暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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フルスハイムで猛威を振るう竜巻をどうにかすべく調査を開始するフィリス。
しかし匪賊の被害を受けて家族を失ったホムの子供ツヴァイの事もあって、フィリスは心をかき乱されます。


果てなき道と足りない時間
序、資源調達と道の確保


わたしは貸してもらった街の自警団員数人と一緒に、フルスハイム西に出向いていた。そして、此処に道が作られない理由を良く理解した。

 

これは、駄目だ。

 

まず周囲に遮蔽物の類が一切ない。

 

わたしにも分かる程度に、獣がたくさんいる。

 

それだけではない。

 

恐らく地図から見て、此処からずっと西に行くと、ディオンさんがいたメッヘンに到達は出来るのだろうけれど。

 

途中、あの治水で苦労したような川が幾つも蛇行し。

 

ロクな橋も架かっていない。

 

橋にさえ、獣が乗っかって、平然と縄張り面をしているほどである。

 

とてもではないが、此処を多数の人が安全に通るなど、不可能だろう。

 

これはいけない。

 

いずれ改善しないと駄目だ。

 

それはすぐに分かったが。

 

今やるべき事は。

 

フルスハイムを現在進行形で脅かしている竜巻を。

 

どうにかするための船を作る事。

 

しばし考え込んでから。

 

わたしは頷いていた。

 

「まず、この辺りにキャンプを張ります。 資材の展開をお願いします」

 

「岩山はもう少し先ですが」

 

「いえ、キャンプは此処でかまいません。 此処ならば、フルスハイムからの援軍もすぐに到着します」

 

「ふむ、分かりました」

 

街の自警団員の一人。

 

ヤギの顔をしている獣人族、バルフワークさんが頷いた。

 

自警団長であるイェーガーさん始め、精鋭は今、フルスハイムの北の道をどうにか整備するために、イルメリアちゃんと一緒に働いている。今此方に来ているのは、自警団でも二線級の人員。若い経験が足りない戦士や、或いは年老いた者ばかり。この間来ていた傭兵アングリフさんも、北の方に行っているらしい。

 

つまり現段階では偵察をしているのと同レベルの状態で。

 

まだ安定どころでは無い。

 

人夫を入れるのはまだ早い。

 

とにかく、資材を安定して入手できるようにするのが先だ。

 

フルスハイムから提供を受けた、キャンプ設置用の資材を使って、キャンプを作る。皆黙々と働いているが、あまり明るい顔は見受けられない。あの竜巻を毎日見ているのだ。悲観的になるのも当然だろう。

 

むしろ、それでも。

 

ドナへの直通退避路が出来ただけ、マシなのかも知れない。

 

わたしはわたしで、つるはしを振るって岩を砕く。

 

大岩をいとも簡単に砕くのを見て、流石に自警団の人達も驚いていたようだが。

 

岩を砕けるからといって。

 

邪魔な岩の残骸をどかせるわけでは無い。

 

ドロッセルさんやレヴィさんにその辺りは頼み。

 

お姉ちゃんとカルドさんには、周囲の警戒に当たって貰った。

 

流石はフルスハイムと言うべきか。

 

キャンプ用の資材は充実していて。

 

蒸留水を作る道具や。

 

人数分を大幅に上回る天幕。

 

獣よけの効果があるというランプ。

 

丈夫な杭などが揃っていた。

 

自警団員の手際は決して良くはなかったが。

 

しかしながらそれでも、かなりの広さのキャンプが出来ていく。レンさんが提供してくれたと言うよりも。レンさんがフルスハイムの長老と折衝して、此方にこれだけの物資を回してくれたのだろう。

 

フルスハイムの動きは全体的に見て良くない。

 

ドナでわたしが動いていたときは、あまり手伝ってはくれなかった。

 

人員を割けなかったという事情もあるのだろうが。

 

それにしても色々対応がお粗末だった。

 

レンさんは、わたしを直接見て、手を回してくれたのか。

 

或いはそれとも。

 

ソフィーさんが、尻を叩いたのか。

 

いずれにしても、今充分な大きさのキャンプを此処に設営できる。

 

資材は少し余っているので、見張り用の櫓も組む。

 

これで更に安全性を増すだろう。

 

獣もかなりの数が此方を伺っているが。

 

それでも、此方の人数をみて、すぐには仕掛けてこないし。

 

まとまった数が来たとしても。

 

フルスハイムから援軍を呼ぶ事も出来る。現時点では、一番実力のあるドロッセルさんも、ネームドの気配は探知していない。勿論ドロッセルさんからも気配を隠せるほどの実力者が潜んでいたらどうしようもないが、その場合はもはや逃げるしか無い。

 

わたしは皆が働いているのを横目に。

 

周囲の岩の声を聞いて。

 

いい鉱脈がありそうな場所を探す。

 

邪魔な岩は全てどけたので。

 

鉱物の声はよりクリアに聞こえる。

 

もう少し離れた所まで行かないと。

 

鉱脈と呼べるものは無さそうだ。

 

この荒野。

 

山になっている部分に鉱脈はないとしても。

 

いずれにしても、重要なのは。

 

此処に資源を持ち帰る事。

 

幾つかの手順を経て。

 

作業をしていかなければならない。

 

まず年配の自警団員に話を聞く。既に現役から半ば退いているヒト族の老戦士だ。

 

「フルスハイムほどの街だと、膨大な資源が必要なはずです。 やはり水運で?」

 

「ああ、そうだよ。 基本的には湖の周辺にある都市から、水運で仕入れていた。 現在の長老はあまりやり手では無いが、どうも蓄財に関してだけは得意なようでね。 前の錬金術師が酷すぎたせいで今のレンさんとは上手くやって手堅い商売もして、その結果かろうじてしばらくはやっていけるだけの蓄えもある」

 

「それでこの辺りは開拓していなかったんですね」

 

「そうだな。 それにこの辺りは、その。 フルスハイムの軟弱な自警団だと、手に余るのが多いからな」

 

なるほど。老戦士の言葉は、自分に向けたものでもあるのだろう。

 

この人も、戦士としてこの年になるまで生きてきているはずで。

 

大きな都市の自警団としては。

 

この街の自警団が頼りない事は、ずっと嘆いてきたのだろう。

 

傭兵を雇えば良かったのだろうとも想うが。

 

前の公認錬金術師がとても駄目な人だったようだし(ディオンさんは頼りなかったが、誠実で仕事もしていた)、色々とあったのだろう。経費削減とか言いながら、削ってはいけない経費を削るようなタイプだったのかも知れない。挙げ句の果てに自分の懐に入れたり、とか。

 

今、アトリエの中で待機して貰っているツヴァイちゃんの事を思い出す。

 

あの子だって。

 

そういった愚行の、影響の一端。

 

わたしも心しなければならない。

 

大きな力には、当然相応の責任が伴う。

 

大きな力は使わないと意味がないし。

 

そして自分のためだけに使ったら。

 

言葉もまだ取り戻せていない、ツヴァイちゃんのような犠牲者を、もっと出す事になるだろう。

 

口をつぐむと。

 

キャンプをまず完成させる。

 

しばらく無言で資材を組み立て。

 

少なくとも生半可な襲撃ではびくともしない態勢が出来たので。

 

今日はここまで。

 

明日から、チームを組んで探索に出るが。

 

この分だと、獣の数が多すぎて、何かしらの処置をしなければならないだろう。

 

こんな何も食べるものもない所で。

 

本当にどうしてあんな大きな獣がたくさんいるのか。

 

考えれば考えるほど。

 

この世界は不可解だ。

 

ベッドで休む。

 

ぼんやりしている内に。

 

色々と疲れが溜まっていたからか、すぐに寝落ちし。

 

翌朝が来る。

 

眠気が取り切れていないが。

 

起きだすと、顔を洗い。

 

そして見張りをしていた戦士達に様子を聞く。

 

仕掛けてくる獣はなし。

 

そうなると、此処は橋頭堡として機能すると判断して良さそうだった。

 

ドロッセルさん、お姉ちゃん、カルドさん、それとレヴィさん(起きて来た順番)に、それぞれ今日の予定を話す。

 

ツヴァイちゃんに一人つけておきたいのだが。

 

年配の老魔術師が、丁度孫が可愛い盛りらしいので。

 

ツヴァイちゃんの面倒を頼む。

 

厳しい人が、老人になると子供に甘くなることは時々あるそうだが。

 

丁度そのタイプらしい。

 

魔術師は、ツヴァイちゃんの境遇を聞くと驚き。

 

そして留守にしている間には、きちんと面倒を見てくれると約束してくれた。

 

仮に約束を破っても。

 

他の戦士達が、悪さを許しはしないだろう。

 

「今日から、鉱脈を探します」

 

「おお、護衛だな。 疾風の黒き刃となって、お前の敵を蹴散らそうぞ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

レヴィさんの言葉もさらっと流せるようになって来たし、解読も難しくなくなってきた。良いことだと思う。

 

貸してもらった戦士達は、多分この橋頭堡キャンプを守るので精一杯だろう。

 

つまり、五人だけで行くしか無い。

 

そして天気は今もあまり良くない。

 

だが、今日からは可能な限り早く。

 

必要量の鉱物を集め。

 

予定している装甲船のために、あらゆる準備をしなければならないのだ。

 

荷車を出す。

 

オレリーさんの使っていたものを参考に、なんとか実用に仕上げた自動荷車である。

 

指示を出せば追走してくるし。

 

停止を指示すればてこでも動かなくなる。

 

特定手順を踏まなければ、大きめの獣が押してもびくともしない。

 

そういう風に改装した。

 

勿論前進後進も自由自在。

 

人を避けて進む事も出来る。

 

色々な機能を盛り込んだおかげで。

 

戦闘時にはバリケードになるし。

 

負傷者を運べるようにもなった。

 

今後、状況に応じて更にもう一両くらいを連結したいと思っているが。

 

それもまた、いずれ、だ。

 

ともかく今は。

 

鉱物の声を聞きながら。

 

現実的な鉱脈を探し出さなければならない。

 

エルトナでは、それこそ何処を掘っても水晶が出てきたが。

 

此処はそうも行かないだろう。

 

キャンプを出ると。

 

早速獣が仕掛けてくる。

 

即座に対応。

 

空からはアードラが複数体。

 

陸からはキメラビーストや大型の兎、ぷにぷに、ヤギ、猪。

 

全部が一片に来る訳ではないが。

 

それでもかなりの数が攻めこんでくる。

 

勿論獣には縄張りがあるので。

 

入るまで襲ってくる事はないのだが。

 

順番に、少しずつとはいえ。

 

かなりの頻度で襲われるのは、精神を削られる。

 

わたしもかなりの回数戦ったけれど。

 

それでも他の人達がいなかったら、生き残れる自信は全く無い。

 

爆弾を投げるタイミングや。

 

その質は上がってきている。

 

身体能力強化が掛かる錬金術の産物によって。

 

皆が目に見えて強くなっているのも分かる。

 

それでも、まだまだまったく足りない。

 

ともあれ、岩場にまで到着すると。

 

傷薬を渡して一端回復を優先。

 

そして、わたし自身は、周囲の鉱物に話を聞いて。この辺りは駄目そうだなと、結論を出すしか無かった。

 

悔しいけれど。

 

駄目な場合はさっさと諦める。

 

変なことに固執してけが人を出しても馬鹿馬鹿しいだけだ。

 

次に行く。

 

やがて、岩を砕くよりも先に。

 

倒した獣の肉や骨、内臓などで荷車が一杯になったので、一度キャンプにまで引き上げる。

 

余った肉類などは、キャンプを守ってくれていた戦士達に分けてしまう。

 

骨にしても毛皮にしても。

 

当然使い路はある。

 

特に、苦労しながら仕留めたキメラビーストは、毛皮に魔力を帯びており。

 

流石にネームドのものほどではないが。

 

仮に売るとしたら相応の値がつきそうだし。

 

加工しても便利に仕上がりそうだ。

 

先に皆には休んで貰い。

 

わたしはお薬と爆弾の補充を済ませる。

 

特にこの辺りの岩には、氷爆弾レヘルンの素材になるハクレイ石がぼろぼろ詰まっている。

 

品質はともかくとして、これがとても便利なので。

 

今のうちにレヘルンの在庫を増やしておく。

 

レヘルンで相手を固めた後。

 

一気に燃やすと、目に見えて凄まじい打撃を与える事が出来る。

 

お姉ちゃんによると。

 

熱した後いきなり冷やすと、金属でさえ耐えられないらしい。

 

金属でさえ無理なら。

 

ナマモノなら余計に無理、というわけだ。

 

レヘルンそのものも研究し、黙々と火力を上げる。

 

レヘルンに詰め込んだハクレイ石は、わたしに色々とヒントをくれる。こうすればもっと火力が上がるよ、とか。こうすればもっと長持ちするよ、とか。

 

わたしは鉱物が嘘をつかないと信じる。

 

だからそれに沿って。

 

丁寧にハクレイ石を加工し。

 

身を守るための武器にしていくのだ。

 

翌日も、違うルートから荒野を行く。

 

当然、別の獣の縄張りに入り込む事になるので。

 

昨日同様の激戦になった。

 

レヘルンを惜しまずに投擲。

 

容赦なく獣を爆殺し、逃げる背中もお姉ちゃんに頼んで撃って貰う。

 

近寄ってきたら容赦しない。

 

そう示すことで。

 

無駄な戦いを可能な限り避ける為だ。

 

戦って見て分かったが。

 

カルドさんは、黙々とマイペースで戦う分にはとても腕が立つ。

 

的確に、味方を支援しながら銃撃をしてくれるし。

 

危ない場合はきちんと警告も出してくれる。

 

銃撃そのものも正確で。

 

殆ど弾を無駄にしていなかった。

 

倒した獣は見せつけるように捌き。そして解体して、荷車に積み上げる。やはり、次の日も。

 

鉱脈を見つけるより先に。

 

獣の肉と毛皮、骨で荷車が一杯になった。

 

キャンプで、地図を拡げて。

 

足跡を確認。

 

地図には、×印がついている箇所が幾つかある。

 

何だろうと話を聞いてみると。

 

ネームドがいる、と言う事だった。

 

年配の戦士が教えてくれる。

 

「例の虹神ウロボロスな。 奴を倒した後くらいから、遺跡にネームドが出るようになりはじめた話は知っていると思うが。 ごくわずかだが、遺跡以外でもネームドが増えているらしい。 そして、そいつらは湖の周囲に散った、と言うわけだな」

 

「……」

 

わたしは考え込む。

 

今の戦力だと足りないけれど。

 

例えばアングリフさん辺りを貸してもらって。

 

ソフィー先生に、腕利きに声を掛けて貰って。

 

戦力を整えて、ネームドを狩れば。或いは、この辺りは緑化できるかも知れない。

 

緑化のノウハウはドナで学んだ。

 

この辺りを緑化すれば、フルスハイムをかなり安全に出来るのでは無いのか。何しろ此処は、フルスハイムからそう離れていない。こんな近くに、獣が大勢出て、討伐の目処が立っていない状況がそもそもおかしいのだ。

 

わたしがそれを話すと。

 

戦士達は皆、苦虫を噛み潰す。

 

「いや、そんな事は俺たちだって分かっている」

 

「何か理由があるんですね」

 

「ああ。 街が大きくなってくるとな、よっぽど出来る人が率いていない限りは、身動きが鈍くなるんだよ。 ドナなんかはその見本で、彼処はやり手の長老が、ぱっぱと発展させているだろう?」

 

「はい。 オレリーさんは、凄い人でした」

 

そうか。

 

此処はそうでは無い、ということか。

 

レンさんは公認錬金術師で、腕が良い錬金術師のようだけれども、街の長老ではないし。

 

そもそも先代のフルスハイムにいた公認錬金術師は、匪賊と通じている噂がある程の下衆畜生だったと聞いている。

 

そしてフルスハイムの長老は、そんな輩を好き勝手させていたわけで。

 

今だって動きが良いとは言えない。

 

それでは、オレリーさんとは比べることすら失礼か。

 

仕方が無い。

 

出来る事だけでも、やっていくしかない。

 

ともあれ、周囲の徹底探索を、今はする。

 

そう方針を告げると、休む事にする。

 

こんな事をしている場合では無い気がするのに。

 

身動きが取れない歯がゆさが、わたしの体を嫌でも締め付けていた。

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