。

 

錬金術師としては一般的なブースト装備で。

 

あらゆる能力を飛躍的に向上させる、基礎的なものらしい。

 

指輪にする場合もあるらしいのだけれど。

 

私の場合は、繊細な動きが必要になる指につけるよりは。

 

腕辺りにフィットさせて。

 

邪魔にならないようにしたい。

 

そう考えた。

 

四苦八苦しながら、腕輪を作る。腕輪も一枚板から曲げるのではなく。複数の板を用いて穴を縁に開け、それを糸でつなげる。内側は肌に違和感が無い皮を張ることで不快感を軽減し。更に糸を調整する事で、それぞれの人員の腕にあわせられるようにする。例えばお姉ちゃんとレヴィさんでは、やっぱり腕の太さがだいぶ違う。お姉ちゃんは素で身体強化の魔術を使っているようなのだけれど。レヴィさんは防御魔術主体なので、筋力がどうしても必要になるのだ。

 

今回は金属の板を直接使う事もあり。

 

金属に魔法陣を直接刻印できる。

 

更に中和剤を用いて変質させ。

 

これによって効果を何倍にも増す。

 

レシピを見る限り、超一流の錬金術師が作ったグナーデリングは、指輪サイズで、元の人間の性能を五倍にも六倍にも上げるらしい(当然つけられるだけつける人もいるようだ)が。

 

今の私だと、三倍くらいが精一杯だろう。

 

ただし、マフラーに続けて、防御魔術が体全部に掛かるようにしたし。

 

反射神経そのものも強化されるように手を入れている。

 

これで、かなり動けるようになる筈だ。

 

完成には少し時間が掛かったが。

 

自分でつけてみると、確かに効果は目に見えて分かる。

 

ちょっとアトリエの外に出て、本気でジャンプして見たら。

 

アトリエの背中を飛び越えてしまった。

 

これは、すごい。

 

岩を砕くのも、更に楽になるだろう。

 

ノウハウは分かった。

 

完成品は、まずお姉ちゃんに渡してしまう。

 

それから、街道が出来るまでに、今手伝ってくれている人数分は作っておきたい。

 

時々お呼ばれが掛かるけれど。

 

それも、あまり重要な用事ではなかった。

 

もう、フルスハイムとドナは。

 

事実状インフラがつながっていた。

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