暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、血に染まる大地

鉱物が教えてくれる。

 

鉱脈があると。

 

わたしは導かれるままその場に行く。少し掘り返した跡があるが、坑道と言う程でもない。

 

頷くと。

 

わたしは、つるはしを振るい上げた。

 

岩肌を片っ端から砕いていく。

 

この岩山そのものを崩し尽くすつもりで。

 

鉱物に教えて貰うまま。

 

つるはしを振るう。

 

発破はいらない。

 

今のこのつるはしと。

 

強化されたわたしの身体能力ならば。

 

いけるはずだ。

 

そのまま崩す。

 

岩にひびが入り。

 

わたしが離れてと声を掛けながら、飛び退くと。待っていてくれたように、岩が割れ、崩れ落ちてきた。

 

辺りが激しい崩落に晒され。

 

荒野には無数の岩が散らばる。

 

それらを更に運びやすい大きさにまでつるはしで砕き。順番にアトリエの中に運んで貰う。コンテナに運び込んで、フルスハイムで鉱物そのものは取り出せばいい。作業については、鍛冶師と連携してやっていく事になるだろう。

 

オリヴィエさんはヒト族の女性戦士で、お姉ちゃんより少し背が高い。

 

だが、彼女も、わたしのつるはし捌きを見て、驚いていた。

 

「鉱物の声が聞こえるというのはこういうことなのか……凄まじい」

 

「今は周囲に集中しろ! ほら、来たぞ!」

 

アングリフさんが叱咤。

 

大きな音を聞いて、さっそく獣が来た様子だ。

 

昨晩も、見張りが何度も襲撃を受けたようだが。それでも、シフトで休憩を廻し、凌ぎきって貰った。

 

この時のためだ。

 

わたしは一心不乱につるはしを振るい続ける。

 

目標は、この規模だと二日程度だろうか。

 

途中で、栄養を圧縮したレーションを口に入れて。

 

噛みしめながら、更につるはしを振るう。

 

後方でも。

 

すぐ側でも。

 

戦いの音がしている。

 

だが、わたしは、今自分の仕事をする。

 

錬金術師の、しかも一部のものだけが持っているギフテッド。ものの声を聞く能力。それをフル活用して、それだけのために、今は動かなければならない。

 

「次、左翼! アードラ4!」

 

「あれは上位種だ! 風の魔術を使うぞ! 近づけるな!」

 

「今から張り切りすぎるなよ! ネームドが来る可能性が高い!」

 

ひっきりなしに叫び声が聞こえる中。

 

わたしは鉱物の声に集中し。

 

崩す。

 

ひたすらに崩す。

 

そして、戦闘の中。

 

二線級の戦士達が、荷車を使って、岩を次々に運んでいった。

 

キャンプの方でも戦闘が起きているようで。

 

薬の消耗が激しいのが何となく分かる。

 

だが、それでもだ。

 

わたしが作業を一秒でも早く終わらせれば。

 

ネームドの接敵も減らせる可能性が上がる。

 

ネームドの戦闘力を考えると。

 

死者を出さないようにするためには。

 

戦闘を可能な限り避けなければならない。

 

「二番隊下がれ! 三番隊、フィリスどのを護衛!」

 

「おうっ!」

 

周囲の人達が入れ替わり立ち替わり動いている中。

 

至近に、獣の気配。

 

気にせず、つるはしを振るう。

 

わたしに躍りかかろうとしていたキメラビーストの脳天から、アングリフさんが大剣を突き刺し、串刺しにするのが見えた。

 

だけれど、わたしは何も言わず。

 

ひたすらにつるはしを振るい続ける。

 

大量の鮮血を浴びたが。

 

どうでもいい。

 

次第に、周囲が静かになってきた。

 

タイミングを見計らって、わたしは叫んだ。

 

「大きいの行きます! 出来るだけ下がってください!」

 

「よし、下がれっ!」

 

わたしは地面に手を突くと。

 

鉱物に教えて貰った地点に。

 

鉱物に干渉する魔術を叩き込む。

 

今まで岩山ごと崩していて、地盤が壊れかけていたのだ。

 

これが致命打になった。

 

全体が一気に崩れる。

 

まるで岩の津波のように。

 

獣たちを飲み込んでいく岩の奔流。

 

誰かが、すげえと声を上げた。

 

わたしは、呼吸を整えながら、見上げる。体の回復が、少しずつ消耗に追いつかなくなりつつある。

 

頭が痛い。

 

相当に集中していた様子だ。

 

「獣が距離を取っています!」

 

「よし、今のうちに岩を運べるだけはこべ!」

 

「大きいのはわたしが崩します!」

 

「おうっ!」

 

わっと、大勢で岩を運び始める。

 

わたしはその中でも、ひたすらつるはしを振るい。

 

大きすぎる岩を砕き。

 

尖っている岩を潰し。

 

そして、ひたすらにつるはしを振るい続けた。

 

夕刻。

 

半分ほど崩れ去った岩山は、鈍色の光を放っている。夕陽に当てられて。露出した金属が光っているのだ。

 

あれが具体的に何の原石かは分からないが。

 

今、わたしがやっているのは。

 

鉱脈を丸ごと取得する行為だ。

 

その意味を知ったからか。

 

獣たちは距離を取り。

 

戦闘行動を控え始めていた。

 

相手が戦略級の存在だと悟ったのだろう。そういう言葉を知らなくても、脅威として認識したと言う事だ。

 

キャンプに戻る。

 

岩はかなり回収出来た。

 

明日、恐らく崩しきれるはずだ。

 

戦士達に薬を配る。薬の在庫は大丈夫。まだ数日は戦闘を継続できる。蒸留水も、惜しまずに出す。

 

汚れた傷口は洗わないと病気になる。勿論消毒も必要だ。消毒液も用意はしてある。

 

手当を急いで済ませる。

 

アングリフさんが凄く手際よくトリアージをしていて。

 

オリヴィエさんが頷きながら、その手際を学んでいた。

 

わたしの薬は昔よりずっと良く効くようになってきているけれど。

 

これは兎に角数をこなして。

 

更には実際にどう作用するのを見てきたか、というのも大きい。

 

病気はまだ対応出来るものが少ないかも知れないけれど。

 

怪我だったら、大体どうにか出来る自信はある。

 

「この薬は、アルファ商会のものか?」

 

「いえ、わたしが作りました」

 

「……見習いにしては良い腕だ。 ギリギリで公認錬金術師になったような奴よりは、もう出来るんじゃないか」

 

「あの、アングリフさん。 フィリスちゃんを甘やかすのは」

 

お姉ちゃんに、アングリフさんが苦々しく頭を掻く。

 

お姉ちゃんは、こういうとき、妙に堅実だったりする。

 

「まあいい、フィリスよ。 手当の方は俺たちでやるから、薬を出来るだけ増やしておいてくれるか。 ネームドって言っても実力はピンキリだ。 ピンの方が来ないと良いがな」

 

「分かりました。 出来るだけやってみます」

 

アングリフさんが言うと、当然凄みがある。

 

外の見張りも強化して貰う。

 

怪我をした人は優先的に休んで貰い。

 

そしてわたしは薬を補充。

 

半分くらいは補充できたから、多分大丈夫だ。手際が良くなって、かなり一度に作れる量も増えている。

 

だが蒸留水の消耗が激しい。

 

ここ数日ちまちま増やしていたのだが。

 

それ以上に、予想外に消耗が激しいのだ。

 

綺麗な水は、消費が当然多くなる。

 

蒸留水は飲む事も出来るし。

 

傷口を洗うのにも使える。

 

当たり前の話だ。

 

だが、それ故に、もっと大量に作れないといけないかも知れない。

 

少し疲れ果てて、眠る事にする。

 

翌日が本番だ。

 

多分岩山は崩しきれる。

 

だが、それを回収するのに、更にもう一日、見なければならないかも知れない。

 

そして昨日だけであれだけの獣の襲撃を受けたのだ。

 

明日はネームドが姿を見せる可能性が高い。

 

そして明後日にも作業が継続するとなると。

 

ネームドとの接敵率は更に更に上がるだろう。

 

イルメリアちゃんと一緒にいた主力が大きな打撃を受けた今。

 

増援は期待出来ないだろう。

 

ソフィー先生は何をしているかよく分からないし。

 

多分だけれども、此処で死者を出す覚悟もしなければならない。

 

わたしは、寝苦しくて、寝返りをうった。

 

あまり、良い予感はしなかった。

 

 

 

翌日、早朝から動き出す。

 

交代で見張りをして貰っていた班は、案の定負傷者を出していた。あれだけの獣が日中でさえ襲ってきていたのだ。

 

夜になったらどうなるかはいうまでもない。

 

アングリフさんも夜間の見張りには加わっていたようだが。

 

立ち替わり入れ替わり現れる襲撃者に、流石にうんざりしていたようだった。

 

「オリヴィエ。 もうちっと普段から駆除をしておかないといけないんじゃないのか?」

 

「申し訳ありません。 その通りです」

 

「どうしてこんな事になっている」

 

「先代の公認錬金術師は、私腹を肥やすことにしか興味が無く、劣悪な薬や爆弾しか自警団に支給せず、しかも利益を独占するためにアルファ商会を閉め出そうとしたり、孤児院の子供達を奴隷売買までしようとしていました。 良いタイミングで死んでくれなければ、我々自警団も解体され、奴が手を組んでいた匪賊が街を滅茶苦茶にしていたかも知れません」

 

ぞくりときた。

 

もう死んだから言えることなのだろうが。

 

そこまでの鬼畜が、好き勝手をしていたのか。

 

それはフルスハイムの抵抗能力も落ちる。

 

今でこそ、あの竜巻さえ無ければ穏やかで静かな街、とも思えるのに。

 

レンさんは無能なんかではなく。

 

多分先代の残していった負の遺産を片付けるので、精一杯だったのだろう。今更ながら、それを思い知らされてしまう。

 

「或いは深淵の者に消されたのかもな」

 

「深淵の者って、あの噂の……」

 

「ああ。 悪徳官吏や悪徳錬金術師、悪徳商人はいつの間にか死んでいる。 それは二大国の王や指導者級でさえ例外では無いってアレだ。 俺はいろんな街を見てきたが、自分の立場を利用して好き勝手するクズは、大概長生き出来ていないな。 それこそ、何かしらの手が働いているとしか思えない程に。 ここのところは匪賊も各地で湧くだけ消されてるって話だし、そういう意味では仕事を取られて困るがな」

 

「……」

 

そうか。

 

誰かが、手を下しているのか。

 

そして錬金術師が腐敗した場合。

 

手に負える存在はいない。

 

誰かが、それこそ錬金術師に対抗できる存在が。

 

消さなければならないのかも知れない。

 

ともかく、負傷者の手当を終えた。

 

既に陽が上がり始めている。

 

昨日崩した岩山に、護衛と共に移動。

 

作業を開始する。

 

まだ獣は起きだしていない。

 

というか、夜行性の獣と。

 

日中活動する獣が。

 

どちらも眠っている今が好機だ。

 

可能な限り作業を進めて。

 

徹底的に岩を崩す。

 

集中すると。

 

つるはしを振るう。

 

鉱石のより分けなどは、フルスハイムで行えば良い。今は鉱脈を、まるごと持ち帰るつもりで作業をしていけばそれで良い。

 

無心につるはしを振るっている内に。

 

朝日が、横からわたしを照らし始める。

 

ほどなくそれが上からになり。

 

周囲が、血の臭いに満ち始めた。

 

戦闘が始まっている。

 

昨日殺した獣の死骸は相当に食い荒らされているし。

 

さらに、わたしや護衛、更に鉱石を運んでいる人達を狙って、ひっきりなしに獣が仕掛けて来ているのだ。

 

昨日と同じ。

 

今の時点では。

 

だが、ここからが問題だ。

 

ネームドが仕掛けてくる可能性が大きい以上。

 

急がなければならない。

 

一瞬だけ注意が途切れて。

 

鉱物の声から、ずれた場所につるはしを降り下ろしてしまった。

 

強烈な手応えと共に弾かれる。

 

音を聞いて、お姉ちゃんが大丈夫、と声を掛けてくるが。

 

歯を食いしばる。

 

周囲は命がけで戦っているのだ。

 

わたしは一度つるはしを腰に差すと、顔を叩いて気合いを入れ直した。そして、水分を補給し。圧縮した栄養を詰め込んでいるおいしくないレーションを頬張る。糖分も突っ込んでいるから、甘いけれど。とにかくおいしくない。栄養だけを考えて作った食べ物だ。

 

深呼吸して。

 

作業再開。

 

そろそろ崩れる。

 

周囲に声を掛けた。

 

「岩山の残りを崩します! 離れてください!」

 

「あれ、巻き込めないか?」

 

「!」

 

アングリフさんに言われて気付く。岩山の向こう側に、凄いのがいる。

 

ヤギのネームドだろう。

 

普通のヤギの三倍は大きい。

 

しかもヤギは雑食である品種がいるが。多分アレは雑食の方だ。明らかに口からよだれを垂れ流しつつ、此方をエサとして狙っている。激しい抵抗を受けて吠えているが、まともに戦えば被害がどれだけ出るか分からない。

 

わたしは頷くと。

 

声を掛けると同時に、岩山を崩すと宣言。

 

戦士達を、アングリフさんが叱咤した。

 

「よし、あのデカブツを引きつけろ! フィリス、俺が声を掛けたら崩せ!」

 

「分かりました!」

 

顔の至近を、攻撃魔術が通り過ぎる。

 

多分何かしらの獣が放ったものだろう。

 

逆に、すぐ近くを、反撃の矢が飛んでいく。

 

多分お姉ちゃんが放った矢だ。

 

目を閉じて集中。

 

凄まじい雄叫びが聞こえる。ヤギが突貫してきているのだろう。

 

それを、戦士達が盾を揃えて、押し返している。

 

がつんと、強烈な音。

 

弾きあったのだと思う。

 

アングリフさんが叫んだ。今だ、と。

 

わたしは目を見開くと。

 

鉱物が教えてくれている一点に、つるはしを降り下ろした。

 

もはや半壊している岩山に。

 

それはとどめの一撃となった。

 

激しい音と共に崩れ去る岩山。

 

わたしが顔を上げると。

 

丁度、ヤギがもろに巻き込まれ。

 

土砂と、他の獣もろとも。

 

凄まじい勢いで、崩れ去る岩山に消えていくのが見えた。

 

絶叫が、断末魔だと気付かされるのに。

 

少し時間が掛かった。

 

呼吸を整える。

 

今更気がつく。

 

体中に、べったりと返り血を浴びていた。

 

ネームドの死体は、回収した方が良いだろう。幸い、獣も離れている。今の光景で、流石に恐怖を感じたのかも知れない。

 

恐怖は、使いようによっては。こういう風に、多くの命を巻き込みつつも。敵を威圧し、無駄な犠牲を減らせるのか。

 

今更、わたしは。

 

そんな事を思い知らされていた。

 

「今のうちだ! 少しでも多く岩を運び出せ!」

 

「急げ! そう時間を敵は与えてくれないぞ!」

 

オリヴィエさんが叱咤し、荷車を何往復もさせる。

 

わたしは目立つ岩を砕いて周り。

 

呆然と獣は、距離を取ってそれを見ている。

 

今はむしろ刺激しない方が良いだろう。下手に刺激すると、破れかぶれになって襲いかかってくるかも知れない。

 

けが人の手当も並行して行う。

 

今の土砂に巻き込まれ、埋まったヤギが出てきた。出来るだけ丸ごと回収したい。アングリフさんはそれを聞くと、一人でヤギの巨体を担いで、キャンプまで運んでいった。後は、アングリフさんが捌いてくれるだろう。深核については、回収さえ出来ればそれで充分だ。

 

岩山は完全に崩壊したが。

 

鉱脈はまだその地下にまで続いている。

 

とにかく、急いで岩を運び出して貰う。

 

敵が追撃を仕掛けてくる事を想定すると、もたついてもいられない。わたしも、走り回って、大きめの岩は徹底的に砕いて回った。それで少しは、作業もやりやすくなるはずだ。

 

夕方で、作業終了の声が掛かる。

 

今日は、ネームドを土砂崩れに巻き込んで撃退するという、非常に効率の良い戦い方が出来た。

 

だが、それも今日までだ。

 

言われなくても分かっている。

 

明日以降は、同じ手は通じないと見て良いし。

 

何より、これだけ派手に戦ったのだ。

 

他のネームドも接近してきている可能性が高い。

 

けが人の手当はアングリフさんに任せて。

 

わたしはお姉ちゃんと一緒に、オリヴィエさんと地図を囲む。

 

オリヴィエさんは、地図の×印の一つを、横線で消した。

 

「あのヤギは、此処に住み着いていた暴食のバッカスだ。 雑食の凶暴な山羊で、隊商を襲っては子供ばかり執拗に狙って食い殺すことで知られていた。 今までに十人以上が殺されている」

 

「……」

 

「仇を討ってくれて有難う。 ネームドは獣の範疇を超えている生物だ。 存在していてはいけない者だ」

 

オリヴィエさんはそういうが。

 

だが、生き物である事に変わりは無いはずだ。

 

普通の獣にしても。

 

食べるものもないだろうに、どうしてあんな数が存在しているのか、訳が分からない。

 

そして、コンテナを確認。

 

一箇所に乱雑に鉱石が積み上げてあるが。

 

コンテナはどうなっているのか、容量はまだまだ全然余裕だ。つまりこのコンテナは、それほど大きくないとは言え、岩山まるごと一つを飲み込んでもまだ余裕がある、という事である。その驚くべき能力を、今更思い知った気がする。

 

「後岩山はどれくらい残っていますか」

 

「そうだな、三分の……四分の一強という所か」

 

「実は、岩山の地下にも、鉱脈が拡がっています」

 

「そうか。 しかし、掘り出す余裕はあるまい……」

 

悔しそうにオリヴィエさんは言う。

 

わたしもそれは同感だが。

 

しかしながらこれは、今後のためにも回収するべきでは無いか、と思うのだ。

 

もう一度地図を確認する。

 

周辺で仕掛けて来そうなネームドについて確認。

 

機動力が高そうなネームドは、メモをしておく。

 

ネームドと言っても色々な筈で。

 

必ずしも、縄張りから出張して、わざわざ襲いに来る奴ばかりとは限らないと思いたい。それが楽観論だと分かっていても。

 

オリヴィエさんは言う。

 

「此処にいる大蛇、日輪のアムラと、ここにいる巨大牛、怒濤のガムランが危険だな」

 

「詳しくお願いします」

 

「どちらも、バッカスの縄張りと接していた。 つまり縄張りを拡大する過程で、此処まで来る可能性がある」

 

「上手くつぶし合ってくれないでしょうか……」

 

オリヴィエさんは首を横に振る。

 

お姉ちゃんが咳払いして、補則してくれた。

 

「フィリスちゃん、ネームド同士が、縄張り争いを人間を殺すことに優先させることはまずないといわれているの。 ネームドは例外なく、人間に対して非常に高い殺意を抱いているものなのよ」

 

「どうして……」

 

「分からない。 そういうものだとしか言えないわ」

 

「ともかく、明日は下手をすると二体のネームドが来る可能性がある。 私としては、もう一旦撤退するべきだと思う。 鉱物は逃げないのだし、またくればいい」

 

わたしは本心ではオリヴィエさんに賛同したいが。

 

残念だが駄目だ。

 

そもそも、装甲船にどれだけの鉱石が必要になってくるか分からない。あの竜巻は、普通の竜巻じゃあないのだ。

 

ドラゴンが引き起こしていると言う事は、当然強力な魔力を有していると言うことで。

 

あらゆる武装を施さなければならないだろうし。

 

それにはどれだけ鉱石があっても足りない。

 

被害を拡大しないためにも。

 

引き上げる事が上策だと言う事は分かる。

 

だが、ドラゴンがいつ気まぐれで竜巻をフルスハイムに叩き付けてくるか分からないし。

 

それどころか、下手をするともっと恐ろしい災害が起きるかも知れない。

 

あんな竜巻を引き起こすドラゴンだ。

 

ドラゴン自身が攻めこんできたら。

 

ソフィー先生が迎え撃ったとしても。

 

フルスハイムに、どんな被害が出るか、分かったものじゃない。

 

それを丁寧に説明すると。

 

オリヴィエさんは、悔しそうに俯き。

 

そしてわたしも苦しんでいるのを察したか。

 

頷いてくれた。

 

薬も食糧も惜しみなく放出しているが。

 

蒸留水がかなり減ってきている。

 

もしこのまま作業を続けたら、あと長くはもたない。

 

いずれにしても、勝負は明日だ。

 

鉱脈はまだある。

 

だが消耗を考慮すると。

 

これ以上は無理だ。

 

明日、ネームドが現れる前に可能な限りの鉱石を回収後。この地を撤収する。岩山だった分を回収しきれれば御の字の筈だ。

 

アングリフさんにもそれを告げる。

 

アングリフさんは少しだけ考え込んだが。

 

頷いてくれた。

 

「そうだな、妥当なところだろう」

 

「あと一日だけ、お願いします」

 

「報酬はフルスハイムの長老に請求するが……しかしお前さん自身は大丈夫か?」

 

「なんとか……します」

 

そして翌日。

 

大雨になった。

 

ある意味これはついているかも知れない。たしか蛇は寒いと動きが鈍くなるはず。だが働いている人達が消耗するのも同じだ。

 

わたし自身も、あまり長く体力がもちそうにない。

 

そして、獣も。

 

この大雨に辟易したか、あまり仕掛けては来なかった。

 

周囲に散らばっている岩を荷車で運び終えると。

 

後は無言でキャンプを畳み。

 

今まで通った経路を逆に辿り、フルスハイムまで戻る。帰路にも相応の数の獣はいたが、もう満腹している様子で(理由は想像しなくても分かるが)、なおかつ此方の戦力を見て戦うリスクを避けたのだろう。

 

すぐに此方から離れ。

 

雨の中に消えていった。

 

硬化剤で固めた橋は無事だったが。

 

川の方は凄まじい有様だ。

 

ごうごうと音を立てて流れている。

 

これは落ちたら助かるまい。

 

急いで、橋を渡るように指示。

 

とにかく、フルスハイムまでに、体力が尽きなければいい。

 

わたしも雨の中、皆と一緒に走る。

 

声を掛け合い、脱落者を出さないように必死になりながら。

 

ただわたしは。

 

フルスハイムを目指し、走り続けた。

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