暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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フィリスのアトリエの原作でも、探索の中心となる巨大都市フルスハイム。

そこには幾つもの関門が待ち構えています。


竜巻の壁
序、猛威振るう悪夢


ドナからフルスハイムへの街道を作る過程で見てはいたが。いざわたしがフルスハイムに入ると、その竜巻の脅威は圧倒的だった。

 

フルスハイムは美しい街だ。

 

白磁の町並み。

 

広い道。

 

色々なお店。

 

行き交う人々の背丈もまちまち。

 

ホムも魔族も普通に歩いている。ホムは商人や重役ばかりを以前は見かけていたが、此処では商人以外の仕事に就いている者もいるようだ。人口は一万を超えていると言う話だが、それだと色々選択肢があるのだろう。

 

お姉ちゃんに言われて、周囲に気を付けながら歩く。

 

警備をしている人達はみなぴりぴりしていて。

 

フォーマンセルで動き回り。

 

怪しい動きをしている者がいたら、すぐにしょっ引くと顔に書きながら、肩を怒らせて歩いていた。

 

街の中は、ずっと小雨が降っている。

 

それはそうだろう。

 

あの竜巻で、ずっと水が噴き上げられているのだ。

 

この辺りの空はどんよりとしていて。

 

綺麗な水路も、何だか元気が無いようにさえ思える。

 

少し悩んだ後。

 

まずは公認錬金術師の所を訪ねる事にした。ただ、今日はもう夜だ。明日にするべきだろう。そうも判断した。

 

ドナを出るとき。

 

オレリーさんに、かなりまとまった報酬金を貰った。

 

戦略級の仕事の根幹に関わったのだ。

 

当然の話なのだろう。

 

ただ、ちょっとわたしが持って良いかよく分からない程のお金だったので。

 

持ち歩かず、アトリエのコンテナに入れている。

 

はっきりいって、あんな大金を持ち歩いていたら、もしもの時が怖い。

 

ただし。錬金術の素材類は、とてもお金が掛かることも分かっている。そして、今後どれだけお金が掛かるか分からない事も。

 

だから可能な限り温存する。

 

街の一角に、空き地がある事を確認。どうやら馬車などを泊めたり、キャンプを張ったりすることが許されている場所らしい。少し年老いているが、戦士が数人見張りについてもいるようだ。

 

アトリエを展開し。

 

今日はここで休む事にした。

 

宿もあると言う事だったのだけれど。

 

とりあえず、この街は今厳戒態勢だ。

 

何が起きても不思議では無いし。

 

むしろ宿などは狙われる可能性が高い。

 

アトリエの場合は、わたしが開けっ放しにしなければ、他の人間は入れないし。そもそも強度が異次元だ。

 

押し込み強盗なんて問題にもならない。

 

錬金術師の強盗だったら分からないが。

 

そんなのがいたら、それこそ公認錬金術師が総力を挙げて退治に掛かっているだろう。

 

とりあえず夕食にする事にする。

 

街道作りの終盤は、わたしは殆ど手を出す事はなく。

 

自分の作業に注力し。

 

時々お薬を作ってけが人に渡したり。

 

発破を使ったり。

 

岩を砕くくらいで、負担は小さかった。

 

今はちょっと知らない街にいて空気になれていないけれど。

 

これならば、どうにかなるだろう。ある程度は。

 

とりあえず、今日は空気に慣れ。

 

明日から本格的に動こう。

 

そう思っていた矢先だった。

 

アトリエの戸がノックされる。

 

そもそもこれがアトリエだと気付くと言う事は。

 

この間の街道での作業を見に来ていた人だろうか。相応の重役か、ある程度の地位がある戦士しかいなかった筈だが。

 

お姉ちゃんが出るが、小首をかしげる。

 

「フィリスちゃん。 同じくらいの年の女の子よ」

 

「知っている子?」

 

「いいえ」

 

お姉ちゃんは人の顔を覚えるのが得意で、殆ど忘れない。

 

この間ドナの街での作業の時も、作業に関わった人夫や戦士は、殆ど顔を忘れていなかった。

 

それくらい記憶力が凄いのだ。

 

戦闘力も理由だが、お姉ちゃんがエルトナにいた頃、外に出ることを許されていた理由は此処にある。

 

交渉などを行う時。

 

記憶力は強い武器になるのである。

 

ましてやお姉ちゃんは自衛も出来る。

 

悪徳商人にはやりづらい相手だったことだろう。

 

ともかく、お姉ちゃんが知らないと言うのなら、まったくの未知の相手の筈。何かのお仕事かも知れない。

 

わたしはさっと食事を終えると。

 

応対に出る。

 

一応念のため、ドロッセルさんにも控えていて貰った。

 

アトリエは中から外を確認できる造りだが。

 

そこにいたのは、金髪のとても育ちが良さそうな女の子だ。着ているのも前にドナの商人のエルさんに実物を見せてもらった絹服(つまり金持ちが趣味で着る服)だし、側には護衛らしいメイドもついている。赤い髪のメイドは、無表情で、吃驚するほど無機質だった。

 

「なんですかー?」

 

「ドナからの街道工事を主導したフィリスというのは貴方かしら」

 

「はい。 貴方は」

 

「私はイルメリア=フォ……コホン。 イルメリアよ。 貴方と同じ錬金術師をしているわ」

 

同じくらいの年で。わたしと同じくらいの背丈で。それでもこんなに変わるのか。

 

私はひょろっひょろ。

 

でもこの子は綺麗にスレンダー。

 

わたしはちんちくりん。

 

でもこの子は綺麗にまとまっている。

 

そういう印象だ。

 

腰に右手を当てて、メイドに傘をささせて立っている姿も何というか、堂に入っている。

 

何もかもが、育ちが良い、という印象につながるのだ。

 

少し悩んだ後、ドアを開ける。

 

顔を見たときの反応からして。

 

向こうは、わたしの事を知っているようだった。

 

「工事の様子は見せてもらったわ。 出来れば、すぐにでも来て手伝って欲しいのだけれども」

 

「手伝うって、獣でも出たんですか? それともネームド?」

 

「敬語じゃ無くていいわよ」

 

「ええと、じゃあ、イルメリア……ちゃん?」

 

それでいいと、イルメリアちゃんはいう。

 

良かった。

 

いきなりちゃん付けだと失礼かと思ったし。

 

それに、側に控えているメイドも、此方の非礼を咎めるような様子は無かった。

 

「アトリエの中で話していく?」

 

「いいえ、時間が惜しいの。 すぐにでも来て欲しいのだけれど」

 

「えっ……」

 

「あの竜巻の件よ。 最悪の事態の時は、住民を貴方が作った街道を使って、ドナを経由して各地の街に避難させなければならない可能性さえ今はあるの。 もたついてはいられないわ」

 

ぞくりとくる。

 

確かにあんなものがすぐ側にあって。

 

それでも平然と暮らしている人達の方がおかしいのだ。

 

どう見てもあれは自然の産物では無い。

 

ドラゴンか。

 

邪神か。

 

オレリーさんも、そんな事を言っていた様な気がする。

 

この街の公認錬金術師は、今頃必死になっている筈。

 

でも、イルメリアちゃんは、多分違うだろう。

 

確かこの街の公認錬金術師は、レンという人の筈だ。

 

「此方よ」

 

一秒が惜しいと言うばかりに、イルメリアちゃんに促され。歩きながら話す。お姉ちゃんはドロッセルさんに後を任せると、わたしの側で傘を差した。

 

色々なお店が並んでいて。

 

雨が降っているにもかかわらず、喧噪がある程度ある。

 

灯りもついているが。

 

これは魔力灯だろうか。

 

エルトナでも水晶を使った魔術による灯りが使われていたが。

 

あれは適性のある人しか使えず。

 

メンテも必要だった。

 

それをソフィー先生が改良してくれた。

 

だがこの街にある灯りは。

 

ソフィー先生が作ったものよりは、若干しょぼいように見える。

 

「イルメリアちゃん、あの灯りは?」

 

「お上りとは聞いていたけれど、本当に物知らずなのね」

 

「えへへ、田舎者なもので」

 

「……ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ」

 

お姉ちゃんの顔を見たからなのか。

 

それとも、わたしが屈託無く笑ったからか。

 

イルメリアちゃんは色々と苦々しげに謝罪した。嫌みには、嫌みで返して良いのにと、顔に書いてあった。

 

でも、わたしは実際物知らずだし。

 

田舎者だ。

 

だから素直に知りたい。

 

「あれは魔力灯の一種で、空気中にある無尽蔵の魔力を吸収して発光する仕組みよ。 ある程度の錬金術師になると作れるけれど、兎に角作るのにコストが掛かるから、最低でも公認錬金術師がいて、それなりのお金を持っている街にしかないし、コストを考えて敢えて導入しない街もあるわ。 ドナもその一つね」

 

「へえ、くわしいね。 イルメリアちゃんは都会の出身なの?」

 

「都会と言うほどでは無いけれど、公認錬金術師がいる、そこそこに大きな街の出身よ」

 

大きなアーチ状の橋を渡る。

 

その時に水が見えたが。

 

真っ黒に濁っていて。

 

渦巻いてさえいた。

 

ちょっとぞくりとする。

 

これは落ちたら助からないのではあるまいか。

 

「運河は実はそれほど深くはないわよ。 小型の船が通れる程度の幅と深さは確保されているけれど、入り口には獣よけの柵があって、途中何カ所も獣を排除する仕組みが施されているわ」

 

「詳しいね!」

 

「此処にしばらく足止めされれば嫌でもね。 早くライゼンベルグに行きたいのに」

 

「イルメリアちゃんも公認錬金術師試験受けるの?」

 

興味津々の様子のわたしに対して。

 

イルメリアちゃんは、苦虫をいちいち噛み潰していた。

 

やがて複雑な水路が絡み合う地区に出る。

 

はて。

 

さっきに比べて、家が少しずつ小さく、粗末になって来たような。

 

廃屋もあるようだ。

 

「この辺りは新市街よ。 フルスハイムが拡大するに至って、代々の公認錬金術師が拡張してきた区域ね。 後から流入してきた人が多いから、治安もあまり良くないわ」

 

「みんな仲良く出来ないの?」

 

「人口がこれだけいると難しいわね。 かといって、少なくったって仲良くやっていけるかというと話は別だと思うけれど」

 

「……」

 

そうか。

 

エルトナでさえ、色々と諍いはあった。

 

嫉妬の言葉を聞いたこともある。

 

呪いの言葉も。

 

こんな夢みたいな大都市でも。

 

それは同じなのか。

 

嫌な話だけれど。

 

今後わたしは、せめてエルトナに住んでいる人はまず不幸せではないようにして。それからできる限り、世界を変えていきたい。

 

そう考えているのだから。

 

この街に対しても。

 

同じように、変えられるなら変えたい。

 

程なく、少し大きめの家に着く。

 

本日営業終了と、看板が掛かっているが。

 

イルメリアちゃんは躊躇無くドアをノックした。

 

そして、中から少し窶れた、若い女性が出てくる。

 

恐らくはこの人がレンだろう。

 

この街の現在の公認錬金術師。

 

まだ若いが。

 

相当に疲弊しているのが見て取れる。

 

オレリーさんほどではないが。

 

かなり厳しい人でもあるようだ。

 

「レンさん、例の子を連れて来たわ」

 

「そう、助かったわ。 フィリスさんね」

 

「はい。 フィリスです。 公認錬金術師試験を受けようと思っています」

 

「私はレン=ブライトナー。 この街の公認錬金術師よ」

 

自己紹介はされたが。

 

笑顔は微塵も浮かべない。

 

何というか、オレリーさんとは別方向の厳しさを感じる。オレリーさんからは強い圧を感じたが。

 

この人の場合、氷のような冷たさだ。

 

「あの街道を作った際の手腕は此方でも見ていたわ。 見習いとはいえ、もしも協力してくれれば有り難いのだけれど」

 

「協力というと、あの竜巻……ですか?」

 

「そうよ。 あの竜巻は恐らくドラゴンが発生させているものだけれども、そのドラゴン自体が見当たらないの。 竜巻の中には少なくともいないわ。 いるとしたら、湖底……でしょうね」

 

湖底。

 

流石にそんなところまで行って。

 

ドラゴンを倒すのは難しいだろう。

 

そこで、まずは竜巻そのものをどうにかしよう、という考えをレンさんは持っているのだそうだ。

 

「ただ、竜巻を打ち消すと言っても、そもそもどうするべきか分からなくてね。 アイデアそのものさえ浮かばない状態で……」

 

「それで、助けが必要、と言う事ですか」

 

「そういう事よ」

 

レンさんの声は静かで。

 

やはり、湖面のような冷たい波紋を感じさせる。

 

咳払いするイルメリアちゃん。

 

「私はもう良いかしら。 件の計画を進めたいのだけれど」

 

「そうね。 イルメリアちゃんは案内をありがとう。 此方は手を離せない状態だったから」

 

「アリス、行くわよ」

 

「はい、お嬢様」

 

メイドが一礼だけすると。

 

イルメリアちゃんと一緒にその場を去る。

 

わたしは少々息苦しくなった。

 

レンさんは、何というか。

 

オレリーさんのような不機嫌なタイプでは無くて。

 

その場にいるだけで温度が下がるような感じで。

 

少し息苦しいのだ。

 

「情報は既に得ているのだけれども、メッヘンの水害対策でも、大きな成果を上げていると聞いているのだけれど、本当かしら」

 

「はい、あの時は無我夢中で」

 

「それならば頼りになるわ。 今、イルメリアさんには竜巻の影響が及んでいない湖の北西部の、安全確保を依頼していてね。 戦士達の主力も、其方にいるの」

 

「道の確保、ですか」

 

レンさんは頷く。

 

なるほど、元々この街は水運の街だ。

 

もし人を逃がすなら水路から、とレンさんは考えたのだろう。

 

しかし、湖でも、安全な航路は限られていて。

 

恐らく今イルメリアちゃんが奮闘している辺りは、安全とは言い難い、という所か。

 

「竜巻は今のところ安定しているけれど、それもドラゴンの機嫌次第よ。 いつドラゴンがどのように動くか分からない以上、住民を少しでも多く逃がさなければならない。 ドナへの街道が通じたことは本当に幸運だったけれど、それでも最悪の事態の場合は間に合わないかも知れない」

 

「それで、イルメリアちゃんに手伝って貰っているんですね」

 

「そういうこと。 そして私は、竜巻の方に注力していたのだけれど」

 

アトリエの地下に案内される。

 

かなり広い部屋があり。

 

中央には模型があった。

 

そして、擬似的に竜巻が作られている。

 

この人も公認錬金術師なのだ。

 

それが、この実際に竜巻が出来ている様子や。

 

模型にきちんと水が張られていて。

 

湖の完全再現が為されていることからも、分かる。

 

「状況はスケール違いだけれども、完全再現してあるわ。 これから、この竜巻を消す具体的な方法を、考えてくれるかしら」

 

「レンさんには名案はないんですか?」

 

「幾つか考えたのだけれど、最終的にドラゴンを倒す、以外にはないの。 ドラゴンの力をある程度中和して、街に何かしようとしたときに、住民を逃がす時間を稼ぐので精一杯でね」

 

レンさんが装置を弄ると。

 

魔力の壁が、何層にも街を覆う。

 

竜巻だろうが津波だろうが防ぎきれる。

 

ただし短時間だ。

 

その間に、住民を全て逃がさなければならない。

 

「少なくともインフラは回復させなければならない。 もしも、良いアイデアを出してくれたら、公認錬金術師試験の推薦状を書かせて貰うわ」

 

「わかり……ました」

 

レンさんの発言は切実だ。

 

手が足りない。

 

力も足りない。

 

オレリーさんは、ドナの街側から、出来るだけの事をしてくれている。事実、ドナの東の街への街道接続も、その一端だろう。レンさんはフルスハイムの事だけで精一杯である。

 

だがそれは力不足だから、と斬って捨てられるだろうか。

 

わたしも覚悟を決める。

 

今までとは桁外れの大勝負。開始だ。

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