暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
寝台に入ってからも。
色々な事を考えてしまう。
お父さんは悲しんでいた。
お母さんはもっと悲しんでいた。
お姉ちゃんは何か知っているようだった。
いつも自分は蚊帳の外。
でも、今日知ってしまった。
現実というものが、如何に残酷かを。
そして、わたしのように何も知らない子供でも、分かる事が一つ、はっきりとして存在している。
錬金術師であるソフィーさんはすごい。
というよりも、圧倒的に凄すぎる。
文字通り、一人いるだけで、エルトナなんて小さな街が、完全にひっくり返る。多分大きな街でも同じだろう。
お姉ちゃんが言っていた。
貴方は、前に見た錬金術師とは桁外れの存在だと。
ということは、ソフィーさんは、それこそ世界でも上位に食い込む錬金術師、という事になる。
その人が、才能があると言ってくれたのだ。
だったら、わたしが錬金術師になれば。
この街そのものを、変えられるかも知れない。
わたしだって知っている。
あんな門で街を守っているのは。
街の人達が弱いからだ。
匪賊が怖いし。
獣だって怖い。
ドラゴンも邪神も。
外にはおぞましい脅威がたくさん存在している。
お姉ちゃんは涼しい顔で外に出て、いつも生きて帰ってくるけれど。
それだって、いつまで続くか分からない。
このままだとわたしは。
声が聞こえる間だけは、鉱石を掘り続けて。
それが出来なくなったら。
お姉ちゃんが無事で帰ってくるのを、祈ることしか出来なくなってしまう。
そんなのは、嫌だ。
それに鉱石だって、いつまでもある訳ではないだろうし。
何より、知らされた惨状を考える限り。
この街は、放置していればいずれ滅んでしまう。
それを回避するためにも、長老は、孫のような年のソフィーさんを、拝むようにして接していたし。
更に言えば。
ソフィーさんは、わたしから見ても怖いところがある。
きっと、とんでもない修羅場をくぐり続けて来た人なのだ。
だから、きっと善意だけで街を助けてくれる筈がない。
きっと、親みたいな年の人とも渡り合い。
外では恐ろしいドラゴンや邪神とも戦い続けてきたのだろう。
お姉ちゃんが、桁外れの脅威をソフィーさんに感じているのは、見ているだけでも分かった。
街では無敵を誇るお姉ちゃんが。
絶対勝てない相手から、わたしだけでも守ろうと、必死に気勢を張っているのが分かったほどなのだから。
寝返りを打つ。
眠れない。
でも、それはそれとして。
錬金術は本当に凄かった。
あの力を自分のものにできれば。
きっと、世界を変えられる。
この閉ざされたエルトナを、優しい世界に変える事が出来る。
誰も外にいる猛獣に怯えず。
お空を見る事が出来。
鉱山の中で息をひそめて、近親婚を繰り返して生きていくだけの道から、解放される筈だ。
本の中にあるような、すてきな冒険の世界に。
わたしもいけるかも知れない。
怖いのは確かだ。
でも。同時に。
外に出られれば、ひょっとすると。
わたしは。
自分の力で。
世界を変えることが出来るのではないのだろうか。
お姉ちゃんだけじゃない。
お父さんもお母さんも優しい。
街の人達も。
だけれども、それはこの閉ざされた、希望の欠片もない街の、唯一の生命線だったからだ。
今更に、それを理解させられる。
嫌でも分かってしまう。
ソフィーさんは、爆弾を投下した。
わたしの心にだ。
わたしは今まで気づけなかったことを。
それで嫌でも思い知らされてしまった。
未来も明日もないこの街は。
エルトナは。
このままでは確実に滅びる。
そして、錬金術師がそれを変えられるのなら。
わたしがやるしかない。
ものの声が聞こえる人間が、錬金術師になれるのなら。
わたしは、むしろならなければならない。
でも、どうしてだろう。
お父さんもお母さんも、錬金術師になるのは反対のようだった。外は危険だから、というのが理由だろうか。
それはわたしだって、外が危ない事は分かっている。
何しろエース格のお姉ちゃんでさえ、時々怪我をこさえて戻ってくるのだ。
わたしも、寝ているときに。
お父さんとお母さんが、お姉ちゃんとどんなことがあったかを話しているのを聞いてしまったこともある。
とても生々しくて。
命が簡単に奪われる世界で、お姉ちゃんが頑張っている事も。
わたしは知っている。
悩みがぐるぐると回る。
でも、一つしなければならない。
わたしは、錬金術の才能があるのかを確かめる。
全ては、その後だ。
翌朝。
家の前にある、ソフィーさんのテントに出向く。
ソフィーさんは笑顔で迎えてくれた。
「どうしたの? お菓子ならすぐ出そうか?」
「いえ、その……」
「うん?」
「わたしに、錬金術師としての才能はありますか?」
ソフィーさんは目を細めてわたしを見ていたけれど。
やがて、不意に指を鳴らした。
あれ。
何だろう。
よく分からないけれど、何か起きたのだろうか。
気がつくと、わたしは。
妙な違和感の中、立っていた。
目の前には、笑顔のままのソフィーさん。
今、何かあったのだろうか。
「うん、素質は充分にあるね。 後は錬金術を実際に使って見て、それで覚えていく感じかな」
「……?????」
何が、起きたのだろう。
何だか良く分からない。
でも、分かったことはある。
この人は、多分嘘をついていない。
それならば、わたしは。
この世界を。
エルトナを、変えられるかも知れない。少なくとも、ソフィーさんは、利害で動くのだとしても。
今、わたしに嘘をつかなかったはずだ。
「フィリスちゃん!」
不意にテントに飛び込んできたお姉ちゃんが、わたしを庇うようにソフィーさんの前に出る。
ナイフに手も掛けていた。
「お姉ちゃん、違うよ。 わたしから、錬金術師としての才能があるか、見てもらったんだよ」
「……」
「リアーネさん、大丈夫。 少なくともこの街の人達と、あたしは利害が対立していないよ」
ぞくりとした。
その言葉だけで。
わたしも背筋が凍るかと思った。
お姉ちゃんが震えているのが分かる。
今、一瞬だけ。
とんでもない殺気が発せられた。
それこそ、ドラゴンがうるさがって、目の前で騒いでいる子ウサギを叩き潰したような。
おしっこを漏らさなかっただけ、わたしは偉かったかも知れない。
そして、ソフィーさんは言うのだった。
「それじゃあ、基礎をちょっとだけやってみようか?」
わたしは頷くしかなかった。
どんなに怖くても。
先細りしか未来がないこのエルトナ。
お父さんとお母さん。
街の人達。
それにお姉ちゃんも。
悲惨で決まり切った破滅の未来を変えるには。
わたしが、やるしかない。
わたしは震えを必死に押し殺しながら。
覚悟を、決めていた。
(続)
既に完全に人を超越した錬金術師ソフィー=ノイエンミュラーとの出会い。
それがフィリスというギフテッドは持っていたものの、非力で世界には抗えなかった一人の人間の人生を。
決定的に壊し。
そして変えていく事になります。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい