暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、集めよ情報を

一通り集められそうな情報は拾い上げたので。

 

見聞院に本を返しに行く。

 

その途中で、また綺麗な歌が聞こえてきた。今回はドロッセルさんに護衛についてきて貰っているのだが。

 

何かのヒントになるかもとアドバイスを受ける。

 

今は、兎に角何でも情報が欲しい。

 

歌が聞こえている店に入ると。

 

お酒の臭いがする。

 

どうやら、お酒を飲む店らしい。

 

店員がわたしを見て、一瞬眉をひそめたが。

 

すぐ態度を変えた。

 

「錬金術師どの」

 

「あ、はいっ」

 

「これは失礼しました。 どうぞご自由にご寛ぎください」

 

「はい、そうさせていただきます」

 

さっきまで歌を謳っていた人を探す。

 

いた。

 

何というか、男装をした女性だ。

 

男装と言っても、粗野で荒々しいものではなく。

 

何というか貴族的というか。

 

とても品が良い服である。

 

そしてきゃーきゃー黄色い声を上げているのは、みんな女性ばかりだった。

 

よく分からないけれど。

 

とにかく、そういう需要があるらしい。

 

店の奥には、屈強な初老の男性が、ちびちびとお酒を飲んでいる。格好からして傭兵か、もしくは街の自警団員でもエース級の実力者か。彼方は今の時点では関わらなくても良いだろう。

 

ドロッセルさんはアドバイスしてくれたが。

 

今歌っていたような吟遊詩人は、各地を旅している事が多く。

 

情報に通じている事もあると言う。

 

それならば、確かに。

 

何か有益な情報を持っているかも知れない。

 

取り巻きらしい女の子がはなれた所で、声を掛けに行く。

 

「あの、すみません」

 

「なんだい、可愛らしい錬金術師のお嬢さん」

 

「あ、フィリスです」

 

「そう、可愛い名前だね。 私の名前はルイス。 見ての通り、各地を行き交う吟遊詩人をしているよ。 君のような相手には、秘蔵の品を売ってもいい」

 

何というか、レヴィさんとは別の意味で芝居がかったしゃべり方だ。

 

声も甘ったるくて。

 

何というか、頭がくらくらしてくる。

 

ドロッセルさんが咳払いする。

 

「ちょっとこの子には刺激が強いようなので」

 

「おっと、貴方は傭兵かな。 何処かで見た事があるようだが」

 

「ドロッセルよ。 まあ傭兵としてはそれなりに知られてはいるかな」

 

奥にいた、初老の男性が驚いた様子で此方を見た。

 

ドロッセルさんの名前に明らかに反応した。

 

ひょっとしたら、何か知っているのだろうか。

 

ともかく、まずはこのルイスさんに話を聞くべきだろう。

 

何か聞けないかと思って、あの竜巻について、似たようなものを見た事がないかとか、色々聞いてみる。

 

だが、彼女は肩をすくめるばかりだ。

 

「私も彼方此方を見てきて、色々な自然の猛威は経験してきたよ。 だが流石にあれは経験が無い。 これでも多少剣の腕に自信はあるのだけれどね、所詮は生兵法さ。 小鳥たちに聞かせる歌のために見聞も広めてはいるが、あんな竜巻は流石に、ね」

 

「そうでしたか……」

 

「役に立てなくてすまないね」

 

「いえ、有難うございます」

 

一礼する。

 

そして、席を移した。

 

案の定、あの初老の男性が、向かいの席にどっかと座ってくる。

 

ああやっぱり。

 

ドロッセルさんの知り合いか。

 

「ドロッセル、久しぶりじゃねえか。 いやあ、母ちゃんに似て美人になったな!」

 

「アングリフさんもご壮健な様子で」

 

「知り合いですか?」

 

「私の両親の戦友よ。 この辺りだと、両親と並んで最強の傭兵だと思う」

 

凄い。

 

そんな人がいるのか。

 

ふふんと自慢げに胸板を見せつけるアングリフと言う人は。

 

ヒト族の限界身長に近い背丈で。

 

初老にもかかわらず、体は屈強そのものだった。

 

手にしている巨大な剣と言い。

 

まだまだ現役、と言う所だろう。

 

「実は昨日来たばかりでな。 フルスハイムがえらいことになっているってのは知っていたんだが、何しろ道がアレだろ。 南を経由して、ドナの方に出来ていた道から来たんだが、いやはや参ったぜ」

 

「私も似たような感じですよ。 此方フィリスちゃん。 その道を作った張本人です」

 

「そうかそうか。 錬金術師はどいつもこいつもすげえな。 このモヤシみたいなのがあの道をか!」

 

ガハハハハと笑いながら。

 

わたしの背中をばんばん叩くアングリフさん。

 

思わず机に叩き付けられるかと思った。

 

お姉ちゃんがいたら、何を言われたか分からない。

 

「俺はしばらく此処で弛んだフルスハイムの連中を鍛えて、最悪の事態に備えて欲しいって言われている。 まあ今日は景気づけに飲んでいたところだが、どうもこの街の自警団は軟弱でいかんな」

 

「俊英で知られるレンさんが来るまで、無能な錬金術師が居座っていたらしいので、仕方が無いかと」

 

「まあそうだよなあ。 だがそういう錬金術師って、どういうわけかいつの間にか死ぬんだよな」

 

「ええ、まあ。 良く聞きますね、そういう話」

 

何だろう。

 

ぞくりと来た。

 

ドロッセルさんの声に、何か深い闇を感じたのだ。

 

「フィリスと言ったか。 この街の公認錬金術師でもどうにもならないんだ。 今からでも迂回路を検討したらどうだ? 緑化で街の南をぐるっと回れる街道を作るとか、な」

 

「実は、あの竜巻、ドラゴンが起こしている可能性があるらしいんです」

 

「何だと」

 

「今、この街はドラゴンの機嫌次第でどうなってもおかしくないんです。 少なくとも、竜巻をどうにかしないと……」

 

アングリフさんは、はあと嘆息した。

 

この人は傭兵だ。

 

だからこそに知っているのだろう。

 

ドラゴンの恐ろしさを。

 

「分かった。 しばらく俺はこの街にいるし、何か役に立ちそうなことがあったら声を掛けてくれるか」

 

「ありがとうございます。 ……ああいう天変地異について、他に聞いた事はありませんか?」

 

「少し違うが、此処から南東に行った荒野に、ずっと凄まじい風が吹いているという谷があるな」

 

少し興味がある。

 

聞かせて欲しいと言うと、アングリフさんは頷いた。

 

何でもフルスハイムから東は、インフラがズタズタで。

 

北には入ったら生きては帰れないと言われる、閉鎖的な獣人族のコミュニティが存在する巨大樹が。

 

北東には万年雪が溶けない絶峰が連なり。

 

そして南東には、道も寸断された、乾ききった荒野が拡がっているという。

 

その内南東。

 

複雑な地形と、荒野。

 

多数の匪賊が群れる無法の土地。

 

通称大峡谷。

 

その辺りに、そういった地形があるそうだ。

 

「ただ、現在でもその風は解消されていねえ。 噂によると、風の中にドラゴンの姿を見たって話もあるらしいが、眉唾だな」

 

「……分かりました。 ありがとうございます」

 

「良いって事よ。 じゃあ頼むぜ」

 

アングリフさんは、また酒を飲み始める。

 

わたしは一礼をすると、店を離れた。

 

ドロッセルさんが苦笑いする。

 

「ごめんね、有益な情報が無くて」

 

「いえ、幾つかヒントはありました」

 

「ほんと?」

 

「……」

 

今回の一件。

 

根本的な解決は、一つしか無い。

 

ドラゴンを倒す事だ。

 

それには、まずドラゴンを倒す戦力を整える必要がある。それも、オレリーさんは確か上級と言っていた。上級のドラゴンとなると、ライゼンベルグ中から腕利きの精鋭を集めても、勝てるかは分からないだろう。

 

そうなってくると、今は無理と結論するしか無い。

 

次善の策としては竜巻の無力化だが。

 

それもまた、さっき軽く計算したところ、余程繊細で複雑な装置を作って、ドラゴンの力を打ち消すか。

 

もしくは巨大な装置で、力尽くでねじ伏せるかしかない。

 

ならば、竜巻を無視して、どうにかする方法はないか。

 

それについては、この間顔を合わせた同年代の錬金術師、イルメリアちゃんが今頑張っている筈だ。

 

わたしがやる事じゃ無い。

 

手詰まりだ。

 

何か、考えを変えなければならないかも知れない。

 

それが分かっただけでも、進捗とは言える。

 

或いは、公認錬金術師だったら、ドラゴンの魔術を打ち消せるほどの戦略的な道具を造り出せるのかも知れないけれど。

 

むしろわたしは。

 

別の方向で攻められないだろうか。

 

アトリエに戻る。

 

ツヴァイちゃんは眠っていた。

 

だがお姉ちゃんの様子からして、散々怖がってやっと眠ってくれた、というのが正しそうだ。

 

お姉ちゃんは普段わたしの事くらいしか考えていない節があるが。

 

でも今回ばかりは心を痛めているようだった。

 

匪賊に誰もが容赦しない理由がよく分かった気がする。

 

わたしも、今後お外で匪賊と戦う事になったとき。

 

相手を殺すだろう。

 

そうしなければ、わたしや、わたしの家族が殺される。

 

しかも喰われてしまう。

 

そんな事だけは、絶対に許せない。

 

頭がかなりかっかしていたので、眠れそうに無い。カルドさんが、奥でレヴィさんと料理について話あっていたが。カルドさんは野戦料理は出来ても、細々としたものはあまり得意ではないようだった。

 

レヴィさんは何でも作れるし、お菓子が得意なので。

 

その辺りは色々と対照的である。

 

「そうだ、カルドさん」

 

「うん、なんだい」

 

「あの竜巻を突破する方法、何か思い当たりませんか?」

 

「各地の遺跡を見てきたが、流石に其処まで絞られた内容だと……参考になるような事であれば幾つか知っているが」

 

参考になりそうな事を知っているだけで充分だ。

 

話を聞かせて貰う。

 

カルドさんによると、錬金術師は個々の性能差が非常に高く。

 

それこそ最上位の者になると、空間や時間を自由自在にするという。

 

そういえば。

 

このアトリエも、その産物か。

 

頷くと、続けて話を聞く。

 

古い時代は。

 

空を飛ぶ建物や、船を作った錬金術師もいたとか。

 

空を飛ぶ。

 

それは凄い。

 

建物、それも大きなものを浮かせていた場合もあったらしく。

 

墜落した建物の残骸も見つかっているという。そういった遺跡を調査した事もあるらしい。

 

そして、現在の錬金術師は、けっして過去の錬金術師に劣っている、と言う事はないそうだ。

 

現在でも怪物的な実力者はいる。

 

そういう事だった。

 

なるほど。

 

多分ソフィー先生なら、そうなのだろう。

 

そして、何となくだが。

 

分かってきた気がする。

 

今日はもう遅い。

 

だから、明日。

 

ちょっと探しに行く店がある。

 

 

 

翌日。

 

ツヴァイちゃんの面倒はカルドさんに頼んで、お姉ちゃんとレヴィさんに来て貰う。ドロッセルさんは、自警団に話を聞きに行って貰った。

 

探す店は鍛冶屋である。

 

機械屋では無い。

 

機械技術も使う事になるかも知れないが、まずは鍛冶屋が絶対に必要になると、わたしは判断した。

 

それも可能な限り腕が良い鍛冶屋が好ましい。

 

この街は大きいし、大通りに多分あるだろうと思ったのだが、案の定あった。

 

営業中と札が掛かっているのを見て、安心し、中に入る。

 

筋骨たくましい人物が槌を振るっているかと思ったが。

 

実際に中にいたのは、若々しい青年だった。

 

ロジーというそうである。

 

ラスティンの街を点々と移動しながら仕事をしているらしく。

 

去年からフルスハイムにて店を開いているそうだ。

 

好都合だ。

 

流しの鍛冶屋で、しかもこんな大都市に店を造り、しっかりやっていけているということは。

 

それなりに見聞も広く。知識も腕もあると言う事だ。それくらいはわたしにだって分かる。

 

早速、幾つか聞く事がある。

 

「可能な限り軽量で、なおかつ頑強な金属はありますか?」

 

「ハルモニウムだな」

 

「ハルモニウム」

 

「ああ。 金属としての最適解は基本的にハルモニウムに行き着く」

 

そうか。

 

その名前は知っている。

 

釜に使われている金属だからだ。

 

それにソフィー先生に貰った図鑑にも載っていた。

 

だがあれは、凄い貴重な品の筈。

 

場合によっては国宝になるとさえ、お姉ちゃんは言っていたと思ったが。

 

「大量生産は……」

 

「無理だ。 ハルモニウムはドラゴンの素材を利用する。 ホムの中には素材を増やせるものもいるが、それでもドラゴンの素材を増やすと凄まじい消耗をする。 大量に作る事はできない。 出来るとしても、武器や、錬金術の道具などに使用するくらいだな」

 

「そうなると、次善の策としては」

 

「ゴルトアイゼンやプラティーンだが……」

 

ロジーさんという人は。

 

わたしが錬金術師だというのを見抜いたのか。

 

金属の表を出してくる。

 

幾つかの金属には、それぞれ特性があるそうだ。

 

まず一般的に使われる金属は、ツィンクというそうである。これは一般的で流通量も多いが、重い上に加工が難しい。

 

続けてシルヴァリア。

 

これはツィンクよりも軽く強度がある反面、錆びやすく扱いが難しい。

 

この上がゴルトアイゼン。

 

見せてもらうが、金に輝く鉱石だ。

 

基本的に強度はさほどでもないため、何かしらの金属と併用して使う事が多いのだが。その一方で錆びないという特性を持っているという。

 

それは強い。

 

ただ、脆いというのが気になる。

 

今わたしが想定している使い方は。

 

脆くては話にならないからだ。

 

続けて、プラティーンを見せてもらう。

 

これは白銀に輝く美しい金属で、レアリティも高い。

 

錬金術師や、専属契約をしている凄腕の戦士以外は、これを使っていれば御の字、という代物だという。

 

錆びることなく。

 

軽く強い。

 

それは素晴らしいのだけれど。

 

ちょっとした欠片だけで、わたしが真顔になって沈黙するくらいの価格がする。

 

それはそうだろう。

 

そして、ハルモニウムも実物を見せてもらった。

 

なるほど、これは。

 

凄い。

 

凄いとしか言葉が出ない。

 

軽く、そして強く、錆びることも無い。

 

最高品質の錬金術に欠かせず。

 

これによって作り上げた武具は、それこそドラゴンにさえ通用する。

 

「国宝になる事もあると聞いていますが」

 

「その通りだ。 基本的に錬金術で無ければ製造が無理だからな。 俺は前、ある街で超凄腕の錬金術師に頼まれて、最高位金属を扱ったことがあるが、その時は静かな興奮を覚えたものだ。 鍛冶師冥利に尽きるとな」

 

「へえー……」

 

「それで、一体何が目的なんだ。 まだあんたは錬金術師としては半人前だろう」

 

一目で分かるのか。

 

まあ、事実その通りだ。

 

わたしもインゴットは作っているが。

 

それは、あくまで「金属」としか思っていないふんわりとしたもので。

 

それを加工した装備類は、所詮まだ半人前錬金術師の作った程度の性能しか引き出せていない。

 

「あの竜巻を、突破する船を作りたいんです」

 

「なにっ!?」

 

「錬金術については色々調べました。 古い時代は、空に建物を浮かべたり、空を飛ぶ船が実在したと。 それならば、嵐を突っ切る船も作れるのでは無いのかなと思って」

 

「凄い事を考えるな……」

 

ロジーさんが考え込む。

 

だが、初めてそういう考えを持つ人間に出会った、という風情では無い。

 

もっと前に。

 

もっと凄まじい錬金術師を見た事があって。

 

それを彷彿とさせる、という感じだ。

 

「幾つかクリアする事がある。 まず第一に、その船は動力を持っていて、風に頼らずに動く必要がある」

 

「はい。 それについては、これから考えます」

 

「うむ。 次は重量だ。 風に耐えきる装甲と、沈まない程度の装甲を両立させなければならない。 重すぎれば沈んでしまうし、軽すぎれば風に翻弄されて進む事が出来ないだろう」

 

「……それについても考えて見ます」

 

ロジーさんの瞳に熱が入る。

 

鍛冶師としての本能が刺激されている、と言う事だろう。

 

更に条件を挙げられる。

 

「大規模な調合を、腰を据えて行う必要が出てくるだろう。 この街の公認錬金術師のレンさんと綿密な打ち合わせが必要になるぞ」

 

「分かっています」

 

「そうか、それならば俺に言う事はもうないな」

 

ロジーさんはふっと笑う。

 

何だか素朴な人だ。

 

何よりも鍛冶に真摯で。

 

真面目で真剣。

 

ただし、この人は何というか。鍛冶が何よりも第一で。それ以外の事はあまり考えていない気もする。

 

ロジーさんは、奥から本を出してくる。

 

かなり使い古した本だが。

 

大事にされているものだと、一目で分かった。

 

「これを持っていくと良い」

 

「これは?」

 

「金属についての本だ。 合金の作り方、逆に純粋な金属の作り方、金属の素材などについて、記載されている」

 

「!」

 

なるほど。

 

こんなものを貰えるなら。

 

それは鬼に金棒と言えるかも知れない。

 

そしてこれほど鍛冶に真摯に取り組んでいる人の愛用している本だ。

 

頷くと、メモをとったら必ず返すと答えた。

 

ロジーさんは頷くと、仕事に戻る。

 

街に傭兵団が来ていて。

 

ロジーさんの評判を聞きつけた彼らが、武器の製造を依頼してきているというのである。かなりの数を作る必要があり、納期が押しているそうだ。

 

それならば、此処に長居するのは問題だろう。

 

礼を言うと、お店を出た。

 

お姉ちゃんはずっと黙っていたが、わたしが大事に本を抱えているのを見て、それで言う。

 

「何か役に立ちそう?」

 

「うん」

 

「それにしても嵐を強行突破か。 時々見えていたけれど、フィリスちゃんはなんだか猪みたいだね」

 

「ええー」

 

ドロッセルさんにストレートすぎる言い方をされて、流石にわたしも困る。

 

ともあれ、一度アトリエに戻った後。考えをまとめる。

 

まず、動力。

 

古今東西の船について、調べる必要がある。

 

空飛んだ船の資料が無いだろうか。

 

調べておきたい。

 

あの見聞院という場所に、もう一度行く必要があるか。

 

次が鉱物。

 

船を覆う装甲が必要だ。

 

それでいながら、船が沈まない程度に装甲を強化しなければならない。

 

これの両立は難しいはずだ。

 

船の構造についても、勉強する必要がある。

 

そうだ。

 

船は専門家に相談するのが一番か。

 

カイさんに話を聞いて貰うとしよう。

 

そして最後に。

 

釜を見る。

 

現在、わたしはソフィー先生からとても凄い釜を貰っているけれど。

 

これでも多分足りないはずだ。

 

腕組みして考えていると。

 

まず、やるべき事が、順番に決まってきた。

 

最初に、見聞院に行く。

 

外の雨は少し弱まっているが、止む気配はない。

 

それはそうだろう。

 

あの竜巻だ。

 

湖の水を巻き上げて、周囲にばらまいているのだ。

 

それでは、とてもではないが、晴れるはずもない。

 

油紙を本にかぶせて、要所をメモした本を見聞院に返しに行く。そして船についての本を借りる。

 

空を飛んだ船についての本はあるかと聞いたが。

 

あるという返事だった。

 

錬金術師が利用する施設でもあるらしく。

 

古い時代の錬金術の資料は、たくさん残っているそうだ。

 

ただ。ざっと見せてもらったが。

 

単に想像で書かれたとしか思えないものや。

 

あからさまにいい加減なもの。

 

雑に外観だけを書いたものや。

 

酷いものになると、詐欺師が作ったとしか思えない、どう考えても飛びそうにも無いものまであった。

 

幾つかの本を見せてもらいながら。

 

それでも、少しは参考になりそうなものを見繕う。

 

動力については、考えなければならないだろう。

 

いずれにしても、これらの本に書いてあることは、鵜呑みに出来ない。

 

幸い、見聞院にまだ本を借りられる分の情報は残っていたので。

 

それを利用して、三冊だけ借りる。

 

一番ましだと思った本である。

 

そしてアトリエに本をしまった後。

 

カイさんに会いに行く。

 

港の方に行くと、大型の船を港の内側に避難させていて。船乗り達はうんざりした様子で竜巻を見ていた。

 

竜巻の方に無理に行くと獣も出ると言うし。

 

それはもう、近づけないだろう。

 

カイさんはわたしに気付いて。

 

すぐに近寄ってくる。

 

退屈していたのだろう。

 

だから、わたしが船について聞くと。むしろ大喜びで、話を始めてくれた。

 

「帆船以外の船?」

 

「はい。 動力を使って進む船、思い当たりませんか」

 

「そうだな。 一隻だけ今も現役で動いているのがあるが……あれなんかどうだ」

 

見せてもらう。

 

船の左右に大きな水車のようなものがついている。

 

外輪船というらしい。

 

「この外輪を、内燃機関で動かして、水を掻いて進むんだよ。 帆船より遙かに安定していてな。 ただし動かすのにコストが掛かる。 燃料をじゃんじゃんくべないといけないんだよ。 だから速いんだが、大事なときにしか使わないな」

 

「中を見せて貰えますか?」

 

「ああ、かまわないぜ」

 

船はかなり大きい。

 

多分フルスハイムの旗艦的な位置にある船なのだろう。

 

だが、この船でも。

 

あの竜巻の前には無力、と言う事だ。

 

中に入ると、ストーブのものすごく大きいような装置があった。

 

話によると、これで熱を起こし。

 

水を温めて蒸気にし。

 

その蒸気を利用して、あの外輪を動かすという。

 

水は蒸気になると、もの凄く膨れあがるとか言う話で。

 

古くから、多くの錬金術師が研究しているのだとか。

 

二代前の公認錬金術師も、生涯を掛けて、この装置を研究していたらしく。資料が残っているかも知れない、と言う話だった。

 

この規模の街の錬金術師が、完成させられなかった、と言う事は。

 

何か致命的な欠陥がある、と言う事だろうか。

 

とにかくメモをとる。

 

だが、メモをとっている間も。

 

船は左右に揺れていた。

 

「……凄い風ですね」

 

「ああ。 このガタイの船でも、あの竜巻の余波を受けただけでこれだ」

 

「何とかしてみます」

 

「ほう、それは頼もしいな。 頼むぜ」

 

ばんばんと背中を叩かれたので。

 

思わず咳き込んだが。

 

それは別に良い。

 

次だ。

 

レンさんのアトリエに出向く。

 

そして、先々代の公認錬金術師が残した資料について、確認しようと思ったのだけれども。

 

そうしたら、意外すぎる人がいた。

 

「ソフィー先生!?」

 

「ああ、久しぶり、フィリスちゃん」

 

「お知り合いですか」

 

「うん、弟子だよ」

 

レンさんも、ソフィー先生と比べると力が違いすぎる。公認錬金術師でも、ソフィー先生とでは力量差がありすぎるのだ。

 

何を喋って良いか分からず、わたわたしていると。

 

ソフィー先生は、来るように手招きした。

 

奥から出てきたのはイルメリアちゃん。

 

彼女はどうしてか。

 

ソフィー先生に心を許していないようだった。

 

「貴方ほどの錬金術師が来てくれたのは本当に有り難い事です。 竜巻をすぐさま消す事は出来ませんか」

 

「んー、その場しのぎにしかならないかな。 あの竜巻、湖底にいる上級ドラゴンが起こしているものだから、ドラゴンを殺さないと止まらないよ」

 

「やはりそうですか……」

 

「ただ、ドラゴンについては、それで精一杯のようだね。 あたしが少し調べて見たけれど、竜巻を起こすので力を使い果たしているみたい」

 

あれ。

 

何だろう。

 

今、違和感があった。

 

嘘では無いのだけれど。何かおかしな事を、ソフィー先生が言った気がする。

 

「ドナの街の方で、現在水運が死んだ事で孤立した街への街道を作る作業を進めてくれているけれど、フルスハイムでもどうにかしないといけないね。 フィリスちゃん、何かアイデアはある?」

 

「はい、それなんですけれど。 あの竜巻を、無理矢理突破する船を作れないかって思っていて」

 

「ええっ!」

 

「嘘……」

 

レンさんが驚き。

 

イルメリアちゃんが唖然とする。

 

何だろう。

 

わたし、そんなムチャクチャ言っただろうか。

 

「現時点で、湖の底にいるドラゴンをどうにかする方法はないと思うんです。 でも、竜巻はどうにかしなければならない。 それならば、竜巻なんてないも同然の状態にすればいいと思って」

 

「す、凄い事を考えるわね」

 

「幾つか調べてきました。 港にある外輪船に金属の装甲をつけて、動力を改良し、更に風に負けない安定性を持たせれば……」

 

「机上の空論だわ」

 

イルメリアちゃんがばっさり。

 

腕組みした彼女は、頬を膨らませている。

 

わたしも、今の時点では机上の空論だと思う。

 

だが、今此処には。

 

半人前とはいえわたし。イルメリアちゃん。

 

公認錬金術師のレンさん。

 

そして超ド級の錬金術師であるソフィー先生がいる。

 

これならば、机上の空論にせずとも良くなるはずだ。

 

ソフィー先生が、にやりと笑う。

 

どうしてだろう。

 

優しい笑みの筈なのに。

 

どこか、闇の底から、腕を掴まれたような気がした。

 

オレリーさんの言葉を思い出す。

 

錬金術は深淵の学問。

 

力をつければつけるほど深淵に近づく。

 

ソフィー先生は、錬金術を極めていると言っても過言ではないほどの実力者だ。だとしたら、その存在は。

 

硬直していたわたしは。

 

レンさんの咳払いで我に返った。

 

「確かにこのメンバーなら出来るかもしれませんね」

 

「まずは資材だね。 鉱物の在庫を確保しないといけないけれど、この近所だと西かな」

 

「はい。 西の山岳地帯にかなりの鉱物資源があります。 後はそれを加工することと、それに動力炉の改良ですね」

 

「分かりました。 まず鉱物が大量に必要だと言う事ですね。 集めて来ます」

 

わたしが頷く。

 

ついていけない様子のイルメリアちゃんは。しばらく無言でいたが。

 

やがて、不意に言う。

 

「いくら何でも危険が大きすぎる……」

 

「フルスハイム周辺のインフラは危機的状況です。 可能な限り急いで打開しないと、とんでもないことになるのですよ、イルメリアさん」

 

「それは分かります。 しかし……」

 

「幸い、想定する範囲内で最高の腕を持つソフィーさんが今ここに来ています。 今こそ、攻勢に出る好機です」

 

ふと、疑念に思った。

 

ソフィー先生は。

 

どうして、今此処に。来ているのだろうか。

 

だが、とりあえず、やる事は決まった。

 

竜巻をものともしない船を。今は作るべき時だ。

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