暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、荒野の虹

此処からずっと西に行くと、ディオンさんがいたメッヘンがある。

 

そうとはとても思えないほど。

 

フルスハイムの西は調べれば調べるほど荒れ果てていた。

 

街道というのも名ばかりの場所は。

 

人間を嘲笑うように獣たちが占拠し。

 

調査四日目になった今日も。

 

獣は後から後から沸いて襲いかかってくる。

 

流石に強めの獣。キメラビーストや猪などは、即座に沸いてくる、というわけにもいかないようだけれど。

 

獣の縄張りがあくと。

 

すぐにそのニッチに小型の獣が入り込む。

 

その悪循環は続いている様子で。

 

勿論そいつらが、わたしを怖れるはずもなく。

 

当然キャンプから出ると、嬉々として、肉を得ようと襲いかかってくるのだった。

 

身体能力を上げる錬金術の道具類で。

 

皆の戦力は上がっている。

 

レヴィさんの剣は、以前は守りが主体だったが、今は攻めとしてもかなりの切れ味を見せるようになっているし。

 

お姉ちゃんの矢は、放つときの音が既に違う。

 

以前はシュッという感じだったが。

 

今は空気を蹴散らすような、バンという音になっている。弓の方が、そろそろ耐えられないかも知れない。

 

ドロッセルさんは怪力に磨きを掛けている。

 

カルドさんは、話によると、前はこんなには動けなかったと言う事だから。

 

攻撃精度の上昇も、わたしが渡した道具の影響なのだろう。

 

とにかく、弱めの獣なら、対応は出来るようになってきている。

 

それが分かるだけで充分。

 

わたし自身も、ひ弱モヤシとかアングリフさんに言われたけれど。

 

そのままでいるつもりはない。

 

接近された時に。

 

地面に手を突いて、鉱物をせり上がらせる術を使う。

 

そうしたら、複数の杭が、わたしののど笛を喰い破ろうと迫っていた大型の猫科の獣を。

 

一撃で、ずたずたに引き裂き、ちぎっていた。

 

魔力の強化も出来ている。

 

それ以前に、わたしの素の魔力も上がっている。

 

それが確認できたので、好ましい。

 

殺した獣は全て有効活用しなければならない。

 

四日目の探索が終わり。

 

フルスハイムの方を見る。

 

相変わらず、巨大竜巻はゆっくり蠢いていて。

 

とてもではないけれど、恐ろしくて近づける気がしなかった。

 

自分で考えた事ではあるけれど。

 

あれを装甲船で突破するなんて、正気の沙汰では無いのかも知れない。どうしてそんなことを思いついたのだろう。

 

だけれども、今、フルスハイムがしょっぱいとはいえ戦力を貸してくれていて。

 

それで街の事業として行う事を決めている。

 

多分長老は、どうせ失敗するだろうしとでも思っているのだろう。

 

まだ活用できるフルスハイム北側の水路を頑張って整備しているイルメリアちゃんの方に主力を回していることからも。

 

それは確実だ。

 

だから、戦力の補填は期待出来ない。

 

自分で、何とかするしかないのだ。

 

余った肉をキャンプを守ってくれていた戦士達に配り、皆で食べる。

 

だが、毛皮も肉も、相当量があまり始めたので。

 

余ってきたものは、後送してフルスハイムに送る。

 

万の人口を抱える都市にはささやかな物資だろうけれども。

 

今、インフラが壊滅しているフルスハイムにとっては、少しの物資でも貴重なはずだ。回して怒られることはないだろう。

 

そして、一通り作業が終わったところで。

 

地図を拡げる。

 

四日間で、戦闘の回数は116回。

 

キャンプの周囲を探索し、鉱物の声を聞きながら結論は出た。

 

わたしは、地図の一点を指さす。

 

此処から西。

 

まっすぐ西に行き、小さめの川を越えたところに。

 

鉱脈がある。

 

それも、かなり大きめの鉱脈だ。

 

此処で言う鉱脈というのは、高度な錬金術にも応用できる金属の材料が出てくる、という意味で。

 

将来的にフルスハイムの役にも立つはず。

 

つまり、道を確保する必要がある。

 

幸い、キャンプから其処までには、ネームドはいないが。

 

問題は架橋が必要になる、と言う事だ。

 

橋を造る技術については、何とかなる。

 

ただし、今戦闘に出ている五人だけで橋を造るのは無理だ。人夫まで動員する必要はないと思うけれど。

 

一方で、獣にしては好機も良いところ。

 

更に川の中にも、獣はいる。

 

それも、陸上のよりも大きくてより危険な奴がだ。

 

治水の時に、メッヘンでその辺りは思い知らされた。

 

そしてメッヘンの時と違い。

 

今回は腕利きによる補助がない。

 

此処にいる人員も、キャンプを守るので精一杯程度の戦力しかないのである。

 

「此処に架橋をしたいのですが、何か知恵はありませんか」

 

「無理だ」

 

即答される。

 

即答したのは、年配の戦士。既に引退していてもおかしくない老戦士だ。

 

彼は首を横に振る。

 

「若い頃、その辺りまで獣討伐に出たことがあったが、あんたが言う通り川から獣が出てくるわ、周囲からはひっきりなしに仕掛けてくるわで、被害を出しながら逃げ帰るしか無かった。 それもフルスハイムの主力を連れてその様だ。 この戦力では到底……」

 

「……分かりました。 力押しでは無理そうですね」

 

「何か錬金術による搦め手があるのかね」

 

「これから考えます」

 

今までに無い劣悪な状況。

 

今までわたしが、如何に優秀なスタッフと仕事をしていたのかがよく分かる。

 

此処にいる戦士達は確かに二線級だけれど。

 

多分小さな街の戦士達は、此処にいる戦士達と普通であれば大差ない質でしかない筈だ。

 

如何に錬金術師が歓迎されるか。必要なのか。

 

見ているだけでもよく分かる。

 

ネームドが出たら、小さな集落では手に負えないだろうし。

 

獣相手に逃げ腰になるのも、仕方が無いのだろう。

 

アトリエに入ると。

 

改めて皆と相談する。

 

「何かいい手は」

 

「フィリスちゃん。 流石に無謀だわ」

 

お姉ちゃんも即答する。

 

カルドさんも頷いた。

 

女性を苦手としているカルドさんも。

 

流石にこれは同意せざるを得ないのだろう。

 

「手が足りないのよねえ」

 

「同感だな。 これでは疾風どころかそよ風だ」

 

ドロッセルさんに、レヴィさんも同意。

 

かといって、鉱物資源を集めるには、わたしが割り出した地点が最適の筈。

 

街道は文字通り街道(笑)に過ぎないし。

 

粗末な橋の上に、堂々と獣が居座っているのも確認している。

 

そして厄介な事に。

 

鉱脈があると判断した場所は、街道から外れている。

 

街道に居座っている獣を全部駆除するとして。

 

更に其処から輸送経路を延ばさなければならない。

 

獣は駆除しても駆除しても沸いてくるわけで。

 

文字通りきりが無い。

 

毎回命がけの輸送任務を果たしていくか。

 

それともフルスハイムのためと説得して、戦力を回して貰うか。どちらかしかないだろう。

 

それはわたしにも分かっている。

 

そして、後者は不可能だと言う事も。

 

不意に、ノックの音。

 

何か起きたのか。

 

そして、驚いた。

 

確かエルトナ以来か。

 

懐かしい顔が、アトリエの外にあった。お姉ちゃんは眉をひそめたが。

 

ティアナちゃんである。

 

「やほー、フィリスちゃん。 何だかお仕事しているみたいだから、見に来たよ」

 

「ありがとうティアナちゃん。 あ、そうだ。 お手伝いしてくれない? 今、手が足りていなくて」

 

「ごめんね。 私、様子見に来ただけだから」

 

あれ。

 

何だろう。

 

今、もの凄く、嫌な予感がしたのだけれど。

 

理由が分からない。

 

ティアナちゃんが言った言葉に。

 

凄く深い闇を感じたのだ。

 

「代わりと言っては何だけど、はい。 私にはいらないし、フィリスちゃんなら喜ぶと思ってね」

 

「これは……?」

 

「さあ。 錬金術の道具らしいけれど。 お仕事してたら現物支給だとかで貰って、いらないから。 これでも生活には困っていないからね」

 

白い歯を見せて人なつっこく笑うと。

 

そのままティアナちゃんは雨が降り続いている夜闇に消える。

 

そういえば、キャンプの人達は。

 

誰も彼女に気付かなかったのだろうか。

 

そして、受け取ったものは。

 

何だこれ。

 

思わず小首をかしげる。

 

見た事がないし、まったく使い道も想像できない。

 

カルドさんに見せても、しばらく首を捻ったあげくに、分からないと言われた。

 

形状としては、機械ではない。錬金術の道具だと分かる。

 

何というか、ツボのような形状なのだけれど。

 

中を覗くとひんやりしている。

 

でも、ティアナちゃんがわざわざくれたのだ。

 

何か分かるまでは、しまっておくのが良いだろう。

 

だが、コンテナにいれようとしたとき。

 

背中が引っ張られるような感覚があった。

 

鉱物が。

 

今、周囲にある鉱物が。

 

一斉に声を発した気がする。

 

側に置いておいた方が良いよ。

 

少なくともアトリエの中に置いておくべきだよ。

 

そう聞こえた。

 

それならば、仕方が無い。テーブルの上にでも置いておくべきだろう。花を生けたらどうなるか分からないけれど。

 

いずれにしても、わたしは鉱物が嘘をつかないし。

 

わたしに分からない事を教えてくれることも知っている。

 

お姉ちゃんにもそれを説明して。

 

テーブルに置く。

 

だが、お姉ちゃんは、やはり厳しい表情のままだった。

 

「フィリスちゃん、外の警備は何をしていたのかしらね」

 

「うん……それはわたしも気になったよ、リア姉。 雨でも分かるように、資材に色々工夫はしているはずだし、獣よけだけでは無くて何かが接近したら分かるようにもされているはずなのに」

 

「ちょっと外を見てくるわ」

 

「……」

 

お姉ちゃんは、ティアナちゃんに厳しい。

 

エルトナのお外で会ったときも、とても好意的には見えなかった。

 

そして今。

 

わたしは、明確にティアナちゃんに、違和感と強烈な闇を感じた。鉱物は何も言わなかったけれども。

 

凄く、嫌な予感がする。

 

流石に好意的に接してきてくれるティアナちゃんを、袖にするのは失礼だと思う。

 

だけれど、何となく分かった。

 

お姉ちゃんは何か知っている。

 

そして、ティアナちゃんは。

 

とんでもないものを秘めていると思って間違いなさそうだ。

 

嘆息する。

 

あのよく分からないものを渡していったのにも、理由があるのだろうか。

 

だが、わたしも意識しなければならない。

 

気をつける必要がある。

 

ティアナちゃんは。

 

何か意図があって。

 

わたしに近づいている。

 

 

 

イルメリアは、水路の整備を続けながら、南西を見る。

 

今、イルメリアは。

 

いずれフィリスが言う「装甲船」に改装される予定の船の、甲板上にいた。そして、此処は湖上。竜巻の影響を受けていない縁である。もう少し北に行くと、この湖の湖岸にある、人口千五百人ほどの街に到達するが。今はその街に行くことが目的ではない。

 

現在、フルスハイムは、ドナとの直通路と、この今イルメリアが整備している水路を利用しても。

 

有事の際に、民を逃がしきることが出来ない。

 

だから、今。イルメリアが、その水路を整備して。

 

少しでも逃がせる人を増やせるように努力しているのだ。

 

それにしても。

 

ソフィーと言ったか。

 

あの錬金術師は、凄まじいまでの力を感じた。

 

魔術師としての異次元の実力者だと考えて良いだろう。

 

誰が寄越したのかは分からないが。少なくとも、家族全員が公認錬金術師、というイルメリアでも。

 

ノイエンミュラーなんて凄腕は聞いた事がない。

 

ともあれ、湖岸にある街へ、何度も移動を確認しながら。

 

フルスハイムが竜巻に襲われたとき。

 

船を総動員して、住民を逃がすための下準備を進める。

 

湖上に配置した獣よけ。

 

風と波をある程度弱める手立て。

 

錬金術でそれらを施しながら。

 

嫌な予感が途絶えない。

 

ふと、気付くと。

 

アリスが剣に手を掛けていた。

 

イルメリアも遅れて杖を手に取るが。

 

既に遅かった、というべきだった。

 

口を押さえられる。後ろから、静かに抱きしめるようにして。

 

イルメリアは無力化されていた。

 

恐怖で体が動かない。

 

そればかりか、アリスも何故か戦闘態勢を解除する。どうしてだ。明らかに、主人が殺されそうになっているのに。

 

抵抗さえ出来ず。

 

身動きさえ出来ない中。

 

耳元で声がした。

 

「イルメリアちゃん。 しっかり話すのは「初めて」だね。 この間はレンさんのアトリエで、ちょっと顔を合わせただけだったものね」

 

分かる。

 

というか、この炸裂するような圧倒的な力。

 

ソフィー=ノイエンミュラー。

 

震えが止まらない。

 

今、ドラゴンの口の中も同然の死地にいて。

 

「ドラゴン」がその気になれば、ブレスで焼き払おうが、かみ砕こうが、自由自在な状況にいる。

 

それに等しい事を。

 

イルメリアは悟っていた。

 

喋る事さえ出来ない中。

 

イルメリアは、その声を聞く。

 

「少しばかり経験が足りないね。 前の失敗を繰り返すことになると困るんだよね。 劣等感から来る力では限界があるからね。 もう少しイルメリアちゃんには苦難が必要だね……」

 

何だろう。

 

頭に入ってくる言葉は。

 

そのまま高濃度の呪詛にしか思えない。

 

頭に言語として入ってこない。

 

そのまま、闇そのものとして入ってくる。

 

抵抗も出来ないまま。

 

イルメリアは、いつの間にか。

 

へたり込んでいた。

 

そして、今まで。

 

どうして恐怖に心臓を鷲づかみにされていたのかも。誰に何をされたのかも、綺麗さっぱり分からなくなっていた。

 

だが残っている。

 

圧倒的な恐怖。

 

アリスは、相変わらずの無表情のまま、その場に突っ立っている。

 

「お嬢様、どうなされましたか。 座り込んだりして」

 

「い、いえ。 何でも無いわ」

 

立ち上がろうとして、失敗。

 

膝が笑っている。

 

今まで、これでも公認錬金術師試験に備えて、実戦は経験した。戦闘だって何度もこなしてきた。

 

命のやりとりだってした。

 

それなのに、それなのにだ。

 

何だ今のは。

 

味わったことがない。

 

ネームドと戦った時でさえ、こんな恐怖は感じなかった。

 

今、何か訳が分からないことを、何者かにされた事は分かったが。

 

それ以上の事は何も分からない。

 

必死に呼吸を整える。

 

兎に角今するべき事は。

 

恐怖から、心を解放することだ。

 

咳き込んだ。

 

あまりにも強い負荷が心に掛かったらしい。いや、違う。精神的なものではない。イルメリアは激しく咳き込みながら、気付く。

 

これは、毒だ。

 

しかも、今、流れ込んできている。

 

「アリス、外を!」

 

「はい。 すぐに」

 

自身は薬を呷ると外に。

 

どうやら、既に船は修羅場と化していた。

 

湖に住まう大型の獣。

 

頭足類の一種だろう。

 

それが猛毒の霧を吐きながら、船に絡みつき、戦士達と激しく戦っている。イルメリアは杖に魔力を込めると、一点集中し、撃ち出す。

 

だが、霧に魔術は拡散され。

 

頭足類の頭に突き刺さった頃には。

 

相手の皮膚を破れるほどではなくなっていた。

 

降り下ろされる巨大な触手。

 

何とか飛び退こうとするが。

 

アリスが突き飛ばすのが、見えた。

 

アリスが。

 

叩き潰される。

 

戦士達が、目の前で何人も触手になぎ倒され。

 

一人が口へと持って行かれようとしている。

 

イルメリアは。

 

身動きできずに甲板に倒れているアリスから、大量の血が流れ出ているのを見て、震えながら、何もできないのかと思い。

 

だが、それでは駄目だと、立ち上がった。

 

ネームドと戦うためにとっておいた爆弾を。

 

何発も叩き込んでやる。

 

炸裂した爆弾に、巨大な頭足類が、悲鳴を上げて掴んでいた戦士を離す。

 

更に、自動で動く錬金術の剣を、複数空に解き放ち。

 

相手に向かわせる。

 

回転しながら躍りかかった剣は、敵の体を切り裂きながら、本体に突き刺し、抉り抜き始めた。

 

だがこの剣。

 

魔力を吸い上げていくのだ。

 

イルメリアは、毒を吸い込み。

 

更には魔力を一気に吸い上げられて。

 

意識が飛びかける。

 

だが、此処で引くわけにはいかない。

 

更に、とどめだ。

 

手にしたのは、矢。

 

ただし、錬金術の秘奥によるもので。

 

悔しいが、使いたくなかったものだ。自分で作ったものではなく、親にここぞと言うときに使えと無理矢理持たされたものだからだ。

 

ダーツのように投げて使うが。

 

投げると、凄まじい速度まで加速し。

 

敵の急所を貫くまで止まらない。悔しいが、コレを使うしか無いか。

 

不意に、敵が動く。

 

船に掛かっている重心を、いきなり変えたのだ。

 

すっころぶ。

 

其処まで優れた武勇を持っている訳でも無いイルメリアに、今の不意打ちはどうにもできなかった。

 

手から「矢」が離れ。

 

したたかに甲板に体を打ち付けたイルメリアの足に、獣の触手が絡みつく。

 

イルメリアは見た。

 

頭足類が、巨大な口を開け。

 

それにイルメリアを放り込もうとするのを。

 

嫌にゆっくりそれが見える。

 

だが、その時。

 

倒れていた瀕死のアリスが、側に落ちていた剣を投擲。

 

頭足類の目に突き刺さる。

 

絶叫を上げながら、イルメリアを離す頭足類。放り上げられ、また甲板にしたたか叩き付けられ、意識を失いかける。だが、唇を噛んで、必死に耐える。落ちている矢。届かない。手持ちの爆弾で対応するしかない。

 

立ち上がる。

 

意識も足下もはっきりしない。

 

だが、頭足類も、目に突き刺さった剣を引き抜くので必死。

 

その全身もズタズタだ。

 

意識が、闇に引っ張られているのが分かる。

 

だけれども、まだだ。

 

イルメリアも、最後の、渾身の力を掛けて、爆弾を放る。

 

頭足類の口の中で。

 

爆弾が炸裂。

 

同時に、船の重心が再び激しく揺れ。受け身も取れず、イルメリアは甲板に叩き付けられていた。

 

呼吸が止まる。

 

一瞬置いて、激しく咳き込んだ。

 

全身が割れ砕けるように痛い。

 

薄れる視界の中で。

 

自分が嫌い抜いていた、それなのに身を挺して庇ってくれたメイドのアリスが。目を閉じて、血の海の中に沈んでいるのが見えた。

 

嗚呼。

 

嘆きの声が上がる。

 

自分が勝手に嫌っていたのに。

 

それでも文字通り文句の一つも言わずに仕えてくれたアリスが。

 

治療しないと。

 

だけれど、体がもう動かない。

 

「イルメリアどのが!」

 

「一端引き返せ! 予定作業は全て中止だ! 後続のアングリフどのの部隊と合流するんだ!」

 

「けが人は!」

 

「トリアージ!」

 

傭兵団の長だかの、イェーガーという老人が叫んでいる。

 

イルメリアは、もう定まらない意識の中で。

 

アリスに手を伸ばし。

 

もうどうにもならず、闇へ沈んでいく自分を自覚していた。

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